ビルディング OF THE DED

    作者:空白革命

    ●要するに……『ビルにゾンビ』的な話だ!
    「ビルに!」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が『this is a pen!』のポーズで身構えた。
    「ゾンビが!」
     ノートをバッと開く。
    「出たよ!」
     最後に顔を中心に効果線をまき散らし、まりんは言い放った。
     要するにビルにゾンビが出たらしい。

     山中にひっそりたたずむ廃墟ビル。
     元々何か美術館的なものにしたかったらしく、順路蛇行式三階建ててという微妙にぐねぐねした構造の建物である。
     そこにあろうことがゾンビがわんさか湧いてしまったらしく、一階から三階まで大小さまざまな(大小さまざまな!)ゾンビが詰まっているという。
    「一階部分はまあ楽なの。階層まるごとワンフロアだし。小柄で弱いゾンビが『うーあー』って言いながら無意味に両腕突き出してウロウロしてるだけだから。皆の灼滅者ぱぅわーでどかどかーって薙ぎ払える筈だよ。きっとスカッっとするよね! 難があるとすれば入り口から見て一番奥に階段があるから、殲滅しまくらないと大変ってコトかな」
     ぎゅっとペンを握る須藤ノ海関。
    「二階になるとちょっと面倒。九つの部屋が順路式になっててちょっと長いし、ゾンビの癖にやけにこそこそ壁とか棚とかダンボールとかに隠れて『うヴぁー!』て飛び出してくるんだよ。数は少ないけど面倒だよね! 気を付けてね!」
     そしてぐっと拳を突き出してくるまりりん。
    「そして三階はいよいよボス戦だよ! ゾンビの中でもひときわデカい奴がいるんだ。一体だけなんだけど、すごくタフで重いから、皆の力を合わせてやっつけちゃおうね!」
     最後にガッツポーズをするまりん。
     どうでもいいが解説のたびにポーズを変えるのは何故だろうか。
    「ゾンビが沢山で、すごくくたびれちゃうかもしれないね。でもみんなならきっと――」
     そして、まりんはペンを天に向かって突出し、なんだか一部の人になじみのあるポーズをとった。
    「大丈夫、なんとかなるよ!」
     しかもパクリだった。


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    両角・式夜(黒猫ラプソディ・d00319)
    遠野・守(神風炎・d03853)
    天代・鳴海(夜葬・d05982)
    綾川・結衣(月夜に舞う一陣の風・d07281)
    神木城・エレナ(霊弓・d08419)
    一・威司(鉛時雨・d08891)
    中神・通(柔の道を歩む者・d09148)

    ■リプレイ

    ●ゾンビル1F 灼滅者無双のフロア
    「誰も泣かない事件なら、俺の望む所だぜ」
     遠野・守(神風炎・d03853)はバンダナを締め直し、カードを握った。
     ここは廃墟ビル。
     はぐれ眷属ゾンビの巣食う迷宮候補のひとつである。
    「『神宿して風謡い、血潮滾って炎燃える』……さあ、始めようじゃねえか!」
     彼の握っていたカードはいつしか剣となり、蹴破られた扉の向こうには20体ものゾンビが蠢いていた。
    「俺たちの戦いってやつをよ!」
     室内に飛び込み、剣を横凪にして振る守。吹き出た炎がゾンビたちを一斉に焼き払う。
     無論、それで終わりではない。
    「相手は人間でも動物でもないんだ。いくぞぉ!」
     綾川・結衣(月夜に舞う一陣の風・d07281)は若干覚束ない手つきで日本刀を抜くと、力任せに一閃した。月光衝が反応の遅いゾンビたちを上下三分割して転がしていく。
     おや、三分割?
    「うっひょー、多いねぇ。でも頭数なら負けてねえってな」
     抜身の刀をまるで杖の様について、顎を柄の先にのっける両角・式夜(黒猫ラプソディ・d00319)。
     そんな彼をフォローするように、近づくゾンビたちをお藤(霊犬)が唸りをあげて牽制していた。
    「うん……知ってるわ、こういうの。見たことがある」
     神木城・エレナ(霊弓・d08419)は斜め上に弓を引きつつ、記憶を探るように左斜め上を見やった。
    「確か銃で撃つゲームの……ノンフィクション作品だったのね」
    「気持ちは分かるが、フィクションだ」
     横に並び、機関銃を腰の辺りで構える一・威司(鉛時雨・d08891)。
     雑草に農薬を撒くように。もしくは花に水をやるように。威司はリラックスした表情で右から左へ掃射をしかけていく。
     ゾンビたちがほぼ壊滅寸前に痛めつけられた所で、いつのまにやら満を辞していたエレナの矢が無数に上より放射され、ゾンビたちが次々と潰れていく。

