炎獄の楔~燃星、炎を統べる

    作者:朝比奈万理

    「結果、垓王牙大戦は敗北に終わった。だけど、まだ光はある。皆が力を尽くしてくれたことによって、ガイオウガも深く傷つき回復に専念している状況のようだ。皆、本当にお疲れ様だったな」
     神妙な面持ちで、浅間・千星(星導のエクスブレイン・dn0233)は灼滅者を労った。
    「ガイオウガは回復の為に、日本各地の地脈から『ガイオウガの力』を集めようとしているようだ」
     もし、日本中の『ガイオウガの力』が復活したガイオウガの元に統合してしまえば――。
    「ガイオウガは最盛期の力を取り戻してしまうだろう」
     そうなれば……。
     千星は小さく頭を振った。人間が想像出来うる自体は現実にもなる。
    「この事態を防ぐために、皆には日本各地の地脈を守る『ガイオウガの力の化身』……強力なイフリートの灼滅をお願いしたいんだ」
     真っ直ぐ灼滅者を見据える千星の表情にいつもの余裕は全くない。代わりにあるのは固い表情から伺える緊迫感。
     千星はひとつ咳払いをして気持ちを立て直す。
    「この強力なイフリートの周囲には、多数のイフリートが守備を固めているようだ。だけどこのイフリート達は、垓王牙大戦で救出に成功した『協調するガイオウガの意志』の力で、戦闘の意志を無くして無力化する事が可能になっているんだ」
     小さな朗報だが、その表情は固い。
    「しかし、この『協調するガイオウガの意志』の力も、強力なイフリートには影響を及ぼせない為。ゆえに強力なイフリートについては灼滅者の手で撃破する必要があるんだ。そして戦闘の意志を抑えるためには、イフリートの戦意を刺激しないように少数精鋭で戦いを挑む必要があり、かなり危険な任務となるだろう」
     固くともはっきりと状況を伝えていた千星だったが、ふと灼滅者と目を逸らす。
    「……場合によっては、闇堕ちをしなければ届かないかもしれない……」
     それはこの戦いがかなり難しいことを表す言葉。
     千星は再び皆の目を見、願う。
    「……できれば、皆、無事に勝利して帰ってきて欲しい」
     灼滅者が対峙する強力なイフリート。
     その姿は獅子。背には炎の翼が、頭には二本の立派な角を生やし、鬣の炎を纏う巨大なイフリートだ。
    「その強力なイフリートは、炎を纏う爪で引き裂いたり、口から激しい炎を吹いたり、羽ばたきで注意を一面火の海にする力を持つ。また、咆哮をあげることで自身の傷を回復する他、鋭い牙で喰らい付く攻撃は激しいダメージを追わせる力がある」
     場所は、群馬と長野の県境に横たわる地脈。
    「地脈は地下の空洞にあるが、そこまでの誘導はガイオウガの尾から現れた『協調の意志を持つイフリート』が行ってくれる」
     そう説明した千星の前に現れたのは、4体の猫型大型獣のイフリートたち。その瞳は皆、穏やかだ。
    「地脈に到着後、この『協調の意志を持つイフリート』は強力なイフリートの取り巻きなっているイフリートを無力化をすべく力を尽くしてくれる。なので、皆は全力で強力なイフリートと対峙してほしい」
     今回の敵は、無傷での勝利は難しい強敵なのは間違いない。だけど、この敵を倒せなければ、今度こそガイオウガを止めることは出来なくなるであろう。
    「皆の心にひとつ星が燃えるのなら、どんな逆境でも必ず道は開ける。わたしは信じている」
     そう告げた千星は、今回ばかりはどうしても笑めなかった。
     どうか勝利を。そしてどうか無事に……。
     小さな少女には、灼滅者を導き、祈ることしか出来なかったから――。


    参加者
    神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)
    エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)
    狩家・利戈(無領無民の王・d15666)
    月姫・舞(炊事場の主・d20689)
    ペペタン・メユパール(悠遠帰郷・d23797)
    香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830)
    レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)
    富士川・見桜(響き渡る声・d31550)

