炎獄の楔~焔星守心

    作者:那珂川未来

    ●大火守る獣
    「皆無事でなによりだよ。いつも力になることができなくて歯痒いけれど、こうしてまた顔を合わせる事ができて本当に良かったと思ってる。垓王牙大戦は敗北というかたちになってしまったけれど……。でも本当、皆が必死に挑んだからこそ、ガイオウガは完成することはなかったんだから」
     無事に安堵を浮かべる仙景・沙汰(大学生エクスブレイン・dn0101)は、その奮闘があったからこそ、次に繋がる未来への道もあるんだと言って。
    「負った傷を癒すことに専念している状況であるガイオウガは、今回の戦いで成し遂げられなかったことを成功させるため、地中深く潜っている。そして日本各地の地脈からガイオウガの力を集めようとしているんだ。地脈の守護者ともガイオウガの分身とも言うべきイフリートをね。もし、日本中のガイオウガの力が、復活したガイオウガの元に統合してしまえば、ガイオウガは最盛期の力を取り戻してしまう……」
     それでは、今回の頑張り、健闘を、無にしてしまうから。
    「この事態を防ぐために、皆には、日本各地の地脈を守る、ガイオウガの力の化身……強力なイフリートの灼滅をお願いしたい」
     そういって、沙汰は地脈の要の一つである場所の地図を差し出した。
    「皆に倒してもらいたいのは、焔星(イェンシー)」
     焔星は、紅の毛並みを持った、獅子のようなイフリート。噴き上がる炎が一部高質化していて、翼や刺のように広がっている。
    「焔星の周囲には、多数のイフリートが守備を固めているようだけど、このイフリート達は、垓王牙大戦で救出に成功した『協調するガイオウガの意志』の力で、戦闘の意志を無くして、無力化する事が可能になっているよ。これも、皆が協調のイフリート達の意志が宿った尾を切り離したからこそできる作戦でもある。でも、この意志の力も、強力なイフリートには影響を及ぼせないみたいで……」
     つまり、焔星については、灼滅者の手で撃破する必要があるらしい。
     また、守りを固めているイフリート達の戦闘の意志を抑えるためには、戦意を刺激しないように、少数精鋭で戦いを挑む必要がある為、かなり危険な任務となる。
     戦闘が行われる場所は、地下の地脈周辺で、その場所への誘導や、竜脈への移動については、協調の意志を持つイフリート三体が行ってくれる。ピューマのような姿を持つ彼らとは会話をすることはできないが、こちらにとても友好的で、取り巻きのイフリートの無力化をすべく力を尽くしてくれるので、その間灼滅者は全力で、焔星と戦えばいい。
    「焔星の能力だけど、基本的に炎をガンガンぶつけてきてこちらを燃やし、体中から炎を噴出しながら己の力を高めてゆく、面倒な能力持ちで、苦戦すると思う」
     地下空洞の中での戦いとなるが、地脈の気が集まっているところなのか光の心配はなく、フィールド自体の変化などの心配はない。
    「場合によっては、闇堕ちをしなければ届かないかもしれない。もちろん、油断したなら闇堕ちを出したのに敗退するなんて可能性もあるんだ。今回の敵は、無傷での勝利は難しい強敵なのは間違いない……」
     相手はそれくらい強いのだと。集まった人達と戦略を色々練りながら、心してかからなければならないと。沙汰は一人一人を見ながら、覚悟はあるかい? と問う様に。
    「覚悟がある人に行ってもらいたい。誰かが闇堕ちする可能性、もしかしたら君が、誰かが、そうなるかもしれない、その覚悟がある人に。でも……」
     できれば、皆、無事に勝利して帰ってきてほしいという我儘、それを口にすべきが悩むかのように、一度言葉を止め。
    「この敵に打ち勝たなければ、復活したガイオウガを止める事は不可能となるだろうから……」
     ただ、どうかよろしく、と。


    参加者
    森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)
    夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)
    桜田・紋次郎(懶・d04712)
