炎獄の楔~王を鎧う炎翼

    作者:魂蛙

    ●鎧炎竜ガイアバル
    「まずは垓王牙大戦、お疲れさま」
     須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)はまず教室に集まった灼滅者達に労いの言葉を掛け、説明を始める。
    「ガイオウガは倒せなかった。それは事実だけど、大きなダメージを負ったガイオウガは今、身を隠して回復に専念しているみたいなんだ。みんなの頑張りは、無駄にはなっていないよ」
     まりんは言葉に力を込めて灼滅者達を鼓舞する。
    「ガイオウガを倒すチャンスはきっとあるはず。まだ希望は絶たれてはいないから、諦めちゃダメだよ」
     まだできることはある。絶望するには早いのだ。


    「ガイオウガは日本各地の地脈から力を集めようとしているんだ。この力がガイオウガの元に集まったら、ガイオウガは全盛期の力を取り戻してしまう。最悪の事態になる前に、みんなに阻止して欲しいんだ。具体的には、ガイオウガは自身の力の化身である強力なイフリートを、日本各地の地脈に配置しているんだ。そのうちの1体で、名前は鎧炎竜ガイアバル。このイフリートの灼滅をお願いするよ」
     大掛かりな作戦を仕掛けている猶予はない。敵中に飛び込む決死戦となる。
    「ガイアバルの他にも、多数のイフリートが周囲の守りを固めているんだ。けど、心配はいらないよ。みんなが垓王牙大戦で救助に成功したガイオウガの尻尾……、灼滅者達と協調するガイオウガの意志の力が、周囲のイフリートの無力化の為に尽力してくれるんだ」
     これもまた、灼滅者達の垓王牙大戦における奮闘が繋いだ希望の1つだ。
     協調するガイオウガの意志の集合体たるガイオウガの尾から、猫科の猛獣に似たイフリートが多数現れている。このイフリート達が灼滅者に協力してくれる。
    「味方のイフリート達はガイアバルがいる地脈への案内と、周囲を固めるイフリートの無力化を担当してくれるんだ。皆の戦闘中に敵の増援が来ないように周囲の警戒もしてくれるから、みんなはガイアバルとの戦闘に集中できるよ」
     ガイアバルは協調するガイオウガの意志の影響さえも捻じ伏せる力を持っており、灼滅者達の手で倒す必要がある。
    「ガイアバルは高い戦闘力を持つ危険な相手だけど、灼滅者と敵対するイフリートの意志を刺激しないよう、少数精鋭で戦いを挑む必要があるんだ」
     大戦時のように大戦力を投入することはできない。協調する意志を持つイフリート達のお陰で数的不利こそ負わずに済むものの、最早殲術再生弾の力も得られない。極めて厳しい戦いになるだろう。
    「戦場になるのは地脈の中でもある程度の広さのある地下洞穴で、いくつかの地脈の合流地点になるみたい。崩落の危険もないし、地形的に不利を被ることはなさそうだね」
     とは言え、灼滅者が有利になる点もあまりない。敵も防御の備えとして配置されている以上、不意を突いた奇襲も難しいだろう。
    「ガイアバルのポジションはクラッシャーで、サイキックはファイアブラッドのレーヴァテインとフェニックスドライブ、人狼の幻狼銀爪撃、エクソシストのセイクリッドクロス、魔導書のゲシュタルトバスター、ウロボロスブレイドのウロボロスシールドの6種に相当するものを使うよ」
     ガイアバルは大型車並の巨躯を誇るイフリートで、鎧炎竜の名の通り全身を覆う程強大な1対の翼を持っている。炎の翼膜とスパイク状の爪を備えた所謂ワイバーン型に近い構造の鎧翼は可動域も広く、翼として鎧として、そして5本目6本目の脚のようにも使えるガイアバル最大の武器である。
    「重ねての注意になるけどガイアバルはとてつもない強敵だよ。……もしかしたら、闇堕ちの力に頼ってさえも……」
     まりんはそれ以上の言葉は濁す。それが却って、今度の戦いの過酷さを灼滅者達に伝えていた。


    「時間も準備も足りない中で、強敵との戦い。無傷での勝利は難しいかもしれない」
     まりんは呟き、それでも確固たる信頼をもって灼滅者達を見つめる。
    「それでも、みんなが勝利して、そして無事に帰って来られるって、私は信じているよ」


