シャドウ大戦介入～サムシングトゥリメイン

■リプレイ

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「おおー！　すごいぐちゃぐちゃ！」
　同じオルフェウスの撤退支援を目指す班と待機中。戦場を眺め、真波・悠（強くなりたいと頑張るココロ・d30523）が言った。
「ところでオルフェウスってどんな人だっけ？　鎧の人？　怖くないといいけど」
　経験を重ね強くなった悠だが、無邪気さは変わらない。僧服に笠を被り、錫杖を手にした月影・木乃葉（人狼生まれ人育ち・d34599）は、クラスメイトのそんな様子に微笑みながら、
「真波君、一緒に頑張りましょう」
「うん！　木乃葉もよろしく！　声かけあっていこー！」
「想像はしてたけど、実際目にすると本当にとんでもない状況ね」
　羽丘・結衣菜（歌い詠う蝶々の夜想曲・d06908）が言う。ハンドフォンは通じなかったが、双眼鏡等で偵察している他班の情報は、随時こちらにも声で伝えられてくる。
（「攻められている側のコルネリウス勢力やオルフェウス勢力にも、複雑な感情はあるけど……」）
　このまま2人が滅ぼされたら、歯止めを失ったデスギガスたちが何をしでかすかわからない、と結衣菜は考える。
「あそこにオルフェウスがいるんですね」
　拠点の方向を見つめる黒岩・いちご（ないしょのアーティスト・d10643）も、シャドウやソウルボードについては思うところがあり、
（「むぅ……オルフェウス。沢山の灼滅者に悪夢を見せた張本人」）
　並び見つめる蓬野・榛名（陽映り小町・d33560）も、直接関わったことがないものの、やはり。
（「だけど、たすけたいという人が一人でも居るなら」）
「今だ！」
　コルネリウス軍の一角が崩れ、後退を始めたとの知らせ。
「この期に乗じて、オルフェウスの元へ駆けつけるぞ！」
　槌屋・康也の声が響いた。目指すはオルフェウスの拠点。
「はい！」
　榛名は答え、片腕を鬼のそれへと変化させる。
（「わたしはそのお手伝いをするのです！」）
「行くしかないわよね」
　結衣菜の青く澄んだ瞳が見開かれ、キン――！　とバベルの鎖が集中した。
「まずは何が何でもオルフェウスの所へ辿りつかないと」
　ヴォルフ・ヴァルト（花守の狼・d01952）はガンナイフを手に、同じ攻撃手の結衣菜、居木・久良（ロケットハート・d18214）と三方を固め、撃って出る態勢に入る。
「バックアップは任せな。できる限り敵の動きを止めてやる」
　その後ろ、月翅・朔耶（天狼の黒魔女・d00470）と霊犬のリキ。相棒の心強い言葉にヴォルフは頷き返した。
（「そう、今は戦闘に集中」）
「アリカさん、頼みましたよ」
　いちごの指示に、レイピアを手にした金髪のビハインド、アリカが頷くと、白いドレスの裾を持ち上げ、攻撃手の側へ並ぶ。
「オルフェウスさん目指して、ゴー！」
　悠が大きく空中を跨ぐように飛び出した。突入してきた一団に気づいたシャドウたちが次々に灼滅者たちの方を振り向き、押し寄せてくる。
（「刃物は苦手だった、扱うのが。切ることに抵抗があったから」）
　右腰にはいつものリボルバー。だが久良は敢えて今、愛用のロケットハンマーではなく、鉈のように分厚い刀身の、無骨で重たい太刀を握る。『真・一文字』。
　これなら使えると思った太刀。いい銘だと思う。今こそふさわしい武器だとも。
（「どこまでも真っ直ぐでありたい、その気持ちを込めて」）
　喧騒、混乱、しかし向かってくるなら全て敵。
「うおおおおおおーーーーっ！」
　周囲の敵全てを威圧するように太刀を構え、まずは1体、向かってきたシャドウを粉砕する！
「お願いします！　管狐」
　木乃葉の声に、サイキックエナジーでできた狐が現れた。狐は自分の尾を追うように回転、リングの盾となると、木乃葉が錫杖で指示した方向へ向かう。
