シャドウ大戦介入～風前の灯火

■リプレイ

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「ここが戦の一里塚という物ですか……タロット兵は、もう少し離れた場所にいる様ですねぇ……」
　シャドウ大戦の地へ脚を踏み入れた灼滅者の１人、紅羽・流希（挑戦者・d10975）が周囲を見渡す。
「シャドウ大戦……そこに僕らが介入する事になるなんてね。何にせよ、僕等の仕事はいつも通り……うん、しっかりやらないと、ね」
　凪野・悠夜（闇夜に隠れた朧月・d29283）は小さく、しかし力強く呟いた。
「ひとまずこの辺にはタロット兵はいないみたいだね。早いとこ此処から離れよう」
　影龍・死愚魔（ツギハギマインド・d25262）がスレイヤーカード片手にそう促すと、一同はタロット兵を目指し戦場の後方へと走り出す。
　そして数分が過ぎ。タロット兵はあっさりと姿を表した。
「えっと、あのシャドウさん……が、タロットさんでしょうか？　なんだか凄く簡単に見つけちゃいましたけど……」
　アイスバーン・サマータイム（精神世界警備員・d11770）が指さす先には、あぐらを掻きながら頬杖をついてとても暇そうにしている、赤黒く不定形な巨人の姿があった。
「間違いないと思うでござる。明らかに他のよりデカいでござるし、あの巨人が持っている盾……どう見ても普通の物ではないでござる」
　阿久沢・木菟（八門継承者・d12081）が指摘した武器。それは巨大な盾と生きた獅子が融合し一体化した様な、不気味な代物であった。
「あ。あのライオンさん、今わたくし達の方を睨んで唸りましたよ。かわいいですねー」
　サウンドシャッターを展開した日輪・瑠璃（汝は人狼なりや・d27489）。そして一同は巨人の元へ向かう。
「折角の戦場なのに自由に戦う事が出来ないとは。これだから形式ばった戦争は嫌いだ」
　巨人は既に灼滅者達の存在に気付いていたのか、近づいてくる灼滅者達に一方的に話し始めた。
「こんな下らない勝ち戦は雑兵に任せておけばいいのに……ハア。なあ、お前達もそう思わないか？」
「かかか、そんな辛気臭いするもんじゃねぇぜ？　あんたの望み通り、俺達が楽しい喧嘩を売りに来たんだからなぁ！」
　型破・命（金剛不壊の華・d28675）が盃を掲げそう告げると、巨人は盾を手にゆっくりと立ち上がった。
「それなら本当に有難い。私は退屈が一番嫌いなんだ……まあ貴様等は取るに足らない弱者の様だが、暇つぶし位にはなるだろう」
　恐らく５メートルは優に超えるであろう巨体が灼滅者達をゆっくりと見下ろし、大盾の獅子は獲物を見定めるかの様な目で灼滅者達を見据える。
「完全に私達を舐めてるわね……まあいいわ」
　エリザベート・ベルンシュタイン（勇気の魔女ヘクセヘルド・d30945）はスレイヤーカードを手に取り、魔女っ娘風ヒーローへ変身する。
「『勇気の魔女ヘクセヘルド、ここに参上！』……さあ、始めるよ！」
「ふむ、流石に私も最低限の礼儀は抑えておくか……私の名はグアド。自分を殺す相手の名くらい、覚えておけ」
　戦いが始まる。

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「その、身体が大きいですから、結構当てやすそうな感じでしょうか？」
　緩々な喋り方とは段違いな素早い動きでグアドの足本まで接近したアイスバーンが、幾重もの斬撃を放っていく。
「確かに避けるのは嫌いだ。が、当たっても死ななければ問題ない」
　そう言ってグアドは大盾を掲げると、
「焼き尽くせ」
　獅子の咆哮と共に放たれた爆炎が、灼滅者達の頭上に降り注ぐ。
「熱ぃ！　いきなりやってくれるじゃねぇの！！」
　炎に腕を焼かれた命はニヤリと笑みを浮かべると、片腕を鬼の剛腕へと変え、グアドの顔面まで飛び込んだ。
「まずはこいつを喰らいな！！」
