シャドウ大戦介入～影法師の行方

■リプレイ

　シャドウ大戦は激しさを増し、遠くから戦いの気配がちりちりと伝わってくる。
　偵察のために空へ上がり、敵に気付かれないように双眼鏡を覗き込んだ雲・丹（きらきらこめっとそらをゆく・d27195）を、柿崎・法子（それはよくあること・d17465）は少しだけ不安そうに見上げて呟いた。
「何とか、誰一人欠けることなく戻れるといいんだけどね」
「……そうですわね」
　誰一人、というとダークネスのエト・ケテラも含めてのことだろう。
　複雑な思いを胸にしまった黒嬢・白雛（天翔黒凰シロビナ・d26809）の隣で、外法院・ウツロギ（殺人階位蒐集者・d01207）は道化のように肩を竦めた。
「とりま極力戦闘は回避したいところだね。退路の確認と判断はしっかりやっていきやしょう」
　ウツロギの声に、東雲・菜々乃（本をください・d18427）は念のためにと用意した信号弾をしまい込んだ。
　敵に自分達の居所を知られては、無用な増援を招きかねない。
　菜々乃は代わりに、アリアドネの糸を現地点で発動させた。
　撤退時は別ルートを使うことになるなら無駄になるが、これで最悪ここには戻って来られるはずだ。
　作戦を打ち合わせる仲間に、リュシール・オーギュスト（お姉ちゃんだから・d04213）は顔と手を上げた。
「皆！　戦場に突入する時声出して貰えます？」
　その声に立ち止る灼滅者達に、リュシールは説明した。
「……勝ちかけの時の方がね、雲行が怪しくなるとすぐ怖くなるものなんですって。援軍はまだ来るかもって思わせてやりましょう、包囲を考え直したくなる位に」
　灼滅者達が頷いた時、丹が仲間の元に降り立った。
「戦線の一部が崩れたんよぉ！　そこに、エトさんの姿もあるみたいやねぇ」
「急いで救援に向かいましょう」
　丹の声に頷いた緑風・玲那（忌血に染めし朱翼・d17507）は、ハンドフォンの回線を開こうと念を込めた。
　だが、反応が無い。
　連絡不能に眉をひそめた玲那は、チームの仲間を見渡した。
「連絡が取れないみたい。丹さん、詳しい場所や撤退する方向は分かるかしら？」
「ちゃんと確認したんよぉ。完全に正確な場所までは分からんけど……」
　少し不安そうな丹を落ち着かせるように、千布里・采（夜藍空・d00110）は微笑んで頷いた。
「近くまで行ければ大丈夫や。目立つと思うんやわ、エトさんやもの」
　決意と共に頷く采に頷き返した灼滅者達は、救援に駆けつけるべく急いで行動を開始した。
　極力敵と遭遇しないように移動した灼滅者達は、シャドウの一団を見つけて足を止めた。
　どこを見ているのか。息を潜めるように気配を殺すシャドウは、こちらに気付いた様子はない。
　不意打ちを掛けようとした時、シャドウの一群が一気に移動した。
　こちらに気付かない敵が向かう先は一つ。
　あの先に、救援対象のがいるはずだ。
「始めましょう、これ以上やらせない為に」
　皆の無事を祈りつつ気を引き締めた玲那の声と共に、灼滅者達は突入を開始した。

