ナイトアクアリウム~名残HaNaBi

    作者:志稲愛海

     夏休みも終わり、新学期も始まったけれど。まだまだ、夏の暑さが残る季節。
     そんな夏の余韻を――『和モダン』溢れる、夜の『花火アクアリウム』で。
     目いっぱい、楽しみませんか。

    ●花火アクアリウム
    「そういえば今年の夏はバタバタしてて、毎年行ってた夜の水族館に行けなかったなぁ」
     ふと呟いた伊勢谷・カイザ(紫紺のあんちゃん・dn0189)と、それに同意するように頷いた綺月・紗矢(中学生シャドウハンター・dn0017)に。
    「ちょーっと待ったぁー! 諦めるのはまだ早いよー」
     ドヤ顔で情報誌を机に広げたのは、飛鳥井・遥河(高校生エクスブレイン・dn0040)であった。
     遥河は、きょとんと自分を見つめるふたりに、情報誌を指さしながら続ける。
    「ね、見て見てー。都内の水族館でさ、まだ夜の水族館やってるみたいだよー。しかも、なんかすごく面白そうなイベントもやってるみたい!」
    「まだ夜の水族館、やってるのか?」
     そんな遥河の言葉に、カイザはそう声を上げた後。
     『花火アクアリウム』――鮮やかな彩どり満載の記事に、視線を落としてみる。
     
     水と光が創り出す、和モダンな花火世界。
     今、そんなコンセプトでたくさんのイベントが楽しめるというこの都内の水族館は、遥河の言うように、今の時期も夜まで営業をしているというのだ。
     まずは、水族館といえば、イルカショーだが。
     この水族館で今見られる夜のドルフィンパフォーマンスは、美しい夏の和の彩りの、『星花火 Hoshihanabi』。
     ウォーターカーテンとプロジェクションマッピングから打ち上げられる花火が鮮やかな中、イルカたちが繰り広げるショーが楽しめるのだという。
    「夜バージョンの『星花火』、どんなショーだろうね! あ、日本の祭りを思わせる、粋でいなせな昼バージョンのドルフィンパフォーマンス『INASE』も、夜の18時までやってるみたいだよー」
    「好みで、昼バージョンと夜バージョンを選んで観るのもいいかもな」
     カイザは遥河の言葉に頷きつつも、再び雑誌に目を向ける。
    「なんか、イルカショーの『星花火』だけじゃなくて、『水花火』とか『風花火』とか、花火とコラボしてる企画がたくさんあるみたいだぜ」
     水族館に足を踏み入れたゲスト達をまず出迎えるのは、季節の花々と花火で色づいた、艶やかなサクラダイの水槽、『水花火 Mizuhanabi』。
     さらに和モダンな世界を歩んで行けば、涼しげな夏の風に出会えるという。ユニークで珍しいたくさんの金魚の水槽と揺れる風鈴、映し出される花火のコラボが楽しめるのが、まるで夏祭りのような雰囲気の、『風花火 Kazehanabi』だ。
     紗矢も一緒に雑誌を覗き込みながら、興味深げに呟く。
    「この水族館は、たくさんのクラゲの展示もウリのようだが。そのクラゲの水槽も、今の時期は花火の映像で彩られるのか。それにこの、マンタとかも見られるという海中トンネルも歩きたいな」
     この水族館定番の人気スポットであるという、クラゲ展示。神秘的なクラゲたちの大空間も、今の間だけ、花火の演出でより美しく彩られて。20m続くロマンティックな海中トンネルも、やはり外せないスポットだ。
     また、アシカやオットセイやペンギンのミニパフォーマンスやフィーディングタイム、そんな動物たちと一緒に遊んだりふれあえる屋外広場、それに、強い毒と美しさを併せ持つ生きものたちが展示されている『毒展』というイベントなども、今開催されているという。
     大好きな仲間と賑やかにでも、大切なあの人とでも、お一人様でも大歓迎。
     『花火アクアリウム』――それは夏の余韻を楽しめる、いつもとちょっと違った、夜の水族館。
     