　渾身の力を込め放った鬼の拳が、グアドの顔面を殴り飛ばす。
「痛いな」
「当然！！　どうだい、少しは楽しい喧嘩になりそうだろ？」
「そうかもな」
　グアドは淡々と言うと、大盾を持っていない左手に影を集めていく。
「だが本当に楽しい喧嘩とやらが出来るというのなら、これ位は受けて見ろ」
「うおっ、こいつは……！！」
　そして放たれる影の砲弾が、命の元まで迫る。
「避けられねぇ、ならやるしかねぇ！！」
　命は砲弾目掛けて必死に蹴りを放つ。
　その蹴りは奇跡的にタイミングが完璧で、砲弾を空の彼方まで打ち返していくのだった。
「おぉ……？　まさかほんとに成功するなんてなぁ。やれば意外とどうにでもなるもんだなぁ！」
「やられた側はたまったものでは無い」
　再び命に狙いを定めるグアド。しかし、
「キミの敵は１人じゃないんだよ！」
　ふわりとグアドの側面から飛び込んだエリザベートが、回転斬りでグアドの腕を斬りつける。
「やはり痛いな。治すか」
　グアドは大盾から禍々しい影を引き出し全身に浴びると、その身に受けた傷が瞬く間に癒えていった。
「うーん、痛いと言いつつあまり危機感を感じている様子じゃないですね」
　瑠璃はクロスグレイブを構えると、グアドの巨体に狙いを定めていく。
「まあそれでも、ずっと攻撃してればいつかは倒れますよね」
　そのまま瑠璃が引き金を引くと、銃口から放たれた光の砲弾が大盾の獅子の顔面を直撃した。
「『グァァアアアア！！』」
「本当に生きてるみたいですね、あのライオン。それとも本当に生きてるんでしょうか？」
「細かい事は気にするな。どの道お前らは死ぬからな」
「え？」
　ズン、と振り下ろされる大盾。それは瑠璃ごと地面を打ち砕いた、様に見えたが、
「ちょっと死ぬのは嫌ですね。ごめんなさい」
　紙一重の所で大盾を避けた瑠璃が、獅子の顔面を足場に一気に飛びあがった。そしてその手には、激しく振動するチェーンソー剣が。
「まぁ、私だってやるときはやりますよー」
　震える刃が火花を散らし、グアドの身体を削り取る。
「タロットでライオンと言うと、やっぱりストレングスでござるかな。単純な攻撃力と防御力が強いでござる」
　木菟は縛霊手から撃ちだした霊力で仲間の傷を癒しつつ、グアドの戦力を分析していた。
「１体でこの強さじゃあ、流石に連戦は厳しいか。まあ、だとしても最初からやる事は変わらないけどな……」
　流希は拳を開閉し、自らの精神と闘気を研ぎ澄ましていく。
「初めから私に勝てるつもりとはな。随分と舐められたものだ」
「それはお互い様だ。お前は俺達を取るに足らない弱者と称し、他のシャドウを雑兵と称した。だが俺から言わせればお前は、強力な武器に頼り切った怠慢なデカブツだ」
「ほざけ」
　ブン、と突きだされた大盾は一瞬にして流希の元まで迫り、獅子の鋭い牙が流希の右肩を突き破った。
「死ね」
「……誰が死ぬか」
　流希は激痛に怯むことは無かった。肩に喰らいつく獅子を睨み付けると、獅子の顔面を殴り飛ばした。
　そして血に塗れた腕で日本刀『掘川国広』を構えると、グアドに接近する。
「死ぬのは俺じゃない。お前だ」
　放たれる一筋の斬撃。それはグアドの両腕を同時に斬り、黒い鮮血が飛び散った。
「随分無茶するね。まあ、回復はするから思う存分無茶していいよ」
　死愚魔はグアドと距離を取った流希に癒しの闘気を放つと、右肩の深い傷を治癒していった。
「ふむ。確かに貴様等は取るに足らない弱者では、無い様だな」
「ハッ、その上から目線がいつまで続くかねぇ……？　言っておくが、俺達がお前を楽しませるんじゃねぇぞ。お前が、俺を楽しませるんだよッ！！」
　すっかり戦闘狂へと変貌を遂げた悠夜は、自らの影を無数の刃へ変化させると、グアドに猛撃を仕掛けていく。
「貴様等は、あれだ。随分とデカい口を叩く輩が多い」