　盾の加護に頬を照らされながら、いちごは縛霊手を振り下ろし、ガガガガガガガガ！！！！　とヴォルフの撃ち出す銃弾がシャドウ達を散らせば、魔力に黒いドレスの裾ふわり、朔耶の氷の魔法が舞い降りた。
「わん！」
「おっと」
　遠くからも次々に放たれる矢や弾丸はリキと悠、そして、
「行って下さい！」
　いちごが庇い、
「ありがとうございます！」
　その後ろから榛名が走り出す。
（「そう、わたしは行くのです！」）
　全てを強大な力の思い通りになんて、ヒーローとして見過ごせない。
「どいて頂くのです！」
　これは未来を切り開く為の撤退。榛名は鬼の腕を振り翳し、シャドウを叩き潰した。
「回復するよー！」
　悠は戦場に一筋の風を吹かせながら、
（「そうか、そういえばボクたちはともかく、普通の人も闇堕ちいっぱいさせた人だっけ……」）
「まあ、過去は過去はってことで、後から考えよ。……あぶないっ！」
　今度は結衣菜をかばう悠。
「ありがとう！」
　結衣菜はそう言って、悠の肩越し、大きく飛び上がる。
「そうね、後のことは」
　ポニーテールに飾られた蝶のさらに上、頭上、両手で構えた槍が周囲の空気を螺旋と巻き込でいく。結衣菜は地上、攻撃をしかけてこようとした一体に目をつけ、
「この戦いを上手く生き残ってから考えれば良いのよ！」
「ギヤアアアアア！！！」
　結衣菜の槍に穿ちぬかれ、渦巻く螺旋にシャドウが千切れ消える。
　回復役は木乃葉のみ、いつもの強敵との戦いなら無謀な布陣と見えるかもしれない。しかし灼滅者たちはいずれも高い命中率を誇り、
「そいつは追うな！」
　前方、道を塞ぐ敵へ指輪から麻痺の魔法弾を打ち込みながら、朔耶は脇へ抜けようとしている一体を指差す。逃げる敵は追わず、一点突破。意志の統一が班の連携を強く保つ。さらには、
「くっ！」
　手応えはあったものの、一刀では仕留めきれなかったシャドウが自分の背後に回るのを久良は感じた。だが久良は振り向かず、
「ありがとう！」
　前方の敵を見据えたまま言った。聞こえた断末魔の叫び。後続の班によってそのシャドウが灼滅されたことが、久良にはわかったからだ。
「連携を大事に頑張りましょう」
　背中に聞こえた八雲の返事に、久良の口角がぐっと上がる。
「真波君、ここはボクが！」
「うん、たのむね！」
　木乃葉が錫杖を回転、シャンと音を立てると浄化の風が吹き抜けた。応えた悠は空中。シャドウの攻撃をひとっとびで避けながら、後ろ手、背中にまわして、脇腹の位置からオーラ弾を放つ。
「わ！」
「させませんよ！」
　着地する悠に殴りかかってきたシャドウの前には、長くどこまでも真っ直ぐな藍色の髪をなびかせていちごが飛び込み、構えたギターで食い止めた。
「どきなさいといってるのです！」
　蓬餅ダイナミック！　小さな身体でシャドウを投げとばす榛名に、全身から噴出した炎を斧に宿し、叩きつけるヴォルフ。怒涛のようにシャドウは押し寄せるが、四班団結しての威力は凄まじかった。
「あそこよ！」
　近づいてきたシャドウを自分の影に飲み込ませ、結衣菜が言った。オルフェウスの拠点だ。
「オルフェウスさーん！」　
　悠が叫ぶ。
「合流するぞ！」
　同時、後方からもオルフェウスへ向けた声が響いた。自分への呼びかけだと気づいたオルフェウスは目を見張る。
「灼滅者……！？　何故……」
「助けにきたよー！　一緒に逃げよ！」
　オルフェウスの元へ駆けつけ、悠が改めて言う。オルフェウスはまさか灼滅者が自分を救出にくるとは考えてもいなかったようで、驚きを隠さない。
「近いうちにボクたちシャドウに戦争しかけるから、それまでがんばってー！」
　悠の言葉にも、オルフェウスは撤退しようとする気配を見せない。到着した他の班からも、次々にオルフェウスへ言葉がかけられるが、
