シャドウ大戦介入～生と死の狭間

■リプレイ

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「そろそろみたいだね」
「だめ、繋がらない……」
　コルネリウス軍が破綻する寸前であるのを確認していた師走崎・徒（流星ランナー・d25006）の隣でハンドフォンを試していた夏目・サキ（繋がれた桜の夢・d31712）が悔しげな表情を浮かべる。
「だめ、ですか……悪夢の法則が人それぞれなら、使えたり使えなかったりするのも不思議じゃありませんね……」
　後衛班の湊元・ひかるが、耳へ手を当てたままサキに告げた。
　左翼班のリーグレット・ブランディーバが舌打ちする。
「携帯自体が通じないようだな」
「必要な時は割り込みヴォイスで連絡を取りあいましょう。ミレーヌさん、サナさん、清香さんよろしくお願いします」
「分かったわ」
「うにゅ。任せてほしいの」
「了解だ」
　セレスティ・クリスフィード（闇を祓う白き刃・d17444）の促しに、ミレーヌ・ルリエーブル（リフレインデイズ・d00464）、羽刈・サナ（アアルの天秤・d32059）、峰・清香（高校生ファイアブラッド・d01705）が、返事を返した。
「どうやら、戦線が崩壊したようです」
「行こうか」
　観察を続けていた蒼珈・瑠璃（光と闇のカウンセラー・d28631）の指示に、糖分を補給していた杉凪・宥氣（天劍白華絶刀・d13015）が呟く。
「よし、行こう、皆！」
　徒の掛け声とともに、灼滅者達は一斉に包囲網に向かって突進した。
　
　――優貴先生を必ず救う。
　
　その想いを胸に抱いて。

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「ソウルボードで戦うのは、もしかしたらこれが最後になるかもしれないわね」
　溜息交じりに呟くミレーヌ。
　シャドウの軍勢はそれほどまでに圧巻だった。
「陰極まれば陽となり、陽極まれば陰となる。反転滅絶、断ち切る！」
　ヘッドホンの電源をONにして、スレイヤーカードを換装し臨戦態勢を整える宥氣。
「狩ったり狩られたりしようか。……これだけの大軍なら、退屈はせずにすみそうだな」
　清香も戦闘態勢を取り、セレスティが頷きつつ天使の様な白翼を展開。
（「出来る限りの準備はしてきましたが、どうなる事やら……」）
　彼女の脳裏をちらりと不安が掠めると同時に。
　シャドウの軍勢が群れを成して襲い掛かってくる。
「皆、頼んだよ！」
　徒が交通標識にサイキックを込めて念じると、黄色の結界がミレーヌ達前衛を包んだ。
　左翼班もシャドウと会敵。
「行きます！」
　セレスティがウロボロスブレイドを回転させ暴風を生み出して一気に蹴散らす。
　陣形を崩したシャドウの死角から、ミレーヌが断頭男爵の鋭牙で斬り払った。
　首を刎ねられ消滅するシャドウに一瞥をくれず、次の標的を狙う。
「サナの内のシャドウさん、シャドウさんの主のオルフェウスの為にも此処はサナに力を貸して欲しいなの！」
　サナが祈りと共に叫び、上空に向けて光弾を放つ。
　放たれた光弾が罪を灼く光線となりシャドウ達を打ちのめす。
　そこに瑠璃がレイザースラスト。
　帯に締めあげられるシャドウを、深紅の愛槍『血桜』に緋色のオーラを這わせてその身を貫き確実に仕留めるサキ。
「燃えろ！」
　宥氣がシャドウを神緋血外道凶卍に紅蓮の炎を纏わせ袈裟懸けに斬り裂いた。
　更に清香が傷だらけのシャドウの懐にジェット噴射で飛び込み、『死の中心点』を突き刺し確実に灼滅。　
　踏み込んできた清香に別のシャドウが襲い掛かるが、アオがその攻撃を受け止め、お返しとばかりに猫パンチ。
　確実にシャドウを灼滅乃至は撤退に追い込むミレーヌ達に向けて、後方のシャドウ達が一斉に攻撃を仕掛けるが、両班が打ち漏らしたシャドウ達を相手取っていた後衛班の影の刃や魔法弾が撃ち落とす。
　撃ち落としきれなかったシャドウ達の攻撃は徒や、セレスティや清香を狙うが、宥氣やアオが代わりに受け、徒への攻撃はミレーヌが割って入り最小限の被害に押しとどめている。
「！　皆、あっちだ！」
　流星の様な線を引いた小光輪でミレーヌの傷を癒しつつ、戦況を見渡していた徒が叫ぶ。
　徒が指さしたのは先行して突入していた灼滅者達。
　加えて、彼らに守られた優貴とコルネリウスだった。

