炎獄の楔~業火の獅子

    作者:相原あきと

    「垓王牙大戦の戦いに参加した人は本当、お疲れ様! 結果は敗北だったけど、ギリギリの流れだったのは皆が解っているから……だから、今は顔を上げてすぐに次の事件に対処して欲しいの」
     エクスブレインの鈴懸・珠希(高校生エクスブレイン・dn0064)が集まった皆を労いつつ、今は敗北の反省より目の前の事件に当たってほしいと頭を下げる。
    「実は戦争後にガイオウガは、傷ついたダメージを回復させるために日本各地の地脈からガイオウガの力を集めようとしているみたいなの」
     珠希が説明する。
     それによれば、ガイオウガの力が日本中から復活したガイオウガの元に統合すると、奴は最盛期の力を取り戻してしまうらしい。そして、この事態を防ぐためには日本各地の地脈を守るガイオウガの力の化身――『強力なイフリート』――を灼滅する必要があると言う。
    「強力なイフリートの周囲には、多数のイフリートが守備を固めているみたいなの。このイフリート達は、垓王牙大戦で救出に成功した『協調するガイオウガの意志』の力で戦闘の意志を無くして無力化する事が可能になっているわ」
     それなら……と集まった灼滅者達の間で少しだけ緊張の糸が緩むも、珠希は首を振る。
    「でも、その意志の力も『強力なイフリート』には影響を及ぼせないわ。つまり、急ぎお願いしたい事っていうのは、その『強力なイフリート』を皆の手で撃破して欲しいの」
     ちなみに協調するガイオウガの意志とは、垓王牙大戦で尾を制圧した結果切り離したガイオウガの一部だったものであり、個性が乏しい猫型大型獣イフリートの姿で皆に数体が同行してくれると言う。会話等は不可能だが、彼らのおかげで守備イフリート達を無効化できるとの話だった。
     そして守備イフリートの戦意を刺激せず、また戦闘の意志を抑えたままにするためにも、今回は少数精鋭で『強力なイフリート』に挑む必要がある……つまりそれは相当に危険な任務である。
     珠希はそこで一呼吸だけ間を置き、真剣な表情で。
    「正直な話、誰かが闇堕ちをしなければ届かないかもしれないわ……もちろん、本当なら皆で無事に戻って来て欲しいのだけど……」

     そして珠希は地図を広げながら、今回皆に倒してもらいたい『強力なイフリート』との戦いを説明する。
    「戦闘が行われる場所は、この場所の地下の地脈周辺よ。この場所への誘導や、竜脈への移動については、協調の意志を持つイフリート達が行ってくれるから問題ないわ」
     その後、協調の意志を持つイフリート達は取り巻きの守備イフリート達を無力化すべく力を尽くしてくれるというので、灼滅者の皆は全力で『強力なイフリート』とだけ戦えば良いとの事だ。
    「皆のターゲットとなる『強力なイフリート』は、業火のたてがみを持つ威風堂々とした獅子型のイフリートよ。イフリートとしての力は相当強力だから気を付けて、もちろん炎の力以外にも、鋭利な爪は艦船をも両断するし、尖った牙には超常なるものを追い詰め殺す怨念が染みついているみたい……」
     攻撃方法はイフリートとしての力に爪と牙が主武器との事だ。会話や挑発は通じず、そのくせ戦闘の勘が良く無駄な手を打ってくる事はほぼ無いと言う。灼滅者が行なう1行動に無駄があったならすぐにピンチになるだろう……なぜなら、業火の獅子は短期決戦の方が得意のようだから、と珠希は言う。
     戦闘場所は地下の空洞での戦いになるが崩落などの危険は特に無いので、そこだけは気にせず戦えるらしい。
     すべての説明が終わり、珠希は皆の顔を1人1人見てから、キッと心を鬼にして言う。
    「もう一度だけ言うわ。今回の敵は本気で強敵よ。誰かが闇堕ちをしなければ届かないかもしれない……って言うのも……嘘じゃないわ。もちろん、その予感の上を越えて皆で無事に戻って来て欲しいっていうのが私の本音だけど……」
     それでも、優しい希望だけを言い続けるわけにはいかない。
    「でも、この敵を倒さないと復活したガイオウガを止める事は不可能となるわ……だから、お願い。なんとしても『強力なイフリート』を、倒して来て!」


