「読書の秋、スポーツの秋、そして……食欲の秋」
キャンプ場へ向かいながら苑田・歌菜(人生芸無・d02293)は口にする。
梨にぶどう、林檎に柿。きのこに栗に――お芋。
「焼き芋をしていると現れる都市伝説。食欲の秋にぴったりだと思わない?」
振り向けば、三国・マコト(正義のファイター・dn0160)はこくりと頷いた。
歌菜が探し当てたのは、焼き芋をしていると現れるお芋の都市伝説。
焼き芋をしていて現れるのだから、それなりの理由があって現れるのだろう。
「自分も食べて欲しいんですかね?」
「そうだといいんだけど……」
マコトの疑問に歌菜は応え、歩く。
「苑田先輩、焼き芋をしていると現れる都市伝説ってどれくらい大きいと思います?」
ふと口に出るマコトの疑問。
人間くらいの大きさなのだろうか? それとも、もっと巨大サイズだったりするのだろうか。
それ以前に、どうやってやって来るのだろう。手足でも生えているのだろうか。それとも飛び跳ねるのだろうか。
……まさか会話も可能だったり?! まあ、都市伝説だし意思疎通も可能だろうが――。
しばらく考え、やめた。
「実物に会ってから考えましょ」
そう言い、持参したさつま芋へ視線を向けた。
気が付けばキャンプ場が見え、心なしか足取りも速くなる。
「人に危害を加えようとする都市伝説じゃない筈。みんなで頑張りましょ」
美味しく楽しい解決を。
歌菜は仲間達とキャンプ場へと足を踏み入れるのだった。
参加者 | |
---|---|
紫乃崎・謡(紫鬼・d02208) |
苑田・歌菜(人生芸無・d02293) |
煌・朔眞(秘密の眠り姫・d05509) |
雪椿・鵺白(テレイドスコープ・d10204) |
北沢・梨鈴(星の輝きを手に・d12681) |
霞代・弥由姫(忌下憧月・d13152) |
卯月・あるな(ファーストフェアリー・d15875) |
七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155) |
●
空は雲ひとつなく、今日はとってもいい天気。
「みんなで焼き芋パーティーだね!」
元気いっぱい、卯月・あるな(ファーストフェアリー・d15875)は大好きなおいもの依頼という事もあってか、テンションはいつもより高かった。
「皆で焼き芋をしていると出てくるのよね? それなら焼き芋を目一杯楽しまなくちゃ!」
「焼き芋をしていると現れる都市伝説。目的はなんなのでしょうか……」
雪椿・鵺白(テレイドスコープ・d10204)と北沢・梨鈴(星の輝きを手に・d12681)が話すように、今回、灼滅者達が対峙するのは焼き芋をしていると現れるというさつまいもの都市伝説。
しかも意思疎通も可能らしい。いったいどれくらいの大きさなのだろうか。
「都市伝説の姿……意思疎通が可能ということは人間サイズの単身かな。それともテーブルに乗るサイズなのか」
「会話できるくらい大きな芋なら、やっぱり食べ応えありそうよね……」
相手は大きさも数も分からぬ都市伝説。紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)と苑田・歌菜(人生芸無・d02293)は焼き芋の準備に取り掛かる。
「マコトさん、設営を手伝ってもらえるかな」
野外作業は慣れたものという謡に呼ばれ、三国・マコト(正義のファイター・dn0160)は設営を手伝ったり、炊事場に調理機材を運んだり。
なお、このキャンプ場の炊事場にはコンセントもあるという事で、焼き芋だけでなく、様々なさつまいも料理を作る事にしている。
「今回は電化製品も可……ということなので朔眞は簡易コンロとフライパンを持ってきました!」
コンロとフライパンを並べる煌・朔眞(秘密の眠り姫・d05509)の隣では霞代・弥由姫(忌下憧月・d13152)も準備してきたものを並べていた。
アルミホイルに古新聞、着火器具に電気炊飯器。調味料から皆で食べられるように紙食器に割り箸。用意したポットにはお茶が入っている。
「これで色々なお芋料理が作れるね!」
並ぶ材料や器具を眺めながらあるなが言えば、七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)は楽しげな雰囲気に心なしか表情も楽しげで。