●
「先生……」
　サキが、優貴の姿を確認して安心するように、息を一つつく。
（「この人は、絶対に死なせない」）
　誓いを心の内に秘めながら。
「先生、迎えに来たよ」
　灼滅者達に守られる様に立つ優貴に声をかける徒。
　優貴が頷き、護衛の灼滅者達から現在の状況を聞き出すサキ。
「じゃあ、まだ、オルフェウスは、戦うつもり……」
　その表情には、ガイオウガとの戦いが長引いたことによる介入の遅れを悔いる様子が見える。
「とにかくオルフェウスのところに急ぎましょう。このままでは、オルフェウス班の皆さんも撤退できなくなります」
「そうなの。オルフェウスさん、放っておけないの」
　セレスティの言葉に頷くサナ。
　瑠璃が周囲を見れば、皆、オルフェウスのところに向かおうという決意をした表情を浮かべていた。
「日方、最初に到着した皆と、優貴先生の護衛、任せたよ！」
「りょーかい。お前がいてくれて心強い」
　徒の言葉に、科戸・日方が笑う。
「急ぎましょう」
　瑠璃の言葉を皮切りに、灼滅者達は、優貴先生を護衛しながらオルフェウスのいる方角に向けて駆け出した。
　
●
「この戦いで倒れたすべてのシャドウの罪と共に、私も、この戦場に倒れよう。それが、私の『贖罪』となる」
「フェン、フェン！」
「『贖罪』を果たす機会はまだあるッスよ。オルフェウスちゃん」
　頑なに灼滅者達の説得を拒む様子を察した高宮・琥太郎が割り込みヴォイスも使用し、剣戟の音に負けぬ声でオルフェウスに告げたのはその時だった。
「コルネリウスちゃんは撤退に同意してくれたっす。撤退後は、ここにいる優貴チャンのソウルボードに常駐してくれるっす」
「なに？」
　オルフェウスが自分達へと視線を移す。
　瑠璃は彼女の表情と声に興味が混ざっているのに気付いた。
（「これなら、上手く行くかもしれません」）
「優貴先生はプレスター・ジョンの城と繋がっているんだ。護衛なしでここから出ることはできないし、出るとするならコルネリウスが要る」
　彼女が動かなければ武蔵坂全体の撤退もままならず、それはコルネリウスの命運をも絶つことに繋がりかねない。
　木嶋・央の声音には、それを是としない響きが含まれていた。
「俺達と一緒に撤退してさえくれれば、優貴先生は死ななくて済むんだ。お前が世話になったコルネリウスもな。『贖罪』はその後でも遅くないだろ？」
　日方の言葉にも熱が籠っている。
「優貴先生の為にもオルフェウスさんにもサナ達と一緒に逃げてコルネリウスさんと一緒に戦って欲しいの。そうじゃないとサナ達も逃げられないし、サナの中のシャドウさんもきっとそう願っているの」
　日方の熱意を引き取り、サナがその背を後押しする様に、胸に手を置きそう告げる。
「デスギガスが、攻めてきても、私達が、すぐに駆けつける。だからある程度は、大丈夫」
　サキが静かな決意を込めて頷いた。
　――ガイオウガとの戦いで長引いた時を悔い、少しでもそれを償う意志を表して。
　サキ達の言葉を引き取り、優貴がオルフェウスを見つめた。
「オルフェウス。どうか、私達と一緒に来て頂けませんか？　お願いします」
「……良かろう。そこまで言うのなら、私もお前達について行こう」
　優貴の言葉を受け、オルフェウスが遂に首肯する。
「フェンフェーン」
　同時に、グレイズモンキーが彼女に話し掛けた。
　頷くオルフェウスの様子にごく僅かな逡巡があったのは、瑠璃が観察していたから気が付けたことだろう。
「わかった、お前の罪は、全て私が引き継ごう」
　2人のやり取りを見ていたセレスティの胸中にある考えが過る。
（「……そうですか。これが……」）
　大切な者を守るためなら、その命が尽きることも厭わない覚悟。
　――誰も死なずに帰って来る。その為に必要なもの。
　セレスティが逡巡する間にオルフェウスが優貴の護衛についていた。
　更に、オルフェウス撤退支援班が、必死に退路を確保してくれた。
「……急ぐわよ」
　ミレーヌの呟きに清香達が頷き、その退路を走っていく。
　彼らのお陰で、宥氣や徒の回復、清香やサキの最小限の攻撃のみでシャドウを迎撃できた。
　そうしてどうにかデスギガス軍の包囲網を突破した、その時。
「ハッハッハ！　武蔵坂学園がオルフェウスの撤退を支援するとは予想もしなかったぞ！　だが、シャドウ大戦の勝利を確実なものにする為にも、逃がすわけにはいかぬな！」
　体長7m程はある金色のシャドウが、大量のシャドウを引き連れて、清香達の目の前に現れた。

