シャドウ大戦介入～定められた結末の先

■リプレイ

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　それは戦争と呼ぶには、あまりにも一方的すぎる光景であった。まるで砂糖に群がる蟻の如く、それらは一箇所へと集まると、貪っていく。それを眺め、終焉が訪れるのはそう遠くない未来だろうと予測するのは、そう難しいことではないだろう。
　だが。
（「普段なら、ダークネス同士で潰し合うんなら好きなだけやってろって所なんだが……まぁ、今回はそうもいかない、か」）
　そう心の中で呟きながら、月雲・悠一（紅焔・d02499）は溜息を吐き出す。このままでは面倒な事になるのが分かりきっている以上、さすがに放っておくわけにはいかないだろう。
　そんなことを考えながら、悠一は一度そちらから視線を切ると、隣へと向けた。そこでは物部・暦生（迷宮ビルの主・d26160）が、携帯電話を耳に当てているところであり――。
「で、そっちはそうだ？」
「ふむ……ま、見ての通りだな」
　しかし問いかけへの返答は、肩を竦めるというものであった。まあ、予想の範囲内だ。
　そもそもソウルボード内の法則は、基本的にその主次第である。主が法則の一つとして、その中では携帯電話で通話が可能、としていれば別だが、今回の場合、アガメムノン達が外と連絡を取るような手段を許すことはないだろう。それを考えれば、順当な結果ではあった。
　それに既に他班との打ち合わせは終わっていることを考えれば、必須というわけでもない。不測の事態のことを考えれば、あるに越したことはないだろうが……あとは各々が自らの役目を果たすため、精一杯に頑張ればいいだけだ。
　ともあれ。
　戦場に視線を戻してみれば、そろそろ決着がつきそうな感じであった。勝者がどちらであるのかなどは、今更言うまでもないことだろう。
「やっぱり勝敗は覆らなかったみたいだね……さあ、アタシ達の出番だね！」
　声に一瞬だけ視線を向けてみれば、それはコルネリウスと合流する班の一人、ロベリアであった。皆その言葉を合図にするかのように頷き合うと、気を引き締める。打ち合わせをした通りに、それぞれが動き出し――。
「さあ気合いれるぞ」
　戦城・橘花（なにもかも・d24111）の言葉に応えるが如く、自分達もまた他の班と共に戦場へと突撃した。

