「みんな、垓王牙大戦、お疲れ様だ。勝利こそ得られなかったが、ガイオウガも損傷は深刻で、現在は回復に専念しているようだ。本格的な活動を先送りできたのは、間違いなく皆の奮闘のお陰だ」
初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)はそう灼滅者達を労うと、表情を引き締めた。
「さて、現在ガイオウガは傷を癒すため、日本各地の地脈を通じてガイオウガの力を集めようとしている。もし、その力が一身に統合するような事があれば、ガイオウガは完全なる復活を遂げてしまうだろうな」
その時こそ、本当の破滅が訪れる。
「それを止めるには、地脈を守るイフリートを灼滅し、力の回収を防ぐしかない。ガイオウガの力の化身である、強力なイフリートを」
『強力な』の部分を強調する杏。
「こんな事を言うのは気が進まないのだが……勝利のためには闇堕ちも覚悟しておいてほしい」
それだけ、相手は強大である、ということか。
「地脈守護者たるイフリートの周囲は、多数のイフリートが守備を固めているようだ。だがこのイフリート共は、垓王牙大戦で皆が救出した『協調するガイオウガの意志』の力で戦意を失くし、無力化する事が可能だ」
ただし、条件がある。取り巻きのイフリートの戦意を刺激しないよう、少数精鋭で戦いを挑まなければならないという事。
「自分達が手助けする余裕はないって事っすね……」
悔し気な声を上げたのは、狗噛・吠太(中学生人狼・dn0241)。
しかも、強力なイフリートまでは無力化できないため、こちらは灼滅者が灼滅しなければならない。
「協調するガイオウガの意志の力は、数体のイフリートとなって協力してくれるぞ。いずれも似た容姿をした猫型の大型獣だ。友好的なのだが、こちらとの会話などに応じる事はないようだな」
戦場は、地下に広がる地脈、その周辺の空洞で、そこまでの誘導および竜脈への移動については、協調の意志を持つイフリート達に任せて大丈夫だ。
「彼らは、取り巻きのイフリート達を無力化すべく行動してくれるから、皆は強力なイフリートとの戦いに専念してくれ。討つべき相手の名は『壊轟獣(かいごうじゅう)ヴァルム』」
その姿は、アパトサウルスを彷彿させる首の長い四足獣。しかし、全身を覆う鎧の如き鱗、頭部には左右一対の巨大な角と、攻撃的なフォルムを持つ。
その牙に炎を宿してあらゆるものを食いちぎり、口からは莫大量の火炎を放つ。たとえその鱗を貫き損傷させたとしても、並みのイフリート以上の再生力がそれを即座に回復するであろう。
更にヴァルムはその強靭な四肢を地面に叩きつけることで、クレーターすら生む大震動を巻き起こすという。
なお、戦場となる地下空洞は、崩落などの危険はないので、存分に力を振るって欲しい。
「厳しい戦いになるのは間違いないだろう。だが、ここで敵を打ち損じれば、ガイオウガを止める術は失われたも同然。全員で、全力を尽くしてほしい」
いずれ、ガイオウガとの真の決着を付けるために。
参加者 | |
---|---|
石弓・矧(狂刃・d00299) |
神門・白金(禁忌のぷらちな缶・d01620) |
蒼月・碧(碧星の残光・d01734) |
赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006) |
崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213) |
船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718) |
ユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055) |
カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266) |
●友たる獣と共に
赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)の厚底の靴が、未踏の地に硬い音を立てる。
地脈へとつながる地下空洞を進む一行……その数、8人。
