私たちのお祭へようこそ!

    作者:叶エイジャ

     新学期が始まっても、その校舎は静まりかえっていた。
    「火事でしょうか。廃校になってだいぶ経ってますね……ここに『お祭りをしたい幽霊』がいるみたいです」
     かたわらに霊犬「ルー」を従えそう言うのは、瀬川・蓮(悠々自適に暗中模索中・d21742)。
     ここに現れるという都市伝説は、「お祭りを楽しみにしていた生徒たち」、「火事で中止になった文化祭」、「死んだ生徒たちの無念」といった内容が合わさって、
    『お祭りをやりたい幽霊たちが仲間を探してさまよっている』というもの。
     そのため、入り込んだ者に無理やり「一緒にお祭りをしないか」と迫ってくるようだ。
     死人こそ出ていないが、被害者たちは無理やり手伝わされ、疲労で気を失ってしまうらしい。そして「今年もダメだった!」という声に気付けば元の場所に戻っている……という流れらしい。
    「そういうことが何度も繰り返されてるようですね。あれ、これって最後までお祭りを一緒にやればどうなるんでしょうか……?」
     もちろん、普通に戦って灼滅するのもアリですが――と、蓮は別の形で灼滅できる可能性を考えた。

     都市伝説は、「建築資材を持った学生たちの幽霊」という姿らしい。
     見た目の通り、角材や鉄パイプといった資材で攻撃してきそうだ。あるいは霊障波のようなポルターガイスト的な攻撃をしてくるかもしれない。
     被害者に死人が出てないことからも、攻撃的な力は弱そうだ。
     たぶん、普通に戦っても十分勝てる相手だと思われる。
    「噂では学生の幽霊たちとも話せるようですし、穏便に済ませる方法があるなら挑戦してもいいかもしれませんね」


    参加者
    勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)
    風宮・壱(ブザービーター・d00909)
    神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)
    中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)
    柴・観月(星惑い・d12748)
    白石・作楽(櫻帰葬・d21566)
    瀬川・蓮(悠々自適に暗中模索中・d21742)
    白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)

    ■リプレイ


    「祭りをやりたい幽霊、か……」
     秋風寂しく漂う廃校舎。白石・作楽(櫻帰葬・d21566)は見上げてぽつりと呟いた。瀬川・蓮(悠々自適に暗中模索中・d21742)は少し寂しげな表情を浮かべる。
    「ちょっと悲しい都市伝説かもしれませんね」
    「でも、楽しい事が好きなのは都市伝説も変わらないと云う事ですね」
     勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)が微笑んだ。
    「お祭りの期待と高揚感は良いモノです」
    「うん。やっぱ、みんなで一から作り上げるのって大事だよね」
     うなずく風宮・壱(ブザービーター・d00909)。
     灼滅者たちが敷地内に入ると、周囲の光景が変化した。
     校舎は綺麗になり、『文化祭』と書かれた看板をはじめ、様々な飾りに彩られていく。
    『そこの君たち!』
     校舎から朧げな姿の男女が走ってきた。
    『アクシデントで人出が必要なの!』
    『このままだと今年の文化祭が中止になってしまうんだ。手伝ってくれないか』
     焦った様子の二人に、アイスコーヒーの入った紙コップが差し出された。
    「お疲れさん! 差し入れだぜ。交代すっから少し休憩しろよ」
     神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)は人懐っこい笑みを浮かべる。
    「俺たち参上っ、てな。大船に乗ったつもりでいろよ」
     祭り太鼓その他の道具を抱えた中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)。その傍らで、白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)が端末から写真を見せた。御輿を担いでいる絵だ。
    「宣伝ポスターもゴーストスケッチで描いて、武蔵坂学園に貼っておいたぜ。お祭りならやっぱり人が多くないとな!」
     大きく『灼滅者の祭は終わらない! 残暑の大祭開催だぜ!』と書かれた文字に、幽霊たちは顔を見合わせた。
    『なんだか頼もしいな。助かるよ』
    『コーヒーありがと。でも、私たち実行委員は休めないわ。散っていった仲間のためにも』
     被害者のことかなと、柴・観月(星惑い・d12748)は思った。
    「俺は漫研見に行こうかな」
    『案内しよう』
     俺はナツだと、男の幽霊は言った。
    『私はフユミ。屋台制作は中庭でやってるの。こっちよ』
     そこで新たな気配が校門で生まれた。
    「あれ。ポスター見て来たんやけど、まだ始まっとらん?」
     大橋・定時(高校生ご当地ヒーロー・dn0193)は幽霊と灼滅者を見て、察する。
    「あー早かったんか。始まった頃にまた来る――」
    『人員、ゲットね』
     女子幽霊に速攻で連れて行かれる彼に、灼滅者たちは合掌した。
    「俺たちが手伝うから、今年こそやり遂げようよ」
     ナツの肩を壱が叩く。
    「祭は一丸となって行うもの。素晴らしいものを作り上げましょう」
    「楽しくお祭りを成功させましょう、おー!」
     みをきと蓮の声に、ナツも拳を高くして同意を示した。

