シャドウ大戦介入～夢の通ひ路

■リプレイ

●Arcanum
　ぶつかり合う光と光。地を揺るがすほどの轟音が響く。
　これは紛れもない、夢の中の現実――シャドウ大戦の勝敗が決するのも、時間の問題であった。
　ザ・ダイヤ、歓喜のデスギガスの勝利というカタチで。
「ついに始まっちゃったね……。レイ・アステネスさん大丈夫かな……」
　離れた場所から聞こえる、鳴り止むことのない戦闘音を耳にしながらも。
　普段の元気な表情に少し心配そうな色を宿し呟くのは、カーリー・エルミール（元気歌姫・d34266）。
　カーリーは、防戦に追われているコルネリウス陣営にいるという、学園の灼滅者であったレイの身を案じる。
　以前、共に慈愛のコルネリウスに会いに行った彼の安否をカーリーが気にかけることは、当然の気持ちだろう。
（「私はコルネリウスに与する気はあるしません……が。ソウルボードに色々と秘密もありそうですし、いつまでもお祭り騒ぎをされるは困ります……ね」）
（「アレが勝者になったら大変なことになるだろうしな……」）
　そうそれぞれ心に思いながら注意深く周囲を見回すのは、ユエファ・レィ（雷鳴翠雨・d02758）と迫水・優志（秋霜烈日・d01249）。
　コルネリウスとの幾度にも渡る対話を経て分かったのは、決定的な『価値観の差』。
　ユエファはそんなシャドウと中途半端に繋がりを持ち続けることに懸念を抱いているが。今は、デスギガス軍の戦力をこの戦争に乗じて削ぐべく、夢の中を駆ける。
　優志も、デスギガス軍の勝利という結果に、先が思いやられる気持ちを感じつつも。ならば、敵勢力を削ることが今後に繋がると。
　今自分たちがやるべきこと――後方で突撃の期を待っているという、強力な決戦兵力・タロット兵の姿を探した。
　タロットの大アルカナの種類は、全２２種類。
　栗橋・綾奈（退魔拳士・d05751）は、それに準じた武装をしているだろうシャドウが今回の敵であるのではと考えるも。
（「どんな相手に当たるかわからないけれど、鍛え上げた技で立ち向かうだけです」）
　夢の中に降り立つのは、戦い以外にしたかったけれど……ダークネスとの戦いが終わるまでは、そうも言っていられない。
　どのような武装をした敵が現れても、全力で一撃を叩き込むのみ、と。
　決めたことは貫き通す意志の強さを、より一層、漆黒の瞳に宿して。
（「厳しい戦いになりそうですが、負けるわけにはいきません」）
　……どうか、皆さんに神のご加護がありますように。
　そう深海・水花（鮮血の使徒・d20595）が祈るようにぐっと握りしめるのは、洗礼された蒼銀の銃刃。
　そして――その銃口が向けられる相手は。
「学園に残っている方々やエンジュさん達を守る為にも、一体でも多くの敵を討ち倒しましょう」
　視界の端に捉えた、闇色の決戦兵。
「あれは……戦車のモチーフ、か？」
「タロットの大アルカナの「7」。硝子の戦車、って感じだね」
　敵の姿を確認し言った優志に頷く、シェリー・ゲーンズボロ（白銀悠彩・d02452）。
　シェリーの言葉通り、猛々しい戦車は硝子のように煌めいていて、いかにもダイヤのシャドウらしい。
　そして十字の砲台と鋭い車輪状の得物を有した姿は『戦車』の名に相応しいほど、堂々たる闘志に満ち溢れている。
　……でも。　
「いきなり強敵とは、有難いお話じゃないかしら……セボン、悪くないわ」
　周防・雛（少女グランギニョル・d00356）は、ボンボンの純白の巻き毛をもふもふと撫でた後。
　人形のような顔に浮かべた笑みに、黒ピエロの面を充てがう。そして、ボンボンと、彼女の指先に合わせ踊るオベロンとティタニアを従えて。
「オイデマセ、我ガ愛シキ眷属達！　サァ、アソビマショ！」