     そんな中。
    「ビルに!」
     カードを掲げる鳴海。
    「ゾンビが!」
     マテリアルロッドを顕現して握る。
    「出たんだ!」
     突然カメラ目線になると効果線と共にちょっとズームアップ。
     若干見切れるようにして、ゾンビがフォースブレイクされていく。
     見ようによっては画面に映らないようにげしげし押し出しているように見えるが、その直後に頭が破裂している所をみると、どうやら食後の視聴者への配慮なのかもしれない。
    「ごめん、カメラとか視聴者とか、何言ってるのちょっとわからない」
     目を反らす天代・鳴海(夜葬・d05982)。
     その横で、千布里・采(夜藍空・d00110)が腕のように象られた影業を一振りした。
    「こないシチュエーション。お化け屋敷みたいで、おもろいわぁ」
     くふふと笑う。
     離れた所で、ゾンビが八つ裂きにされて地面にばら撒かれる。
    「『みたい』どころかお化け屋敷そのものだ。気味が悪い、とっとと終わらせようぜ」
     中神・通(柔の道を歩む者・d09148)がゾンビの腕をひっつかみ、腰を捻って一本背負いをかける。床に叩きつけられたゾンビが一発痙攣するように跳ねて、そのまま動かなくなった。
    「ふう……」
     汗をぬぐう通。
     改めて見回してみれば、あれだけいたゾンビ軍団が一体残らず倒れていた。時間にして三分と言った所だろうか。
    「頭数はともかく、相手が弱いのが幸いしたな」
    「そやなあ」
     よーしよしと言って自分の霊犬を撫でる采。
     そこへお藤と、エレナの凍鈴もやってきた。
     一歩遅れてエレナが階段の前に立つ。
    「少し、休憩しましょうか」

    ●ゾンビル2F 飛び出すゾンビのフロア
     10分休憩した。
     などと軽く言っていい物かどうか怪しいものだが。
    「階層の間に扉があったのがよかったわね」
    「周りがゾンビの死体だらけで休憩って感じじゃなかったけどな……」
    「今回たまたま条件が合致しただけかもしれん。休憩ができてラッキーだった、程度の認識でいよう」
     灼滅者一同は二回へ上がり、九つある部屋を順繰りに調べて行った。
     例えばロッカーの中。
     例えば寸胴鍋の蓋の下。
     例えば天井裏への出入り口。
    「しっかし、一つ一つ虱潰しに調べられちゃゾンビの方も出てくるに出てこれないんだろうな。不憫っつーかんつーか……」
     鍋の蓋を持ち上げながらぼやく守。
     出だしがアレだっただけに拍子抜けしているのか、それとも地道な作業が苦手なのか。
     その後ろでは、凍鈴に周囲警戒を任せたエレナが掃除用具入れのようなロッカーを開けていた。
    「そうね。仮にこの中にいたとしても」
     いた。
     ゾンビが、肩を狭くしてぴったりロッカーに嵌っていた。
    『……ア゛』
    「……わ」
     半眼で呟くエレナ。
     ゾンビは何が不満なのか、自らロッカーの蓋を掴むと、頼まれても居ないのに中へ戻って行った。
    「…………」
    「どうした、何かいたのか?」
    「ええ、まあ」
    「なんだよ淡泊だなー。虫か? あたし虫なら結構大丈夫だぞ! ちょっと見せてみろ!」
     横から割り込んだ結衣がロッカーの蓋にてをかける。
     エレナは何か言……おうとしたが、キャンセルして一歩退いた。
     勢いよく開かれるロッカー。
    『ウヴォアアアアアアア!』
     今がわが世の春だと言わんばかりに飛び出してくるゾンビ。
    「いきゃあああああああああ!」
     (エレナが淡泊な反応するもんだから)ゾンビ入りとは思わず押し倒される結衣。
    「どこ触ってんだこのっこのっ!」
     背中や腰を叩いたり蹴ったりする結衣だが、ゾンビは一向に離れる気配が無い。というかこの役得を存分に堪能している様子である。
    「む、ゾンビか」
    「だね」
     ゴルフスイングでゾンビをげしっと弾く鳴海。
     転がって行ったゾンビに無表情で機関射撃を入れる威司。
     どこまでも無表情にゾンビを処理していく姿に、結衣はちょっと感心した。
    「おお……て、手馴れてるな……」
    「「まあ」」
     そして仲間の反応にもドライな二人であった。
     ベクトルは、若干違うのだが。
     そして、一方。
    「ふっふっふ、恐かったら……俺に引っ付いててもいいのよー?」
     片手で髪をかきあげるイケメンポーズをする式夜。
     距離にして10m。
    「……なんで離れてるんだ」
    「俺、そんなに頑丈じゃないんだ」
    「頼りにならねえ!」
     二人の間で、お藤が『こんなことだろうと思ったよ』的な顔をしていた。