「……なんだろう、最近大きな事件ばっかり見てる所為か、こういうの見ると心がほっとしそうだって思っちまうのは……」
確かに最近あった出来事を振り返れば、あまり明るくない話題ばかりのような気がするが、たまにはこういう依頼があってもいいだろう。
「焼き芋の準備ができたよ」
歌菜の声に向けば、いつの間にか焼きいもの準備が完了していた。
木を少し積んで焚き火にし、そこに簡単に洗ってホイルで包んださつまいもを投入。
「焼き芋してたら出てくるって……地下からわらわらとゾンビみたいにはこねーだろうけど……」
「さて、何が出てくるやら……」
悠里と弥由姫は焚き火の中で焼けるさつまいもをじっと見つめ――。
●
ぼこっ。
地面からさつま芋の頭がにょこっと出てきた。
しかも、芋というにはサイズがでかすぎる。
「うわっ!?」
「悠里くん、大丈夫?」
地下からゾンビならぬ、地面からさつま芋の登場に悠里はばっと下がると梨鈴が心配そうに駆けてくる。
――と。
「きゃあっ」
にょきっと出てきた小さなお芋にこつんとつまづき転びそうになるのを朔眞のウイングキャット・リオと鵺白のビハインド・奈城さんが受け止めた。
「みんな、現れたよ!」
にょこにょこと地面から出てくる都市伝説達を目にした歌菜は声を上げ、調理の準備に取り掛かっていた仲間達はその手を止めて集ると、都市伝説達は地面から完全に出ていた。
灼滅者達程の大きさの大きなさつま芋が1体と、普通のより大きめなさつま芋が15体。
「こんにちは! 美味しそうだね☆」
褒め言葉になるかどうか分からなかったが、都市伝説達に挨拶すると、大きなさつま芋がすと前に出る。
都市伝説だから意思疎通は出来るだろうという予測をしている灼滅者達であったが、見た感じ、手足もなければ口もない。
はたして意思疎通の手段はいかに?!
――美味しそうだなんて、ふふ、嬉しい事を言ってくれるお嬢さんだ。
「俺達の頭の中に語りかけてきている……?!」
鵺白は突如聞えてくる声に仲間達を見れば、やはり聞えているのだろう。
「どうやら筆談する必要はなさそうですね」
筆談やジェスチャーを考えていた弥由姫はちらりと見れば、15体のさつま芋達がごろんと転がり『YES』と文字を作る。何だか凄いその光景に、鵺白はときめいた。
見事な芋文字を目になぜ現れたのかと弥由姫が問えば、
――このキャンプ場ではね、さつま芋を使った料理といえば焼き芋しか作られていないのだよ。
そう大きなさつま芋は言う。
昨今、様々な事情もあってか焚き火を行える場所は多くない。だからこそ、さつま芋を持ち寄りこの場所で焼き芋が作られているというのだ。
――私達さつま芋は、焼き芋にしかなれないのだろうか。
「なるほどね」
どうやらこの都市伝説達は、さつま芋は焼き芋にしかなれないと思っているようだ。
歌菜が納得するするように頷くと、あるなと朔眞は前に出る。
「お芋って、色んな美味しい食べ方があるんだよ?」
「お味噌汁だったり、ご飯にも合いますし、 スイーツにだってなっちゃいますし」
二人が焼き芋以外の料理がある事を話せば、
「これから皆でお芋パーティーを行うの」
「よければ一緒に楽しまない?」
梨鈴と鵺白からの申し出にさつま芋達は集まり、なにやら話し合いを行ったようだ。
――では、私達も楽しませてもらおうか。
大きなさつま芋が全員の意見を代表して応えた。
謡が一緒に料理をするかと誘えば、小さなさつま芋たちはたたっと動き『NO』と文字を作る。
――すまない、私達にはそれをするだけの能力はないのでね。
「確かに難しそうだな」
物を掴む手段を持たないさつま芋達を目に悠里は頷き、歌菜は何人分くらいになるかしらと思考を巡らせると、大きなさつま芋はそれを察しだのだろう。
――きっと君達は満足すると思うよ。
向けられるのは、優しげな声。
「皆でおいしい料理を作るね」
「まあ、完成を楽しみにしておいて」
――期待しているよ。
梨鈴と謡の言葉にさつま芋達は期待の眼差し(?)を向けるのだった。
●
「調理を再開しようか」
炊事場に戻った謡は洗ったままのさつま芋をまな板にのせ、カットする。
水気を切って油で揚げようとしていると、歌菜も切ったさつま芋を揚げようとしているようだ。
「謡、揚げ物をするなら一緒にフライヤー使わない? 一緒にやっちゃった方が後片付けも楽よね」
にこりと微笑む歌菜とフライヤーを使って揚げる事に。
スライスしたさつま芋はさつま芋チップス。スティック状にカットしたものはさつま芋スティックだ。