　真っ先に皆を先導するように動き、夢の世界に閃く流星の如き蹴りを放った優志と呼吸を合わせ、雛は操る糸を戦場中に張り巡らせる。
「ヒナ達の介入でどれだけ変わるか分かりませんが、やってみなくては分からなくってよ！」
「……！　何っ！？」
　己が向かう戦場に意識を集中させていたためか、意表を突かれ、短く声を上げる戦車のタロット兵。
　さらに間髪入れず掲げられたのは、綺羅の群晶を従えた蒼き標。刹那、白の六角は、黄へとその煌きを変えて。
「勝つ事が難しくても、やるべき事は一つしかないっしょ」
　……少しでも力になれる様に張り切ってかないと、と。
　明るい口ぶりながらも冷静に、十七夜・狭霧（ロルフフィーダー・d00576）が共に前に立つ仲間達へと、より強い耐久力を与えれば。
　ふわり、癖のある長い髪を靡かせて。翠の瞳で捉えた敵へと叩きつけたユエファの拳が、霊力の月華を周囲に咲かせる。
　そんな相手の動きを鈍らせる華が咲く中、一族に伝わる退魔の闘気が雷と成って綾奈の拳に宿り、稲妻の如き一撃が放たれた。
「灼滅者、か！？」
　タロット兵は襲い掛かってきたのが何者かを漸く確認し、態勢を整えんと得物を構えるも。
（「シャドウの味方はしたくないけど、タロット相手なら噺は別」）
　まるで着飾るように絡んだ、蔦薔薇の花の色の如く。
「全力で狩らせて貰うよ」
　シェリーの鋏が敵を切り刻むべく、血の花を咲かせんと閃いて。
　水花の撃ち出した幾重もの帯が、硝子の戦車を貫いて砕かんと戦場を舞い踊る。
　激しいシャドウ大戦の戦火の中、レイや他の皆のことも心配ではあるけれど……今は、目の前のことに集中！
「みんな！　がんばっていこー！」
　八重歯を見せながら元気に声を掛けたカーリーが射放ったのは、味方の超感覚を呼び起こす一矢。
　相手は精鋭のタロット兵、狙うは迅速な撃破。
　だが短期決戦に持ち込まんと攻勢に出る灼滅者達に、戦車のタロット兵は余裕の笑みを向けて。
「ちょうどアガメムノン様の出撃命令を待つ間、暇を持て余していたところだ。ふん、出番が来るまでの暇つぶしくらいにはなるか？」
「……！」
　十字架の全砲門が開かれた瞬間、眩い衝撃の乱射が、灼滅者達を薙ぎ払わんと襲い掛かる。

●The Chariot
　タロットの『戦車』が持つ意味は、強気な言動、自信に満ちた態度。成功を確信し、競争に勝つ。
　まさに目の前の硝子の戦車の如きタロットを持つシャドウは、強靱なタフさを持ち、威力を誇る衝撃を容赦なく繰り出してくる。
　正面からぶつかっても、圧倒的な力で弾き飛ばされてしまうだろう。さらに、巨大な砲台や車輪を携えているにもかかわらず、その動きは機敏だ。
　だが、そんな強敵にも怯むことなく、灼滅者達は夢の戦場を駆け巡る。
　介入したこの戦いは、負け戦かもしれない。でも今こうやって得物を振るっているのは……未来の勝利を、手繰り寄せるため。
「！　……っ」
　狙い澄まされ撃ち出された漆黒の弾丸の軌道に、咄嗟に割り込んで。身を呈し攻撃を肩代わりしたユエファは、その威力と駆け巡る毒に微かに声を詰まらせるも。仲間を護るため、傷つくのも厭わず、前に立ち続けて。
　そんなユエファを狙い放たれたタロット兵の凍てつく光の砲弾を、天辺の星瞬く神剣で弾き受け流さんと、今度は狭霧が最前線へと躍り出る。
　その間、大きな胸を張り、祝福の言葉を見事に歌い上げるカーリーが生み出した風が、仲間の傷や状態異常を癒せば。
「アレ・ヴァズィ！」
　主人の声に、愛らしいひと鳴きで応えたボンボンも、のせたリボンを一生懸命靡かせながら、浄霊眼で支援を。
　そして、快いほど甘美な毒を秘める花のように。
「ヒナは此処よ、捕まえてごらんあそばせ？」
　薄桃のシフォンフリルを、ひらりふわりと揺らして。状態異常を敵に与えることに徹しながら、華麗で殺戮な舞踏会に興じる雛。
