●弔花の少年
「偶々でした。1人では対処出来ず、進路を追うので精一杯でしたが」
息を切らしながら語る御火徒・龍(憤怒の炎龍・d22653)は、行く足を止めずにそう語る。彼の『緊急』との声掛けに集った灼滅者達は、町から山林の中へと入り、龍の背を追う形で駆けていた。
「学生服を着ていたので、恐らくは麓の高校の生徒ですね。……まさかデモノイド化に遭遇するとは予想外でした」
――それは本当に偶然だった。
愛車で遠出した帰りの峠道。『この先交通事故現場、減速を』との古びた看板を目にした龍が減速すると、前方の道脇へ花を手向ける少年に気付いた。
道に自らが添えた花をどこか悔し気な、悲し気な表情で見つめて――そのまま立ち尽くしている少年が何とはなしに気になって、龍はやや手前で停車し様子を見ていたのだという。
そこへ、突然猛スピードのオープンカーが現れる。
「『交通事故現場って書いてあった』『そんなの運転下手なヤツが勝手に起こしたんだろ』。……笑いながらそう言い残して彼らが走り去った直後でした、学生服の少年がデモノイドになったのは」
停止することもない。4人の若者を乗せ法定外の速度を維持し走り抜けていった赤いオープンカーは、恐らく少年の存在にも、彼がデモノイドへと変わったことにすら気付かずに去ったのだろう。法こそ犯していても、止まらずに去ったことで彼らは幸いにも助かった。
しかし、生まれてしまったデモノイドもまた、その場に止まることはない。
「デモノイドは、峠道を進まず山林に入っていきました。暫く追った結果、どうやら麓の町へ向かっています。ただ……」
知性が無いとされるデモノイドだ、町へ到達し惨劇を引き起こす前に一刻も早く止めなければならないと、龍も一時は最悪単独でも戦う覚悟でその後を追った。
しかし奇妙なことに、デモノイドは吠えるでも暴れるでもなく、時折立ち止まりながらゆっくりと山を下っているのだという。
「おかげで近くにいたみなさんに連絡を取って合流する時間が持てました。デモノイドの進路上には河原があるようでしたので、そこで迎撃すれば戦いやすいと思います」
戦闘能力は不明だが、闇堕ち直後であろうとも1ダークネスの戦闘力に油断する余地がないことは灼滅者の誰もが知ったこと。心の準備は万端だ。
少しずつ、水音が近づいている。決戦の舞台はもうすぐ――誰もがそう意気込んだ時、思いがけず続いた龍の言葉が、灼滅者達の思考を奪った。
「それから、デモノイドの進行が妙に鈍い理由ですが……もしかしたら彼、俺達と同じなんじゃないですか」
それは闇堕ち直後であるデモノイドを観察した龍が冷静に推察した結果であったかもしれないし、闇堕ちの場に居合わせた龍の、そう願いたい思いであったかもしれない。
――もしもデモノイドの奇妙なほどの歩みの鈍さが、今闇の中に在る少年の抵抗によるものだとしたら。
「救けられたりは、しないですか」
今場にいる誰一人、その問いへの答えは持たない。
しかし、そうであるなら――望んだ結果を掴み取るべく、灼滅者達は山林の道なき道を駆け抜けた。
参加者 | |
---|---|
十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576) |
鹿野・小太郎(雪冤・d00795) |
桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146) |
セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444) |
蓬野・榛名(陽映り小町・d33560) |
永篠・葎(残響・d34355) |
潘・朱璃(雪原の朱花・d34780) |
厳流・要(溶岩の心・d35040) |
●切望
「居ました! デモノイドです!」
白き息を吐き出して、セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)は知らせの声を響かせた。
山林から河原へ抜ける、その直前。見出したのは、川向かいの山林から姿を見せた蒼き獣。
「助けられるなら当然助ける! 俺達の力はその為にあるんだ!」
ばしゃん! 川面を足で打ち駆ける厳流・要(溶岩の心・d35040)が辺りに広げたのは声と殺界、そして仲間を守る光の盾。
常世の人を河原から遠ざけ、仲間には守護光与えて――今日を戦う要の決意は、自身を駆使して全ての存在を守ること。
目標は、デモノイドの更に奥。秘められた1人の少年の救出だ。
(「救い出すまで、負けないで……!」)
中空に輝く魔力の符を並べ、潘・朱璃(雪原の朱花・d34780)は気負う様にぎゅっと唇を引き結ぶけれど――その背をポン、と誰かが叩いた。
「聞こえてるか解んねぇが、届くと思ったから来た」
永篠・葎(残響・d34355)の錆色の瞳は獣を映し、低温で紡いだ言葉も自身へ向けたものでは無いと朱璃はすぐに分かったけれど。無言で朱璃を励ました手は、一瞬で離れて獣へ向かう。
葎の手覆う『黒天縫』の中には直後、顕現した鋼糸がキュル、と蠢いた。
「グォオアァ!!」
臨戦態勢を悟ったか、腕を刀へ変えたデモノイドは猛然と葎へ迫る。高く掲げたその腕が、振り下ろされる瞬間に――。
「――残念!」
ギィン!