    「大橋くん、ナツくん、テント張るからそっちの支えを頼む!」
    「了解や!」
    『せーの!』
     勇弥はその長身とESP・怪力無双も活かして、屋台をどんどん組み立てていく。
    「手慣れてんだな」
     銀都が言った。同じく怪力無双で太鼓と、それを乗せるやぐらを組んでいる。
    「自分のカフェのテラスでよく企画やってるからな。こーゆーテントの設置とか、小道具の扱いは体に馴染んでるんだ」
     照明の調整に入った勇弥が照れくさそうに笑う。
    「さて、俺はクレープと珈琲で出店だが」
     他のメンバーはどうかな、と勇弥は目を馳せた。

     壱は女子幽霊たちの資材を受け取っては、代わりに運んでいく。
    「重いものはこっちに任せてよ、女子には大変だろ」
    『や、優しい~!』
     壱の笑みにキュン、とくる幽霊たち。
    「壱先輩、相変わらずやりますね」
     爽やかな壱の笑顔に、みをきも思わず不覚を取ったと赤くなる。
    「そういえば、きなこは?」
    「……上」
     目をそらす壱。二人が作るタコ焼きの屋の上空で、ウイングキャットのきなこは悠々自適に飛んでいた。
    『猫が手伝えるわけ……てか手伝う必要ないもん』
     とでも言いたげだ。
    「でも試食タイムは絶対降りてくる気だよ……みをきたちを見習わせたい」
     みをきとビハインドは率先して力仕事をこなし、高い場所の飾り付けなどを行っている。
    「最初は戸惑ってたのに、みをきは順応性高いよね」
    「やるからには全力で、がモットーですから」
     微笑むみをき。実は隠れお祭り好きだった。

     蓮と作楽は、綿あめの屋台を準備していく。
     すでに設営は終わり、あとは商品の試作・試食。
     おもむろに作楽は客席に座り、きりっとした顔で蓮を見据えた。
    「試食なら、任せてくれ!」
    「ニャー」
    「……なんでか白石先輩と、きなこさんがやる気満々ですね」
     なら私も練習の成果を見せる時、と蓮はいつしか現れた綿あめ製造機の前に立つ。
    「ふっふっふ。最近の怪人戦も経た、私の綿あめ技術の進歩を今!」
    『おお!』
     弟子みたく見守る幽霊たちの前で、蓮は作り始める。
     それは青空に浮かぶ、カラフルな雲をイメージした一品。
    「どうですか!」
    『師匠、僕もできました!』
    「……あ。上手。さては私並のキャリアですね。負けませんから!」
    『私もできた!』
    『俺も!』
    「……」
     この日、弟子は全員免許皆伝となった。
    「琥界、そんなこと教えるのはダメー!!」
     一方、作楽はビハインドが射的の屋台でイカサマを教えているのに気づき、注意に奔走していた。

    「ふむふむ……」
     そのころ観月は、漫研の会誌をチェックしていた。
    『どうかな?』
     隣には女生徒が二人。担当のハルとアキ双子姉妹だ。
    「……これ、続きは?」
    『続き? たしか……』
    『えー、ハル姉の次は私だってー』
     観月が渡された冊子を見る。文化祭の準備に困った生徒を、幽霊たちが助けてくれる内容だった。
    「なるほど。そういう認識か」
     そして中盤から始まる怒涛の腐展開。
    「……」
    「たのもー」
     歌音が入ってきた。
    「あ。マンガだ。オレもいーかー?」
    「これはダメ」
     観月は慌てて冊子を閉じた。


