「垓王牙大戦は敗北に終わったっすけど、皆の決死の奮闘によって、ガイオウガも深く傷つき回復に専念しているっす」
そういう意味では痛みわけっすね、と湾野・翠織(中学生エクスブレイン・dn0039)は切り出した。しかし、それには、と翠織は続ける。
「痛みわけで終わるかどうかは、今後にかかってるっす」
現在ガイオウガは回復のため、日本各地の地脈からガイオウガの力を集めようとしている。日本中のガイオウガの力が復活したガイオウガの元に統合した時――その時こそ、ガイオウガが最盛期の力を取り戻す時だ。
「この事態を防ぐため、皆には、日本各地の地脈を守る、ガイオウガの力の化身……強力なイフリートの灼滅をお願いしたいんす」
強力なイフリートの周囲は、多数のイフリートが守備を固めている。ただ、このイフリート達は垓王牙大戦で救出に成功した『協調するガイオウガの意志』の力で戦闘の意志を無くして、無力化する事が可能になっている――問題は、この意志の力も強力なイフリートには影響を及ぼせない事だ。
「だから、強力なイフリートについては灼滅者の手で撃破する必要があるんす。それに加えて、戦闘の意志を抑えるためには、イフリートの戦意を刺激しないように、少数精鋭で戦いを挑む必要があるんすよ……」
場合によっては闇堕ちを覚悟しなければ届かない――そういう危険な任務だ。
翠織は一枚の地図を広げると、サインペンで一本の線と丸を描いた。
「みんなに担当してほしいイフリートは、巨大な緋色のトカゲに似たイフリートっす。戦場は、地下空洞になるっす」
敵の強力なイフリートは、体長は六メートル強。鱗の一枚一枚が岩のようにごつく、強固な硬さを誇っている。加えてその鱗に覆われた四メートルはある尾は、蛇腹の刃のように鋭い。
「周囲の取りまきは、尾から現れた三体の猫型大型獣のイフリートが相手をしてくれるっす。だから、みんなはこの強力なイフリートの対処をお願いしたいっす」
戦う敵は一体に等しい――しかし、簡単に勝てる相手ではない。
「でも、これを打ち倒さないと復活したガイオウガは止められないっす。どうか、よろしくお願いするっすよ」
参加者 | |
---|---|
喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788) |
無道・律(タナトスの鋏・d01795) |
嵯神・松庵(星の銀貨・d03055) |
深火神・六花(火防女・d04775) |
水無瀬・旭(瞳に宿した決意・d12324) |
異叢・流人(白烏・d13451) |
ダグラス・マクギャレイ(獣・d19431) |
ディートリッヒ・オステンゴート(狂焔の戦場信仰・d26431) |
●
その灼熱の洞窟は、無数の炎に照らし出されていた。その炎の一つ一つが自身の力を凌駕する存在なのだと、深火神・六花(火防女・d04775)は肌で感じ取る。
(「いよいよ炎邪との戦も大詰め…でも今回の敵は、生半で勝てる手合いでは無い。場合によっては……」)
悲愴なまでの決意――それは、そこにいたすべての者が秘めていたものだった。
「地が深く傷つき、故郷を追われた人もいる。人達に対して、僕が出来る精一杯の償いをする為に来た――克とう、荒神にやりこめられるだけが人の役割ではない筈だ」
「あぁ、厄災を招く前に灼滅させて貰おう」
無道・律(タナトスの鋏・d01795)の言葉に、喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)が言い放つ。その気配を察したのだろう、灼滅者達の背後に控えていた『協調するガイオウガの意志』から生まれたイフリート達が身構えた。
