●新たな地獄へ
しん、と静まり返る教室にて。
「おかえり……還って来てくれたんだな。本当に、本当に無事で良かった」
白椛・花深(大学生エクスブレイン・dn0173)は部屋へ足を踏み入れるや否や、仄かに頬を緩め、胸を撫で下ろすようにそう告げた。
戦場へ赴くことのできないエクスブレインにとって、何よりの気がかりは灼滅者たちの安否だ。
教室へ集う一人ひとりの顔を確りと見つめたのち、手元の資料を開く。気を引き締めて、皆へ説明を始めた。
「確かに垓王牙大戦は敗北を喫した――けどな、お前さん達が最後まで戦い抜いたおかげで、ガイオウガに深手を負わせることができた。今はあっちも回復に専念してるだろうな。今は力を得る為に、日本各地にある地脈からガイオウガの力を集めようとしている。もし、日本中の地脈に眠る力がガイオウガの元へ集まれば――奴は最盛期の力を取り戻すに違いねえ」
此度の大戦で相見えた時よりも、強力な力を得てしまう。地獄と化した別府市の惨状が脳裏に蘇り、思わず目を背ける灼滅者も中には居た。
花深は、凛とした眼差しで灼滅者たちを見渡し、更に言葉を続ける。
「お前さん達に今回頼みたいのは、日本各地の地脈を守るガイオウガの力の化身――強力なイフリート1体の灼滅だ。
勿論、強力なイフリートの周りには多数のイフリートが居る。けれど、それらはお前さん達が今回の大戦で救出した『協調するガイオウガの意志』の力で戦闘意志を失わせて、無力化することができるみたいでさ」
ただ、と花深は前置きし、一呼吸したのち。
「この意志の力は、強力なイフリートには効果がない。だからこそ、お前さん達が直接その手で灼滅するしかないってことだ。それにイフリート達の戦意を刺激しないよう、戦地へ赴けるのは少数精鋭だ。……あんまりこんな事言いたくないが、最悪闇堕ちをしなきゃ撃破も難しいかもしれねえ、けれど」
どうか皆、無事に勝って還って来てくれ、と。
言葉を一つ一つ慎重に選びながら、エクスブレインは再び口を開く。
「今回、お前さん達に向かってもらうのは、中部地方の森の奥にある地下洞窟だ。
協調の意志を持つイフリートが4体ほど、お前さん達に同行してくれるから、場所への誘導や竜脈の地点については、彼らに任せるといいぜ。強力なイフリート達と相対すりゃ、取り巻き達の無力化に尽力してくれる。だからお前さん達は、ガイオウガの力の化身へ集中して戦えば良い」
「そして肝心なのが、お前さん達が相手取るイフリートだ。名は『鋼煉犀ライノレックス』。鋼みてーに硬質化された巨躯に、渦巻く焔を纏った一本角……サイと恐竜を掛け合わせたような姿だな。唯でさえ頑丈な体をさらに強化させたり、炎を纏った一本角でこちらを貫こうとしてきたり……と、攻撃方法も様々だから、どうか注意して戦って欲しい」
垓王牙大戦の時に現れた、有力なイフリート達のような存在だと想定すると良い、と花深は補足した。
イフリート王ガイオウガの力の化身に相応しい、獰猛なる獣。普段通りの灼滅すら厳しい危機的状況なら尚の事、油断する訳にはいかない。
決意を固める灼滅者たちに対し、花深も資料を閉じ、逡巡するようにそっと眸を閉じた。
再び彼らを危険な戦場へ送り出さねばならない事へ、ある種の不安や迷いはある。この場にいる灼滅者たちの、一人、あるいは二人……それ以上が欠けてしまうかもしれない。
けれど――此処で弱音を吐いてはならない。『学友』として、帰還を信じよう、と。
「無傷で勝つには、難しいと思うんだ。けれどコイツらに勝たなきゃ、ガイオウガは更に強力になって手の打ちようもなくなっちまう。……へへっ、大丈夫だって。なんたって俺様が信じてるんだからな。皆で勝って、必ずもう一度此処へ帰って来てくれるってな!」
へらり、普段通りの明るい笑みを精一杯に滲ませ、エクスブレインは灼滅者たちを送り出した。
彼らの背を見守り、深く帽子をかぶり直した。
――きっと……きっと俺は、もう一度お前さん達に『おかえり』って云えるよな?
