ちからこそすべて

    作者:聖山葵

    「ぬうんッ!」
     声と共に腕を曲げれば筋肉が躍動し、盛り上がった力こぶを誇示しながらそれはもう一方の手に持った丼へと目をやる。
    「良い……」
     筋肉隆々、そしてフンドシ一丁。こんな格好で恍惚とした表情を浮かべる相手に好んで声をかける人間はまず居ない、と思う。実際、謎のマッチョを発見したアルゲー・クロプス(轟雷ノ鍛冶士・d05674)もこの時はまだ遠目に様子を窺うだけだった。
    「そうもちぃ。力、力こそが全て。肉体美と力うどんこそ最強。故にボクはアツアツの力うどんを世界の人々に広め、なんやかんやで世界征服もちぃ!」
     そう、特徴的な語尾と不穏な発言を耳にするまでは。
    「……ご当地怪人、モッチアですか」
     相手がダークネスと聞いて、しかも何やら活動を開始しようとしているのを目撃してしまってスルー出来るはずもない。
    「……和馬くんに相談してみましょうか」
     一人でどうにかなる状況ではないと踏んだのだろう。件のマッチョご当地怪人が気づいていないのをこれ幸いとアルゲーは来た道を引き返しはじめたのだった。

    「それで、みんなに声をかけたんだけど……ええと、問題のご当地怪人、推定モッチアを見たのってこの場所なんだよね?」
     地図を手に問う鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)へ、アルゲーははいと答えると時間もあまり経っていませんし、まだあの近くにいるかも知れませんと補足した。
    「そっか。じゃあ、このままモッチアの居たって所に案内して貰って、見つけられたらそのまま倒す。移動していたら探して灼滅するってことで良いのかな? ひょっとして、堕ちかけだったりする?」
    「……どうでしょう? 私ははるひさんではありませんし」
     エクスブレインならざる身では判別は難しいと言うことか。
    「あ、うん。そうだよね。じゃあ、接触した時に一応説得もしてみれば良いかな? 闇もちぃした人を助けるにも戦う必要はあるし」
     救出には戦ってKOする必要がある為、大きな流れはおそらく変わらない。
    「ただ、助けるならひょっとして着替えの用意とかもいるかも知れないけど、それはそれとして……戦いになった時、どんな攻撃してきそう? ご当地ヒーローのサイキックに似たモノはあるんじゃないかなぁってトコは予想出来るけど」
    「……そうですね、肉体を誇示してましたし、自らの身体を駆使した攻撃方法……バトルオーラーのそれに近いものとかでしょうか」
    「あー」
     ありそうかもと続けた上で、他に何か気になったことはあると和馬が問えば、目撃した場所は人気のない場所ですが、念のために人避けのESPを用意していった方が良いかも知れませんねと少し考えてからアルゲーは答え。
    「あ、うん。はるひ姉ちゃん居ないとその辺も要らないとか必要とかはっきりしないもんね。念には念を入れるならそうなるかぁ。まだ明るいし、明かりの方は要らないだろうけど」
     じゃ、その辺の準備ができ次第出発しよっかと和馬は君達の方を振り向いた。



    参加者
    鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)
    天峰・結城(全方位戦術師・d02939)
    アルゲー・クロプス(轟雷ノ鍛冶士・d05674)
    望山・葵(わさび餅を広めたい・d22143)
    湯乃郷・翠(お土産は温泉餅・d23818)
    八宮・千影(白霧纏う黒狼・d28490)
    夜坂・満月(超ボタン砲・d30921)
    国府・閏(普通の女子高生・d36571)