     そして数時間後
    『まさか間に合うなんて』
     幽霊たちの驚いた顔。灼滅者の手伝いで、文化祭の準備が整ったのだ。
    『君たちのおかげだよ、ありがとう!』
     幽霊たちの嬉しそうな声が学校中で起こる。
    「なに言ってんだ。こからが本番、だろ?」
     気合い入れてこーぜ、と言う銀都に幽霊たちはうなずき、文化祭は開会された。
     都市伝説製の客が現われ始め、武蔵坂の生徒も顔を出し始める。
    「じゃ、俺たちも楽しむか!」
     完成したやぐらを降り、銀都は金券をかざした。
    「屋台キングを自称しているからな。目標は全店制覇だ」
    「気分はクラッシャーだよ。いっぱい食べるのも供養の一環」
     楽しいと思える祭りにしよう、と観月も繰り出す。
    「白石先輩、一緒に回りましょう!」
     蓮に誘われ、二人は姉妹のように仲良く歩き出す。
    「あそこに行きませんか? なんだか美味しそうです」
    「あの行列か? 並ぶのはできれば遠慮――」
     言いかけた作楽だったが、「みんなで並んで待つ時間も楽しいですよ!」と笑顔を向けられ、くすりと微笑んだ。
    「まあ、いいか」
    「あ、琥界さん退屈なら向こうに行ってもらって大丈夫ですよ?」
    「瀬川さん!? 琥界も女の子相手にムキにならない!」

    「いらっしゃい、日峰」
    「おめかししたんだね」
     みをきと壱のたこ焼き屋に、歌音がハルとアキたち幽霊を侍らせやって来た。
    「着付け手伝ってもらったー。みんなを連れて冷やかしだぜ!」
     青色の、うさぎ柄の浴衣を着た歌音が笑う。
    「冷やかしはダメだ、冷やかしは」
    「どれにする? 通常とロシアンがあるよ」
     壱がメニューを見せる。
    『ロシアンって、中は?』
    「俺の口からは言えないな」
    「えー」
     歌音が不満そうな声をあげる。みをきは妖しげに微笑んだ。
    「ナイショです。否、俺自身もわかりません」
    「そうそう、キギョーヒミツ!」
     食べればわかる、という二人。
    『えーそれじゃ気になる』
    「陰謀の匂いがするぜ!」
    『じゃあ買っちゃお……わ、返すの上手!』
     きゃいきゃい話す歌音たち。その前で二人は器用にたこ焼きをくるりと丸く作っていく。
    「家で二人で練習してきたんだ」
    「返すには意外とコツがいりますが……はい、どうぞ」
    「ありがとだぜ!」
     手を振り、去っていく歌音たち。その背にみをきは呟いた。
    「九割ゲテモノ当たりはイカ。それがロシアンたこ焼き……!」
     合掌する壱。
     しばらくして、悲鳴が聞こえてきた。

     レシピを壁に貼り付け、勇弥は店員に実演レクチャーしていく。
    「ボウルはこう持った方が安定するから……ほら、次のお客さん、オーダーの確認も!」
    「勇弥さん、来ました~」
     蓮たちが来店したとき、生徒たちがせわしなく動いていた。
    「大変そうですね、手伝いましょうか?」
    「ものになってくるまでさ。それより食べに来てくれたんだろ? どうだい、メニューは各種取り揃えたつもりだけど」
    「どれにしようか迷っちゃいますね~」
     勇弥の示したメニューに笑顔が漏れてくる蓮。
    「そうそう、あとで連れの分の綿菓子、合わせて頼むよ」
    「分かりました~」
    「ク、クロ助!」
     そこで外から狼狽えた声が聞こえてきた。霊犬・加具土が反応し、外に出ていく。
    「お、着いたみたいだな」
     勇弥が見ると、桃野・実がはしゃぐ霊犬・クロ助に翻弄されていた。
    「クロ助、人の迷惑に……!」
     新品の赤いハーネスをつけた霊犬は、リードを思い切り引っ張って進んでいく。その勢いに引きずられている実に、加具土がじゃれつく。
    「加具土も!? ちょ、待……!」
     はしゃぐ二匹に翻弄される実。
    「い、いさみさーん。彩瑠さーん……だれかー」
    「桃野さん、大丈夫?」
     途方にくれる実に、くすくすと笑いを含んだ声がかけられた。
     彩瑠・さくらえだ。
    「クロ助、加具土と一緒だと楽しさもさらに、だねぇ……うん、手を借すよ」
     無言の救助要請に再び笑って、さくらえは実を助け起こす。
    「どだ、楽しんでるか?」
     勇弥が二人に手を振った。
    「コラ加具土、はしゃぎ過ぎだ」
    「とりさん、笑いながら叱っても説得力無いって」
     さくらえが苦笑し、実がうなずきながら見つめる。勇弥が手を挙げて降参を示した。
    「OK、実くんにはお詫びにサービスする。好きなの選んで!――とにかく、来てくれてありがとう」

