炎獄の楔~覚悟と共に

    作者:カンナミユ

    「別府での垓王牙大戦、良く頑張ってくれた」
     垓王牙大戦の結果に目を通し終え、結城・相馬(超真面目なエクスブレイン・dn0179)は灼滅者達へ声をかけた。
    「垓王牙大戦は敗北に終わったが、皆の決死の奮闘によって、ガイオウガも深く傷つき回復に専念している状況のようだ」
     相馬の説明によれば、ガイオウガは回復の為に日本各地の地脈からガイオウガの力を集めようとしている。
     もし、日本中のガイオウガの力が復活したガイオウガの元に統合してしまえば、ガイオウガは最盛期の力を取り戻してしまうだろう。
    「この事態を防ぐ為、皆には日本各地の地脈を守る、ガイオウガの力の化身……強力なイフリートの灼滅を頼みたい」
     そう話し、頷く灼滅者達を前に相馬は資料を開く。
    「強力なイフリートの周囲には、多数のイフリートが守備を固めているようだが、このイフリート達は、垓王牙大戦で救出に成功した『協調するガイオウガの意志』の力で戦闘の意志を無くして、無力化する事が可能になっている」
     しかし、この意志の力も強力なイフリートには通じない。戦闘の意志を抑える為には、イフリートの戦意を刺激しないように、少数精鋭で戦いを挑む必要がある。その為、かなり危険な任務となる。
    「強力なイフリートを相手にするこの任務、場合によっては、闇堕ちをしなければ届かないかもしれないが……できれば、皆、無事に勝利して帰ってきて欲しい」
     最後の手段を使ってでも解決せねばならぬ可能性を口にし、相馬は資料をめくる。
    「強力なイフリートと戦闘が行われる場所は、地下の地脈周辺。その場所への誘導や、竜脈への移動については、協調の意志を持つイフリートが行ってくれるから心配しないでくれ」
     協調の意志を持ち、同行するイフリートは3体。取り巻きのイフリートの無力化をすべく力を尽くしてくれるので、全力で強力なイフリートと戦う事ができるだろう。
    「今回の敵は、無傷での勝利は難しい強敵なのは間違いない。だが、この敵に打ち勝たねば、復活したガイオウガを止める事は不可能となるだろう」
     どのような手段を取ってでも、ガイオウガを止めなければ。
     ダークネスと戦う力を持たぬエクスブレインの瞳は伏せ、そして、戦う力を持つ灼滅者達へと向けられた。
    「お前達の勝利と無事を祈る事しか俺はできない。だからこそ……頼んだぞ」


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    各務・樹(カンパニュラ・d02313)
    月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)
    水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774)
    アトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)
    上里・桃(スサノオアルマ・d30693)
    有城・雄哉(高校生ストリートファイター・d31751)
    白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)

