「垓王牙大戦は敗北に終わったが、皆の決死の奮闘によって、ガイオウガも深く傷つき回復に専念している状況のようだ」
神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)が、先の大戦をふりかえり。皆に向き直る。
ガイオウガは、回復の為に、日本各地の地脈からガイオウガの力を集めようとしている。もし、日本中のガイオウガの力が、復活したガイオウガの元に統合してしまえば、ガイオウガは最盛期の力を取り戻してしまうだろう。
「この事態を防ぐため、皆には、日本各地の地脈を守る、ガイオウガの力の化身……強力なイフリートの灼滅を頼みたい」
強力なイフリートの周囲には、多数のイフリートが守備を固めているようだが、このイフリート達は、垓王牙大戦で救出に成功した『協調するガイオウガの意志』の力で戦闘の意志を無くして、無力化する事が可能になっている。
「しかし、この意志の力も、強力なイフリートには影響を及ぼせない為、強力なイフリートについては、灼滅者の手で撃破する必要がある」
また、戦闘の意志を抑えるためには、イフリートの戦意を刺激しないように、少数精鋭で戦いを挑む必要がある為、かなり危険な任務となる。
「場合によっては、闇堕ちをしなければ届かないかもしれないが……できれば、皆、無事に勝利して帰ってきてくれ」
戦闘が行われる場所は、地下の地脈周辺で、その場所への誘導や、竜脈への移動については、協調の意志を持つイフリートが行ってくれる。
その後、協調の意志を持つイフリートは、取り巻きのイフリートの無力化をすべく力を尽くしてくれるので、灼滅者は全力で、強力なイフリートと戦えばよい。
「さて、問題の戦闘対象のイフリートだが……グレンという名で、炎の獅子の姿をした相手だ。その戦闘能力は、一筋縄ではいかないレベルだと思ってくれ」
戦場は地下の空洞での戦いになるが、崩落などの危険は特に無い。
「今回の敵は、無傷での勝利は難しい強敵なのは間違いない。恐らく死闘になる。しかし、この敵に打ち勝たねば、復活したガイオウガを止める事は不可能となるだろう。皆の勝利と無事とを祈っている」
参加者 | |
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卜部・泰孝(大正浪漫・d03626) |
泉・星流(箒好き魔法使い・d03734) |
西院・玉緒(鬼哭ノ淵・d04753) |
廿楽・燈(花謡の旋律・d08173) |
栗原・嘉哉(陽炎に幻獣は還る・d08263) |
四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781) |
アリス・ドール(断罪の人形姫・d32721) |
ルイセ・オヴェリス(高校生サウンドソルジャー・d35246) |
●
「念のため灯りとして、ケミカルライトを準備しておいてよかったです」
薄暗い空洞内。
四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)が、照らす灯りを頼りに一行は歩を進める。
「……」
ヘッドライトをした卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)は、ふと傍らの獣達を見やる。灼滅者達の周りに、猫型大型獣のイフリートが三体付き添っている。これらが協調するガイオウガの意志だった。
(「相手は炎の獅子、暗闇でも視認可能なら自分の位置や存在を知られないために、光源は最小限にしないと」)
泉・星流(箒好き魔法使い・d03734)は、仲間とやや離れて移動していた。その視線の先には、淡い光点が揺蕩っており。近付くほどに、それは大きく強く輝き出す。
恐ろしいほど激しい炎。
イフリートの群れ――その中心には炎の獅子。
「あのイフリートがグレン? 想像以上に強そうだねー……。でも負けたくない。諦める、なんて選択を燈はしたくないしね」
廿楽・燈(花謡の旋律・d08173)が身構える。他の面子もそれに倣い。その様を、グレンはゆっくりと鋭い目で睨みつけた。
「招かれざる……客か……」
巨大な獅子が煩わしげに呟く。
周りのイフリート達は、牙を剥き。灼滅者達を威嚇するように前に出る。すると同時に、協調するガイオウガの意志たる猫型大型獣のイフリート達も飛び出し。
両者は睨みあいながら、その場を一緒になって離れていった。
「……失敗は……なかったことにできないけど……やり直すはできるの……そのための……この戦い……必ず勝つよ……」
取り巻きが去った隙をつき。
アリス・ドール(断罪の人形姫・d32721)が一番に飛び出し。黒死斬で足止めを行う。西院・玉緒(鬼哭ノ淵・d04753)もランプを設置し、後に続く。
「戦争も……避難活動にも……お役に……立てません……でしたが……こうして……この場に立てた……ここを……おとす訳には……いきません……ただ……為すべきこと……を……為すのみ……」
