たそがれ、キミの手を取って。

     門の前に立ち見上げた。
     森の中に建つ、蔦絡む古びた洋館はあちこちがくすんだ色をして、過ごしてきた長い時を思わせる。
    「ここにね、寂しがりやさんが出るんだってっ」
     とんっと軽やかなステップでこちらへ振り向いて、大鷹・メロ(メロウビート・d21564)が言う。
     彼女の霊犬・フラムは、警戒するように鼻をひくつかせている。
    「寂しがりや?」
     その言葉に首を傾げる白嶺・遥凪(ホワイトリッジ・dn0107)。
     曰く、その洋館は既に廃墟となっているのだが、黄昏時になると人影が見えるのだという。
     ある時は汚れて曇った窓の向こうに。ある時は崩れかけたテラスに。またある時は、わずかに開いた玄関の扉に。
     姿は見えても決して声をかけてこないし、近付こうともしない。そして、洋館の外には出てこない。
     そんな噂があるものだから、奥まったところに建つこの洋館を訪れる人はいない。
    「だけどなんだかすごく寂しそうでね、だから」
    「寂しがりや、か」
    「そうっ!」
     ぱちんと両手を叩いて応える。
    「その子は10歳くらいの女の子なんだって」
     やわやわの黒髪にふわふわドレスの女の子。何かしたいとか、何か言ってくるとか、そういうこともないから、なぜそこにいるのか分からない。
    「……もしかしたら、誘い出して襲うための罠かもしれないな」
    「うーん……?」
     遥凪の懸念にメロも首を傾げ、
    「でも、もし本当に寂しいだけなら、一緒に楽しいことして遊びたいよねっ」
     ぴよっと取り出して見せたのは、オレンジと茶色のガーランド。
     その意味に少し迷い、ふと気付いた。
    「ああ……ハロウィンだしな。パーティとかやったら楽しいかも」
    「ねっ!」
    「もちろん、そうでなかった場合の警戒もしないといけないが」
     華やかな少女はふわっと笑い、諌める言葉にむぅと頬を膨らませた。
     どちらにせよ、危害を与える存在になる前に灼滅しなければなるまい。
     ささやくような葉擦れに洋館へ振り返る。
    「いい最期を与えてあげないとねっ」
     揺れる緑の髪を押さえ、華やかな笑みに凶気を隠してもう一度見上げた。


    参加者
    桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146)
    暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)
    皇・銀静(陰月・d03673)
    若草・みかん(スィートネーブル・d13977)
    居木・久良(ロケットハート・d18214)
    月姫・舞(炊事場の主・d20689)
    大鷹・メロ(メロウビート・d21564)
    八千草・保(星望藍夜・d26173)

    ■リプレイ


     古びた洋館に黄昏が落ちる。
     秋の陽射しを受けた廃館は人がいるはずもなく、だが今この時だけは幾人かが集まっている気配があった。
    「こんな感じでいいかなっ?」
     ふわり裾をひるがえして大鷹・メロ(メロウビート・d21564)が古びた壁を示す。
     本来の装飾は失われてしまっているが、そこには新しく橙と紫に飾り付けられていた。
     お化けや南瓜、お人形。ジャックオランタンに古めかしい燭台も。
     みんなで飾り付けをした飾りをつんつんと前脚を出してつつく霊犬・フラムは魔法使いの格好で、主のメロは魔女の格好をしている。
     ことん。
    「ん……いいんじゃないか」
     静かに首肯する暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)は、オレンジ色のリボンをつけたナノナノのだいだいと一緒に綺麗に掃除したテーブルに料理を並べる若草・みかん(スィートネーブル・d13977)を見やる。
    「あまぁいおかし、たくさんの飲み物いっぱい用意しなくっちゃ」
     南瓜のクッキーなんてどうかしら。紙コップに紙皿も忘れちゃだめね、だいだいちゃん。