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　初撃は鮮やかに決まったと言っていいだろう。その勢いを殺すことなく、包囲網を作り出していたシャドウの一角を打ち崩すと、そのままそこに風穴を開ける。
　コルネリウス達の居る場所へと通じる道を作り出し――そこで、共に突撃を仕掛けた者達は、二手に分かれた。この場に残る者達と、コルネリウスと合流し連れて来る者達へと、である。
　悠一達はそのうち、この場に残る方であった。後は任せたという言葉に応えながら、退路を維持するため、残ったもう一つの班と共に構える。
「さて……初っ端だけどここが正念場だ。コルネリウス生かして、二人一緒に家へ帰ろう、樹」
　そんな中、隣に居る者へと声を掛けたのは、無常・拓馬（カンパニュラ・d10401）だ。
　それに対し、その者――各務・樹（カンパニュラ・d02313）は、微笑みを浮かべながら頷きを返す。
「……そうね。ふたりで帰らないと意味がないもの」
　正直に言ってしまえば、樹はコルネリウスを助けることには内心複雑に思っていた。が、それはそれだ。今は任務に集中するため、気持ちを切り替えていく。
　そんな樹に倣うように、拓馬も一瞬瞳を細め……だが直後には一転して口元を緩める。視線を向けた先に居るのは、悠一だ。
「コルネリウスを護衛する。チームを守る。ディフェンダーの辛いところだな。俺より先に撃ちてくれるなよ」
「それはこっちの台詞だと言いたいところだが……言うまでもないこと、か」
　呆れたように溜息を吐き出すあたり、今のやり取りを見ていたのだろう。周囲からも似たような視線を向けられ、しかし拓馬は笑みと共に肩を竦める。こんな状況でも、彼らはいつも通りであった。
　だがそれは、気を抜いているということを意味しない。
「ま、事態は切羽詰まってるが……俺達は、俺達の出来る事をやるとしようぜ」
　言葉と共にその場に展開されたのは、GS：AGNIⅡという名の盾だ。悠一によって広げられたそれは前衛の皆へと行き渡り、その身を硬く固める。
　勿論その間にも敵は動き出しているが、それに関しての心配はない。瞬間、その場に轟音が響き渡った。
　その発信源は殲術爆導索――橘花の放ったそれだ。合わせるように、暦生の構築した結界がその場に展開し、一瞬、敵の動きが止まる。
　そこを逃さずに伸びたのは、蒼い糸。
　ライラ・ドットハック（蒼き天狼・d04068）だ。肩のベルトから伸びたそれが突き刺さり、すかさず悠一が飛び込む。
　戦槌【軻遇突智】を振り被ると、その勢いのままに叩き付けた。
　衝撃にシャドウが吹き飛ばされ、だが一息吐いている暇はない。敵は周囲に幾らでも居て、こちらと同様に動いているのだ。
　それらの周囲に、複数の漆黒の弾丸が浮かび上がり――判断をしたのは刹那。
　悠一と拓馬は視線を交わすと、ほぼ同時にその先へと躍り出た。
　明らかに捌ききれる数ではないが、残りは身体を張ってでも受け止める。苦痛にほんの少し動きが鈍り……しかし拓馬が構わず前に出ていたのは、直後の癒しを信じていたからなのだろう。
　視界の端の樹の姿に、やれやれとばかりに悠一の口元が苦笑を刻み、そうしている間に拓馬が接近を終えていた。振るわれた槍が穿ち、抉り、引いたと同時に、叩き込まれたのは流星の如き一撃。
　犬神・沙夜（ラビリンスドール【妖殺鬼録】・d01889）だ。
　吹き飛ばし、続くように後を追った影が一つ。
　リアナ・ディミニ（不変のオラトリオ・d18549）である。さらに踏み込むと、剣を高速で振り回しながら斬り込んだ。
　そのまま眼前に居る敵を斬り裂き――だがふと、リアナは思う。目の前の事に集中し、徹してはいるが……頭の片隅で、どうしても思ってしまうのだ。
（「私、本当はグレイズモンキーと決着を……」）
　かつて遭遇した時のことを思い返しながら、しかしと、頭を振る。未練を振り切るように、剣を握り――それに気付いたのは、その時のことであった。
　先に述べたように、この場には十六人、二班分の灼滅者が居る。自分達以外にも、その場で戦っている者達がいるわけだが……リアナの視界に入ったのは、その一角だ。
　そこに居たのは三人。一体の敵へと攻撃を畳みかけ、最後の蹴りが決まった瞬間だ。
　それは妨害を重ねるという意味では有効であったが、敵を倒すには至っていなかった。攻撃の手が止んだのであれば、当然のように次は敵が動き出す。
　その光景を前に、不意にある想いが過ぎった。
　今回共に行動することになった班の中には、リアナにとって大事に思う者達が居る。彼らを必ず無事に帰すのが自分の最大の役割だと思っている為に、その行動には躊躇いがないのだが……ふと、思ってしまったのだ。
　おそらくは、彼女達にもそう思われている相手はいるのだろう、と。
　敵の周囲には、既に暗き想念より生まれ出た漆黒が浮かび上がっていた。指向性を持ったそれが、放たれ――その刹那。
　諸共飲み込んだのは、暗く、紫色に映る影。葬奏邪音【ルサールカ】という名のそれが晴れた時、その場に残されていたのは何もなかった。
　それにリアナは小さく息を吐き出すと、視線を戻す。彼女達も仲間には違いないが、リアナは今こちらの班の攻撃役としてそこに居るのだ。
「助かったわ」
　後方から聞こえてきた礼の言葉には頷きだけを返すと、そのまま敵のところへと踏み込んだ。

