「みんな、まずは垓王牙大戦での戦い、本当にお疲れ様」
橘・創良(大学生エクスブレイン・dn0219)が、全員を見回し、疲れ切って悔しそうな様子の灼滅者達をねぎらう。
「結果は残念ながら敗北に終わってしまったけど……それでもみんなが最後まで全力で戦ってくれたおかげで、ガイオウガも深く傷ついて回復に専念している状況だから、このまま終わりじゃないよ」
まだ取り返す機会がある。皆が奮闘したおかげで切り開かれた道でもあるのだから。
「ガイオウガは回復のために、日本各地の地脈からガイオウガの力を集めようとしているんだ。もし、日本中のガイオウガの力が、復活したガイオウガの元に統合してしまえば、ガイオウガは最盛期の力を取り戻してしまう……」
だから、と創良は続ける。
「みんなには日本各地の地脈を守るガイオウガの力の化身……強力なイフリートの灼滅をお願いしたいんだ」
それは容易いことではない。けれど、これが唯一の道ならば――やるしかない。
「強力なイフリートの周囲には、他にも多数のイフリートが守りについているみたいだけれど、このイフリート達は、垓王牙大戦で救出に成功した『協調するガイオウガの意志』の力で戦闘の意志を無くして、無力化する事が可能なんだ」
けれど、この意志の力をもってしても、強力なイフリートには影響を及ぼせないため、強力なイフリートについては灼滅者たちが撃破する必要がある。
「それから、戦闘の意志を抑えるためには、イフリートの戦意を刺激しないように、少数精鋭で戦いを挑む必要があるから、かなり危険な任務になることは明らかなんだ。場合によっては、闇堕ちしなければ達成できないかもしれないけど……できるならみんなそろって無事に帰ってきてほしい」
エクスブレインの予知では、激戦は必死。相当の覚悟をもって当たらなければいけないことを理解すると、灼滅者達も真剣な顔で頷くのだった。
「強力なイフリートは地下の地脈周辺にいるから、その場所への誘導や竜脈への移動なんかは協調の意志を持つイフリート達が行ってくれるから心配ないよ」
そして協調の意志を持つイフリートは、取り巻きのイフリートを無力化するため力を尽くしてくれるので、灼滅者は全力で強力なイフリートとの戦いに専念することができる。
「みんなに戦ってもらう強力なイフリートは、全身に炎を纏った巨大な虎のような姿をしていて、恐ろしい牙と鋭い爪で攻撃してくるよ。かなり殺傷能力が高いから充分気をつけてね」
また咆哮での回復も備えているのでやっかいだ。
「戦場は地下の空洞での戦いになるけど、普通に戦っている分には、崩落などの危険は心配いらないよ」
生半可な相手ではないので、戦闘に集中して挑んでほしい。
「何度も言うことになるけど……今回の敵は無傷での勝利は至難となる強敵であるのは間違いないから」
皆の安全を願いながらも、そう言わざるを得ない状況に創良はそっと目を伏せる。
「それでも、ここを乗り越えなければ、復活したガイオウガを止めることは出来ないから……今までだって困難を乗り越えてきたみんなだから、きっとやってくれると信じてるよ」
勝利とそしてなにより皆の無事を祈りながら、創良は灼滅者達を送り出すのだった。
参加者 | |
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月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470) |
ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952) |
三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115) |
流阿武・知信(炎纏いし鉄の盾・d20203) |
化野・十四行(徒人・d21790) |
アリソン・テイラー(アメリカンニンジャソウル・d26946) |
シエナ・デヴィアトレ(治療魔で露出狂な大食い娘・d33905) |
ロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ(黒紅・d36355) |