参加者 | |
---|---|
雨咲・ひより(フラワリー・d00252) |
神條・エルザ(クリミナルブラック・d01676) |
草那岐・勇介(舞台風・d02601) |
リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213) |
氷上・鈴音(緋涙伝いし決別の刃・d04638) |
華槻・奏一郎(抱翼・d12820) |
マナ・ルールー(ステラの謡巫女・d20938) |
白星・夜奈(夢思切るヂェーヴァチカ・d25044) |
●
冷え切った秋風が、ひゅう、と吹き抜く。まるで、これから洞窟へと侵入する灼滅者たちの背を押すように。
協調派のイフリート達を先頭として、灼滅者たちは拠点へと急ぐ。
だが此度の敗戦の傷は、未だ彼らの身も心も蝕んでいた。
氷上・鈴音(緋涙伝いし決別の刃・d04638)もまた全力で挑み、苦渋を嘗めた者の一人である。
失ったものは数多い――けれど、護りきれたものも有る。
(「協調派の意志は護る事ができた。こうして新たな作戦に赴けるのだから、全てが終わった訳じゃないわ」)
道中、鈴音は左腕のブレスレットに触れながら、祈るように目を伏せた。漆黒のオニキスが、光を映して優美に輝く。
大丈夫、あのカフェの名は不死鳥――絶対に、帰ってこれる場所であるのだから。
部長とも、部員の皆とも。
そして、このブレスレットを贈った相棒たる後輩の少女も、いつもの明朗な声で「おかえりなさい」と迎えてくれるはずだと信じて。
何も終わってなどいない。そう確信するのは神條・エルザ(クリミナルブラック・d01676)も同様だった。
戦いは、物語は続く。たとえその幕開けが悲劇であったとしても――皆の歩みは止めさせない。
エルザの赤い瞳は、揺るぎのない信念を秘めてもなお罪色を湛えていた。
奥へ、奥へと前進する灼滅者たち。肌を撫ぜる熱が徐々に増してゆく。『奴等』は、もうすぐ其処だ。
そして――迫り来る、跫音。
一つ、二つ、三つ、と数を重ねてけたたましく木霊す。
最深部より姿を現したのは、ごく平均的なイフリート達。俗に言う『取り巻き』だ。
4体の協調派イフリート達は、すぐさま取り巻き共へと飛び掛かる。
これで化身一体へと集中できる。灼滅者達は作戦通りの立ち回りを実行できるよう、態勢を整え始めた。
(「協調は、皆の『想い』がつないだ奇跡だ。決して無駄にはしない。消させもしない――!」)
此処までの道のりは、大事な人達の強い『想い』があってこそなのだと、草那岐・勇介(舞台風・d02601)はその瞳に信を宿す。
その佇まいは齢15とは思えぬほど、凛然として。この機を希望へと繋げる為に、勇介は改めて意を決す。
しかし、ずん、と激しい地震のような激しい揺れが、灼滅者たちを襲う。
幾度もの重々しい振動を連ならせ、姿を見せたのは――――灼き滅すべき、強大なる『存在』。
雨咲・ひより(フラワリー・d00252)は思わず、息を呑む。辛うじて犀の姿をかたどる『それ』は、只の草食獣と称すには余りに禍々しすぎる。見事に生やした一本角に炎が迸り、『鋼煉犀ライノレックス』は灼滅者達を威嚇するように切っ先を向けた。
けれど、ひよりは逃げない。弱さを拭い去るように、深呼吸を一つ。
「ここで勝ち抜いて、皆と一緒に帰るの。だから、どうか……『導いて、光射す場所へ』」
「さて……こりゃ随分と堅そうだ、ちと骨が折れそうだな」
己の背丈をゆうに超える巨躯を見上げながらも、華槻・奏一郎(抱翼・d12820)は不敵な笑みを滲ませる。
しかし、暮れる空色の眼差しは常より鋭い。
敗戦がもたらした被害は甚大だ。あの凄惨な光景が脳裏に蘇りながらも、奏一郎は決意を再び固める。
――あんな地獄はもう御免だ。やれることは全力でやろうじゃないか。
地獄。
白星・夜奈(夢思切るヂェーヴァチカ・d25044)の脳裏をよぎるのは、目の前でその身を闇に委ねた仲間達の光景だ。