    「ロシアン恐るべし、だぜ」
     歌音たちはお口直しに綿あめととうもろこしを頬張りながら、射的屋にやってきた。
    「ロシアンときたら射的! 誰が当てるか競争だー」
    『あ、当たった』
    『私も』
    「うう、当たらないー! 惜しかったのに!」
     パン。
     乾いた音がして、歌音の狙った商品が落とされる。射手が景品を歌音に自慢した。
    「むむ、悔しいけどやるなおっちゃん!」
    「その、すまない」
     ちょっと嬉しそうな琥界から景品を奪い、作楽が歌音に渡す。

    「……途中で抜けた分は、あとで琥界も謝ってね」
     半ば強引に琥界に連れ出された作楽は、猟師よろしくアピールするビハインドに苦笑する。
    「はいはい、上手いのは分かったから……え、リクエスト? なら……あれがいい」
     ぬいぐるみを指さす作楽。
    「あれ、取ってよ。私と瀬川さんので二つね……嫌そうな顔しない! まだ根にもってるの?」
     チッ、他の女かよーとでも言いたげに、でもしっかり狙おうとする彼に、作楽はクスクスと笑った。

    「やっほー、レインさん、千架ちゃん」
    『食べすぎ』
     レイン・ティエラと玖律・千架は即座に返した。観月は料理の入った容器を大量に食べ歩いている。
    「金券は沢山あるからね。いくら食べても大丈夫」
    「そういう問題か?」
    「あとであれ食べよう」
    「まだ食うのか?」
     レインの指摘。千架が手を挙げた。
    「どこ行こっか?」
    「もちろん学園祭の定番、お化け屋敷」
    「賛成ー」
    「マジで言ってる?」
     顔を引きつらせるレインに、千架が天使の笑顔を見せる。
    「レインさん先行ね♪」
    「嘘だろ?」
    「だって後ろから眺めて楽し……女の子だから怖いし」
    「おい最初なんつった」
    「俺たちはすぐ後ろだから、大丈夫」
     観月の眼鏡が妖しく光った。
    「君の怖がる姿が見たいわけじゃないからね。じゃ行こう」
    「ちょっ待て押すなっ、心の準――」

    「レインさんがんば!」
    「頑張れじゃねーよバカ!」
     涙目のレイン。結局前を歩いていた。
    「なんで俺が」
     お化けは超苦手なのだ。
    「彼女以外の娘とお化け屋敷は倫理的アウト。でも怖がる千架ちゃんを守らないと」
    「エーンコワイヨー」
    「ね、論理的」
    「俺の必然性は?……無視か!?」 
     振り返ったレインは妖怪と遭遇して、悲鳴を上げた。
    「成程、あれが可愛い驚き方」
     千架は逐一ビクつくレインを観察する。
    「今度やってみようかな。こうキャッって可愛……く?」
     隣にいた観月がいない。慌てて周囲の暗闇を見ると、
    「わっ」
    「ッひええ! って何するんですか!」
    「今度やってみようって言ったし、驚かそうと」
     サムズアップする観月。
    「今の凄くいいリアクションだったよ、千架ちゃん」
    「ち、違います驚いてないもん!」

    「……疲れた」
     レインは出口でげっそりしていた。
    「で、なぜ千架は不機嫌?」
     千架の頬はむっすり膨らみ中だ。
    「新鮮で楽しかったよ、お化け屋敷」
    「聞いてねえ」
    「わたし、たこ焼きマヨつきタレ少なめ食べたいです」
    「こっちも自由だな。俺も食う」
    「え。あれだけ叫んだらお腹いっぱいだよね?」
    「なんでだよ。これぐらい請求させろ!」
     男たちの口論中に、千架は金券を奪ってたこ焼きを買った。
    「~♪」
     美味しさに、機嫌も直った。

