もみじ饅頭をくれる、怖がりの少女

    作者:芦原クロ

     見事に色づき、紅葉の見ごろを迎えた、とある紅葉狩りの名所。
     名所なのに、一般人の姿が見当たらない。
    「少女の霊の都市伝説が出現しているからでしょうか?」
     灼滅者たちを連れて来た、夕凪・緋沙(暁の格闘家・d10912)は周囲を見回す。
     紅葉狩りの名所に少女の霊が出現する、という噂を聞き、確かめに来たのだ。
    『……えいっ』
     小さな声が聞こえ、灼滅者たちの頭に、なにかがコツンと当たる。
     頭に当たり、落下した物は紙に包まれていた。
     紙を広げて中を見れば、美味しそうな、もみじ饅頭が1つ。
     まるで焼きたてのように、温かい。
    『おいしいの、あげる。チョコレートやクリームが入っているのも、あるよ』
    「ありがとうございます。出て来てくれませんか?」
    『やだ。こわいから』
     緋沙の呼び掛けに、声は短く答えた。
    「ここに居る皆さんは、怖くないですよ」
     緋沙が何度か説得を試みると、やっと愛らしい少女が、おそるおそる木々の後ろから体を半分だけ出した。
     身長や顔つきからして、小学生ぐらいだろうか。
     なにが怖いのかを尋ねてみると、少女は、様々な人たちからイジメを受けていたのだと答えた。
     人間不信のように怖がって居るのにも関わらず、美味しいもみじ饅頭を配るあたりに、少女の優しさを感じる。

    『イジメられるのは、わたしが内気だから悪いの。でも初めて、遊ぼうって誘ってもらって、ここに来たの。でも迷子になっちゃったの……みんな居なくなっちゃった』
     おそらく、置き去りにするイジメの1つだろう。
     怖がりの少女に、優しく接したり、もみじ饅頭を美味しいと褒めたり、イジメるほうが悪いと説得したり、少女と遊んだりなどすれば、少女は満足するかも知れない。
     少女は弱体化すると眠りにつき、なにをしても起きなくなる。
     もしも良心が痛むのなら、攻撃は、少女を眠らせてからするのが良いかも知れない。
    「皆さんが、遊んでくれますよ。そしてこのお饅頭、すごく美味しいです」
     あまりの美味しさに素で驚いている緋沙に、少女は照れくさそうにほんの少しだけ微笑んだ。


    参加者
    無道・律(タナトスの鋏・d01795)
    夕凪・緋沙(暁の格闘家・d10912)
    夕凪・真琴(優しい光風・d11900)
    霧島・サーニャ(北天のラースタチカ・d14915)
    遠夜・葉織(儚む夜・d25856)
    晶石・音色(水晶細工の姫君・d30770)
    姫上・環(ラベンダーの旋律・d32609)
    国府・閏(普通の女子高生・d36571)

    ■リプレイ


    (「いじめられた少女の霊ですか、なんとも可哀そうな存在ですね。いじめる側が悪いのに、死んでなお苦しまないといけないなんて」)
    「本人には悪意もなく、ただ可哀そうな少女ですね」
     夕凪・緋沙(暁の格闘家・d10912)は、少女を見つめて思案し、友人の姫上・環(ラベンダーの旋律・d32609)が言葉を紡ぐ。
    「このような都市伝説も、いるところにはいるのだな」
     紅葉を眺めつつ遠夜・葉織(儚む夜・d25856)が、呟く。
    「一般人に被害は出なさそうだけど、あの子が可哀想だね。念の為に百物語で誰も近付けないようにしておくね」
     百物語を展開し、人払いをする国府・閏(普通の女子高生・d36571)。
    「私も、もらうね。シンプルな、あんこのにしようかな」
     晶石・音色(水晶細工の姫君・d30770)が声を掛けると、あんこ入りのもみじ饅頭が、飛んで来る。
     一般人の小学生でも、簡単にキャッチ出来るほどの、ゆっくりしたスピードだ。
    「皆さんと、女の子と紅葉饅頭を一緒に食べられたらなと思います」
     持って来たレジャーシートを敷き、準備を始める夕凪・真琴(優しい光風・d11900)。
    「眠くなるまでお話や遊び相手、何でも付き合うよ。友達になろう」
     無道・律(タナトスの鋏・d01795)は少女を怖がらせないよう慎重に、目線を同じ高さにしようと、しゃがむ。
    「拙者たちはお主とお友達になりに来たのでござる」
     続く霧島・サーニャ(北天のラースタチカ・d14915)の言葉に、少女は律とサーニャを交互に見つめた。


