東京近郊にあるテーマパークでは、ハロウィンフェスタが開催されていた。
この日は仮装していくと入園料が割り引かれるとあって、たくさんの人たちが仮装を楽しんでいた。
メイン会場となる中央広場はダンスパーティーの会場になるとあって、夕暮れ時の広場は沢山の仮装した観光客で賑わっていた。
その中に、魔法少女の仮装をした少女がいた。
白いレオタードドレスに金の髪飾りをつけ、白と金色のロッドを振り回した女の子が、得意そうに決めポーズを取った。
「魔法少女シャイニーホワイト、ここに参上! この世の悪は許さないんだから!」
アニメと似た決めポーズを取った少女の前に、忽然と悪の魔法少女が現れた。
「現れたわね、シャイニーホワイト! 悪の魔法少女・シルフィーゼが、あなたの夢や希望を打ち砕いてあげりゅわ!」
白い肌に紅い目。長い八重歯のような牙を持ち、背中にはコウモリの羽。
露出の高い悪の魔法少女のような姿をした少女――シルフィーゼの姿に、シャイニーホワイトの仮装をした少女は戸惑いの声を上げた。
「え? シルフィーゼなんて敵、いたっけ?」
友達と顔を見合わせる少女に、悪の魔法少女・シルフィーゼは興ざめしたように鼻を鳴らした。
「偽物のシャイニーホワイトは……」
膝くらいまでの長いストレートヘアをなびかせたシルフィーゼは、シャイニーホワイトの仮装をした少女を後ろから抱き締めた。
戸惑う少女の頬に、細く長い指が這う。
少女の耳たぶをそっと甘噛みしたシルフィーゼは、無邪気な声で囁いた。
「悪の魔法少女が、お仕置きしゅりゅよ」
少女の頸動脈に、牙が立てられる。
その目が、驚きから恍惚へと変わる。
くずおれ、息絶えた少女を一瞥したシルフィーゼは、口元についた血を舌で拭った。
「あ、明美大丈夫!?」
駆け寄ろうとする、青いレオタードドレス姿の少女の腕を掴んだシルフィーゼは、そのまま抱き寄せ頸動脈に牙を立てる。
シャイニーホワイトに重なるように倒れた少女を見下ろしたシルフィーゼは、楽しそうに微笑んだ。
「さあ、ちゅぎの魔法少女は誰にしよいぅかしら?」
可愛く頬に指を当てたシルフィーゼは、肩の辺りで結んだ横髪を楽しそうに払うと次の魔法少女に狙いを定めた。
●
「先の戦いで闇堕ちしはった、シルフィーゼはんが見つかったで!」
興奮した面持ちで集まった灼滅者達を見渡したくるみは、東京近郊の地図を指差した。
「現れはるんはここ。テーマパークのハロウィンイベントの真っ最中や。魔法少女の仮装をしはる人を襲って殺してはる」
魔法少女の仮装をして、魔法少女を演じていないと、飽きてすぐに帰ってしまう。
甘く見ている間はお約束の展開に乗ってくる。
ダンピールと魔法使いのサイキックに加え、強化吸血捕食のサイキックも使ってくる。
ポジションはクラッシャー。
会場は広いが、沢山の人で賑わっているため、そのままだと二次被害が出てしまう恐れがある。
「では僕は、一般人の避難をお手伝いしましょう。ハロウィンイベントの最中だけあって、人も多そうです」
「頼んだで、葵はん」
軽く手を挙げた葵に、くるみは頷いた。
「今ならまだ、シルフィーゼはんを助けることができはる。せやけど、これを逃すともう戻って来れへんかも知れへん。どうか、皆でシルフィーゼはんを救出したってや!」
くるみは真剣な面持ちで、灼滅者達に頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
時浦・零冶(紫刻黎明・d02210) |
羽丘・結衣菜(歌い詠う蝶々の夜想曲・d06908) |