    嶌森・イコ(セイリオスの眸・d05432)
    諫早・伊織(灯包む狐影・d13509)
    月居・巴(ムーンチャイルド・d17082)
    日向・焔(未来へ輝く・d25913)
    フリル・インレアン(小学生人狼・d32564)

    ■リプレイ

    ●凶星の獣
     赤色を映す地下空洞の中央、悠然と構えている獅子の姿を陽炎の向こうに見とめ。
    「あれがガイオウガの化身というやつか」
     しなやかに岩肌を跳ねる協力者の後を追いながら、森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)は呟いた。高質化した炎とたなびく炎。凶暴な性質は、地球内部を流れる溶岩の血脈、そのものを表わすかのよう。
     大地の力そのもの、とアカハガネは言った。つまり、今から対峙するのは荒ぶる自然そのものなのか――。
    「なんであれ、やるからには勝たねばな」
    「借りもありますし、な」
     諫早・伊織(灯包む狐影・d13509)は頷きながら、胸に揺れる炎刃の誓いの輝く蒼を握って別の地脈に向かった恋人の武運を祈り、守る役目を強く心にして駆けてゆく。
     けれどその姿はどこかしら気負い過ぎて前衛に出過ぎてしまいそうに、嶌森・イコ(セイリオスの眸・d05432)は見えたから。
    「皆さまを精いっぱいお護りします。諫早先輩、頼りにさせていただきます、ね」
     陣形確認しつつふわりと皆へ笑顔を送るイコ。
     諫早はらしくない決意に固く張っていた事に気付き、いつものようなゆるりと余裕ある風を纏い。
    「おおきに。癒し手としての役割を全うさせていただきますえ」
     事前確認に気をまわしてくれた仲間に有難味感じ。三笠月輝く手を握りしめ、恥じぬ戦いをせぬよう改めて。
     猛獣の如き声を上げながら、控えていた取り巻きたちが襲いかかってくるものの、協調の意志という輝きを以て、無力化にかかるイフリート達。
    「えと、イフリートさん。おねがいします……!」
    「頼んだぜ」
     綺麗に開いた化身までの道。フリル・インレアン(小学生人狼・d32564)は、突撃の余波に飛びそうになった帽子を押さえながら協調派イフリート達にエールを送り、日向・焔(未来へ輝く・d25913)はその心に報いるべく脇目もふらずに地を蹴って。
     ――準備は、いいか。
     そう無言の視線を送ったあとの桜田・紋次郎(懶・d04712)の目は巌のように鋭く。両腕から噴き上がる鮮血のたなびきは、鬣の様に。ディフェンダーで男である自分が、危険な背後への回り込みを買って出るようにルートを定めた様に見えたから、夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)は、流す視線でイコと刹那の方向性を定め、より手薄な位置を埋めるようにして。
    「その星。一等星より輝くチコの星が落してやるよ」
    「ガイオウガの復活は、何としてでも阻止してやる!」
     ずさりと正面陣どって。治胡が不退転の心意気を見せつけたなら。焔はバベルブレイカーを構えるなり、必ず倒してやると気魄露わに突進して。
    『我、焔星ニ挑ム。命知ラズドモメ!』
     嘲笑とも怒りともとれる、衝撃伴う怒声が弾丸の様に空を劈いて。
     血炎を左手に。右足は流星の煌めきが如き光の弧、連れて。荒々しく炎翼広げ向かってゆく治胡とは対照的に、木の葉が翻る様に、音もなく側面へと跳躍していた月居・巴(ムーンチャイルド・d17082)は。
    「ふふ、燃えるね、燃える。わくわくするよ」
     紅の猛獣を前にして、翻す漆黒のスーツの裾、まるでマタドールの様に。
     麗しさとは反する荒々しい風を腕に纏わせ鬼を呼び、真っ白な仮面は、赫灼を映しながら燦然と笑う。
    「さぁ始めよう、闘争の宴を」
     鋭い爪が、赤き空洞に鬨の声を爪弾いた。

    ●火炎の中で
     焔の杭の先端が、焔星の膝に届いて。
    「――スナイパーなら術式はほぼ。神秘でなんとか、という感じか」