    『おともだち? わたしと、おともだちに、なってくれるの?』
     少女はまだ木の後ろに隠れ、半分だけ体を出したかと思いきや、すぐに隠れてしまう。
    「ずっと一人で寂しかったのでしょうけど、人々を驚かす事は止めてくださいね。代わりに私たちが一緒に遊んであげますので」
    『驚かせて、ごめんなさい。遊ぶのは……こわいから、やだ。みんな、居なくなっちゃうもん』
     緋沙に対して素直に謝るが、遊ぶことは拒む、少女。
     置き去りにされた怖さを、また味わうのだと思うと、少女はうつむいてしまう。
    「前に一緒に遊ぼうって言われて、置き去りにされたのですね。可哀そうです。でも、私たちはそんなことしませんよ、本当に貴女と一緒に遊びたいです」
     緋沙の真剣な呼び掛けに、少女は、おずおずと顔を上げた。
    「一緒にあそぼうでござるよ」
    『ござる……』
     サーニャが目線を合わせ、笑顔で声を掛けると、少女はサーニャの口調が珍しいのか、興味津々な眼差しをサーニャに向ける。
    「大丈夫ですよ、私たちは貴女と遊びたいと思っただけですから」
     少女に声を掛ける環は、少女を怖がらせないようにと心がけ、優しい声音で警戒心を解く。
     おどおどしながらも、少女が灼滅者たちの前へ出て来た。
    「木の後ろから出てくると、なにやら小動物っぽいでござるなー。甘いものも好きでござるが、かわいいものも好きなので見てて和むというか……撫でてあげたくなる気持ちになるでござる……!」
     小さな少女の頭を、何度も優しく撫でる、サーニャ。
     少女は一瞬びくっと驚くが、サーニャの行動に悪意は込められていないと分かり、安心感を抱く。
     頭を撫でられ続け、少女は頬を少し染め、嬉しそうに笑った。
    『優しいおねえちゃんたち、おいしいの、あげるね』
    「わぁ、私たちにくれるのですか、ありがたく頂きますね」
    「んー、甘くて美味しくて素敵なスイーツですね。とても幸せです♪」
    「もみじ饅頭に限らず甘いものは大好きだから、いくらでも食べれそうでござるよ」
     環と緋沙とサーニャは、中身がそれぞれ違う、たくさんのもみじ饅頭を貰った。
     どれも美味しく、サーニャが礼を言うと、更にもみじ饅頭が追加される。
    「色々と種類があるのですね、ではチョコレートが入ったものを頂きます」
    「もみじ饅頭、チョコレート入りのもあるの? 知らなかったよ、食べてみたいな。もし良かったら、一つくれない?」
    『チョコレートが入っているのは、これだよ』
     少女は親切に教え、環の手の上にもみじ饅頭を載せ、穏やかにそっと声を掛けた律にも、渡す。
    「どうも有難う……本当だ、中にチョコレートクリームが入ってるんだね。美味しいな」
     美味しそうに食べてくれる灼滅者たちに、少女は喜ぶ。
     紙に包まれたチョコレート入りのもみじ饅頭を数個、少女は律の手の上へ追加した。
    (「優しい、いい子なのに苛められたのは残念だね」)
     やり取りを見ていた閏は、座っていても冷えないようにと、真琴が敷いたレジャーシートの上へ、更にレジャーシートを敷く。
    「僕達と一緒にお茶はどうかな?」
     閏が少女を怖がらせまいと、優しい言い方と声音で誘う。
     頷いた少女は、もみじ饅頭を閏にも差し出した。
    「美味しそうなもみじ饅頭だね、いただくよ。……これは美味しいね、分けてくれてありがとう」
    「あ……本当に、すっごくおいしいね」
     もみじ饅頭の美味しさに満足し、礼を言った閏に続いて、包みを開き、あんこ入りのもみじ饅頭を食べた音色が、美味しさに驚く。
    「よし! この幸せな気持ちを曲にするよ。この曲はあなたのために」
     音楽で人を幸せにすることが生き甲斐となっている音色は、声を一つの楽器として表現するように、澄んだ声を楽しそうに響かせる。
     曲が終わると、内気な少女は精一杯の拍手を、音色に送った。
    「イジメる側の気持ちって、あまり考えたことがなかったけど。多分、自分の方がすごいんだぞって、示したいんじゃないかな」
     少女の手を優しく取り、音色はゆっくり話が出来るようにシートの上へ座り、少女を導く。
    「……む? これは……かたじけない。有難く頂こう」
     既にシートの上へ座り、紅葉を堪能していた葉織に、もみじ饅頭が差し出される。
     もみじ饅頭を受け取ると、早速食べ始める葉織。
    (「人間は弱い生き物だから、より弱いものをいじめて優越感に浸る……なんとも悲しい連鎖ですね。この少女も、その連鎖の被害者。宥めてあげないといけませんね」)
     少女を見ながら、環は胸中で決意を固めた。
    「直接的な暴力にしろ言葉の暴力にしろ、そんな手段を使うことでしか高みに立った気分になることができないっていうのは、イジメる側から見れば、どうしてもかなわないような長所があるからだと思う」
     イジメる側のことを想像した音色の脳裏に、一瞬だけ、誰かの顔が浮かんで消えた。
     過去の記憶を、ほぼ失っている音色は、誰も気づかないであろう微細な影を落とした。
     少女だけがその変化に気づき、紙に包まれたもみじ饅頭を、たくさん音色の手の上へ置き、心配そうに音色を見つめている。
     内気な少女なりに、懸命に励ましてくれているのだと理解し、音色は微笑を浮かべた。
    「例えば、おいしいもみじ饅頭を配って、人を幸せにできる、その心根みたいに。何が言いたいかっていうと、あなたは優しくて素敵な人、ってことだよ。イジメをするような人より、ずっとずっとね」
     音色の言葉に、少女は返す言葉が思い浮かばず、黙ってしまう。
     もみじ饅頭では無く、自分に対して優しさや褒め言葉が貰えるとは思っていなかった為、それらに慣れていない少女はおろおろしている。
     眼差しをどこに向けて良いのか分からず、少女は挙動不審に、きょろきょろと視線をさまよわせていた。