    「ふんふん、この部屋はクリアっと……そういや、部屋が順路式になってるならメモる必要あらへんのかも」
    「天井裏辿ってたら無駄になっちまうしな」
     采と守は左右に警戒をしながら物陰をひとつひとつ調べていく。
    「というか、本当に面倒臭い作りになってんあ……よくわかんない置物とかあるし」
    「守さん、美術館とか行かへんの?」
    「美術の成績いいように見えるか?」
    「…………」
    「何か言えよ!」
     ごちゃごちゃとやり取りする二人の間に挟まるようにして、霊犬が耳を垂らしてしょんぼりとしている。
    「お、どうしたんだこいつ。ゾンビの骨とか食っちゃったのか?」
    「食うわけあるかい。まあ、こゆとこ苦手やもんな。お化けとか」
    「霊犬がお化け苦手ってオマエ……」
     などと言っていると、後ろで威司と鳴海がどこまでもクールかつドライにゾンビの四体目を処理。
     上手に焼けたゾンビを振り返って、采は正の字の左下部分をメモに書きつけた。
    「これで四体目っと、最後は……」
    「おう、最後は……」
     同時に振り向く采と守。
     大型のダンボールを掲げた通がそこにいて……。
     ダンボールがあったであろう場所で体育座りしていたゾンビもそこにいた。
    『……アッ!』
    「せいやあ!」
     思い出したように飛び掛らんとするゾンビの頭を掴んで壁にぶつける通。
     よろけた所で首襟と袖を掴んで足を払い、力強く地面に叩きつける。
    「おお、ゾンビか! ビックリさせんな!」
    「こっちがビックリしたわ!」
    「それ間違っても俺らにはやるなよ!?」
     などとどんちゃか騒ぎながらも。
     意外と楽々2階層目をクリア。
     そしてお次は。

