無条件の愛

    作者:彩乃鳩


     難しいことは考えない。
     戦うことが大好き。
     そんな快楽殺人者、かつては灼滅者であった六六六人衆。
     廿楽・燈(花謡の旋律・d08173)の影が夕方、黄昏時に大きく伸びる。明るくふんわりとした雰囲気と花のように咲く笑顔はなりを潜め。変わりに生まれたのは、冷たく携える笑みと光を失い暗い橙色の瞳。
     枷は外れ、ただ本能のまま。
     殺すことを楽しむ瞳の奥底に沈んでいるのは羨望の色。そこには、とある大きな公園に集まる人々が写っている。
    「さあ、もう帰りましょうね」
    「うん。ママ」
     迎えを待つ子供や母親に手を引かれて帰ろうとする人。
    「ウチの兄貴、本当に腹立つんだけど」
    「私だって、さっさと家出たいよ……家族がうざくって」
     家族を疎ましそうに愚痴を言う学生。
     羨ましい。妬ましい。
    「あの人たち全員殺せば空しく響く心は落ち着くのかな?」
     明るく無邪気に友人と話すような口調でありながら。その内容は普段と似付かない暴力的で冷たいもの。
     灼滅者としての力を受け入れることが出来なかった家族に捨てられた。
     故にひどく渇望し続けたもの。普段は抑えていたもの。
     堕ちた今、それが一気に溢れ出す。 
     幸せそうな家族、 無条件で貰える愛を蔑ろにする者……それらすべてに対しての強い殺人衝動。
    「っ!」
     目の前を通り過ぎる人をナイフで一閃。
     口元が笑みで歪む。
     悲鳴は少し耳障りだけど気にしない。男物の黒いダボダボのパーカーも、白色のチュニックと短パンも、スニーカーも……手に持つナイフも血に塗れるが気にならない。
     変わらないものが欲しい。
     愛されないのは悲しい。
     手をとって握ってほしい。
     ひとりはとても寒くて怖いの……。
    「さあ、楽しい殺戮(あそび)を始めようか」
     そう囁く六六人衆の表情は、どこか泣きそうな笑顔だった。 


    「炎獄の楔の事件で闇堕ちした廿楽・燈さんの行方が判明しました」
     五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)が、重々しい口調で皆に説明を始める。
    「廿楽・燈さんは黄昏時にとある公園に現れ、そこにいる人々の殺戮を開始します」
     六六六人衆となった廿楽・燈はそこいる全ての人を殺そうとする。
     それを阻止し、彼女を救出あるいは灼滅するのが今回の依頼となる。もし一般人の犠牲を出してしまっては、廿楽・燈は灼滅者として戻るチャンスを失ってしまうだろう。
    「どうやら廿楽・燈さんは、家族というものに特別な思い入れがあるようです。普段は表には出なかったものが、闇に堕ちたことを契機に一気に噴出しているのが現状です」
     救出する場合には、説得を試みる必要があるのだが。
     彼女の場合、それも簡単にはいかない。
    「説得を行った人や知り合いの人があれば邪魔をされたと思い、ひとりを集中的に狙い殺そうとするでしょう。つまりリスクが上がります」
     その行為は恐らく。
     六六六人衆の自分の中で燻る燈の感情を完全に殺すため。
    「いずれにせよ、予断を許さない状況です。六六六人衆としての 廿楽・燈さんの戦闘力は言うに及ばずです」
     闇堕ちした時の依頼では、強力なイフリートを撃退するために彼女は力を振るい。見事、事を成している。その力が、今度はこちらに降りかかってくることになる。
     なんとか、救出したいところだが、それが無理ならば灼滅せざるをえない。彼女は、もはや、ダークネスであるので、迷っていては致命的な隙をつくってしまうかもしれない。
     姫子はそっと目を伏せた。
    「今回助けられなければ、完全に闇堕ちしてしまい、おそらく、もう助ける事はできなくなるでしょう。全ては皆さんの判断に、お任せします」


    参加者
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)
    卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)
    識守・理央(オズ・d04029)
    鳴神・千代(ブルースピネル・d05646)
    華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)
    高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)
    ルイセ・オヴェリス(高校生サウンドソルジャー・d35246)

