ガイオウガの意志~ヒノコ、直訴

    作者:J九郎

    「嗚呼、サイキックアブソーバーの声が聞こえる……。ガイオウガの意志が、揺れていると」
     集まった灼滅者達に、神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)は陰気な声でそう告げた。
    「……みんなには臨海学校で、ガイオウガの力の塊の回収をしてもらったけど」
     妖はそう言うと、灼滅者達を見回した。
    「……そもそもあの事件の原因は、ソロモンの大悪魔・フルカスが道後温泉でガイオウガの力を奪い取る儀式をした余波だったことが判明した」
     幸いフルカスは、儀式の阻止に向かった灼滅者達の手によって灼滅されている。だが、
    「……そのフルカスの最後の言葉で、ガイオウガの意志が灼滅者と敵対するか協調するかで分裂しているらしいことが分かったの」
     ガイオウガは『全なる一の幻獣』。いわば融合した全てのイフリートの意志の集合体だ。
    「……元々ガイオウガの意志は、灼滅者と敵対する事で統一されようとしていたみたい。……でも臨海学校で、みんなが全てのガイオウガの力を鶴見岳に運んだことで、協調を望む意志も強まって、意志の統一に抵抗しているようなの」
     それ以外にも、ガイオウガと一体化したイフリート達に友好的に働きかけてきたことも大きな要素だろう。
    「……それで、実はこのことを知ったある人が、ガイオウガを説得したいって言ってきてる。……その人は、今体育館で待ってもらってる」
     そこまで言うと妖は、「ついてきて」と言って教室から出ていった。
     
    「ガウッ!! キタカ、灼滅者!!」
     体育館で待っていたのは、巨大な犬のような外見をした、一体のイフリートだった。
    「……ガイオウガの説得を申し出てくれたのは、このヒノコくん」
     いまだ人間の姿を取ることのできないヒノコを、流石に教室には入れられないため、体育館で待っていてもらっていたらしい。
    「ガウッ! ヒノコ、ガイオウガニ、灼滅者イイ奴ダッテ知ッテモライタイゾ!!」
     ヒノコは尻尾を振りながら、力強くそう語った。
    「ガウッ!! 灼滅者ノ作ルクッキートカ、ヤキイモトカオイシイカラ、ガイオウガキット喜ブ! ソウダ、肉モウマイナ!!」
    「え……。説得って、そっちの方向で大丈夫?」
     流石に不安になった妖が確認するが、ヒノコは自信満々だ。
    「ガウッ! ウマイモノ、嫌イナ奴ハイナイゾ!」
    「……ええっと。とにかく、説得はヒノコくんがしてくれるから、みんなにはヒノコくんの護衛をお願いしたいの」
     武蔵坂に友好的なイフリートがガイオウガの説得を行おうとすれば、それを阻止するために、灼滅者との敵対を強く望む意志がガイオウガ本体から分離し、イフリート化して襲い掛かってくるのだという。
    「……同胞であるヒノコくんを害しようとまでする強硬派の数は多くはないはずだけど、ガイオウガに意志を伝えている所を襲撃されれば、ヒノコくんだけでは耐えきれないと思う」
    「ガウッ! ヒノコ、ガイオウガト話シナガラ戦ウトカ、ヤヤコシイコト、ムリ!」
     それゆえ、護衛が必要になるということらしい。
    「……強硬派のイフリートが出現するのは、ヒノコくんが説得を行う、鶴見岳の火口に近い山中。タイミングとしては説得開始とほぼ同時になる」
     襲ってくるイフリートを灼滅するか、ヒノコが説得を終えるまで守りきること。それが今回の依頼内容となる。
    「……予知によれば、襲撃してくるイフリートはライオン型の2体」
     オス型の方はファイアブラッドとバトルオーラに似たサイキックを、メス型の方はファイアブラッドと影業に似たサイキックを使ってくるようだ。
    「……サイキック・リベレイターによるガイオウガの復活まで、もう時がない。……ガイオウガと友好的な関係を築けるよう、今回のヒノコくんの護衛、なんとか成功させてほしい」
     妖はそう言って深々と頭を下げ、
    「ガウッ、ヨロシクタノム!」
     ヒノコもつられたように頭を下げるのだった。


