シャドウ大戦介入～夢を渡る星はどこへ向かうのか

■リプレイ

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　精神世界は明るいが、日中かも暮れごろかもわからない。ただ時折、靄が掛かっては消える。そんな世界。
　夢のような空間を駆けていくのは八人の灼滅者。
「やれやれ、のっけからクライマックスですね」
　寺見・嘉月（星渡る清風・d01013）は、被っているキャスケットを手で押さえながら大規模な戦闘が行われている方を見やる。
　主戦場ではアガメムノン率いる大軍と、慈愛のコルネリウスと贖罪のオルフェウスの軍が死闘を繰り広げていた。
「夢の中でまで喧嘩してるのは、まことさん、どうかと思うなー……」
　芥川・真琴（日向の微睡・d03339）も、ぼんやりと戦場を見た。
　他の灼滅者たちも散り散りに、自分たちが介入する場所に向かっているのだろう。
「夢くらい、皆静かに寝てればいいのにねー……」
　真琴が呟くと、小さく頷き、嘉月は真っ直ぐ見据える。
「コルネリウスやオルフェウスに今死んでもらうのもあれですし、頑張りましょう」
「正直、シャドウ大戦がここまで逼迫した状況とは思っておりませんでした」
　呟く秋山・清美（お茶汲み委員長・d15451）の耳にも、激しい戦闘音が聞こえる。
「それにしても、デスギガス勢はどうやってこれだけの大軍を集めたのでしょうか。第二次新宿戦争で消耗していたと思っていたのですが……」
　いつの間にこんなに盛り返したのだろう。
　疑問は尽きない。
「アガメムノン将軍の首を獲れない以上、タロット兵で我慢するの」
　アガメムノンを暗殺することも検討されたが、灼滅者たちはタロット兵を撃破し、コルネリウスやオルフェウス、そして優貴先生を救うことを選んだ。小早川・美海（理想郷を探す放浪者・d15441）は、仲間たちと決めた標的を撃破することに全力を尽くすと誓う。
「……ええ、敵の希望の星を堕としますよ」
　十七夜・奏（吊るし人・d00869）は、その時を想う。
　標的の心の星が、絶望の終わりを迎える瞬間を。
　目指すは歓喜のデスギガス軍の後方に控えるタロット兵の部隊。