    参加者
    赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)
    月雲・悠一(紅焔・d02499)
    霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)
    冴凪・勇騎(僕等の中・d05694)
    蛇原・銀嶺(ブロークンエコー・d14175)
    ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)
    猫乃目・ブレイブ(灼熱ブレイブ・d19380)
    オルゴール・オペラ(空繰る指・d27053)

    ■リプレイ


    『GURAAAAAAッ!』
     地下空洞へ足を踏み入れてすぐ、空気をも震わす炎獅子の雄叫びがあがる。それはこの距離からでも感じるボスの風格。普通なら戦争で殲術再生弾の加護のもと倒すような相手だ。
    「命懸けはいつも変わらねえんだから気張るコトぁねぇ。全力出すだけだ」
     赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)が言うと同時、遠くの炎獅子が肉食獣特有の跳躍で突進して来――。
    「おいおい、冗談じゃねー!?」
     布都乃の台詞は皆も思った事だ。炎獅子は普段見るイフリートの何倍も大きく、その巨体に炎の旋風を纏って突っ込んでくる。
     予想では猫乃目・ブレイブ(灼熱ブレイブ・d19380)が最初に動けるはずだった。しかし圧倒的に敵の方が早い、ならば……後列組が見たのは突っ込む炎獅子に仲間を守り薙ぎ払われる盾役達。
     ガラジャリッ!
     炎獅子はそのまま壁に激突して止まるが、壁が獅子に噛まれて削り取られ、2本の巨大な牙の生えた口から溶解した壁の一部がドロリと溶岩になって滴り落ちる。
     そのままゆっくり向きを変える炎獅子、次の瞬間。
    「真剣、勝負!」
     その声は獅子の頭上。ブレイブは庇われた僅かな間に壁を駆け上り獅子を空中から急襲。スルスルと着物の袖から白刃の帯がいくつも放たれ獅子の頭へ、まだまだ打ち込むにござる! と帯を複数追加するも。
    「なんと!?」
     弱点能力値だと推測した攻撃が回避される。
     もちろんソレを確認する暇すら惜しいと判断したオルゴール・オペラ(空繰る指・d27053)は、即座に布都乃に癒しの矢を飛ばし、同時「銀嶺」と短く名を呟いた。その意図を察した蛇原・銀嶺(ブロークンエコー・d14175)が、起きあがろうとしている自分たち盾役の中、布都乃と同じく危ない対象――ウィングキャットのサヤへと祭霊光を飛ばす。
     もしや得意な能力が気魄では無い?……と数人が思った時。
    「やべぇな、想像以上だ」
     炎獅子に向かって走り込みつつ冴凪・勇騎(僕等の中・d05694)が苦笑い、それに同意するのは同じく走り込む霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)。
    「俺達の予想通りなのがなんとも……絶望しかありませんね」
     クックとサバト服の中で笑う。
     2人は命中率予想力を駆使して初撃に何を使うか考えながら走っていた、結果――。
     勇騎が右に左に大きくステップを踏み炎獅子の視線を散らし、その隙に背後に回った刑一がサバト服から取り出した槍を死角から後ろ足へと突き刺す。瞬間、刑一の方を振り向く炎獅子、その後頭部へ勇騎が流星のごとく跳び蹴りをヒットさせる。さらに意識がそれた隙にとハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)が魔法弾を放つが、それは真横に跳躍した炎獅子に避けられてしまった。
    「敵の得意不得意は俺達の予想通りの順番です」
     刑一が皆に叫び共有化する。だが、それならなぜ、と誰かが叫ぶ。もちろんその答えは明白だ。
    「弱点能力すら、俺たちより上……単純な話です。まったく、強過ぎでしょう」
     こんなボス級の敵にたった8人を送り込むとは。
     いや、だからエクスブレインは言ったのだろう 
     ――誰かが闇堕ちをしなければ届かない……、と。

     炎獅子は強いだけでなく戦闘勘も良かった。自らに命中させられる者が少数だと解るや否や後列を狙ってくるようになったのだ。両手の爪を振り上げつつ後列に飛び込み、灼滅者達の陣形ごと森羅万象斬り裂くがごとく無数に爪を振り下ろす。
     月雲・悠一(紅焔・d02499)達前衛は敵の気をそらし、的を絞らせないよう立ち回る予定だったが敵が後列を狙うのではどうしようもない。銀嶺とアイコンタクトし、無駄が無いよう勇騎と刑一を爪の嵐から庇いきる。しかし、オルゴールを守るよう布都乃の指示で飛び出したサヤは、その爪嵐に切り裂かれ――。
    「サヤッ!」
     布都乃が叫ぶがゆっくり消滅していくサヤ。
     炎獅子がゆっくりと灼滅者達を見下ろす。
     それは圧倒的な……強者。