    「ほんのりと甘くて、チョコレートの味と相まってとても美味しいですよ、どうもありがとうございました」
     もみじ饅頭を堪能した環が、率直な感想を丁寧に伝える。
    「ほら、お茶菓子とか飲み物とかもありますので、一緒に紅葉狩りでもしましょう」
    「せっかく紅葉の綺麗な場所なのに、見ないなんて紅葉に申し訳ないでござるよ。こうやって、のーんびりするのも良いものでござるね」
     緋沙が飲み物をすすめ、サーニャは片手にお茶を、もう片手には美味しいもみじ饅頭を持って、くつろいでいる。
    「……うむ。うまいな」
    「チョコレートやクリームの入ったものがあるなら、こっちも合うかなと思いまして」
     美味しさに軽く頷いている葉織と、嬉しそうな少女を見て、真琴は紅茶を紙コップの中へそそぎ、少女や仲間たちに配る。
    「内気が悪いというわけではないと思います、あなたはこんなに優しいのですから。自分を責めないでください」
     偶然、少女と目が合い、真琴は優しく微笑んだ。
    『おねえちゃんも、優しいよ』
     なにかお礼が出来ないだろうかと考えた少女は、真琴にもみじ饅頭をたくさん与えることにした。
    「紅葉饅頭おいしいです、ありがとうございます」
     真琴は柔らかい表情と物腰で、礼を言う。
    「もみじ饅頭って生地の甘さや、ふわっとしてて中に餡がつまった感じとか、ほっこりするお菓子だよね。温かい日本茶に凄く合うと思うんだ。食べると懐かしい、温かい気持ちになれるよ」
     もみじ饅頭の良さを律が語ると、少女は真剣な表情になったり、嬉しそうに笑ったりしながら聞き入る。
    「君は悪くなんてないさ、自信を持って。前を向いて笑っていた方が君は素敵だよ」
     少女の笑い顔を見て律も微笑み返し、優しい声音で言う。
    「律さんはなんでそんな、イケメンなセリフが出せるのかな。普通の僕には言えないよ」
     閏は律のイケメンオーラがまぶしいとばかりに、自分の目元を手で覆う。
    『自信、どうしたら持てるかな。それが分からない、ダメな子だから、わたしはイジメられて当然、なんだよね』
     問いというよりも、呟きに近い言葉を、ぽつりぽつりと零しだす、少女。
    「貴女は何も悪くないのですよ、悪いのは貴女をいじめてた相手です」
    「たとえどのような理由があろうと、人を虐めていい理由などないぞ。つまりなんだ、君は悪くない」
     環は少女を真っ直ぐ見つめて言い切り、葉織は口調こそ静かだが、きぜんとしている。
    「いじめられる方が悪いなんて事は無いよ。もし何か問題があるなら、正す為に話し合うべきなんだ。それをしないで揶揄ったり意地悪をする……それで楽しいと思う方が、圧倒的に不親切で悪いんだ」
     更に律が言葉を掛け続けると、少女は涙を零した。
     今まで内側に溜め込んでいた苦しみや悲しみ、不安や孤独をすべて解放するように、ひたすら泣く少女をとがめる者は、この場には居ない。
     少女の頭を撫でたり、時には柔らかく抱き締めたりする、優しい灼滅者たち。
     やがて泣き止んだ少女の小さな手を、サーニャが優しく引く。
    「優しさには優しさで応えなさい、が母様の教えでござるからな。美味しいものももらったし、お礼はしっかりするでござるよ。鬼ごっこでも隠れんぼでも、なんでも付き合うでござる」
     笑顔で言うサーニャに、偽りは無い。
     本当になんでも付き合うつもりの、優しいサーニャの手を、少女はまだ繋いでいたそうにしている。
