力が欲しいか? 欲しけりゃくれてやる!

    作者:飛翔優

    ●代わりに全てを捧げるのだ!
     買い食い、ゲーセン、ウィンドウショッピング……若者たちが様々な形で放課後を過ごしていく繁華街。楽しげな喧騒に満ちていく人々を眺めながら、枸橘・水織(あくまでも優等生な魔法使い・d18615)は語りはじめていく。
    「ソロモンの悪魔が、この町で活動している……そんな噂を聞いたんだ」
     ソロモンの悪魔の名は、サイ。
    「サイは人を集めてるみたい。こんなチラシを使ったりして」
     水織は、端っこがちぎれているチラシを取り出した。
     内容は……。

     超能力・異能力研究所。
     我々は超能力・異能力の研究を行っております。積み重ねてきた理論によって、あなたも目覚める事が可能です!
     ぜひこの機会に体験してみて下さい。きっと、新しい扉が開けます。詳しくは……。

    「他にもスカウトマンが活動しているみたいだけど……それよりも確実に内部へ入り込める方法があるんだ。これをみて……」
     示す先、志望者はこの場所に集合! ……と、時間と簡易地図が記されていた。
    「日付は今日、時間帯は午後五時。この場所……町外れの公園ね。ここに行けば、スカウトマンがやってくると思うんだ」
     つまり、志望者を装いスカウトマンについていく。後はサイを確認次第、行動を開始する……といった流れになるだろう。もっとも……。
    「近くにいるのはサイだけじゃない。騙された一般人はもちろん、強化一般人となっている配下もいるかもしれない。だから最低限、戦う前に一般人を逃がす必要があると思うんだよ」
     最悪、戦いながら逃がすと行ったことも可能だが、懸念事項は増える。基本は、戦う前に逃してから挑む……といった形になるだろう。
    「それで戦うことになるサイについてだけど……」
     具体的な戦い方、力量に関しては不明。相対してから判断する事となるだろう。
     以上で説明は終了と、水織は資料をまとめていく。
    「強化一般人のことを考えると、サイの誘いは決して嘘ではないのかもしれない。でも、決して真実じゃない。だから……」
     騙された者たちを救済し、サイを打ち倒すのだ!


    参加者
    幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)
    枸橘・水織(あくまでも優等生な魔法使い・d18615)
    四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)
    井上・あるは(アルファイグジステンス・d25216)
    黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)
    エリザベート・ベルンシュタイン(勇気の魔女ヘクセヘルド・d30945)
    楯無・聖羅(天罰執行人・d33961)
     

    ■リプレイ

    ●大いなる力には
     強い日差しを陰らせながら、茜色の空を誘う冷たい風。人々が夜の休息へと向かうために最後の仕事を行っている町中から外れた場所に、その公園は設けられていた。
     木々のざわめきすらも大きく聞こえる静寂の中、十数名の若者が携帯端末を確認したり、忙しなく集まった者たちを見比べていたり……と、各々の時間を過ごしている。
     灼滅者たちを除けば、全員異能の力を求めて来た者たち。ソロモンの悪魔が記した言葉に惑わされた人々なのだろう。
     共通点という共通点はない彼らを見回しながら、ベンチに腰掛けている枸橘・水織(あくまでも優等生な魔法使い・d18615)は瞳を伏せていく。
     力を与える。どうしても思い出してしまうのは、以前のこと。
     ソロモンの悪魔として、五人の後ろ向きないじめられっ子を勇気づけるために魔力を与えたこと。
     今では、それは愚かな行いと思っている。他の者がどう思っているかは知らないけれど。
    「……」
     小さなため息を吐いた時、新たな足音が聞こえてきた。
     顔を上げれば、公園の入口から近づいてくるサラリーマン風の男が見える。
     街路樹を背に立っていた四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)は、集まってきた若者たちとは違う雰囲気を漂わせている男を見つめながら、後ろに回した拳をギュッと握りしめた。
     力を求めるのは仕方がないと思う。しかし、強い力には必ず代償がある。灼滅者も、もしかしたら……。
    「……」
     許せない、そんな思いを胸に秘めたまま、若者たちを見回し始めた男性へと近づいていく。
     彼がソロモンの悪魔の元への誘い手だと聞きながら、仲間たちとの合流を果たしていく……。