    ■リプレイ

    ●きになること
    「新しいモッチアですか、まあうどんが美味しい季節でもありますが力ウドンにはやや早いですね」
     きっと、鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)はそんなことを考えている顔だったと思う。もっとも、アルゲー・クロプス(轟雷ノ鍛冶士・d05674)から推定モッチアと話を聞いた時点で、力うどんそのものを思い浮かべてしまうのは不思議でも何でもなく。
    「今度は力うどんか、この場合はうどんモッチアって言えばいいのか? それとモッチアうどんとか言えばいいのか?」
     望山・葵(わさび餅を広めたい・d22143)が首を傾げる理由も、当然と言えば当然だった。力うどんは餅で終わらないのだから。
    「んー、多分普通のモッチアか角モッチアとかで、こう、アピールの為にうどんと合体させて『力うどん推し』をしてるんじゃないかな? それならモッチアでいけるし」
     とは、鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)の弁。
    「ああ、そう言う事ですか。モッチアも手を変え品を変え色々とやってきますね」
     何となく納得した様子の天峰・結城(全方位戦術師・d02939)は葵が言及した内容に近しい理由で疑問を抱くか、更にその先、うどんのご当地怪人をモッチアとするのは厳しいとでも思っていたのだろう。
    「まぁ、実際の所は当人に聞いてみるしかないのかも知れないけどね」
    「大丈夫、だよ」
     苦笑する和馬に言ってのけたのは、八宮・千影(白霧纏う黒狼・d28490)。
    「きっと、そこまで勧めるなら、美味しいから」
    「そ、その……そう言うことじゃないと思うのですが」
     美味しいのは何でも来いだよと主張する千影に夜坂・満月(超ボタン砲・d30921)がとりあえずツッコミを入れ。
    「……出遅れたわね」
     丸めたパンフレットを持ちつつ、湯乃郷・翠(お土産は温泉餅・d23818)は嘆息した。ESPで戦場の音を遮断しようとしていたのだ。
    「『普通の女子高生』って言おうとしたのに気が付いたら『普通の女子校』って言ってたんだ。本当に怖いよね……」
     一方で、人払いの為、怪談を語り終えたところの国府・閏(普通の女子高生・d36571)もこれで良いかなと周囲を見回し。
    「何故かしら、今の百物語、全力でツッコミたいわ」
     ちょっと前までアルゲーさんも新しいモッチアを見つけたのねとか呟き複雑な顔をしていた翠は気が付けば閏を完全にターゲッティングしており。
    「に、肉体美に拘って力うどんと筋力が凄そうですね」
     救い船でも出そうとしたのか、思っていたことを口にしたのは、満月。
    「でも筋肉に憧れるのは分かるぜ。俺も女の子と間違えられるから筋肉があれば違うと思うんだぜ」
    「い、一応胸囲だけならこっちも負けないような気もしますけどね」
     乗っかった葵に若干自虐気味に苦笑すると、秋空を見上げる。
    「元の人は筋肉に憧れがあったのでしょうか?」
    「えーと、そこも聞いてみないと解らないけど――」
     聞いていた和馬は何とも形容しがたい表情で満月を見た。

