オータム・プレイ・ツアー

    作者:朝比奈万理

     木々の色もすっかりと色を変え、染まる葉は次の世代の葉へ生を譲るため、母なる枝からそっと手を放す。
     風に舞う葉を目で追えば、高い高い遠い空。
     ついこの間まで、手を伸ばせば届きそうな場所にいた雲も、はるかかなただ。
     ここ最近、学園では様々なことが起きた。
     目まぐるしく状況が変わる中、不幸なことや幸いなことが一気に押し寄せて――。
     こうして空を見上げたのは久しぶりではなかろうか。
     息をついた浅間・千星(星導のエクスブレイン・dn0233)は、右手に装着したうさぎのパペットを左手で抱きながら、
    「そうだ」
     とつぶやいた。
    「田舎に行って、神社にお参りに行こう。教会にも祈りをささげに行こう。そして、買い物したり食べたりして遊ぼう!」

     軽井沢。
     と言えば、夏。
     色鮮やかな木々の緑の風渡る、高原の避暑地のイメージを持つ者も多くいるだろう。
     だが、軽井沢が魅力的なのは夏だけではない。
     真っ白な雪に閉ざされる冬は、イルミネーションあふれる光の町と化し、遅く訪れる春は町を優しい風と色彩が包み込む。
    「わたしのお勧めは、秋の軽井沢だけどな!」
     と千星はにんまりと笑みを浮かべる。
     それに相槌を打ったのは千曲・花近(信州信濃の花唄い・dn0217)。
    「軽井沢か。あんまり行ったことないかも」
    「東京の人間が東京の名所をあまり巡らないのと一緒で、近隣の住人はあんまり行かないかもしれんな」
     だったらこの機会に行こうではないか。と千星はガイドブックをぺらぺらとめくり、ウサギのパペットを操っておすすめスポット矢印の付箋をぺっぺっぺと張って行く。
     木々の葉がだんだんと色づき始め、人々は紅く染まる葉を楽しみ、豊穣に感謝し舌鼓を打ち、やがて来る冬に備える。
     そんな人々の営みに寄り添うように、軽井沢には祈りの場が点在する。
    「ひとつは熊野神社。群馬と長野の境を跨ぐ、非常に珍しい神社だ」
     旧碓氷峠にひっそりと立つ社は、その珍しさと力強いご利益のため、参拝者が後を絶たない。
     山奥の紅葉も色を深め、静かに願いを込めるのにはちょうどいい。
    「もうひとつは、旧軽銀座の奥の教会」
     賑やかな旧軽銀座を少し奥に進むと、見えてくるのは聖人の名を戴いた厳かな教会。
     温かみのある木の教会で、だれでも祈りをささげることが出来る。
    「他にも大きなアウトレットモールで買い物やお茶もいいかもな」
     駅の南側にあるのは広大な土地面積を有するアウトレットモール。ファッションや雑貨の店はもちろん、喫茶店やレストランもあり、軽井沢お土産もここで購入することができる。
    「まぁ、ここ最近いろいろあっただろ。だから、皆にはのんびり楽しんでもらいたいんだ」
     願いたいことや祈りたいことがあるのは、皆一緒だと思うから。
     その言葉を千星がつぶやくことはなかったけど、花近は一つ頷く。
    「そだね。みんなにとって素敵な一日になるといいね」
     彼の屈託のない笑顔に、千星もにっこりと笑みを返した。