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「タロットって、殲術道具の元になった物だったかな」
　過去においては、オルフェウスの部下が自分を強化するためにも使っていた物だとか、四大シャドウが過去に戦って歓喜の門の向こう側に封じたとか、謎は尽きない。
　オルフェウスかコルネリウスが生き残ることができたら、その話も聞けるのだろうか……。
「……まぁ、それはそちらに向かった者に任せるとして、俺達は目の前の敵を駆逐、かな」
　紫乃・美夜古（アダムとリリスの二重奏・d34887）が考察する中。
「なぁ、あれ」
　咬山・千尋（夜を征く者・d07814）が指差す。
　靄が晴れた先に、ひとつの人影を見つけた。見た目は金髪の美しい女性の姿。その頭には若木の冠をいただき、戦場の様子を伺いながらも少し退屈そうにしていた。
　彼女もタロット兵の一人、アガメムノンの号令待ちなのだろう。
　が、灼滅者に気が付くと手にしている二つの水瓶を構える。すると彼女の頭上に浮かび上がるのは――。
「星のタロット兵。私たちの予想は当たっていましたね」
　刃渡・刀（伽藍洞の刀・d25866）が見上げるのは、鏡のような水晶のような、ふしぎな光を放つ８つの星。そのうちひとつはとても大きく、他の星を従える。
「……星。というからには、隕石落としそうなの」
「祓え給え清め給え……いざ！」
　美海が敵の分析をし、嘉月が解除コードを唱え。他の灼滅者たちも次々と武装を整えていく中、金髪の女性――いや、星のタロット兵は妖艶な笑みをもって灼滅者たちを迎え。
「ちょうどよかった。私、とても退屈にしていたの。あなたたち、暇つぶしに遊んでくれないかしら？」
「は？」
　暇つぶしの遊び。その言葉に美夜古の顔が引きつる。
「いくわよ、Star Lights！」
　その声に呼応したのは、ひときわ大きな星。強い輝きを放つと従えていた小さな星々が輝きを反射する。狙撃手と回復手を撃ったのは、そんな強烈な光線。
　余裕綽綽な態度と攻撃の威力。これは早期撃破は難しいかもしれない。だけど、決して引くわけにいかない。
「暇つぶしィ？　こっちは真剣なんだよ」
　黒い十字架の中心には白い百合の造花が咲く。千尋は『Lily for Unknown』で、星のタロット兵を思いっきり殴りつける。
　回復重視の守り手の役割を担う清美。すぐさまバイオレンスギターをつばびいていくと、狙撃手と回復手の傷を癒す。
「サムも回復をお願いしますね」
「ナノっ」
　ナノナノのサムは真琴にふわふわとハートを飛ばした。
「そう、僕たちは遊びで戦っているわけではないんですよ」
　この戦いに介入し、シャドウの戦力を可能な限り削るのが、大きな目的。
　腕を大きく膨らませて襲い掛かる嘉月の攻撃を、
「……っ！」
　寸でのところで交わす星のタロット兵。翻るのは白いスカートだ。
　が、たんっと足をついた場所で喰らったのは、電気を帯びたアッパーカット。
「悪いが、お前にはここで消えてもらうぜ」
　拳を突き上げたまま言い放つ美夜古。星のタロット兵は小さくうめき声をあげたものの、足を後ろに踏ん張って倒れることを回避する。
　上を向いた首を戻す星のタロット兵。
「……面白いわ。そうこなくっちゃよ！　退屈しのぎにはちょうどいいわ！」
　その瞳は星のようにキラキラ輝き、その表情は希望に満ちた笑顔。
　星のカードは、希望を意味する。希望は諦めない心や、楽しいと感じる高揚感を呼び起こす。
「すっごいポジティブなの」
　ぽつり。美海は呟き、自分の心の深淵に潜む暗き想念を集めると、漆黒の弾丸を形成した。
　うごめく黒い闇の塊は美海の手の中でどんどん大きくなり――。
「先ずは毒をねじ込ませて貰うの。……デッドブラスター、しゅーと、なの」
　うなりを上げて飛んでいく弾丸は、星のタロット兵の腹に当たる。
「……っ！」
　小さく声を漏らした星のタロット兵を睨み付けるのは、刀。その隣にはビハインドの千鳥を従え。
「それでは……参りましょうか」
　刀の足元から伸び出たのは、刀剣の鋭さを持った影。黒い刀は標的に向かうが、星のタロット兵はするり交わして見せる。間髪入れずに千鳥は霊障波を撃つと、波動はその腕に傷をつける。
「まぁ、前向きは悪いことじゃないからねー……」
　だけどその前向きさもいつまで続くか。
　真琴はゆらりと揺らめく影を伸ばして、星のタロット兵を絡めとる。
　タロット兵は未知の敵。休むことなく攻撃を当てていくことが重要だ。
「……ですが、その希望の星をひっくり返してみますよ」
　逆位置の星のカードは失望。
　自身の想念でできた弾丸を、奏は大きく振りかぶって投げる。
「！」
　星のタロット兵は腕を前に構え防御体制を取ったが弾丸を真っ向から喰らい、小さく声を上げた。
「……あなた達、なかなかやるじゃない」
　紅く傷が付いた腕を払い、体勢を立て直す星のタロット兵。
「でも、私も負けないわよ！」
　そう言い二つの水瓶を傾けると、中から水があふれ出る。一緒に流れ出るのは小さな星。星は地面に落ちるか落ちないかのところで消え――。
「いらっしゃい、Ｍeteorite」
　消えた星の代わりに激しい轟音を立てて落ちてくるのは、赤々と燃える無数の隕石。
「……！」
　息を吞む時間すら与えられない。
　辛うじて防御姿勢を取った灼滅者たちは、次々に落ちてくる隕石をただ耐えるしかなかった。