    ●そうぐう
    「ぬうんッ!」
     そして、ご当地怪人はまだアルゲーが目撃した場所でポーズをとり続けていた。寒くなった秋空の下あの格好はインパクトがありますと言わしめたあの時のままに。
    「今回も濃いわね……個性が」
     ぼそりと漏らす翠の注意が逸れたことを思えば、満月の話題変更も報われたのか。
    (「あと肉体美って主張してるらしいけど元の体型はどうなのかしら? 元の体型もあの胸囲って事はないわよね?」)
     もし、この時の翠の心の声が聞こえたなら、和馬は再び苦いモノでも飲み込んだような顔をしただろう。
    「二人は相変わらず仲良しですね」
    「ちょ、蒼香姉ちゃん?」
    「……あ、その」
     だが、実際にはアルゲーと打ち合わせをしていたところを目撃され、生温かい目で見守っていた蒼香に弄らもとい声をかけられた和馬とアルゲーはそれどころではなく。
    「とりあえず、移動されないうちに接触しないといけないわね」
     結果として明らかなフラグをおっ立てたまま、翠は褌一丁の変たもといご当地怪人へ向け歩き出した。
    「さて、私達も続きましょうか」
     流石にやるべき事は団長としてわきまえていたか、ちらりと先行く者を見て真面目な顔を作った蒼香は、これに続き。
    「えーっと……」
    「……気持ちはわかりますが、あのモッチアがなんやかんやで世界征服をする前に止めないといけません」
    「そ、そうだよね。じゃあ――」
     何か言いたげな顔だったアルゲーの思い人は、説得に納得すると視線を前方にやる。
    「そのお餅だけどやっぱり拘りがあるのかしら?」
    「な、何者もちぃ?」
     もう、接触は始まっていた。
    「そこの肉体美を披露してるうどん好きの方ちょっといいですか? うどんについて熱く語って欲しいのですが」
    「むぅん、引き受けたもちぃ!」
     いきなりではあったが、要請はご当地怪人からすれば音願ったり叶ったりだったのだろう。
    「……まずは行動を起こす前に話してみませんか? そうすればもっといい案が浮かぶかもしれませんよ」
     などと、アルゲーが補助する必要もない。ただ、何故かポーズをとりつつではあったが、考えるそぶりすら見せず快諾し。
    「ただ、その前に……俺は望山・葵っていうんだ、力うどんが好きなあんたの名前を教えてほしいんだぜ」
     名前が判らないと話をするにも不便なんだぜと葵が名を尋ねれば、一理あるもちぃと唸った後に名乗る。
    「内生蔵・土門(うちうぞ・どもん)もちぃ」
     と。
    「ど、どもん……どちらかというと男の方の名前のような気がしますが……」
    「ビジュアルが既にインパクト抜群だもんね。ごく普通の女子高生の僕としては埋もれて弄られなくなるから歓迎だけど……」
     顔を見合わせ、ヒソヒソ声で会話するのは、満月と閏。
    「では、力うどんの魅力とは何でしょうか?」
    「むんっ、ありすぎて困るもちぃが、まず……」
     この間も結城達が話を繋いでおり。
    「やっぱり餅の弾力や味とかバランスが重要よね、参考になったわ」
     約一名、ご当地怪人との会話に集中しているのは、ひそひそ話する二人を始めとした同性の胸に目がいかないようにする為か。そう、そこは126cmのSカップを筆頭に脅威1m越えがゴロゴロ居るある種の魔境だったのだから。
    「そ、その肉体美は何ででしょうか?」
     しかも、会話の時、身じろぎするたびに特定の一名を煽ってるかのようにばるんと弾み、むにゅんとたわんだ。
    「ああ、これもちぃか? 気が付いたら……むんっ、こんなムキムキの素敵ボディになってたもちぃよ。これも日頃お餅や力うどんを一杯食べて良く運動した……ぬぅん、お陰かもしれないもちぃな」
    「ち、力強くてカッコイイと思います。で、では、やっぱり……ち、力うどんが秘訣なのですか」
     若干、闇もちぃ前はそんなマッチョではなかった疑惑がご当地怪人の口から零れた気もしたが、流石にわざわざにそこへ言及する灼滅者は居ない。
    「力うどんで筋肉がつくのか、それもいいが俺はわさび餅のほうがいいかな」
    「肉体美って、よくわかんないんだよ……だから教えてほしい、かな?」
     ただ、ご当地ヒーローとして譲れない一線がある者は居たけれど、概ね平穏な空気のまま次は千影が口を開いた。
    「むぅん、幼いながら見上げた心意気もちぃね。良いもちぃ、まず、肉体美とは――」
     それは、ある意味で成功だったが、同時に失敗でもあった。こう、何というか暑苦しく長ったらしい語りの始まりだったのだ。
    「この僧帽筋の良さは――」
    「でも何で世界征服しようと思ったのかな?」
     あまりに長すぎる話にたまらず割り込んだのは、閏。
    「それが分かればもう少し協力できるかもしれないし」
    「むぅん、良いもちぃ。人に賛同を得る為には腹を割って話すのは当然もちぃ。腹筋が割れていれば尚良し」
     更に続けた言葉が良かったのだろう。話を遮られた訳だが、気分を害す事なくご当地怪人はあっさり話題変更に応じた。
    「今のこの世界、多種多様な価値観が混在してるもちぃ。太もも至上主義だとか、絶対領域がどうのとか……得に重要なのは胸の大きさだなどと言う輩には強硬に異を唱えたい所であるもちぃが」
    「全面的に底には同意するわ」
    「み、翠さん」
     約一名、脊髄反射レベルで賛意を示した誰かを満月が窘めるが、ある意味無理もない。
    「ボクには……よくわかんない」
     一瞬漂った何とも言えない空気を理解出来ず、千影は首を傾げていたが、おそらくまだ知らなくて良い世界なのだ。
    「仲間がすみません。それで、お話しの続きですが」
    「おっと、すまんもちぃ。そう、複数の価値観が混在するからこそのカオスから、力うどんと肉体美の素晴らしさを知らしめるには、世界を征服するしかないと思ったもちぃよ」
     結城に促されたご当地怪人は、頭を振ると言葉を続けた。
    「声を枯らして熱弁を振るっても、言葉で分かり合えない、肉体言語でも分かり合えないこんな世界に一石を投じる方法を考え抜いた結果が、これもちぃ」
     一応、考えた結果行き着いたのが世界征服だったと言うことなのだろう、だが、これを全面肯定する訳にはゆかず。
    「なるほど、たしかにいいですね♪でもその力うどんで征服したらうどんにもお餅にも悪いんじゃないですか?」
    「ぬ?」
    「で、でもその肉体美を世界征服使うのは肉体美への冒涜ではないでしょうか?」
    「も、もちぃ」
     思わず蒼香の方を振り返った推定モッチアは満月の言葉に一理あると思ってしまったのか、越されるように後ずさる。
    「ひ、人々から憧れて羨ましがられる筋肉なのに畏怖の対象にしてしまっていいのですか?」
    「肉体美もいいけど苦手な人もいるかもしれないし無理強いはダメだよ、印象には残るけど残すなら良い印象がいいよね?」
     更に追い打ちをかける満月の援護に閏がまわり。
    「世界征服よりも若者に和気藹々と広めた方がいいんじゃないか? 美味しい物は楽しく食べた方がいいんだぜ!」
    「私以外にもお餅に詳しい人はいるわよ、世界征服より先に力うどん作りを更に磨くほうがいいんじゃなかしら? 世界征服はダメだけど餅作りの協力はするわよ」
    「い、イメージ? 和気藹々? だ、だけどボクは……うっ、もっちゃぁぁぁぁぁっ!」
     元モッチア二人に畳みかけられたご当地怪人は威圧感を減退させつ呻くといきなり咆吼を上げた。