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　その光景を目にした瞬間、思わず安堵の息が吐き出されていた。
　それはコルネリウスと合流するために向かった者達が、こちらへと向かってきている姿であったのだ。何よりも、そこにはコルネリウス自身の姿もあった。
　だがこちらがそれに気付いたということは、敵も気付いているということだ。一層激しくなる敵の攻撃を、何とか凌いでいく。
　しかしさらに敵の数が増えたこともあり、数体、敵が漏れる。その狙いがコルネリウスであるのは言うまでもなく――だが瞬間、こちら側からも影が飛び出していた。
　ライラだ。
　それらがコルネリウスに近付くよりも先に、魔力によって増幅された加速力で一気に追いつく。他にも動く影を捉えつつ、暴風を伴った回し蹴りで纏めて薙ぎ払った。
　そして直後、コルネリウスがその横を通過する。一瞬視線を感じた気がするのは、気のせいか。
　しかし。
「……千尋の願いでもある。コルネリウス、あなたは何としても生きてもらう」
　別件でこちらに来れなかった親友の代わりにも、それだけは絶対に果たす。次々とコルネリウスに向かおうとしている敵を防ぐべく、さらに地を蹴った。
　続くように、橘花が前に出――。
「お前には生きてもらわんと困る」
　すれ違いざまにコルネリウスにそう告げ、近付こうとしていた敵へと冷気を変換した氷の塊を叩き込む。思うところはあるが、今は助けるしかないのだ。
　さらに周囲の敵へと、暦生の放った死をもたらす魔法が襲い掛かり……そうしている間に、仲間達が、コルネリウスが、駆け抜けていく。
「ここは頼む」
「すまんな。コルネリウスは絶対守ったる」
「お礼を言うよ！　コルネリウスさんは絶対に生還させてみせる」
　そんな言葉を受けながら、拓馬は片手を上げて返し……一瞬だけ、ちらりとコルネリウスへと視線を向けた。コルネリウスとは、もう一度話がしてみたいと思っているだが……それはここを無事切り抜けてからだろう。
　そのためにもと、立ち塞がり、構える。他の皆もそれに続き……だがそんな状況を、ただ一人無感情に眺めているものが居た。
　沙夜だ。沙夜はただ淡々と、今回の作戦をこなすことだけを考えており……だがふと、あることを思い出した。
「……ああ、そういえば。あの名無しのシャドウ、姿は見えない様だが……死んだか？」
　それは幾度か縁のあったシャドウ。だが姿が見えないということはそうなのだろうと判断し、すぐに興味をなくす。
　今回の作戦は、ここからが佳境なのだ。余計なことに思考を割いている余裕はない。
　先の比ではないほどの勢いで襲い掛かってくる敵へと、牽制の意味も込め、両手に集中させたオーラを叩き込んだ。