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　格の違いから序盤からタロット兵優位に進んだ戦い。
　だけど、灼滅者側の作戦――高命中率の攻撃駆使や回復の連携により、徐々にタロット兵の体力を削っていく。
「……っ」
　こんなにも苦戦を強いられるなんて……。星のタロット兵は美しい顔を歪ませる。
「この私が、押されているなんて……でもこれはどうかしら？　おいで、Lark」
　悔し紛れに星のタロット兵が召喚したのは、小鳥。
　星のタロットカードの奥に描かれている、朝を告げる鳥だ。
　鳥は星のタロット兵の冠にとまると、その体に似つかわしくない大声で鳴き始めた。鳴き声は音の波紋を作り――。
「……！」
　波紋の先。腕で己の身を守る奏の前に出たのは刀。波紋の連打に崩れ落ちそうになる膝に力を入れて、耐える。
「刃渡さん！　今、回復を」
　叫んだ嘉月は腹式で息を吸い込むと、清らかな声で癒しの歌を唄い、彼女の傷を癒した。
「……まったく、よくもやってくれましたね」
　嘉月からの癒しを受け、庇ってくれた刀に小さく頭を下げた奏が跳ぶ。その両の手に握られたナイフに宿るのは、激しく揺らめく炎。
「……ささっと首を刎ねられていただけるとこちらも楽、あなたも楽になれますよ。……オススメです」
　星のタロット兵の懐に、深く燃える傷を付け。
「……戯けたことを！」
　膝をついた星のタロット兵はぎりっと歯を軋ませる。
「それって、寝言は寝て言えってことかなー……？」
　真琴はクロスグレイブを構える。すると鳴り響く聖歌と共に、十字架の先端にある銃口が開く。
「まことさんたちは、この通り、起きてるよー……」
　大きな音を立てて銃口から発せられた光の砲弾は、星よりも眩く、星のタロットを包む。
「……っ、あぁ！」
　苦痛に顔をゆがめる姿を見、
「このまま圧せば、倒せるかもしれません」
「そうですね、行きましょう」
　刀と清美は回復より攻撃を選び取る。ここまで来たら、一手でも攻撃を。
　星のタロット兵を刀が操った影が飲み込む。そこへ千鳥が飛び込み霊撃を放つ。
　続いた清美が足元に力を籠めると炎が満ちる。それを思い切り蹴りだすと炎は、同時にシャボン玉を飛ばしたサムの攻撃とともに、瞬く間に星のタロット兵を包み込んだ。
「きゃぁぁぁ！」
　吹っ飛ぶ星のタロット兵。その先に回り込んだのは、サイキックソード『天剣絶刀』を構えた美夜古。
「大人しく駆逐されな！」
　光の刃で、着地間際の星のタロット兵を斬り裂くと。
「魂だけを斬る、それが必殺・神霊剣なの」
　ぶすりと音もなく。美海のクルセイドソード『荒鎮の十字剣』の白銀の刃は非物質化すると、星のタロット兵の霊魂と霊的防護だけを斬り。
「……な、なんで……」
　血を吐く星のタロット兵。その瞳にも表情にも、希望の色はどこにもなく。
　あるのは失望。
「あんたが出てくることも、どんな技を繰り出すかも、あたしたちは読んでたんだよ」
　彼女の前に進み出て、千尋はオーラを自身の拳に込めた。
　灼滅者たちが想定した敵は、星。
　攻撃も、従えた星を駆使するものであったり、隕石を落としたり、その攻撃を灼滅者は予想していた。
　結果、灼滅者の予想は見事に的中。その上で攻撃の効果も計算し、灼滅者たちは自分たちに有利になるように自身のサイキックを選び取ってきた。
　千尋の激しい連打を喰らい続けた星のタロット兵は地面に崩れ落ちる。
「……そ、そんな……」
　その言葉を最期に、星のタロット兵の体は、まるで星屑がきらめくように消えていった。
　得物の掲げて勝鬨を上げる千尋。
　真琴は消えていく星を静かに見送る。
「おやすみなさい。よいゆめを……」

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　星のタロット兵との戦闘が終わっても、灼滅者たちは武装を解かなかった。
　他に近くに潜んでいるタロット兵を警戒したからだ。
「……居なさそうだな」
　注意深く目を凝らす千尋。だが、周辺にはほかに気配すら感じない。
　タロット兵を標的にしたチームは少なくはなかったので、おそらくはタロット兵が多数灼滅されたことが予測できる。
　緊張の糸をゆるめた清美は小さく息をつき。
「この結果が、これからのシャドウとの戦いを有利にするものであるといいですね」
　その言葉に皆、各々頷いた。
「頃合いだ、退こう」
　踵を返す美夜古に従い、灼滅者たちは来た道を引き返す。
「四大シャドウが歓喜の門に封じたタロット……ダークネスとはまた来歴違いそうだけど、何だろう、なの」
　謎は、本当に尽きない。
　美海は星のタロット兵のきらめきが消えるのを見送り、仲間の背を追った。
　この戦いに介入した灼滅者が総統力を発揮し、素晴らしい成果を上げたと彼らが知るのは、仲間たちと合流してからのことになるだろう。
　灼滅者の心の星は、これからの希望と共に輝くのであった。

作者：朝比奈万理	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年11月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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