「皆さん、垓王牙大戦、お疲れ様でした」
教室に集まった皆に、姫子はまず頭を下げる。
「大戦は敗北しましたが、皆さんの決死の奮闘は、ガイオウガを深く傷つけました。ガイオウガを回復に専念せざるを得ない状況に、追い詰めたのです」
姫子は説明を続ける。
「ガイオウガは今、回復のため、日本各地の地脈からガイオウガの力を集めようとしています。
もし日本中のガイオウガの力が復活したガイオウガの元に統合してしまえば、ガイオウガは全盛期の力を取り戻してしまいます。
そうなるのを防ぐため、皆さんにお願いします。各地の地脈を守る、ガイオウガの力の化身の、強力なイフリートを灼滅してください!」
承諾する灼滅者に姫子も首を縦に振る。そして状況の詳細の説明を開始。
「ここにいる皆さんに挑んでほしい強力なイフリートの名は『粉砕のレッダ』。
『レッダ』の周囲には、多数のイフリートが守備を固めていますが、このイフリート達は、垓王牙大戦で救出できた『協調するガイオウガの意志』の力で戦闘の意志をなくして、無力化する事が可能です。
ただし、この意志の力は『レッダ』には影響を及ぼせません。
ですからレッダは、灼滅者の皆さんの手で撃破する必要があるでしょう。
また、守備を固めるイフリート達の戦意を抑えるために、少数精鋭で戦いを挑む必要があります。多数でいった場合、イフリート達の戦意を過剰に刺激してしまうからです。
強力なイフリートに少数で挑む、これは非常に危険なこと。場合によっては、闇堕ちをしなければ成功に届かないかもしれません。
それでも、どうか皆さん全員、無事に勝利して帰ってこれるよう、全力を尽くしてください。お願いします」
場所は、和歌山県のある山中の洞窟からいくことができる、地下空洞。ここで、レッダは地脈を守っている。
レッダのいる場所までの案内は、協調の意志を持つイフリート三体が行ってくれる。なので、レッダのいる場所までたどり着くのに、特に問題はない。
また、レッダの場所までたどり着けば、協調の意志を持つイフリート達は取り巻きのイフリートを無力化するため、全力を尽くしてくれる。
「だから皆さんは、レッダの灼滅に全力を尽くしてください」
レッダは猛牛の姿をしている。黒い巨体に白い角。全身に炎をまとっている。
「灼ケヨ……」などと言いながら、体から炎を吹きあげる遠列術式の技。
「トケヨ……」などと言いながら、周囲に毒の気体を吹きだす遠列気魄の技。
「貫ク……」などと言いながら、相手を角で刺し、プレッシャーを与える近単術式の技。
「砕ク……」など言いながら、相手に突進し体当たりする、近単気魄の技。
特に体当たりの威力は極めて高い。体力の大半を一気に削られてしまうだろう。
レッダはこの体当たりを4分か5分に一度程度しか使わないが、警戒は十二分に必要だ。
「今回の敵、レッダは無傷での勝利は難しい強敵です。けれど、この敵に打ち勝てなければ、復活したガイオウガを食い止めることは不可能になるでしょう。
厳しい戦いですが、どうか勝利を。そしてどうか無事の帰還を」
姫子は両手を胸の前で組む。祈りを捧げているのだ。戦いに赴く灼滅者たちのために。
参加者 | |
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楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757) |
フランキスカ・ハルベルト(フラムシュヴァリエ・d07509) |
一宮・光(闇を喰らう光・d11651) |
海川・凛音(小さな鍵・d14050) |
真柴・遵(憧哭ディスコ・d24389) |
黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809) |
アルルーナ・テンタクル(小学生七不思議使い・d33299) |
土屋・筆一(つくしんぼう・d35020) |
●
熱気。灼滅者が立っているのは、和歌山県の地下空洞。
足元には、幾体ものイフリートが地に伏せている。協調するイフリートらが、戦意を奪ったのだ。
灼滅者の眼前に、四本足の巨体。頭部に巨大な二本角がそそりたつ。猛牛にして『粉砕のレッダ』。