    「それじゃ僕達と遊ぼうか、何か希望はあるかい? どんな遊びでも満足して眠るまで付き合ってあげるよ」
    「遊びも、色々あるよね。何かやりたい遊びはあるかい?」
     閏と律が尋ねてから、閏は言葉を付け足す。
    「もし興味があればライドキャリバーに乗せてあげるよ」
     閏がライドキャリバーのストレッチャーを紹介すると、少女は目を輝かせた。
     その反応を見逃さず、閏は少女を優しく抱き上げて、ストレッチャーに乗せる。
     ストレッチャーは指示されていた通り、安全なスピードで周囲を一周した。
    「ずっと一人だったけど、これからはもう一人じゃない。だから安心するでござるよ」
     サーニャが、少女の心に響く言葉を掛け、その後は、少女と子供向けの色々な遊びをする。
     いくつか終えた頃には、少女は眠気に負けそうになっていた。
     瞼を閉じ、慌てて目を開いて眠気を堪えている姿に、真琴が少女の心情を察する。
    「大丈夫ですよ。私たちは、いなくなったりしませんから」
     真琴が優しく言うと、少女は安心して眠りについた。
    「私たちがこの少女を苦しみから解放してあげましょう。あと、紅葉狩りの名所ですので人がいないと寂しいですし、人々が安心して来られる場所にしてあげましょう」
    「この場から去らせてしまうのは心が痛みますけど……紅葉狩りを皆が楽しめるように、この場から退かせて頂きますね」
     緋沙と環が、仲間たちに戦闘の合図を出す。
    「止めを差したい人がいれば任せる。七不思議としての吸収も同じく」
     葉織は攻撃せず、見守ることにした。
    「眠る彼女が国府さんの処へいけるといいな」
     今のところ誰も攻撃していない状況を把握し、律は初手のサイキックを攻撃のものに変更する。
    「光が女の子を導いてくれますように」
    「おやすみ……」
     後方から裁きの光条を放つ、真琴と音色。
    「楽しい時間をありがとう。決着は早目につけるでござる!」
     射出した帯で敵を貫く、サーニャ。
    「少女を僕の七不思議として吸収するよ」
     眠ったまま消え始めた都市伝説の少女を、閏が吸収した。


    「どうか、安らかに」
    「幸せな時を迎えられます事を」
     環の一言に、友人の緋沙が言葉を繋げる。
    「最後に綺麗な紅葉にお祈りを」
    「……いつか、また会おうね」
     祈る真琴の隣で、音色がそっと告げた。
    「今年の紅葉も綺麗でござるな」
     色づいた紅葉を眺める、サーニャと葉織。
    「これからも僕が一緒に遊んであげるからね」
     相手が年下の女子だった為、実はかなり心配していた閏は、無事に吸収出来たことに胸をなでおろす。
    「抱え込んだ怖さや寂しさが、少しでも和らげばいい」
     閏の声が耳に届くと、律は穏やかに微笑んだ。
     神秘的で美しく、綺麗に色づいた木の葉は、まるで優しい灼滅者たちの写し鏡のようだ。
     紅色や黄色に染まった景色が、深まる季節を一段と、感じさせた。

    作者:芦原クロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年11月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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