ガイオウガの意志～アカハガネと共に

■リプレイ

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　九つの影が疾走していた。
　アカハガネを中心とし、灼滅者達が彼女を守るように位置を取っている。
　鶴見岳が見えてきたあたりで鹿島・狭霧（漆黒の鋭刃・d01181）と灯屋・フォルケ（Hound unnötige・d02085）が目配せをして、やや前方に出た。続いてエリスフィール・クロイツェル（蒼銀輪舞・d17852）がビハインドのシルヴァリアを伴い警戒に当たる。
「あせらないで　ゆっくり　あかはがねがおもってることを　すきにつたえて」
　隣を走るアカハガネに、来栖・清和（武蔵野のご当地ヒーロー・d00627）が声をかけた。
「ウム。スキニ、ツタエルゾ！」
「アカハガネちゃん、頑張ってこいよ。俺達がついてる！　なっ！」
　住矢・慧樹（クロスファイア・d04132）は反対側からそう言った。本当は手を握ってやりたいけれど、どうやらその余裕はない様だ。
　アカハガネは灼滅者達からのアドバイスに頷きながら、走り続けた。
「溶岩が噴出してるわ！　これが、ガイオウガの意志なの？」
　近づくにつれはっきりと分かる。波のように押し寄せてくる熱波から顔を庇い、狭霧が呟いた。
　鶴見岳の様相は、見て分かるほど切迫している。
　火口付近は溶岩の海のようになっており、渦巻いていた。
「ふむ、大きな渦と小さな渦が見えているが」
　エリスフィールもその光景を視界に納める。
　大きな渦が全体の５割、小さな渦が全体の１割程度で、それ以外は渦に巻き込まれないように留まっている感じだ。
　灼滅者達は感じる。
　あの小さな渦は灼滅者と協調するガイオウガの意志だ。これが飲み込まれてしまうと、協調の意志は消えてしまうのだろうと。
「これが、こんな桁外れだったのか、ガイオウガ」
　天雲・戒（紅の守護者・d04253）はただ驚き、そして、その光景を受け入れる。
　熱波と溶岩の渦を前にして、これからほんの数十分、熱い戦いが待っているのだ。
　やがてアカハガネがぴたりと足を止めた。
　意志を届ける距離まで近づけたようだ。
　灼滅者達も足を止め、一層周囲を警戒する。
「ワレハ、イウ！」
　大きく胸を張り、アカハガネの声が周囲に轟いた。
「ソウハ、サセヌ！」
　同時に、二つの赤い炎の獣が飛び出してくる。
　灼滅者達は互いの位置と役割を、取り決め通りに確認し跳んだ。
「アカハガネさん、難しいことは考えなくても良いの。ただ、その気持ちを伝えてください」
　右から飛び出てきたイフリートを押し戻しながら水瀬・ゆま（箱庭の空の果て・d09774）がアカハガネに言った。清和、慧樹、そして慧樹のライドキャリバーぶんぶん丸がそれに続く。
「さて、招かれざる御客の来訪だ。各人、花束の準備は宜しいか？」
　エリスフィールは左から襲ってきたイフリートに向かった。
「それじゃ３０分１本勝負、いってみましょうか」
　頷きながら狭霧もそちらに向かう。
「前に御会いしたのも暑い日でしたね～。貴女の信頼に答えさせてもらいますから安心してくださいね」
　フォルケは、一度立ち止まりアカハガネに笑顔で敬礼をして見せた。そして、狭霧に続く。
「ウム。アンシン、スル」
　左右に分かれた灼滅者の背に、アカハガネが声をかけた。
「大丈夫です。わたし達はお友達ですから、アカハガネさんの御意思が伝え終る迄、ちゃんと御一緒に居ます、よ」
　十皇・初子（黒燈・d14033）はアカハガネの手をそっと握り締める。
「落ち着いてな。俺たちがついているからな」
　近くには戒も控えている。
　２体のイフリートを二手に分けて押さえ込み、更にアカハガネの元にも守りを残した。灼滅者のそんな布陣の真ん中で、アカハガネは意を決したように顔を上げ語り始めた。

