ひどいわ

    作者:聖山葵

    「酷いわ……わたくし、非道岩・りんごは、スカートや着物にスリット入れて生脚を堪能したいだけでしたのに……」
     泣き真似か、本当に泣いているのか、夜の路地で目元に手を添え遠ざかる人影を見つめる少女の姿を色射・緋頼(生者を護る者・d01617)は見ていた。
    「やはり、魔王は何人も存在したのですね」
     ポツリと洩らしつつもじっと視界内に映る少女を観察し続けるのをやめないを含む光景を誰かが見ていたとしたら、こう言ったかも知れない。
    「ツッコミ役不在の光景って怖いね」
     と。
    「見たところ、タタリガミの様ですが……」
     以前のことを思い出し、説得が可能かどうかを見極めようとでも考えたのだろう、尚も観察を続ける緋頼に気づかず、手帳を片手に持ったタタリガミの少女は語った。
    「けれど、こうやって人を襲い続けていれば、いつか素敵な殿方が、わたくしの着物にスリットを入れて生脚を堪能堪能した上で、諭して下さる筈……」
     とか何とか鬱屈した自身の願望っぽいものを、影から伸ばした触手の一本を自分の髪房でも弄るかのように弄びながら。
    「……このままにはして置けません。とはいえ、私一人で何とかなるとも思えません。ひとまず、戻って応援を募ることにしましょうか……」
     アレな言動をスルーしつつ冷静沈着に状況を見た緋頼はそう結論づけるとその場を後にしたのだった。

    「……そう言う理由で皆さんをお呼びしたのです」
     呼び出され、事情を説明された灼滅者達の中に、一人、とりあえずツッコんでもいいと、尋ねる人物が居た、鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046) だ。
    「何、それ? 動機っぽいのもツッコミどころだらけだけど、回りくど過ぎだよね?」
     まぁ、和馬の言い分も判る。判るが。
    「諭して欲しいと言うことでしたし、それはむしろ思うつぼかも知れませんよ?」
    「え゛っ」
     指摘されて和馬は絶句した。
    「まあ、ああいう性格になってしまっているのは、タタリガミもしくは本来のあの方の性格と取り込んだ都市伝説の性格や趣向が混ざってしまった結果なのかも知れませんし」
    「あー、じゃあ闇堕ちしかけって可能性もあるのか」
     もちろんそんな和馬の呟きを完全に肯定したり否定出来る人物はここには居ない。エクスブレインが不在なのだ。
    「どちらにせよ、魔王を放置は出来ませんし……」
     闇堕ちした一般人であったとしても救うには戦ってKOする必要がある。よって戦闘は不可欠。
    「確かに、そうだよね……うん。聞いた話だと影業っぽいサイキックは使ってきそうな感じだし、加えて七不思議使いのサイキックくらいかな?」
    「ええ」
     納得はしたのか、確認する和馬に緋頼は首肯つきで答える。
    「まだ先程目撃した場所の付近をうろついている可能性も高いと思いますので、接触についても特に考えることはないかと」
     人よけとか明かりの準備があれば、尚良いかも知れないが。
    「ただ、標的になりそうな人がいないと逃亡を図られる可能性もありますので」
    「ちょ」
     スカートを差し出された和馬は顔を引きつらせたが、囮は多い方がよいのだ不正はない。
    「ならさ、オイラが諭す殿方ポジションじゃダメなの?」
    「それで、諭して好意を持たれた時、責任はとれるのですか?」
    「うぐっ」
     尚も言いつのろうとするも和馬はあっさり撃沈され、スカート着用の定めを負った。
    「魔王を放置することは出来ません。皆さん、お力添えをお願いします」
     痛いところをつかれた、未だ返す言葉もない和馬を傍らに緋頼は君達へ頭を下げて見せた。


    参加者
    辻堂・璃耶(六翼の使者・d01096)
    緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)
    黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)
    パニーニャ・バルテッサ(せめて心に花の輪を・d11070)
    赤城・扶桑(扶桑樹に見る胡蝶の夢は・d23635)
    白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160)
    白岩・りんご(白衣に包まれし紅玉・d37173)