彼等――特に二人は、あの地獄で救われぬ事のないまま命を落とした。どうしてこの手は、救うことができなかったのか。
(「こんどこそ、悔いのないように――。なにがなんでも、倒す」)
中途半端な殺意など、要らない。
夜奈の手に握られた時計の針は、暗闇の中でもなお、鈍く輝いた。
「あなたが、ライノレックスさま……ガイオウガさまの、化身ですのね」
マナ・ルールー(ステラの謡巫女・d20938)は『マジかる・ショータイム!』の掛け声できらきらと魔法少女スタイルに身を包み、おしゃまに笑う。
「さあ、マナと一緒に遊びましょ? ――火遊びはほどほどに、ですけれどねいっ」
大きなとんがり帽子のつばを整え、上品にご挨拶。
きらり煌めく魔法の軌跡は、勝利を美しく描けるはず。
●
洞窟内は鋼煉犀の出現によって、火山の深部の如き激しい熱気に満ちた空間へと成り果てた。
まるで、洞窟そのものがガイオウガの力の化身の味方にまわったようだ。けれど灼滅者達は怯まず、作戦を決行する。
二手に分かれ、 リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)、夜奈、エルザ、ひよりは右側へ。
左側へは勇介、奏一郎、鈴音、マナの4名がまわり、挟み撃ちを仕掛ける。
だがライノレックスはお構いなしに、リュシールめがけて炎角を向けて突進してゆく。
(「さあ、その大きな体で小回りも視界も確保出来る?」)
碧眼でキッと睨みつけ、少女は機を狙う。壁を背にし、ひらりと脇へ躱そうとする――が、角は重厚な刃の如く腹部へめり込み、逆に壁へと叩きつけられる。
リュシールの的確なリズムさえも乱れさせる、常識外れの馬鹿力。
もし奴を歌い手に喩えるならば、鼓膜が破れるほどの声量を持つ酷い音痴に違いない。リュシールは激痛に耐えながら、口から溢れる血を拭う。
――しかし、突撃の拍子で炎角が土壁に食い込み、鋼煉犀の動きが些か鈍くなる。
一撃の重さを目の当たりにしながらも、灼滅者達はこれを好機と捉え、覚悟を以って化身へと挑む。
鈴音が癒やしの矢でリュシールを射抜き、夜奈の長針の剣が斬撃を見舞ったのち。
「……誰も、失わせはしない」
エルザが紡いだ言葉は、決意。構えをとってからの目にも留まらぬ拳撃は、明確に鋼の皮膚を殴りつける。
「協調を認めない、変化を拒絶する意思は。変化に対する痛みは、これっぽっちか?」
朗々と、勇介は謳うように挑発する。空間に響くそれは宛ら、舞台を統べる主演の如き一声だ。
彼にはこの戦いに、己の魂を賭すほどの強い理由があった。
大切な彼女の『想い』を護りたい。哀しみを、拭い去りたい。けれどその理由を告げられないまま、勇介は戦いに赴いた。
ずん、と土壁をえぐり、炎角を剥き出したライノレックスは、その高らかな声に振り向いて再び突撃する。
それを制すべく伸ばしたのは、異形と化した鬼の手。
迎え撃つように勇介は鋼膚を抉るが、同時に彼の右肩には深々と炎角が突き刺さっていた。
それを引き抜き、ぐらりと態勢を崩す勇介へ追撃を試みるが――それを阻止したのは、
「ケレーヴちゃん、頼みますねい!」
後方支援のマナだ。傍らの愛猫へ声をそう掛けながら、流星のきらめきをまとって蹴撃を見舞う。
それを引き継ぎケレーヴは、尻尾を飾るリングの光を前衛の仲間達へ捧げる。
「おっと……ありがたいね。こんなとこで大怪我でも負っちまったら、妹がびっくりしそうだ」
癒やしを得て、構えをとる奏一郎。心配性である彼は、大切な妹のことが今もなお気掛かりであった。
夕焼け色の瞳は、兄妹ともに同じもの。戦いの後、いつものように笑顔で「ただいま」と――果たして、言えるだろうか。それは未だ分からないけれど。
「なあ、お前さん。悪いけど――此処は、俺達が勝たせてもらうよ」
宣言と共に、『粉雪』の名を冠すエアシューズが白の輝きを増して。