「我ニ挑ムカ……愚カナリ、灼滅者……滅ブガヨイ……!」
レッダの体から湧き上がる炎。
アルルーナ・テンタクル(小学生七不思議使い・d33299)は真正面に立つ。滅ぶがいいという敵の言葉に首を振る。
「滅べ言われても困るわ。ほんま、ここまで大変やってんから。ここで決めさせてもらうで! 私の七不思議、融合変現! ホワイトローズ・ゴッデス! さあ、覚悟しいや!」
都市伝説の姿へ変じるアルルーナ。仲間達も次々に封印を解いた。
灼滅者達の前で、レッダは地面を蹴った。頭の位置を低く。角をアルルーナの腹に向けて。
「貫ク……」
その動きは早い。アルルーナはレッダの角に刺されてしまう。
アルルーナは血を垂らしながらも、凛とした表情を変えない。傷口に指をあてがい、光で己を回復させる。仲間へ、
「私が攻撃を防いでいる、今のうちに!」
「ええ。この戦い、負けるわけにはいきませんから……!」
答えたのは、海川・凛音(小さな鍵・d14050)。凛音はセミロングの灰髪を揺らし、レッダの側面に回る。手にした一振りの刀が、レッダの炎を反射して光った。
凛音は渾身の力で刃を振り落とす。雲耀剣。敵の肩を深く切る。
「あの動きなら、私たちスナイパーは8割以上で命中させられます。ですから、皆さんは作戦通りに!」
声を張る凛音。
凛音の言葉に応じ、灼滅者らは果敢に攻め、攻撃の幾つかを当てた。が、レッダの巨体は揺るがない。
「無駄ダ、灼ケヨ……!」レッダの全身から、炎が溢れ、灼滅者を襲った。
黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)は走る。後衛を焼こうとする炎の大部分を、白雛は体で受け止める。歯を食いしばる白雛。
その後ろで、楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)は笑う。
「はるばる来たッてのに、無駄ッてか? 言ッてくれるじャねェの、イフ子ちゃんよゥ」
うそぶきながら漆黒の剛弓の真紅の弦を指で弾く。癒しの矢で白雛を癒しきる。そして盾衛は問う。
「白雛チャン、イフ子チャンがあァ言ッてッけど?」
「回復ありがとうございますですの、楯守様。敵がそう言っているなら……」
軽く跳ね、構えなおす白雛。
「教えてさしあげるまでですの――『無駄なのは、ダークネスの貴様のほうだ』と!」
白雛は再び駆け出す。その動きは盾衛の力で強化されている。白雛は片足をあげた。輝く靴の爪先を猛牛レッダの顎にめり込ます!
その後も、レッダは灼滅者前衛へ毒をふきつけてくる。
後衛の土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)は仲間たちが傷つく様子に、肩をぴくっと上下させた。が、それは一瞬。
「レッダさんの好きにはさせません。誰も倒させたりしません」
黒の瞳に決意を込め言うと、
「支えます、回復は任せてください」
黄色標識を高々と掲げた。標識と筆一の力が、仲間から毒を取り払う。
真柴・遵(憧哭ディスコ・d24389)も毒を受けていたが、筆一の力を受け、軽やかに姿勢を立て直す。親指を立て「土屋クン、さんきゅ!」
そして遵はイフリートへと走る。「さあ、レッダ、楽しく大喧嘩しよーぜ!」
レッダの胴を、遵はベルトで貫く。手ごたえは確かにあった。二歩、三歩と後ずさるレッダ。
が、次の瞬間。
遵の体が後方に飛んだ。遵は激しく壁に叩きつけられる。音、衝撃、天井からぱらぱらと土。
レッダが遵へその巨体をぶつけたのだ。
一宮・光(闇を喰らう光・d11651)は遵へかけよる。
「大丈夫ですか? いま、傷を塞ぎますから。五秒待ってください」
ベルトを遵の体に巻き付け、傷をいやし守りを強化。傷がある程度治ったのを確認し、光は顔を上げ、告げる。
「敵の攻撃は、やはりかなりの威力です。皆さん、十分な警戒を」
光の言葉に、数人が頷いた。
フランキスカ・ハルベルト(フラムシュヴァリエ・d07509)は、レッダを見つめていた。
「確かに貴公の技は、敵ながら畏るべきもの。なら……」
レッダの足元で、何かが蠢き、立体化する。真紅の雷の如き影業、クラスヌイ=グローム。
「貴公の動き、影にて封じる」