     旧暦の神無月? しったことか。
     願い祈れば、出雲にだって天にだって、声は届くさ。


    ■リプレイ


     旧碓氷峠はあかあかと燃えるような紅葉に包まれている。
    「碓氷峠には何度か来たことがあるけどここまで足を延ばしたのははじめてね」
     境内に続く石段をゆっくり上りながら各務・樹(カンパニュラ・d02313)がふと見上げると、紅葉に彩られた木々からはひとひらひとひらと葉が舞い降りてくる。
     そんな彼女の手をとった無常・拓馬(カンパニュラ・d10401)も、感嘆の息。
    「これだけでも軽井沢に来た甲斐はあったなって思うよ」
     石段を上がれば、珍しい県境に立つ神社が姿を現す。
     山奥の神社にしては立派なたたずまいに、もうひとため息。
    「ここなら確かにご縁がありそうだね」
     拓馬の言葉に樹もひとつ頷き、問う。
    「拓馬くんはどんなことをお願いするのかしら?」
    「月並かもしれないけれど、樹と俺、これからのことだな」
     ダークネスとの戦いは激しさを増して行く。
     だけど、どちらも欠けず、無事二人一緒に幸せに過ごせますように。
    「樹も何かお願いしようと思っていることはあるかい?」
    「わたしは拓馬くんが……」
     口に出して小さく首を振る。
    「ううん、これからも拓馬くんと一緒にいられますように、って」
     進み出て、二人並んで作法に則り手を合わせる。
     二人願いを込め、頭を上げた。
    「この近くに峠を超える旅人が力をつけるために食べたっていう力餅を出してるお店があるから、帰る前に験担ぎをしていかない?」
    「峠を越えるための力餅か……俺も行ってみたいな。これから大きな戦いを控える俺達にはピッタリだね」
     階段を下り始めた拓馬と樹。入れ替わるように境内に足を踏み入れたのは、水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)。その後ろには茶倉・紫月(影縫い・d35017)の姿があった。
     相当落ち込んでいる様子で俯きっぱなし、階段を上りきったところでここがどこか認識できた様子だ。
    「神社? 神は死」
    「そこから先は言わせない」
     沙夜は被せ気味に紫月の頬を引っ張った。思わず顔をしかめる紫月。
    「言の葉は力を持つんだから」
    「……痛い」
     痛いのは頬だけじゃない。心もかなり痛んでいる。
     好きな人が闇堕ちした。そして今も彼女の動向はわからないまま。
     これで落ち込むなといわれても無理がある。
    (「今何処に居るんだろ……」) 
     紅い葉が一枚一枚振る中、紗夜は紫月の頬から手を離した。
    「神頼みなぁ……神様とかいるんだろうか」
     深い息をつく紫月。
    「神様はいるさ。でないと神という言葉は存在しないだろう」
    「まぁ、言葉があるということはいるのだろうけど」
    「僕も神様にお願いするから。複数人でお願いしたら確率上がるかもしれないし」
    「少しでも早く見つかって欲しいし、力を借りてみるか」
     進み出でて一礼二拍手。
     願うことは、ひとつ。
     あの人が早く見つかりますように。
    「正直」
     最後の一礼。紗夜が頭を上げた。
    「しょんぼりして腐りかけてるしーちゃん先輩見てると、面白くないんだよね」
     その言葉に紫月も頭を上げ。
    「僕はしーちゃん先輩が恋人さんから受ける処遇に、一喜一憂してるのを見ている方が面白いんだ。でも……リア充爆発しろって思うよ」
    「見世物じゃないんだからな」
     小さくムッとして見せる紫月だったが。
    「……って、最後に何物騒なこと言ってるんだ。爆破されてたまるか」
     言い合う二人の後ろをカメラを構えながら歩くのは羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)。たくさんの紅葉と神社の景色を切り取って、たどり着いたのは樹齢850年以上の霊木・しなの木。
    「かみさま」
     立ち止まり木を見上げる陽桜の傍らに寄り添うように霊犬のあまおとが現れ、主と同じように木を見上げる。
    「あたしが、あたし自身に繋がる縁を自分で切ってしまったのは自分の意志だからいいです。でも人と人との繋がりの縁は、もう一度と願っても機会がなければ難しいって思います」
     少しかがみ自分に寄り添うあまおとを撫で、陽桜はまたその大きな腕を持つ木を見上げた。
     そしてそっと願う。
     自分が壊してしまった人たちとの縁が、また繋がる機会がありますように。
     そうしたら次は、きっと――。
     陽桜はもうひとつ、願いをかける。
    「かみさま、どうか堕ちてしまった人達が戻ってこられるためのご縁が、機会が、たくさん繋がりますように……」
     風が通り抜け、木々がざわざわと鳴り、やがて落ちてきたのは一枚の葉。
     それは『心』の形だった。