    ■リプレイ


     熱い。
     水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774)の頬を汗が伝い、ぽたりと落ちた。
     灼滅者達が歩くこの場所は、ガイオウガの力の化身が守るという地脈。
     汗で張り付く髪を払い、ゆまの脳裏によぎるのは、ガイオウガ――垓王牙との戦い。
     今この現状は自らの甘さが招いた結果。ならば、その結末をつけるのも、自らでなければ。
     灼滅者達を先導するよう歩くのは、3体のイフリート達。
     ガイオウガの中にあった協調の意思が形を成したその存在は、灼滅者達をイフリート――ガイオウガの力の化身である強力なイフリートの元へと導いている。
     そんな姿を上里・桃(スサノオアルマ・d30693)を見守った。
     桃は自分の中のダークネスと敵対したくないと思っていた。他の灼滅者とも敵対せず友好的な関係になって欲しい。そう思うから。
    (「だから協調派のイフリートたちは私にとって希望なんだ」)
     桃の内心に応えるかのように、先導する3体の協調するイフリート達がふわりと尾を揺らすのを目に、有城・雄哉(高校生ストリートファイター・d31751)は静かに拳を握り締め、進む。
     相手にする強力なイフリートとの戦いは、無傷での勝利は難しいとエクスブレインから聞かされている。
    (「場合によっては、闇堕ちをしなければ届かないかもしれない……か」)
     苛まれる衝動を内に隠し、表情無い瞳は前を見据え、歩く。
    「今のオレのまま帰って来れるか分からないほど、強い相手……」
     白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)がぎゅっと拳を握り締めれば、
    「俺達でなんとかしねぇとな」
    「……、そうだよな!」
     アトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)の声に顔を上げた。
     誰かに任せたい程の相手であったとしても、いつまでも人任せでは駄目だ。いざという時にまた誰も守れなくなる。
    (「オレは、どんな時でもみんなを守れるようになりたいんだ!」)
     固い決意を胸に進む中、各務・樹(カンパニュラ・d02313)と月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)も歩く。
     ガイオウガの力を回復させる訳にはいかないこの戦い。絶対に負けてはならないのだ。
    「誰ひとりと死ぬことなくここを切り抜けたいわ。……死ななければ、生きてさえいれば取り戻す機会はあるもの」
     樹の声に彩歌は頷き、
    (「協調してくれるイフリートも含めて誰も欠けずに戻ってこれれば、それが一番ですけれど……」)
     ふと内心に最悪の状況が過るが、それをかき消した。
     全力を尽くす。そして――、
    (「樹さんは絶対に無事に返してみせる」)
     男やもめを増やすわけにもいかないし、無茶しがちな彼女を絶対に大切な人の元へ。
     彩歌の視線に気付いたのか、樹と瞳がかち合い、そして、その気配を知る。
    「……凄い数だ」
     雄哉の呟きで見ずとも、それは目前に広がっていた。
     開けた場所に存在するのは、数え切れぬほどのイフリート達。
     威嚇するように吼えるイフリート達はすぐにでも襲い掛からんとする勢いだが、それを協調するイフリート達が制す。ゆっくりと歩き出し近づけば、その声も徐々に止み、そして。
     ずしん、ずしん。
     イフリート達が道をあけ、通るのは炎を纏った巨大な虎――いや、ガイオウガの力の化身。
    「お出ましか」
     あらわれたをれを目に、アトシュ眼鏡を外すと投げ捨てた。
    「鶴見岳で受けた傷も癒えやしたし、一つリベンジマッチの下準備でも始めやすか」
     ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)の声が聞えたかのように強力なイフリートの首がぐるりと動くと、ぎょろりと瞳が灼滅者達を見据え、
     グオオオオオオオオォォォォォ……!!!
     それは自らへ向けられる敵意への雄叫びだった。
     

    「殲具解放!」
     解除コードと共に手にする己の背丈ほどの刀身の無敵斬艦刀と共にギィは地を蹴り、刃はイフリートへ。
    「いざ、尋常に勝負っす!」
     ざぐん!
     オオオオォォォ!!
    「いくよ!」
     吼えるダークネスへと桃はエアシューズからの一撃を叩きつけ、
    「樹さん!」
     血の如く炎を散らすイフリートへとレイザースラストを放つ樹の姿を目に彩歌は勿忘草色のスカーフを翻し、ラビリンスアーマーを展開させた。
     ソーサルガーダーを展開させる雄哉を目にゆまは狙い定め制約の弾丸を放ち、
     グルル……グル……。
    「気をつけて!」
    「攻撃が来ます!」
     桃も気付いたのだろう。二人の声に仲間達が注視すれば、イフリートの炎が揺らめき、放たれる!
    「くっ……」
     身を挺し攻撃を受け止めえた雄哉は微かな声を発し、なんとか直撃を避けようとしたギィは、かすった痛みに思わず眉をひそめた。
    「さすが強力なイフリートだけあるっすね」
     直撃ではなかったものの、それでも軽視できない痛みである。ディフェンダーでこのダメージとなれば、他の仲間達にとっては大変な脅威となるだろう。
    「大丈夫?」
    「ありがとう、彩歌ちゃん」
     礼を耳に前を見れば、サポートの為にアトシュがイエローサインを展開させ、エアシューズと共に駆ける歌音は最高速で狙い定め――、
    「これでもくらえっ!」
    「そのそっ首、叩き落としてやるっすよ」
     がづ、ん!
     炎を纏う足を蹴りつけると黒い炎を纏いギィも動く。
    「雄哉さん、回復を」
    「ありがとうございます」
     そんな戦う姿を眼に桃の癒しは雄哉の痛みを和らげ、霊槍を振るう親友を守った彩歌の傷も自らの癒しによって癒える。
     流れる血も止まり、ワイドガードを展開させながら周囲を見渡す雄哉だが、とても広いこの場所では強力なイフリートを壁際へ追い込むのは難しいかもしれない。だが、逃げられないように動く事は可能だ。
    「気をつけてください!」
     サイキックを放ちつつ、イフリートの動きを注視するゆまはその動きに気付き、
    「炎を吐く気だ!」
     口元を歪ませるその動きに気付いた歌音の声に仲間達は身構えた。
     