フランキスカの影業がレッダの四肢に胴に絡みつき、締める。
締め付けられながら、レッダは灼滅者を見る。その目は赤く、爛々と輝いている。
●
その後も、遵、白雛、アルルーナがディフェンダーとして、レッダの猛攻を防ぐ。傷つく三人を、メディックの光と筆一が回復させる。一方でフランキスカと凛音が着実に敵の体力をそぎ、盾衛が態勢を崩させた。
堅い守りと、安定した攻め。が、敵に致命傷を与えられないまま、ディフェンダー三人の傷は累積していく。
戦闘開始から七分後には、
「鉄壁ノ守リ……ダガ、我ガ毒ハ鉄ヲモ……溶カス……!」
レッダの毒が、遵を襲い、彼の体力を削る。遵は顔を青ざめさせつつも、笑ったまま後方へジャンプ。
かわりに筆一が前に出る。交通標識の柄を、汗ばむ手で強く強く握りしめ、皆を守るために構えた。
さらに一分後には、レッダの二度目の体当たりを白雛が受けてしまう。全身の骨が砕けるような錯覚、あまりの痛みに膝を震わせながら、それでも気丈に立つ白雛。
「白雛さんは下がってください。私が前に出ますから」
と、気合と冷静さが混じる声。声の主は光。光は白雛を守れる位置へ走る。
フランキスカと凛音も光に続き前へ。レッダへさらなる深手を負わせるために。
フランキスカは黒朱の大太刀の先をレッダの眉間へ向けた。凛音はバベルの鎖を集中させた銀の瞳で敵を見据える。
移動した仲間をフォローすべく、何人かが回復の力を行使。そんな中、アルルーナと盾衛は視線を交わした。
アルルーナがクロスグレイブを振る。空気を裂きつつ、下から上へ。十字架でレッダの顎を打つ。
のけぞったレッダの体の下に、盾衛が潜り込む。自在刀【七曲】で敵の腹を裂き、足の付け根を切り裂く。黒死斬。
「ガァァ」苦しげな呻きが、敵の口から洩れた。
●
灼滅者は敵の体力を確実に削いでいた。
しかし、灼滅者の陣形は攻撃以上に回復を重視したもので、かつ移動したことで攻撃の手数が一時的に減った。そのためもあって、戦闘は長引く。灼滅者の体に傷は増えていった。
アルルーナも全身に治りきない傷を作っている。その隣に立つ光と筆一も無傷ではない。が、三人の表情には強い意志。
「敵も傷ついてます。勝機は絶対に……。だから、一宮さん、土屋さん」
「ええ、わかりました。勝利をつかむために――」
「――そのために、一気に仕掛けましょう」
アルルーナの呼びかけに答える、光と筆一。
アルルーナは走り出す。相手の真正面に移動し、垂直に跳んだ。体をひねり足を突き出し、スターゲイザー。敵の顔をしたたかに蹴る。
たまらず口を大きく開け、息を吐く、レッダ。そのレッダの脚元で、影が動く。それは光が操る影業。
光は影業を狼の姿に変え、足を咬ませた。千切らんばかりに強く。光の影業は肉体を損傷させ、精神をむしばむ。
アルルーナの蹴りと光の影にレッダが気を取られている隙に、筆一は敵の側面をとっていた。手を前に出し帯を射出。レッダの腹を貫通!
三人はそれぞれ手ごたえを感じていた。このままダメージを与え続ければ確実に倒せると。だが、レッダの反撃は苛烈。
全身の毛穴から黄色い、毒の気体を吹き出す。アルルーナは、毒を吸い込んでしまい、せき込み、そして意識を失ってしまう。
筆一と光はディフェンダーとして皆を守り、そして回復を行うが――レッダは二人を狙い、執拗な攻撃を行ってくる。
光は体をぶつけられ、倒れる。立ち上がれない。
さらに数分後には、筆一は角で腹を抉られ、地に伏した。
レッダはつぶやく。「勇者ヨ……」声には倒れた三人への畏敬。そのとき、
「頭がお留守DEATHよ、イーーフ子チャーーーン!!」
レッダの頭上から底抜けに明るい盾衛の声。
盾衛は跳んで宙にいたのだ。盾衛は落下しつつ腕を振る。前足の付け根へ、自在刀【七曲】で斬りかかる。飛び散る血。
着地する盾衛。仲間三人を倒されはしたが、盾衛は狂犬じみた顔で、笑っていた。
フランキスカは戦況を観察する。
ディフェンダーが減って以降、自分が受けた傷は決して浅くはない。
が、敵の動き、特に回避力も格段に鈍っている。
筆一、光、アルルーナが与えた傷が、そして三人が稼いだ時間で皆が与えた傷が、敵を鈍らせているのだ。
フランキスカは跳んだ。自分の身長の倍よりもなお高く。