    「そのようだね」
     三者の攻撃を見ながら、煉夜は冷静に分析しつつ地を蹴って。手応えなく空を切った鬼の腕に、巴は肩をすくめながら。
     攻撃を当ててゆく為にも、漆黒を刀身に纏わせながら、煉夜は灼熱の大気へと踊り出、したたかに切裂く紅の前肢。
     一拍置いて、バベルブレイカーを振り上げながら、回避点を狙った焔の黒死斬が降り落ちる。
     次なる攻撃者に足止めを効果的に発動させるため、敢えて感情の連携を切ったのか。スナイパー二人の刃が単騎で舞う赤の中。
    「支援たのんます」
     対峙してしまえば、己がバベルの鎖で直前予測できる――故に相手がどれほど強いか嫌でもわかってしまう。伊織は指先にくるりと踊った光狐を癒しの障壁として送り、不足を認めてすぐに要請。
     寡黙ながらも、頷きは力強く。初撃は次に回し、極力要請を取り入れようと動く紋次郎が、色を変える炎のオーラを合わせてゆく。
     なによりジャマー能力で付与した壊アップで跳ね上がる可能性のある焔星の能力を、捨ておけるわけもなくて。回復支援とはいえ、全メンバーの中で唯一ブレイク技を持っているイコが動かなければいけないことは、誰もが気付いて。
    「えと、とにかくです。何とか動きを封じないといけません」
    「はいっ、イフリートさんに先にリズムを整えさせないようにしないと、ですね」
     フリルが響かせる和音に共鳴し合う様に、イコの指先が深緑を編んだような矢を解き放つ。
     響きに紛れる一矢がかなりぎりぎりで焔星の翼を削り、なんとか二つブレイクしたものの。安堵等感じる間もなく、イコの真横を抜けた、紅の斬撃は――。
     咄嗟、フリルの攻撃を庇い受けたのは紋次郎だ。自身の血に混じって侵食する炎に巻かれている。
     伊織から届いた障壁と自身の力で炎を鎮火させつつ、紋次郎は視線を皆に流し。
    「狙われてるぞ……インレアン」
     立ち位置や陣形をすぐさま悟った焔星が、自身のサイキックと照らし合わせた結果、即座に倒す相手であると判断したのだろう。珍しく紋次郎は注意の声に響きを伴わせた。
     煉夜の二度目の黒死斬は、背後から忍び寄る凶魚のように鋭く奔る。
     高質化した炎が、がきりと音を立てて吹き飛んで。その零れゆくひとひらを渡るが如く跳躍する巴の、振り上げるロッドに灯る、月影のような輝き、大気を振るわせ――その共鳴の如く大地に映った鋭月の輝きは、治胡の爪先が描くものだ。
    『ヤル、思ッタヨリ……』
     自慢の炎の輝石に傷を受ける等微塵も思っていなかったのか。焔星がそんな言葉を零しながら玄火を纏って戒めの半分を飛ばし。
    「焔星、俺達が必ず倒してみせるぞ」
     焔が日輪の様な輝くリングを展開するなり、滑らせるように解き放ったなら。したたかに切裂く紅の胸元。次いで、紋次郎が鋭く己が炎をはためかせて。
    『思イアガルナ!』
    「させま、せんっ!」
     イコがいきり立つ獣の咆哮せき止めて。
     肉片が吹き飛ぶ衝撃。受けて初めてわかる。ディフェンダー以外の仲間たちの受けるダメージの恐ろしさを。
     だが、次なる鋭い斬撃の挙動、ついてゆくこと誰も叶わず。
     紅纏う強靭な爪が、とうとうフリルの胸元に血飛沫を生む。
    「しっかりせぇな!」
     僅かに目を見開く紋次郎、癒しを送りたいと思っても手持ちでは届かず歯噛みして。伊織は治胡と共にすぐさま縛霊手の祭壇開いて、守護の獣を送りだす。
     フリルは、すいません皆さんと、零しそうになったのをぐっと堪えた。
     皆全うしているのだ、己が役割を。なら自分も全うすることが報いる事。
    「ここまで一緒に来てくれた協調の意志を持つイフリートさん達や、学園で待っている皆さんの為にも」
     虚しくも、今右手に纏わせた大地の畏れは焔星に届かずとも。
    「そして、共に戦う皆さんと生きて帰るためにも――」
     次なる一手に危い身、そこに怖れなど無いから。
     その意識を後押しする様に、紋次郎が獣のように低い姿勢で鋭く切り込んでゆく。
     先端へ向け鮮血から赤、そして青色へと変色する燃え盛る火炎を力にして。