     今回、灼滅者達が取った戦術は中盤以降でこそ活きる戦術だった。つまり、それまでいかに耐えるかが……。
    「まだ倒れるわけにはいかねーよな!」
     悠一が叫ぶと共に、その背から不死鳥のごとき炎翼が生まれ同列の仲間達を癒す。さらに炎翼に重ねるようオルゴールが祝福の言葉を乗せた風で皆を回復。
     炎獅子は後列組に炎の突進しようと跳躍し――た瞬間、急に足を止めるとくるりと反転、回転する勢いを乗せて太い右手が唸りをあげ。
     狙われたのはオルゴール。
    「肝心要はヤらせねぇぜ、イフ公!」
     目の前に割って入るは布都乃、オルゴールを突き飛ばし、モロに炎獅子の右手に吹き飛ばされる。ベキベキベキと体の内部で何本も骨が折れる音が響き……しかし。
    「も、もう一撃で倒れるな……でもな、足掻いてやる。最期まで、な」
     なんとか身を起こしつつ凌駕した布都乃が言う。
     再び立ち上がった姿に炎獅子が驚異を感じたのか意識が逸れ……その瞬間、ここが分水嶺だと4人が動く。
     布都乃を見下ろす炎獅子の鼻柱が氷に覆われ、前足を持ち上げ驚く獅子。
     氷を放った勇騎が仲間に連携を叫び。
    「そこです! とーう!」
     獅子の下半身に巻き付くよう刑一が何本もの鋼糸を放ち。
    「デストローイ!」
     一気に鋼糸を締め上げる。それは神業的に獅子の足に刻まれた傷に重なるように糸が食い込み傷が広がった。
    『Guraaaaaaッ!?』
     悲鳴のような雄叫びを上げ、絡まる糸と共にドウッと倒れる炎獅子。
     瞬間、獅子の頭を飛び越え逆手にナイフを構えるはハリー。
    「元々は拙者達の撒いた種でござる。落とし前はきっちりつけていくでござるよ――ニンジャケンポー・ジグザグスラッシュ!」
     倒れた獅子の後ろ足をズタズタに引き裂く。
     ぶちぶちと鋼糸をちぎりながら立ち上がる炎獅子に、「それで終わりではござらん!」と突きの構えで真正面に立ったブレイブが叫ぶ。そう、最初とは命中率予想力が違う! 槍のように突けば氷の刃が放たれ炎獅子の2本ある牙の一本を貫きバキャリと破壊した。
     見事な連携だった。当初の目論見通りの流れに灼滅者達の胸に希望が灯る。これなら――。
     その時だ。ゆっくりと立ち上がった炎獅子が四肢を踏ん張るように動きを止める。
     最初に気がついたのは銀嶺だった。視界の中で赤い火の粉片のような物が目に付く。これは……?
     キラキラキラキラ――。
     赤い粉片同士が金属が当たるような小さな綺麗な音を立て、同時、銀嶺は珍しく大きな声で盾役達に叫ぶ。
     轟ッ!
     瞬間、炎獅子が炎を吐き出しその炎は周囲の赤い粉片を巻き込み一気に周囲一帯を誘爆させる。
     ――カッッッッッ!!!!!
     あまりの炎量に地下空洞が真っ白にホワイトアウトする。
     そして、視界が落ちついた時、そこには後衛を庇う事に間に合った盾役達が……全員、倒れていた。
    「ありがとうよ……咄嗟の一言、さ」
     魂の力のみで立ち上がりつつ悠一が銀嶺に礼を言う、対する銀嶺も同じだった、凌駕しなんとか膝立ちで頷くのが精一杯。
     しかし、布都乃は大の字に倒れたままピクリとも動かない。最後に庇って倒れた分だけ暁光だったかもしれない。
     大爆発を引き起こした炎獅子が灼滅者達の前で再び雄叫びをあげる。それはまるで、ここからが本番だ、と言っているかのよう……。
     絶望は――まだ、終わらない。