     灼滅者たちは若者たちに交じる形で、男が案内するままに大通りからも住宅地からも外れた場所にある建物の前へと移動した。
     ブロック塀に囲まれた広い敷地内にある、灰色の建物。広さにしてマンション一棟分、高さは三階建てほどもある。最も、窓の配置から大型機械を扱うために高さを確保した形……工場跡地なのだろうと思われた。
     若者たちがにわかにざわつく中、男は安く譲り受けて使わせてもらっているんですと説明しながら門を開いた。
     迷いながら後をついていく若者たちに混じり、灼滅者たちも歩いて行く。
     程なくして、工場跡内部へと到達した。
     機械やコンテナなどはなく、運動会でも開けそうなほどにがらんどうな空間が広がっている。その端では十名ほどの若者が机に座り、モニターを覗き込みながらキーボードを叩いていた。
     傍らには、そんな若者たちに支持を出しているスーツ姿の男が二人。
     その後ろ、工場内の中心辺りには、ソロモンの悪魔が一体……。
     ――ソロモンの悪魔は発見した。後は、一般人を逃した上で戦うだけ!
    「さて、それでは……」
    「勇気の魔女へクセヘルド、ここに参上! 悪しき超能力研究所の尖兵たちめ、お前たちの好きにはさせないぞ!」
     説明を始めようとした男の口を塞ぐ形で、エリザベート・ベルンシュタイン(勇気の魔女ヘクセヘルド・d30945)は魔法少女風の衣装を纏い魔女ヘクセヘルドへと変身した。
     呼応し力を放つ楯無・聖羅(天罰執行人・d33961)。
    「むっ」
     うなり、振り向いてくるソロモンの悪魔。
     ソロモンの悪魔のもとへと集っていく男たち。
     対象的に浮足立っていく若者たちを横目に、幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)は脚に炎を宿し、走り出す。
    「みんな、逃げてー」
    「出口はこちらと、あちら……近い方を選んで下さい」
     防衛領域を広げながら、井上・あるは(アルファイグジステンス・d25216)は自分たちが入ってきた扉と机近くにある扉を指し示した。
    「……」
     促されるがままに出口へと向かっていく若者たちを見つめながら、ぎゅっと拳を握りしめていく・
    「冬華さんなら……どうするかな……想起、アルファイデア!」
     小さい鍵を握りしめ、青い光と炎に抱かれる。髪が空のような青に染まり、青いコスチュームを身にまとった。
     次々と武装が整えられていく中、黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)は机近くの扉と男たちの間を隔てる壁となるために走り出す。
     逃げていく若者たちを背にした上で、ソロモンの悪魔を見つめた。
    「さぁ、断罪の時間ですの!」
    「……よもや後も潜り込まれてしまうとは……な」
     視線を反らし、ソロモンの悪魔はため息を吐く。
    「だが、問題はない。知らない土地、どうせ奴らも遠くへは行けない。この私、ソロモンの悪魔サイが、貴様らを倒して、改めて奴らを手中に収めてみせるわ!」
     陰ることのない歪な輝きが瞳を満たした時、本格的な戦いが開幕した。