●地脈の奥に潜む炎獣
垓王牙大戦で深く傷ついたガイオウガは、回復するため日本各地の地脈からガイオウガの力を集めようとしている。日本中のガイオウガの力が、復活したガイオウガの元に統合すれば、ガイオウガは最盛期の力を取り戻してしまうだろう。
そのことを防ぐため、日本各地の地脈を守るガイオウガの化身を撃破するため灼滅者達は再度戦いに臨む。イフリートの戦意を刺激しないように、少数精鋭で挑むため、危険と隣合わせでもある。誰もがそれをわかっていながら、それでも挑まずにはいられない。これは自分たちの戦いなのだから――。
「敵は大地と炎の力を持つイフリート。燃やし尽くされない様に全力を出していこう」
いつも通り柔らかい口調で三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115)が皆に声をかける。少数精鋭ゆえ、なによりもチームワークが大切だ。厳しい戦いが予想されるため、皆、闇堕ちをも覚悟している。仲間全員に絶体絶命のピンチが訪れれば、闇堕ちも辞さない。だが、望んでするものではない。覚悟を決めた仲間の顔を見て、渚緒に一抹の不安がよぎる。
一行を先導するのは、協調の意志を持つイフリートたち。先の大戦で、激戦の末、切り離したガイオウガの尾から、協調の意志を持つイフリートが多数現れ、灼滅者に協力してくれているのだ。
チーターのような姿をした大型のイフリートは3体。
月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)は、イフリートの意思を尊重しながら、こちらの頼みを聞いてもらえるか確認してみたが、会話ができないため、こちらの意志が伝わったかわからない。けれど、彼らはしっかり彼らの仕事をしてくれることだろう。
「一般人を守る為にも灼滅は避けられない……そう割り切るですの……わたし」
自分に言い聞かせるように呟くのは、シエナ・デヴィアトレ(治療魔で露出狂な大食い娘・d33905)。ダークネスの灼滅に強い忌避感を抱いているシエナだが、このような事態なので、一般人を守るためと言い聞かせ気持ちを抑えている。
「せめて今度は、後悔しないようにしたいな」
垓王牙大戦で力になれなかったと思っている流阿武・知信(炎纏いし鉄の盾・d20203)は、今度こそ悔いの残らないように行動したいと思っている。
それぞれの思いを胸に、協力イフリートの案内で地脈を進む。
ある場所にさしかかったところで、誰もがはっと気付く。圧倒するような威圧感と炎から生じる熱風が奥から迸っていることに。
「この先にいるでござるネ……!」
ぞくぞくとしたものを感じながらも顔に笑みを浮かべつつ呟くアリソン・テイラー(アメリカンニンジャソウル・d26946)。霊犬のサスケは鼻にしわを寄せ威嚇のうなり声を上げている。
「作戦通りに……ね」
相手は強敵だ。けれど、力を合わせることにより、持っている以上の力を発揮できる。
ロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ(黒紅・d36355)の言葉に頷くと、灼滅者達は力強く歩み出した。
●荒ぶる猛虎
そこには、炎を纏った巨大な虎と、それを取り巻く多数のイフリートがいた。
「あの爪に引き裂かれんのは勘弁だな」
炎を纏った恐ろしく巨大な爪を見て、化野・十四行(徒人・d21790)が薄笑いを浮かべる。
地の底から響くような雄叫びを上げ、イフリートたちは血気盛んな戦闘の意志を漲らせている。
けれど、協力イフリートたちがすっと前に出ると、うなり声をあげていた取り巻きのイフリート達の動きが止まる。魂が抜けたように、ただそこに立っているだけの状態になる。
「これで戦いに集中できるな」
朔耶が強敵を前に、相手の動きを観察しながら呟く。
「お前たちは結局、どの子も優しい可哀想な子だね?」
怯むことなく、すかさずヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)がダイダロスベルトから帯を射出し、敵を貫く。