    「ぐあああぁっ!?」
     炎獅子に食われたハリーが悲鳴をあげる。前衛が瓦解しつつある隙に決め打ちで狙われたのだ。ハリーを噛んだまま螺旋のごとく振り回す獅子、腹から千切れそうなほどの痛みが走りハリーの意識が白濁していく。
     そこに火の玉――いや、全身から吹き出た血を炎に変えた悠一が飛び出し、獅子の横っ面に戦槌を叩き込む。衝撃と派手な炎の固まりに一瞬気が逸らされ、その隙に銀嶺が炎獅子の口元に手をかけ、牙にかかったハリーを助け出す。その時だ、口元から飛び降りる瞬間、炎獅子の片目と目があう銀嶺。その瞳は『いい加減にしろ』と言っているようで――。
    「爪の連打が来るぞ!」
     同じく獅子を戦槌で殴って着地したばかりの悠一が叫ぶ。
     炎獅子の狙いは……前衛。
     言いつつ悠一はブレイブの前へと走り込み、銀嶺は手にしたハリーをオルゴールへ投げる。
     瞬後、両の爪で近接にいた者達を森羅万象斬り裂くごとく暴れ回る獅子。
     空中で切り裂かれた銀嶺がズタボロになり落下し、悠一もブレイブの前で糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
    「ハリー、目覚めて」
     オルゴールが天使の歌声を響かせ治療を施そうとするも――その手をガシとハリーに捕まれ止められる。
    「せ、拙者、次に食らったら耐えられないでござる。回復なら他の者へ……」
     魂の力のみでやっと立ち上がりナイフを構えるハリーにオルゴールはこくりと頷き、後列全員に祝福の言葉を乗せた風を送り回復させる。
    「少しでも多く削るにござる!」
     ちらりと庇ってくれた悠一へ目だけで礼を言い、ダッと駆け出したブレイブが刃持つ利き腕を炎獅子に向け、体内で生成した毒性の光線を射出。わずかに獅子がそちらを向いた、その時を狙い。
    「本当に……熱い相手じゃないですか。しかし俺も嫉妬の炎に爆破の炎、熱さじゃ負けられませんがね!」
     言いつつ氷を放つ刑一。
     その刑一と連携し炎獅子の足下に滑り込むは勇騎、滑りつつ右腕を鬼の――「チッ」と命中率が悪すぎる為キャンセル、即座に手に風を生みだし幾つものカマイタチを獅子の腹へとぶち込む。風に押された前足を上げ後ろ足立ちになる炎獅子……しかし、目を見開くとそのまま僅かに沈んで後ろ2本で跳躍、くるりと体勢を建て直し四肢で着地。
     キラキラキラ――。
     まずいと誰もが思った瞬間、獅子の炎が粉片を誘爆させる。
     ――カッッッ!
     一瞬のホライトアウト、その大爆発はオルゴール達後衛を直撃。
    「皆、大丈夫でござるか!?」
     ブレイブが叫ぶ。
    「ゆ、ゆる、さない……のよ」
    「ま、まだ、やられフラグには足りません、ね……」
     ぎりぎり耐えたオルゴールと刑一が立ち上がり、そして。
    「ああ……まだ、倒れるわけにはいかねぇ」
     勇騎もゆっくり立ち上がる。悠一たちがずっと守ってくれた、だからこんな簡単に倒れる訳にはいかないのだ。
    「てめぇの尻拭いを、他の奴に任せるわけにはいかねぇからな」


     戦いは続き灼滅者達と炎獅子の猛攻が交互に繰り返される。
     そんな中、途中でカーブを描いて突進方向を変えた炎獅子にハリーが跳ね飛ばされる。
    「大丈夫でござるか!?」
     慌てて近くにいたブレイブが駆け寄るも、ズタボロになったハリーの姿を見た皆が、ここまでか……と表情に影を落とす。
     だが――。
    「こ、ここでこやつを逃せば……ガイオウガの被害は日本中に広がるでござる……」
     ボロ雑巾のようなハリーがゆらりと立ち上がり。
    「だ、だから……必ず。ここで仕留めさせて貰うでござる。拙者の、矜持に賭け!」
     怒濤のようにサイキックエナジーを吹き上がらせる。
     様子の変わったハリー、だがブレイブは何もなかったように横に並び。
    「その矜持、拙者も同感でござる」
     その想いはブレイブだけではない、刑一も勇騎もオルゴールも、倒れたままの悠一も銀嶺も布都乃も皆同じ。
     なんとしても……ここで!