     紅く染まった紅葉や、金色の銀杏の葉。
     お気に入りの落ち葉を拾う葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789)がふと見上げれば、木造の建物の上に佇むのは清らかなお顔のマリア像。
     落ち葉をさりげなくひとまとめにして立ち上がり、百花は小さく会釈をする。
     その行動すべてに愛おしさを感じ、目を細めるエアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)は彼女の手をそっととって。
     教会内の響くのは、木の床に落ちる足音だけ。
    「人が全然いないわけじゃないけど、静かね」
    「神聖な雰囲気はどの教会でも変わらないな」
     その雰囲気が心を落ち着かせる。
    「ね、お祈りしましょ?」
     百花の誘いにエアンが頷く。
    「ん、そうだね」
     二人は並んで祭壇の一番前で、両手を組み合わせて十字架を見上げる。
     百花が祈るのは、
    (「世界平和と……」)
     大好きな彼との未来。
    (「ずっとずっと、この幸せが続きますように」)
     エアンも祈りたいことは色々ある。
     何よりも一番の祈りは、大切な彼女との未来だ。
     共に過ごしていく幸せな時間が、こんなにも貴重でかけがえのないものだと気づいたから……。
     エアンには祈りのほかに、導きを授かりたいことがあった。
    (「……いつ、言おうか……」)
     百花がちらと横を見れば、真剣に祈るエアンの横顔。
    (「えあんさんも同じことお願いしてるといいな……それもお願いしとこ!」)
     再び十字架に向かい真剣に祈る百花。エアンはその横顔に小さく笑んだ。
    「熱心だね」
     何をそんなに……とも思うが、それは無粋というもの。
    「そろそろ行こう」
     百花の手をとり、指先に小さく口付け。
    「ね、えあんさん……目を閉じて?」
     エアンの青い瞳がまぶたに隠れたのを確認して、百花が彼の襟元に気づかれないようにこっそり留めたのは、紅葉や銀杏の小さなブートニア。
     目を開けた彼ににっこりと笑んで腕を組み。
    「……お散歩して帰ろ?」
     明日に繋がるこの道の先の、二人の家へ。
     こうして二人は、木漏れ日が風に揺れる中を一歩踏み出した。
     エアンがふと振り返ると、マリア像が静かに微笑んでいた。
     大丈夫。
     エアンにはその声が聞こえた気がした。
     旧軽銀座には可愛くておしゃれなスイーツショップが点在している。ガイドブックで気になるお店を巡って、最後に教会へと足を進めてきたのは、秦・明彦(白き雷・d33618)と守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)。
     気をふんだんに使った内装は落ち着きや温かみがあり、且つ、厳かだ。
    「木の柱に天井、丸太の長いすとか軽井沢らしい森の教会だね」
     結衣奈は十字架の前で手を組み捧げる祈りは、彼や仲間たちの無事。
    「ここで結婚式挙げると素敵な思い出になりそうだよなあ」
     小さく囁く明彦に、結衣奈も微笑みで返す。
    「神前もいいけど、こんな素敵な教会でウェディングドレスを着るのも女の子の憧れだよ」
    「結衣奈はウェディングドレスはどんな感じが良い? ドレスの色やデザインが色々有るから、想像するだけで楽しそうだ」 
     明彦の問いに結衣奈は指を頬に当て。
    「そうだね、形状からして悩みそうだよ」
     たくさんのドレスの中から、自分で選び取るまだ見ぬ白いドレスは、どんなに美しいだろう。
    「その前に、結婚式のあれこれより、まずはご挨拶が先かな?」
     結衣奈の言葉に、明彦の表情が引き締まる。
    「勿論、結衣奈のご両親に了解してもらえるようしっかり挨拶するよ」
     手塩に掛けて大切に育てた娘さんを、もらいにいくのだから――。
     軽井沢の秋は東京の秋よりも深い。
    「さすがにこの辺りの気温は違うワネ……寒い」
     オリガ・オルフェイス(夢奪う告知の花・d10151)がぎゅっぎゅとくっつく先は、早乙女・霞(高校生神薙使い・d09929)。
    「ね」
     この辺りの紅葉を去年も見た霞は、月日の速さを肌身に感じ。
    「でもこうして今年も来れたことが嬉しくて大事なことだよね! オリガちゃんと遊ぶのも久しぶり! めいっぱい楽しもうね!」
     と、仲良く教会に続く道を歩けば、その先に見知った姿を見つける。
    「チセ発見ー!」
    「お、オリガ・オルフェイスと早乙女・霞じゃないか!」
     二人に駆け寄った浅間・千星(星導のエクスブレイン・dn0233)を、オリガはぎゅっとお久しぶりのハグ。
    「お、どうした」
    「あのね、今から教会に行くんだけど一緒に行かない?」
     霞の問いに、千星は大きく頷いた。
    「わたしも行こうと思ってたところだ。ご一緒光栄だぞ!」
     と、教会に向かって歩き出す。
    「ふふ、カスミちゃんにチセ、ウサパペちゃん。これぞ両手に花だワア」
     オリガを真ん中にたどり着いた先は、教会の入り口の大きな扉。
    「チセちゃん、扉開けて?」
    「え、わたしがか?」
     いいぞ。と頷いて、千星は扉を開けた。
     と同時に響きだすのはパイプオルガンの重厚な音色と、オリガと霞による、誕生日を祝う調べ。
    「!」
    「ハッピーバースデー、チセちゃん!」
    「教会の人にお願いして、演奏してもらったのヨ。どう、驚いた?」
     霞とオリガのサプライズなお祝いに、驚きの表情いっぱいだった千星は思わず笑顔。
    「驚いた! 二人とも、ありがとう!」
     サプライズが成功して、お互いの顔を見て笑む。オリガと霞。
    「お誕生日おめでとう! チセ」
     オリガが差し出したのは、小さな箱。
    「今回のプレゼントは、スイートポテト!」
     星型がかわいらしくて、千星にぴったりだと選んだものだ。
    「ありがとう。って、そういえば去年も食べ物だったな」
     受け取りながら千星が思い出すのは、去年のこと。
    「美味しいものは正義だからいいんです!」
    「……それもそうだ! 美味しいは正義だ!」
     笑いあう三人の楽しそうな声は、天井まで響く。
     教会は祈りの場。だけど、祝福の場でもあるのだ。


