贖罪のオルフェウス、慈愛のコルネリウス、歓喜のデスギガス……。
四大シャドウの戦いが最終局面を迎えている。
場は、歓喜派閥の大将軍アガムノメンが贖罪及び慈愛の軍勢を包囲しているという局面だ。
デスギガスが出るまでもない。そんな場面である。
状況を解説しよう。
大将軍の軍勢は前線の雑兵たちと少数精鋭の慈愛軍が競り合い、後方から大将軍のタロット兵が突入の機会を伺っている。
タロット兵とは、大将軍から『タロットの武器』を与えられた特別な兵たちだ。
彼らはおのおのが独特な武器を所有し、個性的な戦い方をする。そのため軍勢としての運用に適さないが、高い戦闘力をもつ個体として戦果を期待されているのだ。
一方で慈愛軍のレイは焦っていた。
コルネリウス会談から一ヶ月経過した今もなお、武蔵坂学園灼滅者が援軍に来ないと言う事態に、武蔵坂不介入を疑い始めたのだ。
慈愛陣営の中心には非戦闘員の優貴先生もいる。彼女を逃がす余裕はないが、つかまるつもりもないようだ。
いざとなれば死を選び、ゲートを通じた武蔵坂学園への直接侵攻を食い止める積もりなのだ。
そこへ介入するは――。
●戦闘介入、武蔵坂
「みんな、サイキックリベレイターの影響で早速シャドウの動きを察知した……んだが、大変なことになっているらしいな」
大爆寺・ニトロ(大学生エクスブレイン・dn0028)は難しい顔で語った。
「シャドウ大戦は歓喜VS慈愛に持ち込まれたんだが、どうやら歓喜軍が圧倒的に優勢らしい。このままだと歓喜のデスギガスの完全勝利が確実、と出てる」
この戦いの勝敗を覆すのはいかな武蔵坂フルパワーでも不可能だ。しかし……。
「戦いはこれで終わりじゃない。『次の戦い』のために介入することができる。シャドウをとにかくぶっ飛ばしまくってデスギガスの戦力を削ることだってできるはずだ。いや、そのチャンスだと言ってもいい。勿論、かなり危険な任務にはなるけどな……」
「特に、タロット兵をタロットごと灼滅することができれば、歓喜軍にデカい打撃を与えられるだろう。他にも前線から退くシャドウを叩いたり、慈愛軍を支援したり、先生を助けたり……色々あるが、俺はみんなの選択を全力で肯定するぜ。そのために、あえてこう言わせて貰おう」
グッと拳を握りしめ、ニトロは言った。
「気持ちよく、戦ってこい!」
参加者 | |
---|---|
近江谷・由衛(貝砂の器・d02564) |
結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781) |
白金・ジュン(魔法少女少年・d11361) |
鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382) |
東堂・八千華(チアフルバニー・d17397) |
可罰・恣欠(リシャッフル・d25421) |
シフォン・アッシュ(影踏み兎・d29278) |
カルム・オリオル(グランシャリオ・d32368) |
●シャドウ大戦の行く末は
贖罪のオルフェウス、慈愛のコルネリウス、歓喜のデスギガス。彼らの戦いもついに最終局面に入ろうとしている。
勿論、彼らシャドウだけで済む話ではない。
2016年現在。この世界はダークネスだけでコトが済まないほど、灼滅者たちは力をつけていたのだ。
そんな、世界を変えかねない力を持った灼滅者の一人こと、結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)。
彼女は今回集まった八人のチームと共にタロット兵の殲滅作戦に当たっていた。
デスギガスによって特殊武装を与えられたタロット兵はそれ単体が大きな戦闘力を持つ反面、他の兵との連携がとれないという欠点を持っている。
そんなタロット兵を一体でも撃破すれば、今後現実サイドに進出するであろうデスギガスの兵力を削ることになるだろう、というものだ。
「そうでなくても、タロット兵には興味がありますしね」
静菜は近江谷・由衛(貝砂の器・d02564)の横顔を観察していた。気づいて、小さく頷く由衛。
「大鎌を装備したタロット兵。それを見つけたら教えて」
「それって例のヤツだよね?」
戦場を進みながら、シフォン・アッシュ(影踏み兎・d29278)が問いかけてきた。
多くを語らう必要は無い。彼女たちにとってはもはや、最も関心深い共通項なのだ。
すると、同じくタロット兵を捜索していた鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)が呼びかけてきた。
「二人の探している個体かは分からないが、大鎌を装備したやつなら見つけたぞ」
脇差が物陰から指し示したのは、確かに大鎌を装備した少女のタロット兵だった。