白金・ジュン(魔法少女少年・d11361) |
流阿武・知信(炎纏いし鉄の盾・d20203) |
不破・和正(悪滅断罪エドゲイン・d23309) |
荒吹・千鳥(祝福ノ風ハ此処ニ在リ・d29636) |
ヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821) |
癒月・空煌(医者を志す幼き子供・d33265) |
仮装した人々で溢れる広場に、悪の魔法少女が現れた。
悪の魔法少女・シルフィーゼが一般人の少女にそっと近寄った時、凛とした声が割って入った。
「お待ちなさい!」
「誰!?」
周囲を見渡して声の主を探すシルフィーゼに、癒月・空煌(医者を志す幼き子供・d33265)はのりのりでポーズを決めた。
「救いを求めるものに救済を! 魔法少女『ティア』、ここに参上!」
スレイヤーカードを解放し、天使モチーフの魔法少女姿に変身した空煌は、天使の翼をなびかせながら決めポーズを取った。
天使モチーフの空煌の――魔法少女『ティア』の隣に、蝶々が舞い降りた。
「奏でるは癒しの調べ。魔法少女リリカルゆいな、ただいま参上!」
蝶々をモチーフとした黄色基調のフリフリワンピースを翻し、蝶を模ったブローチを胸につけた羽丘・結衣菜(歌い詠う蝶々の夜想曲・d06908)は、きらっと輝かせながらダイナマイトモードを発現させた。
「さあ、いつでも来なさい、悪の魔法少女!」
蝶々の羽を背にポーズを決める結衣菜の後ろから、巫女が現れた。
「魔法巫女さん ちどりん参上ってなぁ」
巫女衣装をベースにしたバトルコスチュームを身に纏った荒吹・千鳥(祝福ノ風ハ此処ニ在リ・d29636)は、殲術玉串『塞之神』を手ににっこりと微笑んだ。
「迎えに来たで、シルフィちゃん」
笑みの中にアルティメットモードを発現させる千鳥の隣から、第四の魔法少女が現れた。
「マジピュア・ウェイクアップ!」
スレイヤーカードを解放し、変身バンクのようにマジピュアコスチューム・ホワイトを纏った白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)は、目の前に立つ悪の魔法少女・シルフィーゼをそっと見つめた。
「私は伝説の戦士マジピュアの一人……」
間を取り、目を閉じたジュンは、目を開くと魔法少女ステッキ型の殲術道具を構えた。
「希望の戦士ピュア・ホワイト みんなの祈りに答えます!」
四人の魔法少女が決めポーズを取り、一般人が大きな感銘に包まれる。
周囲の観客の拍手喝采の中、シルフィーゼはマジカルロッドを振ってポーズを決めた。
「現れたわね、魔法少女戦士スレイヤー! 悪の魔法少女・シルフィーゼが、あなたの夢や希望を打ち砕いてあげりゅわ!」
「あ、悪の魔法少女だって……!? 大変だ……みんな、早く逃げるんだ!」
シルフィーゼの登場に焦ったように一般人を見渡した流阿武・知信(炎纏いし鉄の盾・d20203)は、魔法少女達の登場に大感銘を受ける一般人に殺界形成を放った。
灼滅者達の姿が見えない一般人は会場を後にしたが、間近で見た一般人はなかなか立ち去ろうとはしない。
動きの鈍い一般人達に舌打ちした時浦・零冶(紫刻黎明・d02210)は、黒スーツの上に白衣の研究者風衣装を翻して一般人に向き合った。
「これは遊びではない。怪我をしたくない者は立ち去れ!」
零冶の声に、周囲が騒がしくなる。
一般人を避難させようと、プラチナチケットを発動させた不破・和正(悪滅断罪エドゲイン・d23309)は避難を促す。