    参加者
    夏雲・士元(雲烟過眼・d02206)
    天峰・結城(全方位戦術師・d02939)
    長沼・兼弘(キャプテンジンギス・d04811)
    黒鐵・徹(オールライト・d19056)
    荒吹・千鳥(祝福ノ風ハ此処ニ在リ・d29636)
    柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)
    平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)

    ■リプレイ


     いやに熱の籠った地下洞穴を底へ底へと、灼滅者とイフリートの混成隊が往く。
     イフリートは灼滅者達を先導しつつ、分かれ道に差し掛かる度に取り巻き排除の為に1体また1体と別の道を行く。
     灼滅者に随行する最後の1体のイフリートが、不意に足を止めた。イフリートは留まったまま1本道の向こうを鼻先で指して灼滅者達を促す。
     目的地だ。理解した灼滅者達は頷き、イフリートに見送られながら駆け出した。
    「さてと……『災害派遣』だ」
     平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)が呟く。
     程なくして、灼滅者達は地下道から放り出される様に開けた空間へ足を踏み入れた。
     ひび割れた壁面から漏れる赤熱。拍動するような地響き。横たわる巨体を鎧う1対の炎翼。
     炉のような広間の中央に、鎧炎竜ガイアバルは鎮座していた。
     灼滅者を待っていたとでも言うように、ガイアバルはゆっくりと体を起こす。鎧翼を開く、その所作だけで起こした熱風が灼滅者の肌を焼く。翼を広げた姿は後光を背負うが如く、熱量を持った迫力で灼滅者達を威圧した。
    「力量ノ差ヲ今更理解シタカ。ダガ、覚悟シロナドト手緩イコトハ言ワヌ」
     鎧翼で力強く空を叩いたガイアバルは、灼滅者達へただ一言を――、
    「諦メロ」
     ――告げた。
    「諦めなんて、置いてきました!」
     熱風を切り裂いていの一番に飛び出した黒鐵・徹(オールライト・d19056)に、長沼・兼弘(キャプテンジンギス・d04811)が続いた。
     同時に荒吹・千鳥(祝福ノ風ハ此処ニ在リ・d29636)は側面方向に展開、和守の指示を受けたライドキャリバーのヒトマルが随行する。千鳥は付かず離れずの間合いを保ちながら、ダイダロスベルト製のぬいぐるみのくま太郎をけしかけガイアバルを牽制する。
     ガイアバルはくま太郎の攻撃を鎧翼で防ぎつつ、吐き出す炎で正面から来る徹と兼弘を迎え撃った。
     兼弘はジンギスカン鍋を模した武器Genghis Khanを盾として構え、徹も同様にWOKシールドを展開、そのまま迫る炎に突っ込みせき止める。
     夏雲・士元(雲烟過眼・d02206)がイエローサインで2人を支援、同時に勢い削がれた炎を突き破り、柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)とラピスティリア・ジュエルディライト(ナイトメア・d15728)が飛び出した。
     ラピスティリアはエアシューズの星空游泳のローラーダッシュで纏わりつく炎を振り払い、高く跳躍した頂点で鬼神変を発動した。玲奈はダイダロスベルトを伴い地上から接近、ガードを上げた鎧翼を潜って肉迫する。
     ラピスティリアが巨腕を叩き付け、玲奈はガイアバルの前脚を足掛かりに跳び横っ面を上段蹴りで叩き、更に追随するダイダロスベルトがもう一撃を重ねる。
     ガイアバル後方の死角から飛び込んだ天峰・結城(全方位戦術師・d02939)は日本刀をガイアバルの後脚に突き立て、斬り上げ、刃を返して振り抜く3連撃を纏め、戦闘靴2型改二のローラーダッシュから跳んだ和守が強襲、鎧翼の隙間に飛び蹴りを捻じ込んだ。
    「深追いするな! 反撃来るぞ!」
     兼弘が声を飛ばし、灼滅者達が散開する。立て続けの攻撃をまともに受け、しかしガイアバルは超然と立っていた。
     上半身を落としたガイアバルが両鎧翼の翼角に当たる位置から生える爪を地面に突き立て咆哮する。直後、ガイアバルを爆心にして広がる炎が、灼滅者達を纏めて吹き飛ばした!