     歌うように言いながらパーティの準備をするみかんの格好はシスター、彼女を見守るサズヤは吸血鬼、ふたりでお揃いの仮装だ。
    「お家で、手作りして来ましたん」
     ころんとしたジャックオランタンを抱えてはにかむ八千草・保(星望藍夜・d26173)。
     シーツをかぶって真っ白な幽霊には、目を細めて笑っている狐のお面。
     可愛らしい感じに見える……かな。
    「狐がばけたみたいだな」
     くすり笑う白嶺・遥凪(ホワイトリッジ・dn0107)は、いつもの三つ揃え姿だ。
     パーティ会場風に飾りつけされた室内で、各々に仮装した中に混じっているとこれはこういう仮装なのだと言われても何となく納得してしまうかもしれない。
    「遥凪さんは仮装されへんのですか?」
     みんな似合っているなあと眺めていたところに問われて、ぴたりと表情が凍った。
    「…………いや、こういうのは似合う人がやるからいいのであって」
    「関係ないよっ!」
     だらだらと冷や汗を流す遥凪にメロが笑う。
     じっ。と見つめられ視線をさまよわせると、はいっと衣装や小物を差し出された。
     ことん。
    「料理の支度、できましたよ」
     黒髪の上にちょこんと狼の耳をつけ人狼風の衣装をまとう月姫・舞(炊事場の主・d20689)が、皿をまとめながらみんなに声をかける。
     テーブルの上にはパンプキンパイやパンプキンスープなどの南瓜料理にアプリコットソースがかかったローストチキン。
     ちょっと和風に、南瓜の天ぷらから南瓜の煮つけ。鶏肉を焼いたものに舞茸の炊き込みご飯、それと豚の角煮。
     お菓子は南京のランタンのモンブランや、黒猫やお化けの形のケーキやおばけの顔が描かれたパンケーキ。
     クッキーは南瓜のクッキーに星や月や蝙蝠のクッキー。飲み物も様々、蛍光色のジュースなんて。
     彼女と共に料理を並べたりしているおばけのウェイター風の格好の居木・久良(ロケットハート・d18214)。
     どれどれと味見をしてみるシーツのおばけは桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146)で、南瓜頭巾がアクセントになっている。
     こちらはこちらで、何となく仮装に統一感があるように思えた。
     どんな子だろうと話がこぼれ、南守の表情がかすかに翳る。
     孤児院で育ち義弟妹の世話をしてきたので、子供と接するのが好きな彼には、今回の都市伝説は心穏やかではなかった。
    「小さい子が淋しい思いをしてるなんて、ほっとけないよ。絶対笑顔にしてやんなくちゃ」
     彼の言葉に久良が頷いた。
    「独りぼっちは寂しいよね」
     俺も小さな頃、家に帰ると独りぼっちみたいなものだったから、と視線を落とす。
    「誰もいない家に帰るのは憂鬱だったから。うちの親はどっちも忙しそうに働いてたからね。そう言うのをわかったふりして我慢してた」
    「そうだな」
     そっと遥凪が口にする。彼女も四姉妹の長女として妹たちの面倒を見てきた。
    「わぁ、みんなの仮装もとっても素敵ね」
     手を合わせてみかんが笑う。
     全員で示し合わせたわけではないからその仮装はバラバラだが、だからこそ面白い。
     ことん。
    「……?」
     先ほどから小さな音が聞こえている。
     みんなで部屋を飾ったり料理やお菓子を並べたりする音かと思っていたが、どうやら違うようだ。
     あちこちに置かれ柔らかな光を放つライトは彼ら以外の陰影を映さず、しかしふと、保はテーブルに置かれた人形が転がっていることに気付く。
     何かの拍子に倒れてしまったかと手を伸ばし、
    「わっ」
     見えない何かに触れて声を上げた。
     驚いて手をひっこめたその時、聞こえてきたのは、ふゃ、と小さな……声のような。
     何事かと仲間たちが彼を注視するなか、『それ』はゆっくりと姿を現した。
     柔らかくカールした、艶はあるが光源の影響を受けない黒髪の下で不思議そうな瞳が彼らを見つめ、細い姿を包むドレスはマシュマロピンク。
     少女の姿を取る『それ』は膝下までのスカートの裾を揺らしてゆっくりと灼滅者たちを見回し、小さく声を上げて鎧甲冑の陰に隠れてしまう。