    「ちょうどカイザの誕生日も近いことだしさ、どうせならいっぱいの人に楽しんでもらいたいから、みんなも誘おうよー」
     へらりとそう笑む遥河に、そういや誕生日のこと忘れてた、とカイザは口にするも。
    「ま、誕生日はともかくだ。みんながそれぞれ、夜の水族館を楽しんでくれればいいよな」
     そして早速、遥河や紗矢とともに、教室にいる皆に、こう声をかけるのだった。
    「よかったら、夏の余韻を楽しみに。夜の水族館――『花火アクアリウム』に、行ってみないか?」


    ■リプレイ


     【森の城】の皆が纏う、紺や黒の浴衣に咲く花は、白に金、赤。それに、蝶がひらり。
    「ふあぁ……すごい……見て見て……キレイ……」
    「っと……うむ、美しいな」
     くいくいとシャオに袖を引かれ、ファティマと闇霧も、『水花火』の世界の前に躍り出て。
    「綺麗ですねー」
     花火に彩られ、より濃いピンクに染まり泳ぐサクラダイを見つめる。
    「なんだか楽しそう……。色んなお花に囲まれて泳ぐのは、きもちいい……?」
    「納涼というやつか。水と火の本来交わることのない組み合わせが、驚きと共にそれを提供してくれている」
     水の中でも、花火は燃える――いつか聞いた雑学を目の前に。語るファティマの声にシャオは、キラキラの世界を泳ぐ桜色の魚たちに話しかけてみて。
    「日本のこういった表現は素直に素晴らしい。黒木もそうは思わないか?」
    「表現凄い! 日本の人凄い!」
     大きく頷き、感激の声を上げながらも。
    「サクラダイ美味しそう……ジュルリ……はっ! ベッ別に食べたいなんて思ってないですからね!」
    「ふぇっ……た、食べちゃ、ダメだからね……?」
    「水族館は、ほんっと美味しそうなお魚がいっぱいいますね!」
     何気にシャオに見張られる中、やっぱりつい、本音が。
     でも大丈夫、水族館の魚は食べません。この後、海鮮丼を食べに行きますから!
     教え合ったテストの結果は、煌希も仙も上々! 今日は、そのご褒美。
    「お互いいい成績とれたもんなあ……仙は音楽以外」
    「音楽があれで順位が良いのだからいいじゃないか……」
     ふと同時に目を逸らすも……でも、ご褒美作戦は大成功!
     カフェバーで、花火咲く中泳ぐ魚や珊瑚を眺めて。
    「神西さんは修学旅行先でも見た?」
    「ああ、沖縄で泳いだトコには珊瑚もあったぜえ。THE南国って感じだったなあ!」
     会話を楽しんだ後、辿り着いた先は――神秘的なクラゲの空間。
     半透明でキラキラ綺麗なのに、高い攻撃力を持っていてカッコ良くて。
     花火を映しふわふわ漂う様は、思わずつつきたくなる……そう、くすくす笑む仙。
    「次もご褒美作戦で行こうかな」
    「次もか? ご褒美の内容考えとかなきゃなあ!」
     これで音楽も、次は成績アップ間違いなし?
    「花火綺麗ですね……!」
     通りかかったカイザに祝辞を述べた後、水族館を彩る幾つもの花火に、目をキラキラさせる陽桜。
     それから陽桜は、花火色に染まったスカッシュをカイザにご馳走して。
     声を掛け、『傘花火』を背景に彼の写真を一枚……撮ろうとしたが。
    「ありがとな! でもオレは、もしよかったら、こうした方がいいかな」
     自分に向けられたレンズに二人の姿が入るように、カメラを掲げた。