「落ち着いて、ここから逃げてください!」
名残惜しそうにゆっくり立ち去る一般人を、緑風・玲那は割り込みヴォイスで誘導する。
「皆さん、すぐに広場から出て下さい!」
榎木・葵もまた、王者の風を纏わせながら一般人に指示を出した。
中央に残されたのは、悪の魔法少女・シルフィーゼと四人の魔法少女、黒いスーツを纏った骸骨と黒スーツに白衣の研究者。サポートに集まった灼滅者達もまた仮装をしている。
普段着の和正が浮いてしまうような景色に、ヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)は小さくため息をついた。
「魔法少女といい、日本文化はよくわからんね……」
軽く苦笑いを零したヘイズは、いつもの戦闘用ロングコートを翻すと戦場へと躍り出た。
●
勢揃いした魔法少女達の姿に、シルフィーゼは心底楽しそうな笑みを浮かべた。
「シルフィちゃんは、魔法少女と遊びに来たんだよ♪ 皆はあたしと、遊んでくれりゅのかしら?」
可愛らしく首をこくん、と傾げるシルフィーゼに、ジュンは静かに訴えた。
「シルドラSweetsのシルフィーゼさん、あなたを迎えに来ました」
「迎え……? どいぅして? お迎えなんていらないよ?」
シルフィーゼはロッドをくるりと回すと、軽やかに踊りながらジュンに突きつけた。
同時に放たれる魔法弾が、ジュンに向けて放たれる。
強烈な魔法弾がジュンに突き刺さる寸前、知信が動いた。
情け容赦ない魔法弾が、庇った腕に突き刺さる。
強力な攻撃に、知信は歯を食いしばって耐えると決意の顔を上げた。
「隣で戦う、仲間たちの笑顔の為に……僕は戦う!」
黒いスーツを着た骸骨姿の知信に、シルフィーゼは少し眉をひそめた。
「魔法少女でもないのにあたしの攻撃を受け止めりゅなんて、少しはやりゅようね」
「さて、闇堕ちの力、如何程のものか……俺に見せてくれっ!」
シルフィーゼの死角に回り込んだヘイズは、妖刀「雷華禍月」の柄に手を掛けると、音もなくシルフィーゼに斬りかかった。
袈裟懸けに放たれた斬撃を受け、一歩下がったシルフィーゼを追撃するように和正の攻撃が迫った。
下から上へ掬い上げるように放たれた斬撃を受けたシルフィーゼは、和正の姿に首を傾げた。
「あなたはだあれ? どいゅしてシルフィちゃんの邪魔をしゅりゅの?」
「初めまして、と言っておくぜ。……君とはこれで初対面だが、君が優しい人だっていうのはわかる」
「初対面なのに、どいぅして分かりゅの?」
「君が闇に堕ちたのも、仲間達のためだったんだから」
和正の言葉に眉を上げたシルフィーゼが口を開くよりも早く、空煌が一歩前へ出た。
「シルフィーゼさんには、前回すごく助けてもらいました。自分の力のなさが、とても悔しかったです……」
空煌は真剣な眼差しでシルフィーゼを見つめた。
シルフィーゼが堕ちた前哨戦での出来事が、脳裏にフラッシュバックする。
知らず拳を握り締めた空煌は、顔を上げてシルフィーゼに訴えた。
「でも、まだお礼が言えてないのです。だから……取り戻しますですよ!」
「クロカガリ戦でお前が闇に染まったのは、俺が倒れた後らしいな。最後まで立っていられなかった分、今回は必ず連れて帰る」
決意を込めて日本刀の柄を握り締めた零冶は、上段から日本刀を一気に振り下ろした。
刀を握る手に自然と力を込めた零冶の一撃に呼応するように、空煌のダイダロスベルトがシルフィーゼに迫る。
ロッドを構えて防御したシルフィーゼに、ジュンは妖の槍を繰り出した。
螺旋に抉る攻撃を更なる防御で受け止めたシルフィーゼに、ジュンは訴えた。