     翼を羽叩かせ飛び上がったガイアバルはそのまま天井に取りつく。壁面を翼爪で掴んで張り付いたまま、上空から吐き降らせる炎の雨が灼滅者達に襲い掛かった。
     兼弘は態勢を立て直しつつ、自分と同じく爆炎を近距離で受けた徹に声を掛ける。
    「無事か、黒鐵!」
    「はい! 夏雲お兄さんは他の皆を!」
     気丈に応えた徹は火傷をソーサルガーダーで癒しつつ士元に呼び掛ける。
    「無理はしないでね、徹ちゃん!」
     頷いた士元が戦況を立て直す時間を作るべく、被害の小さかった千鳥が突出して囮となりつつ、くま太郎を放つ。
     襲い掛かるくま太郎を鎧翼で弾き飛ばしたガイアバルは天井を蹴り、その巨体を肉弾と化して千鳥めがけて飛来する。千鳥は大きくバックステップで退避、直後に着弾した鎧翼が地面を派手に割り砕いた。
     ガイアバルは両翼で地面を掴み、昆虫にも似たフォームで千鳥を追撃する。鎧翼を駆使した巨体に似合わぬ敏捷性が千鳥を追い詰め、振りかぶった鎧翼を振り下ろす。
     激突の寸前、飛び出したヒトマルが間に合い鎧翼に突進、体当たりで強引に軌道を反らして千鳥を守った。
     飛び込んだ玲奈は怨京鬼を正眼から打ち込み、その黒い刀身で翼の付け根を斬り裂く。たまらずガイアバルは翼を畳み、玲奈を振り払いつつバックステップで間合いを取り直した。
     ガイアバルはその場で羽ばたき、大量の炎の羽根が飛散する。炎の羽根は消える事も地に落ちる事もなく、ガイアバルの周囲を漂っている。
     正面から間合いを詰めた結城に、ガイアバル前方に浮遊していた羽根が襲い掛かる。結城が大きく左に跳んで躱せば、左に展開していた羽根が反応、飛来して接近を阻む。
     結城は羽根を刀で叩き落としつつ最後に大きくバックステップして羽根の攻撃が止まった事を確かめ、仲間達を見やって頷く。
     つまりこの羽根は攻撃に反応して迎撃する、言わば鎧の副装甲だ。
    「そういう事なら!」
     理解して、徹は迷わず飛び出す。
     徹は大挙して襲い掛かる羽根を跳び越え躱し、シールドで叩き落とし、ガードを固め強引に突破し、直向きな前進で血路を切り拓く。
    「本体からも攻撃来るぞ!」
     兼弘は徹を追い越し、ガイアバルの翼爪の一撃を受け止める。全身を駆使して鎧翼を捌いた兼弘は、更に首を伸ばすガイアバルの噛み付きをその鼻先を掴んで押し止めた。
     兼弘は膝を突き上げガイアバルの顎を打ち抜き、更に裏拳を重ねた。ガイアバルは唸りながら鎧翼を開いて再び炎の羽根を撒き散らす。
     その時既に、跳躍した士元がガイアバルの頭上から狙っていた。
    「回復だけが能じゃないってね!」
     士元は周囲に生成した無数の光球を一斉に投射する。降り注ぐ光弾は炎の羽根の悉くを撃ち落とし、ガイアバルを丸裸にした。
    「守りを固めるなら、打ち崩すまでだ!」
     本来は銃剣用であるBayonet Type-64を手に、和守は鎧翼の守りの薄い正面から飛び込んだ。ガイアバルの額に剣を突き立てて取りつき、杭打機が如く膝を突き下ろす。
     堪らずガイアバルが和守を翼爪で引っ掻こうとした瞬間、空いた体側に結城の刀が突き刺さる。結城は更にチェーンソー剣を左手に握り、足にスターターを掛けて振り上げると同時にエンジンに点火、唸りを上げる刃をガイアバルに噛み付かせた。
     千鳥が右後方から咬斬鋏で斬りかかり反撃を誘い、玲奈が逆方向から強襲、振り抜くマテリアルロッドの魔力の爆裂でもって鎧翼をカチ上げた。
     一瞬ながら、鎧翼の守りが綻ぶ。そこに突っ込むラピスティリアは反応が一手遅れた鎧翼の上を疾走、振り払う翼の動きすら利用して跳躍、捻りを加えた前宙からの胴廻し蹴りをガイアバルの延髄目掛けて打ち込んだ!
     完璧な連携、そして強烈な一撃だったが、ガイアバルを倒すには至らない。ガイアバルは激しく燃え上がる鎧翼を大剣が如く振り回して大地を薙ぎ払い、焼き払い、灼滅者達を一掃した。
     ここまで終始、灼滅者達は堅実だった。多少の力量差であれば覆せる程に。
     だが、ガイアバルとの地力の差、特にタフネスの差は多少では済まない。不利な削り合いを制する為に必要なのは、博打を打つ蛮勇だったか。
     或いは――。