    「ほい、綿あめ」
     店を幽霊に任せ、勇弥たちは客として席に座った。
    「ありがとー。遠慮なく」
     さくらえはクレープと珈琲も合わせて頼む。
    「とりさんは準備と運営お疲れ様、かな。何というか、すっごいイキイキしてるね」
     実も綿あめを食べながら、表情を緩めた。
    「慣れてる以上に、楽しそう」
    「ばれたか」
     勇弥は綿菓子を齧り、はしみじみと呟く。
    「やっぱこーゆーお祭りの裏方とか、好きなんだな俺」
    「なるほど。らしくていーんじゃない?」
    「好きなことに注力するのは……良い事」
     さくらえと実に微笑ましく評され、勇弥は照れ隠しに破顔した。
    「さ、食べたら三人で一回りしよう。そろそろ始まるしな」
     言うが早いか響き始めたソレに、「撫でて撫でて」とじゃれついていたクロ助が耳を動かす。
     太鼓の音だった。

    「さーて、平和は乱すが正義は守るものっ! 中島九十三式・銀都参上っ」
     銀都が捩り鉢巻きをして、やぐらの上に姿を見せる。
    「俺の正義が真紅に燃える、祭りを盛り上げろと無駄に叫ぶっ。いくぜ、これが俺の魂の暴れ太鼓だぜっ」
     太鼓叩きを開始、祭囃子が流れ出した。
    「さぁ、盛大に踊ろうぜいっ」
    「ふんふふんふふーん♪」
     やぐらの下では早くも歌音たちが踊り出していた。
    『歌音ちゃーん、腕の振りが激しいよ~』
    「え。踊り方違うのか? こう?」
    『そうそう』
    「おお、中島さんすごいですね! ルーちゃんも踊ろっか」
     指南される歌音に、蓮が霊犬とともに加わる。

    「あれは、太鼓の音でしょうか」
     みをきと壱は、金券を札束の様にして屋台街を蹂躙していた。
     もちろん、食いしん坊猫きなこも一緒である。
     生クリームたっぷりのクレープ、チョコレートが垂れるバナナ。
     それらを贅沢に頬張るみをき。彼が持ちきれない分を手にしつつラムネを飲む壱。そこで祭囃子が届いたのだった。
    「もうそんな時間か」
    「踊りがあるなら見に行きたいです! ほら、壱先輩早く!」
    「みをき、そんなに急がなくたって大丈夫だよ! ほら、チョコバナナ落ちるって!」

    「いい感じに集まったな。フィナーレといくか」
     いつしか夕闇が広がってきて、頃合いを見て銀都は花火に点火する。
     高い音が空へと昇った。一拍して光の華が空に咲いた。 
     祭りを彩る、そして終わりを告げる花火が次々に上がっていく。
    「花火、綺麗だね……二人で見れたの、ちょっと嬉しいかも」
     作楽が琥界に寄り添う。
    「壱先輩」
     みをきの声に、壱は花火が上がるたびに人影が減っていくことに気付いた。
     花火に歓声を上げる者や、仲良さげに寄り添う者たちが消えていく。
    「幽霊ってより、まるでこの学校の思い出の欠片みたいだね」
     きっと、こういう楽しい時間がいっぱいあったのだろう。
    「終わる前に、写真とろーぜ!」
     歌音が言って、残った者でやぐらの下で集まった。シャッターが切られる合間にも、幽霊たちは消えていく。
    「また、一緒に祭りやろうぜ!」
    『うん……またね』
    『歌音ちゃん、楽しかったよ。ほら、泣かない泣かない』
    「……な、泣いてなんかないぞ!」
     笑う双子が光となって消えた。
     やがて、学校からも特異な力が去った。
     古びた校舎に戻ったその場所で、最後に残った男女の幽霊が礼をする。
    『みなさん、本当にありがとう』
    『来年の実行委員はあなたたちに決まりね』
     ナツとフユミがそっと手を繋いで、笑い合って消えた。
    「彼らは、青春の望みを叶えられたんでしょうか」
     みをきは手を振り、消える彼らを見送った。
    「きっと、誰かにつなげたかったんだろうな」
     勇弥の言に、観月がうなずいた。
    「ちょっと遅い夏祭り……いや、秋祭りだったね」
    「皆さん笑ってて、満足したと思いますよ」
    「だな。不満ならもっとやるだけだ」
     ルーを抱く蓮に、銀都もニッと笑った。
    「ふう、なかなか楽しい祭りだったぜ。こーいう依頼なら大歓迎、っと。さて、余韻が冷めないうちにどっか遊びに行こうぜー」
     廃校舎から、灼滅者たちが歩き出した。

    作者:叶エイジャ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年9月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 4
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