「祓魔の騎士・ハルベルトの名に於いて汝を討つ。貴公はここで沈むが良い!」
フランキスカは大太刀に炎を宿し、振り落とす。次の瞬間には、レッダの全身が炎上。
レッダは、まだ生きている。だが、与えた傷は深い。あと、一撃か二撃で倒せる。フランキスカは太刀を振り上げる。だが、
「沈ムノハ、主ラダ……!」
燃えながらレッダは頭を突き出す。虫の息ではあるが、いやだからこそ、激しく動くレッダ。レッダの角がフランキスカの胴を貫いた。その傷は深く、フランキスカから意識を奪ってゆく。
倒れながら、フランキスカは仲間へ振り返る。後を任せます、と。
その視線を、白雛、遵、凛音が受け止めた。
「皆様のこれまでの奮闘、決して無駄にはしませんの。――粉砕のレッダ、貴様を絶殺する」
「結構ピンチかもしれねーけど、へへ、俺は――無敵っ! さあ、決着をつけよーぜ!」
「勝利のためなら、この命すら賭しましょう、――参ります」
敵に冷たい視線を向ける白雛。笑いながら、全身の筋肉を盛り上げる遵。凛音は息を吸い込み、決死の表情をして見せる。
そんな彼らの前で再びレッダは走り出していた。角で突きかかろうというのだ。
が、白雛のほうが早い。斧を振り、レッダの角を払う。姿勢を崩させ、竜骨斬り。首に刃を叩き込む。
食い込んだ斧を引き抜こうと首を左右に振るレッダ。そのレッダの真横に遵は立つ。剣からまばゆい光を放ちながら、その切っ先をレッダの巨体に突き刺す。さらに斬る。
「灼滅者ァァァッ」
レッダは叫び、後方へ飛びのく。姿勢を低くしている。必殺の体当たりを出そうというのか。だが――凛音は構わず直進。杖を両手で持ち、レッダの顔面めがけフルスイング!
白雛、遵、凛音の与えたダメージに、レッダの四つの膝が震え、レッダは横転。地面が震えた。
「グォ……ツ、ツ……強キ者ヨ、見事ダ……ッ!」
そしてレッダは消滅する。
●
頭上には、満天の星空。秋の風が、山中の木々の枝を揺らす。
戦闘が終えた灼滅者らは、今は地上、山中の洞窟を出た場所にいた。
四人は重傷を負っていたが、それでも今は意識を取り戻し、仲間と体を休めている。
協調するイフリートたちはすでにこの場を去っていた。彼らが去った方向に、凛音はいま一度頭を下げる。
「イフリートさんたち、ありがとうございました」
遵は洞窟の入り口を見ていた。
「(楽しく喧嘩できたぜ、レッダ)」
そう言っているかのような顔で、入り口を見つづける遵。
遵の横で、筆一は座りながら、スケッチブックに筆を走らせていた。先ほどまで戦った猛牛『粉砕のレッダ』を描いているのだ。
フランキスカは絵をちらりと見る。そして自分の胴を見る。戦闘中に刺された場所を。
「粉砕のレッダ……本当に強い敵でした」
アルルーナと白雛がフランキスカの呟きに頷く。
「本当に強い敵でした。勝てたのは、皆で作戦をしっかりと練って、そして、懸命に戦ったからですね」
「ええ、皆で力を尽くしたからですの。皆様、ほんとうにありがとうございましたですの」
アルルーナの声にはともに戦ったものへの敬意。白雛は仲間たちにお辞儀し、笑みを見せた。
光は、ふと目を閉じる。口から、
「ガイオウガを取り逃した落とし前、少しは付けれたでしょうか」
と、想いと疑問がこぼれた。光のその問いに答える者はいない。
しばらく時間が経過して、盾衛は立ち上がる。
「さァ、そろそろいこうじャねェーの?」
皆の顔を見て、帰りを促す。皆が頷いた。
灼滅者たちは学園へ戻るため山中を歩き出す。足元の草の中から、鈴虫の優しい鳴き声が響いていた。
作者:雪神あゆた |
重傷:フランキスカ・ハルベルト(フラムシュヴァリエ・d07509) 一宮・光(闇を喰らう光・d11651) アルルーナ・テンタクル(綴りゆく未来の噺・d33299) 土屋・筆一(つくしんぼう・d35020) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年10月12日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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