     浴衣はやっぱり肌寒いけれど。優しく、でもしっかりと握られた優志の手が温かいから……大丈夫。
    「綺麗だけど棘がある……みたいなの、あたし結構嫌いじゃないし」
     美夜が夜の水族館で興味を示したのは、『毒展』。
     綺麗だけど、それだけだと少し物足りない気がするから、と。
     そんなところが、お姫さんらしいけれど……別の意味で、意外に思う優志。
     そして、彼のその物言いたげな視線に気付いた美夜は。
    「あー? いや、意外と平気なんだなって?」
    「あぁ、言われてみれば……でも虫じゃないでしょ!」
     ムキになって、返した後。いやいや、別に下心とかアリマセンヨ?――そうエスコートする彼に、警戒の眼差しを向けるも。
     まぁ、いいけど……と。次は、金魚泳ぐ『風花火』へ。
    「ふわー! 金魚さんがいっぱいですね!」
     金魚の尾ひれのように、雪緒はひらり、帯を躍らせながら。
     清十郎の袖を引き、足を踏み入れたのは、色彩溢れた『風花火』。
    「日本の夏の代名詞を技術で融合させるとはなー」
    「夢の中というか、不思議な世界に迷い込んだような……あ……風鈴が鳴っているのです」
     思わず感嘆する夏のような彩だけでなく、耳に聞こえる音色は、聞くだけで涼しげで。
    「確かに不思議だよなー。風鈴の音は涼しいし、セミの声は暑いし。料理の音、はお腹空くな……」
     そう言った清十郎に雪緒は笑んで。まるで二人だけのような……風と音の世界を共有する。
    「夏ももう終わり、ですねー」
     名残惜しいけれど、夏はもう終わり。
     でも――金魚がゆらり、花火の空を泳ぐ中……約束を。
     来る秋もまた、二人で一緒に楽しもう、と。
    「これで君も18かー。あ、これプレゼントね」
     クリスから渡された『傘花火』のスカッシュを、サンキューな、とカイザは受け取って。
     飲みながら二人やってきたのは、金魚が泳ぐ『風花火』。
     コロコロしたピンポンパールの可愛さに、一緒に盛り上がった後。
    「ああところでさぁ……僕達高3だけど進路決めた?」
     ふと尋ねたクリスに。
    「俺な、獣医になろうと思ってるんだ」
     カイザはすぐに、そう頷いた。
    「そうそう、浴衣特典があるみたいだし、せっかくだから浴衣を着てみたの」
     遥河にそう声を掛けた奈央の着こなしは、言葉とは裏腹に、気合十分!
     そして浴衣といえば夏祭り。二人は、『風花火』の賑わいを一緒に楽しんで。
     花火の彩りが、より浴衣姿の奈央を飾る中。
    「浴衣の女の子には、さすがのオサレなオレも敵わないなー」
     遥河は、参りましたと、へらり笑みを宿す。