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　コルネリウス達が去ってから、しばしの時間が過ぎていた。既にその背を見ることは出来ず、十分な時間を稼げたと言っていいだろう。
　だがその代償は大きかった。敵が殺到しすぎて、撤退が不可能な状況に追い込まれてしまったのである。
　勿論誰一人して諦めてはいないが、蓄積された疲労と傷とが、少しずつ、だが確実に身体と心を蝕んでいく。
　――それでも。
　黒の奔流が溢れる中、瞬間、赤の花が咲いた。それは黒を飲み込むと、そのまま周囲を染め上げていく。
　悠一が放った炎であった。それは自身が纏う焔の如く、その戦意に応じ周囲を焼き尽くす。
　さらには負けじと、橘花が全方位へと殲術爆導索を放出し、暦生も暴風を伴う強烈な回し蹴りを叩き込む。
　一瞬、前方に空白が生じ――だが撤退するより早く、再び黒に埋め尽くされた。
　しかしその間に、樹は巨大なオーラの法陣を展開すると、皆の傷を素早く癒す。その暖かさを感じながら、拓馬は前方へと踏み込み……ふと、それに気付いた。
　自分達の傷を癒すものが、もう一つあったのだ。それは展開された夜霧であり、エメラルの放ったものであった。
　余裕はないため、視線だけで礼を述べると、非物質化させた剣で眼前の敵を切り払う。即座に後方に飛び退けば、代わるように踏み込んだのはリアナ。
　その手に持つ薙刀――斬穿改式を突き出すと、捻って抉り、穿ち、ほぼ同時に鋼糸へと影を宿した沙夜が、それを斬り裂いた。
　細切れにされた敵が、地面に溶けるように消え去り、息を一つ。敵を一体倒しただけだが、確実に倒せてもいるのだ。
　ならば、このまま続けていれば――。
　そんな思考が一瞬頭を過ぎり、だが眼前の光景にすぐさま消し飛ぶ。まるでそれを嘲笑うかのように、そこに浮かんでいたのは、敵と同数以上の漆黒の塊。
　一斉に放たれ――悠一にも拓馬にも、躊躇はなかった。その前に躍り出ると、強引に捌き……しかしその身を以ってしても、全ては防ぎきれない。幾つもが後ろに逸れ、仲間の身を穿ち……それでも諦めず、防ぎ続ける。
　だが。
　その瞬間、悠一達はそれに気付いてしまった。シャドウの一体が、今放たれているものなど比べ物にならないほどの漆黒を作り出していることに。
　そしてそれが、明らかにライラへと目標を定めていることに、だ。
　しかし気付けたところで、どうしようもなかった。状況が、位置が、どうにかすることを許さない。
　しかも最悪なことに、おそらくそれの威力は見た通りのままだ。まともに食らえば、今のライラでは耐え切れないだろう。
　だが必死の思いが届いたのか、叫ぶ直前、それが放たれる前に、ライラは自らそれに気付いた。慌てて回避の為の行動を取り――。
「……あ」
　果たしてそれは、誰の口から漏れた呟きであっただろうか。
　瞬間、ライラの膝から力が抜けた。蓄積された疲労は、まさに最悪のタイミングで以って牙を剥いたのだ。
　シャドウからの一撃が、放たれ――しかし、それがライラの身に届くことはなかった。
　その眼前に躍り出ていたのは、一つの影。悠一達では有り得ず、だがそれもまた、知っている後姿であった。
「……玉緒？」
　その言葉に応えるように、その身体が動いた。しかしそれは、限界によって訪れたもの。
　その場に崩れ落ち……一瞬ライラは、それを呆然と眺める。
　親友と約束をした。最悪、コルネリウスだけでも逃がすと。例え、全員の撤退が叶わなくとも。
　だがそれは、誰かの犠牲を容認するものであっただろうか。
　断じて否だ。
　結果そうなってしまうのだとしても、それは最後まで足掻いた末のことである。
　故に、気が付いた時にはライラは動いていた。力を振り絞るように、今攻撃をしてきた敵との距離を一瞬で詰めると、そのまま拳を振り抜く。
　影を宿したM-Gantlet【プリトウェン】が突き刺さり、それを吹き飛ばす。
　しかし、そこまでであった。直後に後方へと飛び退くも、それが限界。
　何とか着地には成功したものの、再び膝から力が抜ける。そしてそれは、皆も似たようなものであった。
　全滅、という言葉が頭を過ぎり――。

「助けに、来ました……！」
「ボク達が支援します！」

　響いた言葉に、思わず安堵の息を吐き出していた。
　駆け寄ってくる仲間達の気配を感じながら、最後の気力を振り絞って立ち上がる。
　そして、コルネリウスはどうなったのだろうと、そんなことを考えながら……とりあえずは、無事脱出出来そうだということに、再度深く長い息を吐き出すのであった。

作者：緋月シン	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年11月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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