     その様子はおびえているとか逃げているとかいったふうではなく、イタズラが見つかった照れ隠しのようだ。
     と。重厚な音をさせて甲冑が動いたのに驚いてまた声を上げた。
     自身の陰に隠れた『それ』に一礼して、声を出さずみんなのほうへとジェスチャーで案内する。
     他の仲間たちが比較的カジュアルな装いであるのに対し、皇・銀静(陰月・d03673)が扮する装いは禍々しい暗黒騎士で、一見すると置き物のように思えた。
     びっくりしてきょろきょろする『それ』へ、サズヤがそっとおいでと手招きする。
    「いらっしゃいませ」
     優しい笑顔とウエイターらしい仕草で久良が挨拶し、ちょっといたずらっぽく表情を変え。
    「一緒にパーティをしない?」
    「……ぱーてぃ?」
     もう一度甲冑の陰に隠れようとして、それが人であることを思い出して慌てて隠れ場所を探す。
     出ようと思えば扉を開けて出ていってしまえばいいのに、あくまでも隠れようとするだけ。
     『それ』へ手を向け、何をするのかと興味津々な目がじっと見つめる中どこからともなく飴を出して渡すと、わあっと声が上がった。
    「実はこれは大変なモノだからね。こっそり隠して持ってきたんだ」
     君にあげるよ、と笑うと、『それ』はまるで宝石を眺めるように大切そうに両手の中に収める。
    「ビックリしてくれたら俺も嬉しいけど、どうだった?」
     訊かなくても分かるほどはっきりと、『それ』は魔法使いさんだと嬉しそうに顔をほころばせて彼に頷いた。
    「なんだか不思議な夢みたい」
    「そう、これは夢かもしれへんね?」
     楽しいことがたくさんあるよ……さぁ、ボクらと一緒においでよ。そう保が誘う。
    「知らないお化けとやったら、一緒に遊んでもええやない?」
     その言葉に、少しだけ視線を落とした。
     それは、否定。
    「ね、あなたも一緒にパーティ、しましょ? いや、かしら?」
     だいだいを肩に乗せてにこにこ笑顔のみかんの言葉に困ったような顔になり、
    「こんばんは。ねぇ私たちと一緒にハロウィンパーティしない?」
     衣装もあるの、着てみない? と誘う舞の言葉と見せた衣装に目を丸くし、けれどふるふると首を振った。
    「いい子はね、知らない人とお話したり、一緒にいたりしちゃダメって言われたの」
     だからずぅっといい子にしてるの。
     スカートをきゅっと掴んで言う『それ』に、しゃがんで視線を合わせて南守が声をかけた。
    「俺達はお前と友達になりに来たんだ。俺は南守。名前、教えてくれるか?」
    「名前? ……おともだち?」
    「名前が分からないと友達になれないもんな」
     大きな目をぱちぱちさせ『それ』は少しだけ迷って、きかれたらおへんじしなきゃいけないの、と小さく口の中で言ってから頷いた。
    「……ディズ」
     そっか、と笑って手を差し出す。
    「ほら、もう知らない人じゃないだろ。一緒にハロウィンパーティをしよう!」
     向けられた笑顔に『それ』はほわと微笑み、その手を取った。


     たくさんのお菓子とたくさんの料理に囲まれてのハロウィンパーティ。
     給仕係を買って出た久良が料理を取り分けたり、各々にお菓子をつまんだり。
     狼の耳と同じく舞の腰につけた尻尾を不思議そうに触る少女に微笑んで、用意してあった衣装を取り出して見せてみる。
    「よかったら着てみますか?」
     用意したのは吸血鬼に人狼、人魚姫とそれから魔女。
     困ったようにひととおり眺めて、結局選んだのは彼女と同じ狼の耳と尻尾。服装までは変えなかった。
    「約束だからダメなの」
     首を振る。
     誰とのだとか、どんな約束だとかの説明はない。或いは『お約束』という意味かも知れない。
    「ん……食べる?」
     サズヤが取り分けたパイを少女に差し出すと、不思議そうな視線が返る。
    「俺の、母が作ってくれた。美味しさは、保証する」
    「?」
     何かが理解できないらしい。だが、何が理解できないのかは分からない。