    ●異能の力の操り手
     進路を塞ごうとしてきた男たちを前に、桃琴は間合いの内側にて立ち止まる。
    「さぁ、桃と勝負!」
     魔法少女風のコスチュームを翻しながら、真ん中の男に側頭部めがけたキックを放った。
     掲げられた腕に阻まれ弾かれても、怯まず男たちと肉薄し続けた。
     桃琴に続き、次々と前線へたどり着いていく前衛陣。眺めながら、あるはは治療のための戦場観察を開始した。
     さなかには、白雛が真ん中の男との距離を詰めていく。
     剣に炎を宿し、振りかぶる。
    「まずはあなたから、ですの!」
    「っ!」
     振り下ろした剣は掲げられた右腕に阻まれるも、炎を与えることには成功した。
     男たちを攻める仲間たちが無防備な状態にならぬよう、悠花は横を抜けサイの懐へと潜り込む。
     盾領域を広げ、体当たり!
    「あなたの相手は、私が務めます!」
    「なんの!」
     正面からぶつかり合い、力比べへと持ち込んだ。
     至近距離で見つめ合う……サイの気を引くことに成功した悠花を横目に、水織は男たちを見回した。
    「……誰かに貰ったものは容易くその手から零れてしまう……自分自身の手でしっかりつかみ取ったものこそ、本当に力が宿るものなの」
     諭すように告げながら、魔導書で殴りかかっていく。
     体捌きで避けた先頭の男の背後に、聖羅が回り込んでいた。
    「覚悟もなしに力を振るえばどうなるか教えてやろうか?」
     返事は聞かずに刀を振り下ろし、先頭の男を押し返す。
     よろめきながら、先頭の男は灼滅者たちの背後に手をかざした。
     椅子が浮かび始めた気配を感じ、あるはが風に言葉を乗せ始める。
     清らかな言葉に導かれ、風は飛び交う椅子の影響を概ね消し去った。
     万全の状態が保たれていくさまを前に安堵の息を吐き出した後、小さなため息を吐き出していく。
     ――強化一般人への改造ってクーリングオフとか……ないですよね、やっぱ。はぁ……こういう謳い文句に釣られる人も釣られる人ですけど……いや……人造灼滅者の私がいってもなんだかなぁ……。
     始まる前のつぶやきを反芻しながら、哀れみの混じった光を宿していく。
     気づいた様子もなく、灼滅者たちと相対していく男たち。
     その周囲が、不意に凍てついた。
     ヘクセヘルド操る魔力によって。
    「その程度じゃまだまだだね。もっとも、超能力じゃなくて魔法みたいだけど」
     凍てついた男たちが、耳を貸す様子はない。
     ただただ灼滅者たちから距離を取り、サイを守るために……。
    「まだ戻れる、だから……」
     退こうとした瞬間、先頭に位置する男に脚に水織が魔力の弾丸を撃ち込んだ。
     衝撃に負けたか、限度を超えたか……男は尻もちをついた後、仰向けに倒れていく。
    「くっ」
     ソロモンの悪魔が表情を歪め、悠花から視線を反らした。
    「いかせません!」
     すかさず悠花が視界を塞ぎ、魔力を込めた棒を振り下ろす。
    「何の!」
     指先で棒を弾きながら、ソロモンの悪魔は悠花に手をかざした。
     悠花の瞳に、炎が宿る。
     何も燃えてなどいないはずなのに。
    「……」
     棒を強く握りしめ、偽りの熱に耐えていく。瞳に宿りし炎が消える、その時まで……。