ライノレックス目掛けて蹴撃を与えたのち、奏一郎は髪を掻き上げ汗を拭う。
――やるからには全力で。命すらも、賭けて。そう、決めたのだから。
しかし度重なる連撃を与えられてもなお、ライノレックスは怯む様子を見せない。
唯でさえ深手を負いづらいというのに、守護を担うとあらば長期戦は必至であろう。
それ故に、前衛と同等に要となるのが回復手の存在だ。
(「お願い、どうか早く届いて。皆の傷を、癒やさなきゃ……!」)
ひよりは祈りながら、黄色標識を掲げて仲間達へ癒やしと加護をもたらす。
前中衛同士の活性化による連携の継続は事足りる分、ひよりの癒やしはすぐには届きづらく後手へ回ってゆく。
ケレーヴは満遍なく、鈴音は恩恵を与えながら灼滅者たちを支援するが、深手を負う者を癒やすには充分に足りず、じわじわと個々の体力は削られていた。
圧倒的な戦力差がある故に、決死の戦いと云えるであろう。
少女の小さな背に、絶望がのしかかる。それに屈しかける前に、ひよりはそっと己の耳朶に触れた。
四つ葉のクローバー、そして青い鳥。幸福をかたどったピアスの輪郭をそっと指でなぞれば、心を蝕む絶望が静かに溶けて消えてゆく。
灼滅者達は勝利を――希望を、決して諦めなかった。
●
エルザが繰り出す炎の蹴撃に次いで、奏一郎は鋼煉犀の懐へと飛び込み、その肉をねじ切るべく杭を突き刺す。
が、鋼の膚がそれを弾き返し、口から豪炎が放たれた。
辺り一帯を焼き払うが如く放射される炎の海は、後方のマナとケレーヴ、ひよりを呑み込んでゆく。
か細く一鳴きし、ケレーヴが羽をふわり散らして消滅した。「ケレーヴちゃん……!」とマナは必死に名を呼ぶが、彼女もまた炎に蝕まれて全身に激痛が走る。
『救彩・天照華姫』でその身を支え、辛うじて立ち上がるひより。杖に宿る、猛き炎が鮮烈に揺らめいた。
まるで相手が強者であればあるほど燃え上がる、炎鎖の遊撃者たる『彼』のように。
「……そう、だった。幸せも、『君』も、わたしの傍にいつも居るんだよね」
この聖樹の杖は、光射す場所への道標。スカートの裾を翻し、天使を喚ぶ歌声を深淵に響かせる。
どんなときでも――たとえ絶望でも――わたしは前向きに生きるって、決めたの。
しかし、歌を掻き消すが如く咆哮する野獣。それを阻むは、光の刃を振り翳すリュシールだ。
「私はね、縄張りを守る為でも食べる為でもなく、何かを殺すのは嫌よ! 嫌で嫌で堪らない!」
まるで血を吐くような強い言葉は、炎獄に何度も木霊し、響き渡る。
そしてリュシールは、協調派として今もなお取り巻きと相対するイフリート達を一瞥したのち、
「だから――少しでも殺さなくて済むように、殲滅派のあなたを今殺すの。許してなんて言わない。でも……」
――出来る事はするから、それだけは知っていて。
それはリュシールの小さな身体に秘める、大きな決意と信念。
彼女の言葉に、鋼煉犀は再び雄叫びを上げる。それもまた、ある種の挑発となりうるものだったか。
光の刃をその身に受けながらも、ライノレックスはリュシールへ炎を噴射する。
意識を失ったリュシールを鈴音が抱きかかえながら、後方へと下がってゆく。
回復手、そして妨害役を失い、灼滅者達の立ち位置や役割もその場に応じて変わってゆく。
しかし味方が減ることで、戦況はさらなる不利へと傾いてゆく。
此処まで耐え抜いてきた夜奈のサーヴァント『ジェードゥシカ』も、幾度の炎撃を肩代わりし続け、遂にぐらりと崩れ落ち霧散した。
「дедушка……!」
消えゆく祖父を呼ぶ、夜奈の声。常より怜悧な蒼の瞳に、更なる殺意が込められる。
(「――ころす。ためらわず、全力で、ころす。けど、ヤナに、できる……?」)
得物を幾度も振るいながらも、夜奈は自問自答を繰り返した。
恨みは、殺意は、嵩んでゆく。けれど、結局は守れない。己は非力であり、無力であり――。
其処へ、一歩を踏み出したのは勇介だ。ガイオウガの化身を映す彼の瞳に宿る想いは、『誠意』とも取れるものだった。