    ■リプレイ

    ●未来と今と
    「増えるりんごさん、いったい何がおきているの?」
     そんな白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160)の疑問に答える術を持つ者はここには居なかった。皆を案内した上で、魔王はこれで最後ではないような気がしますからと帰ってしまったのだ。
    「あれ? じゃあ、更にりんごさんが増えるってこと?」
     可能性としてはあり得るが、それは探す者が居ての話だ。だが、今考えるべきは居るかも知れないではなく、既に見つけてしまった方の「りんごさん」であり。
    (「スリットから生脚。確かにかなり魅力的ですが、りんごの系譜は何故こうも一点突破型なのか……」)
     表向きにこやかなお嬢様風の態度を崩さぬまま、緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)は嘆息するとその人の背後にゆっくりと忍び寄る。
    「さて、男の娘も危ない可能性がありますし、いちごさんは私の腕の中で守りますわね?」
    「わぁ?!」
     宣言し、後ろからハグするまでがワンセット、護衛の位置取り完了だ。ただし、それが黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)であれば。
    「だ、誰かとお間違えじゃないですか? 私はビリジアン岩・いちごですよ?」
    「えっ」
     そう、まさかの人違い。
    「確かに、自分に置き換えてみると良く判りますが……妹と同じ顔が何人もいるのも、複雑ですね」
     謎の一般人が抱きつかれるところまで想像したいちごは頭の中から謎のそっくりさんを追い出すと、後ろから抱きついている桐香にどうやって離れて貰おうか考え始めた。
    「あー、いちご兄ちゃんも大変だよねぇ」
     そんないちごに生温かい視線を送る鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)は和馬で白岩・りんご(白衣に包まれし紅玉・d37173)に何時の間にやら捕獲されていたりするのだが。
    「先日わたくしが現れたばかりだというのに、またわたくしですか」
    「や、二度あることは三度あるって言うし……えーと、そろそろ放して貰ってもいい?」
     まぁ、つまるところ先程の視線は現実逃避であった。
    「男の娘s……ふぁいとっ♪」
    「「や、ファイトじゃなくて助けて欲しいんですけど?」」
     ちょっとだけ複雑な内心を隠し、からかうパニーニャ・バルテッサ(せめて心に花の輪を・d11070)へ二人分の声が綺麗にハモったが、救いの手は現れず。
    「でもまぁ、また守備範囲は重ならない気はしますねぇ。仲良くはできるかも? です?」
    「あのー、もしもーし?」
     すわ難聴系ヒロインかと言わんがばかりのスルーっぷりを見せつつも誰かが相変わらず捕まったままの中。
    (「黒い方の魔王には色々……まぁ、触られてたわけだケド……。同類さんみたいだし、堕ちさせない、被害を出さない為にも……何とかしないと、いけない、わよねぇ……?」)
     考えることが戦う相手のことになってしまうのは、仕方ないことで。パニーニャは、思案顔のままちらちら後方を伺う。
    「三人目のわたくしですか。スリットが好きなのか生足が好きなのか男性に説教されたいのか、なかなか屈折しているわたくしですねぇ……」
    「う、うーん……いわゆる「誘い受け」というものでしょうか……。諭して欲しいのやら、お脚を見て欲しいのやら……」
     黒い方がそこにいたのだ、辻堂・璃耶(六翼の使者・d01096)や他の応援の灼滅者と共に。