     強力なイフリートとの戦いは激戦だった。
     攻撃を叩きつけ、血を流すもイフリートの纏う炎は揺らぎ無く、心なしかその顔も余裕があるような。
    「本当に強いな……」
    「でも、負ける訳にはいかねぇ」
     仲間達の攻撃を捌く姿に歌音はぽつりと口にするが、アトシュの声に強く頷き、
    「そうだな、ここで負ける訳にはいかねえよな!」
     ぎゅっと羽環を握り、そして放った。
     事前情報は多くなく、攻撃手段も分からぬ相手。その攻撃は前衛だけでなく、後衛さえも対象となった。
    「すまないっす」
     慣れない役割ではあるが、それでも直撃から避けようと動くギィだったが、ダークネスの攻撃全てを庇うのは難しかった。
    「気にすんなって!」
    「まだまだこれからです」
     歌音はにっと笑い、ゆま言う。
     だが。
     重い一撃を放つイフリート相手に、いつまで持ち堪えられるのだろうか。
     いや、そんな事を考えてはいけない。
    「天魔光臨陣いくよ! 頑張ろう!」
     断罪輪を手に桃は声を上げた。
    「くっ……」
     盾役として戦う雄哉は拳をイフリートへと叩きつけ、ふと己の内にある衝動に呑まれぬ様に維持し続けた瞳を向ければ、共に仲間を守り続けた彩歌の姿があった。
     庇い続け、1秒でも長く盾役として立ち続けるよう行動をし続けていたが、それも限界のようだ。
    「ごめんなさい」
    「任せて」
     傷を癒そうとしていた桃が流れる血を払いながら並ぶのを目に彩歌は自らの傷を癒し、樹はイフリートへロッドを振るうと雄哉も拳を叩きつけ。
     後衛が先に前衛に立ち、次に前衛が後衛へと移動を行うという作戦に踏まえてメディックの桃がディフェンダーへと移動したが――。
     交代を要するほどのダメージを受けた前衛が残ったまま、メディックが移動してしまったら、その間に標的となったらどうなるのだろう。
     誰かの胸中に嫌な予感がよぎり――現実となる。
     オオオオオオォォォォォ!!!
     地を蹴り跳ねるその巨体が爪をむき、その標的は――、
    「だめっ!」
     8人の中で一番ダメージを負っていた彩歌を標的と定めたイフリートの攻撃の前に飛び出し身を挺すが、無傷ではない桃にとってそれは無視できないダメージだった。
     ざん! ざぐん!
    「上里さん!」
    「ごめん……なさい……」
     回復を試みようとするが、もう間に合わない事を悟るゆまは瞳を伏せるが、それも一瞬。
    「月雲さん、回復を」
     行えなかった癒しはまだ血が止まらぬ彩歌を癒した。
     一人倒れ、残るは7人。
    「まずいっすね」
     メディックがディフェンダーに入ったのを確認したギィはスナイパーに移動しながら口にした。
     イフリートが吼え回復を図ったのを目に一手使う余裕が生まれたと陣形の再編と回復を図り、戦いは続くが――。
    「避けて!」
     樹の叫びに気付くも間に合わなかった。
     斬艦刀を構え腰を落として真正面から打撃を受けようとするが、その一撃は受けるには重すぎた。
    「ここまで……っす、か……」
     握り続けた剥守割砕は手から離れ、がらんと地に落ちると、ギィの体もまた、地に崩れ落ちた。
     1人減り、2人減り。それでも灼滅者達は戦いを続けた。
     負ける訳にはいかないのだ。絶対に。
    「すみません、交代をお願いします」
     雄哉からの要請にゆまと歌音は顔を見合わせた。
     予定より早いそれにどちらが交代するか。そんな些細な一瞬。
     グルオァァァアアアアアア!!!
    「有城さん!」
     飛び掛る一撃をかろうじて腕で防いだが、2撃目は防げなかった。
     がづ、んっ!
    「……くっ」
     吹っ飛ばされ、膝を擦り、それでも持ち堪えようとしたが限界だった。
     腕を伝う血はぽたりと落ち、そのまま前のめりになって倒れ、
    「歌音!!」
    「オレは……みんな、を……守……」
     続く戦いの末、ディフェンダーの守りをかいくぐった一撃に歌音は血を流し、アトシュの叫びを耳に踏みとどまろうとするが――。
     

     どざり。
     硬い地に膝を折り、倒れた歌音は動かない。
     グルル……オオオオォォォ……!!!
     傷付き誰一人として無傷な者がいない中、イフリートはまるで勝利を確信したかのごとく雄々しい声を上げた。
     4人が倒れ、残るは4人。
     ビリビリと空気を震わせ、体を震わせ、灼滅者達は選択を迫られる。
     