    「とりっくおあとりーと、なのよ」
     ね、サズさん。
     にこにこしながらお菓子をねだるみかんに、サズヤは少し多めに渡してやる。
     と。
    「……!」
     ……おぅ。
     飛んできただいだいを顔面で受け止め、だいだいにも、ちゃんとあげる、とお菓子をあげて。
    「と、とりーと!」
     ぎゅっと小さな手を握りしめて言い、あってるかなと上目遣いに尋ねる少女へ、大丈夫と応えてやり彼女にもお菓子を渡してやる。
    「おぅ……好奇心旺盛?」
     なら、みかんやだいだいとも仲良くなれそう。
     思いながら見つめたその姿が不意にひょいと消えた。
    「トリックオアトリート! ほらほら、お菓子をくれないと悪戯しちまうぞー」
    「きゃー!」
     少女を抱え南守がくるくると回ると悲鳴が上がる。
     不測の事態に備え幾人かが身構えたが、嫌がっている風ではない少女の様子に杞憂だと安堵した。
     いったんおろしてやり頭をなでなでしてやると、少女ははい、とお菓子を渡して、
    「えと、とりーと、なの」
     言って、あってる? とまた上目遣いに訊く。
     あってるよと頭を撫でてやるとほわり微笑み、とりーとなのー、と言いながら銀静にもお菓子を差し出そうと。
    「多分、トリートしか覚えてないね」
    「まあ……いたずらはなしだからいいんじゃないか?」
     困ったように笑う久良に、遥凪も苦笑で応えた。
     ぱちりと手を叩いてメロが少女へ声をかける。
    「フラム用のお菓子も持ってきたから、フラムにもあげてみる?」
     大人しいから噛んだりしないよっ。
     笑う彼女のそばで魔法使いの仮装をした霊犬がひとつ吠えると、少女はびっくりして、パイを切り分けていた舞の足元に隠れてしまった。
    「怖がらせちゃったかなっ?」
     視線を合わせようとしゃがんで少女の顔を覗き込む。
     少女はふるふると首を振り、
    「ん……と。ごめんなさい」
    「ん?」
    「びっくりしちゃったの」
     要領を得ないが、つまり驚いてしまってごめんなさい、ということだろうか。
    「大丈夫だよっ! ね、フラムっ」
     安心させるように笑う言葉にフラムが応える。少女はそっと息を吐き、小さな指先で何か記す。
     光をたなびかせて刻まれたそれは形を取る前に消えてしまう。
    「綺麗やね」
     狐のお面を少し上げて保が微笑む。こくり首を傾げる都市伝説の瞳に、一瞬ノイズのような色彩が走った。
     見間違いかと瞬きした時には元に戻っており、人懐っこい表情を浮かべる。
    「お兄ちゃんにもとりーとなの」
     はい、とお菓子を差し出す。
     不意のことに言葉を失った保は、彼女の瞳がもう一度変化しないか注意しながらありがとうと受け取り、お返しに彼が用意したお菓子を渡す。
     都市伝説は星や月の形をしたクッキーをちょこんとつまんで、不思議そうに眺めた。

     深皿にとろりとしたシチューを注ぐ。
    「暖かいうちに召し上がれ」
     皿をテーブルに置いた舞に促され、少女はスプーンを取ってそっとすくう。ほむ。と口に運び、ゆっくり味わう。
     ふわあと声が上がった。
    「おいしいねえ」
     溜息をつく彼女に笑みがこぼれる。
     けれどその笑顔が浮かんでもすぐに消えることに南守は気付いた。
     楽しくないわけではないのだろう。だがすぐに表情が翳りがちだ。
     そこで彼が取り出したのは饅頭。
    「さあロシアン饅頭だ。南瓜餡だけど、ひとつだけ違うものが入ってるから気を付けろ~」
    「ろしあん?」
     首を傾げる少女に、食べてみれば分かるといたずらっぽく笑う。
     饅頭をひとりずつに配り、
    「……あー」
     必要な時以外は暗黒騎士姿で置き物のようにじっとしている銀静にも渡すかどうか迷い、とりあえず渡すことにした。
     せーので全員同時にね。せーので。
     もぐ。
    「南瓜餡かな」
    「ん」
    「私も」
     各々に言葉を交わす中、悲鳴が上がった。
    「……って俺かよ! うう、すっぺえ!」