    ●魔王邂逅?
    「酷いわ誰も通りかからなくなるなんて……」
     そして、件の人物は割とあっさり見つかった。
    「……三人目のりんごさん……ええと、脚フェチ……なのかな?」
     じっと見つめるフィヒティミト・メーベルナッハ(媚熱煽姫・d16950)が推測を口にする間もスリットがどーのとか生足がどうのと言ってるので、おそらくは脚フェチなのだろう。ただ、取り込んだ都市伝説の趣向の方だったと言うことも考えられはするのだが。
    「えっとえっと、こちらが私のお友達で女の子好きのりんごさん、こちらが男の子が好きなりんごさん、それでこちらが……スリット? がお好きなりんごさんで……えーっと????」
    「世の中には3人同じ顔の人がいるとは言いますがねぇ……」
     応援の灼滅者の一人が順にりんご達の顔を見る中、見られた白いのは膝に生け贄を乗っけたまま考え込み。
    「あ、以前見かけたというビリジアン岩さんもそうなら、4人以上?」
    「ていうか、ビリジアン岩!? 今回の非道岩サンに……そっちの白岩さんと、魔王本に……なんでもないワ」
    「あうう……何だかもう混乱してきちゃいましたの……」
    「ああ、そんなに混乱しないで」
     思わず肩を跳ねさせて振り返ったパニーニャが悪寒でも覚えたのか、身震いしつつ視線を外す一方で、額を押さえて傾ぐ応援の灼滅者が現れれば、黒い方が抱きしめて頭を撫で。
    「そっくりなお顔でおんなじ名前の方が三人も……なんだかこんがらがってしまいますね」
    「と言うか、ドッペルゲンガーもびっくりね、これ」
    「ですね。目の前で堕ちかけているのもりんごさん、和馬さんを抱っこしてるのもりんごさん、そしてうちの妹のりんご、本当にややこしい……」
     とフォローをいれる赤城・扶桑(扶桑樹に見る胡蝶の夢は・d23635)や感想を口にするパニーニャに苦笑付きの頷きで応じつつ、いちごはとにかく戦って助けましょうと仲間達を促す。
    「そうですね、いずれにしても、無関係の人々に害が及ぶような事態は避けませんと……」
     件のタタリガミとの接触は、同意した璃耶が視線を戻した後のこと。
    「あら? 生脚が、生脚がたくさん……」
     獲物に逃げられることを嘆いていたそれが複数の女性を見て喜色を浮かべたのは言うまでもなく。
    「……あ、あたしの脚は見せないんだからね!?」
    「私は嫌だから……、ぜ、絶対嫌だから!」
     獲物と見られたことを本能的に察したのか、後ずさるフィヒティミトと早苗。
    「わたくしのスカートが破かれて生足露出するところ見たいですか?」
     一方で、和馬を膝の上に載せぎゅっと抱きしめたたまま、楽しそうに聞くのは、白い方のりんご。
    「え゛っ? えーと……張り合いそうな人に心当たりがあるのでご遠慮しておきます?」
    「見たいのなら仕方ありませんわねー♪」
     膝の上の生け贄さんが硬直した後、そう漏らしたが、白いのは聞いちゃ居なかった。
    「ちょっ、オイラの回答スルー?!」
     約一名愕然とするが、これに喜んだのは敵方の方のりんご。
    「リクエストされてしまったならなら仕方ありませんわねー♪」
     うきうきしつつ影の中から伸ばした触手の先端に鋭い刃を生やす時の声音は、白いのそのままだった。
    「……た、助かったの?」
     ともあれ、酷い人の興味が他者に移ったのはフィヒティミトと早苗からすれば好ましいものの筈であり。
    「あら、落胆されなくても大丈夫ですわ。スリットは老若男女区別差別なく平等に入れますから」
    「「やっぱりぃぃぃぃ」」
     希望を打ち砕く絶望の笑顔に何人かが悲鳴をあげる。
    「では始めましょうかねぇ」
     影の中から触手を這い出させた非道岩・りんごも戦いに望む気配を見せ。
    「ErzahlenSieSchrei?」
     桐香がスレイヤーカードの封印を解き、にこやかなお嬢様風の雰囲気を取り払うと妖しく笑んだ。それは、戦いの始まり。
    「とりあえず、真面目に魔王化する前に……取り押さえるっ!」
     青布『ヒュプノメルーズ』が射出され、迎え撃つように件の少女の影からも触手が伸びた。
    「うっ」
     余程破かれたくなかったのだろう。触手は帯を絡め取れず、先端が少女の肩をかすめ。
    「さぁ、逝かせてあげる」
     スリットから惜しげもなく生脚を晒し、桐香が蹴りかかる。
    「ぶっ」
     クリーンヒットしたのは、趣向上避けることが可能でも避けられなかったからだろう。
    「本望でしょ?」
     と続ければ、答えはすぐに返ってきた。
    「当然ですわ」
    「うわぁ」
     良い笑顔で言ってのける姿に引いたのは、誰だったか。
    「生脚をさらけ出すのも、逆に堪能するのもとても素敵なことですもの。わたくしもいつか素敵な殿方と家庭を持って、『お母さんの作ってくれたスリット大好き~』と言う我が子に『笑顔で生脚は素晴らしいもの』と教えて行ける日々を……」
    「こ、子供にも?! 生足堪能するなら……風紀の乱れない範囲であ、愛を育んでからとか、じゃないととか思ってたけど、愛を育んだ後でも、これは……ちょっと」
    「あ、本命は男の人の方なんだ……」
     垂れ流される妄言にパニーニャが顔をひきつらせる一方でポツリと漏らした早苗は少しだけホッとした表情をするが。
    「あら、同性同士のスキンシップも嫌いではありませんわよ?」
    「ちょっ」
     絶望はすぐ後にやってきた。
    「一線は越えず、生脚を堪能させて頂くだけですから、問題はありませんわよね?」
    「大あり! だめだから! 切れ込みだめぇッ……!」
     毛を逆立て威嚇する子猫の用に警戒感マシマシで叫ぶが、それで触手が止まれば苦労はしない。
    「罪の無い人を襲うことでは、どんな殿方も振り向かないどころか、かえって恐れてしまうものです」
    「それはやってみなければ判りませんわ」
     ウロボロスブレイドに斬られながら口にした璃耶の言葉にも止まらなかったのは、殿方か生脚か余程どちらかへの執着が強かったのか。触手は尚も獲物を求めて進み。
    「ダメですよ、りんごさん! そんな乱暴をしては」
    「え」
     止めたのは、仲間に気をとられている内に肉迫していたいちごの言葉とその行動であった。