「あなたが仲間たちと築いたキズナの数々を思い出して下さい。それは、こんな事では無くならないはずです!」
「そうや。ガイオウガのあれこれもやっと収まったんやから、シルフィちゃんも帰っておいで」
殲術玉串『塞之神』を構えた千鳥は、魔法のステッキのようにくるりと回した。
構えた長柄の玉串から溢れ出す黄色い光が、前衛を包み込む。
癒しと加護を得た前衛に、結衣菜は歌を届けた。
マジックミサイルを受け、大きなダメージを受けた知信の傷が、優しい歌に癒されていく。
危地を脱したことを確認してホッと一息ついた結衣菜は、シルフィーゼに向き合った。
「四季彩での懐かしい日々、覚えているかしら。私は覚えてる。いつもあなたのこと、私はカワイイーゼと呼んでいたわね。私は、その楽しかった日々が戻ってくることを切に願ってる」
「……いやよ」
皆の説得の言葉に、シルフィーゼは大きく頭を振った。
●
「……シルフィちゃん、魔法少女ともっともっと遊びゅの! まだまだ遊び足りないの!」
強がりのように指先でステッキをくるくるもてあそぶシルフィーゼを、ジュンは真っ直ぐに見据えた。
「私たちは、悪落ちしたシルフィーゼを救出に来た魔法少女仲間です。魔法少女仲間として、私はあなたを絶対に連れ帰って見せる!」
決意と共に放たれた腰のリボンが、シルフィーゼを捉えるように真っ直ぐ伸びて切り裂いた。
「我らの魔法少女が、悪などに負けるものか!」
ジュンのリボンスラストに呼応するように、零冶は影縛りを放とうと影業に力を込めた。
だが、活性化されていないサイキックは発動しない。
舌打ちする零冶に、シルフィーゼはロッドを構えた。
「これを受けても、大口を叩けりゅのかしら?」
零冶に突きつけたマジカルロッドに、膨大な氷の魔力が集まる。
次の瞬間、氷の嵐が吹き荒んだ。
全てを凍りつかせる魔法が前衛を直撃し、氷の壁を形作る。
凍てついた壁に、聖なる風が吹き抜けた。
冷たい氷壁を溶かす春風のような力を放った結衣菜は、マジカルロッドを弄ぶシルフィーゼに訴えかけた。
「あなたが帰って来るのを、皆待ってる。それは私だけじゃない。きっと、思いはみんな一緒のはず。戻ってきて、シルフィーゼちゃん!」
「君と友達との絆は、途切れさせはしないぜ!」
体を張ってヘイズを庇った和正が、その場に膝をつく。
かつてシルフィーゼの仲間達がクロカガリの攻撃から仲間を庇ったように。
ヘイズを守った和正に、シルフィーゼは眉を潜めた。
目の当たりにした闇堕ちの力に、ヘイズは我知らず口元に笑みを浮かべた。
天を突くような巨大な氷壁を一撃で作り出す。
闇堕ちの力を見て心底楽しそうに嬉しそうに笑ったヘイズは、Wagtailを構えた。
「逃がすかよ! 撃ち抜け!」
和正の後ろから放たれた弾丸がヘイズのガンナイフから放たれ、シルフィーゼに迷いなく着弾する。
「うさ右衛門! シルフィちゃんを捕まえたって!」
千鳥の指示に、鋼糸製ぬいぐるみのうさ右衛門が飛び出した。
タックルからのしかかる攻撃を受けたシルフィーゼに、空煌は叫んだ。
「帰りを望んでいるみんなも待っているのです。帰って来て下さい、シルフィーゼさんっ!!」
切なる叫びと共に放たれたクロスグレイブが、シルフィーゼを横合いから勢いよく吹き飛ばす。
その隙に前衛にワイドガードを放った知信は、シルフィーゼの目を見据えると口を開いた。
「もう戻らないモノも、たくさんできてしまったけど……。取り戻せる笑顔は、取り戻して見せる!」
「戻らないもん! 今はあたしがシルフィーゼだよ!」