     もとより、男たちは大きな力は持ち合わせていなかったのだろう。悠花が抑える中、灼滅者は順調に攻撃を重ねる事ができた。
     程なくして二体目を打ち倒し……。
    「……三体目」
     聖羅の刃が、最後の一人を壁へと叩きつける。
     意識を失っていくさまを一瞥した後、サイへと向き直った。
     悠花と弾きあったばかりのサイとにらみ合いながら、狙撃銃を構えていく。
    「そこらの兵隊と違って貴様は骨がありそうだな。ならばそれなりに料理してやる!」
    「はっ、遅れを取るほど落ちぶれてはいない!」
     笑いながら、悠花との距離を取っていくサイ。
     後を追うことなく、悠花は仲間たちの横に並んでいく。
     抑える必要はもうないからと、総攻撃へと移行した。
     ヘクセヘルドは跳躍し、サイめがけてジャンプキック!
     衝撃波とぶつかりあいながら、真っ直ぐにサイを見つめていく。
    「流石だね、でも……」
    「桃達は大悪魔も倒しているんだよ! 負けるもんかっ!」
     横合いから桃琴が飛び出して、真っ直ぐにバベルブレイカーを突き出していく。
    「はっ!」
     ヘクセヘルドを弾き、身を捻りバベルブレイカーを回避していくサイ。
     進路を推察し、水織は翼のように伸ばした帯を差し向けた。
    「むっ」
    「……」
     左足を捕らえるなり帯に力を込めながら、真っ直ぐな視線を向けていく。
    「……あなたは何で力を与えようとしていたの?」
     一呼吸の間を置いて、サイは帯を振り払った。
    「支配するダメだ。力を蓄え、配下を増やし……やがて、私が頂点に立つ!」
     サイが拳を握りしめる。
     不意に視界が炎に塞がれ……白雛は走り出した。
    「そのようなまやかしなんて……!」
     瞳を焼くかのような炎は幻だと断定し、剣に炎を宿しながら懐へと潜り込む。
     炎ごと切り裂くため、剣を横に振るっていく。
     切っ先が後ろへ飛んだサイの胸元を薄く裂き、紅き炎をもたらした。
     白雛の瞳に宿った炎は消えないから、あるはは風に言葉を乗せていく。
    「大丈夫、この調子で……」
    「打ち倒しましょう」
     治療の余波を受け取りながら、悠花は棒に紅蓮のオーラを宿して突き出した。
     サイの首筋に掠めさせ、削られた精神を癒やしていく。
     幻に翻弄されぬよう心を強く保ちながら、灼滅者たちは攻撃を重ね続けた。時には治療を優先し、誰ひとりとして倒れぬよう動いていた。
     攻めあぐねたか、サイは表情を歪めながら体の傷を増やしていく。
     時折出入り口の方へ視線を送ったけれど、灼滅者たちはすぐさま視線を塞ぎ――。
    「そこだ」
     ――勢いのまま聖羅が刀を振るい、サイの左腕を切り飛ばす。
    「ぐ……」
    「……皆、今が好機だ」
     口元を緩めながら、聖羅は仲間たちに視線を送った。
     すかさず退避しようとバックステップを踏むサイを、桃琴が猛追。
     瞬く間に懐へと入り込み、真っ直ぐに拳を突き出した。
    「八極拳は一撃必殺だけどね、桃は連打するよ!」
     一撃、二撃と刻むたび、サイは壁へと近づいていく。
     五撃、六撃と刻んだはて、歪な体をむき出しの壁へと叩きつけた。
    「かはっ」
    「隙あり、だよ!」
     空気を吐き天井を仰いだタイミングを見逃さず、ヘクセヘルドが帯を伸ばしサイの体を縛り上げた。
     帯に力を込めながら、白雛へと視線を送っていく。
     頷き、白雛は走り出す。
     サイを間合いの内側へと収めた瞬間、跳躍し……。
    「……」
     ヒーローの力を込めたキックを放ち、サイを再び壁へと押し込んだ。
     残された左腕がだらりと下がる。
     ヘクセヘルドが帯を手元に戻すとともに、うつ伏せに倒れはじめていく。
    「ぐ……よもやこのような者たちに邪魔をされるとは……計画は完璧、だった、はず… …」
     言葉を途切れさせると共に体を薄れさせ……やがて、跡形もなく消滅した。

     静寂を取り戻した工場跡。風の音もろくに聞こえない静寂の中、ヘクセヘルドは……エリザベートは仲間たちに向き直る。
    「無事勝利、だね!」
    「彼らも無事逃げたようで、何よりだな」
     聖羅は出入り口へと意識を向け、誰かが戻ってくる気配がないことを確認。その上で、各々の治療や元配下たちの介抱、周囲の片付けと行った事後処理へと移行した。
     もう、この場所で若者が騙されることはない。
     異能の力が無意味にばらまかれることはない。不幸が生まれることもない。
     多くが始まる前に、本格的な事件が起きる前に、終わらせることができたのだから……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年10月21日
    難度:普通
    参加:7人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