    ●れいのやつ
    「え、えーっと……生足、が……お好きなの、を……否定する気は……ありません、けど。無理に……スリット、を……入れる、のは。……服にも、その人、にも……失礼だと……思います、よ?」
    「ふ……く?」
     動きを止めたのは好都合と説得に扶桑が加わる中、一人呆然と佇む者が居る。
    「いちごが……初対面のりんごを口説いている……?!」
     桐香にとっては衝撃だったのだろう。
    「そんな、私、口説かれたこと無い!! どうして私は口説いてくれないの?!」
    「あれは口説いているという訳ではないと思いますが……」
    「後で……話さなきゃ!! ゆっくり話を!!」
     騎士風の戦闘衣装に身を包んだ璃耶が否定しても、まるで聞いている様子はない。
    「こんなことをしたって、怖がられるだけです。スキンシップしたいのなら、うちの妹みたく、まずは仲良くなってから……」
    「ああ、こんなにも早く諭してくださる殿方が現れるなんて、感激ですわ」
     と言うか、いちごと件の少女の会話すら耳に入っていないのではなかろうか。いや、まぁ、説得されてる少女の方も割と話を聞いていない風味に感じるが。
    「話はわかりましたわ。では、悪いわたくしに罪を認識させる為、このスカートにスリットを!」
    「いや、あのですね? ちょっ、アリカさん違うんです。これは――」
    「わたくしにしてくれてもいいのですよ?」
    「ちょ、白岩さ」
     ビハインドのアリカに白い目で見られていると思ったのか、狼狽する所へ投げ込まれる更なる火種。
    「どうぞ、ご遠慮なさらず。それとも、まだ悪行が足りませんかねぇ? でしたら……」
     手を出されないことを明らかに誤解した件の少女は女性陣へ目をやり。
    「ほらほら、わたくしの生足を堪能したければ、こちらにおいでなさい♪」
     ここぞとばかりに挑発しながら、白い方が影の先端を刃と変えつつ嗾ける。
    「白岩さ、あ、うわっ」
     明らかに呷るような言葉に声を上げた誰かが触手に足を取られた。
    「きゃあ」
     布の裂ける音と同時の悲鳴に、破れ目から覗く白い脚。
    「ご、ごめんなさい……」
     そんな生脚にしがみついていた事に気付き、慌てて離れた一連の有様は甲斐性と書いていつものと読ませるそれだった。
    「あら、やはりこれで良いのですわね」
    「い、いちご……」
    「ち、違う」
     そして、誤解は加速する。
    「……いちごさん」
    「違う、違いますか、危ないっ」
     件の少女だけでもなく、自分からも距離をとる扶桑の誤解を解こうとしたいちごは横合いから伸びた触手に気付き、咄嗟に地を蹴って飛ぶ
    「きゃ……あ?」
     もちろん扶桑を庇おうとしたのだが、押し倒される形になった扶桑は次の瞬間知覚する、自分の片胸を鷲掴みにした手とスカートの中、脚に触れる自分以外の誰かの手の感触を。
    「っ」
     声にならぬ悲鳴と共に鋭い裁きの光条が放たれ。
    「わぶっ、痛っ」
     謝るよりも先にジャッジメントレイを受けたいちごは、そのままビハインドにポカポカ殴られ。
    「あ、アリカさ……うわぁ?!」
    「きゃあっ」
     アリカのお仕置きから逃げようとして今度はパニーニャを押し倒した。
    「ってイチゴ君!? ど、どこ触って……ひぁっ!?」
    「す、すみません」
     繰り広げられる、いつもの。
    「殿方を振り向かせるならば、もっと自分に自信をお持ちくださいませ」
     一方で、自由になった件の少女との戦いも続いていた。璃耶は風の刃を生み出しながら他者を襲わなくても良いと説得し。
    「スリットがいいなら自分で入れればいいのに、何で入れられるコト期待しちゃうのさ……! って言うか最初っからスリット入ってる服着ればいいじゃない!?」
    「くっ、わたくしの事を思ってくださる方に入れて貰うことにこそ意味があるからですわ」
     釈然としない気持ちと共にぶつけられたフィヒティミトの斬撃を受けながらも妖しく微笑んだ少女は触手を一閃させる。
    「えっ? あ」
     ワンテンポ遅れて出来たてのスリットから覗くのは、ほどよく日に焼けた、引き締まりつつもむっちり肉のついた脚、そしてお尻の一部。
    「あら? ノーパンでしたの?」
    「や、こ、これはついうっかり……! わざとじゃないんだってばー!」
     トンでもないところで明らかになった事実に興味を示した人物が居た。
    「あら」
    「って、りんごさんそんなガン見しないでー!?」
     慌てて出来たスリット部分を押さえるフィヒティミトであったが、黒いのは容赦ない。
    「大変ですねぇ、薫子さん清めの風を」
    「はいですの」
     同じ応援の灼滅者に指示を出しつつ、その指示が回復目的以外の何かにありそうなのは明らかであり。
    「何でだろ、一部はちゃんとまともに戦闘してる筈なのに」
    「や、一部って時点で色々おか」
    「あら? ちょっと無防備すぎじゃないですかねぇ?」
     ツッコミを入れようとした誰かのすぐ後ろまで忍び寄っていたのは、りんご。
    「ちょ」
     そして、犠牲者は増えた。
    「っ、敵だけじゃなくて、味方にも気をつけなきゃいけないなんて……」
     戦きつつもここまでぴょんぴょんと逃げ回り、スリットを回避してきた早苗は思う。辛い時は相手も辛い、もう一息の筈だからと。
    (「だから、まさかスパッツにまでスリットを入れられるはず何てないよね? そしてさらに、そのスパッツに手をかけられるなんて、絶対にあるはずが――」)
     割と満身創痍になった件の少女を捉え、見事なまでにフラグを立てると、漆黒の弾丸を形成し、撃ち出す。
    「やった!」
     それは見事に相手へと突き刺さり。
    「お見事ですわ。ですけれど――」
     それでも余裕のある笑みを浮かべた、非道岩・りんごは言う。傾ぎながらも手応えはありましたわ、と。
    「え?」
     だから、りんごが人の姿に戻りつつポテっと倒れた瞬間、スリットが入りすぎて前後二枚に別れたスパッツがぱさりと早苗の足下に落ちたのはもはや必然だった。

