シャドウ大戦介入～死線を越えた先

■リプレイ

　それは、圧倒的な戦力差。
　ソウルボードにおいて行われた総力戦は、灼滅者達から見ても勝利は絶望的に思えた。それでも、コルネリウスを、かつての仲間を、先生を助ける為に参戦していく。
　コルネリウスと共に戦う為、８名は戦場を見回す。
「いや～、デスギガスの軍勢がかなり押してるっすね」
　白波瀬・雅（光の戦士ピュアライト・d11197）が、戦況を眺めて言った。
　どこか楽観しているように聞こえる雅も、いざとなればここで尽きる事もあると覚悟していた。
　だから、しっかりと状況は確認している。
「圏外です」
　森沢・心太（二代目天魁星・d10363）が携帯電話を出して、残念そうに言った。狐雅原・あきら（アポリアの贖罪者・d00502）もそれを聞いて携帯電話を取り出すが、心太と同じく圏外のままであった。
「どうしてデスカ？」
　ソウルボード内で携帯電話が使える、と思って全班で連絡が取れるようにして来たつもりであった。
　心太が無言で皆を見回すと、慎重に通が『別の方法は』と聞く。心太はトランシーバーなども持ってきたが、それも使える様子はない。
　心太では何故使えないのか理解出来ないが、あきらは携帯を締まって肩をすくめた。
「ソウルボード内での事は、その主によって左右されるものデス。使えないなら、あらかじめ打ち合わせた通りにするしかないデス」
　からりと考えを切り替え、あきらは周囲で戦うシャドウを掴んだ。彼らに攻撃を仕掛けている敵対シャドウに、問答無用で槍を叩き込む。
　たたき伏せた後、あきらはシャドウを振り返った。
「という訳で、ボク達はコルネリウスと戦う為に来ちゃいましたヨ。彼女はどこデスカ？」
　というより、オルフェウスさんはどこデスカー？
　あきらがきょろきょろ見回すと、戦っていたシャドウが後方を指した。どうやら、コルネリウスは遙か後方の本陣に居るようである。
「周囲のシャドウを支援しながら、後方に向かおう」
　刻野・晶（大学生サウンドソルジャー・d02884）はそう言うと、他のシャドウ達に届くように歌声をあげた。喧騒に混じる歌声が、シャドウ達を癒やしていく。
　先陣を切ったのは、シールドを盾にするようにして力任せに突っ込む中神・通（柔の道を歩む者・d09148）。盾で押し切った通の周囲に斬りかかる敵は、心太が間髪入れずに拳を叩き込む。
　晶と雅は、それぞれ左右を固めてシャドウ達の攻撃を躱していく。
　晶の歌声に合わせるように、九十九坂・枢（飴色逆光ノスタルジィ・d12597）も清めの風を戦場に流す。
「すぐ戻って来るから、それまで辛抱するんよ？」
　必ず、コルネリウスに合流して、戦況を覆すからと枢はコルネリウス軍のシャドウ達に声を掛けた。
　枢と晶を守るように最後尾に、ナハトムジーク・フィルツェーン（黎明の道化師・d12478）と鏡・エール（高校生シャドウハンター・d10774）が付く。
　この布陣は、最後まで守り切るつもりであった。ナハトムジークは、周囲で戦うシャドウ達の戦意がまだ高い事に、薄く笑みを浮かべる。
　まだ、戦えるじゃないか……と。