     打ち上がる光の花が、揺れるクラゲを鮮やかに染めて。
    「……これは、すごいね」
     まるで、夏祭りの空を泳いでいるみたいだ――そう紡ぐ一哉の琥珀色の海にも、神秘的な彩が揺蕩う。
     そんな彼に、ロマンチックなこと言いますね、と返した後。
    「今日は榛原先輩の行きたいとこ行っていいんだよ?」
     杏理は続ける――誕生日おめでとう、って言いに来たんです、と。
     そして少し驚いた様子の一哉に、尋ねる。
    「……、手を繋いでも?」
     自分の浴衣を着た杏理の姿は、少し気恥ずかしくて。そんな彼から差し出された、目の前の掌。
     それを一哉は、すぐには取れなかったけれど。
     クラゲを彩る花火が数発ほど上がった、その後に。
    「……いいよ」
     そっと繋がった手と手が、ふいに……夏祭りの色に染まる。
     深く静かな海中と、夜空に上がる夏の花。それは普段は、混ざることはないけれど。 
    「アクアリウムと花火がこんなにマッチするなんて思わなかったよ」
     そう肩を抱く拓馬と寄り添い、樹も、眼前の幻想的な彩を眺める。
    「夜空も水槽も、ずっと見てると吸い込まれそうになるでしょう? 一緒になったらそれが混ざり合ってもっと不思議な空間になるんだと思うわ」
     水族館の中でも一際神秘的で不思議なクラゲの水槽に、花火が咲いて混ざれば、独特な世界が生まれて。
    「樹もクラゲって好きだったよね」
    「くらげを見てると、肩に力が入りすぎてる自分を自覚できる気がして」
     二人談笑し、また思い出を重ねるこの時間は……とても気楽。静かに美しく、ゆらりと揺れる、クラゲたちのように。
     祝辞を贈る水花に、ありがとな、と礼を言ってから。
    「あ、やっぱり」
     ふいにカイザは呟き、続ける……浴衣似合うな、と。
    「以前伊勢谷くんにきっと私も似合うと言われたから、久々に着てみたわけで……す」
     何だか気恥ずかしくて、瞳を少し逸らしつつ水花は言って。
     夏の名残に彩られた水族館を、一緒に見て回った後。
     幸運がありますように、と――彼に、誕生日プレゼントを。
     ゆらり、クラゲの様に揺蕩い歩く、葉と千波耶。
     水槽の中のクラゲの不自由さは、流されぬように繋いだ、この手と似ている。
    「そういえば、海の月って書くわよね、クラゲ」
     青い宇宙のような水槽を眺め、なんか詩的じゃない、と言った千波耶に。ふと思ったことを口にするのは、やめておく葉。
     クラゲを海に浮かぶ月と間違えた人のちょっとマヌケなところが、彼女っぽいなんて。
     昏く青い海の中に浮かぶ、漂う光と影。その波に浚われそうだ……なんて、千波耶は思うも。
     どこにも行けないし、行かせない――一人では。こうやって、手を繋いでるから。
     そして、鮮やかな光の花に彩られた一瞬。
    「夏、終わっちゃったわね」
     名残惜しげに聞こえた声に。
    「夏の夢はまだ終わっちゃいねぇだろ」
     波に浚われぬよう、離れぬようにと繋いだ手をふいに引き、葉は続けた。
     月が浮かぶ間は、まだ――と。


     以前イルカと触れ合ったことがあるが、間近で見るとつい怯んでしまう。主にその可愛さゆえに。
     今日は遠目から見るショーだから、落ち着いて見られる……そう思っていた、治胡であったが。
    「触れ合いが出来るなら行ってみるか」
     詞貴に連れられ、ステージに上れば。動く余裕もなくなるほど、じーっと、イルカさんと見つめ合い。
     そして鮮やかな『星花火』の演出の中、ふと彼に、動物は好きかどうか聞いてみると。
     返ってきたのは、生物学的なイルカに関する解説。動物は、彼なりに好きなようだ。
     それからふたり、イルカの賢さや光溢れるショーの壮大さに魅入り、楽しんだ後。
    「気分転換になるな」
     そう笑む治胡に、詞貴のこの一言。
    「所でアザラシもいるらしいが?」
    「……アザラシ……だと……」
     強敵は、イルカだけではないようです!
    「扇ぎながら浴衣で歩くって、なんだっけ……そう、イナセなカンジ!」
     浴衣特典の扇子をひらり、泳ぐように躍らせながら。
     慧樹と羽衣は今年も、夜の水族館デート。
    「どうしてこんな、お祭りの雰囲気ってドキドキするのかしら」
     なんだか懐かしいような、少しだけ怖いような……それは、夜だから?
     ドキドキと火照る頬の色はまるで、『水花火』のサクラダイのよう。
     そして外せない、夜のイルカショー!
     前方の席で『星花火』に釘付けな彼の横顔も、虹色に光っていて――ショーの間もずっと、ぎゅっと握られた手。
    (「……なんだか、いつも。こうやって手をつないで一緒にいるなって」)
     ふいに――光に照らされた慧樹の頬に触れたのは、羽衣の唇。
    「ちょ、不意打ちズルくね!?」
     花火の光よりもたくさん溢れっぱなしな……大好きの、気持ち。
     偶然のお誘いは――クリスマス以来。
     彼氏はおらんの? そんな深隼の声に。
    「……出来てたら1人でぶらぶらしてないですっ」
     そっくりそのまま返しちゃいますよ! と蒼空は続けて。
     相変わらずのお一人様同士、仲良くしよか、と冗談交じりに笑う深隼。
     そして二人で『星花火』――イルカショーへ。
     普段海にいるイルカが、気持ちよさそうに花火咲く空を泳いで。
     弾ける彩をワクワクと瞳に映し、星のようにキラキラした顔の蒼空を見て、誘って良かったなぁと深隼は思うも。
    「幻想的ってこういうんを言うんかなぁ」
     お互い一人やったら付き合おう――思い出すのは、クリスマスの時に言った、そんな冗談。
     蒼空ちゃん覚えとんかなぁ……。そう見つめる彼との時間を楽しむ蒼空も、ふと思う。
     何でこんなに優しい先輩に彼女が出来ないのかな、と。