「口も図体もデカいお前には言われたくねぇよ、デカブツ！！」
　放たれる斬撃の嵐が、グアドの全身を文字通り斬り刻んでいく。
「かなり痛いな。だが、調子に乗るな」
「……ッ！！」
　懐に入った悠夜に狙いを付け、至近距離から放たれた影の砲弾。それは悠夜の腹に直撃し、そのまま地面へと叩き付けた。
「ゲホ……！！　……ハハハッ、勘弁してくれよ……」
　今の一撃で悠夜はかなりのダメージを負った筈だが、立ち上がった彼の口元には笑みが浮かんでいた。
「懲りたらもう少しマシな口を利け。そして死ね」
「違ぇよ馬鹿。勘弁してほしいのは……期待外れなてめぇの力量だ！！」
　悠夜は一瞬にしてグアドの身体を駆け上がり、躊躇無くその眼に鋏を突き立てた。
「グ……！！　クソ、離れろ」
　黒い血が流れ出す目を抑え、グアドは灼滅者達を見下ろす。
　ここまでされてようやく、グアドは灼滅者達が単なる暇つぶしの相手では無いと気づいた様であった。

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「既に５分以上が経過していましたか。ですが今の所、此の場に援軍が来る事はなさそうですね」
　短期決戦を目指す為、タイマーで時間を計っていた瑠璃は、周囲の状況を見てそう判断する。
　しかし油断は出来ない。灼滅者達は一刻も早くグアドを倒すべく、気合を入れなおす。
「中々やるな。このままでは貴様等を倒した後、まともな戦闘が出来そうもない……」
　獅子の口から放たれる爆炎。そしてその真正面に立つ死愚魔。
「ちょっと避け損なっちゃったな。まあ、何とかなるか」
　回避は不可能と判断した死愚魔は、一瞬にして自らの影を展開。
　間一髪の所で影の防壁が築かれ、死愚魔は炎を凌ぐ。
「流石にタロット兵相手じゃあ、攻撃に手番を裂く余裕もあまり無いかな。という訳で攻撃はよろしく、マオゥ」
　死愚魔は自らのウイングキャット『マオゥ』にそう声をかけると、自身はせっせと仲間の傷を癒していく。
　一方のマオゥはふわりと飛びあがり尻尾を杖の様に振ると、空中に大きな魔方陣が現れた。
「君の獅子も炎吐いたり噛み付いたりと結構優秀そうだけど、俺等の猫も翼生えてたり魔法使えちゃったりするから、結構いい勝負だと思うよ」
　そして魔方陣が光輝くと、虚空から顕れた黒き巨腕がグアドの首を掴み上げ、一気に締め上げた。
「苦しいな。流石に、私も本気を出さなければ死ぬかも知れない」
「確かにそうかもしれない」
　更にグアドの足本に死愚魔の影が迫る。巨大な影はグアドの巨体を一気に飲みこむと、その肉体と魂を蝕んでいった。
「かかか、それにしても本当にしぶとい野郎だなぁ。だが、いい加減キツくなってきたんじゃねえか！」
　影から抜け出したグアドの背に、命の手刀が叩きつけられ、同時に放たれた暴風がグアドの身体を吹き飛ばす。
「……私はタロット兵。此処で負ける筈は、無い」
「えっと、グアドさんはよっぽど自分の実力に自信があるみたいですね？　援軍を呼ぼうとしないのは、プライドがとても高いから、でしょうか」
　アイスバーンは大きな傷が増えてきたグアドの巨体を見上げそう呟くと、十字架『Sleepy Hollow』を構える。
「まあ、援軍を呼ばれちゃうよりはずっと良いですけど。このまま倒しちゃいましょう」
「援軍など呼ばずとも、私は貴様等よりも強い……絶対にだ」
「その、はい、そうですね。そうだと良いですね」
　アイスバーン目掛け放たれる影の砲弾。アイスバーンはそれを屈んで避けると、そのまま軽快にグアドの足元まで跳んだ。
「えっと、ちょっと痛いですよ？」
　勢いよく振り下ろされた十字架がグアドの片足を叩き潰し、その動きを鈍らせた。
「すごく痛いぞ」
「あ、すごくでしたか。なんというかその、ごめんなさい？」
　気の抜けそうな会話の最中、アイスバーンは数匹の仔羊の影業を呼び出した。