「歌菜は何を?」
「私は大学芋よ」
言いながら揚がったさつま芋の油を切り、甘いタレを絡めれば、あっという間に出来上がり。
「つい途中で味見したくなるわね」
ふわりと広がる甘い香りが鼻腔をくすぐる中、なにやら大変そうな音が聞えてくる。
「ここで朔眞の料理の腕を存分に……あれっ、あれれ? 紅葉ちゃん、あぁ、こっちでいいんですか?」
朔眞はフライパンで簡単に出来ちゃうという大学芋を作ろうとしていたが、ちょっと自信がないらしい。
料理を並べ終えた紅葉はデザートを温める手を止め、朔眞の元へ。
「はいこれとこれ乗せてってねっ♪」
てきぱきと指示する紅葉は弥由姫の視線に頷き、そっと調味料を遠ざけ、
「紅葉ちゃん、わたしも一緒に手伝うわ」
「朔眞、大学いもなら一緒に作らない? ていうか一緒に作りましょ」
鵺白と朔眞もお手伝い。
一人だと危険だからとこそりと歌菜は呟くが、皆で作れば美味しい大学芋が作れるだろう。
楽しげな声を耳に弥由姫はさつま芋を食べやすい大きさにカットする。
「おかずになりそうなものが色々できそうですね」
出来上がっていく料理を目に弥由姫が焼き芋以外に作るのは、炊き込みご飯。
刻んで混ぜて炊くだけという大した手間は掛からないが、炊飯器が使えるという事は大きかった。
一通り終えた弥由姫が見れば、梨鈴はスイートポテト作りの最中だった。
茹でたさつま芋を潰して、他の材料と混ぜたら成形するのだが、成形はちょっぴり苦手。
「あっ、梨鈴! 成型手伝うぞー! ……で、どうやればいいんだ?」
「わたくしも手伝いましょう」
「悠里くん、霞代先輩、ありがとうなの。味は大丈夫だと思うんだけど……でも、見た目って大事ですよね……」
悠里と弥由姫の手伝いに礼を言い、3人で成形に取り掛かる。
苦手な作業もみんなでやればあっという間。
「ねえ、一緒にスイートポテト焼かない?」
コンロで蒸して火を通し、裏ごしして作ったあるなのスイートポテトと一緒にトースターにいれ、綺麗な焦げ目が出来るまで待つことしばし。
「いい匂いだな」
「……でも焼きすぎには気をつけないと、ですね」
力仕事からさつま芋を切ったり成形したりとスイーツに触れる機会がそうない事もあり、悠里がトースターの中を興味津々で覗けば、梨鈴も覗く。
次々と料理は完成し、皆で並べればあっという間にさつま芋パーティーの準備完了!
「みんなはどんなの作ったのー?」
大好物のお芋が使われた料理をあるなは見渡せば、スイートポテトに大学芋、さつま芋チップスとスティックに芋ご飯。とっても豪華だ。
「料理できたかー? じゃあ、食べようぜ!」
紙皿を並べ終えた悠里はずらっと並ぶ料理を前に、にっと笑った。
全員で囲むテーブルに並ぶのは、沢山のさつま芋料理と弥由姫が用意したお茶。
もちろん都市伝説達の座席も用意した。
「大学芋にスイートポテトと大好きなの! 沢山食べましょうね」
「お芋の甘い香りがしてきましたね! 朔眞もお腹がペコペコです」
鵺白と朔眞は料理を見渡し、
「どのお料理もおいしそうです……」
さつま芋の甘い香りや美味しそうな匂いに、梨鈴の楽しい気持ちは増していく。
「悠里くん、お味……どうかな?」
ぱくりと口にする見れば、悠里は笑う。
「美味しいぜ」
「ありがとうなの」
梨鈴はにこりと笑い、朔眞もぱくり。
「スイートポテトは鉄板でお芋の中でも一番好きなんですよ♪」
「うん、おいしい!」
あるなも作ったスイートポテトを口にし、にこりと笑顔でお芋チップスへと手を伸ばす。
「美味しいわね、このチップス」
「大学芋も美味しいよ」
歌菜と謡はまだ温かなそれを食べ、ふと、肝心なもの思い出す。
「あ、焼き芋!」
「マコトさん、お願いできるかな」
焚き火の位置から一番近い場所に座っていたマコトはホイルに包まれた焼き芋を回収すると、テーブルへ。
ほくほく焼き芋には少々の塩にバターの香りがふわりと広がり、芋ご飯にはごま塩のアクセント。
「美味しいわね」
「ありがとう」
美味しそうに食べる鵺白に弥由姫は笑み、芋ご飯を口にし、
「紅葉ちゃんも美味しいお芋食べてるかしら?」
「芋ご飯はいかがですか?」
鵺白と弥由姫に進められ、紅葉はお芋料理を堪能する。
「どれも美味しい。外で食べるのもまた格別ね」
それぞれ皆が作った料理を交換し味わえば、どれも美味しい。歌菜は仲間達と味わう中、都市伝説達も料理を味わっていた。