獣の刃の前で、青透く銀の髪が揺れた。
(「……彼も、理不尽に誰かの命を奪われたんすかね」)
余韻残して響く音は、刃と刃が奏でる旋律――十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)の聖剣『星葬』は、眼前で獣の刃と交差し鬩ぎ合う。
ギリ、とやまぬ鍔迫り合いにも、負けず狭霧は刃を押した。
「……彼に、誰も殺させたりはしない」
「グッ……グォオ!」
圧される獣は、負けじと強引に前へ出ようとする。しかしそこへ――パキュン! 飛来した何かが、その足を貫いた。
「グァッ!?」
「ゴメンな、ちょっとだけ我慢してくれよ」
指輪嵌めし手を掲げて。桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146)の魔法弾が鍔迫り合いの終焉を告げた。生じた痛みに呻いた蒼獣が片膝をつくと、その隙に狭霧が掲げたのは、注意促す黄色い標識。
温かに広がったその光を受け取って、蓬野・榛名(陽映り小町・d33560)は祈る様に手を組んだ。
(「踏みにじられた想い、受け止めてみせるのです」)
決意乗せ、射出した意志持つ帯が獣目掛けて飛んでいく。伴い前に出た影も、ジャッと音立て中空へ舞い上がった。
「『そのまま』のきみを、行かせる訳にはいかないんだ」
鹿野・小太郎(雪冤・d00795)が振るった足が、獣の頭部を強く打つ。その右手には、小指を茜色が彩っていた。
――心結ぶ、今日に相応しき色と誓いを宿したこの手は果たして少年の手を掴めるのか。
(「上手くいかない時もあります。でも、一人でも多く助けられるように頑張りたい。……信じて頑張ることしか、私にはできないのですから」)
思惑に伏せた瞳を開き、セレスティは獣を見つめる。
「自分が為すべきことを為すのみです!」
「グォオオオ!」
鋭き獣の咆哮に、少年の姿はまだ見出せていなかった。
●欠片
「わたし達の声をきいて下さい! 許せない言葉に傷ついて、怒って、悲しいのですよね!」
榛名の声を、風の刃が真っ直ぐ前へ運んでいく。
「わたし達はあなたの声がききたいのです。けど、このままではきけないのです! ……どうか、自分を見失わないで!」
落葉舞い上げ、吹き荒れるカミの風――榛名が繰り出す神薙刃を払いのけたデモノイドは、腕に巨大な砲台を生むと、退かぬ榛名へそれを構えた。
しかしそこに、キュル、と弦が巻き付く。
「知らない奴は、無神経にお前の傷を抉ったのかも知れない。もし俺達もお前の心に土足で踏み込んでるなら、……謝る。でも聞いて欲しい」
葎が手繰った弦に引かれ、狙い逃した光線は近くの山林に着弾した。蒼獣が忌々しそうに向き直ると――そこに、空から声が降る。
「闇堕ちは他人事ではないですし……可能性がある限り頑張って救出できればと思います」
とん、と軽やかに砲身の上へ降り立つ姿は清廉として、頬に落ちる髪は美しい白金――セレスティだ。
「貴方がもし助けて欲しい、止めて欲しいと望むのであれば、全力でお手伝いをと思っています」
柔らに笑んで、ふと――切なげに寄せた眉を白金に隠すセレスティの心には、救えなかった仲間の記憶が蘇る。
「……悲しい結末は、見たくないですからね」
もう二度と――憂いを帯びて振るった大鎌は死を呼ぶ斬撃。1度獣の左腕を切り裂くと、返す刃で更に深く切り込んだ。
「グァアアア!!」
