ラーメン餃子セット 850円

    作者:黒柴好人

     栃木県を南北に貫く鬼怒川。
     鬼が憤怒するが如く暴れ、多くの水害を出してきた事から畏れられ名付けられた(諸説あります)その川は治水技術の向上により、現代においては穏やかな顔を見せている。
     だが、鬼怒川のかつての姿を目覚めさせんばかりの闘気が河川敷に渦巻いていた。
    「あらためて問おう。我々が争う必要など、あるのか」
    「諄い! 達観したその余裕、その態度こそ許せぬのだ!!」
     粗い砂利の上に2つの影。
     南に立つはラーメンの器を90度持ち上げ、しかしスープや具材は溢れずそれこそが顔となっている怪人。
     北に立つは餃子顔の怪人。
    「醜い考えだ。仮にも県庁所在地に根差す者であろう。弁えよ、宇都宮餃子怪人」
    「ならばそちらは辺境の田舎者だと自己認識すべきだな! 佐野ラーメン怪人!」
     双方、見ているだけで腹の虫が疼くご当地怪人である。
    「共に並ぶ事の多い我々だ。兄弟と言っても過言ではあるまい?」
     そもそもラーメンと餃子はセットと考えるのが世間の認識だろう。
     ここ栃木県の飲食店においてはそれが佐野ラーメンと宇都宮餃子であるという事だ。
    「それよ! それこそ我が宇都宮餃子が日本を、世界を統一できぬ理由よ!」
    「……ほう?」
    「餃子はラーメンの付け合せ……そう考えている愚者のなんと多い事か! 餃子は主食! サイドメニューではない!!」
    「つまり、我と同じステージに立ちたい……と?」
    「否! ラーメンこそサイドメニューのスープであるべきである! 貴様を斃す事で世の認識は改められよう!」
     宇都宮餃子怪人は餃子はおまけと考えられている内は成長も見込めないと考えたのだろう。
     まあそもそも、飲食店に行って餃子だけ食べて帰るってのはごく一地域に限られると思うのだけれど。
    「呆れた。呆れ果てたぞ宇都宮餃子怪人。付け合せのままでいれば我も貴様を可愛がったものを」
    「抜かせ! はああああああああああ!!」
    「思い知れ。貴様が思っている程貴様の知名度は低い。オオオオオオオオ!!」
     互いに炎のオーラを纏い、なんだこれ美味しそう。
     とか思っている間に決着は付いた。
    「ぐっ……! 焼き餃子をスープで浸し、パリパリ感を消滅させるとは……」
    「青竹に打たれたこの躰。しなやかに、そして剛健。薄い餃子の皮とはかくも障子紙のように貫けるものだ」
     餃子と麺が絡まったりなんだりして、その結果宇都宮餃子怪人が敗れたようだ。
    「哀しいな。お前も、我も」
     爆散する餃子からご当地パワーを吸収した佐野ラーメン怪人は、踵を返し歩き出す。
    「今日から我は『佐野ラーメン餃子怪人』を名乗ろうぞ!」
     
    「……なんでしょうね、これ」
     武蔵坂学園の一室。
     高見堂・みなぎ(高校生エクスブレイン・dn0172)は灼滅者に対して事のあらましを説明しながら、ふと我に返った。
    「……なに勝手にライバル対決をしているんだ、という話になりますが……まぁ、これにはわけがありまして」
     サイキック・リベレイターの効果により昨今はイフリートが活発化し始めている中ではあるが、どうにもご当地怪人も相手にしなければならないようだ。
    「……ご当地幹部、緑の王・アフリカンパンサーはご存知かと思います。アフリカンパンサーはガイオウガの体の一部を所持しており、先のサイキック・リベレイターの効力がそこにも及んだと考えられます」
     アフリカンパンサーは高まるガイオウガの力を奪う形で利用し、あろうことか『合体ダブルご当地怪人』を生み出せるようになったのだ。
    「説明しましょう。合体ダブルご当地怪人とは……ライバル関係にある2体のご当地怪人を戦わせて生き残った方に2体分のガイアパワーを集中させ、強大な力を与える……そんな感じの怪人です」
     ライバルにも色々な形があるようで、それを見るだけでもご当地怪人の内部事情が窺い知れるようで興味深いが、だからとて、何の参考にもならないかもしれない。
    「……ガイオウガの力をアフリカンパンサーが奪う事により、本来ガイオウガが得ていたであろう力は、そこそこ削がれています」
     それによりガイオウガの勢力拡大を抑えられているのは事実だが、このままではアフリカンパンサーたちご当地怪人の力が増す一方だ。
     厄介事が大きくなる前にこの『合体ダブルご当地怪人』を灼滅して貰いたいのだ。
    「合体ダブルご当地怪人の戦闘能力は侮れません。具体的には通常の2倍くらいですが」
     2倍といえど、単純な2倍は脅威に違いない。
    「……佐野ラーメン怪人と宇都宮餃子怪人が戦っている間に皆さんが乱入をする事もできますが……あまりおすすめはできませんね」
     もし乱入をすれば2体の怪人はその場で互いへの攻撃をやめ、灼滅者たちに目標を切り替えるのだとか。
     共通の、かつ強大な敵を前に共闘しないご当地怪人はいないという事だろう。
    「……まあ、他にも厄介な要素が色々ありそうですので、余程の事がない限りは合体してから挑むのが最善かと」
     メリットとデメリットを考え、適切な戦い方を考えたいところだ。
    「しかし、合体ダブルご当地怪人ですか……」
     みなぎは憂うような表情で軽く俯く。
     何か重要な追加情報でもあるのだろうか。
    「このネーミング、いかにも間抜けっぽくてわたしは好きですよ」
     わりとどうでも良い話だった。