　そんな雛と共に戦場を舞うのは、アンティーク調の巨大杭に炎を纏わせたシェリー。
「焼き加減はウェルダンで」
　その燃え盛る紅に刹那生じた夜の彩は、狙いを定め拳を握りしめる、優志の姿であった。殴打と共に放出された霊力が、纏う夜一色の中、胸元で揺れる六花の煌めきをひとつ生んで。
「この先は、通す気はあるしません……よ」
　戦車の銃口が己に向くようにと。斧槍の如く、また薙刀の如きでもある銀雷をくるりと大振りに回し、戦車を叩き斬る勢いで振り下ろすユエファ。
「ぐっ……このっ、灼滅者風情が！！」
　その闘志の強さ漲る一撃に、思わず表情を変えるも。タロット兵は再び、強烈な光線の乱射を繰り出した。
　だが、先程のユエファの一撃に明らかに嫌そうであった様子と、乱射であるにもかかわらず高いその命中精度をしっかりと見据えて。
「あのタロット兵の弱点は、おそらく気魄かな、と」
「ポジションはスナイパー……みたいっすね」
　大丈夫かと、声を掛けつつも言った優志に、再び仲間を庇った狭霧は天青石の瞳を細めて。平気っすよと、明るく返してみせながらも、無意識的にポケットの形見へと一瞬触れた後。まるで星の旋律を指揮するかのように軽やかに、神剣に破邪の白光纏わせた一撃を繰り出した。
　そしてダイヤのスートを浮かび上がらせ、これまでのダメージを癒し、さらに力を漲らせたシャドウだが。
　相手が大きな砲台を乱射してくるのならば。水花が構えるは、闇を払い退魔の力を宿す蒼銀の銃刃。その祈りを込めた蒼き拳銃を駆使し、水花は敵までの距離を詰め、攻撃力の強化を打ち消す衝撃を叩きこんで。
　続く綾奈は優志とともに後方から戦場全体を見回し、皆に声を掛けながらも。より正確に攻撃を当てるべく狙いを定め、円弧状の軌道を描く意表をついた動きでシャドウへと雷拳を見舞った。
　戦闘に時間がかかれば、強力な援軍がきてしまうかもしれない。
　だが、灼滅者の攻撃をこれまで浴びてもまだ、眼前の戦車のタロット兵は倒れてはいない。
　しかし、無策で挑めば完全に力負けしただろう格上の相手も。
　戦闘開始時の余裕は、もうなさそうだ。
「さぁ、最高に楽しいソワレを始めましょ！　その足を絡め取ってあげる……！」　
　サ・ヴ・プレ？　と。これでもかと、状態異常を付与する雛の攻撃。
　少しでも仲間が長く多く戦場に立っていられるように、ユエファや狭霧が皆の盾となり、一身に強烈な攻撃を肩代わりし続けて。
　高い歌唱力を発揮した歌や元気な声を皆へと届けつつも、カーリーはボンボンと共に、傷の回復や戦闘補助に専念する。
　そんな仲間達に支えられながら、攻撃に徹するのは、水花やシェリー。
　綾奈と優志も短期決戦で臨むべく、広い視野で戦況を見極め、狙いを定めて確実に攻撃を当てるべく衝撃を繰り出している。
　幸いタロット兵は自分の力に自信を持っているのか仲間を呼ぶ気配はなく、周辺にまだ他のタロットは見当たらない。だが、シャドウ大戦の戦況も目まぐるしく、いつ何が起こってもおかしくはなく。一撃が正確で重いタロット兵の猛攻に、灼滅者達も徐々に癒えぬ深い傷を負い、必死に支えあっている状況だ。
　しかし各人がしっかりと己の役割をこなし、立てた作戦も非常に有効で、倒れる者はまだ出ていない。
　そんななかなか倒れぬ灼滅者達に、苛立ちを隠せない戦車のタロット兵は。
「うおおおォォッ！！！」
「！」
　唸るような叫びとともにダイヤのスートを浮かび上がらせ、傷を癒し攻撃力を上げた後。激しい光線の乱射を、回復の要である後衛へと狙を定め、繰り出したのだった。
　その眩い十字架から撃ち出された渾身の衝撃に、今まで頑張って回復を担っていたボンボンが消滅。さらに、カーリーにも容赦ない光が降り注がんとしたが。