     闇堕ちしたハリーを中心に灼滅者達が炎獅子へとコンビネーションを繰り出す、特にバッドステータスを大量に付与する役目だったハリーが闇堕ちしたのは炎獅子にとって最悪だったといえる。
     そして――スチャリ。
     今まで回復しかしてこなかったオルゴールが剣を構える、それは血晶剣オペラ、ここより先は回復が無駄な時は攻撃が必要だと判断したからだ。炎獅子が今まで見せなかった武器に視線を向けた、その一瞬の隙に、オルゴールは小さな背をかがませ獅子の足下へ――ふと別府の惨状がチラつくもそれは一瞬――オルゴールはそのまま又下をくぐり抜けると剣を大地に突き刺し急ブレーキ、ぐるりと剣を支点に背後から元気な方の足へと強烈な蹴りを叩き込む。軸足に走った衝撃に倒れ込む炎獅子に対し即座に仲間達が攻撃を叩き込むも、炎獅子は四肢を踏ん張り宙へ跳び落下と共に無数の爪を振り下ろしてくる。爪の嵐、その中を刑一は駆ける。黒いサバト服のそこかしこが破れ燃えていくが見据えるはただ一点。獅子の着地点へたどり着くと鋼の糸を炎獅子へ。
     ズガンッ! 落下の衝撃で刑一が吹き飛ばされる。しかし、獅子の上からも鋼の糸は降る――勇騎だ。
     その糸は刑一の糸をも巻き込み、炎獅子の傷という傷にダブルで食い込む。
    『GURAAAAAAッ!!!』
     炎獅子が炎を吹き上がらせ鋼糸を弾けさせる。同時、聞こえるあの音。
     キラキラキラ――。
     ――カッッッ!
     ホライトアウトの瞬後、大爆発。
     巻き込まれたのは前衛、勇騎に続いて連携を決めようとしていたブレイブとハリー。
     自身の周囲を誘爆させたた炎獅子だが、ぜぇぜぇと肩で息をする。口から漏れる炎も灯火だった。
     その時だ、爆発の中、その炎を背にゆっくりと現れるはブレイブとハリー。
    「これ以上の被害を出さぬため。折れぬ心をここに」
    「………………」
     魂の力で立ち上がったブレイブが叫び、ハリーは無言で獅子を睨む。
    「この敵は討ちもらしてはならぬ敵……もう1撃、つき合ってもらうでござるよ」
    「……心得た、でござる」
     何かを必死で押さえようとする声音でハリーが頷く。同時、2人は地を蹴り炎獅子へと走り込む。対する炎獅子も灼滅者を噛み砕こうと大きく牙並ぶ口を開き――瞬間、ハリーが分身、ダブルで獅子の口の左右に別れ同時にズババッと残っていた全ての牙を切り払う。
     あまりの痛みに炎獅子が呻き、吠える。だが、すぐにもう1人いたと視線を戻すもそこにブレイブはおらず。
    「これが、拙者らの矜持でござる!」
     牙を失った炎獅子の舌の上に立ったブレイブが呟き、流れるような構えと共にその手に持っていた刃が非物質化しいつもの日本刀となる。
     瞬後、違和感に気づいた炎獅子が喉の奥から炎を吐き出すも――。

     斬ッ!!!!!

     少しずつ、炎獅子が吐き出していた炎が消える。
     そして……ズズ――ン。
     口内より首に達するほど斬り裂かれたその巨体は、ゆっくりと大地へ横たわったのだった。
     今回、小さな部分まで含めてミスは1つもなかった。だが、それだけだ。もし命中し辛い状況の前半にもっと効率良く動くことができれば結果は違っていたかもしれない。
     だが、それでも炎獅子は倒した。
     悠一や銀嶺、布都乃に肩を貸し仲間達は入り口へと戻る。ただ振り向けば地下空洞に1人、忍び装束の男は仁王立ちで動かない。
     誰とも無くその後ろ姿を見つめた時、肩を貸してもらい立つ布都乃がボソリと言う。
    「手前の撒いた種は手前で摘まねぇとな」
     それはどちらの結果に対する言葉か、どうとでも受け取れる言葉だった……。

    作者:相原あきと 重傷:赤槻・布都乃(渇求の影・d01959) 月雲・悠一(紅焔・d02499) 蛇原・銀嶺(ブロークンエコー・d14175) 
    死亡:なし
    闇堕ち:ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314) 
    種類:
    公開:2016年10月12日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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