    ●で、結局
    「……スリット、は。あんまり……見ないで……ください」
     釘を刺しつつも扶桑は助けた少女の側にしゃがみ込んでいた。怪我などないか気になったのだろう。
    「怪我してても気にせず生脚見てそうだって思うのは気のせいかな」
     とは言わず、早苗はスパッツの残骸を抱えて立ちつくしていた。
    「やられて嫌なことはやるなとは聞くけど、やられてほしいことをやるってのも、問題だね……」
     やるせなさをどことなく滲ませちらりと横を見れば、スカート押さえてもじもじするフィヒティミトがそこには居て。
    「って、りんごさんそんなガン見しないでったらー!」
     自分へ向けられた他の視線に気づき、叫ぶ様は闇堕ちしかけていた少女の他にも脅威が存在していたことを雄弁に語る。
    「これからまた、そっくりさんが現れてくるのかな……」
    「魔王様の系譜はいったい何人増えますの?」
     何とも言えない表情でポツリと漏らせば、似たことを考えていたのだろう。お話の為胸で片腕を挟み込む形で件の少女を勧誘しようとしたいちごを捕まえたままの桐香もりんご達を傍観しつつ呟き。
    (「きっと……今まで以上のカオスが訪れる事になるのでしょうね」)
     何とかなったことを安堵しつつも今後に思いを馳せた璃耶は軽く肩を竦めた。むろん、意識を取り戻した少女に手を差し伸べたことを後悔している訳ではないのだろうが。
    「「やっぱり色々複雑ですわねぇ」」
    「えーと……」
     顔を見合わせた三人りんごの内、一人の膝の上にまだ誰かが捕まっているのを見る限り、更に何かあってもおかしくはなかった。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年10月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