    ●3F ボスゾンビフロア
     結果から言うと、休憩する暇は無かった。
     そりゃ階層も分かれているしアクションゲーム的には(メタいこと言うが)なんかじーっと待ってても敵がリスポーンしなさそうな気配はあるが。
     三階から『来ないならこっちから行くぞ』的な殺気がじわじわと伝わってきて、灼滅者一同なんだか休憩したら悪い気持ちになってきたのだった。
     と、いうわけで!
    「まあ流石に壁突き破ってくるとは思わないけど」
    「やっちゃってもおかしくないデカさだなぁ……」
     結衣と式夜が同時に空を見上げる。
     ……否、空を見るくらいの気持ちでゾンビの顔を見上げたのだった。
     ゾンビの巨体に突き破られたのか三階フロアの天井が壊れ、空が普通に見えている。
     自然と手が震えてくる結衣。
    「こ、こんなデカいヤツどうやって戦えば……」
    「いや、勝機はあるぜ」
     急にマジなイケメンフェイスになる式夜。
     結衣ははっとして彼の横顔を見た。
    「そ、そうか。ごめんな。お前テキトーな奴だと思ってたけど……考えてみたらあたしよりずっと実践を経験してるんだよな」
    「ああいうのはロケランで倒せるのがゾンビゲーの鉄則だ!」
    「お前にロケラン浴びせてやろうか!?」
     日本刀を振り上げる由衣。
     その後ろで、式夜は冷静にガトリング用の弾帯にランダムな弾を仕込んで行く。
    「心配するな。サイキック戦において体格差はたいして問題にならない。ただし相手がひとりだけとなれば命中率の低下がネックになる。単体攻撃系をローテーションするように使って命中率低下を軽減するんだ」
    「おおっ、今日初めての具体的なアドバイス! ありがとうな!」
    「気にするな。あと戦闘後の水分補給を忘れるなよ」
    「わかった!」
     意気揚々と刀を構える結衣、彼女をフォローするように威司は炎弾、影弾、毒弾をランダムに流し打ちしながら巨大ゾンビの外周を沿うように走りだす。
    「ねえ俺は何してたらいい?」
    「援護だ」
    「オッケー! 行こうぜお藤!」
     式夜は霊犬と共に威司とは反対側へ駆けだすとオーラキヤノンや六文銭射撃で牽制を開始。
     その丁度真ん中を行くように、結衣は刀での斬撃を繰り出す。
     巨大ゾンビの足に一筋の刀傷が刻まれ、相手はたたらを踏む。
    『ウガ……!』
     近くの瓦礫を拾い上げる巨大ゾンビ。頭上でばこっと二つに割ると、灼滅者たちの集まっている場所へと投げつけてくる。
    「うおっと!」
     粉々になった石が跳弾(?)して割かし痛い。
     しかし、痛みを感じるそばから清めの風が彼等の傷を癒していった。
    「攻撃が重そうね。なら回復は任せて、存分に戦ってね」
     エレナはニコッと笑いかけると、弓を背に斜め掛けし、護符を取り出して回復に専念し始める。
    「攻撃はお願い、凍鈴」
    『――ッ!』
     エレナの足元から飛び出した凍鈴(霊犬)は六文銭射撃を開始。
     やがて横に並んだお藤と連携射撃を初め、最後には采の霊犬と並んで三機連携射撃を取り始めた。
     一発ずつは弱いが巨大ゾンビの脛や踵にじわじわとダメージが溜って行く。
    「そろそろ行けそうかな?」
     鳴海は不敵に笑ってロッドをバットのように握る。
     巨大ゾンビの足元まで一気に駆け寄ると、一本足打法で脛へとフォースブレイクを叩き込んだ。
     無論丸太の如き足である。彼がどんなに頑張った所で圧し折ることはできないだろう。
    「でも、中からならどうかな」
    『ガッ!?』
     インパクトの一秒後、撃った方向とは反対側が破裂。筋肉組織ごと周囲へとまき散らされる。
     ぐらりと傾く巨大ゾンビ。
    「今だ!」
     通は目を光らせ、瓦礫の山を駆けのぼると壁を蹴って跳躍。巨大ゾンビの顎にラリアットを入れるようにして仰向けに転倒させた。
     それで終わりかと思いきやそうではない。
     通は受身を取って転がると、素早くゾンビの下へ滑り込む。
     そして。
    「手足がついてりゃ、なんだって投げてやらぁ!」
     なんと両手で巨大ゾンビを持ち上げてみせたのだ。
    「いいぞ通、こっちこっち!」
    「バッターボックス、うちにも入らせてもうわぁ」
     5m程の距離を置いて、丁度左右のバッターボックスへ同時に立ったかのように向き合う守と采。
     通はにやりと笑うと、巨大ゾンビを力いっぱい放り投げる。
     剣から炎を噴き上げる守。
     影を鋭利な爪に変える采。
    「これで決まりや」
    「紅蓮灼熱斬ッ!」
     二人の間を通り過ぎる巨大ゾンビ。
     しかし全身が通り越した時には既に、身体は三枚に下ろされていた。
     ずずんという地響きと共に、瓦礫へ突っ込む巨大ゾンビの残骸。
     そして彼等は手を叩き合い。
    「お疲れ様」
     この依頼に、終止符をつけたのだった。

     夕暮れが訪れ、廃墟ビルは静寂のなかに残される。
     灼滅者たちが去ったこの地にはもう、ゾンビが徘徊するようなことはないだろう。
     だがもし万が一、新たな脅威が生まれたとしても。
     心配はいらない。
     彼らが再び、灼滅してくれるに違いないのだ。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 15
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