    参加者
    垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)
    穂照・海(夜ノ徒・d03981)
    星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)
    黒谷・才葉(ナイトグロウ・d15742)
    廣羽・杏理(ヴィアクルキス・d16834)
    柿崎・法子(それはよくあること・d17465)
    居木・久良(ロケットハート・d18214)
    ホテルス・アムレティア(斬神騎士・d20988)

    ■リプレイ

    ●食事を囲んで

     鶴見岳の麓のやや開けた場所で、8人の灼滅者と、1匹の巨大な獣が車座になって腰掛けていた。ガイオウガの説得に向かう前の、最後の休息といったところだ。
    「説得の邪魔はアタシたちが絶対させないんだよ! 長い時間頑張るから、お腹はいっぱいにしておかないとなんだよー」
     垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)は、肉巻きおにぎりを詰めてきたお重をみんなの前に広げ、
    「僕も真面目にお弁当を作ってきてしまってさ」
     続けて廣羽・杏理(ヴィアクルキス・d16834)も、用意してきたバスケットの蓋を開けた。中に詰まっていたのは、ハンバーグやソーセージミートとたまごのライスサンドだ。
     ホテルス・アムレティア(斬神騎士・d20988)は、ミルクティーを皆に汲んで回りながら、緊張した様子のヒノコに語り掛けた。
    「ヒノコ殿が学園で皆と過ごして感じた事、それを其の侭ガイオウガに伝えれば良いのです」
     そう言って、バームクーヘンをヒノコに差し出す。
    「ガウッ、ヒノコノ感ジタコトカ……ムズカシイナ」
     頭を悩ませているヒノコに、星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)が口を挟む。
    「ガイオウガには、ヒノコさんが武蔵坂のみんなと出会って楽しかった気持ちを素直に伝えればいいんですよ」
    「楽シカッタコト……ガウッ、ヒノコ、今モ楽シイゾ!」
     そう言うヒノコに、今度は黒谷・才葉(ナイトグロウ・d15742)がおにぎりを差し出した。
    「へへ、オレが作ったおにぎり! ヒノコがガイオウガに気持ちを伝えられますようにってお願いしながら握ったんだ」
     そしてヒノコがおにぎりに齧りついたのを確認すると、
    「オレ達ってさ、もう友達だよな? 一緒に美味しいもの食べて笑い合って、楽しいとか嬉しいとかそんな気持ちをガイオウガにも知って欲しいな」
     そう言って笑顔を浮かべた。
    「こうして一緒にご飯を食べるって事がすでに奇跡なんだ。僕達とヒノコ達が仲良くなれたこと、ガイオウガに教えてあげて」
     穂照・海(夜ノ徒・d03981)も、ヒノコにそうアドバイスする。
    「ガウッ、オマエタチノ作ル食ベ物ウマイ。ケド、友達ト一緒ニ食ベルトモットウマイゾ」
    「そうだね。今の答えみたいに伝えると分かりやすいんじゃないかな」
     杏理がそう肯定すれば、
    「難しく考えずに、気負わないで伝えたいことを伝えればいいよ」
     柿崎・法子(それはよくあること・d17465)も、イフリート焼きをヒノコに差し出しながら、そう補足した。
    「それに、ヒノコにとっては見知った顔も多いし、その点でも安心できるんじゃないかな」
     法子が一同の顔を見回せば、皆も任せておけとばかりに力強く頷く。
    「大丈夫、ヒノコくんが思うように一生懸命伝えたら絶対伝わるから」
     最後に居木・久良(ロケットハート・d18214)がそう言って、ヒノコを安心させるように首筋を撫で。
     英気を養いながらの作戦会議を終えた一同は、火口へ向かい再び歩みだした。