　――この者こそ、大将軍アガメムノン。

「ここは私が防ごう」
　オルフェウスがそう言って前に出ようとする。
　瑠璃が両手を挙げてそれを制した。
「大丈夫です」
「時間稼ぎは、私達に任せてください」
「オルフェウスは僕達を信じて、先生を守って先に逃げて！」
　セレスティや徒、他班の者達の言葉に、先程の自らの言を思い出したか、頷き優貴を連れて先に撤退するオルフェウス。
　それを見送り、サキ達は左翼班と共にシャドウの方へと前進する。
　アガメムノンが軽く右手をあげると、大量のシャドウ達が瞬く間に距離を詰め、清香達と左翼班を取り囲んだ。
「……囲まれた、わね」
「うにゅ！　皆、円陣を組むの！」
　舌打ちをしながら構えるミレーヌと割り込みヴォイスを使用して左翼班に呼びかけるサナ。
　その言葉に即応し、左翼班が後衛班の方角を向いて半円陣形を取り、清香達が反対側に半円陣形を形成。
「皆、死ぬなよ！」
　半円陣形の内側にいる徒がここに集う全員を案じて叫ぶ。
　後衛班から聞こえてくる戦いの音と共に、シャドウの群れが襲い掛かった。

●
「本当、数が多いわね。一体どこからこんなに出てきたのよ！」
　一斉に迫りくるシャドウを一体でも倒すべく、ミレーヌがティアーズリッパ―。
「とにかく、数を減らしましょう！」　
　セレスティが叫び返しながら、ブレイドサイクロン。
　サナがオールレンジパニッシャーで追撃。
　清香が神秘的な歌声で歌い、シャドウを打ちのめす。
「確実に減らしていくしかありませんね……！」
　瑠璃が呟き黙示録砲で敵を撃ち抜き、アオが猫魔法で追撃。
「了解だよ、瑠璃！」
　徒がレイザースラストで弱っているシャドウを締め上げる。
　宥氣が轟雷を撃ちだし身動きの取れないシャドウを灼滅。
「絶対に、倒す」
　サキが血桜の切っ先から氷結弾を撃ちだしシャドウの一体を灼滅。
　だが、その程度の灼滅で止まる数ではない。
　シャドウ達が、セレスティを狙って影を宿した拳を叩きつけてくる。
　アオが彼女の前に飛び出し、息つく暇のない連続攻撃を受けてそのまま消滅。
　更に後方のシャドウ達が瑠璃と徒を狙って、一斉に漆黒の弾丸を発射。
「うわぁ！」
「させないわよ……！」
　迫りくる漆黒の弾丸を迎撃する徒だったが、全てを捌ける筈もなく被弾。
　トラウマに襲われる彼の前にミレーヌがその身を晒して庇う。
「ここで倒れるわけにはいかないのよ！」
　叫び、魂を凌駕させるミレーヌ。
「瑠璃さん！」
　瑠璃への弾丸は宥氣が代わりに受けきっている。
　宥氣の全身を虚脱感が襲い、トラウマに蝕まれ喀血した。
「くっ……！」
　守り手を殲滅されるわけにもいかずミレーヌが集気法で宥氣の傷を癒しトラウマを解除。
　徒もラビリンスアーマーで宥氣を癒すが、今度はシャドウ達がミレーヌへと攻撃を集中。
「！」
　既に凌駕しているミレーヌが耐えきれるはずもなく、その場に頽れた。
「やってくれたな！」
　お返しとばかりに清香が蹂躙のバベルインパクトでシャドウを灼滅。
「まだ、まだなの……！」
　サナが制約の弾丸でシャドウを足止め、サキが血桜を掲げてシャドウ達の注意を引きながら蒐執鋏で攻撃を加える間に瑠璃がミレーヌを半円陣形の内側へと運ぶ。
（「守り手をこうも容易く倒しますか……！」）
　セレスティが月杖フィアーネに込めた魔力を暴発させシャドウを吹き飛ばす間に宥氣がフェニックスドライブで前衛を癒す。