    ■リプレイ


    「全く。闇堕ちなんて仕方のない人ですね」
     黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)は、全力で走りこみ。六六六人衆の鋭い斬撃を受け止めた。
     無表情だが、痛みに顔を顰める。
    「っ」
     黄昏時の園内。
     一般人を狙った一撃を外されたこと。
     あるいは、受け止めた本人の姿を見て。六六六人衆……廿楽・燈は、舌打ちをする。
    「皆を助けたかった意思は尊重しますが、皆に心配をかけたのでお仕置きです。学園に戻ったら罰ゲームですからね。でもその前に……」
     璃羽は黒死斬で反撃し。
     燈の顔を向かせる。
    「今一番会いたくない人にあってきなさい」
     その先には――。
     識守・理央(オズ・d04029)が、至近で佇んでいた。
    「悲しみも、寂しさも、妬みも。その闇も。ぜんぶ、君の中にあるものなら……僕は目を背けたりしない!」 
     咆哮。
     渾身のスターゲイザーによる一撃。それを、かつての大切な人からの想いを。六六六人衆は正面から受け、後ずさった。
    「キミは……」
     光を失った暗い橙色の瞳。
     燈の両眼が、理央へと釘付けとなり。やがて――冷たく携える笑みが生まれる。
    「そうか、キミはわたしの邪魔をするのか。ふーん、そうなんだー。なら、仕方ないね」
     明るい口調だった。
     無邪気に友人と話すような調子だった。
    「さあ、楽しい殺戮(あそび)を始めようか」
     自分の中で燻る感情を完全に殺すように。
     六六六人衆は、厳かに宣言する。急速に殺意のプレッシャーが跳ね上がり、周囲の雰囲気そのものが歪む。
    「燈さん……クラスメイトとして、友達として、絶対に助けて見せます!」
    「血は繋がってないけど。私にとって燈ちゃんは大切ないもうと、燈ちゃんが嬉しければ私は嬉しいし。悲しければ私は悲しい」
     皆は二つの役割に分かれる。
     足止め役の一人である高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)は、まず璃羽にエンジェリックボイス。鳴神・千代(ブルースピネル・d05646)は、理央にラビリンスアーマーで盾付与を行った。
    「落ち着いて逃げて下さい」
     一方、避難誘導を担当する側も動く。
     怪力無双で華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)が、人々を安全なところまで連れて行った。燈ちゃんに一般人を傷つけさせるような事はさせない……もし一般人に攻撃が飛んできた時は身を挺して庇うつもりだった。
    (「彼の女子、闇に堕ちるが故に我、助けられし経緯有。ならば此度は我助け、闇より引き上げるが道理成」)
     卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)は、プラチナチケットを使用。逃げ遅れた一般人の関係者、知人などを装い避難誘導する仲間を示しそちらに逃げるよう指示した。
    「我儘で寂しがり屋のお姫様を王子様の元に帰してあげないとね」
     殺界形成はあくまでも緊急手段。神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)は、住人達が安全に逃げられるルートに誘導させ狙われないようにする。
    (「闇墜ちした廿楽さんが動き出したか。なんとか救出しないとね。そのためには……まずは、犠牲者を出さずに事を終わらせないと」)
     ルイセ・オヴェリス(高校生サウンドソルジャー・d35246)は、割り込みヴォイスで最寄りの出入口から公園の外へ避難するよう伝えたり、一カ所に人が集中しないよう声掛けた。
    「以前依頼で一緒になったってだけではあるが…助けたい気持ちに嘘はねぇしな、手伝わせてもらうぜ」
    「戦場からは、離れた。後は自力で帰れるな?」
    「落ち着いて、今すぐ逃げろ!」
     サポートの面々も避難誘導に尽力する。
     冴凪・勇騎(僕等の中・d05694)と、神園・和真(カゲホウシ・d11174)は怪力無双で次々に人々を運びだし。 暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)は、割り込みヴォイスで叫び続けた。