　コルネリウス達が居るのは、最後尾の本陣であった。８名がここに合流すると、もう一班も同じように本陣に来ていた。
　ナハトムジークが後ろを振り返るが、ここは前線から離れており比較的安全だ。一体、どういう事だろう。
「まずはコルネリウス、先生を守ってくれてありがとう。……だが、この戦いを勝つのは難しいだろう。もう少し早く来ていれば……」
　晶は悔しそうに言った。
　もっと何が出来た事があるのではないか、晶はそう悔やみながら、遅くなってしまった事をコルネリウス達にわびた。
「ここで死ぬんはあんさんも不本意やろ？　ここは一旦一緒に退こ、な？」
　斑目・立夏が、コルネリウスに撤退を促す。双方の班はコルネリウスと優貴を撤退させる為にここに居るのである。
　しかし、双方の班の願いに二人は首を横に振った。
「私はここに残ります」
「姫さんはこの戦いに勝てないんだ。俺たちの仲間が撤退の準備をしている。皆で生きて帰るためには、姫さんの力が必要なんだ」
　明鏡・止水がコルネリウスに言い返す。心太は、二人の様子を見て話しが長くなりそうだと感じていた。
　そっとエールに声を掛け、身を引く。
「支援班が前線に居るはずです。他の班の様子を見てきます」
　ここは最後尾である為、他の班より安全だ。だが、退路を確保する為に戦線を維持し続けている支援班は、苦戦を強いられているはずだ。
「分かったよ、支援班が崩れるような事があれば言ってね」
　エールは心太にそう言うと、話に耳を傾けた。
　コルネリウスは話を続ける。
「皆さんのお気持ちは分かりますが、もしソウルボードがデスギガスに掌握されれば、私の計画は実行不可能になります」
　彼女の計画とは、彼女の言う幸せの為の計画である。
　ですが、とコルネリウスは続けた。
「ですが、私がソウルボードを守る意志を最後まで貫いて死ねば、その意志はソウルボードに宿り、デスギガスに抵抗する事が可能かもしれません」
　コルネリウスは、既にここで死ぬ事を覚悟していた。自分がここで潰える事が、最後の抵抗であると。
「それなら、先生だけでも逃げられるよう力を貸して欲しいっすよ。デスギガスに連れて行かれると大変っすから」
　牧瀬・麻耶が言う。
　優貴は、コルネリウスをちらりと見返した。
「私だけ戻る訳にいかないわ。私が学園に戻ってしまうと、プレスタージョンの城を通って、デスギガスの軍勢がソウルボードから直接実体化してしまう。そうすれば、学園を彼らに攻撃されてしまうわ」
　デスギガスの軍勢が学園に奇襲を仕掛け、結果サイキックアブソーバーが破壊されたら、大変な事になると優貴先生は話す。
「私をソウルボード内で匿ってくれる勢力が無い限り、私は生きているべきでは無いのよ。…ごめんなさい」
　最後に聞こえた優貴先生の声は、優しい響きであった。
　そんな、謝ってなんてほしくないっすよ。雅は小さくそう言うと、拳を握りしめた。
　生きているべきではない、だなんて言わせたくない。
　雅は顔を上げ、声を上げた。
「みんな、コルネリウスも先生も守って戦う覚悟が出来ているっすよ。コルネリウスを犠牲にして先生だけ助けるなんて選択、する為に来たんじゃないっす」
　雅の強い口調に、晶も同意した。
「ソウルボード側での防衛は私達だけでは難しい。この後、先生を守るにも、あなたの力が必要に思えるの」
　皆の意思は、一つだった。
　漣・静佳が、コルネリウスと優貴に言葉を掛ける。
「そんなこと、駄目よ。コルネリウスも、優貴先生も、私たちと全員で学園に帰るの。死んだほうがいい命なんて、あってはいけないわ」
　先生もコルネリウスも、みんな助けたい。
　最悪、死ぬ程度だろ。そう安い覚悟と笑って言ってやろうと思ったナハトムジークであったが、ただああいう輩が嫌いでねと言うに止めた。
　みんな助かって戻る。
　そう強く願う仲間が居るのだから。
　皆の説得の言葉を受け、コルネリウスは息をついて見回した。
「あなたたちの気持ちはわかりました。出来ることなら、そうしたく思います。しかし、それは困難でしょう。ここ以外に逃げ場はあるのでしょうか。優貴を武蔵坂から離してしまえば、灼滅者の援軍も望めなくなります」
　優貴を学園に戻す訳にいかない。