　だが、その回復が仇になった。
　シャドウ達が、今度は宥氣に向かって一斉に攻撃を仕掛けたのだ。
　回復を行い、且つ守りの要となっていた彼を邪魔と判断したのだろう。
「ぐああああっ！」
　漆黒の弾丸と影を纏った拳による攻撃が宥氣に殺到する。
　徒がラビリンスアーマーで援護するが耐えきれずに膝をついた。
「宥氣さん……！」
　呻きながら瑠璃が影縛りでシャドウを締め上げ、セレスティがブレイドサイクロンで複数のシャドウを灼滅。宥氣を徒が陣内へ引き込んだ。
「……時間は稼いだ。撤退するぞ！」
「うみゅ。分かったなの！」
　清香がシャドウを倒しながら叫ぶのにサナが頷き、背後で同じく死闘を繰り広げる左翼班に指示を伝える。
「殿は私が引き受けます！　皆さんは包囲の突破を！」
「……分かりました」
　セレスティの言葉に嫌な予感を覚えながらも瑠璃が応じ、徒が宥氣を担ぎ、サキがミレーヌを抱えた。
　そのまま左翼班で動ける者と共にシャドウ部隊の一点へと攻撃を集中。
　後衛班の方からも援護のサイキックが乱れ飛ぶ。
　その一方で。
　殿を引き受けていたセレスティは、猛攻に晒されていた。
　トラウマや毒に体を蝕まれつつも、苛烈な攻撃に耐え抜いている。
　ふと、パラジウムや、フォルネウスとの戦いの時、堕ちていった仲間達のことが走馬灯のように脳裏を駆けた。

　――あの時、自分の手で、守り切れなかった人たちへの想いと共に。
　
（「あんな想いはもう……繰り返したくありません」）
　――だから。
「絶対に……守り抜きます！」
　誓うと共にセレスティの戦装束が、瞬く間に漆黒に染まりゆく。
　頭の白薔薇の髪飾りもまた、黒薔薇へと変貌し、白銀の月杖フィアーネとウロボロスブレイドが漆黒の影に覆われて。
　背後に集まる闇に気が付き、瑠璃が思わずそちらを見て息を呑む。
「セレスティさん……！」
「行ってください！　皆さん！」
　背を押すようにそう言い放ち、執拗な追撃を行うシャドウ達を引き付けるセレスティを置いて、瑠璃達は包囲を突破した。

　――心が激しく軋む音を立てるのを、確かにその耳で聞き取りながら。
　
●
「……何とか、振り切れた……」
　サキが荒い息をつきながら後衛班に合流し呟く。
　後方からは未だ激戦の音が響いてくるが、戻る余力は残っていない。
　――その時。
「先生も酷な運命の元にあるよね」
　エリアル・リッグデルムが薄らと笑みを浮かべ、ゆるく結わえた青蘭の髪を紅梅色へと反転させ、戦場へと走り去った。
　セレスティの加勢に向かったのだろう。
「……すみません……」
　止める間も無かったことに悔恨の想いを抱きつつ瑠璃が呟き、悄然と仲間達と互いに支えあいながらその場を立ち去る。
　2人を欠いた灼滅者達は、そのまま優貴達のもとへと帰還した。
　

作者：長野聖夜	重傷：ミレーヌ・ルリエーブル（リフレインデイズ・d00464） 杉凪・宥氣（天劍白華絶刀・d13015）  死亡：なし 闇堕ち：セレスティ・クリスフィード（闇を祓う白き刃・d17444）
種類： 公開：2016年11月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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