「ボク達の料理の味は如何かな?」
「満足してもらえればいいんだけど」
謡と鵺白が問えば梨鈴と悠里もじっと見つめ。
――こんなに素晴らしい料理があるとは思わなかったよ。
返ってくるのは満足気な声。
「よかった。皆が満足してくれてボクも嬉しいよ」
小さなさつま芋たちもぴょこぴょこ跳ねている。どうやら喜びを表現しているその様子にあるなも一安心。
料理はあっという間になくなり、弥由姫が振舞うお茶で喉を潤し、しばしリラックス。
――さあ、皆、そろそろ時間だ。
空になった皿を前に、さつま芋達は立ち上がる。
――楽しい時間をありがとう。私達は、私達の務めを果たさねばならない。
「勤め?」
ジロジロと周りをキョロキョロしながら見つめる朔眞に大きなさつま芋は頷いた。
――私達さつま芋は食べられるべき存在なのだ。
そう言うと、大きなさつま芋を前にし小さなさつま芋達も『YES』と作った文字で立ち並ぶ。
――飽食の時代と言われるこのご時勢、食べてもらえる事こそが、最高の喜びなのだよ……。
優しい声がふわりと響き、そして消える頃には料理を味わっていたさつま芋達はごろりと転がる、だだのさつま芋になっていた。
仲間達の間にしんみりとした雰囲気が広がるが、それを破るのも仲間達。
「都市伝説の願いを叶えてあげないとね!」
「そうね」
鵺白と歌菜は言葉を交わし、仲間達は都市伝説達の願いを叶えるべく、再び炊事場へと向かっていった。
●
「やっぱりどれも美味しい」
おいもパーティーは二次会に突入し、新たなおいもで作った料理に歌菜は舌鼓を打っていた。
「こんなに大きなさつま芋スティックなんて、まず作れないよね」
「切るのを手伝ってくれて助かったよ、歌菜」
小さなさつま芋はともかく、人間サイズの巨大さつま芋は加工するのが大変だった。謡の礼に歌菜は笑み、スティックをもう一口。
「おさつスティックなんかもメジャーですし……いくらでもいけちゃいそうです」
リオを傍らに朔眞も大きなスティックをぱくりと口にし、お茶をこくり。
「でも、焼き芋の焼き立てが何だかんだ一番好きかも?」
飲み干し、朔眞は真ん中に並ぶ小さなさつま芋達を使った焼き芋に手を伸ばせば、鵺白も一つ手に取った。
半分に割るとふわりと甘い香りが広がり、顔を覗かせるのはほくほく黄金色。
「都市伝説のお芋達……少し可哀想だけれど、とても良い匂いがするわ……!」
先程まで共にお芋を味わっていたあのお芋達は今、鵺白の口の中に。
「美味しい!」
奈城に見守られ、さつま芋を食べていると、あるなと視線がかち合った。
「あるなさんもどうぞ」
「ありがとう!」
さつま芋をにこにこ笑顔で受け取り、ぱくり。
みんなで作ったさつま芋料理はどれも美味しく、大好物ばかり。
ただの芋になってしまった都市伝説達を食べようという話になった時は何だかとても悪い事をしている気がすると、内心戸惑った梨鈴だが――、
「さっきも美味しかったけど、これも美味しいぜ!」
悠里の感想にふわりと笑顔。
「ありがとうなの」
二人は料理を口にし、弥由姫からのお茶を口にする。
「煌さん、お茶のおかわりはいかがですか?」
「ありがとうございます」
朔眞へお茶を注ぎ、空になった仲間達のコップにもお茶を注ぎ、弥由姫は作った料理を口にした。
「食べてもらえて喜んでるといいのですが」
「大丈夫だよ」
弥由姫の声に歌菜は言う。
「都市伝説達も言っていたじゃない。『食べてもらえる事こそが、最高の喜びだ』って」
「そうだね」
謡も頷きお茶を飲み、お芋料理はあっという間になくなってしまった。
「ごちそうさま。美味しかったよ」
手を合わせ、手向け代わりにあるなが言えば、
「美味しかったな」
「おいしかったね」
七瀬と梨鈴も言葉を交わす中、紙コップのぬくもりを手に鵺白と梨鈴が見上げれば、どこからかふわりと漂う、金木犀の香り。
夏は既に遠く、あの暑さも、もはやない。
お茶のぬくもりと共に、灼滅者達はしばし秋のひとときを楽しむのだった。
作者:カンナミユ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年10月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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