　そして自分もまた、逃げ場がない。その問題解決が成らない限り、ここから動く事は出来ないとコルネリウスは言う。
　枢は飴を口に入れると、広がる甘みを感じながら考え込んだ。
「入り口になる先生のソウルボードに、ずっと私らが居るって言うのは無理やろか？」
　先生が学園以外に行くのは、枢はどうしても解決策とは思えない。しかしその案に、藤谷・徹也が反論する。
「デスギガスの軍勢と対峙できる灼滅者とは、少なくとも数百人は必要だろうか。その分、学園の守りも薄くなる。効果的ではあるが、現実的ではないと考える」
「それに、ボク達が常駐するとなると、先生はずっと眠ったままになってしまいマス」
　あきらが、徹也に続いてそう付け足す。
　ひとまず先生はともかく、とあきらは考えを巡らせる。自分もシャドウハンターだから、コルネリウスの状況は理解できる。
「コルネリウスはシャドウなんデスから、現実世界でなくても、逃げ場さえあればどうにかなるんじゃないデスか？　たとえば、ボク達とか……」
　つまり、自分達灼滅者の中にコルネリウスをかくまうというのである。氷室・侑紀 が頷く。
「そうだな。サイキック・リベレイターの力で、コルネリウスも現実世界で動けるようになる。時間さえ稼げたなら、逃げ場も見つけることができるだろう。それまで灼滅者のソウルボードに匿うのはどうだろうか」
　すると、様子を見ていたエールが口を開いた。
「シャドウハンターの立場から言わせてもらうが、灼滅者のソウルボードといえど、コルネリウスの痕跡をたどればデスギガスの討伐部隊はいずれたどり着くと思うよ。そうすればコルネリウス一人では、とても勝てない」
　結局それは、問題として学園に危険が迫る事に変わりは無いのだとエールは言う。
　灼滅者のソウルボードといえど、そこで敗北すればそこからデスギガス達は学園に攻め込んで来る危険性があった。
　デスギガスの軍勢に対して、何らか手を打たなければならない。
　先生もコルネリウスも灼滅者も、双方話し合いは一向に進まなかった。
　通は、戻る気の見せないコルネリウスと優貴の様子に、語りかけた。
「先生が俺達を護りたいように、俺達も先生を護りたい。そのために貴女に死なれるわけにはいかない」
　先生を守る事、そしてコルネリウスを守る事は一つなのである。通は話しをまとめるようにして、提案した。
「では、こうしてはどうだろう。まず、コルネリウスには優貴先生のソウルボードに常駐してもらう事にする。今後先生は学園内にとどまり、何かあれば灼滅者がすぐにソウルボードに駆けつけられるように警戒する」
　優貴のソウルボードにコルネリウスが常駐していれば、デスギガスが侵攻して来ようとも灼滅者が援軍として駆けつけるまでの時間稼ぎは出来るのではないか、と通は言うのである。
　優貴のソウルボードに常駐するのがコルネリウスだけならば、優貴先生は寝続ける必要は無くなるのではないかと通が話す。
　優貴は思案すると、こくりと頷いた。
「……そうね。恒久的な解決策としては問題があるけど、サイキックリベレイターを使用した事で、数ヶ月以内にデスギガスとの決戦が行われるという状況なら、充分に対応できるかもしれない」
　ここまで話した所で、前線の様子を見ていた心太が急ぎ戻って来た。幾分の戦闘を経たのか、怪我をしている。
　しかし心太は怪我を気にする事なく、前線の方を指した。
「どうやら、戦線の一角が崩れ始めたようです。おそらく、エトの所に向かった仲間の方だと思います。撤退を急いだ方がよさそうですよ」
　二人の説得に時間を割いた分、前線は崩れかけていた。
　最初にエト達の部隊が崩れ、そこから他の班も押されていった。ここまで押し込まれるのも、時間の問題である。
　心太が前に立つと、あきらと雅もコルネリウスの前に飛び出した。
「いざとなったら、自分達を捨て駒に使ってもいいっすよ」
「…出来るなら、撤退重視の陣でお仲間の指揮や鼓舞をしておいてもらえると、私達もお仲間も助かると思うんだけどね」
　ナハトムジークは笑顔でそう言うと、コルネリウスを前へと促した。彼女の後ろに立ったナハトムジークは、モノリスを構えて走り出す。
　コルネリウスは、周囲のシャドウ達に撤退を促した。