    ●ガイオウガの意志
     鶴見岳を登るにつれて、異常な熱気が一同に吹き付けてきた。
    「これは……ガイオウガが復活しかけている影響、なのか」
     海の推測を裏付けるかのように、火口に近づくにつれて熱気はますます強くなり、所々溶岩すら噴出しているのが目に入る。
    「ガウッ、ガイオウガノチカラ、強クナッテル」
     ヒノコが引き寄せられるように駆け出し、灼滅者達もその後に続いた。
     そして辿り着いた火口周辺は、既に溶岩の海と化していた。
    「多くのダークネスが、ガイオウガの力を狙うはずね……」
     法子が、ガイオウガの力の発現を目の当たりにし、絶句する。
    「あの渦巻きは、なんだろう?」
     杏理が、溶岩の海の中に二つの渦巻きを見つけ、呟いた。溶岩全体の半分にも達しそうな巨大な渦巻きと、それに比べれば遥かに小さな渦巻きが、せめぎ合っている。だが、小さな渦巻きは、今にも大きな渦巻きに飲み込まれそうだ。
    「私の推理が正しければ、あれが『ガイオウガの意志』なのではないでしょうか? 大きな方が灼滅者と敵対しようという意志で、小さな方が協調しようとする意志に見えます」
     綾の言葉を肯定するように、ヒノコが頷いた。
    「なら、急がなきゃなんだよ!」
     毬衣に促され、ヒノコは一歩前へと踏み出す。
    「言葉は力を持つんだと、おばあちゃんが教えてくれた。きっとヒノコの言葉は届くよ」
     そんなヒノコの背中に才葉が激励の言葉をかけた時。溶岩の中から、二つの炎の塊が飛び出し、ヒノコの前方に落着した。炎の塊は蠢くように形を変え、次第に二頭の巨大な獅子に変化していく。
    『ガイオウガヲ裏切ルイフリートハ、抹殺スル』
     二頭のイフリートは低く唸ると、一斉にヒノコ目掛けて飛びかかっていき、
    「我が身ある限り、ヒノコ殿の邪魔は絶対にさせぬと知れ!」
    「俺達をいいヤツだって思ってくれてるヒノコくんの思いには、命懸けで応えるよ」
     その攻撃を、ホテルスの盾と久良のモーニング・グロウが受け止めていた。
    「さぁ、きちんと守り切ってみせるよ!」
    「ガイオウガの説得、頼みましたよヒノコさん」
     法子がホテルスに、綾が久良にそれぞれダイダロスベルトを飛ばして鎧を形成し。
    「イフリートの皆が、アタシたち皆の為に頑張ってくれるんだもの、全力で応えないとだね!」
     毬衣も、自らの身をダイダロスベルトで鎧っていく。
    「僕達はイフリートを倒すつもりはない。だけど、共闘するに足る灼滅者の力を見せよう!」
     海は前衛の3人に猛攻をかける雌型イフリートに向け、束縛の魔力を込めた魔法弾を撃ち込み、その動きを封じにかかる。
     だが雌型イフリートは意に介した様子もなく、口を大きく開くと火炎の塊をヒノコ目掛け吐きかけた。しかし、ヒノコの前にはいつの間にか、ホテルスが立ちはだかっている。
    「友の信頼に応える為にもヒノコ殿の想いを貫く為にも、騎士としてあらゆる攻撃を防ぐ盾となろう!」
     盾や鎧をもってしても防ぎきれない炎の熱がホテルスの身を焼くが、彼の意志まで焼くことはできない。
    「オレ達がヒノコを守る。約束するよ。だからヒノコは前だけ見てて、オレ達を信じて欲しいんだ」
     才葉が雌型イフリートの懐に飛び込み、咎人の大鎌を振るった。
    「さあ、今のうちにガイオウガにヒノコくんの思いを伝えて。終わったら、また一緒におにぎりを食べよう」
     久良は、454ウィスラーから嵐のように弾丸を放って雄型イフリートを牽制しつつ、ヒノコを促す。
     ヒノコは覚悟を決めたように火口の方を向くと、ありったけの大声を上げた。
    「ガウッ! ヒノコ、ガイオウガニ聞イテモライタイコトアルゾ!!」
     そして、先ほどの打ち合わせを思い出しながら、精一杯言葉を紡ぐ。
    「ガウッ、灼滅者、イイ奴ラ! 一緒ニイルト楽シイゾ!」
     杏理はヒノコの説得が始まったのを確認すると、クロスグレイブを二頭のイフリートに向けた。
    「その調子だよ。これはヒノコくんにしか出来ないことだ。こっちは僕らに任せておいて」
     そしてヒノコの邪魔はさせじと放たれた無数の光線が、イフリート達に降り注いでいった。