急所捉えた一撃に、獣の悲鳴が轟いた。仰け反るそこに隙を見て、要は獣の懐へ飛び込んだ。
「オラァ!」
ダァン! 激しい要の蹴りは、蒼獣の巨体を吹き飛ばした。地面が軌道に抉られる間も、その熱き声は途切れず、闇中に少年を探る。
「心無い言葉に怒るのは尤もだ。でも一度怒りに任せちまえば、お前はきっと罪のない、関係ない人まで大勢手に掛けちまう!」
抉られ荒れた戦いの道を、要は再び駆け出した。
視界には、立ち上がった獣の死角へ回り込む小太郎。だから要は引き付けるためその手に溶岩の血を纏い、夕闇の道を煌々と照らした――日と共に少年の正気が沈み切るのに抗うように。
「お前みたいに理不尽に誰かを失って苦しむ奴を、お前の手で増やしちまっていいのか?!」
「グアア!!」
要へ向かい駆け出した獣を、突如真横から、小太郎の白光の剣が斬り付けた。
「グァッ?!」
「……毎日、本当に辛かったと思う」
着地し振り向いた小太郎の前で、獣の額からみるみる鮮血が溢れ出た。言葉だけで救えぬ痛みを胸に、小太郎は抑揚少なに言葉を落とす。
「闇に飲まれて、……もしかしたら、楽になれたのかな。でもきみは奪う側になっちゃいけない」
目の前で額を押さえて呻く獣に、違う何かが重なった。渦巻く記憶。霧散する蒼い体を、これまで何度も見送って来た――。
(「――またか、と思った。でも違った」)
確証なんて今も無い。でも、今日は初めて手を伸ばせると思った。与える痛みを思えば辛くて、葛藤だって尽きないけれど。
(「救いたい。……声が聞きたい」)
だから何度だって呼び掛ける――生きて欲しいと願うから。
「思い出して、忘れないで。心に居る誰かと……生きてほしい」
「グゥウ……!」
その様子を見つめる南守は、少年の心へ思いを寄せると、俯いた。
(「生まれる悲劇が悔しいけど、……俺には交通事故を無くす事も命を取り戻す事も出来ない」)
事故と喪失という悲しい現実を、灼滅者達は解決出来ない。しかし、今南守の手中には――闇に堕ちた少年を救える可能性がある。
「……だから今はそれに全力を尽くす!」
――ガシャン! 誓って南守は三七式歩兵銃『桜火』のボルトを引いた。照準を覗き、射線を見極めようとして――気付いた。
「……何だ……?」
獣の左肩の、小さな光。それが何かは解らなかったけれど――直感が告げた。あれは、何かとても大切なものだ――。
「左肩に何かある! ……頼む!!」
知らせと同時、放たれた魔法光線が獣の肩を貫通した。
正確無比な射撃が、光る何かを引き摺り出す――空舞うそれにデモノイドが反応したのを見た狭霧は、瞬間的に地を蹴った。
「あんたの相手はこっちっすよ!」
剣を持ち替え、蒼獣の背を駆け上がる。気配に蒼獣が振り向いた瞬間――狭霧はその広い背中目掛けて、破邪の刃を突き立てた。
「ギャァアアア!!」
「――ぅあっ、……!」
絶叫し暴れる獣が、強酸液を振り撒いた。皮膚を灼く痛みに顔を顰めても――狭霧は突き立てた刃を抜かず放さず、ぎり、と歯を喰いしばる。
「白蓮!」
即座に叫んだ朱璃に応え、霊犬・白蓮が浄化の霊力を解放した。狭霧の全身を包んだ光は、灼かれた肌を再生していくが――。
(「一寸の傷くらいなんて事ない。……堕ちた彼はもっと痛い思いをしている筈」)
今、闇に独りの少年。彼の心の痛みを思えば、弱音なんて吐けないと――狭霧は力と声を振り絞る。