●
「こっちで引きつけてる間に左翼に回り込んで。そのまま挟撃するわよ！」
　フォルケに指示を飛ばしながら狭霧もイフリートの側面に回りこむ。斬り付け、相手が動きを止めた。
「そのままの姿勢で居てください」
　それも一瞬のことだが、できた時間に逆側から詰めてきたフォルケが影で敵の体を縛り上げる。
　息の合った二人の連撃に、イフリートが低い唸り声を上げた。
「先方の攻撃精度を削り取る。併せよ、シルヴァリア！」
　動きの鈍ったところを、エリスフィールも追撃する。
　シルヴァリアと共に攻撃を叩き込み、敵の力を押さえ込んでいった。互いに庇いながら、相手も殺してしまわぬよう配慮し、何とか時間を稼いでいるのだ。
「ヌ、ヌヌ、ハ、ナセ……」
　イフリートが先へ進もうと暴れ始める。
　それを聞くわけにはいかない。できるだけアカハガネから距離を取らせるのも目的なのだから。
　二手に分かれながらも、灼滅者達はイフリートの猛攻を凌いでいた。
　溶岩の渦が蠢いているのがここからでも分かる。意志がせめぎあっているのだと、ひしひしと感じた。
「ヨクキケ！　シャクメツシャト、キョウチョウ、ワルクナイ。ワレハ、ソノケツロンニ、イタッタ。エ、ナニガ、ダト？　エエト、ツマリ、ダイジョウブダ！　ダカラ、エエト」
　右も左も戦いの最中で、それでもアカハガネは必死に意志を伝えようとしている。
　言葉が詰まるたびに戒と初子が近くで彼女を励ました。
「わたし達と一緒になって楽しかった事の御話をしてみるのはどうでしょう？」
　仲間へ回復のサイキックを向けていた初子が、近くに寄ってきてささやいた。
「俺たちと居て何が楽しかった？　何が嬉しかった？　それを言えば良いと思うぜ？」
　戒もすぐ側でアカハガネを励ます。
「ウム。シャクメツシャ、オイシイモノ、タクサンクレタ。ウマカッタ。ムサシザカノ、タイクカン、タノシイコト、イッパイ。シカモ、トモニ、カンガエテクレル！　ヨイモノタチ、オオクイルトオモワレル」
　目を凝らしてみると、溶岩の大きな渦の動きが弱まってきているようにも感じた。
「ダカラ、トニカク、キョウチョウダ。……ムウ、シカシ、ダナ」
　アカハガネは、根気良く説得を続けている。
　彼女が再び言葉に詰まると、戒はゆっくりと優しくアカハガネの頭を撫でてやった。協力してやりたいと思うし、何だか可愛い妹分と言う気さえしてきた。
「俺達はガイオウガと仲間になりたい。お前ならできる」
「お友達としてこうして今も一緒に支え合ってる事、伝えてみてはいかがでしょうか」
　あなたはわたしのお友達だと、初子はアカハガネの手を取る。
「ウム。ソウデアッタ。シャクメツシャ、イクドトナク、タタカッタ。ソシテ、ワレヲ、トモトヨンデクレル」
　アカハガネは、真っ直ぐに大きな渦を見据えた。
「トモダチト、イワレ、ワレハウレシイトカンジタノダ。ワガトモヲ、ミステルコトナドデキヌ。ドウカ、ワガコエヲ、キケ」
　言葉を投げかけるたび、渦は揺らぎ、せめぎ合う。
「大丈夫？　回復するね」
　清和はオーラを癒しの力へと変え、慧樹の傷を癒した。
「ああ、大丈夫だぜ……っ、と、ぶんぶん丸」
　そうしているうちに、相手をしているイフリートが跳躍して飛び掛ってくる。
　慧樹は立ち上がりながらぶんぶん丸を呼び、清和を庇わせた。
「下がってください、撃ちます」
　二撃目が来る前に、ゆまが制約の弾丸を撃ち込む。
　魔法弾が敵の体を貫くと、イフリートは一旦距離を取るように後退した。
「気づいていますか？　溶岩が少しずつ小さな渦に加わっているようです」
　じりじりと敵との距離を詰めながら、ゆまが言う。
「渦に入っていなかった溶岩だね」
　刻々と変化する溶岩の様子を窺いながら清和は走った。
「アカハガネちゃんが頑張って伝えてくれているからだよな」
　慧樹も頷き、イフリートに攻撃をむける。
　彼女が言いたいことを伝えきるまで、誰にも邪魔はさせない。ガイオウガだけに意識を集中できるように、こちらも踏ん張らなければと。三人は顔を見合わせ、再び戦いへ意識を集中させる。
　灼滅者達の、それぞれの戦いは続いた。