    参加者
    狭山・雲龍(格子状の針路・d01201)
    風真・和弥(風牙・d03497)
    志賀野・友衛(大学生人狼・d03990)
    リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)
    淳・周(赤き暴風・d05550)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    黒鐵・徹(オールライト・d19056)
    高嶺・円(蒼鉛皇の意志継ぐ餃子白狼・d27710)

    ■リプレイ

    ●単品でご注文よりも
    「我々が争う必要など、あるのか」
    「その態度こそ許せぬのだ!!」
     広い河川敷にこだまする2つの声。
     2体の怪人――佐野ラーメン怪人と宇都宮餃子怪人が対峙する様を、離れた場所から静観する少年少女の姿があった。
    「鬼怒川か」
     鉄製の車止めの上に座り、川を吹き抜ける風を感じながら狭山・雲龍(格子状の針路・d01201)が呟く。
    「俺の聞いた話だと昔は『絹川』と呼ばれ、その名のごとくなめらかな清流であったとか」
    「本当は優しい川なんですね。今も、とても鬼が怒っているようには見えませんし」
     黒鐵・徹(オールライト・d19056)は川の流れに目を向け、その穏やかな表情に細める。
    「合体ダブルご当地怪人か……」
     まだ言い争いをしている怪人たちを眺めながら、志賀野・友衛(大学生人狼・d03990)が得心したように腕を組む。
    「つまりセットメニューという事になるのか」
    「ああ……。このセットは主にランチ的に強力過ぎるぜ」
     淳・周(赤き暴風・d05550)がごくりと喉を鳴らしたのは、緊張ではなく腹を刺激されたために違いない。
    「セットの内容が充実すると名前もどんどん長くなるのだろうか?」
    「何ッ!? ま、まさか……!」
    「そうだ。ラーメンと餃子は定番ではあるが、だからこそ今日のセットメニュー情勢を鑑みると力不足だな。例えば――チャーハン」
    「!!」
     友衛の恐ろしい想定に戦慄する周。
    「ラーメンとも餃子とも相性抜群のメニューと手を組めば、更に強くなるかもしれないな」
    「まったくだ。奴が本格的な力をふるう前にさっさと仕留めねえとな!」
     一人満漢全席にでもなられたら完食するのが大変。
     ではなく、強力な怪人になっては厄介だ。
    「食の悪用は許し難い。が、黄金の組み合わせはどんな進化を遂げるのか……食の可能性を見届け、そして広げる事もまた俺達ご当地ヒーローのそして灼滅者(フードファイター)の役目だ」
     フード……?
     文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)は気合に満ちた眼差しを怪人らに浴びせると同時にマイ箸を握り締めた。
     食う気満々じゃないですか。
    「……お、始まったようだな」
     風真・和弥(風牙・d03497)の声が一同の耳に届いた数瞬後、激しい衝突音が辺りに響いた。
     リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)は双眼鏡を構え、双方の動きをじっくりと観察する。
    「別に特別な動きはない? 正面からただ殴り合っているような」
    「まさに漢同士の戦いだな。あいつら、随分肝が据わっているようだ……」
    「そ、そういうものですか」
     和弥が言うのであればそうなのだろうと、リュシールは観察を続ける。
    「一見いい勝負に見えるけど、でも……」
     高嶺・円(蒼鉛皇の意志継ぐ餃子白狼・d27710)は微かに後退していく宇都宮餃子怪人に顔を曇らせる。
     結果は分かっている。そして加勢も叶わない。
     ご当地怪人は倒すべき敵だが、円にとっては同じ宇都宮餃子を愛する者に違いない。
    「よし、そこだ! 餡にパンチを効かせてボディーを狙っていくんだ!」
    「ひっくりかえせ餃子怪人! だああ、踏み込みが早すぎる!」
     一方、雲龍と周はプロレスかボクシングの試合を観ているようにヒートアップしていた。
    「ああ……この場所に居合わせることができた幸運を、俺は誰にどうやって感謝すればいいのだろうか……!」
    「そ、そんなに……!?」
     双眼鏡を覗きながら瞳を潤さんばかりの感動に打ちひしがれる雲龍。
    「餃子怪人がふっとばされた!!」
    「くっ! 加勢してみたい気持ちが湧き上がってくる!」
    「その気持ち、解るな。どれだけ不遇な目に遭っても何度でも立ち上がって頑張るその気概……」
     ヒートアップする周や雲龍の後ろに立つ和弥は、そう言いながら目を閉じる。
    「応援したくなるじゃないか……!」
     双眸を見開きつつ、小さく叫んだ。
    「だよな!」
    「まったくだ!」
    「ああ……!」
     拳を突きつける3人。
     なにこれ。
    「ん、なんだか良い匂いがしません?」
     そんな折、徹がすんすんと鼻を鳴らしながら辺りを見渡す。
    「言われてみればそうですね」
     つられてリュシールも嗅覚に意識を集中させると、どことなく香ばしい匂いが。
     その源流、風上には。
    「あ、もしかして」
    「餃子っ!」
     物凄い勢いで顔を上げる円の反応を見るかぎり、間違いなさそうだ。
     醤油の香りも混ざり、さながらラーメン屋の店先にいるかのよう。
    「戦う前から匂いで惑わせてくるなんて、恐ろしい相手ですね」
     徹は口内ににじみ出る唾液を飲み込み、ぐっと耐える。
    「ああ、ますます楽しみになってきたな!」
     直哉はというと、難敵を前に得物を抜き、来る決戦に備え――いや、やっぱり箸だ。箸を手に不敵な笑みを浮かべている!
    「その箸は殲術道具なのか?」
    「いや、ただの箸だぜ!」
    「……なるほど、手掴みでは行儀が悪いからな」
     堂々たるフードファイターの姿を前に、友衛の疑問は霧散した。
     その時。
    「「ああっ!!」」
    「む……」
    「倒されましたね、餃子怪人」
     雲龍と周が叫び、和弥が唸った。
    「行こう」
     短い号令に、一同は首肯するなり動き出す。
     円は誰にも聞こえないよう、しかし彼には届くよう「仇は取るからね」と口の中で呟き、仲間たちの背中を追いかけた。