駄々をこねるように頭を振ったシルフィーゼは、実体のない緋色の刀を生み出した。
●
戦いは続いた。
攻守共に優れた立ち回りを見せる灼滅者達に、シルフィーゼは徐々に追いつめられていった。
説得は功を奏し、弱体化するシルフィーゼに灼滅者達は更に説得の言葉を重ねる。
悪の魔法少女の抵抗は続いたが、ついに膝をついた。
ワイドガードで攻撃をしのいだ知信は、膝をつくシルフィーゼに手を差し伸べた。
「まだ聞こえてるでしょ? 君を心配して、ここまで迎えに来た友達の声が! このまま友達との日常を、笑顔を捨ててしまってもいいの!?」
差し伸べられた知信の手を、シルフィーゼはじっと見つめていた。
「今ならまだ取り戻せるよ、だから……帰ってくるんだ!」
知信の声に、避難誘導を終えた玲那はシルフィーゼに声を掛けた。
「あの時、最後まで護りきれずごめんなさい。貴女の決断でクロカガリを倒す事が出来ました。だから今度は私が……いえ、私達が貴女を助ける番。また皆で笑える様に、そうでしょうシルフィーゼさん?」
「なあ、シルフィーゼ……。お前は殺しなんてやる柄じゃないぜ? 俺に毎年義理チョコくれたり、都市伝説との対決のために一緒にサンバ衣装で踊ってくれたり、クマさんパンツ渡そうとしたらご褒美にお仕置きしてくれる優しくて楽しい奴だったろ……?」
処理してないスネ毛を靡かせながら、サンバ風ビキニ水着ベースの魔法少女コスプレで仮装した砕牙・誠の切なる声が広場に響く。
その声に、灰色・ウサギも静かに頷く。
「さぁ、シルフィちゃん。気の済むまで付き合ったるから、帰ったら一緒に晩御飯食べよなぁ」
優しく微笑んだ千鳥は、知信の隣からシルフィーゼに手を差し伸べる。
迷うように両手を軽く上げたシルフィーゼの手を、二人は強引に掴む。
繋がれた手の温かさに目を見開いたシルフィーゼは、弾かれたように手を振り払った。
「……シルフィちゃんは、魔法少女と遊びたいんだよ」
硬く握った手をアスファルトに叩き付けたシルフィーゼは、地面を蹴った。
空中でくるりと一回転して間合いを取ったシルフィーゼは、急いで駆け寄る灼滅者達を見下ろした。
「もういい! シルフィちゃん、もう帰る!」
「シルフィーゼちゃん!」
帰ろうとするシルフィーゼを警戒していた久遠・赤兎が、シルフィーゼの前に立ちはだかる。
一瞬足を止めたシルフィーゼの背中に、ヘイズは妖刀「雷華禍月」を構えた。
「最後通告だ、戻るつもりがないのならば、本気でお前を消す……」
刀を突きつけ冷徹に告げるヘイズに、シルフィーゼは振り返った。
突きつけられる切っ先に、シルフィーゼは何かを訴えるように口を開いた。
だが、声にならない。開いた手を握り締めたシルフィーゼは、絞り出すように呟いた。
「……やれるものなら、やってみりゅといいよ!」
シルフィーゼの返答に眉をぴくりと動かしたヘイズは、瞬時に動いた。
シルフィーゼの懐に一瞬にして潜り込むと、死角から一気に切り裂く。
後退しながら間合いを取るシルフィーゼに、灼滅者達は最後の追い打ちを掛けた。
後退して勢いを殺したシルフィーゼに、ジュンはマテリアルロッドを構えた。
「マジピュア・ハートブレイク!」
技名と共に光るロッドをシルフィーゼに押し付け、魔力が炸裂する。
足を止め、腕で受け止めたシルフィーゼに、零冶の日本刀が迫った。
「他にもお前の戻りを待っている連中がいるだろう。その声を守るためにも、武蔵坂に帰ろう」
零冶が繰り出す日本刀の一撃をギリギリで避けたシルフィーゼは、強がりのように笑った。