    ■リプレイ


     今は廃線路となった碓氷峠の隧道。その奥に続いていたのはフォッサマグナの東端の地脈だった。
     赤々と波打つ地脈の前には獣の形の多数のイフリートが毛を逆立て威嚇の唸りを上げているが、彼らを押さえるため、調の意志を持つイフリート達が駆け出していく。
     その先。
     地脈の真上には大きな獅子の姿をしたイフリートが、灼滅者を静かに見据えていた。
     シシゴウだ。
     我は灼滅者たちの来訪を知っていた。
     そう言うかの如く飛び上がったシシゴウは、背に生えた翼を大きく羽ばたかせると、翼から舞い散る火の粉が攻撃手と守り手の灼滅者を焼き払わんと燃える。
    「……っ!」
     前衛に付いた灼滅者の封印が自動的に解除されたが、
    「なんてバカ力だ……!」
     炎を振り払いながらエアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)が苦痛に顔をゆがめた。
     列攻撃だというのに大幅にダメージを削られる。
    「貴方は私を殺してくれる? それとも殺されるのかしら?」
    「蒼の力、我に宿り敵を砕け」
     月姫・舞(炊事場の主・d20689)と香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830)が解除コードを唱え己の力を解放していくと、他の灼滅者も武装を整えた。
     シシゴウは大きな翼を一回はばたかせると、すべての足を地につけた。大きさは裕に3メートルくらいあるだろうか。 
    「……目の前の敵は叩き潰す。それだけです」
     たとえそれが、自分達よりはるかに強い相手であっても。
     標的を見据えて眉間を小さく寄せた神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)は固い砂地を蹴って的中に飛び込むと、その足元に一本、炎の筋を付けた。
    「次、行かせてください!」
     柚羽が下がるや否や、誰が動く前にいち早く攻撃手に支援をと、舞は弓を引く。
     ぴぃんと張った弦から放たれた癒しの力を宿した矢は、エアンを貫いた。
     傷が癒されるのを感じながら、エアンが思うのは家で待つ恋人の柔らかな笑顔。帰るためには何としてもシシゴウをこの大獅子を倒さなければならない。
    「……厳しいのは承知の上だ、行くぞ!」
     シシゴウ目掛けた帯が風を斬り、橙色の体をも斬り裂いていく。
     シシゴウを倒すこと。それは大好きな弟と迎える幸せな未来の第一歩だから。
    「どんな敵でも立ち止まれないわ!」
     ペペタン・メユパール(悠遠帰郷・d23797)も最愛の人を胸に、交通標識を黄色く灯らせて。
    「ね、ソース。頑張りなさいな」
    「にゃっ!」
     主人の激励に頷くウイングキャトのソースも尻尾のリングを輝かせて、攻撃手と守り手の傷を癒す。
    「さぁ、勝って終わるぞ」
     苦しいときほど優雅に笑え。くだらないジョークを言え。
     ポリシー通りに笑顔を作ったレオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)はシシゴウを指差す。するとダイタロスベルト『自律斬線“鏖殺悪鬼”』は標的に向かって牙をむいた。
     だがシシゴウは傷など意ともせず、大きな雄叫びを洞窟内に響かせる。
     やっぱり強敵だ。一筋縄ではいかない。
     初めて対峙する強敵に、香坂・翔(青い殺戮兵器・d23830)は生唾を飲み込んだ。
    「……でも、引くわけにはいかない。ここでちゃんと倒さなきゃ!」
     デモノイド寄生体の翼を大きく広げた翔は自分に発破をかけると、足元から伸ばした影の触手でシシゴウを絡めとる。
    「頑張ろう! こいつを倒せるのは、私達だけなんだから!!」
     富士川・見桜(響き渡る声・d31550)は、シシゴウの雄叫びに負けじと声を張り上げた。
     自分が掴んだ大切なものを守るため。そして、灼滅者に覚醒して掴んだ『自分も何か出来る』と言う可能性を貫くため。