     広大な土地に有名ブランド店がひしめき合うアウトレットモール。
    「……こういうのもあるのね」
     篠崎・零花(白の魔法使い・d37155)赤い瞳の半眼が捕らえるのは、かわいらしいワンピース。
     あ。と、ワンピースを戻して見に行くのは、少し大きめのリボンバレッタ。
    「……これも悪くないわね」
     そうやって気に入ったお店を渡り歩き、
    「……なんだかリラックスするのにはよさそうね」
     疲れたらカフェで、甘いロイヤルミルクティーとイチゴのショートケーキでひと休み。
     これが正しいウィンドショッピング。
     カフェを出ると、ちょうどお目当ての人物を見かけて呼び止めた。千星だ。
    「……浅間さん、……お誕生日おめでとうね」
    「あぁ、ありがとう! 篠崎・零花はこれから何処へ行くんだ?」
    「……お土産をみてまわるわ」
    「土産物なら、ジャムがお勧めだ。甘くて美味しいぞ」
     甘くて美味しい。
     その言葉に零花の表情は明るくなったが、千星にはよくわからなかった。
     ポンチョコートの下からはショートパンツとタイツ、そしてブーツが覗くワイルドな雰囲気の中にも、トップスはハイネックとチュニックという女の子らしいコーディネートの椿森・郁(カメリア・d00466)。
     一方は、ロングコートにデニムパンツ。インナーのカットソーとパーカーはすべてシックなモノトーンでまとめた大條・修太郎(一切合切は・d06271)。足元は、晩秋にふさわしいブーツ。
     おしゃれな二人は仲良く手を繋ぎながら、ウィンドショッピングを楽しんでいた。
     少しだけ冷たい風に、お互いが少しずつ身を寄せ。
    「もう11月だもんな。朝はもう、暖房入れたりするよ」
    「たしかに朝晩は特に寒いよねー。これからもっと寒くなってますます布団から出たくなくなる」
     小さく肩をすくめる郁。そんな彼女を見ながら修太郎は、そういえば、と振る。
    「椿森さんは夏と冬はどっちが好き? 僕は色々言いつつも冬だな。身も心も引き締まる感じがするから」
    「私もどっちかとゆーと冬かなー。チョコ系のお菓子が充実するから!」
     元気でいかにも女の子らしい答えに、思わず笑みがこぼれる。
    「はは、チョコか、椿森さんらしい」
     と、修太郎の目に留まったのは、アクセサリーを専門に扱うショップ。 
    「アクセサリーとか見に行ってもいい?」
     問われて郁は頷いた。
    「私はアクセサリーも帽子もほとんど身に着けないし持ってないなあ。修太郎くんはお洒落だねー」
    「お洒落って訳じゃないんだが好きなんだ。指輪なんかいくつでも欲しいし」
     店内に進み入ると、指輪やネックレス、ブレスレットなどのほかに、帽子やベルトなど、多岐に渡るアイテムがディスプレイされていた。
     ちょうどクリスマス前ということもあって、華やかさは増していた。
     色々試す修太郎に郁は目が離せない。
     好きな人のいろんな姿を見るのは、楽しいからだ。
     二人で色々なアイテムを試し、ふと、修太郎が郁を見た。
    「何かお揃いで買う?」
    「お揃い……」
     と言われて、郁の視線が指輪に留まり。
     修太郎はそんな彼女の視線を辿る。
    「じゃあ僕にも選んで、指輪」
    「私は修太郎くんに選んでもらえたらうれしい」
     お互い同じことを考えていたことに小さく笑いあって、修太郎と郁の指輪を巡る旅は続く。
    「せっかくアウトレットに来たんだし、服屋を覗いていこう?」
     お互い繋ぐ手に、若干の初々しさゆえのぎこちなさを感じながら洋服店に足を踏み入れたのは、北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)は水野・真火(水あるいは炎・d19915)。
    「洋服とか、あんまり詳しくなくて……北条さん、ご迷惑でなければ一緒に見て頂いてもいいですか……?」