    ●例によって
    「おのれ、よくも邪魔してくれたもちぃな!」
     表情を一変させ、ご当地怪人は灼滅者達を睨み付ける。人の意識を説得され、追いつめられたからダークネス側の意識が表に出てきたのだろう。
    「……力自慢だけあって耐久力も高そうですね」
    「とは言え、とりあえず説得は上手くいったんじゃないでしょうか」
     明らかに遭遇直後と比べ、威圧感が弱まっているモッチアを見つつ結城はアルゲーの言葉に応じた。
    「なら、後はやることをやるだけですね」
    「「ええ」」
     行きますよ皆さんと、仲間達に声をかける蒼香に幾人かが応え。
    「行くもちぃっ! もっちゃぁぁぁぁ!」
    「大胸筋が凄そうね、でも分厚い胸囲には負けないわ!」
    「す、少なくとも胸囲では負けませんよ」
     両腕を広げ突っ込んでくるご当地怪人を前に持たざる者と明らかに過剰に持ってる者が地を蹴った。
    「ではあなたの力うどん愛の為にも行きますよ」
     飛び出した二人の肩越しにモッチアを見た蒼香もバスターライフルを構え、撃つ。
    「っ、いつも通りの光景なんだが……俺達にはちょっと目の毒なんだぜ」
     ついと視線を背ける直前、葵の視界の中で幾つかはねたモノがあったのだ、ただ。
    「って、気にして立ち止まってる訳にもいかないな。ジョン」
     頭を振った葵は霊犬に声をかけると既に攻撃を仕掛けている女性陣を追い。
    「ちょっと痛いけどすぐに終わ、っうわぁ?!」
     妖の槍を片手に何もない場所で蹴躓いた。
    「もちゃばっ」
    「え?」
     丁度倒れ込む先に死角へ回り込み、ご当地怪人を斬りつけたばかりの満月が居たのは、もはや仕様なのか。
    「きゃぁぁぁ」
    「もちゃぁぁぁっ」
    「……うわぁ」
     悲鳴をあげる満月とついでにモッチアまで巻き込む形で押し倒す様子を見て和馬は思わず顔をひきつらせた。
    「そう言えば、モッチアには補正があるんだっけ」
    「……ええ、ですから遠距離攻撃で」
    「あ、うん」
     アルゲーの指示はその辺りまで考えられていたものだったのかも知れない。
    「……ステロ、防御をお願いします」
     ビハインドへの指示に副音声で和馬君が他の女の子と密着しないようにとか補足されてるような気さえしてしまうのは気のせいか。
    「被害があっちに行ったのはそれはそれで少し複雑だけどそれはさておき、……肉体美もいいけどしなやかな体もいいものでしょ?」
    「ぬ、ぬぅぅ……」
    「呪われし狼姫の牙、その身に受けてもらうよ。弾雨、散華」
     呻くモッチアを油断なく見据えつつ翠が問えば、不意に別方向から声がして。
    「え」
     聞こえた方を振り返れば、黒狼姫をご当地怪人に向けた千影が居た。
    「ちょっ、待」
    「待たないよ」
    「もっっちゃぁぁああぁ」
     制止を求めようとも、これは戦い。爆炎の魔力を込めた大量の弾丸は躊躇なくモッチアへ撃ち込まれ、炸裂した。
    「もちぃぃぃ、よくも……くもやってくれたもちぃな!」
     爆炎が晴れれば、立ちつくすのは、鬼気迫る表情で何故かポージングするボロボロのご当地怪人。
    「これが肉体美……よくわかんないけどオーラがなんだかすごいことになってるんでよ!」
     思わず噛む程の迫力だった。
    「ですが既にボロボロって弱すぎませんか?」
     たぶん、大いに肉体美について語ったり説得されたりで相当弱体化していたからだろう。
    「まぁ、さっさと終わるのに越したことはありませんか」
     それ以上考えるのは止めて、結城も攻撃に加わり。
    「その筋肉も力うどんもあなたの愛なのでしょう、だからこそ世界征服に使ってはいけませんよ!」
    「ぐ、そんな……綺麗ご」
    「あなたの元の姿がわからないけど今戻してあげるね? ストレッチャー」
    「ちょ、ちょっと、最後まで言わもぢゃばっ」
     蒼香の言葉をはねつけようとしたところで怪談とライドキャリバーのダブルストレッチャー攻撃を閏が容赦なくモッチアに見舞う。
    「も、もちゃ」
    「ボクの牙は、人を不幸にする存在を砕く! ……だよ。後、肉うどんは美味しい」
    「は、肉うどんってどもぢゃぁぁっ?!」
     そして、起きあがる暇すら手にすることなく千影の肉うどん発言に呆然としたモッチアは石化し始め。
    「ち、力うどんの為にも肉体美の為にも何よりも自分の為にも戻ってください」
    「な」
     満月はまだ横たわったままのご当地怪人を持ち上げると全力で投げ飛ばし、叩き付ければ。
    「もちゃばっ?! そん……ボクの肉体美が負け……」
     悲鳴をあげ、地にはねたモッチアにもう立つ力は残っていたかった。がくりと崩れ落ちると分厚いその胸板が爆発し。