「ジンギスカンさん、悪い夢は全部食べちゃって下さい」
　その中の一匹(ジンギスカン)が物凄い勢いでグアドの身体に突進すると、そのままグアドの魂に喰らいついた。
「呆れる位しぶといなコイツ……いい加減くたばりなッ！！」
　畳み掛ける様に悠夜が突きあげた槍の一撃がグアドの胸を貫き、再び黒い血が噴き上げると、
「もう一度言う。この場で死ぬのは俺達じゃない、お前だ」
　流希が振り切った刃がグアドの首元を掻き斬った。
「やるな……この私がここまで追い詰められるとは。他のタロット兵は今頃殺されているかもな」
「キミもその一人になるんだよ、グアド！」
　エリザベートはグアドと真正面から対峙すると、一気に間合いを詰めていく。
「させるか。焼け死ね」
「その技はいい加減見飽きてきたよ！」
　再び獅子の口から放たれる爆炎。エリザベートはその軌道を見切り、隙間をくぐり抜けると、グアドの足を掴み上げる。
「シャドウは危険で決して相容れない敵……キミはここで確実に倒させて貰うよ！」
　グアドの巨体を一気に持ち上げたエリザベートは、両手にご当地パワーを集め、
「この一撃は重いよ！　『ブロッケンディナミック』！！」
　投げ飛ばされた巨体は地面を揺らす勢いで地に叩きつけられ、大爆発を引き起こした。
「グ……やってくれる……私から見れば、貴様等も十分すぎる程に危険な存在だ」
　グアドは大盾に自らの影の力を注ぎ込み、対するエリザベート両手に魔力を集束させる。
「だが、確かに退屈は凌げた」
「だけど、お遊びはもう終わりだよ！！　『シュトラーレンカノーネ』！！」
　獅子の大顎から放たれる影の砲弾。それに応じ放たれたエリザベートの２本の魔力光線。
　一本の光線が影の砲弾とぶつかり合い消し飛ぶと、もう一筋の光線がグアドの胸を焼き貫いた。
「中々しんどい戦いだったでござるな。だけどそれももう終わりでござる」
　木菟は魂から引きだした影を自らの手甲に宿すと、素早い動きでグアドに接近する。
「灼滅者が私を殺すか……貴様等が強かったのか？　私が弱かったのか？」
「知らんでござる。だけど確かなのは、相手を舐めてかかるべきでは無かったという事でござるな。獅子は兎を狩るにも全力を……そんなことわざもあるでござろう？」
　これまでの攻撃により大きく動きが鈍ったグアドの背に、木菟は手甲を叩き付ける。
　その一撃はグアドの魂に潜むトラウマを具現化させ、その精神を蝕んだ。
「さて、次で仕留めるでござるよ。あ、トリは拙者が貰うでござる」
　木菟の呼びかけに応じ、灼滅者達はグアドに一斉に攻撃を仕掛けた。
　瑠璃が放つ光の砲弾が額を直撃し、
　命が振り上げる鬼の拳が顎を打つ。
　悠夜が放つ氷の刃が肩を貫き、
　死愚魔の影が全身を引き裂いた。
　エリザベートの魔力光線が全身を包むと、
　流希の居合いの一閃が首を斬る。
　アイスバーンが再びジンギスカンさんを特攻させると、
　木菟は無数の影の刃をグアドに向け、ウイングキャットの『良心回路』が魔力を集める。
「別に興味は無いでござるが、一応聞いておくでござる。最後に言い残す事は？」
「私の負けだ」
　グアドがそう呟くと、魔法によって生み出された巨大な鎖がグアドの四肢を縛り上げ、そこに降り注いだ無数の影がグアドと大盾を貫いた。
　最後に獅子が小さな断末魔の叫びを上げると、グアドと大盾は粒子となって消え去って行くのだった。
「……」
　自らの影を納め、木菟はパンパンと手を払った。
「影狩り完了。拙者達の勝ちでござる」

作者：のらむ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年11月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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