炎獄の楔~地の底に座す大炎竜

    作者:刀道信三


    「ひとまず垓王牙大戦お疲れ様だぜ。ガイオウガは逃がしてしまったけど、お前達との戦いでガイオウガも深手を負ったみたいだな」
     しばらくの間はガイオウガも回復に専念しなければならない状況のようだ。
    「ガイオウガは、回復の為に、日本各地の地脈からガイオウガの力を集めようとしているみたいだぜ」
     もし、日本中のガイオウガの力が、復活したガイオウガの元に統合してしまえば、ガイオウガは最盛期の力を取り戻してしまうだろう。
    「それを防ぐため、お前達には、日本各地を守る、ガイオウガの力の化身……強力なイフリートの灼滅を頼むぜ」
     この強力なイフリートの周囲には、多数のイフリートが守備を固めているようだが、このイフリート達は、垓王牙大戦で救出に成功した『協調するガイオウガの意志』の力で戦闘の意志を無くして、無力化する事が可能である。
    「まあ、この意志の力も、強力なイフリートには影響を及ぼせないみたいだから、コイツに関してはお前達が撃破しなきゃいけないな」
     また、戦闘の意志を抑えるためには、イフリートの戦意を刺激しないように、少数精鋭で戦いを挑む必要がある。
     ガイオウガの力の化身であるイフリートは、相当に強力な個体であるため、かなり危険な任務となるだろう。
    「ガイオウガの力の化身のいる場所は、地下の地脈周辺で、その場所への誘導や、竜脈への移動については、協調の意志を持つイフリート達が手伝ってくれるぜ」
     その後、協調の意志を持つイフリートは、周囲を守るイフリート達の無力化をすべく力を尽くしてくれるので、灼滅者達はガイオウガの力の化身の灼滅にだけ集中して問題ない。
    「まあ、万全の状態で正面から戦いを挑んで、この人数で勝てるかどうかも危ういような相手だ。任せられるところは任せちまった方がいいと思うぜ」
     ガイオウガの力の化身と遭遇し、戦闘にになるのは地下の大空洞であり、戦闘に問題のない広さがある。
    「このイフリートは溶岩を岩山にしたような姿をしているな。巨体だからといって鈍重ということはない。触れた地面を融かして潜り、高速で移動してくる」
     このイフリートの住処だけあって、それによって大空洞が崩落する心配はない。
    「敵の戦闘力はとにかく強いって以外は、熱線を吐いてくるだとか、すまないが、ありきたりなことしか言えない」
     その声音から冗談や誇張ではないようである。
    「まずは攻撃が当たらないことには始まらないから、イフリートの動きを鈍らせることをおすすめするぜ」
     逆に言えば、何もしなければ攻撃を命中させることも簡単ではないということである。
    「今回の敵を、無傷で灼滅するのは難しいだろうな。でも、こいつを打ち倒さないと、復活したガイオウガを止めることはできなくなると思う。お前達の勝利と無事を願ってるぜ」


    参加者
    城・漣香(焔心リプルス・d03598)
    黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)
    戦城・橘花(なにもかも・d24111)
    水無月・詩乃(汎用決戦型大和撫子・d25132)
    黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)
    神之遊・水海(宇宙海賊うなぎパイ・d25147)
    大夏・彩(皆の笑顔を護れるならば・d25988)
    果乃・奈落(果て無き殺意・d26423)

    ■リプレイ


    「敗戦によって燃え広がってしまったこの事態、なんとしても鎮めなければなりませんね」
    「うん、ガイオウガを回復させるわけにはいかない!」
     あと一歩のところで逃がしてしまったガイオウガ、その力の化身たるイフリートのいる竜脈へと続く洞窟の道を水無月・詩乃(汎用決戦型大和撫子・d25132)と黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)が並んで歩く。
    「見殺しになんてするもんか、燃やし尽くすなら、オレらが消し炭にしてやるよ」
     このイフリートを見逃せばガイオウガは力を取り戻してしまうだろう。
     城・漣香(焔心リプルス・d03598)はベルトに取りつけたフラッシュライトなどの装備の点検をしながら行く先を見る。
     念のために準備をして来た光源ではあるが、どうやらイフリートの体のみならず、目的地である大空洞にも溶岩はあるらしく、むせ返るような熱気と煌々と目に眩しい赤色が行く手に広がっていた。
    「一体だけ相手するのにこの緊迫感……感慨深いのはさておき真面目にやりますか!」
     まだ対面している訳でもないのに、この距離から感じるイフリートの存在感に神之遊・水海(宇宙海賊うなぎパイ・d25147)は気を引き締める。
    「これ以上被害を広げるわけにはいきません。強敵ですがここで倒しましょう」
    「絶対に、勝つ!」
     大空洞に突入し、イフリートに察知されるまで、もう間もなく。
     黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)と大夏・彩(皆の笑顔を護れるならば・d25988)は陣形配置へ移動しながら臨戦態勢を取った。