    ●セットの方がお得ですよ
    「今日から我は『佐野ラーメン餃子怪人』を名乗ろうぞ!」
     一段と増した力を手にした合体怪人は、足元の石を踏み砕きながら振り返る。
     もうここには用はない。そう背中が語っているようだ。
    「そこまでよ、怪人っ!」
    「むう!?」
     刹那に余韻を突き崩す声が合体怪人の耳朶を打つ。
    「何奴か!」
    「ここよ!」
    「な、何だと!?」
     声の主は上方、鬼怒川を跨ぐ橋の欄干の上にあった。
     それは少女、リュシール!
     よい子はまねしてはいけないぞ。
    「子供、か。ヒーローごっこは別の所でやる事だ」
    「ごっこじゃないぜ!」
    「!?」
    「クロネコレッド、見参!」
     欄干に新たな人影、頭にコック帽を乗せた目付きの悪いゆったり体型の黒猫着ぐるみの直哉が片手を突き出し叫ぶ!
    「黒いのか赤いのかどちらだ貴様!」
    「お前もラーメンなのか餃子なのかハッキリしたらどうだ!?」
     啖呵を切ると、直哉はリュシールと共に「とうっ!」と空中に躍り出た。
     太陽を背負い黒い影となった2人は、くるくると回転しながら着地。
    「……メ……ップ……!」
     するとどうだ。リュシールは普段着から騎士装束へと姿を変えているではないか。
    「合体怪人。あなたを討ちに来たわ!」
     純白の盾を突き付け、宣言するリュシール。
     これは決まった!
     なんだかんだ言っても、彼女もこういったシチュエーションに憧れるお年頃。
    「リュシールお姉さん」
     だから、
    「『メイクアップ』ってなんですか?」
    「え?」
     武装を展開する直前にそれっぽい変身ワードを誰にも聞こえないように呟いてみたり、でも実は橋脚の近くで待機していた徹に聞かれてしまっていても、何も恥ずかしい事はない。
     と思う。
    「き、気のせい気のせい!」
    「なるほど、それらしい掛け声にキメ台詞が作法なのか。私は既に起動してしまったが……」
    「もう忘れてー!」
     狼耳をぴこりと動かし、興味深そうにリュシールを眺める友衛。
    「忘れるのはもったいない気がしますね。と、それにしても」
     徹は容易に視認できる距離からじっくりと合体怪人を眺める。
    「つよそう! 僕たちも合体しましょう!」
    「えっ!?」
    「そ、それはロボ戦とかになってからで……」
    「?」
     少しあわあわする2人に首を傾げる徹。
    「とにかく! 俺達の食欲と舌を満たす事が出来るのか、ここで勝負だ!」
     そんな3人を少し離れた場所から望む周。
    「アイツら、ニチアサの素養が大アリだな」
     何やら感慨深そうにしているが、そこへどこからともなく音楽が聞こえてきた。
    「今度は一体何だ!」
     知る人ぞ知る某ラブリンスターの3rdシングルをバックに現れたのは雲龍。
    「随分スマートぶっているようだが、お前なんかこいつを聞きながらで十分だ」
    「む、むう……?」
    「そうだね。それに、合体後の主人格がラーメン怪人で良かったよ」
     雲龍はともかくとして、既に戦闘準備を整えている円の殺気は尋常ではない。
    「ほう……そこの貴様からはどことなく餃子の気を感じる」
    「当然。わたしは宇都宮のご当地人造人狼」
    「それは憐れな事だ。この力を以て、まずこの県を佐野が掌握しようと考えていた所。最早、日本一の立場を失わんとしている宇都宮餃子に城下を委ねる理由はない。消えよ」