「この戦いで倒れた全てのシャドウの罪と共に、私も、この戦場に倒れよう。それが、私の『贖罪』となるだろう」
「フェン、フェン！」
　オルフェウスは頑として撤退に同意せず、無論グレイズモンキーも動こうとはしない。だがこうしている間にも敵は迫ってくるだろう。どうすべきか。
　灼滅者たちの表情に焦りが見え始めたその時、
「『贖罪』を果たす機会はまだあるッスよ」
　届いた声は高宮・琥太郎のもの。そこには灼滅者たちと、
「優貴先生！」
　真っ先にその姿を見つけた榛名が言った。琥太郎が、コルネリウスが撤退に同意したことを伝えると、オルフェウスは興味を引かれたそぶりを見せる。
（「優貴先生達がいればきっとオルフェウスも……それより心配なのは」）
「みなさん」
　木乃葉が口を開く。分かり合えるのならダークネスと共存したいと考えている木乃葉だが、一方でオルフェウスとは分かり合えないとも思っている。しかし、
（「デスギガスと戦うためにオルフェウスは必要」）
「敵の数はかなり多いです。ですからボクたちは先に出た方がいいのではないでしょうか」
「そうですね。早めに数を減らしておきたいところです」
　続き、いちごが言った。
（「デスギガスが武蔵坂にやってくることは避けなければ」）
　やはりそれには、コルネリウスとオルフェウスを守る必要があるといちごも考える。
「うん。今のうちに俺たちはできるだけの退路を確保しておこう！」
　久良は真・一文字を構え直し、オルフェウスの方を1度振り返ると、
「話がついたら、一気に『みんなで』撤退だ！」
　既に時間はかなりとられている。だが切り開いた退路は無駄にならないと信じて。

●
　オルフェウスの拠点に向かってくる敵の勢いは、先の戦いよりさらに激しいものだった。
（「請われれば助ける、ただそれだけのこと」）
「行くぞおおおおおおおおっ！！！」
　恐らく一筋縄では扱えないくらいの太刀の重さと大きさは相手への威嚇へと利用、久良は道を塞ぐシャドウへ斬りかかる。助けたいもの、守りたいもの、大切なもの。自分の中にしっかりとあるものを確かめて。
（「方法は命懸けで刃を振るって道を開けること」）
　遠方から放たれた矢が肩口に刺さる。が、久良は太刀をふるい続ける。だって大丈夫だ。ほら、
「こちら側はまかせて！」
　結衣菜が傷を負った側に併走、同時に敵の狙撃手の場所も見極め、
「そこね！」
　詠唱、圧縮した魔法の矢を胸元から鳥を羽ばたかせるかのように飛ばした。命中、その後の爆発にシャドウが消し飛ぶ間にも結衣菜は止まらず、手にした鋏で襲いくる敵を斬り裂いては自分の体力も回復していく
「大丈夫ですか、居木先輩」
　木乃葉もすぐに狐を向かわせた。矢傷を少しでも浅く、そして加護を強く。
「行くよ！　リキ！」
「わん！」
　少しでも倒しやすくなるように。朔耶の魔法に凍りついた敵を、リキが六文銭で撃ち抜いていく。
「この数……薙ぎ払うしかなさそうですね」
　そう言ったヴォルフの背に、翼が生えたかのように見えた。動きの速さに漆黒の髪が流れ、竜因子宝珠を秘めた斧で、シャドウたちを翔ぶように削ぎ、斬り、薙ぎ払う。がその斧に傷を受けたシャドウたちが、完全にヴォルフへと狙いを定め、一斉に攻撃を仕掛けてきた。
　庇いに入ったリキとアリカが一撃に消し飛ぶ。続き、いちごと悠は攻撃に耐えきったが、まだ向かってくる敵が二体。
　避けきれない。ヴォルフがそう思った瞬間、後方から漆黒の弾丸と炎の花が迷いのない軌道で飛び、シャドウたちに命中。消失させた。
「助かりました」
　ヴォルフが言う。仕留めたのは後方、駆けつけていた班の丹下・小次郎と嶋・八雲。そっちこそ、と彼らは、
「露払い役、お疲れさん！」
　さらに木乃葉が吹かせた風の隙間を埋めるように、楯守・盾衛が放った意志を持つ帯がいちごを包み、赤槻・布都乃の霊力の光が悠に届いた。