●
　鬨の声を上げ、凱歌を歌いながら突入する灼滅者達の姿に、奇襲をかけたトランプ兵の動きが一瞬止まった。
　咎人の大鎌を高らかに振り上げたリュシールは、トランプ兵の一団に向けて一気に振り下ろした。
　虚ろの力が解き放たれ、無数の刃が召喚される。
　敵一群を薙ぎ払ったリュシールの奥から駆け出した白雛は、激戦を潜り抜け傷を負った前衛に眉を顰めると、クルセイドソードを構えた。
　癒しの風が吹き抜け、深い傷を癒していく。
「ここは任せて、後ろに下がってくださいませ！」
「送迎路のご用意が出来たようですね」
　唇を綻ばせたステラ・バールフリットの声に驚いた法子は、同じく知り合いの夕永・緋織の傷ついた姿にダイダロスベルトを放った。
　癒しの鎧が緋織を包み込むと同時に、ステラの治癒の光が点る。
　同時の回復に驚いた法子は、思わず声を掛けた。
「ねえ……」
「死ね！」
　一瞬気を取られた法子に、猛毒の弾丸が迫った。
　怨念そのものを凝らせたかのような弾丸の前に、菜々乃が割って入った。
　襲い来る吐き気のような不快感に息を詰まらせた菜々乃を守るように、ウイングキャットのプリンがシャドウへ迫った。
　放たれる強力な一撃を受けたシャドウが一歩下がる。
　その隙を突いた丹は、妖の槍を繰り出した。
　螺旋状になった槍が鎌を受けたシャドウを貫き、消滅させる。
　突入時に確保した脱出経路を守るように戻った丹は、傷ついた救出班に声を掛けた。
「皆、ここから撤退するんよぉ！」
「あいつらまだかしらね！　もう一軍加われば逆に包囲してやれるのに！」
　大きなアクションで後ろを振り返ったリュシールの声に、敵が一瞬浮足立つ。
　その隙に撤退班を守るように陣を敷いた灼滅者達は、まずは態勢を整えた。
　ダメージと共に毒を受けた菜々乃の頭上に、祭壇が現れた。
　玲那の祭霊光が菜々乃の頭上から、癒しの光を注ぐ。
　ホッと息を吐いた菜々乃は、玲那に笑顔を向けた。
「ありがとうございます。――この決戦、なんとしてもこちらが成果を上げて終わらせたいですね」
「そうね。これ以上、もう誰も失わないために」
　エト班の無事な姿に安堵した玲那の気持ちを代弁するように、イージアは尻尾のリングを光らせた。
　無事なエトの姿に安堵の息を吐いた采は、交通標識を構えながら微笑んだ。
「デスギガス注意」と書かれた交通標識から溢れ出す黄色い光が、エトと仲間を癒していく。
「長居は無用です、さっさと逃げましょ」
『あんたも、来てたのね』
　見知った采の姿に、エトは礼の代わりに微笑を返した。
　微笑むエトに、ウツロギは両手を広げた。
　道化のようなしぐさと共に語られる癒しの言霊が、エトを癒していく。
「エトたんや、ここは引かねば夢見れなくなるよ」
『……そうだね』
　頷き、後方へ下がったエト達を守るように、灼滅者達は殲術道具を構え直した。

●
「奴らを逃がすな！」
　残されたシャドウトランプ兵の隊長――キングの号令に、エース、デュース、トレイは無言で灼滅者達に向かって来た。
　迫り来るシャドウ達に、ウツロギは楽しそうに怪談蝋燭【恐怖】を掲げた。
「今回は始まりから負け戦。さぁさぁそれでは撤退開始といきやしょう」
　大輪の牡丹のような炎が蝋燭から溢れ出し、エースを包み込んだ。
　炎に包まれながらもナイフを振り上げたエースは、ウツロギに向けて振り下ろした。
「危ない！」
　エースとの間に割って入り、迫る刃を受け止めた玲那にデュースが魔弾を放つ。
　とどめと言わんばかりに、トレイが猛毒の霧を放った。
　猛毒の霧が前衛を包み込み、どす黒く塗りつぶしていくようだ。
　視界を悪くするほどの毒霧に眉を顰めた白雛は、クルセイドソードを構えた。
「柿崎様は、緑風様を！」
「分かった！」
　頷く法子を確認した時、毒霧を吹き飛ばすような清浄な風が吹き抜けた。
　白い炎を帯びた風が、毒霧を吹き払い癒しを与える。
　毒霧が消えた時、玲那は癒しの帯に包まれていた。
　集中攻撃を受けて深いダメージを負った玲那を、ラビリンスアーマーが優しく癒していく。
「無理は、禁物だよ？」
　心配そうな法子を安心させるように、玲那は微笑んだ。
「大丈夫。生きて帰るためにも、倒れてはいられないわ」
　何とか立ち上がった主を元気づけるように、イージアは尻尾のリングを光らせた。
　癒しが行き届いたことを確認した采は、後方にいる味方を振り返った。
　撤退中の激戦で消耗が激しいようだが、幸い戦闘不能者はいないようだ。
　まずは目の前のシャドウを倒して、追撃の手を緩めなければ。
　采はチラリと、退路を確保する丹を見た。
　采の視線に頷いた丹は、エースの死角に潜り込むと妖の槍を突き出した。
　迷いなく急所を突く攻撃に、エースが大きくのけぞる。
　そこへ、螺旋槍が穿たれた。
　采が手にした妖の槍が唸りを上げ、エースの胸を貫きとおす。
　声もなく黒い霧になったエースの姿に、トランプ兵達の間に動揺が広がった。
　わなわなと肩を震わせたキングは杖を握り締めると、玲那に突きつけた。
「ええい、雑魚ども！　アガメムノン様の威光を受けるがいい！」
　杖から放たれた雷撃が、玲那へ向けて放たれる。
　強烈な雷光が玲那を貫く寸前、菜々乃が動いた。
　玲那を庇った菜々乃は、痺れるような雷撃に息を詰まらせる。
「菜々乃さん！」
　膝をつく菜々乃へ、リュシールのダイダロスベルトが放たれた。
　癒しを帯びたベルトが光が菜々乃を癒し、次へ備える守りを固める。
　顔を上げた菜々乃を、霊犬がじっと見つめた。
　少しうるんだ優しい目が、体に張り付いた痺れるような雷撃を振り払う。
「ありがとうございます。……あと三体。こちらが有利とはいえ、油断は禁物ですね」
「早くあいつら倒して、安全圏まで撤退しないとね！」
　頷き合った菜々乃とリュシールは、残るシャドウに殲術道具を構えた。