「変わるとは、過去に囚われないこと――けど、過去を捨てることじゃない」
それは先程と同じ、変化を拒む意思への問いかけ。
鋼煉犀にそれが届くかは定かではない。炎獄の空間に吹き抜けるは、少年の舞台風(ぶたいかぜ)。
「都合の良い事だけを選び、相手の嫌な部分を切り捨てて。まだ大切と言える? それは、逃避と同じだ。
けど――俺は、逃げない」
勇介は静かに、告げた。
――君を、受け止めさせてくれ、と。
まさか、とエルザは予感した。それも、恐れていたことを。
「勇介、下がるんだ。これ以上は危険だぞ」
エルザは冷静にそう呼びかけるが、少年は鋼煉犀と真正面で向き合ったままだ。
この場に居る灼滅者たちは最悪の状況を想定し、闇へ堕ちる覚悟を抱いていた者ばかりだ。
エルザのように、誰かが堕ちるならば――と自己犠牲を厭わぬ意思もある。
それに現在、サーヴァント達が倒れ、残る7名の灼滅者たちもそれぞれ深手を負い、立っていられるのがやっとの状況だ。
けれど、撤退だけは選べない。此処で勝利を、目指さなければ――。
しかし、炎獣の猛威は容赦なく襲い掛かる。奴が豪炎を放つのは勇介だけでなく、前衛全員だ。
ポケットにねじ込んだ封筒をそっと撫でながら、勇介の黒き瞳が金色へと彩りかけた――そのとき。
「させ、ない――!」
青色滲む白銀の髪が、炎の中で舞い踊る。
一瞬にして周囲を支配する、どす黒き殺気。殺人鬼――否、宿敵たるダークネスが発すべき、禍々しきオーラ。
ふわり揺蕩う、潮騒にも似た蒼のドレス。その身を飾る、淡い光を放つ真珠たち。
両の手に握る時計の針には、鋼煉犀の躰から迸る炎の血潮がこびりつき、揺らめいていた。
「夜奈、さま……? その姿は――」
マナの瞳が、驚きに見開かれる。
冷たい微笑を湛える夜奈――『であったもの』のあどけないかんばせは儚くも、美しく。
ダークネスは何も答えることなく、両の腕を広げる。すると彼女の傍らに、先ほど消滅したはずの『ジェードゥシカ』が顕現されたのだ。
一閃。そして斬撃。もはや視認できぬ幾度もの剣筋は、紛れもなく六六六人衆の、それ。
「おっと……驚いてる場合じゃないな。まだ、何も終わってない――!」
そう、灼き滅すべき存在は未だ息を残している。奏一郎は攻撃の手を緩めず、そのまま風の刃でライノレックスを斬り裂いた。
奏一郎の一声を機に、灼滅者たちは再び連携をとって攻撃を集中させる。
たちまち鋼煉犀は衰弱し始め、鈴音が影の刃で斬り裂いたが最後、猛々しい炎を噴き出したのちに跡形もなく消滅した。
「一人が闇堕ちすることで、ここまで形勢が逆転するとはね……」
髪をかき上げ、息を整えながら鈴音はつぶやく。
炎獄の空間は終わりを告げ、後に残るは静寂のみ。
どうやら協調派イフリートたちも、取り巻きの殲滅を終えたらしい。いつの間にやら、この洞窟から4体とも去っていた。
「……! 待って。夜奈さんは――」
ひよりがそう訊ねたときには、既に彼女等の姿は見当たらなかった。
まるで、白星・夜奈という存在そのものが消え失せたかのように。
勝利を掴みながらも、灼滅者たちは消えた娘(ヂェーヴァチカ)の行方を案じるばかりだった。
作者:貴志まほろば |
重傷:草那岐・勇介(舞台風・d02601) リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213) 死亡:なし 闇堕ち:白星・夜奈(星望のヂェーヴァチカ・d25044) |
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種類:
公開:2016年10月12日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
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