「――圧巻だな」
水無瀬・旭(瞳に宿した決意・d12324)が、眼前へと迫ったイフリートの群れに呟く。一体一体が災害がごとき力を宿したイフリートだ――しかし、その中心に立つ群れの主の前では色あせた。
鱗の一枚一枚が岩のように頑強なトカゲ――あるいは、竜を思わせるイフリートだ。鱗に覆われた四メートルはある蛇腹の刃のような尾をくねらせ、イフリートは大地を踏みしめた。
「……失敗の後始末であり、今後の防護でもあるって所か。ま、どっちにしろ遣る事ぁ1つだな」
ダグラス・マクギャレイ(獣・d19431)が、歯を剥いて笑う。理屈はいくらでもある――だが、背を刺すような戦慄と滾り。強敵だという予感の前では、すべてが吹き飛ぶ。
「――そろそろだ」
既に戦闘体制に入っている異叢・流人(白烏・d13451)が、一歩前へ出る。その動きに、嵯神・松庵(星の銀貨・d03055)が告げた。
「行こうか」
「はい!」
ディートリッヒ・オステンゴート(狂焔の戦場信仰・d26431)がサバモンボールを宙へ放り投げ、六花が駆け出した。
「炎神、山の大神……我等に、御加護を……! ――炎神! 輪壊!!」
『オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
群れの主の咆哮が、洞窟を地響きのように揺るがす。その揺れに、ダグラスが吐き捨てた。
「さて、洞窟が崩れなきゃいいんだがな」
その冗談に、笑える者は誰もいなかった。
●
群れが灼滅者達に襲い掛かろうとするのを、三体の猫型大型獣のイフリートが阻んでいく。一直線に生まれた道、それを阻むように群れの主がその尾を振るった。
地面を、壁を、天井を――蛇腹の尾は頑強な岩石をチーズのように削っていく。その刃の嵐は、迫る灼滅者達を飲み込んだ。
「炎邪眷族! 涅槃へ消え去れ!! 気狛、吠え叫ぶ……!」
六花の畏れをまとった袈裟懸けの斬撃は、しかし岩石の鱗に線を刻むに留まる。イフリートの、まるでそれがどうしたと言わんばかりの視線――それを真っ向から受けてダグラスが駆け込んだ。
「上から見下ろしてくれるじゃねぇか!」
ダグラスの雷を宿した拳の一撃、抗雷撃がイフリートを顎を捉え――弾かれた。硬い、その手応えを表現する言葉はそれしかない。そのまま頭上から降ってくる前脚、それをダグラスは真横に跳んで回避した。
ガゴン! と踏みしめだけで、地面が砕け散る。そこへ砕けた地面に身を隠した旭が疾走、双刃の馬上槍を横に構えて一気にイフリートの前脚を斬り付けた。
(「何だ、この――」)
ゾクリ、と旭の背に、冷たいものが走る。黒死斬の一閃、それだけで相手と自身の身体能力の圧倒的差を思い知ったからだ。スナイパーの自分でこれなのだ、徹底的に下げていかなければまともな一撃を加える事もできないだろう。
「駄目だ、まともに殴りあっていてはこちらがもたない!」
「そのようだ」
その旭の言葉を耳にしたからこそ、流人は迷わない。壁を足場に回り込む流人は、ディートリッヒへと素早く癒しの矢を射た。回復を受けて、ライドキャリバーのファルケを駆って、ディートリッヒがイフリートへ迫った。
ガガガガガガガガガガガガガン! とファルケの機銃掃射がイフリートの足元に着弾していく。その弾丸の雨が降った直後、破邪の白光を宿した黄金剣・エッケザックスをディートリッヒは横一閃に――。
「……はい?」
思わず、ディートリッヒは笑みをこぼしながら小首を傾げた。手応えが、ない――それと同時に、頭上へ圧迫感を感じた。六メートル強、尾を入れれば十メートルを越える竜の跳躍――それがイフリート自身の全長を優に超える高さまで到達するなど、誰が考えるのか?