     もう、ダメだ。
     いや……まだだ。
     
    「駄目よ、彩歌ちゃん!」
     仲間達を救うべく行動に出ようとする彩歌を樹が止める。
    「……樹さんは絶対に無事に返してみせる」
     彩歌の心の中でよみがえるのは、あの日の――初めての親友が一度いなくなった時の事。
     多くの人が泣いたあの日を繰り返す訳にはいかないのだ。
     だが、しかし、樹もまた、長い付き合いになる親友を失わせる訳にはいかなかった。
    「彩歌ちゃん、あなただけは絶対に悠一くんの元へ帰らなきゃ」
     そう、彩歌が最後の手段を使えば、悲しむ者がいるのだから。
     互いが互いを思いやり、その行動を引き止める中、
    「二人共、帰りを待ってる奴がいるんだろ? ならお前達がそれをするべきじゃない。この中で実力が一番低い俺が……」
     アトシュは説得しつつ、二人が使おうする手段を選ぼうとするゆまをも手で牽制し、
     オオオオオァァァァァァ……!!!
     大地を揺るがす怒号に纏う炎が襲い――!
    「俺は誰ももう失いたくねぇんだ……」
     アトシュの呟きを横切るのは、傷付き血で汚れた服は紅に染まりきり、瞳もまた紅に染まった存在。
     仲間を失いたくないという想いが強いのは、アトシュだけではなかったのだ。
    「堕ちるのは一人で充分」
     かすかに聞えるその声にアトシュはぎりっと拳を握り締め、
    「……サポートする! 畳み掛けるぞ!!」
     得物を手に駆けるアッシュの姿は死角に消え、ざぐんと切り裂くと、
    「回復します!」
    「ありがと、こっちもいくわよ!」
     ぐいと血を拭い、霊槍を握り樹もイフリートへと振り上げた。
     強力なイフリートと対峙するのは3名の灼滅者と、1体のダークネス。
     あと少しで撤退をも迫られていた戦いの均衡は、一人の行動で覆る。
     イフリートの炎をかいくぐり、与える攻撃。
     殺意と共に向けられる一撃を耐え、そして反撃し。
     ざ、ん!
     グオォァアアアアァァァ!!!
     ダークネスの攻撃へ目が向いた隙を突いたアトシュ渾身の一撃に、イフリートは体から血を撒き散らす。ぐらりと巨体は揺れ、足元がふらつき。
    「今だ、いけぇ!!」
     叫びに仲間は応えた。
    「彩歌ちゃん!」
    「これで……!!」
     二人の攻撃はイフリートを貫き、そして――。
     グ……オオオ……オ……ォ……。
     どず、ん。
     纏うの炎は命のともし火の如く消え、その巨体は地に崩れ落ちた。
     

     倒れたダークネスの姿は灰となり、熱風に舞い上がり消えていく。
    「終わったな」
     血に濡れた頬を拭い、アトシュは呟いた。
     この場に立つ者達は傷だらけで、戦いのさなかで膝を折った仲間達もまた、傷だらけ。
    「かつて……力及ばず仲間を堕とし、なおかつ失った想いは繰り返したくなかった」
     眼鏡を拾う中、ぽつりと聞える声に向けば静かな微笑があった。
    「月雲さん、各務さん、それにスカーレットさん。皆さんを頼みます」
     その声に応えようとする仲間達より先に口は開き、
    「ちゃんとわたしを灼滅してくださいね」
     いずれ訪れるであるだろう日に、ゆまであった存在は去っていく。
     すると、強力なイフリートを灼滅した事を知った協調するイフリート達もゆっくりと歩き出した。
     制する存在は離れ、強力なイフリートも倒されたとなれば、あの無数のイフリート達が牙を向くのも時間の問題かもしれない。
    「帰ろう、武蔵坂へ」
     後輩を抱えるアトシュに二人は頷くと、仲間達を抱えて協調するイフリートの後に続いた。
     
     覚悟と共に戦いに挑んだ8人は1人欠け。
     灼滅者達は武蔵坂へと戻るのだった。

    作者:カンナミユ 重傷:ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039) 上里・桃(遍く照らせ・d30693) 有城・雄哉(蒼穹の守護者・d31751) 
    死亡:なし
    闇堕ち:水瀬・ゆま(蒼空の鎮魂歌・d09774) 
    種類:
    公開:2016年10月12日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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