     控えめに問う真火に、葉月は笑んで見せ、
    「あぁ、水野に似合う服装を選んであげるよ。俺のセンスで良ければ、だけれど」
     と、次々にハンガーに掛けられた洋服を彼に合わせていく。
    「水野、意外とスタイル良いし細いから、ハイファッション系とかもにあいそう」
    「スタイル……良い方なんですかね?北条さん見てると全然だなって」
    「……やっぱサイズ的にもレディースが良いのかなぁ……」
    「あっ、いえっ、サイズは普通にメンズでお願いします……!」
     そんなやり取りをしながらも、葉月コーディネートで一式買い終わった二人は、一休みできるカフェを探すことに。
    「折角ですし、甘いものとか、食べたいな……」
     呟く真火。葉月は顎に手を当て甘いものを連想してみる。
    「甘い物だと、定番はパンケーキとかかな」
    「パンケーキ、いいですね。良い所があったら、入ってゆっくりしましょうか」
     素敵な提案に真火は笑顔を見せる。こうして、ぎこちなく手を繋ぎ続ける二人は、美味しいパンケーキのお店を目指すのであった。
     このアウトレットモールで一番お洒落だと感じたカフェのテラス席。
    「千星君、お誕生日おめでとう!」
     アンカー・バールフリット(彼女募集中・d01153)のお祝いに、笑顔の千星。
    「ありがとう、アンカー・バールフリット。うれしいよ」
    「お誕生日とくればケーキ、私は千星君の秋の軽井沢お勧めケーキと紅茶をいただければと思うよ」
    「この辺りは高原だから、近隣の市では酪農もやっている。チーズケーキ類はお勧めだ。紅茶はチーズケーキに合わせてあっさり目の、セイロンやアッサムがいいと思うぞ」
    「千星ちゃん、ものしりー」
     その隣にいるのは千曲・花近(信州信濃の花唄い・dn0217)。饒舌な千星に思わず目を丸くした。
     注文の品が一通り揃うと三人は、ケーキと紅茶に舌鼓を打つ。
    「そういえば日本でも最近はハロウィンが行われているようだね。千星君は何か仮装をしたのだろうか」
     アンカーが尋ねると、千星は困ったように笑んで見せる。
    「今年は仮装は出来なかったんだが、仮面舞踏会の衣装とか憧れるな」
    「仮面舞踏会か。きっと可愛らしい姿だろうね。いずれ拝見したいところ」
     アンカーの可愛らしいという言葉に、千星は照れ笑いを浮かべる。
     わたしがしたかったのは、レディにチュッてする方なんだんて、もう言えない……。
    「花近君は友人から聞いてるぞ」
     話を振られ、カップに口をつけたまま小さく首をかしげる花近。
    「ゾンビすら魅了する魅惑の魔女だったそうじゃないか」
     アンカーの言葉の最後に思わず紅茶を吹き出しそうになって花近は思わず口に手を当てた。
    「……どんな伝わり方してるの! 全然魅惑じゃないー!」
    「いやぁ、直接見たかった」
    「アンカーさん、話聞いてー!」
     花近の弁解も何処吹く風、アンカーはいい笑顔で秋空を仰ぎ見た。
     そんな二人の掛け合いが愉快で、笑う千星。
     しばらく他愛ない話をしていたが、
    「こういうゆっくりした時間はいいものだね」
     そう呟いて、最後の一杯を優雅に飲み干すアンカー。
    「……そうだな」
     最近、皆の周りは忙しなく情勢が動き、息つく暇もなかったから。
     千星は心のひとつ星を瞬かせた。
     この願いと祈りと楽しみの旅が、皆にとってひと時の安らぎになればいい。と。

    作者:朝比奈万理 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年11月9日
    難度:簡単
    参加:17人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 10
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