「どうしてシルフィちゃんが、その声を守らないといけないの?」
純粋に問いかけるシルフィーゼの着地を見計らって、和正は鞘に納めた妖刀デラベッピンを引き抜いた。
一瞬にして抜刀された妖刀デラベッピンが、シルフィーゼの胴を薙ぐ。
腹を押さえてうめくシルフィーゼに、和正は気障に両手を広げた。
「君は待ってたんだろう? 俺達が助けに来てくれるのを。さあ、みんなも来てくれたんだしお芝居もそろそろ終わりにしようぜ。役者は揃った。後はずっと前から約束されたハッピーエンドを迎えるだけだ」
「……約束なんて、してないよ」
じりじりと後退するシルフィーゼに、結衣菜はクルセイドソードを構えた。
破邪の光を帯びた剣が、シルフィーゼを大きく切り裂く。
たたらを踏んだシルフィーゼに、結衣菜は必死に語り掛けた。
「あなたは悪の魔法少女なんかじゃないわ! 一緒に正義と癒やしの魔法少女として皆を感動させましょう!」
迫る衝撃に息を飲んだシルフィーゼが逃げた先に、知信の封巨剣ー山崩しーが迫った。
炎を帯びた無敵斬艦刀が、シルフィーゼを大きく切り裂き炎に包む。
ぐらりとよろけたシルフィーゼに、空煌の日本刀が煌めいた。
「ボクは、諦めたりしませんからね! お礼は言えてないのですから! 帰って来て下さい、シルフィーゼさん!!」
大上段から迫る日本刀を受けたシルフィーゼは、なおも頭を振った。
「あ、たしは……」
「とっとと帰ってきぃ! マジカル巫女さんゲンコツ!!」
聞き分けのない子を叱るように放たれた巨大な鬼の手が、シルフィーゼの脳天を直撃する。
裂帛の気合と共に放たれた一撃を受けたシルフィーゼは、声もなくその場にくずおれた。
●
無言で納刀するヘイズの刀の音が聞こえたのか。
意識を取り戻したシルフィーゼは、まだぼうっとしながら周囲を見渡した。
「……ここは……」
「シルフィちゃん!」
千鳥の全力ハグを受けたシルフィーゼは、面食らったように声を上げた。
「く、くりゅしい……」
「ご、ごめんなぁシルフィちゃん」
慌てて離した千鳥に、シルフィーゼは嬉しそうに微笑む。
その笑顔に、皆の負傷状態を確認していた空煌は、シルフィーゼと目線を合わせるようにしゃがんだ。
「おかえりなさいです、シルフィーゼさん。あの時は、本当にありがとうございましたです」
お礼を言いながら優しく抱き締めようとして手を止めた空煌を、シルフィーゼは抱き締めた。
「たしゅけに来てくれて、ありがといぅなのじゃ」
その言葉に、空煌は思わず涙ぐんでシルフィーゼの背中を軽く叩く。
喜び合う姿に、知信はホッと息を吐き出した。
「まずは一つ、取り戻せたかな……。うん、助けられてよかった」
「おかえり、シルフィーゼ」
多くは語らず優しく微笑む和正に、シルフィーゼは微笑みを返した。
「ただいま、なのじゃ」
いつもの古風な言い回しに、場の雰囲気が一気に和む。
席を外していた零冶は、露出度の高いシルフィーゼにそっと缶珈琲を差し出した。
「寒くなったし、これ飲んで皆で帰ろうか」
全員に配られた温かい缶珈琲が、灼滅者達の冷えた手を温める。
徐々に戻って来る一般人の声を聞きながら、灼滅者達はその場を後にした。
作者:三ノ木咲紀 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年11月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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