    「グォオオオォオオォォォオオオオッ!!」
     地を震わせる大咆哮。
     踏み込んだ大空洞は広大で、その最奥にいるイフリートが小さく見える。
     視線を交わすこと数瞬、灼滅者達を敵と認識したイフリートの開いた口が閃いた。
     その光は円形の大空洞を真っ直ぐ切り裂くように迸る。
    「せいっ!」
     寸分違わず灼滅者達の陣形の中心に伸びた熱線に向けて一歩前に踏み出したりんごが抜刀。
     日本刀で受け止め二条に分かれた奔流が大空洞の壁に激突する。
     あまりの熱量に炙られた部分から炭化し、りんごは衝撃で大空洞の入口まで押し戻された。
    「さて……やるか」
     眩い閃光が消えるより早く戦城・橘花(なにもかも・d24111)は柘榴と共に駆けていた。
     溶けていない足場を選んで跳び、遠く大空洞の奥にいるイフリートまでの距離を縮めるような勢いで疾走する。
     近くから見上げるとイフリートの全高は3階建てのビルほどもあり、それを支える四肢さえ2人の背より高い。
    「見た目通り固い……」
     橘花と柘榴はそれぞれ左右の後肢を手にした武器で斬撃するが、岩のように厚い表皮に阻まれているようで深い手応えはない。
    「……水海はちょっと自分の目を疑いたくなるの」
     イフリートを目にしてまず雲耀剣の命中率を調べようとした水海が思わず冷や汗をかく。
     丘のような大きさのイフリートに日本刀を振って当たる確率が2割強。
     信じ難いことではあるが、灼滅者である水海にとって瞳に映るそれは実感として受け取らざるを得ない。
    「殺す。ここで必ず殺す」
     フードの中から殺意に満ちた視線をイフリートに向けながら走る果乃・奈落(果て無き殺意・d26423)は、コートの裾からダイダロスベルトをなびかせるように広げる。
     展開されたダイダロスベルトはイフリートを射抜くべく一斉に方向を変えた。
    「ガイオウガは大地の化身、神に近い存在。なら神事を模すのも一興です。女の身では四股は踏めませんけれど」
     詩乃は清めの塩を撒くと返す手を払う動作でダイダロスベルトを取り出した。
     奈落と詩乃に合わせて水海も同時にレイザースラストを放つ。
     無数の帯に包囲され、イフリートは溶けるように地面に潜った。
     固いはずの岩盤が水面にでもなったかのようだ。
     目を瞑っても当たりそうなイフリートをすべて外すということはなかったが、何本かが潜行するイフリートの背や尾を叩くに留まった。
    「どこから出て来るかわからないよ。警戒しつつ今の内に体勢を立て直そう!」
     彩は漣香と共に祭霊光で熱線に被弾したりんごを回復しつつ声を掛ける。
     りんご自身もダイダロスベルトを包帯のようにして傷を覆っているがダメージは浅くなさそうである。
    「奈落さん、足許です!」
     奈落の足許が沸騰するように赤熱したかと思うと、唐突に地面に穴が開いたかのように大口を開けたイフリートの頭部が現れる。
     詩乃が突き飛ばすことで奈落と立ち位置を入れ替えるが、代わりに詩乃へとイフリートの顎が迫る。
     両腕を広げその先に展開したシールドと牙が衝突して火花を散らす。
     イフリートの唾液には防護を浸食する酸のような力があるようで、顎が閉じないように必死に拮抗している詩乃の防具にもダメージを与えていた。
    「放せ!」
     柘榴の撃った魔法弾と奈落のサイキックの刃を嫌ってイフリートが再び地中に沈む。
     解放された詩乃は直接牙による傷こそ負っていないものの、ダークネスであるイフリートの顎の剛力を受け止めた衝撃によろよろと覚束ない様子で立ち上がった。