ズガン! と洞窟内を激震させる着地。紙一重でファルケで走り抜けていたディートリッヒは、笑みを濃いものへとした。
「これはすごいですね……これほどとは!」
「笑えない、笑えない」
思わずそう苦笑しながら、波琉那は交通標識を振るいイエローサインを発動させる。世の中には笑うしかない、そういう圧倒的光景がある事が身に染みた。
「ピース!」
波琉那の呼びかけに応え、霊犬のピースによる浄霊眼が律を回復させる。それと同時に律のMedallionが拡大、銀盾が眼前に聳え立った。
「予想……ううん、想像以上だね」
律が、呟く。気付いたからだ、目の前のイフリートのポジションに。
「あの攻撃力で、ディフェンダーなんだね」
「笑えない話だな」
松庵の癒しの矢が、旭を強化する。あの攻撃力でさえ、クラッシャーでないのだ。攻撃力が十分に足りて、高い身体能力による命中と回避が確保されている――ならば、ディフェンダーというのは最適解だ。
「この戦い、厳しくなるね」
波琉那の言葉に、緊張がより高まっていく。決意したはずだ――しかし、それの事実がより重く全員の背にのしかかった。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォッ!!』
もしもの時は――その決意さえ嘲笑うように、イフリートは吼えた。
●
圧倒的――その言葉をここまでまざまざと見せ付けられていた。
少数精鋭で挑まなくてはならなかった時点で、わかっていたことだ。あまりにもある力量差は、戦局に現れていた。
『ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
咆哮を禁呪に代えて、イフリートのゲシュタルトバスターが炸裂した。あまりに重く、激しい爆炎。その中で、ピースと波琉那を庇ったファルケが崩れ落ちた。
「が、は――ッ!?」
旭が炎の中で、なおを前に出ようと地面を蹴った。しかし、旭が炎の中を駆け抜けようとするよりも早く、眼前の炎が爆ぜた。
イフリートだ。爆炎から即座の再行動、踏み込んだ体勢から放たれた尾刃の嵐が再び後衛を薙ぎ払った。旭を捉えようとした尾を、寸前でディートリッヒが庇った。
「これ程血湧き肉躍る戦い、倒れている暇などありません!」
刈られそうになる意識を、戦意によって奮い立たせる。ディートリッヒは凌駕によって、紙一重で踏みとどまった。
「助かる」
すかさず旭の縛霊手の拳打が、イフリートの尾を殴りつける。ギシリ、と霊力の網が尾刃に絡み付いてわずかに動きが鈍った。
「王焔、咬み砕け!」
「がら空きだ」
その尾を、燃え盛る六花の燃える蹴りが弾き飛ばす。その間隙に、天井を足場に流人の彗星撃ちがイフリートの背へと射られた。
『ガ、ラ、アアアアアアアアアア――ッッ!』
「おおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
吼える竜と叫ぶ獣、ダグラスの全体重を乗せた蹴りがイフリートの眉間を捉える。かかる重圧、それさえも振り払うようにイフリートは暴れた。
「畳み掛ける」
松庵が走る。地面から伸びる影、その刀を形作る影業を下段から抜刀と同時にイフリートへと切り付けた。だが、浅い――いや、鱗に阻まれる!
「あれで防御主体なんだから、たまらないわね」
「このままでは、ジリ貧だね」
波琉那のイエローサインが後衛を、律のソーサルダガーがディートリッヒを回復させる。そして、ディートリッヒ自身も集気法によって傷を癒した。
「ここまで来れば、どちらが先に倒れるかの勝負です!」
窮地だからこそ、敵が強いからこそ、ディートリッヒの瞳が喜色に輝く。その様子を見て、ダグラスも頭を掻いた。自分も同じ笑みをしているという自覚があるからだ。
「結局の所、それが俺の本質なんだろうよ」
命のギリギリ、そのデッドラインでの戦いに心が躍る。これは闇だとか人だとかの問題ではなく、己達の業なのだろう。
「――押し切れないか」
流人が、こぼす。今、全員が立っているのがギリギリの状態だ。サーヴァント達は、既に倒れた。だが、目算でイフリートの半分を削ったか――その程度なのだ。
覚悟していた時間が、眼前に迫っている――それを告げるように、イフリートはなお猛り狂った。
「陽炎、斬り祓え!」
六花の緋焔刀「初芽(うぶめ)」による大上段からの斬撃が、イフリートの鱗を切り付けた。ガギン、という火花から一拍――イフリートから、血しぶきの代わりに炎が吹き上がる。この戦いでイフリートが初めて見せたクリエイトファイアだった。
『――ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
だが、即座にイフリートは炎をまとった牙で六花に喰らいつく。レーヴァテインの重く鋭い一牙に、六花は耐え切れず宙を舞った。そして、ボボボボボボボボボボボボボン! と大量の炎がイフリートの群れへと変わって後衛へと殺到した。
「させませ、ん……!」
波琉那を庇い、ディートリッヒが笑みのまま崩れ落ちる。後は頼みました――その口の動きを読んで、波琉那はうなずく。
「――ッ」
直後、地を這うように低く駆け込んだ流人がイフリートの前脚を無明宗國「伊呂波」で切り裂いた。そこへ続き、ダグラスが燃え盛る右足による後ろ回し蹴りでイフリートをのけぞらせる!