     空を切り裂く拳が、焔星の左翼を捉えたなら。演算能力を駆使し、間合い取り直す焔星の動きを読んだフリルは幻炎纏う弾丸を打ち出して。
    『手ナド緩――!?』
     突撃した焔星だが突如走る重い痺れに、その自慢の爪振ること叶わずに。
    「パラライズが効いたのか」
     察した焔が、すぐさまレーヴァテインを纏わせて。伊織が僅かに残る衝撃ダメージを消し去るべく、金狐の加護を前衛陣へと。
    『舐メルナ!』
     焔の火炎をするりとかわし、煉夜の攻撃は相殺して。けれどイコに壊アップを二つまで減らされ、巴に追撃まで喰らっては。一方的にやられた手番に激怒したかのように、迷いなくフリルへと強襲し。
    「すまん……」
     破裂する赤。それを、誰もが見たのは彼が前に居たから。
     ゆっくりと、吐血した紋次郎が背中から岩盤へと落ちてゆく――。

    ●光芒、梢に輝き
     すでにフリルは崩れ、焔はレーヴァテインを放った隙を突かれた際に焔星の咆哮に穿たれ伏せている。
     バニシングフレアの勢いに、音を立てながら前衛陣のエンチャントの六割が食いつぶされてゆく。
     そしてあの双眼が次に狙いを定めたのが、回復の要であるという事を誰もが察した。
     もう、一撃が確実に重いままとなっている。
     明確なブレイク技を所持しているのがイコしかいないという事が、全体の負担となって表れていた。
     見切りを考えれば、どうしても流星撃ちの連続使用は難しく、付与数3と判定1ではつり合いも厳しく。
    「どうやら火焰咆哮の高まりを崩す力が少な過ぎたようだね……」
     同じくその予感を感じた巴の仮面の裏にあるその表情は、苦きものだったろう。
     どうしても高命中でダメージを与えるという観点からいくと、術神が主軸になってしまった。サブ的な役割はしても、EN破壊の恩恵を駆使した、というほどにもならなくて。
     こちらの大半が、神秘防具で固められたとなれば。焔星が主に気魄と術式を選びとりながら崩してゆく選択を選んだのは自然な流れ。対処しなければならないのは、炎だけではなく壊アップもで。しかし防御面から考えれば、どれを選ぼうとギリギリの選択だったろう。
     だがしかし、この絶望的で情熱的な舞台でいかに獣と踊るのか。巴はどこまでも優雅に、それでいて鮮烈に。月虹のように冷たく美しく輝く刃に、宵色のせて炎ヘ迫る。
    『我ハ負ケヌ!』
     強烈な意志にてクリティカルを引き出した巴。破壊音に混じる吠え声響く。
     砕け散った炎輝石を撒き散らしながら、熔岩流を送り出す焔星に半分以上の消耗が見受けられるが、厳しいことには変わりない。
    「っぅ……!」
     じゅっと伊織の肌を焦がし、舐めるように広がる炎。次はきっと列攻撃ですら立っていられないと予感するほど。回復は治胡と二人だけでは追いつかなくて。
     イコの脳裏に過る――きっとここでわたしが倒れてしまっては、負けてしまう、と。高まる力を、たった一人のEN破壊でどうにかなろうか。そして伊織がメディックから離れれば、回復が追いつかなくなるのは必至。
     倒れるわけにはいかない。
     学園の仲間も……延いて被害の及ぶ一般人も、ひとつの生命も零したくないから。
     命ある限り巡り紡ぐそれは、見えずとも存在する音や熱の様に在るものだと――。
     空のない場所に、天狼輝く。
     飛んできた衝撃波をせき止める、世界を包む深緑の様な髪は、あっという間に黎明の色を纏って。
    「みな、さ……、かなら……か、ち――」
     言語を放つのも精いっぱいだったろう。ただ、生まれた白銀焔の幻獣は静かに光芒を咥えたまま、猛々しい獣へと対峙する。

    ●闇呼ぶ咆哮
    「……嶌森の姉さん!」
     とうとう闇堕ち者が出て、伊織は悔しさいっぱいに叫びながら。けれど堕ちた身体とて受けるダメージは変わりない。即座、白狐踊る癒しの輪を放って。
    『堕チテ尚モ盾突ク』
     それが同種とは腹立たしいと言いたげな焔星であるが。イコから飛んできた神木の枝の様な鏃を受けながらも、玄火で身を整える程度に思考は荒ぶったりしない。