    「……餃子を舐めるなっ!」
     低い姿勢で飛び込んだ円、そして彼女を追随する徹。
     2人はエアシューズを燃え上がらせながら互いに交差する蹴りを打ち抜く。
    「……辣油や胡椒の霧ではないぞ、多分」
    「Double etoile filante!」
     さらに中心目掛けヴァンパイアミストで強化したグラインドファイアの追い打ちをかける和弥に、その前方から和弥側に向けて同じく炎を迸らせ蹴りつけるリュシール。
    「ぐ、おッ!?」
     すっかり焼き目の付いた合体怪人。
     油の香ばしい匂いが増しに増したようだ。
    「……拉麺と餃子が食べたくなってきたから、この近所で拉麺と餃子の美味しい店を紹介してくれ」
    「あ、ひき肉と野菜ならガレットで包むとかも出来るかな。クリームソースもありかも……」
     それが胃や脳を刺激したのか、合体怪人の問う和弥とメニューを閃くリュシール。
     ブルターニュ風にアレンジした餃子というのもアリなのかもしれない。
    「高嶺お姉さん、怪人は燃やしていいですけど頭は冷静に!」
    「大丈夫、一回蹴ったら少し落ち着いたよ」
    「貴様ら……邪魔立てをするか。ならば新たな力、存分に食らわせてくれよう! そしてラーメンを食したいなら佐野まで征けい!」
     灼滅者たちを翻弄せんと、切れ味の尖そうな平麺を幾筋も射出する合体怪人。
    「僕の愛する札幌ラーメンの中太縮れ麺と違う、君の気性を現すような真っ直ぐな麺……受けて立ちましょう!」
     栃木の意思と道産子の誇り。
     そしてあるいは、他麺類との競り合い。
    「そんなものか、ラーメン!」
     直哉の全身に無数の麺が突き刺さる。だが着ぐるみの、そしてうどんの力をも内包した彼には完全なる脅威とはならないようだ。
     自分の傷はすかさずWOKシールドを展開し、癒やす。
    「WOKは、つまり『中華鍋』……フードファイターに相応しい装備だろ!?」
     英語で中華鍋はWOK。
     つまりこれから中華鍋盾と呼称しても問題ない!
     いや、問題あるな。
     幾つもの因縁を抱えながらも灼滅者たちは合体怪人の猛攻を凌ぐ。
    「なかなか良いパンチ、いや麺か? 持ってるな、ラーメン餃子セット怪人!」
    「誰がセットか。佐野ラーメン餃子怪人だ!」
    「おっと、そうだったか? 2人で1人のメニューだろ、変わらねえって」
     周がわざとらしく首をひねる。
    「ラーメンと一緒についてくる餃子って専門店で食うのとはまた違ったいい味があるよなー。あれ何でだろ?」
    「淳先輩、それは良い着眼点かもしれないな。セットメニューで強化するのであれば、やはり互いの相性は重要と見て間違いないのか」
     友衛は先に自分で言った事を思い出しながら呟く。
    「餃子に足を引っ張られては我が品位に関わる。当然相応のものを、そしてラーメンに合うように製造しているからに決まっているだろう」
    「なら本当は餃子も認めてるのか?」
    「ふん、無駄話は終わりだ!」
     合体怪人は周たちに麺を放ち、追い払おうとする。
    「ちょうどいい、佐野ラーメンは食ったことないんだ。試食、行くぞ!」
    「ここで箸が必要になるとは!」
     一度合体怪人の攻撃を捌き、
    「使うか!?」
    「いや、私の箸は……これだ!」
     友衛の槍、そして周の影業が巧みな箸捌きのように合体怪人に襲いかかる!
    「力を増した我を、このような……!」
    「おいおい、スープがこのれてるぞ! スマートじゃないな」