    ●なるべくして
    「……着れる、かな?」
     純粋な目で着替えを持ったまま尋ねた千影の問いは、誰の目からしても不可能であると知れた。マッチョな胸板が吹っ飛んで零れ出たのは、満月を超える大きさの膨らみだったのだから。
    「体脂肪の局所集中とでも言いいましょうか……」
    「世界が、よくわからなくなったわ」
    「や、こう……あれだけフラグ立てればこのオチは充分予想出来たよね?」
     翠の呟きを拾い、ステロに一方への視線を遮られたままの和馬が遠い目をして言う。
    「とにかく……まずは着替えてもらいましょうか、そのままだと話しにくいでしょうし」
    「いや、君達には、むぅん。迷惑をかけたからボクはこの格好でも、はっ。構わ――」
    「こ、こちらが構いますから! そ、それとポーズをとるのは止めて下さい」
     着替えが進まないからか、蒼香に頭を振った件の少女に満月がツッコみ。
    「本当に申し訳ない」
    「ボクもこんな感じで助けられたし大丈夫だったけど今の気分はどうかな?」
     少女が着替えを終え、頭を下げる様子を見ながら閏は問う。正体が女性と知った時は驚倒せんばかりだったが、着替えの時間を経て落ち着いたのだろう。
    「少しだけ残念ではあるかな。前々から筋肉質な身体に憧れてよく食べ、良く動くを実践して、むぅん、居たのだけどね。この通り、筋肉が付くよりも胸が大きくなってしまって。だが、筋肉も付かない訳ではないから止めることも出来なくてね」
     言ってたくし上げ見せた少女のお腹は見ればうっすら腹筋も割れているのだが、満月にサイズで勝つ胸が全てを持っていってしまっており。
    「まだ高校生、しかも年下……」
     渡す予定だった予備の学園パンフレットを片手に絶望に打ちひしがれる翠の目に映るのは、地面のみ。
    「そ、その痛くしちゃってごめんなさい。大丈夫ですか?」
    「はっはっは、これでも鍛えてるからね」
     大丈夫さと笑いつつ少女は再びポーズをとる。ただそれは筋肉を誇示したいのだろうが、どう見ても胸しか強調して居らず。
    「えーと、とりあえず広げられる所から始めるのがいいね。ボクも力うどんの味が気になるし……とりあえず、学園に来てみない?」
    「ああ、さっき説明してくれたところだね? いいよ、お礼もしたいからね」
     大きな胸で弄られた記憶のある閏が気まずさを覚えたのか、話題を変えれば、少女は即座に頷き。
    「……力うどんの為にももう暴走してはいけませんよ」
    「肝に命じておくよ」
     アルゲーの言葉にも首を縦に振ったのだった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年10月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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