    「来いよ……良く狙ってこい」
     満身創痍の兼弘は最早自ら踏み込む余力もなく、代わりに挑発をガイアバルに叩き付けた。
     ガイアバルが突き下ろす鎧翼を受けて吐血した兼弘は、だが倒れない。
     兼弘は指輪が生成する制約の弾丸を握り込んだ拳を翼に押し当て――、
     重心を落とし、
     地を踏み抜き、
     腰を切り、
     肩を捻じ入れ、
     拳を突き込み、
     ――発勁する!
    「ワンインチってやつさ」
     鎧を透かして打ち込まれた制約弾丸がガイアバルの体の自由を奪い、踏ん張りそこなったままに転倒した。
    「今だ、火力を集中しろ!」
     兼弘は背後の仲間に声を掛け――、
    「すまんが、俺はここまでだ」
     ――そのまま倒れた。
     仲間達が畳み掛ける間に、徹は兼弘に駆け寄ってまだ息がある事を確かめる。自由を取り戻したガイアバルは灼滅者達の包囲を突破、その向こうの徹達に狙いを定めていた。
     ガイアバルが叩き付けた翼爪を始点に、地を割りながら炎が走る。
    「痛かったら、ごめんなさい!」
     抱えた兼弘を投げ飛ばした後ろへ徹は、ガードと覚悟を固めて自ら炎に飛び込んだ。シールドを割られながらも徹は踏み止まる、だけでなく一歩前へ。
    「負けるものかっ!」
     焼ける腕をデモノイド寄生体で覆いながら、炎を切り裂き駆ける徹を待っていたのは無情な翼爪の迎撃だった。
     鎧翼で徹をスタンプしたガイアバルは容赦なく踏みにじる。
    「絶対に勝って帰るんだ……」
     徹は辛うじて動かせる右腕を寄生体に飲み込ませて砲身化させ、ガイアバルへ突きつけて――、
    「だから!」
     ――ぶっ放した!
     至近距離で顔面に光線を食らいガイアバルが飛び退く。
    「まだ、動け……」
     その言葉と気持ちに、徹の体はついていけなかった。
    「あとはうちらに任せてな」
     力尽きた徹の無念を引き継いだ千鳥が、繰り出される鎧翼を鋏で受ける。その足元を抜けていったくま太郎がラリアット気味に前脚を払い、ガイアバルがバランスを崩した。
     千鳥は一気に懐に踏み込み、傾き落ちてくるガイアバルの側頭を跳び上がり様の鋏で突き上げる!
     炎血を散らしながらも踏み堪えたガイアバルは、中空で身動き取れない千鳥を鎧翼の横薙ぎで弾き飛ばす。
     壁に叩き付けられた千鳥は、受け身も取れぬまま倒れ込んだ。
     次いで来る結城を、ガイアバルは炎の羽根を展開して迎え撃つ。
     結城は襲い来る炎の羽根をエアシューズのダッシュで掻い潜りガイアバルに肉迫する。叩き付ける鎧翼を結城はクイックターンで躱しスピンで制動から跳躍、ローリングソバットを顔面に炸裂させた。
     更に刀を抜き放った結城の背後に、炎の羽根が迫る。しかし結城は大上段に構えた刀を、背中を直撃する炎に構わず振り下ろした!