    ●ヒノコの思い
     綾の腕時計が、2度目のアラームを鳴らした。5分ごとにセットしてきたので、戦闘開始から10分が経過したことになる。
     ヒノコの説得は続いているが、まだ望むような成果は出ていないようだ。
    「ガウッ! 灼滅者ノ作ルモノ、ウマイゾ! クッキートカ、ヤキイモトカ、イフリートヤキトカ!」
    『灼滅者、イフリートヲ喰ラウノカ!?』
    『ヤハリ灼滅者ハ、排除スベキ存在!!』
    「ガウッ!? イフリートヤキ、イフリートジャナイゾ!? 話ノ分カラン奴!!」
     時には話が逸れてイフリート達と口論になったりもしたが、
    「落ち着いて、ヒノコ! ケンカに来たわけじゃないんだから」
     その度に法子達が呼びかけて、説得が脱線しないようにする。
     一方、説得の間もイフリート達の猛攻は止むことはなかった。
    「ヒノコ殿は絶対に守り抜く!」
     ヒノコに執拗に攻撃を仕掛ける雌型イフリートの爪を、ホテルスはミミングスの剣で受け止める。だが、その息は大分上がってきていた。
    「こっちには倒す気はないからね、大人しくしてくれさえすればいい」
     杏理が生み出した光の十字架から無数の光線が放たれ、イフリート達の鋭い爪や牙を打ち砕かんとするが、雄型イフリートが雌型イフリートの前に立ちはだかり、全ての光線をその身で受け止めてしまう。そのまま雄型イフリートは、反撃とばかりに頭部の角に炎を集中させ、ヒノコ目掛け突進してきた。
    「くっ、通さないんだよ!」
     咄嗟に毬衣が飛び出し、突進を受け止める。だが、その間に今度は雌型イフリートの炎が触手のように伸びてヒノコに迫っていた。ヒノコが思わず身構えた次の瞬間、割って入った久良が、代わりに炎の触手に打たれ、吹き飛ばされる。
    「ヒノコくんは命懸けで守るよ。友達は大事にするものだから」
     ボロボロになりながらも、そう言ってヒノコに笑いかける久良。
    「久良、そろそろ交代するぜ」
     そんな久良に、才葉が駆け寄る。
    「ごめん、後はよろしく」
    「おう!」
     そうして二人はポジションを入れ替えた。長期戦が予想されただけに、あらかじめ入れ替わるタイミングは打ち合わせ済みだ。
    「しかし、想像以上につらい展開だ」
     海の言う通り、イフリート達の猛攻は苛烈だった。ヒノコの説得も、順調とは言い難い。
     綾の腕時計が3回目のアラームを鳴らした時には、前衛と後衛がすっかり入れ替わっていた。それだけ、前衛の消耗が激しかったということだ。もし入れ替えのタイミングが遅れていたら、もたなかったかもしれない。
     新たに前衛に出た綾は、赤色の交通標識でイフリートの突進を押し留めつつ、ヒノコに視線を向けた。
    「私も絶対に貴方を守り通して見せます。だって、私は探偵ですから!」
     ヒノコは自分を守るために傷ついていく灼滅者達の姿を焦ったように見回していたが、やがて何かを決意したように口を開いた。
    「ガウッ! 聞ケ、ガイオウガ。久良ハイツモオイシイモノクレルゾ。ソレニ、手品モデキルンダゾ!」
     突然名指しされた久良が、びっくりしたようにヒノコに目を向ける。
    「毬衣ハ、灼滅者ダケド、イフリートミタイダゾ。着グルミ、モフモフダゾ」
     回復役に回っていた毬衣も、何事かと振り向いていた。こんな説得をするなんて話は、打ち合わせの時にも出てこなかったはずだ。
    「海ハ、ダークネスノコト、ガイオウガノコトモ、イロイロ考エテルゾ。才葉ハ、イツモ元気デ、イツモハラペコダ。ヒノコミタイダナ」
     それは、ヒノコの考えた最後の説得手段だったのだろう。
    「綾ハ、探偵ダゾ。ナンデモ見抜ク、スゴイ。ホテルスハ、騎士ダゾ。ヒノコモミンナモ守ッテクレル」
     ガイオウガに、相手のことを知ってもらうこと。単純なことだけれど、きっと何よりも大切なこと。
    「法子ハ、『ヨクアルコト』ッテイツモ言ッテルケド、本当ハ面倒見イイゾ。杏理ハ、悩ンデルコトモ多イケド、ヒノコニスゴク優シイゾ」
     綾の時計が、4回目のアラームを鳴らす。
    「あ……」
     杏理は、溶岩の大きな渦が、わずかだが動きを弱めたことに気付いた。
    「ガウッ! ヒノコ、武蔵坂デイッパイトモダチデキタ! クロキバガイナクナッテ寂シカッタケド、モウ寂シクナイ!」
     ヒノコが、思いの全てをぶつけるように、ひときわ大きな声で叫んだ。
    「ダカラ、ガイオウガモ灼滅者トトモダチニナルトイイゾ! 1人ハ寂シイケド、ミンナナラ楽シイ!!」
     次の瞬間、ヒノコの思いが届いたかのように、二頭のイフリートによる猛攻が、止んだのだった。