　優貴先生とコルネリウスを連れて、双方の班は支援班の元へと戦場に切り込んでいった。彼らは撤退の為、敵を押さえてくれているはずだ。
　状況を確認していた心太の指示で、来たときと同じように８人でコルネリウスを守るようにして戦場を突っ切っていく。
『コルネリウス……』
　彼女を見たシャドウ達が、群がってくる。
　通が前に出ると、後方からナハトムジークのクロスブレイブによる砲撃を繰り出した。シャドウ達の業を凍らせるクロスブレイブの砲撃が、次々シャドウを蹴散らす。
「悪いが私は個人的に、武人気取りの癖に率先しては攻めないような、師としては正しいけど将としては間違ってる輩が大嫌いでね」
　ナハトムジークの砲撃を受けてなお、立ち向かうシャドウをエールの刃が切り払う。弧を描き、はらりと葉を落とすように一刀を振るエール。
　支援班までの道は近くて遠く。
　エールは、鳴饗屍吸に死線を落とす。
　声を掛けるように呟くと、踏み込んだ。
「歓喜の軍勢を啜りつくせ……！」
　集中砲火を受ける形の通に、枢と晶が治癒を掛けて支える。コルネリウスもまた、周囲のシャドウ達を支え、戦う為に力を尽くしていた。
　枢は、風を戦場に送りながら、コルネリウスに視線を向ける。
「何とか離脱出来そうやね。……仲間は大丈夫やろか」
　枢の言う仲間とは、自分達の仲間だけでなくコルネリウスの仲間の事も意味していた。コルネリウスは、こくりと頷く。
　ここでの撤退は、おそらくコルネリウスにとっても大きな痛手であろう。
「これは一つ貸し、やで？」
　にこりと笑って枢が言う。
「それにな。…私、自分が消えるんはさほど怖くないんやけど、自分が知っているものが消えていって、それでひとり取り残されるんは怖いんよ。……おかしい？」
「少し分かるっす。大事な人は守りたいっすね」
　ひょいと雅が振り返り、大きく頷く。枢は笑顔で『そうやな』と応答して、飴を雅の口に入れてやった。

　既に前線は崩れていたが、撤退も始まっていた。
「待たせたね。……ここまで支えて居てくれて、本当にありがとう」
　エールは頭を下げると、後ろに居るコルネリウスをちらりと振り返った。
　だが、そこに優貴先生の姿は見られない。
「優貴先生は、このまま学園に戻るといずれプレスタージョンの国を通じてデスギガスが学園に攻め込む恐れがある、だから戻らないと言って聞かなくね……」
　先生を心配する灼滅者達を、中神通が制止して話を続けた。

「心配ない、デスギガスが来るなら、先生のソウルボードでコルネリウスに警戒に当たってもらえばいい。そうすれば、コルネリウスも先生も我々が学園で守る事が出来る。コルネリウス一人だったら、先生も眠り続ける必要はないし、学園に居ればいつでも先生のソウルボードに私達が入れるからな」
　それが最善の方法だという結論に達した、と通は話した。
　コルネリウスは、ここで尽きるのも覚悟していたようだ。
「あなた方の熱意に応じて、この先はお任せしましょう。……離脱後、優貴のソウルボードを守ると約束します」
　毅然とした表情で、コルネリウスは言った。

作者：立川司郎	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年11月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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