「力不足の結果がこの始末――闇堕ちを視野に入れての戦いか、詰まらねえ話だ」
それでも、やり遂げる。ダグラスの言葉を肯定するように、旭は妖冷弾を真上から叩き込んだ。
「まだだ、まだ――」
「あぁ!」
そこへ、指先で魔法陣を描いた松庵の制約の弾丸が着弾する。しかし、イフリートの動きは止まらない!
「来るわよ!」
波琉那がイエローサインによる回復を施しながら、言い放つ。自身をソーサルガーダーで強化した律が、立ち塞がった。
「ダークネスの目的は人類を闇落ちさせることだ、闇落ちは敗北だよ。でも志半ばで力尽きた仲間やこれから苦しむ人の為にガイオウガに力をやる訳にはいかない――」
ダグラスを狙ったイフリートのレーヴァテインの尾を、律は受け止める。全身が悲鳴を上げる――それでも後ろに通すものかと、踏ん張った。
「僕等は弱い分、仲間がいるんだ、僕が負けても彼等が勝利すればいい!」
律はイフリートの尾を弾き、その場に崩れ落ちる。なおも動こうとするイフリートを、流人の一矢が許さなかった。
「一撃でも多く、削っておくぞ」
守りの要であるディフェンダーは、倒れた。こうなれば、後は誰が倒れてもおかしくはない――だからこその、流人の言葉だった。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!』
イフリートのブレイドサイクロンが、唸りを上げる。それに耐え切れずに、波琉那が倒れ――かすれた声で、言った。
「負け、ないで……」
それが目の前の敵についてだったのか、それとも己の闇にだったのか――答えを今は、知る術はない。
「後で、聞いてみたいね――」
ボソリ、と呟き、松庵がその背に大きな悪魔のような翼を広げた。イフリートが、ギシリとその身を軋ませ構える――新たに生まれた脅威、ダークネスへの警戒がさせた行動だった。
●
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
イフリートが、吼える。その炎を帯びた尾が槍のように真っ直ぐに放たれ、眼前のソロモンの悪魔を串刺しにしようとした。
しかし、悪魔の足元に大量に生まれた影による刀、刀、刀――次々に生まれた刀を振るい、松庵はその軌道を大きく逸らした。
「――――」
ぽそり、と松庵が何かを呟いた直後、指先が虚空を撫でる。直後刻まれたのは、人間大の魔法陣だ。その魔法陣から撃ち出された魔法の弾丸が、イフリートを撃ち抜いた。
『ガ、ハ――』
イフリートが、大きくよろける。実力であったなら、イフリートの方が上だったろう――だが、積み重なったダメージが大きすぎた。
それに加えて、残る三人のサポートがあったのだ。
「――繋ぐ」
タタン、と壁を蹴って加速。流人がイフリートの足へと無明宗國「伊呂波」を突き立て、抉った。吹き上がる炎、それに続いてダグラスと旭が迫った。
「これ以上、黒星増やすのは御免被る。何より完全復活なんざさせちまったら面倒この上ねえ、テメェにゃ此処で退場して貰うぜ」
「俺は……貴方の命を奪う、「悪」となる」
ダグラスの螺旋の軌道を描くRuaidhriが突き刺さり、旭の鐵断による横一閃が足を切り裂く――それでもなお、イフリートは天へと吼えた。
『ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
獄炎がごとく巻き上がる爆炎、洞窟が軋みを上げる中――松庵がイフリートの背へと降り立つ。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ! と大量の影の刃がイフリートに刺さる、刺さる、刺さる――影の刀が群れとなってイフリートを飲み込み、ついには獄炎を生む獣は内側から破裂して炎となった。
その炎の中で、松庵は無言で踵を返す。告げる言葉はない、人としての想いを託す余裕もないほどの激戦だったのだ。
「必ず――」
その背に向けた旭の言葉に、ダグラスと流人がうなずく。半壊どころではなく、闇堕ちを見越してなお紙一重の勝利だ。だからこそ、ここから巻き返さなくてはいけない。
必ず――そこに込められた意味は、あまりにも多かった……。
作者:波多野志郎 |
重傷:喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788) 無道・律(タナトスの鋏・d01795) 深火神・六花(火防女・d04775) ディートリッヒ・オステンゴート(狂焔の戦場信仰・d26431) 死亡:なし 闇堕ち:嵯神・松庵(星の銀貨・d03055) |
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種類:
公開:2016年10月12日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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