    ●しばしの別れ
    「ガイオウガに、ヒノコの思いが伝わったのかな」
     法子が警戒を解かずに呟くと、二頭のイフリートが口を開いた。
    『ミンナトイルト楽シイトイウノハ、理解デキル』
    『我等モ、オマエタチトノ戦イハ、楽シカッタ』
     二頭のイフリートは、そう言い残すと、突如溶岩の中に飛び込んでいった。わずかだが、小さな方の渦が、勢いを盛り返したように見えた、その時。
     鶴見岳全体が、鳴動した。
    「な、なんだこれ!?」
     才葉が戸惑いの声を上げる間に、異変は起きていた。溶岩の中から次々とイフリートが姿を現し始めたのだ。
    「ガウッ、ガイオウガ、トウトウ復活スル!」
     ヒノコが、緊張したように火口を見つめる。
    「説得は、成功したんだよね?」
     海が確認すると、ヒノコは首を傾げた。
    「ガイオウガ、灼滅者ト一緒ニイタイッテ思イハ消エテナイ。デモ、灼滅者ト敵対スルッテ意志ヲ消スコトモ、デキナカッタ」
    「つまり、今度はあのイフリート全てを相手にする必要があるってこと?」
     法子が、覚悟を決めたように身構えるが、ヒノコは首を横に振った。
    「オマエタチ、外カラ灼滅者ト敵対スルガイオウガノチカラ削ッテクレ。ヒノコ達、ソレマデココデ、灼滅者ト協調スル意志ヲ守ル」
    「……止めても、無駄なんだよね? なら、一つだけお願い。無事に帰ってきたら、その毛並みを撫でさせてもらってもいいかな」
     杏理の問いに、
    「ガウッ、ヒノコトオマエ、トモダチダカラ、当然イイゾ!」
     ヒノコの顔が、笑みを浮かべたように見えた。だが次の瞬間には、ヒノコは名残を振り切るように、火口へ向かって駆け出していた。
    「ヒノコ殿! 戻ってきたら家の弟の作るお好み焼きをご馳走しましょう。その時は、ガイオウガ殿とも一緒に!」
     ホテルスの言葉に、ヒノコは振り返らずに、
    「ガウッ、楽シミニシテルゾ!」
     それだけ言葉を残して駆け去っていく。
    「ヒノコくん!」
     思わず後を追おうとした久良だったが、それは適わなかった。火口の溶岩が盛り上がり、見る見るうちに巨大なイフリートへと姿を変え始めたからだ。
    「これが、ガイオウガ? すごく、大きいんだよ……」
     圧倒されたように、毬衣が呟いた。一方で、周囲に発生したイフリート達は、一斉に灼滅者に対して唸り声を上げて威嚇を始める。
    「威嚇だけで襲ってこない? いや、襲ってこれないのか」
     才葉は、イフリート達が縫い止められたように動けないでいることに気付いた。
     それはまるで、攻撃しようとする意志と攻撃を止めようとする意志が鬩ぎあっているようで。そこにヒノコ達の意志が働いているのを感じた久良は、
    「ヒノコくんの意志を無駄にしないためにも、今は退こう。いつかヒノコくん達と、ガイオウガとだって笑いあう日のために」
     そう言って皆に撤退を促した。
    「そうだね。僕は、ヒノコと友達になれたように、ガイオウガとも友達になれると信じている」
     海は、今や見上げんばかりの大きさになった巨大イフリートを一瞥すると、踵を返して駆け出した。
    「私達は絶対に戻ってきますよ。そしてヒノコさんと再会するんです。これは推理ではなく、確信です!」
     駆けながら、綾は自分自身に言い聞かせるようにそう叫んでいた。

    作者:J九郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年9月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 9/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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