     大空洞の先ほどとは対角線上の位置からイフリートの上半身が現れる。
     それほど深く潜ることはできないのか、よく地面を観察すればイフリートの移動の軌跡は赤い溶岩の線として捉えられた。
     ただしその速度は直線なら灼滅者達の全力疾走よりも遥かに速い。
     灼滅者達に向けて開かれたイフリートの口が陽炎のように揺らぎ、再び熱線が放たれる。
     狙いは仲間への攻撃を肩代わりした傷が癒え切っていない詩乃。
     何度かの攻撃からイフリートも灼滅者達と同じように確実に倒せそうな相手を狙ってくる傾向が読み取れた。
    「それならそれで先回りができます」
     予めイフリートの行動を読んだりんごが射線に割り込んで熱線を受ける。
     先を読み守りを固めて、それでもイフリートの攻撃の威力は凄まじいものである。
     特にりんごと詩乃は高い集中力で仲間達を庇い続け、2人でダメージの大半を肩代わりしていた。
    「シロ、お願い!」
     熱線を吐き切ったイフリートが地脈から力を吸っているかのように体に葉脈のような模様を灯らせる。
     間髪入れずに先ほどと同じ軌道で発射される熱線。
     彩の声に反応した霊犬のシロが飛び込んでいなければ、詩乃かりんごのどちらかに直撃していたであろう。
     しかし熱線の放射された後に身代わりとなったシロの姿は消えていた。
    「まったくその大きさでその動きは出鱈目過ぎだ」
     次の獲物を求めてイフリートが今度は地上を走る。
     地響きをさせながらビルのような質量の生物が高速で迫って来る威圧感は怖ろしい。
     橘花は踏み潰されないようイフリートの足許を縫うようにしながら、脚を刃ですれ違い様に斬りつけた。
    「くそ、間に合わないぞ。ここはお前に任せる!」
     イフリートが大口を開けながら噛みつかんと向かう先に立っているのはディフェンダーの2人。
     漣香はセイクリッドウインドを繰り返し使うことで2人に纏わりついた魔炎を払うが、本人達の自己回復を合わせても体勢を立て直し切ることができないでいた。
     漣香の言葉に頷くと、ビハインドの煉は注意を引きつけるために真正面からイフリートへと突撃する。
     目の前を浮遊しながら鼻先に攻撃をして来る煉を邪魔に思ったイフリートは標的を切り替え、その凶悪な牙で煉を噛み千切った。
    「その隙もらったの。どっせい!」
     イフリートの口を閉じても迫り出している一際巨大な牙の1本を、水海の雲耀剣が根元から両断する。
    「ガァァアアアァアアアアァッ!!」
     怒りを露わにしたイフリートは後肢二足で立ち上がり、足許にいる灼滅者達に向かって熱線を薙ぎ払った。
     ガキン。
     炎の柱となって迫る熱線が止まる。
     りんごが左腕を異形化し、更に幾重もの帯の防護を一点に集中することで受け止めたのだ。
     そこで力を使い果たしたりんごは意識を失って、ドサリと崩れ落ちる。
    「イフリートの動きが鈍くなってきてるよ。集中切らさないで!」
     後方から追いついて来た柘榴がイフリートの後肢に黒死斬を叩き込む。
     刃は確実に肉を抉るほど深くイフリートに斬り込んだ。
    「焦っているのか? 動きが雑になっているぞ」
     思わず前のめりに倒れ込むイフリートの体を奈落のレイザースラストが貫通する。
    「漣香先輩、わたしが先に前に出るよ」
     イフリートの高い回避力を削ぎ落とすことに成功した一方で、灼滅者達側もディフェンダーがあと詩乃一人になっていた。
     彩は予め決めていた通り仲間達の盾となるべく前に出る。
    「グルルルァオオゥ!」
    「お前の好きにはさせないよ!」
     起き上がる動作と同時に伸び上がるように奈落に噛みつこうとしたイフリートを彩が受け止める。
     後衛からイフリートの行動パターンをじっくり分析していたことと、ポジション移動をする際の優先順位を明確に決めていたことで、彩はスムーズに庇う行動を取れていた。
     問題があるとしたら、サーヴァント使いである彩の体力はそれほど高くないということだろうか。