　帯が解けるが早いか、いちごは自分の帯を前方、こちらに狙いをつけている敵へ飛ばし、胸元を貫く。だが灼滅には至らず。
　連続での攻撃で止めを刺せたかもしれないアリカはいない。いちごは次の一撃は身体で耐えきると覚悟した。が、突如地面を一直線に影が走り出し、シャドウを斬り裂き無と散らす。
「アリカさんの分もがんばるからね、ボク！」
　屈託なく笑う悠。
「はい、頼りにしています」
　いちごも笑顔で応えた。その時。
「話がついたみたいだぜ。やれやれ、オルフェウスも隅に置けねえな。追っかけが大量だ」
　張り上げられた声に振り返れば、シャドウを殴り倒す天方・矜人。オルフェウスが撤退に同意したのだ。
　となれば後はオルフェウスと優貴先生を無事に通すだけ。全ての班で道を開けるために挑む。オルフェウスが優貴先生を護るように進んでくる所を見てとった榛名は、
「優貴先生をお願いするのです！」
「私からもお願いします」
　いちごも言う。オルフェウスの反応を確かめている暇はない。だから信じるだけ。彼らを送りだしたら、次は自分達だ。
　――しかし。
「来たぞ！」　
　後ろから声が響いた。
「あれは……」
　朔耶が目を見開く。
　恐らく武器であろう『運命の輪』を持った――タロット兵がいた。
　最も前方にいたヴォルフが咄嗟に斧を防御に構える。が、
「ぐ！」
　強烈に回転する運命の輪が、斧を弾き飛ばし、ヴォルフを大きく斬り裂いた。
「ヴォルフ！」
　朔耶がヴォルフが崩れ落ちる寸前、血に染まった身体を抱きとめる。朔耶はその場を離れる時間稼ぎに魔法弾を撃つが、タロット兵は運命の輪でそれを難なく跳ね返した。
　だが灼滅者達は怯まない。裂帛の気合いとともに傷だらけの腕で久良が真正面から太刀を振り下ろし、木乃葉は管狐を呼び付呪を重ねる。いちごは確実に帯を命中させ、
「えーーい！」
　悠が回転しかけた運命の輪へ突っこむと、両手で掴んで押し返した。悠が踏ん張る間に、タロット兵を撹乱するように対角、結衣菜が槍で胴体を貫き、榛名が運命の輪を携えた側の肩を、鬼の腕で叩き潰す。悠も弾かれるように間合いを抜けた。
　他班の攻撃も重なる。とはいえタロット兵の一撃は喰らえば致命傷となりうる重さ。運命の輪に太刀を阻まれた久良が、斬撃の反撃に合い、倒れた。支える悠。ヴォルフより傷は軽いが、意識はない。
　この敵を振り切れば撤退は完了する。他班の攻撃が波状に続いた隙を狙い、
「今のうちなのです！」
　榛名自身も渦巻く風の刃を放ちながら言った。ヴォルフと久良を協力して抱え、タロット兵を遠距離攻撃で押さえつつ、まだ余力のある後続の班に後を任せながらも、先を急ぐ。　と、
「うわ！」
　突然の激震。朔耶が思わず足を止める。
「一体……」
「見て下さい！」
　訝しむいちごに榛名が後方を指差した。空間の断裂。ソウルボードに亀裂が走っていたのだ。
「すごい……こんな力があるのはきっと……」
　コルネリウスかオルフェウスだろうと木乃葉は感じる。
「あっ、もう追いかけてこれないみたいだよ！」
　悠が言った。タロット兵は亀裂の向こう。他の班も全員、こちら側へ来れたようだ。
「さあ、帰るわよ！」
　結衣菜が言う。
　役割を果たし、全員で戻って来ることができた。倒れた仲間たちが目覚めたら真っ先に伝えなければ。
　作戦の、見事な成功を。

作者：森下映	重傷：ヴォルフ・ヴァルト（櫻護狼・d01952）  死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年11月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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