撤退の意思はない。
流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂。敵の機動力を奪いにかかる。激しい動きに合わせて、豊かな胸がたゆんと揺れた。
(「ガイオウガ……叶うならもう一度だけ見てみたかったけど、見れるかな。……いや、今は出来ることをやりきろう。考えるのはあとだ。それに勝つまで戦うっていうのあるしさ。ん? これはどっちかって言うと屁理屈か」)
栗原・嘉哉(陽炎に幻獣は還る・d08263)は、影縛りを発動させた。
獣人型の影が、勇ましい姿を形作りイフリートへと向かう。ダークネスは、灼滅者達の攻勢に炎を猛らせ爆発させた。
「灼滅者……また敗北の炎に包まれろっ!」
グレンが吼え。
空洞全体が震動する。炎の獅子の鬣から、業火の嵐を生まれ。マグマのごとき熱量が空気を燃やし、灼滅者達へと襲いかかってくる。
(「ボクらが相手すべき敵はグレン一体。だけど、強さは桁違いみたいだ。一撃の大きさに注意して、小さな傷も直ぐに塞いでいこう。でないと、その綻びから引き裂かれかねない」)
ルイセ・オヴェリス(高校生サウンドソルジャー・d35246)は、イエローサインで仲間の回復と支援をメインに、深手の仲間が居たら優先しラビリンスアーマーでヒールした。
「グレンの攻撃は、わたしたちが防ぎます。みなさんは攻撃を!」
ディフェンダーとして、できるだけグレンの攻撃を引き付けんと。悠花はシールドバッシュで、勢いよく特攻する。その返礼は、身を焦がすような炎の渦の嵐だ。
「己を高めし我を捨て置けば、貴殿に思わぬ痛打あろうて。それとも恐ろしく、我を討てぬのか?」
「……小癪な」
挑発的な言葉を敵に投げかけ、泰孝がソニックビートを放つ。ジャマ―として妨害能力を高め、列攻撃含め引き寄せ前列負担を減らせぬか試みる。
「この緊張感……大悪魔の依頼を思い出すな……」
光の届かない壁際、物陰の闇に紛れつつ。
星流は射砲撃と移動を繰り返した。催眠を誘い、追撃の矢を見舞い、氷の砲弾を打ち放つ。以前の依頼のときも、バッドステータス漬けにして勝利を掴んだのだ。
今回も、きっと。
(「仲間の誰一人死なせるつもりなんてない。帰れば燈たちみんなを待ってくれている人のためにも。守ってみせるよ。……例え何があろうとも」)
燈は固い決意を秘め。
仲間と連携して、怒涛の攻撃を繰り出す。鬼神変の一撃が真っ向からダークネスの額を打ち抜き――グレンは濁った眼で、灼滅者達を睥睨した。
●
「……引き裂く……」
猫のようにしなやかに動き、狼の如く鋭いアリスの幻狼銀爪撃。速さに緩急のフェイントを織り交ぜ急加速、急停止と変幻自在に動いてのヒット&アウェイ。
「攻撃は何とか当たるか」
嘉哉は十字架戦闘術で足止めし、戦艦斬りでプレッシャーをかけた。既に、イフリートに付与したバッドステータスの数は十を超える。
灼滅者達は、渾身の総攻撃を叩きこむ。
その集中砲火は尋常ではない、が。
「こんな、ものか……」
獅子のイフリートは、それらを避けようともせず。
全てを受け切った上で鼻を鳴らす。どのような攻撃にも巌のごとく微動だにせず、炎を無作為に撒き散らした。
(「相手の攻撃に合わせて……」)
悠花は集気法とワイドガードで炎から身を守る。
火で焼かれた傷は、癒しても癒してもきりがなく。少しでも気を抜けば、倒れて二度と立ち上がれなくなりそうだった。
「過剰回復には、ならぬな」
泰孝は仲間と声を掛け合って、ブラックフォームとラビリンスアーマーで回復を行い合う。出来るだけ他者回復を使用せず妨害に注力したいが、そうもいかない状況だった。
「! 下がって。敵の攻撃が、また来るよ」
どんな細かいことも見落とさず、戦線を支えるのがボクの仕事。
そう、自分に言い聞かせ。懐中電灯で戦場を照らし、敵の挙動に注視していたルイセは前触れを察知して皆に警戒を促す。
「ガアアアアア!!」
獅子の口から身も凍るような音量。
そして、巨大な炎の塊が吐き出される。火の奔流は視界という視界を埋め尽くす。
「これで」
全てを焼き尽くす炎の波。
星流は集中する。対策はしてきたつもりだ。敵の攻撃の中心を指定して、フリージングデスの魔法を発現させた。
炎と氷。
正反対の力がぶつかり合い。
エネルギーが押し合い圧し合い――眼前まで紅蓮の熱が迫った瞬間、爆音が轟いた。
「ふん、その程度か」
グレンがつまらなげに呟く。
どうにか炎の大部分は相殺したものの。灼滅者達は、その衝撃にたまらず吹き飛ばされ。空洞内のあちこちに激突していた。
「さて……そろそろ、終わりにするか」
ダークネスの無遠慮な重い足音が、近付いてくる。
それは確実な死の訪れを告げる音だった。一歩二歩三歩……グレンはそこで止まる。止められた。
立ち上がった――燈に足を捕まれて。
「……何の真似だ?」
グレンが低く唸る。
最前線にいた、燈の身体はボロボロになっていた。だが、それでも。いや、だからこそ。
「重傷になってみんなの足を引っ張るぐらいなら最後まで戦力として戦いたいもん」