     よろめいた合体怪人の頭部目掛けて光線を放つ雲龍。
    「ぐあッ! 我が器を!」
    「ひとつ、竹を割るがごとくなる勢いで」
     すかさず欠けた器を庇う『てもと』を結界糸で巻き上げ、
    「ふたつ、これなしでは食べられないだろう? みっつ――」
     いつの間にか張り巡らせた赤い鋼糸が合体怪人を製麺するが如く斬り刻む!
    「俺は生憎だが細麺が好きなんだ!」
    「馬鹿なァァ!」
     数多の傷を付けられても倒れないあたり、やはり力を増しているのか。
     あろうことか、数秒もせず反撃に転じてきた。
    「その踏み込み、観察済みよ! せーの……!」
     だが、リュシールは布石を打っていた。
     間合いを合わせ滑り込みながら合体怪人の躰を持ち上げ、投げ飛ばす。
    「今っ!」
    「この時を待っていたぜ! 徹、お待ちかねだ!」
    「はい、僕たちの力を合わせましょう!」
    「勇気が溢れてくる。これが絆か! 高嶺、準備は!」
    「いつでもいいよう!」
     4人の全てを込め、全力の一撃を振るう!
    「止めだ! 喰らえ、腹ペコ合体技!」
    「怪人はお星様になるのが定めです!」
    「ぐおおおお!!」
     閃光が炸裂し、幾つもの爆炎が踊る。
    「な、何故だ……我は、最強の力を……」
    「驕るな。拉麺も餃子も、主食である白飯の前ではおかずの一品に過ぎない」
     それに優劣は無いと和弥は主張する。
    「……白飯、拉麺に限らず、餃子や炒飯や搾菜その他諸々を組み合わせればお互いを引き立て合い輝きを増すというものだ」
     ジャケットを翻し、視線だけを向け言い放つ。
    「即ち、貴方の敗因は餃子を付け合せと侮ったその心の内にこそある!」
    「驕り、か。よもや我が教えられようとは、な……ああ、宇都宮餃子怪人よ。我も今――」
     一段と巨大な爆発と香りを残し、佐野ラーメン餃子怪人は消滅した。
    「ごちそうさま!」
    「ごっそさん!」
     直哉たちは力強く手を合わせ、それを見届けた。

    「それならこんなお店はどうかな」
     店については円に一任する事になった。
     何の話かって?
     勿論、これからラーメンと餃子を堪能するための店選びに決まっているではないか。
    「セットだと850円前後で食べられるのか」
     空腹な和弥はいつもに増して真剣な眼差しで情報を表示している端末を注視する。
    「その、僕は……ありのままの方で」
    「なに遠慮するな黒鐵。今日は好きなものを頼んで構わないよ」
     それくらいは出すさ、と友衛は微笑む。
    「オーギュストもな」
    「あっ、ええと……あ、ありがとうございます!」
    「アタシからも、今日は餃子のおかわり自由だ!」
    「おかわり自由、だと……!」
     周に直哉のギラついた瞳が突き刺さる。
    「よし、決まりだな! なら行くとしようか!」
     拳を突き上げる雲龍に、皆も「おー!」手を挙げる。
    「良いお店なら弟や妹もいつか連れてきてみたわね」
    「それは保証するよう」
    「おお、期待度上がるなー!」
     1つの脅威を打ち砕き、灼滅者たちは賑やかに祝勝の宴へと向かうのだった。

    作者:黒柴好人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年9月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