     見桜は、分裂させた小光輪を狩家・利戈(無領無民の王・d15666)は目掛けて飛ばすと、彼女を癒した。
     傷が癒えた利戈は笑っていた。豪快に。
    「強敵大いに結構!」
     クルセイドソードを大きく振り回して風を斬ると、シシゴウを見据える。
    「戦いってのは敵が強ければ強いほど、燃えるってもんだぜ!」
     地面を蹴って飛び上がると剣が破邪の白光を放つ。それを一気に振り下ろせば、一緒に舞うのは血の炎。
    「最っ高にハイってやつだ! ひゃっはー!」
     利戈の歓喜の叫びが窟内に響く。
     だが、シシゴウにとってはこの程度の傷はまだまだかすり傷のようなもので、首を持ち上げて遠吠えの如く長い雄叫びをあげる。
    「来るぞ! 気をつけろ!」
     攻撃の前兆を見極めた利戈が叫ぶが早いか、牙に炎を纏わせて一直線にレオンの元に。
    「危ないっ!」
     腕を盾にしたレオンの前に立ち、攻撃を一身に受けたのはペペタン。噛まれた肩口は赤く染まり、踏ん張っていた足は力に押されて後ろへと後退する。
    「……っ!」
     苦痛に思わず顔をゆがめた。だけど、ペペタンは炎を振り払うとくるりと振り返った。
    「……大丈夫だった? レオンさん」
    「あぁ、助かったよ」
     レオンはニッと笑む。だけど、その心中は穏やかなものではない。
     たった一撃で守り手の体を揺るがしてしまう。そのすさまじい力を目の当たりにしてしまうと……。
     それでも灼滅者はそれぞれの得物を握る手にさらに強い力を込める。
    「……やっぱり、強いですね」
     苦々しく呟いた柚羽は再び地を蹴った。そして高速の動きでシシゴウの死角に回り込むなり、その巨体をズタズタにせんと斬り裂く。
     強いからといって、ここで引く訳には行かない。どうしても。
     柚羽は血の炎を舞わせながら着地すると一歩引く。入れ替わって翔が飛び出していった。
    「これでも喰らえ!」
     伸ばした腕はすでに蒼い寄生体に飲み込まれていた。そこから放出される肉片から生成されるのは強酸性の液体。
     液体はシシゴウに絡み付いた。
     舞はそれを確認するなり、今度はレオンに向けて弓を引く。その横から飛び出していったエアンは、日本刀を大きく振り上げた。
    「ガイオウガとの合体だけは、阻止させてもらう」
     額目掛けて振り下ろした刀身は、宙に無数の炎を飛び散らせる。
     エアンが下がるとシシゴウの目前には『Iron-Blood』の穂先を唸らせ笑うレオン。
    「そう易々と倒されてくれるとは思ってないさ!」
     それでも最後に勝つのはオレ達だ。
     レオンの螺旋の槍は、シシゴウの頬を抉る。
     ソースは再び尻尾のリングを光らせて攻撃手と守り手を回復させると、主であるペペタンを心配そうに見つめた。
    「大丈夫よ、ソース」
     心配させまいと笑んで自分の傷をオーラの力で癒しても、傷は十分には癒えない。
     だけど。
    「守り手だもの、出来るだけ長くみんなを守らないと……」
     そして、無事に帰らないと……。
     ささやかな希望の前に立ちはだかるシシゴウを恨めしそうに睨んだペペタンを、清らかな天使の歌声が癒した。
     見桜の歌声だ。
    「大丈夫、私が癒し続けるから! だからみんなは前を向いて!」
     灼滅者として覚醒しなかったら、大好きな歌で仲間を癒すことさえ出来なかった。そして今の自分の役割は、前線で戦う仲間を励まし癒し続ける事。
     利戈はベルトを操ると、ペペタンの守りを固めた。だけど、彼女の様子を見るやフッと短く息をついた。
    「……だけどまだ回復しきったとは言えなさそうだな……」
     それは覚悟の息。
     今度は自分が率先して飛び出して庇えないと、危ない。
     それぞれが思考をめぐらせてる間に、
    「オオオオオオオオオオオ……!」
     シシゴウの咆哮が大きな地響きとなって地を揺らす。