    「羨ましかったり妬ましかったり寂しかったりする気持ち、誰だって持ってて当たり前なんだ。おいで、燈。どんな気持ちでも、僕は否定しない。君を受け止める!」 
     理央は回復支援を重視し、戦線維持を意識した。
     六六六人衆の斬撃を、その身に受けて。時間を稼ぎ、そして言葉を重ねる。
    「確かに私達は家族にはなれません。でも、燈さんはずっと一緒の教室で過ごしてきた大切なクラスメイトで友達です! その縁が途切れることはきっとないんです!」
     妃那は優先して狙われる理央が、倒れないように回復に努める。
     念の為、相手と誘導中の一般人の間に位置するように動いて一般人を狙いにくくすることも忘れない。
    「燈ちゃんのこころは今どこにある? このまま私の前から居なくなってしまわないで、君のいる場所はそこじゃないから、一人になんかさせないよ!」
     妃那にも盾を付与した後。千代も狙われ続ける理央へと、清めの風などで回復を重ね掛けする。サーヴァントは壁役と回復がメインだ。
    「キミ達は、本当に……邪魔だね」
     六六六人衆、燈は笑いながら。それでいて泣きそうな笑顔で。
     サバイバルナイフを、目にも止まらぬ身のこなしとスピードで振るう。灼滅者達、特に理央はその度に多大な出血を強いられ。
     その返り血を惜し気もなく浴び。
     燈のパーカーも、白色のチュニックと短パンも、スニーカーも、おぞましい鮮血へと染まっていく
     それに、ちらりと目をやり。
     璃羽は一般人の避難誘導を急ぐ。彼女は、初撃を受ける役割を果たして以降、ヒールしてからこちらの方を手伝っていた。
    「こうなりたくなければ公園から出ていけ」
     公園のペンチを粉砕してみせ。
     半ば脅しつけるような方法をとる。一般人達は、蜘蛛の子を散らす勢いで去っていった。
     足止め陣の負担は大きいものの。
     六六六人衆の視線は、完全にこちらにロックオンされており。避難の方は急ピッチで進められていた。まず、スムーズと言って良い。
    「後は、俺達だけで大丈夫だ。任せてくれ」
     加えて、サポートの面々の助力も大きかった。
     勇騎の声に、皆が頷き。続々と戦闘へと参加する。予想よりも早く、避難誘導の方は目処がついていた。
    「さて、こっちから伸ばした手を掴んでくるのかねぇ」
     泰孝が、前顔の包帯を千切りつつ剥ぎ取り素顔を晒す。平素は押さえている闇堕ち人格に似た口調。そのまま横合いから、雲耀剣で割り込むように戦線に加わった。
    「あの時、足を引っ張りたくないって言ったよな? だったら悪いが今回も力を貸してもらうぜ!」
     泰孝は、燈が闇堕ちした事件に一緒に参加したいきさつがある。
     そして、それはルイセも同様だ。
    「君の力のおかげで、なんとかグレンに勝つことができた。ありがとう。迎えにきたよ。君の帰りを待ってる人が居るんだ。いや、待ちきれなくて……迎えに来ちゃったようだけどね。帰ろう、一緒に」
     仲間を援護するように、レイザースラストを打ちこむ。
     六六六人衆は刃を振り払い、超反応で回避し、かつての戦友に応えた。
    「わたしは、もう力を貸すつもりはないし。帰るつもりもないよ。分からないかな? 何しにきたんだか……」
    「そうね……廿楽さんが闇に堕ちてしまうのを邪魔しにきたわ」
     侮られないよう強気な態度で接する。
     決して見捨てたりあきらめたりしないという事を示す意味でも。
     寂しさなんて忘れるほど精一杯相手をしてあげるわ……と。
     明日等は、後方からの射撃で参戦した。ウイングキャットは、ディフェンダーとして前衛を守る。
    「自分が一番望んだもの、その手にあるのに大事にしない人は、羨ましくて。なんだか悲しい気持ちになるよね」
     霊犬にはメディック役を任せ。
     灯倭は黙示録砲、グラインドファイアで攻め立てた。炎と氷のオンパレードを振る舞う。
    「燈ちゃん、今までずっと我慢してたの……? 抑えなくて良いよ、寂しい時は傍にいるよ。ね、一緒に帰ろう」
    「だから……帰らないって言ってるよね?」
     蓮と蔦をモチーフにした、六六六人衆の影業が迫る。
     むしろそれを迎い入れるように、理央はラビリンスアーマーを施し。語りかける。
    「燈。君の声を聞かせて、もっと君を知りたいんだ」
    「……」
     理央と燈が真っ直ぐに対峙する。
     傷だらけの理央へと、妃那はリバイブメロディとエンジェリックボイスを使い続けた。
    (「識守さんが燈さんを手にかけてしまうようなら、例え恨まれようと……」)
     最悪の結末。
     それを覚悟しながらも。