知信は一度大きく深呼吸をする。そして落ち着いた気持ちで日本刀を構え、上段からまっすぐに素早く振り下し、炎を纏った毛皮を切り裂く。
手応えを感じた灼滅者たちだが、大きな身体をしている割には俊敏な動きをする虎型イフリートに何度となく攻撃を避けられる。
スナイパーのロードゼンヘンドが黒死斬で足取りを鈍らせたところに、十四行が 縛霊手 で殴りつけ、敵を縛り付ける。
敵の動きを鈍らせ、少しでも弱体化させ、一気に攻撃を加えて押し切る。そして敵の動きをしっかりと見て、仲間と声を掛け合い連携する。それをしていれば必ず勝機はあるはずだ。
取り巻きが無力化しようとも、攻撃を受けようとも、イフリートは圧倒的な迫力で灼滅者たちに対峙する。
地脈を眩しいくらいに明るく照らす炎を纏った爪が、高い位置から振り下ろされ、霊犬のサスケが勢いで吹き飛ぶ。その傷は深く、アリソンは急ぎ回復を施す。
「想像通り……恐ろしい破壊力でござるヨ……」
ディフェンダーでも深手を負う攻撃力。少しでもその攻撃に備えようと、動きに神経を集中させる。その間にも、次々と攻撃を加え、敵の優位を少しでもなくそうと奮闘する。
「あまり余裕はなさそうだね……攻撃後は、できるだけ敵の間合いから退避した方がいい」
流星の煌めきを纏った跳び蹴りで、イフリートの機動力を奪う渚緒。敵の攻撃を目の当たりにした今、防戦より攻撃に出た方が良いと判断した上で、できるだけダメージを減らせるよう、そう仲間にも告げる。カルラも敵を攪乱させるように立ちはだかり、攻撃を加える。
「動きは鈍ってきたようだが……」
指輪から魔法弾を放ちながら朔耶。攻撃を当て続けても相手が怯むことはない。どれくらいの耐久力があるのか、考えるだに恐ろしい。霊犬リキは浄霊眼で傷ついた仲間を癒す。
「一気に押し切るぜ」
十四行の攻撃の後にできた一瞬の隙を、イフリートは逃さなかった。骨をも噛み砕く鋭い牙が襲いかかる。咄嗟にカルラが庇いに入るが、その衝撃は計り知れない。シエナが回復を図り、なんとか少し持ち直す。
虎型イフリートは攻撃をものともせず、戦意を漲らせ、灼滅者たちを睨みつけているのだった。
●決死の攻防
作戦通り、敵の動きを鈍らせてはいたが、強敵だけあってそう簡単には倒れてはくれない。着実に相手の体力を削っていくが、その間に強力な攻撃が仲間を襲い、ディフェンダーを務めるサーヴァントから順番に倒れていくのだった。
「攻撃が……来ますの!」
イフリートの前足の動きを注視していたシエナが攻撃を予告したが、容赦のない攻撃にライドキャリバーのヴァグノジャルムが赤薔薇とともに散る。
「やはりあの牙の攻撃の方が殺傷能力が高いみたいだね」
敵の動きを見ていたロードゼンヘンドが仲間に注意喚起する。情報を共有し、声かけを行い、戦況を有利にするも、圧倒的破壊力の前には防ぎようがないのも事実だった。それでも、盾となって道を切り開いてくれた仲間のためにも、攻撃の手を緩めない。
サスケ、リキとディフェンダーが次々倒れ、倒れはしなかったものの、深手を負った仲間を見て十四行が声を上げる。
「回復、こっちに頼む!」
誰が負傷しているのか、その優先順位などを仲間と共有していく。アリソンとシエナはお互いに連携し、休む間もなく治癒を続ける。
「朔耶、大丈夫?」
「そっちこそ」
半獣化させた片腕をふりかざし、鋭い銀爪で引き裂くヴォルフと自身から伸びる影の先端を鋭い刃に変え、敵を引き裂く朔耶。
相棒と呼ぶだけあって息のあった連係攻撃で着実にダメージを与える二人。疲労の色が滲んでいるのはお互い様だ。
翳ることない炎を纏い、雄叫びをあげたイフリートの強力な牙の前に、カルラも倒れ消滅した。
「よくみんなを守ってくれたね」
渚緒が相棒の健闘を称え、その気持ちに報いるためにも解体ナイフで敵をジグザグに切り刻む。
ディフェンダーとして戦線を維持すること。それが十四行がなすべきことだ。他の仲間に攻撃がいきそうになれば、注意を引くため、軽々とジャンプをして敵の懐に飛び込む。
「文字通り、虎の尾を踏む行為だが……」
丸太のように太い尻尾を踏んづけ、そのまま力強い飛び蹴りをお見舞いする。激高したイフリートに炎の爪の一撃を食らうが、それも想定の内。衝撃に耐えながらも、戦線を守る。