     この戦いの終わりはどこか。
     灼滅者達には、この戦いが果てしないときの流れに思えてならなかった。
     格は相手のほうがはるかに上で、一癖も二癖もある。
     相手には呪いを、自分達には恩恵を付与していった灼滅者側の攻撃はほぼ当たり、シシゴウの傷も徐々に深くなっている。
     だけど、相手の一撃一撃はすさまじい破壊力。回復しても庇っても、追いつかない。
     サーヴァントはすでに消滅し、灼滅者全員もシシゴウ以上の決して浅くはない傷を追っていた。
     だが、灼滅者にも幸いはあった。
     このイフリート・シシゴウが、自らに掛けられた呪いを解き、灼滅者の恩恵をも打ち砕く力を持つ『回復手』でもなかったことだろう。
     すべてを真っ向から打ち砕かれていたならば、もっともっと苦戦を強いられていただろう……。だけど今や誰の脳裏にもそんな『If』は浮かばない。
    「来るぞ!!」
     レオンの注意喚起と同じくして、飛び上がるシシゴウの翼から、再び炎の風が巻き起こる。
     狙いは、後ろ。
    「……!」
     柚羽が息を呑み、翔と見桜もデモノイド寄生体を纏わせた腕を盾に構えた。が。
    「とおさねぇ……、ってんだよ……」
     柚羽と翔を庇ったのは利戈とペペタン、
    「ごめんなさい……。あとは……」
     おねがいね。
     倒れる利戈とペペタンと同時に、見桜もガクッと膝を着いた。
    「……私は、あきらめない……」
     仲良くなったイフリートに報いるためにも、みんなのためにも、後ろから声を出し続けるんだ……。
     だが、目の前にモザイクがかかると意識が遠のいて、ついにその場に倒れてしまう。
    「……!」
     レオンと柚羽、そして舞は、今まで守り続け、癒し続けてくれた三人の元へ駆け出すと、その体を出口まで投げ飛ばした。まだ余裕のあるシシゴウの攻撃に巻き込まれるのを防ぐためだ。
     三人と入れ違いでエアンは金の髪を揺らしながらシシゴウに向かっていく。
     シシゴウの意識が、今から前に出る新たな守り手に向くのを防ぐため。
     別府周辺を地獄のような有様にしてしまった。その責任の一端は灼滅者にもある。
     だから、このイフリートもガイオウガと一緒にはさせない。
     エアンの槍から放つのは、針のように鋭くとがった氷の刃。ドスドスと音を立てて、炎の体に突き刺さっていく。
    「オォォォォォ!」
    「悪いが、俺達は負けるわけには行かないんだ!」
     怯んだ様子を見せたシシゴウの怒号にエアンは負けじと声を張り上げた。
    「負けるもんか! だって俺らは敵を打ち砕く『兵器』なんだから!!」
     自分に発破をかけるように叫んだ翔は、指輪を光らせて魔法弾をシシゴウ目掛けて打ち込む。
    「ゥオォォォォォ!」
     シシゴウはまた大きく吼えた。攻撃が効いているのだ。
     そんな確信を得た灼滅者の胸に浮かんだ勝利の光は、いとも簡単に輝きを失うこととなる。
     シシゴウは上を見上げて息を大きく吸い込んだと思ったが否や、吐き出されたのは激しい炎。
    「……!」
     息を呑むまもなく翔の体は炎に包まれ。
     意識を手放す瞬間に脳裏に浮かんだのは、兄の顔……。
     残された灼滅者は4人。迎え撃つ敵は、今しがたやっと怯んだ様子を見せ始めたばかり。
     勝算はあるとは、言いがたい。
    「……撤退しましょう」
     舞が翔の体を担ぐとダブルジャンプですばやくその場から離れると、エアンとレオン、そして柚羽も一斉に出口まで走り出した。
     が、シシゴウも追い詰めた獲物を逃すまいと四人を追いかける。
    「ガォォォォォォォ!!」
     地面が揺れる中、自分達が投げ飛ばした仲間の元までたどり着くなり、くるりと踵を返した灼滅者がいた。
     こちらに向かってくる大獅子を睨むと、自分の胸倉に拳を当てる。

     いくつもの因果が重なって、先の戦争に負けたのは理解している。
     だけど、その因果の果てがこれですか?
     そしてまた、負けるのですか? 逃げるのですか?