     燈とは義理の姉妹と言う関係だった。
    「初めて学園で出会った君は小さくて可愛くて、危なっかしいところも放っておけなくて。守ってあげたいって存在だったんだけど……いつの間にか覚悟をもって戦える強い女性になっていたんだね。そんな君の戦い方はかっこよくてとても尊敬してるよ」
     千代は、ジャマ―にポジションを変える。
     レッドストライクで、影縛りで、妖冷弾で。動きを封じさせるような立ち回り。メンバーはもとより灯倭と連携して行動する。
    「私もね、燈ちゃんみたいに感じる事、あるよ。寂しいかったり、欲しかったり……その燈ちゃんの気持ちを受け止めたいって人、私も大切な人も、沢山いるよ」
     息を合わせて、灯倭は十字架戦闘術で足止めした。
     霊犬からは回復のサポートを受け。戦いながら、説得の言葉を重ねる。
    「うるさいな……キミたち全員殺せば空しく響く心は落ち着くのかな?」
    「……」
     枷が外れ、ただ本能のまま殺しにくる六六六人衆。
     その一撃一撃が、凄まじい破壊力をもたらす。璃羽は一番負傷してる理央を、シールドリングで支援する。こちらは、敢えて直接的な口出しはせず。説得しやすい状況を作る。
    「てめーを引っ張り戻そうって手を伸ばす仲間が居るんだ、ならそっちからも手ぇ伸ばして掴みに来いや」
    「そろそろ目を覚ましなさいよね!」
     泰孝は光刃放出を行い、明日等はレイザースラストで確実に的を狙う。
     戦い中でも呼びかけて説得できる機会を作り。誰が集中して狙われえているのかも把握して、倒れないよう皆で連携する。
     その様を見て、ルイセはある感慨を抱いていた。
    (「敵もどんどん強くなってるし、闇墜ちせざるを得ない人も増えるのかな……いつか、ボクの番が回ってくるかもしれない。明日かもしれないし、永遠に来ないかも。まあ、墜ちないですむなら、それが一番良い。待つ人も、待たせる人も……きっと、つらいことだろうしね」)
     胸に巡る思いの丈を、音に込め。
     ソニックビートで応戦する。激しい音波が、戦場で反響を繰り返した。そして、避難作業を終えたサポートの者達も負けてはいない。
    「まだあまり、話をしていないが。部に来てくれたことは、とても嬉しい出会いだった」
     サズヤは前衛の体力回復を最優先し、誰一人欠けぬように支援を行う。隣では同じく勇騎が、ポジションによって回復手段を使い分けていた。
    「俺は廿楽のことを、まだなんにも知らない。だからあの児童館で廿楽のことをもっと知りたいと思う。その笑顔をもっと見たいと、皆が待っているから。帰ってきてほしい。皆と、遊ぼう」
     仲間を助けたい。
     その想いは、誰一人として変わらない。
    「今、優貴先生も大変な状況ですけど帰ってこれる可能性があるんです。先生が帰ってきた時に生徒が、燈さんがいないなんて悲しみます!」
     妃那は兎を模した影業を操り、六六六人衆の動きを縛る。
     教室で燈の席が空なのは寂しい。優貴先生も戻ってきた時に燈がいないときっと悲しむ。
    「キミたちは本当無駄なことをするね。さっさと沈んでくれないかな」
    「最後まで立っていたいんだ。君に、おかえりって言うために!」
    「……」
     六六六人衆の攻撃を。
     理央はシャウトで耐え、仲間の前衛にはラビリンスアーマー、中衛には白炎蜃気楼で支えた。
     