灼滅者の攻撃も着実にダメージを与えているのだが、咆哮で回復をされるなど、思った以上に削り切れていない。そうしている間に、前衛の十四行、そしてヴォルフが致命的な一撃を食らい意識を失った。
炎を纏った巨大な虎が、立ちふさがるように灼滅者を睥睨していた。
●血路を開くため
「行かせない……行かせるもんか! これ以上焼かせない!」
知信が仲間を庇いながら、気力を振り絞りそう叫ぶ。けれどその姿はまさに満身創痍。シエナとアリソンが回復に当たっても、その全てを癒すことはできない。
ディフェンダーの活躍で後衛に攻撃が通っていないが、最後のディフェンダーである知信が倒れれば、あとはあの恐ろしい爪と牙の前に為す術もなく倒れるだろう。
このままでは全滅は時間の問題かもしれない……そう渚緒は思った。
目の前で倒れた仲間やガイオウガの尾を切り離した仲間達の意志を無駄にはできない。
「協調派の意思を無駄にはさせない」
そう口にしたところで揺るぎない決意が生まれた。現状を打破する道、それは――。
魂の奥底に眠るダークネス。その存在が今ならよくわかる。
そう思ったときには、もうすでに変化は始まっていた。頭からは羅刹の特徴である黒曜石の角が生え、穏やかだった顔には、視線だけで敵を射貫くような怜悧な表情が浮かんでいる。
黒き異形の腕を持った鬼と化した渚緒は、炎に包まれ、目の前の敵を冷ややかに見つめていた。
「渚緒……」
ロードゼンヘンドがその名を呟くが、闇堕ちした彼は以前の渚緒ではなかった。それでも、仲間を思って行動した彼の意志を無駄にしないためにも、残った仲間達でイフリートへの攻撃を続ける。
まだダークネスに完全に肉体を明け渡していない渚緒は、目の前の敵であるイフリートにまっすぐ向かい、異形巨大化させた片腕をふりかざすと、凄まじい膂力で殴りつける。
巨大な虎型イフリートがあまりの力に体勢を崩す。その衝撃は計り知れない。
初めてイフリートに焦りのようなものが感じられた。回復を図るイフリートに、この隙を逃さず攻撃を畳みかける灼滅者たち。
そして何度目かの渚緒の攻撃で、巨大な炎の虎は地脈の底で力尽きたのだった。
渚緒は仲間の無事を確認すると、自我を保てなくなる前にこの場を去ろうと思ったのか、無言のまま、すっと姿を消した。
「行ってしまったな」
傷口を押さえながら、朔耶がぽつりと呟く。誰が闇堕ちしてもおかしくなかった。消えていたのは自分だったのかもしれないと誰もが思う。
「……助けられたね」
満身創痍の知信が痛みを堪えながら呟く。
「今度はミーたちが助けに行く番でござるヨ」
アリソンの言葉に無言の頷きが返る。
「誰か、肩貸してくれ……動けねぇ」
意識を取り戻した十四行がいててと呻く。協力イフリートたちが、早く撤退するようにとでも言うように退路を指し示している。取り巻きのイフリートはその場に残ったままだが、協力イフリートがこの場を去ると、どうなるかわからない。早く撤退することが得策だろう。
怪我人に肩を貸し、協力し合いながら、灼滅者たちは帰途へと着く。
「これで終わりじゃないですの。まだやるべきことが……」
シエナは胸中の複雑な思いを言葉にする。
ガイオウガの力のひとつの統合は阻止した。大きな戦果だが、その代償もあまりに大きかった。
けれど。これ以上に厳しい戦いがまだ彼らを待ち受けているのだった。
作者:湊ゆうき |
重傷:ヴォルフ・ヴァルト(櫻護狼・d01952) 化野・十四行(徒人・d21790) 死亡:なし 闇堕ち:三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115) |
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種類:
公開:2016年10月12日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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