「私が、守ります……よ」
　緑星の円環輝く掌を大きく横に広げて。咄嗟に盾となったユエファが、かわりに強烈な一撃に貫かれ、仲間を護って地に倒れる。
　さらに戦車のタロット兵は残る力を振り絞り、灼滅者達をねじ伏せんと、強烈な車輪の斬撃を繰り出してくるも。
「大丈夫、私達は負けないんだから！！」
　刹那、朱（あかね）色を帯びた彗星の如き一矢が放たれるとともに。戦場に響いたのは、綾奈の声であった。
　私達は負けない。タロット兵にも、そして歓喜のデスギガスにも。
　だが、目の前の相手は強敵。
　誰ももう倒れぬよう、盾となることが自分の役割だから。
　狭霧は転輪の如く回転する鋭き斬撃を、躊躇なく肩代わりして。
「今、回復するよ！」
　皆を護るべく魂を振るい立たせ、尚も立ち上がった狭霧を、カーリーの癒しの歌が包み込む。
　そして優志の強烈な一撃が霊力を迸らせ、もう逃がすまいと、戦車の起動力を奪えば。
　懐古趣味な巨大杭打機に、トラウマを引き摺り出す影を纏わせて。
「魘される側の気分は如何？」
　想いのこもった淡い月色の願いをそっと握りしめ、全力で敵へと衝撃を叩きつけるシェリー。
「ぐ、ふッ！！」
　ぐらりと、大きく揺れるシャドウ。
　さらに追い打ちをかけ、相手に生じた隙を見逃さずに。
「アデュー、もう舞踏会は終わりね」
「神の名の下に、断罪します……！」
　タロットの『戦車』の逆位置は――暴走、敗北。
「なっ、バカな！？　この俺が、灼滅者なんかに……ッ！！」
　雛の放った鋭利な糸が、敵の言葉を待たず容赦なくその身に巻き付くと同時に、残酷に踊るオベロンとティタニア。
　そして雛と連携し動いた水花の、螺旋を描く強烈な鋭撃が。
　硝子の戦車を、粉々に砕いたのだった。

●Wheel of Fortune
　かなりの強敵であったが、『戦車』のタロットを見事撃破した灼滅者達。
「ひとまず、お疲れさん……。さて……っと、この結果が今後どう影響してくるんだろうな」
　優志は皆を労い、ユエファに肩を貸しながらも。
　まだ遠くで鳴っている戦闘音を聞きつつ、周囲を見回してみる。
「ハンドフォン、ここでは使えないみたいだよ」
　カーリーは試しにハンドフォンで他の灼滅者達との連絡を試みたが。アガメムノン側の意志の影響か、どうやらこのソウルボード内では使用できないようだ。
　そして―ーふと狭霧は、遥か遠くに見える存在に気付く。
「あれって……運命の輪っぽい形をした武器っすかね？」
　それはまた別の、『運命の輪』のタロットを持つシャドウであった。
　だが、新たな敵までかなり距離が離れており、タロット兵はオルフェウス達がいる拠点に視線を向け、こちらには気付いてはいない。
　癒せぬ傷も浅くはなく、戦場の真っ只中で、回復するまで休んでいる余裕もない。
　この状態で戦っても、勝算は低いだろう。
「オーララ、残念だけど撤退が賢明かしらね」
「でも、敵の主戦力であるタロット兵を灼滅する事ができましたね」
「今後のシャドウとの戦いを、これで少しでも有利にする事ができたかな」
　雛の言葉に頷きつつ、強敵を無事に撃破できたことに安堵する水花とシェリー。
　綾奈もそれに同意しつつ。
「ソウルボードを出るまで、油断はできませんね」
　慎重に、注意深く周囲を見回しながらも。
　次の戦いに勝つために―ー成すべき事を果たした灼滅者達は、夢の世界から撤退を始めるのだった。

作者：志稲愛海	重傷：ユエファ・レィ（雷鳴翠雨・d02758）  死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年11月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。