「大好きな人を貶められたら辛い。怒りや悲しみを抱くのは大切な事……でもあんたは今、その矛先を違う人に向けようとしてる!」
……カラン。
空舞った、小さな光が河原に落ちた。そのプラスチック片は本当に小さかったけれど――そこに書かれた漢字列は、少年救出を目指す灼滅者達にとって、大きな意味持つものだった。
「分っているから、躊躇ってるんすよね。だったら未だ大丈夫。誰も傷付けない様に、その気持ちだけは強く持ってて」
痛みに呻る獣へ狭霧が笑んで見せた時。夕陽に光るその――少年のネームプレートが、灼滅者達へ呼ぶべき名を知らしめた。
――『鈴原・章』と。
●一緒に
「鈴原! 俺達が来るまで暴れないでいてくれて有難うな!」
少年の名を知って――南守の掛ける声には、更に熱が籠っていた。
「今、抵抗していてくれてるんだろう? 苦しくて一杯だろうに」
「グゥウウ……!」
叫ぶ声に、獣は何かを振り払う様にブンブンと首を振る。南守は一度銃を置くと、両手に纏った猛きオーラを言葉と共に解き放った。
「お前のやり場のない怒りと苦しみがまた別の罪のない人に向かっちまって、同じ苦しみ持つ誰かを生み出してしまうなんて事、絶対に駄目だ! お前を加害者達と同じにはさせない。その拳はここで俺達が受け止めるからな!」
「グゥアアア!!」
追尾する闘気が、獣の蒼躯に着弾した。急所だったか一際甲高いその咆哮に――舌打ち1つ、要は即座に駆け出した。
「……いい加減に……!」
突き出した拳は、獣の手に阻まれる。両手で組み合う2つの力は、真っ向から鬩ぎ合って――しかし、獣の腕から流れ始めた酸が、要の危機を呼び寄せる。
「一度退いて、巌流さん!」
気付いてセレスティが声を張った、――その時。
「……いい加減頭冷やしやがれッ!!」
傷痕深い獣の額へ、要の頭突きは炎を放った。言葉と裏腹のその攻撃はレーヴァテイン――組み合う最中に、熱源を拳ではなく額に切り替えたのだ。
「意志を強く持って衝動に抗うんだ! 意志を爆発させる気合いが足りねえなら、俺達が叩きこんでやる!」
「ヴぁ……!」
包む炎に、獣から悲鳴が上がる。しかし――悲鳴の中にふと、これまでと違う響きを見つけた南守は耳を澄ました。
「っぁあ……も、出てくル、な……!」
「! 鈴原!」
初めて聞いた、蒼い獣が闇に抗う声――南守が歓喜の声を上げれば、小太郎は肩を震わせ――そこで獣へ1つ問う。
「鈴原、くん。……名前は、なんて読むの?」
『章』という名の、読みは幾つか推測したし、苗字で呼んでも良かったけれど――呼ぶべきその名は、彼自身から聞きたかった。
「……あ、き……」
その答えに――榛名は銀揺れる瞳を喜びに見開いた。
「章くんというお名前なのですね……!」
そこに少年・章が居る――名を呼び笑う少女の前で、しかしその腕は震えながら、刃と化して空高く掲げられていく。
「……逃、げろ……!」
しかし、榛名は両手を広げてその場に立ちはだかり――。
「わたしも、灼滅者の皆に救って貰いました!」
ドン! 振り下ろされた衝撃を、その細い手で受け止めた。
「榛名ちゃん!」
刃を掴む白い手から溢れる血。しかし榛名は狭霧の声に首を振ると、笑顔のままに獣を見据えた。
自分こそ辛い筈なのに、逃げろ、と言葉で庇ってくれた章――その強さを、必ず救い出せると信じている。
「そして榛名はご当地ヒーローなのです! ヒーローは、悲しんでいる人を救う存在なのです! 今手を伸ばすことができるなら……!」