     璃羽は気づいていた。
     燈の口数が、徐々に少なくなっていることを。
    「識守くんが薔薇をくれたと、以前放課後に話してくれましたよね」
     だから、一つだけ。
     ある思い出を話す。
    「本数は数えてみましたか。18本だった様ですね。意味は『誠意ある告白』。中学生にしては少し気障ですが、十分以上に愛されているじゃないですか。過去に悩むより今目の前にいる彼の事を見てあげないと可哀想ですよ」
     淡々と。
     理央も関係ある燈の思い出話をして。トラウナックルで、トラウマを抉る。
    「くっ!」
    「誰かの愛を奪ったって、ただ悲しくなるだけだ! ささやかな幸せというのは、本当に尊いものなんだ。それに気づかず、蔑ろにして、幸福を自覚しない人だってたくさん居る」
     顔を歪めて反撃してくる六六六人衆のサバイバルナイフを。
     和真がガードに入り。
    「だけど、それこそが幸福で満たされていることの証明なんだ。俺は“奪われたもの”だけど、廿楽さんの悲しみはよく分かる。そして、“奪われたもの”の悲しみも……だからこそ!」
     一発ほど。
     平手打ちをかます。
    「戻って来るんだ廿楽さん! 君の帰るべき場所は、目の前にあるはずだ!」
    「目の……前?」
     六六六人衆の目の前。
     仲間達に――そして。
    「僕は、君が好きだ。愛してる。だから……君がいないと、寂しいんだ! 気取り屋も格好つけたがりも今日は休業だ。恥も外聞も構うものか。縋り付いて懇願でも何でもする。そばに、いて」
     理央は、必死に。
     燈を止めようとする。
    「あの時みてーに、耐えて、抗って、今度は倒すんじゃなく戻って来るんだよ」
     泰孝がシャウトでキュアを行い。
     怒涛のサイキック斬りで、ブレイクしてエンチャントを削る。
    (「恋人や友人たちの絆は、簡単には壊されたりしないのだと証明してみせるわ」)
     明日等は強気な態度を決して崩さない。
     説得をフォローできるように努め、倒れそうな仲間にはラビリンスアーマーを急ぐ。
    「ね、前に一緒にダンジョンで、手を繋いで探索したの覚えてるかな? 燈ちゃん、私ね、あの時みたいに燈ちゃんともっと一緒にお話ししたり、遊んだりしたいな。また燈ちゃんに笑って欲しい」
     灯倭はジグザグスラッシュで、今まで付与したバッドステータスに拍車をかける。炎に、氷に、足止めと、多くの効果が六六六人衆を追い詰める。
    「私はこれからも燈ちゃんと一緒にいたいし、共に戦場に立てる姉妹になりたいって思ってる。これは燈ちゃんにしかできないし、燈ちゃんじゃないとダメなんだからね……!」
     千代も最後の力を振り絞る。
     ダメージが大きい者へと回復を行い。そして、今回一番の想いが秘められた一撃を叩き込む。
    「笑って……? わたし、じゃないと……?」
     六六六人衆が頭を抱え。
     ふらふらと身体を揺らし始める。
     殺すことを楽しむ瞳の奥底に沈んでいるのは羨望の色……それが、変わり始める。
    「悪夢の時間は終わりさ。そろそろ、眠り姫も王子様のキスで目覚めないとね」
     リバイブメロディやイエローサインと回復支援を行っていたルイセも、これを好機と河岸を変え。ディーヴァズメロディを奏で始める。
    「さあ、帰ろうか。お嬢さんが夕暮れの公園にひとりだなんてあぶないよ。おっと、そんな怖い顔しない。お嬢さんには、花のような笑顔が一番さ。王子様もそう思うだろ?」
     水を向けた先。
     そこにいるのは、勿論。
    「わがままを言うよ……愛する人を救うのは、僕でありたい」
     理央は、そっと両腕を広げた。
     燈へと一歩ずつ、ゆっくりと歩み寄る。
    「実を言うとさ。僕、嬉しいんだ。今まで知らなかった君を知ることができて。僕は……もっと、君のことが知りたい。君のことをわかりたい。だから、こんなところで君を失いたくないんだ!」
     力いっぱいに。
     大切な人の身体を抱きしめる。
    「邪魔をする人はきらい。みんな、みんな……」
     燈の声が聞こえる。
     彼女の言葉のひとつひとつを真摯に受け止める。
     否定しない。
     わかってあげたい。
    「君の心にある傷を、理解して受け止めたいんだ。それに……一緒に、家族に会いに行こうって、約束したんだ」
     邪魔をする人はきらい……それでも。
     どれだけの時が経ったか。
     理央の腕の中で、六六六人衆だった少女は。いつしか廿楽・燈……灼滅者として、その手を強く握っていた。


    「さて、どんな罰ゲームにしましょうか」
     璃羽は燈の顔の汚れを拭きつつ、本気の口調でぽつりと呟いた。
     相当、不穏なことを言われているとは露知らず。燈は理央の腕の中で、穏やかな寝顔を見せている。
     幸せそうな、安心しきった表情。皆が安堵するに充分なもの。
    「一般人も、廿楽さんも無事ね。どんな夢を見ているのかしら」
     明日等を始め、仲間達は喜びを分かち合う。泰孝は、包帯巻き直し何時も通りの卜部に戻った。
     黄昏時は、やがて闇に変わる。
     僅かな、けれども確かな光を頼りとして。灼滅者達は帰るべき場所へと足を踏み出した。

    作者:彩乃鳩 重傷:識守・理央(オズ・d04029) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年11月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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