しかし、地脈へと赴くのは、灼滅者達だけではない。先導者として前方を歩くのは、猫の如きしなやかな体躯を持つ炎獣……協調の意志を持つイフリート達だ。垓王牙大戦の敗北の中勝ち得た、心強い味方である。
「君らもどう?」
崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)が差し出したのは、仲間にも振舞ったもみじ饅頭だ。傍らでは、カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)も、食いしん坊ぶりを発揮していたりする。
すると猫型イフリート達は饅頭を見つめたものの、すぐに進行方向へと視線を戻した。
だが、その仕草に険はなく、「お気遣いなく」と言っているように見えた。だから來鯉は、にこり笑って自ら饅頭を頬張った。
さて、今回は、船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)が全体・攻撃の指揮を、蒼月・碧(碧星の残光・d01734)がその補佐として、防御・回復の指揮を執る分担になっている。
更に、連携をスムーズに行う為、インカム付き携帯電話が用意されていた。
「ええと、これで話せばいいのか? あーあー……ちゃんと聞こえてるかね……?」
極度の機械音痴である神門・白金(禁忌のぷらちな缶・d01620)を、亜綾やユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055)らがフォローする。
「ああ、問題ない。それにしても、巨竜討伐とは、これまでになく困難極まる相手だね」
シンプルに強力な相手というのは、ある意味一番厄介かもしれない。
「っ」
皆が、その気配を感じたのは同時だった。
空気に含まれる熱と圧が増大する。その元凶が、皆の視線の先に現れる。
岩塊のごとく体を丸めた巨大な獣。そして、その周囲を取り巻く炎獣の群れ。
「あれが、壊轟獣ヴァルム……そしてそれを守るイフリート達ですか」
石弓・矧(狂刃・d00299)の眼鏡の奥の瞳が、敵を見据えた。
敵性イフリートの群れは、こちらを視界に収めるなり、痛いほどの敵意をぶつけてきた。中でもヴァルムの威圧感は、一体で群れのそれを凌駕していた。
すると猫型イフリート達が、鼻先をくいっ、と動かし、灼滅者達を促した。取り巻き共は自分達に任せろ、と。実際、敵の群れは不可視の力の干渉を受けたように、動きを止める。
「ここまでの案内、ありがとうございます。皆さんもどうかご無事で」
矧が猫型イフリート達に感謝を述べる。
ここからは……灼滅者の戦いだ。
●脅威の獣
「本当に恐竜みたいなやつだな。あの鱗……硬そうだ」
6、7メートルはあろうか。首をもたげる壊轟獣を見上げると、白金は鋼糸を取り出した。
シルエットこそ草食恐竜に近いが、全身を包む攻撃的ななフォルムの甲殻、そして紅玉のような瞳に宿るどう猛さは、肉食獣のそれだ。
「みなさぁん、状況開始ですよぉ」
亜綾が、瞳に神秘の力を宿すと、手を掲げた。
リングコスチュームに身を包んだ鶉が、岩を蹴って加速した。
「壊轟獣! 私の全てでKOしてみせますわ……勝負!」
初動から出し惜しみなしの高速戦闘。矧も、それに続いた。ヴァルムの一挙手一投足を注視するのも忘れない。
「長い首には注意ですね」
同時攻撃により、相手の注意を分散させる。そうして強引に死角を作り出すと、亜綾の合図で、鶉と矧が、ヴァルムの脚部を相次いで切り裂いた。
だが、
「硬い……!」
その手応えが、脅威度の高さを実感させる。
ならば、畳みかける。亜綾の足元から駆け出したのは、霊犬の烈光さんだ。護りの加護を得たユーリーと共に、斬りかかる。だがその時、
「尻尾が来るよー!」
カーリーの警告が響いた。ヴァルムにしてみれば牽制程度の行為なのだろうが、何せその巨体だ。十二分に障害となる。
だが、カーリーの呼び掛けが功を奏した。ユーリー達はとっさに尻尾の薙ぎ払いをかわすと、反対にそれを足場として駆け上がった。
ユーリーの相棒・霊犬チェムノータも加わり、ヴァルムの背や各部に攻撃を加えていく。
しかし、いつまでも自分の体を遊び場のように提供するヴァルムではない。