    「せっかくだ、目玉のイルカショーを見に行こうぜ!」
     いなせに浴衣で決めた薫は、カイザを誘って、いざ目玉の『星花火』へ!
     そして、彼女と来たかったんじゃないか? と問うカイザに、一緒に感動を分かち合える嬉しさを伝えて。
     手渡すのは、妹と作った、わんこ型クッキーの誕生日プレゼント。
     そんな薫たちの贈り物に礼を言い、それからカイザも続ける――薫も誕生日おめでとうな、と。
     翡翠が夜の水族館に足を踏み入れるのは、これが初めて。
     折角だから、やっぱりメインの『星花火』は最前列で!
     イルカが花火の空に飛ぶたび、大きく反応したくなるけど。じっと夢中でショーを見つめて。
     星のように煌く水飛沫でずぶ濡れになっても……彼女に咲く花は、笑顔。
     それから、通りかかったカイザに。
    「伊勢谷さん、誕生日おめでとうございます♪」
     花火に負けないくらい煌びやかな一年を――と祝辞を。
     聖也と飛鳥がまず向かうのも、花形のイルカショー『星花火』。
    「わーい! 凄いのです! 大迫力なのです! イルカさん可愛いのです!」
     煌く海の夏祭りに、無邪気にはしゃぎまくる聖也と共に。ひらり、金魚戯れる浴衣を揺らし、飛鳥も思わずステップを。
     そしてショーの次は、お目当ての『風花火』へ。
    「綺麗なのです! 飛鳥さん! 凄いのですよ! 綺麗なのです!」
    「頭に小さいコブがあるのが可愛いかな。らんちゅう、桜錦、なんきんもいいなぁ……」
     声を上げる聖也の隣で、花火を掻い潜る金魚を見つめる飛鳥は、すっかり自分の世界に。
     そんな彼女に倣い、聖也もじーっと水槽を見つめれば。
    「ふふっ。金魚たちの時間は、私たちとは流れ方がきっと違うんですよ」
     涼しげな風鈴が鳴る中、金魚たちの様に。飛鳥と聖也も、名残の夏を揺蕩う。
    「おー、すごいすごい!」
    「はい、……すごいです、イルカさん頑張ってますね」
    「ん、すごいね」
     感嘆の声を上げる銀河に、こくこくと同意するように頷く七葉と藍花。
     浴衣姿の3人がキラキラ楽しむのは、花火とイルカの幻想的なコラボレーションショー!
     いなせがどういう意味かは、ちょっとわからないけれど。
    「ほら、見て見て!」
    「きゃっ、そ、そんなに引っ張らなくても……?」
     『和の夏の夜』な気分を思い切り満喫し、すっかりイルカに夢中な銀河を、藍花は微笑ましげに見つめて。
     七葉は取られた手をそっと握ったまま、2人と一緒に、次はペンギンの水槽へ。
     色鮮やかでキラキラした夏の彩り。でも、その光はどこか、儚くもあって。
    「いいねー、これもまた夏だねえ」
    「ん、夏が終わっちゃうのが勿体ないかな」
     しみじみと言った銀河の隣で、夏の名残を惜しむ七葉の声。
     でも……今年もまたこうやって、3人で夜の水族館で過ごした、楽しい夏の思い出。
     そんな時間は楽しすぎて、ちょっぴりはしゃぎすぎて。少し、照れてしまうけれど。
    「今年の夏が終わっても、また来年がありますし、その次の年もです」
     また一緒に来ようね――今年もまた、そう、約束を。