●
　攻撃の要であったエースを倒されたキングは、杖を握り締めると菜々乃に突きつけた。
「小賢しい！　一体ずつ葬れ！」
　キングは一声吠えると、杖を大きく振りかぶった。
　唸りを上げて振り下ろされる一撃を辛うじて避けた菜々乃の脇を、影の獣が駆け抜けた。
「皆を、絶対助けるんや！」
　采の足元から伸びる影は真っ直ぐに伸び、動物の顎や牙がキングに踊りかかる。
　獣の牙から逃れようともがくキングに、丹が交通標識を構えた。
「ここ通るん、禁止やぁ！」
　赤い標識がキングに直撃し、息を詰まらせる。
　大ダメージを受けたキングを巻き込んで、リュシールはクロスグレイブを構えた。
「ここは絶対、確保するわ！」
　無数の弾丸が、キングを消滅させデュースとトレイの体に無数の穴をあける。
　決死の勢いで飛び出したトレイは、菜々乃に向かってナイフを突き出した。
　ジグザグに裂く攻撃を、ウツロギが受け止めた。
　構えた二の腕で刃を受け止めたウツロギは、にやっと笑うと大きく腕を振りトレイを引き離した。
「ダメージは、できるだけ分散させないとね」
「今、回復します！」
　ダイダロスベルトを構えた法子は、ウツロギへダイダロスベルトを解き放った。
　腕に巻き付いたベルトが、深い刺し傷を癒していく。
「そこですわ！」
　バランスを崩したトレイに、白雛はダイダロスベルトを解き放った。
　翼のように伸びる白い帯が、真っ直ぐにトレイを切り裂いていく。
　引き裂かれたトレイは、そのまま霧となって消えていった。
　最後に残されたデュースは、破れかぶれに飛びかかって来た。
　菜々乃に向かう刃の間に、玲那が割って入った。
　頭を腕で庇い、至近距離で睨み合うことしばし。
「離れなさい！」
　デュースを引き剥がすように、菜々乃は玲那の目の前に祭壇を展開した。
　巨大な祭壇に驚いたデュースはバックステップで距離を取ると、じりじりと後退した。
　後退するデュースに、リュシールはクロスグレイブを構えた。
「ここで、倒します！」
　砲門から放たれた光の弾丸が、デュースの業を凍てつかせる。
　凍り付いたデュースが、炎に包まれた。
「水蒸気爆発、起きるかなー？」
　ウツロギが楽しそうに掲げた【恐怖】から溢れ出す大輪の牡丹のような炎が、デュースを包み込む。
　声なき声を上げたデュースは、黒い霧となって消えていった。

●
　敵を倒した灼滅者達は、速やかにその場を離れた。
　幸い敵はコルネリウスやオルフェウス討伐に全力を傾けているようで、有力敵がこちらに来る気配はない。
　散発的な戦闘をこなしつつ安全圏へと逃げ延びた灼滅者達は、傷つきながらも誰一人欠けることなく帰還したことを喜び合い、現実世界へ帰還した。

作者：三ノ木咲紀	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年11月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 5
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