身をよじりユーリーや霊犬達を振り払うと、口元に赤いものをちらつかせた。
甲殻の隙間からマグマの如き輝きがこぼれた次の瞬間、赤は火炎の渦となって、とっさに反応した烈光さんを丸ごと飲み込む。
一瞬にして消滅してしまうのではないかと思わせる威力に、皆が息を呑んだ。
「確かに怖いけど負けるわけにはっ」
熱気を肌で感じながら、碧が癒しの矢を射た。烈光さんを焦がす炎を鎮める。
「ここまででかいなら遅い……と思うが。こいつはどうなんだろうな」
攻撃ポイントに陣取った白金が、鋼糸を放射した。ヴァルムに、とっさにバックステップできるような俊敏さはない。幾筋もの束縛が、大樹のような足を拘束していく。が、気を抜けば、体ごと持っていかれそうだ。
「ヴァルムの動きが停滞しているうちにっ」
碧に応え、來鯉が祭霊光を放った。霊犬のミッキーも、油断なく移動しつつ、回復に急ぐ。
一方前線では、カーリーのまいた吸血鬼の霧が、皆の攻勢を後押しする。敵は、エクスブレインに聞いていた通り……いや、それ以上の強さを持ってカーリー達を圧倒してくる。
しかし、どれだけの強敵であろうとも、みんなで力を合わせれば、
「ボクは、帰って皆と楽しく過ごしたい! まだまだがんばっていくぞー!」
●灼熱の死闘
ヴァルムのリーチは、長い。たとえ離れた場所に控えていようとも、その首は狙ったものを確実に焼き尽くし、あるいは喰らいちぎる。
しかし、指揮担当の的確な指示や、互いの連携によって、致命傷は避けられていた。
更に、ディフェンダー達の奮闘が、後衛への被害を留める。指揮や回復をつかさどる亜綾や碧達が疲弊すれば、連携が崩れてしまうだろう。
ゆえにヴァルムは、ディフェンダー達を優先的に排除すると決めたようだった。
「前衛諸君! 範囲攻撃に備えてくれ!」
ユーリーの声は、インカムを通じて全員へと響いた。
恐るべき速さと滑らかな動きを両立させたヴァルムの首が、360度を蹂躙した。炎にコーティングされた牙が、1人、また1人と餌食にしていく。
だが、壊轟獣の暴虐に待ったをかけたのは、亜綾のバスタービームだった。着弾と同時に塵を舞い上げる。切り開かれたチャンスに、攻めに出たのは、鶉。
ぎりり、と片腕を覆う縛霊手に力をこめる。インカムからは、損傷の激しい箇所の指示が来る。それを狙って打撃すればいい。
白金の鋼糸がヴァルムを一所に釘付けにしたのを確かめ、鶉は必中の一撃を加える。
ヴァルムが後退する震動を身に感じながら、來鯉が、クルセイドソードを地面に突き立てた。刃の刻印から生まれた風はただ仲間達だけを包み、 その身を焼く焔を鎮静化させていく。
來鯉の剣は、必ず帰って来るように、という願いと共に預けられたミミングスの剣。
碧が、自らを守るように滞空させていたダイダロスベルトを射出した。それはヴァルムをかすめたのみ。傷つくユーリーの体を保護し、治癒を行うためのものだった。
「感謝する、蒼月」
ユーリーの声が離れた碧の耳に届くのを、破壊音が遮った。
連続して飛来する炎弾を、身をひねって回避する矧。熱が頬を灼き、髪を焦がすのもいとわず、着弾時の爆風に乗って接近すると、斬撃を浴びせた。
ヴァルムが動くたび揺れる地面に、ユーリーは一時の別れを告げた。跳躍と共に放った裂ぱくの気合は、十字傷となって、ヴァルムの背に刻まれる。
連携はなおも途切れない。
「無事に皆で帰って、パーティするんだ……!」
カーリーの黒き波動が、疲労した甲殻を振動させ、ヒビを生じさせる。鱗は次第に砕かれ、肉が露出していく。だが、一吠すると、損傷部が再生を始めた。不死鳥の如き回復力が、灼滅者の努力をあざ笑う。
だが、制限された体の自由までは取り返せない。
一方で、灼滅者のダメージも限界に近付きつつあった。
これ以上自由にはさせない。亜綾の命に従った魔力は、ヴァルムから熱を奪い取る。瞬時に冷却されたエネルギーの余波は、その足元さえ凍り付かせる。
しかし、ヴァルムは氷の束縛を砕き割ると、雄叫びを放った。高く振り上げられた両の前足が、地面を叩く。四方に走る亀裂。同心円状に広がる衝撃が、周囲にいたもの全てを虚空に舞い上げた。
地面に叩きつけられた烈光さんやミッキーは、倒れたまま、動かない。