獅子を思わせる獣の手袋と、ロップイヤーラビットのフードを被った、一風変わったタロット兵である。
由衛たちの記憶にある個体とは流石に異なるが、どこか似た雰囲気はしていた。
「見つけたからには、挑まないわけに行きませんね」
既に能力解放を終えた白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)が、長いステッキを握って仲間に目配せをした。
強く頷く東堂・八千華(チアフルバニー・d17397)。
可罰・恣欠(リシャッフル・d25421)とカルム・オリオル(グランシャリオ・d32368)はその後ろ姿を見ながら、ゆっくりとだが確実に戦いの空気を纏い始めていた。
「壮大なことになったもんやね。次のためにも、きっちこなさなな」
「ええまったく。では、行きましょうか」
鎌を地面に突き刺し、斜めに突き出た形の柄。
その柄に腰掛け、両足をぶらぶらさせるタロット兵の少女がいた。
少女は物陰から姿を現わすジュンたちを見て、二度、まばたきをする。
「なにかな。見物なら、後にしてほしいのだけれど」
「そないに見える?」
手首をこきりと慣らすカルム。
少女はフードをの先端をつまんで深く被り直した。
「うん、うん。納得したよ。いいよ、とても退屈していたから、相手になるよ。この場の誰かが、死ぬまでね」
おいでと言わんばかりに指招きをする少女。
静菜はここぞとばかりに指輪を輝かせると、狙い澄ました魔力弾を連射。
全て命中したかと思いきや、貫いたのは少女の幻影だった。
足下の影が一つ増えたことに気づいた脇差とシフォン。即座にその場から飛び退くが、直後に地面を殴りつけた少女によって地面ごと爆発。
間に割り込んだ由衛や八千華、イチジク(ウイングキャット)によって爆風をしのぐと、脇差は抜刀。少女のいる空間を高速で十回ほど切り刻んだ。
その殆どを回避し、刀を毛皮の腕で握ることで受け止める少女。
シフォンが飛びかかり、虚空から巨大な十字架を引っ張り出した。
ショッキングピンクのガラスでできた十字架である。
強引なまでのハンマーアタックで、ほとんど崩壊した地面が完全なクレーターと化した。
舞い上がる粉塵と小石。
小石の間を縫うように後退する少女を追って、由衛は縛霊手を装備。
少女めがけてパンチを繰り出す――と同時に左右から襲いかかる八千華とイチジク。
その全てを付加視の障壁で阻む少女だが、背後に現われた恣欠とカルムには反応が遅れた。
雲耀剣とドグマスパイクを同時に繰り出す二人。
咄嗟の反転と防御でギリギリ防いだものの、少女は吹き飛ばされ、形容しがたいおかしな柱をぶち抜いた。
一方で、傷ついた由衛たちにイエローサインを浴びせて回復するジュン。
「流石に手強いですね。この戦力ですと一体倒すかどうかといった所ですが……」
「望むところだ」
脇差は刀をしっかりと握り直し、そして走り出した。
カルムと恣欠の連携は続く。
懐から取り出したナイフで少女を切り刻むカルム。
指の第一関節から始まり方まで等間隔で輪切りにされた少女に向けて、恣欠が強烈なスピンキックを浴びせる。
吹き飛ばされてバウンドする少女に、さらなる追撃をしかけようと走る二人――の周囲に、大量の剣が発生した。上下左右ついでに頭上。全方位。
「おやおやこれは」
「あかんなあ」
全ての剣が突っ込んでくる。
常人なら何度死んだか分からないような状況だ。
一方で少女は片腕だけで、先程の鎌を握っていた。
ぽんと頭上に投げ、丁度いいところで持ち直す。
「強いね。負けそうだよ」
などと言いながら、彼女の肩からは新たな腕が一瞬で生えていた。植物の生長を早回しで見るような、おかしな回復性能である。
まるで負けそうな人間の振る舞いではない。
ジュンがステッキを握りしめて叫んだ。
「来ます!」
少女はその場に立ったまま――だというのに、由衛と八千華はいつの間にか彼女の眼前にいた。まるで強制的に引き寄せられたかのようだ。
少女は鎌をひとふり。
常人であれば肉体を上下真っ二つにされていた所だが、即座にジュンが放った天魔光臨陣の光が相殺。
由衛たちを吹き飛ばすだけで済ませた。
とはいえ激しいダメージだ。ごろごろと転がっていく八千華をイチジクが回復に走る。
一方で、由衛は少女へ向けてダッシュ。
脇差と静菜も同時に横へ並んで走った。
まただ。また、三人は少女の背後にいた。回り込んだのではない。まるで気づかずにすれ違ってしまったかのよに、間の距離をすっ飛ばして彼女の向こう側へ走って行こうとしていたのだ。
「まずい――」
慌てて反転する脇差。
の一方で、由衛は後ろ回し蹴りで少女の鎌を蹴りつけていた。
「二度も同じ手はくわないわ」
鎌が蹴り上げられたその隙を狙って静菜が足払い。