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　１０分経ち、それから更に５分以上が経過した頃。
「ソウダ。トモダチ、トイウ、コタエデアル」
　一層大きくアカハガネの声が響いた。
「あ、渦が！」
　じっとアカハガネの側でサポートしてきた初子が声を上げた。見ると、今まさに飲み込まれようとしていた小さな渦が、少しずつ力を集め何とか態勢を整えた様子だ。
「終わったのか？」
　予定よりも早くに、その時は訪れた。
　戒は気遣うようにアカハガネを見る。
「こっちはどうなっている？」
「急にイフリートが引いてくれたんです」
　清和とゆまが並んで走ってきた。
「アカハガネちゃん？」
　その後ろから慧樹も続く。三人とも、多少の怪我はあるが、長時間の戦闘を無事乗り切った様子だ。
「こちらも、イフリートは引いていったわ」
「想定していた時間よりも早くに、です」
　別方面から狭霧とフォルケが無事な姿を見せる。
「各々、無事だな」
　最後にアカハガネの元へ到着したエリスフィールは、仲間達の顔を順に見て確認した。
　アカハガネを守りきり、イフリートを殺さず、誰も死なず、しかも想定よりも早くにそれらを完了させたのだ。
　だが。
　灼滅者達は、次の瞬間、周辺の変化を感じ取り総毛だった。
「な、イフリートが？！」
　見ると、溶岩から次々にイフリートが生まれ始めたのだ。
　息を呑む仲間達。
　溶岩をじっと見据えていたアカハガネは、一歩前へ進んだ。
「アカハガネ、どうしました？」
　いち早くフォルケが気づき声をかける。
「ガイオウガノ、フッカツハ、イマハジマッタ」
　振り向いたアカハガネは、ゆっくりと灼滅者達に語り始めた。
「オマエタチトノ、キョウチョウノイシ、キエナカッタ。ダガシカシ、ガイオウガノイシ、セイスルコト、デキナカッタ」
　辺りから、高く低く獣の唸り声が上がる。
「オマエタチト、テキタイスル、ガイオウガノチカラ、オマエタチガ、ケズッテクレタラ、ワレラハ、ガイオウガノイシトシテ、オモテニデルコトガデキルダロウ」
「……私たちが、敵対しようとするガイオウガの力を削ることが出来れば、協調派の意志が台頭できるってわけね」
　狭霧の言葉に、アカハガネが頷いた。皆が、彼女の言葉を聞き漏らすまいと、必死に耳を傾ける。
「それで、アカハガネちゃんはこれからどうするの？」
　彼女がこれからどう行動するのか、察することはできたが、それでも言いたかった。慧樹は喉元まで出掛かっている言葉を飲み込み、アカハガネを見た。
「ワレラハ、オマエタチトキョウチョウスルイシヲモツ、ガイオウガタチノモトニゴウリュウシヨウ。ソシテ、ソノイシヲマモリツヅケヨウ」
「それは――」
　初子が自分の荷物を握り締める。その中には、彼女を労おうと用意したお菓子やジュースが詰まっていた。
　思わず、手を伸ばしそうになる。お疲れ様と言って、一緒に帰ろうと、言いたくなってしまう。
　アカハガネたちによって、消えようとしていた協調する意志たちは消えなかった。何とか態勢を取り戻した。
　だが、灼滅者と協調する意志を守らなければ、敵対しようとする意志によりガイオウガは突き動かされてしまうのだろう。
　皆彼女を止めてはいけないと理解していた。