     【星空芸能館】の皆も浴衣を着て、花火アクアリウム!
     お星様煌く袖を揺らし、えりなはカイザに祝辞を送った後。
     キリッと浴衣姿が決まっている徒や流希と、『星花火』へ。
     光の花と舞うイルカ、飛ぶ水飛沫が、キラキラ星のようで。
    「伝統のイルカショーに最新の技術が組み合わさって……普通のイルカショーとも、花火ともぜんぜん違う……ホントにすごい!」
    「ただ、花火を見るだけでも、楽しいものですが、イルカショーまでとは……。過ぎ行く夏の最後の思い出にぴったりですねぇ……」
    「何か、心を揺さぶられる……! うん、感動だーっ!」
     イルカと花火をバックに写真を撮ろうよ、という徒の提案に乗って、皆でシャッターチャンスを待つ。
     そして。
    「紗矢も入って入って♪ ジャンプの瞬間を見極めて……今だっ、ぶわっ!」
    「ありがとう。じゃあ一緒に……、っ!?」
    「紗矢ちゃんもご一緒に……ちー……」
     ――ばしゃんっ!
    「あ、水が……!」
     勢いよく跳ねた水で、皆、全身ずぶぬれ!
     でも。
    「あ、ははははっ、みんなびしょ濡れ!」
    「これも一興でしょうかねぇ……?」
     お揃いのびしょ濡れもまた、楽しい思い出のひとつ。
     そしてそのまま、今度こそイルカと花火と一緒に、はいチーズ!

     新しいものと古いもの、水族館なのに空の彩り――そんな不思議な、名残の夏のいろ。
     昭子は【Cc】の面々と、少しどきどきな夜のお出かけに。
     普段入ることのない夜の水族館の探検は、篠介にとっても、わくわくと心が躍って。
     やってきたのは、『星花火』――イルカショーの会場。
    「音と光の何とやら、じゃったか」
    「プロジェクションマッピング、というのか」
     そんなアイナーの言葉に、サズヤは瞬きをして。
    「ぷ、ぷろじぇくしょん……まっぴんぐ?」
     浴衣特典で貰った扇子を、泳ぐようにひらり躍らせる。
     依子も、プロジェクションマッピング、と復唱し、頷いてから。
     き、きますよ……? と篠介に、どきどきのまま目配せ。
     そのお返しに、篠介はけらりと笑って。
    「おう、始まるのう!」
     イルカと言えば、とタオルとレインコートを出すアイナ―は、さすがの気配りさん。お出かけ慣れの賜物です。
     そして……気付けばいつも、こんな顔ぶれな気がする――タオルやレインコートを皆に渡しながら、アイナ―が瞳を細めた刹那。
     キラキラと星のように輝く水飛沫とともに、大輪の光の花がスクリーンに咲いた。
    「おぉ……夜のイルカショーは初めてだが、これも……とても綺麗で、楽しい」
    「魔法の世界だね」
    「魔法の世界……マジックショーのようにも思える」
     イルカが飛び交う、光弾ける壮大なショー。その光の柱は、サズヤやアイナ―の言うように、まるで魔法の世界のように不思議で。
    「わあ、すごい、すごいです」
    「すごい! どこを見ればいいのか……」
    「目が忙しくて、わ、わ」
     興奮を抑えつつも囁く依子に、昭子も思わず小さく歓声を。
     そして懸命に拍手を送る彼女たちに、篠介も微笑ましい視線を向けて。
     すごかったですねと、昭子も彼に微笑み返す。
     そんな素敵な『星花火』を、全員で楽しんだ後も。
    「……お土産話を、もう少し仕入れてゆきませんか?」
    「ん、折角来たんだ。もう少し楽しんでこうや!」
     まだまだ――名残の夏は、終わらない。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年9月28日
    難度:簡単
    参加:40人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 4
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