    「もう一本もらうの!」
     水海の大上段から振り下ろした日本刀がイフリートの牙をもう1本斬り飛ばす。
    「動きを鈍らせても頑丈っていうのは質が悪いぞ」
     橘花のレイザースラストがイフリートの前肢を貫くことでよろめかせ、地中に潜ろうとすることを止めた。
    「熱線来るよ!」
     半身を溶岩化した地面に埋めながら、イフリートの体が赤々と発光する。
     もう何度も見た熱線を吐く前動作である。
     撃たれることがわかっていたとしても、その脅威が減るものではない。
    「詩乃先輩!」
     イフリートの視線の先に立つ詩乃が向かおうとする彩を手の動きで制す。
    「わたくしの方がまだ立っていられる可能性があります」
     そう言って詩乃は展開に展開を重ねたシールドを、自分とイフリートの間に何層も並べて集めた。
     実際には二人とも既に満身創痍、どちらが受けても戦闘続行は難しいだろう。
     放たれた熱線はシールドを次々と砕き、最後のシールドを抜ける時には集束が解けて放射状の熱風となって詩乃を吹き飛ばす。
     体力の限界であった詩乃は、倒れたまま立ち上がることはなかった。
    「いい加減に死ね」
     奈落がイフリートの背に飛び乗り、マテリアルロッドを突き立てる。
     流入された魔力による爆発でイフリートの背にある溶岩の表皮が砕け散った。
    「ガルルゥアアアァァ!」
     痛みと怒りに暴れ回るイフリートに奈落は背から振り落とされ、落下中にイフリートの顎が迫る。
    「怯えてたってなんにもならない。そんなのとっくにわかってた。だからオレは、此処に居るんだ」
     漣香が奈落に体当たりすることでイフリートの牙から奈落を逃がした。
     しかしイフリートの牙は漣香の肩に深々と突き刺さり、流血は炎となって燃え盛る。
    「わり……あと……まかせた……」
     最後の力でイフリートの顎から脱出した漣香は、受け身も取れずに倒れると意識を失った。
    「任された……と言いたいところだが、コイツ倒せるのか?」
     手を止めずに妖冷弾を撃ちつつ、橘花は仲間達に声を掛ける。
    「回避は下げられた。攻撃も抑えられてる。問題はあとどれくらい耐えられるかかな……」
     柘榴は冷静にイフリートの状態を分析する。
     戦闘開始時ほどの戦闘能力の差は既にない。
     しかしイフリートにまだ瀕死であるような様子はない。
    「水海も前に出ようか?」
     あるいはそれで灼滅できるだけの時間を稼げるかもしれない。
    「こいつはここで確実に殺す……だが恐らく時間はこちらに味方はしないぞ」
     奈落は少しでもイフリートを削るために、溶岩の殻のない腹部側に潜り込みつつ斬り刻む。
     灼滅者達の作戦に撤退は考慮されていない。
     そしてここから削り合いの持久戦になった場合に、灼滅者達側に出るのは更なる戦闘不能者だ。
    「ボク達の強みは数による連携の力……」
     時間が経過するほど、灼滅者達側の攻撃する手数は減っていく。
     もし全滅してしまえば、このイフリートが灼滅者達を生かして帰してくれる道理はない。
    「危ない!」
     戦況は推移する。
     橘花を庇って彩がイフリートの熱線を受け倒れた。
    「こいつを殺して誰も死なせない方法は……」
     そう呟いて柘榴はイフリートに向かって歩き出す。
    「…………!」
     柘榴の結論に一瞬遅れて気付いた灼滅者達が息を呑む。
    「グルルゥアアアァアアッ!!」
     イフリートも一際大きく吼え、柘榴に向かって飛び掛かる。
    「無駄だよ……もう詰んでいるんだ……」
     イフリートの牙は柘榴に擦り傷しか与えることができなかった。
     そしてイフリートに致命傷を与えるだけの力を、柘榴は自らの闇から開放していた。
     ゴッ!
     蹴られたイフリートの顎が跳ね上げられる。
     それを追って飛び上がった柘榴のオーラを纏った拳がイフリートの顔面を乱打する。
     残った牙が折れるどころか頭蓋が陥没し、頭部の原型が失われていった。
     更にその頭部を踏み台に跳躍し、イフリートの巨体に拳圧の雨を降らせる。
     拳圧だけでイフリートの四肢や尾は逆に折れ曲がり、内臓が破裂して胴体に穴が開いた。
     イフリートが絶命していることは誰の目にも明らかだ。
     ここまで一方的になったのは、ここまでの戦いでイフリートが十分に弱っていたからである。
    「みんな、ごめんね。あとはお願いだよ」
     柘榴は仲間達にそう言い残すと、大空洞を後にした。

    作者:刀道信三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134) 
    種類:
    公開:2016年10月12日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:成功!
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