     吹っ飛ばされた結城が墜落、そのままダウンする。
     その身を賭した一撃が生んだ好機を、ラピスティリアと士元は逃さない。
     先行した士元が大きく旋回してガイアバルの注意を引き付ける。士元はガイアバルの側面から間合いギリギリまで踏み込み、薙ぎ払う鎧翼を跳び越えつつシールドリングを飛ばした。
     同時に懐へ飛び込むラピスティリアを、もう片方の鎧翼が迎え撃つ。ラピスティリアはシールドリングの助けを借りつつ、鬼神変を発動した巨腕で翼爪を真っ向から受け止めた。
    「火力担当が簡単に倒れる訳にはいかないんですよ」
     ヘッドホンから垂れ流しになっている、アップテンポの音楽はまだ聞こえている。ならば軋む全身の悲鳴は聞き捨て、踏み込んだラピスティリアの巨拳がガイアバルに炸裂した。
     衝撃で後退さるガイアバルを玲奈が追走する。が、ガイアバルは鎧翼で地面を鷲掴んで強引に制動を掛け、玲奈を睨んで顎を開いた。
     牙の隙間から漏れ出す炎が、玲奈を戦慄させる。
    「地上には、守るべき人々がいるんだ」
     玲奈とガイアバルの間に、割り込んだのは和守だった。
     既に半数の味方が戦闘不能だが、アタッカーを担う仲間がまだ残っている事が最後の希望だ。であれば、和守の成すべき事は決まっている。
     ガイアバルは喉からせり上がる炎を口腔に溜め、牙を打ち合わせ起こした小爆発の連鎖で爆縮、一気に放った。
    「やらせるわけには、いかないんでな」
     踏ん張った和守を直撃、爆裂した火球が炎熱を撒き散らす。しかし、和守の覚悟は炎を後ろへ通しはしない。
     C・ODアーマーの装甲板が焼け溶け、晒された内部機構が火花を散らす。ゆっくりと膝を着いた和守は、最後まで一歩も退く事はなかった。
     その背中を見届けた玲奈は、静かに息を吸い込む。
    「これ以上、好きには――」
     博打を打つ為の種銭は残っていない。だが、代償を支払う覚悟ならある。
    「――やらせないんだから!!」
     一片の結晶が、熱風に煽られて舞う。
     地を蹴り砕いて飛び出した玲奈はガイアバルの予測を遥か上回る速度で肉迫、ダイビングボレーでガイアバルをぶっ飛ばした!
     起き上がったガイアバルは明らかに動揺している。
     玲奈に突如として凄まじい戦闘力をもたらしたそれの正体を悟ったガイアバルは、鎧翼全体に燃え広がらせ、6脚のフォームに移行して咆哮した。
     炎を纏ったガイアバルの突進を受け、玲奈が大きく後退る。更に鎧翼を横薙ぎに叩き付け、壁際まで追い込むも、玲奈が固めたガードは揺るがない。
     後脚で立ち上がったガイアバルが鎧翼を勢いよく振り上げる。
     垂直に振り下ろされる炎の鎧翼はさながら隕石の如く。その激突で地上は灰燼に帰す。
     しかし。
    「天の御国へ――」
     玲奈は既にガイアバルの頭上高くへ跳躍していた。
     飛来した玲奈は腕を首に巻き付けるよう担ぎ、落下の勢いを旋転に変換する。
    「――ぶっ飛びなさい!」
     旋転に巻き込まれたガイアバルの巨体が浮き上がり半回転、そのまま壁に衝突する!
     首を担いだまま着地した玲奈は、振り返り背負い投げでガイアバルを再度地面に――、
    「もう一発ぁつ!!」
     ――激突させる!
     士元は胸の前で閉じた両の掌を開いて光球を生成、ガイアバル目掛けて投射する。
    「いっけぇええ!!」
     着弾した魔力の炸裂がガイアバルを高く打ち上げた。
     ラピスティリアは既に跳んでいる。首だけ向けて放射するガイアバルの炎を突き抜け、ラピスティリアは魔力光を収束させたマテリアルロッドで――、
    「案外負けず嫌いなもので」
     ――打ち抜く!!
     着地したラピスティリアが、静かにロッドを下ろす。
    「我ヲ倒ス為ニ、新タナ敵ヲ生ミ出シタカ」
     ガイアバルは天井に叩き付けられ、体内に打ち込まれた魔力が撃発、ガイアバルを――、
    「愚カ也、灼滅者」
     ――爆砕した。
     かくして、激闘を制してガイアバルを灼滅し、仲間の安否を確かめた士元は悔しさを噛み締めていた。
     負傷の程度に差はあるが、全員命に別状はない。
     しかし。
    「先に帰っていて」
     1人も欠けず学園に帰る事は叶わない。それが、灼滅者達が支払わなければならない代償だった。
    「私も必ず帰るから。……少し、遅くなっちゃうけど」
     付け足して、玲奈は誤魔化すように苦笑いを浮かべる。
     ダークネスに完全に体を乗っ取られる前に時間を稼ぐ為、地脈の奥深くへと去っていく玲奈の背中を見つめ、士元は絞り出すように呟いた。
    「……約束、したからね」
     必ず、迎えに行くから。

    作者:魂蛙 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607) 
    種類:
    公開:2016年10月12日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:成功!
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