足払いといっても道路標識がへし折れるほどの威力である。少女の足がへし折れ、強制的にバランスを崩す。
「おっと」
脇差はここぞとばかりに踏み込み――。
「離れろ、空間ごとみじん切りにする!」
脇差は刀と隠し武器をフルに活用し、目にもとまらぬ連続斬りで少女を切り刻んだ。
これがゾンビ映画なら確実に倒していた所だが。
あいにく化け物。ダークネス。それもシャドウの、特に強力な個体である。
「離れて!」
猛然と突撃をかけてくるシフォン。
脇差たちがその場から飛び退くや否や、少女はまるでそれが当たり前であるかのように肉体を服ごと修復。
どこからともなくレッドカラーのチェーンソーを抜き出したシフォンはそれをフルスイング。
鎌の柄で受け止める少女と数センチの距離まで顔をつきあわせた。
回る剣の刃が火花を散らしていく。
「うん、うん、そうか……」
少女は何かを勝手に納得すると、鎌を放してその場から飛び退いた。
天空から大量の剣が降り注ぐ。
タロット兵。鎌の少女との戦いは激化の限りを尽くした。
必死に回復を続けるジュンも、あまりの消耗に疲労し、大粒の汗が顎を伝って落ちた。
「そろそろ、終わりにしないといけないかな」
由衛は縛霊手をバベルブレイカーにチェンジ。
八千華やイチジクたちに目配せすると、少女へ向けて突撃した。
背後へ回り込み、猫魔法や閃光百裂拳を叩き込む八千華たち。
障壁でガードする少女へ向け、由衛は全力のパンチを繰り出した。
それもまた障壁で阻まれる。が、由衛のバベルブレイカーが起動。エネルギーの杭を打ち出すと、障壁を突き破って少女の手のひらをも貫いた。
「やるね」
「どうも」
少女の周囲に突如として不思議な雲が発生。
斬られても殴られてもいない八千華や由衛たちが突如として意識を失い、その場に崩れ落ちた。
ジュンが咄嗟にかけようとした回復よりも早い消耗速度である。
「そんな――」
ジュンは次なる回復を――と構えたその時、少女の手から鎌が放たれた。
物理法則など知ったことでは無いといった奇抜な軌道を描き、鎌がジュンの心臓部を貫通。
後ろにあった壁に縫い付けるように突き刺さる。
「こ……のっ!」
最後の力を振り絞って放ったのは、脇差や静菜たちへの支援。イエローサインだった。
心配している暇などない。
脇差と静菜はそれぞれ頷き合い、少女を挟むように展開した。
恣欠とカルム。そしてシフォンもまた少女を囲むように構える。
五対一。まるで一方的に見えるこの構図も、由衛やジュンといった防衛の要が落とされたことから油断はできない。不利とすら思える状況だ。
仲間を見る恣欠。
「一発逆転の秘策とか、誰か考えていらっしゃいます?」
「僕はいつも通りやからなあ」
カルムはマイペースだ。
静菜はナイフを握り込むと、ため息のように言った。
「もうこうなれば、出たとこ勝負しかないでしょう」
「確かに……!」
全員のアドリブによる連続攻撃。
シフォンの繰り出したストレートパンチをかわした少女の頭を狙って繰り出した恣欠のハイキックを受け止めた少女の腕を切断する脇差を貫いた剣を引き抜いて叩き付ける静菜の首を掴んだ少女の腹に拳をめりこませるカルム。
一瞬だけ止まった少女とカルムの目が合う。片眉が上がる。
恣欠が割り込み、踊るように華麗な連続キックを繰り出した。
半分までを交わし、四割までをはねのけ、最後の一発が直撃。
吹き飛ばされる少女。
ダッシュで追い抜き、吹き飛ばされる先で待ち構えたシフォンとカルムがそれぞれのエネルギーを練り合わせ、巨大なこぶしを作って少女を殴りつけた。
少女が手を翳し、鎌を引き寄せる。
手に握られたその瞬間。
「悪いが、ここまでだ」
脇差と静菜が同時に彼女の横をすり抜けた。
逆手に持ったナイフと小太刀。
それぞれが少女の首を切りさき、すとんと落下させる。
「やはり」
落ちた少女の首が言う。
身体は膝を突き、崩れ落ち、武器ごと消滅していく。
「僕の負けみたいだ。お見事だよ、灼滅者」
そういって、首もまた消滅していった。
気を失った由衛や八千華、ジュンたちを抱え上げる恣欠たち。
「これ以上の戦闘は危険そうですねえ」
「近くにこれ以上タロット兵は居ないみたいだし……」
シフォンやカルムも、けが人を抱えて撤退の準備に入った。
こうして、見事タロット兵の撃破に成功した八人は、それ以上戦いに巻き込まれることなく無事に戦場から撤退したという。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年11月16日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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