●
「アカハガネお疲れ様、頑張って思いを伝えてくれてありがとうね」
　清和は優しい口調でアカハガネに語りかけた。
「み。アカハガネさん。お疲れ様です！」
　初子もその言葉で彼女を労う。
　アカハガネは頷き、鶴見岳へと視線を向けた。
「アカハガネさん、あのね。一緒に戦ったイフリートさんがいたの。彼の行方は残念ながら解らなかった」
　もしかしたら、ガイオウガと一緒になったのかもしれない。ゆまは、じっとアカハガネを見て、語った。
「でも、彼はわたしの友達。
　だから、もし彼が一緒になったのなら、ガイオウガさんもわたしの友達」
　ゆっくりと歩み寄り、アカハガネの手を握り締める。
「ううん、そうじゃなくても。だって、友達の友達はみんな友達って言うでしょ？」
「トモダチ、ノ、トモダチ、ミンナトモダチ？」
　そう。だから、友達とは戦いたくないよね、と。
「だから、貴女が頑張ってくれて、嬉しいの」
「アカハガネ、これからも俺たちはお前の仲間で友達だ」
　これからも、今も、いつも。
　戒はアカハガネの頭をもう一度撫でてやる。
「お前が大好きだからいつだって手伝ってやるよ」
　困ったことがあれば、自分達の手が必要ならば、と。確実に伝わるように、繰り返す。
「貴女は、成したい事をするが良い。それが正しく、私達の成したい事ゆえな」
　エリスフィールの言葉に、アカハガネは頷いた。
　集まった灼滅者達から、さらに一歩踏み出し、鶴見岳に近づく。
「アカハガネちゃん！」
　慧樹は拳を突き出し、笑顔を見せた。
　こんなに近いのに、握手が出来ないほどには離れている。
　彼女は行くと決めてしまったのだと、分かってしまった。
　だから。
「カーテンでシャーとか、楽しそーじゃん。帰ったら俺達にも教えてよ！」
　帰ったらの約束を。
「皆でやろう」
　振り返ったアカハガネの顔を見て、息を呑む。
「ウム。アレハ、タノシイ」
　瞳も、口元も、確実に、
「マタ、ヤリタイノダ」
　彼女は、微笑んでいた。
　アカハガネは足に力を込め、地面を蹴った。
「アトハタノンダゾ、ワガ、トモヨ！」
「任されたわよ」
「了解です」
　狭霧とフォルケがしっかりと頷いてやる。
　見る見るうちに赤い炎を纏ったアカハガネの姿が小さくなる。
「頼まれたのなら、友達のために頑張りますか！」
　慧樹は、小さくなっていく彼女の姿をじっと見ていた。彼女は、後は任せたと言った。ならば、それを叶えてやるのが友達の務めというものだ。
　仲間の思いは同じだった。

「熱いです。それにイフリート達が出現しているようですね」
　気を引き締めていないと、熱波で意識が飛んでしまいそうだ。
　ゆまは口元を押さえ周囲を見渡す。
「ちょっと、あれを見て！」
「火口の溶岩が盛り上がっているようです」
　狭霧とフォルケが、盛り上がってくる溶岩を指差した。
　周囲の気温は更に上昇し、イフリートは次々と出現している。
　あっと、仲間が声を上げた。
　火口の溶岩が、巨大なイフリートへと姿を変えていったのだ。
「あれは！」
　エリスフィールの言葉の前に、巨大なイフリートが唸り声を上げた。自分達を狙って攻撃しようとした、威嚇だろうか。
　だが、次には、巨大なイフリートの動きがギシリと止まった。
　まるで攻撃しようとする意志と、攻撃を止めようとする意志が鬩ぎあっているようだ。
「きっと、アカハガネ達の意志が抑えてくれているんだろうね」
　清和が言うと、仲間達も同じ意見だと頷きあった。
　そうと分かれば、急ぎこの場から脱出をと、灼滅者達は熱い道をひた走る。
「必ず、必ず助けに行くからな！」
　搾り出すように戒が叫んだ。今はもう、アカハガネの姿は見えないけれど。
　灼滅者と敵対するガイオウガの力を削いで、きっとアカハガネを助けに行くのだと。
　決意を新たにして、鶴見岳を脱出した。

作者：陵かなめ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年9月16日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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