これが『壊轟獣』の名の意味であると、灼滅者達は思い知った。その身を以て。
●魔炎に消えゆく
「私達は、必ず。ええ必ず勝ちますとも!」
懸命に氷弾を撃ち出す鶉や、破れた皮膚からこぼれる血もいとわず拳を繰り出す矧だが、いずれも、疲労の色が濃い。
カーリーも懸命に再生の旋律を奏で続けるが、
「きゃぁぁぁっ!」
「赤松殿! ぐっ!」
炎牙に砕かれ、放り投げられる鶉とユーリー。得物を支えに立ち上がろうと試みるが……力なく倒れる。
更に、割って入った矧の拳が届くより早く、炎がその身を吹き飛ばした。至近からの直撃に、矧の意識が一瞬で奪い去られる。その体は、ぴくりとも動かない。
そして、ヴァルムの紅玉の瞳は、カーリーを次の獲物に定めた。必死に後退するカーリーを長い首が追撃する。
とっさにかざした大鎌が盾となり、致命傷こそ免れたものの、カーリーもまた、戦線離脱を余儀なくされる。
來鯉は、仲間達を顧みた。甲殻は劣化し、首も地を這うような状態。もはやヴァルムの損傷は相当なものだ。しかし、こちらも前衛を欠き、疲弊した状態で押し切れるかは、賭けに等しい。
「亜綾先輩、皆さん、後は任せました。……全滅するわけにはいかないですから」
決断したのは、碧だった。
噴出する闇が、全身を包む。ヴァルム達ダークネスと同質の禍々しき闇。
漆黒のヴェールのうちより現れたのは、元の碧とは似ても似つかぬ、冷たい眼光を宿した悪魔の化身。
「ふむ、外に出られたのか……ならば、感謝ともに撃ち滅ぼしてやろう」
チューニングするように四肢を動かしていた碧が、手を掲げた。
黒く染まったダイダロスベルトが蛇のごとく駆け巡ると、ヴァルムの全身を切り刻んだ。
ずぅん。圧倒的な速力と攻撃力の前に、ヴァルムが地に伏せる。
「僕らも行こう!」
來鯉が、後方支援として保ち続けてきた距離を一気に縮めた。碧の攻撃の間隙を縫って、縛霊手を叩きつけた。激突の瞬間溢れた霊力が糸となり、巨大な足を縛り付ける。
「今だよ白金ねーちゃん!」
言うが早いか、來鯉の傍らを疾風が吹き抜けた。
疾風……駆ける白金は、残る全ての力を拳にこめて、連打する。無数の光の花が咲く。
「ガ……ッ!」
ヴァルムの顎が砕かれ、天を仰いだ時、白金は拳を引いた。
「後は任せたぞ」
白金が振り返る事なく告げた相手は、上空より迫る影……亜綾だ。
いつもなら相棒とのコンビネーションによって成立する技。しかし、烈光さん抜きでも決めて見せる。
唸るバベルブレイカーが、ヴァルムの胴体を貫いた。貫き通した。
「オオォォォォォォ……ッ!!」
ヴァルムの咆哮が、空気を、地面を、そして灼滅者達の鼓膜を震わせる。
だが、それは、断末魔。
ぴんと張った首が一気に弛緩し、地面に叩きつけられたかと思うと、炎に全身を包まれ、消滅していく。
これで、ガイオウガへの力、その流れの1つは止める事が出来たはずだ。
「けど、勝ってパーティ……っていうわけにはいかないかな」
意識を取り戻したカーリーが、力なく笑う。
ヴァルムの消滅を見届けるや否や、碧は姿を消していたのだった。
「皆さんは、無事ですか……」
「無理しなくていい。私達は大丈夫だ」
自分の負傷も顧みず、仲間を案ずる矧を、白金がなだめた。ユーリーや霊犬達も、既に身を起こしている。
「今回はこれに……助けられましたね……」
矧が触れたのは、皆をつなげたインカムだった。
「けれど、まだ戦いは終わっていませんわ。次の戦いに備えなくては」
熱のこもった鶉の決意に、傷ついた烈光さんを抱きかかえながら、亜綾が頷いた。
そう、ガイオウガとの決死戦、そして、闇に堕ちた仲間を救うための戦いだ。
作者:七尾マサムネ |
重傷:石弓・矧(狂刃・d00299) 死亡:なし 闇堕ち:蒼月・碧(碧星の残光・d01734) |
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種類:
公開:2016年10月12日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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