     きゅうっと顔をしかめて唸る南守の口の中は梅干しの味でいっぱいだ。
     慌てて飲み物が差し出されるが、味覚はすぐには改まらない。
    「う……と、お兄ちゃん、これどうぞなの」
     クリームだからとモンブランを差し出す少女に、苦悶をどうにか飲み込んで笑う。
    「へへ、優しいんだな」
     頭を撫でてやるとほやんと笑う。
     その様子を見つめ銀静は兜の奥で目を伏せた。
     この場にいる誰もが、今この時を楽しんでいる。それは間違いのないことだ。
    「(……時に道化を演ずるのもいい。之もまた気がまぎれる)」
    「楽しいね、サズさん」
     赤いストールで口元隠し黒のマントにタキシード姿の彼に、ふふ、かっこいいのよ。笑いかける。
     言われたサズヤも頷き、
    「……最近、大変な日々が続いていたから」
     こういう日があって、良いと思う。
     だが、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
    「楽しめましたか?」
     静かに銀静が声をかけた。
     ぱちぱちと瞬きする少女のその瞳に、ノイズのような色彩が走る。
    「祭も全ては終わりがある。でもまた新しい始まりがある」
     次に君が目覚めた時……きっと貴方は寂しくはない。
     慈しむようですらある言葉に、少女はゆっくり首を振った。
    「お別れだね」


     祭りの後は、どこか物悲しい。
    「君のお名前は……?」
     保の問いに、少女はもう一度名乗る。
     ディズ……Deserted、『捨てられた』と。
     初めからその名前だったのか、或いはこの廃墟にちなんだ名前なのかは分からない。
     けれど分かることはある。
    「もう、寂しゅうないね」
     微笑みかけると、少女もまた微笑んだ。
    「さよなら、楽しかったなら良かったんだけど」
     優しく手を振る久良に、少女はふわり微笑んでスカートの裾をつまんだ。
    「とっても楽しかったの。だから、忘れないうちにさよならするの」
     一緒に遊んでくれてありがとう。
    「とっても楽しかったねっ、また遊ぼうねっ!」
     メロの言葉には、少しだけ寂しそうに頷く。灼滅されれば『また』はない。
     『また』を願ってしまえば、彼女は再び都市伝説として生まれてしまう。
    「貴女があるべき場所に還りなさい」
     手を伸ばし、舞は頭を撫でるようにして力を込めた。
     サイキックを受けたその姿はおぼろげに揺れ、柔らかな黄昏色ににじむ。
     消えゆく少女に対し、南守は淋しい気持ちになるも隠して微笑む。
     彼女は笑顔なのだから、自分も笑顔にならないと。
    「すげー楽しかったよ。ありがとうな、ディズ」
     穏やかな色彩の中、少女は最期にもう一度笑う。
     ――ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん。
     柔らかな声に、みかんがそっとサズヤに寄り添った。
     ほろりと少女の姿が崩れ、さわりそよいだ風に溶ける。
     そして少しの静寂。
    「楽しかったですね!」
     笑う舞に、仲間たちもまた笑う。
     広げた宴の後片付けをし、銀静が少しここに残ると告げた。
     改めてこの廃墟を散策して心に止めて置きたいと。
    「少なくともここが崩れて死ぬことはありませんからね」
     ここの少女の冥福を祈り……少しだけその気持ちに寄り添いましょう。
     諌める理由もない。危険のないようにと確かめて、灼滅者たちは洋館を後にする。
     ふと振り返り、保は静かな廃墟を見つめた。
    「……楽しい夢の続きを。おやすみなさい、ディズさん」

    作者:鈴木リョウジ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年11月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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