絶対に諦めない――未だ不安定な章へ、榛名は必死の願いをぶつける。
「章くんの手をとって、怒りと悲しみに震える体を抱きしめてあげたいのです!」
強い思いが、遂に獣の刃を弾いた。後ろへ大きく傾いだ巨体へ、葎は追い討つ様に鋼糸を振るう。
「……章。俺達は、今お前を抑えつけてる得体の知れない連中と戦ってる」
ズン! 倒れた獣の巨体へと、鋼弦は地へ縛る様に巻き付いた。しかし獣は抵抗しない――代わりに人の言葉が返る。
「……はや、く……もし死んでも、今日なら……」
その言葉に、葎は今日の話を聞いた時から抱く予想を確信に変えた。
「今日お前の花束の行先が墓じゃなかった理由は、……命日か?」
「……!」
葎の言葉に、びくりと体を震わせた章に――ああ、と朱璃は瞑目した。
事故現場に在ったのは古びた看板だったと聞いた。最近の事故でないとしたら、今日章がそこへ足を運んだのには何か意味があると思った――。
「残されて、忘れずにいることの方が余程しんどい。でもお前は、直視も辛い筈のあそこへ行った。――忘れないで居てやれ。俺も忘れねぇし、……忘れられもしねぇよ」
僅かに眉根を寄せ、諦めた様に微笑う葎。
別れに際し、相手が大切であればある程忘れられずにそれが辛い時もある。でもそれ程大切な人との記憶が、人を強くもしてくれる――葎の思いに、セレスティも頷いた。
「時には辛く苦しい事もあります。でも、それをむやみに振るっても後悔するだけ……」
心に確かめる様に、胸に手を当てセレスティは微笑んだ。
「心の闇に……自分自身に負けないでください。鈴原さん」
柔らかなその笑顔に、仰向けの獣はそのまま顔を空へと向けた。深く息を吐き出して――それからぽつり、呟いた。
「……4年前、暴走車の事故に巻き込まれて、親父が死んだ。……あんな勝手な慢心が、親父の命を奪ったんだって、思ったら……っ……」
徐々に震え、搔き消えたその声に、朱璃はそっと歩み寄る。
「……喪った命は戻らず、尊べばこそ心無い言葉には傷付きます。でも、章さん」
現実は時に大きく生きる人の前に立ちはだかる。それは、朱璃自身も抱える痛みだからこそよく分かる。
それでも章と、彼を見守る亡き人のためにも朱璃は願う――辛くともどうか、忘れないでと。
「――生きて、伝えて。人の手の温かさ、教えてくれるのもまた人だと思います」
微笑む朱璃は、今日初めて、剣を傷つけるために手に取った。
救いに来たのは、共に生きるため――終始その意思を全うした灼滅者達の戦いは、新たな灼滅者の誕生と共に、遂に此処で終わりを迎える。
「切なさや寂しさに囚われても、一緒に悩んでいきたい。記憶を繋いでいくその手を、……私達に取らせてください」
共に行こうと獣を切り裂く白き剣を、灼滅者達は笑んで見守る。その果てに聞こえたのは、――章の、笑う声。
「はは、……それは逃げられそうに、ねぇな……」
蒼き皮膚が融解し消えたそこには――朱璃の手を取り、瞳に温かな滴を浮かべ眠る学生服の少年が横たわっていた。
作者:萩 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年11月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 2
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