    「……だから潰さなきゃ……」
     美しい黒髪が宙を泳ぐ。
     漆黒の瞳が、揺れるごとに紅に染まっていく。
    「乱れたままなんですよ……私自身が」
     目的は、シシゴウの撃破。それ以上でもそれ以下でもない。
    「ええ、イラついて仕方ないんです!」
     自分の中の得体の知れない闇を感じながら地面を蹴ったのは、柚羽。
     次の瞬間にはもうシシゴウの脚の腱を断ち斬っていた。
    「グオォォォォォ!!」
     初めて地に転げるシシゴウは、苦痛に悶えて太い声を漏らす。
    「おう、いってこい。無駄にはしねぇよ」
     レオンは柚羽に声をかけ、『call of Siren』を振りかぶり。
    「地獄まで付き合ってやるさ」
     シシゴウの起き上がり際を見計らって、思いっきり殴りつけた。 
     あれが、闇堕ちの力――。
     散々翻弄させられたシシゴウを、その技一発で地面に平伏せさせたその力にエアンは慄く。だけど今はシシゴウを倒す好機。日本刀を構えると飛び上がって重さに任せて振り下ろすと、
    「私の影の中で眠りなさい」
     自身の影に大獅子を喰らわせて、舞は愉しそうに笑む。
     炎の海の中、よろりと起き上がるシシゴウは腕を大きくふるって誰かに狙いを定める。
     けど守り手に……、灼滅者の力をはるかに超えた護り手に狙いを逸らされてしまう。
    「……あなたの攻撃はもう絶対に通しません」
     血に濡れた顔に光る赤い瞳がシシゴウを見据えた。
     次の瞬間。
    「グアァァァァァァァ!!」
     シシゴウが激痛に喘いで大きく大きく吠えた。
     その体から飛び散るのはマグマのごとく大量の血液。
    「留め。です」 
     柚羽はシシゴウを縦横無尽に斬り裂きながら、すっと出口を指差した。
    「皆さんは早くここから脱出してください。早く」
     二度押しで促され、エアンは二人を、レオンと舞は一人ずつ抱える。すると協調の意思を持つイフリートも灼滅者の元に集い。
    「……必ず迎えに行く……」
     踵を返す前、言葉を送ったエアンが最後に見たのは。
     小さく頷いてかすかに笑んだ、少女の姿――。


     隧道の外に脱出できた4頭のイフリートと灼滅者たちは、藪の中で体を休めていた。
     戦闘不能に陥った者も意識を取り戻し、心配そうに視線を送る先――隧道の奥はとても静かだ。
    「誰一人、欠けさせたくはなかったな……」
     エアンは歯をぎしりと軋ませると、
    「私たちの帰りを待ってる人がいるように、きっと柚羽さんの帰りを待ってる人がいる……」
     ペペタンは目を伏せ、翔も自身の胸をぎゅっと掴む。
    「私たちは私たちに出来ることをしないと。だね」
     つぶやいた見桜はきつく拳を握った。
    「一先ず帰って、シシゴウ灼滅したこと報告しようぜ」
     諸々の話はそのあとだ。と、歩き出す利戈の足も重かった。
     秋風は山の上の方から葉の色づきを連れてくる。
     紅く紅く。
     それは燃える火のよう。
     山を下りる灼滅者たちは、その燃える心の星で炎を統べることに成功した。

     次に統べるべき炎は、何処に在るのか――。
     まだ、誰も知らない。

    作者:朝比奈万理 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:神乃夜・柚羽(睡氷煉・d13017) 
    種類:
    公開:2016年10月12日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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