戦うことを恐れないプチ戦闘狂は。
咄嗟の行動に迷わない。
『自分が選んだ選択なんだから後悔なんてしない』
このままでは、皆が危ない。
撤退しようにも逃げられない。
ならば。
殺人鬼の少女は、血に塗れながら闇に堕ちる。
『燈の覚悟、甘くみないでよね……ッ!!』
灼滅者の周りを圧倒的なオーラが覆う。
これは殺気。六六六人衆のそれに相違なく。今までとは次元が違う一撃が、イフリートへと盛大に襲いかかった。
「っ」
今まで、反応らしい反応を示さなかった炎の獅子が。
ここで初めて身じろぎ……そして、後退する。それは他の者が、立ち上がり態勢を整える時間を与えることに直結した。
「攻めの一手です」
真っ先に飛びかかる武闘派。
怯むことを知らない玉緒のグラインドファイアが、後ろに下がった敵の横合いから直撃する。多数の傷を負うなか、灼滅者達はまだ誰一人として諦めの色を見せていなかった。
●
(「正気を保っているうちに――」)
燈は己の身体が、次第に深く深く闇に堕ちていくのを感じながら。
次々と必殺の連打をダークネスに浴びせていく。仲間達もこれを好機に、連携して押し進む。
「如何した? 我を討たねば汝が自慢の膂力、全て削ぎ落とされようぞ」
泰孝は雲耀剣を振るい。
トラウナックルで注意を引く。徹底的に、相手の行動の邪魔をすることに神経を注ぐ。
「ちょこまかと、うっとうしいっ」
「……逃がさない……絶対に……斬り裂く……負けっぱなしは……嫌いなの……」
アリスが周囲にある岩や天井、壁など全てものを足場に飛び回り。仲間を敵の攻撃からカバーし、鋭い一撃を閃かせる。悠花は再びシールドバッシュで敵の気を、こちらに向けさせた。
「大人しく、また敗北していればいいものをっ」
「わたし達の行動は協調するガイオウガの意志にもちゃんと伝わっているんだし、まだ完全に負けたわけではありません」
グレンの殺気と炎に晒されながらも。
悠花は決然と言い放つ。
「それに、この戦いに勝つことも大事だけど、本当の戦いは次です。わたしは、みんなとそこに行くために戦います」
ここが最後の戦場ではありませんから!
と、気炎を吐いてスターゲイザーで颯爽と反撃する。重力の乗った蹴りが、相手の巨体を揺らした。
(「脚を集中的に」)
星流は機動力を奪うために、狙いを定めた。
優先的に狙われだしたら回避主体の戦闘に切り替え、命中率より速射性を重視して相手をけん制する。空飛ぶ箒で飛び回り、相手から仲間が死角になる位置に誘導して仲間をフリーにする。
「覚悟……は……決めています……」
仲間が作った隙を突き。
玉緒がクラッシャーの火力を発揮した。炎を斬り裂くような一撃が、敵の四肢へと炸裂する。
「灼滅者がっ」
「ヒールが間に合わない。回復の応援をお願いするね」
「オレはスナイパーに移動する」
戦いは一進一退を極めた。
イフリートの炎が吹き荒び。その度に、ルイセは味方に手を貸してもらいながらメディックとして戦線を維持するのに注力する。命中率が落ちてきた嘉哉は立ち位置を変えて、相手を精密に削っていく。
「くっ」
グレンは舌打ちするように、声をくぐもらせ。
灼滅者達を焼き尽くさんと炎を操る。その勢いは、活火山にも似た。いつ果てるかも分からぬマグマだ。
「――まだ」
必死に自分の意識を繋ぎ止め。
燈は主力となって、敵の炎に対抗した。気の遠くなるような、全てを手放してしまいたい衝動に何度もかられて。それでも、懸命に勝機を繋ぐ。
細い糸をひたすらに、手繰り寄せ。
そして、その時は来た。
「空中(ここ)じゃ……かわしようがないよね……」
星流が空飛ぶ箒で上に逃げ。
ダークネスは、釣られて跳躍する。それが灼滅者の誘いであると。グレンが気付くのが、疲労と傷のせいで数瞬遅れ。
そこに、すかさず燈の技が差しこまれる。
「!」
獣と人。
二つの影が空中で交差し。
地面へと同時に着地。刹那の間。ダークネスの炎は四散し、洞の中で獅子の巨体は跡形もなく消え去った。
「……」
六六六人衆となった灼滅者は、その様をちらりと見やると。
その場を、仲間の達の元を、離れていく。一人去っていく燈の背中を、皆が見守った。
「……これで……敗者復活戦……できるよ……ね……他で戦ってる子たち……勝てた……かな?」
闇に堕ちた仲間の姿は、薄暗い空洞内ではすぐに見えなくなった。
残った者達は息を吐き。アリスは頭を振って、炎の消えた闇の中でただしばらく佇んだ。
作者:彩乃鳩 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:廿楽・燈(花謡の旋律・d08173) |
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種類:
公開:2016年10月12日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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