    (「これで戦力差はどこまで詰まった……?」)
     煉夜は表情変えずとも、先に堕ちた仲間の心配も、勝機を掴もうと巡らせる思考も止まることはない。
     戦闘不能三、闇堕ち一、疲弊顧みればイーブンといったところ。けれどまた誰かが倒れたら――。
     予感を振り払う様にしたたかに火炎の爪先を繰り出した。
     尚も伊織へと繰り出す咆哮、しじまに舞う銀焔がせき止めて。
    「嶌森! ちったぁ俺にも回せ!」
     三連続も庇いまわれば死んじまうだろうが、と。血ごと吐き出す様な勢いで治胡は叫ぶけれど。言っている治胡も既に危い。
     白銀焔の獣の意志が強いのだろう、耳に届いているかも怪しいかのように以前超然としたまま動いている。
     煉夜のベルトの先端が生み出す暗黒の一閃が、焔星の紅の流れを緩めようとしたが、その軌道が逸れる事は無く。
     とうとう伊織が激しい熱傷の中倒れてゆく。
     これでもう回復を行えるのはあの赤髪女と腹立たしい獣だけ。回復量の観点でものを言えば獣の方が攻撃に回れなくなるのだから、あとは力で潰してゆくだけだと、そう焔星は思っていた。
     だが。その時に。
    「ガイオウガの為に死んで行ったヤツ、ガイオウガの為に生き残ったヤツ、多くの想いを抱えてるんだ」
     ばきり。
     人のカラが割れた様に、治胡に角が生え、毛皮が浮いて。
    「人くらい簡単に守れるんだろ。それならちっとは認め――」
     最後は、突撃する異形の獅子の咆哮にかき消され。異形の顎は完全に焔星の左翼を粉砕した。
    『貴様モ垓王牙ニタテツクカ!』
     憤怒。
     焔星はまさにそれを体現するかのように、全身の炎を吹きあがらせる。一体が安定の回復をこなし、一体が攻撃に転じられては――。
    『ダガ不退転ハ同ジコト!』
    「それがお前の矜持でもあろうことだけは認めるがな」
     お前の生存は認められんと、煉夜は焔星と睨み合いながら。太陽を組み上げた様に鰭状に広がる得物を構えて。
     ざっと地を蹴る音がした刹那、舞い上がる血の雨。痛みを治胡に任せ、着地ざま滑るように地を蹴り爪先に火炎灯す。
     イコから放たれる箒星。そこに一閃、一閃と、巴は刃を合わせながら。
     追い込んでゆく、不吉の星を。
    『イイ加減ッ!』
     焔星から気魄めいた咆哮が響き渡る。
     それは、二体の獣を越え巴へと入ったが。
     今単体攻撃をまともに受けたところで、どうにかなろうか。
     仲間が今まで守ってくれた。
     仲間が必死に戦い続けた。
     自身の身体から舞い散る、赤く艶めく花弁すら舞台の趣に変え。この獣へいかに残虐なエピタフを刻むか刃踊らせながら。
     そして巴は、その麗しい仮面を上げて、艶やかに笑みを表わすのだ。
    「――華々しく、散るといい」
     強い衝撃を伴う、月影の残光を感じる間もなく返しの手から生み出される追撃に。
    『ガ……ガイ……オ……』
     神へと縋る手は届かぬまま、焔星が爆発する音が空洞に響き渡る。
     勝った実感はのろのろと頭の中へと入ってきたが、それ得る間もなく。超然とする天狼と、豪然たる獅子は一度だけ視線を交わすなり、対極の方向へと駆けてゆくのを見る。
    「……勝ったとはいえ、ゆっくりしていられそうにないね」
     血を払いながら、巴は呟く。
    「ああ――すぐに帰還しよう。迎えに行かねばならないのもいるしな」
     戦闘不能者へと手を伸ばしながら、煉夜は頷いた。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486) 嶌森・イコ(セイリオスの眸・d05432) 
    種類:
    公開:2016年10月12日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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