シャドウ大戦介入～アガメムノン快進撃

■リプレイ

●移ろいのルディアナ
「はあ……。退屈ですわねぇ」
　主戦場からやや離れたデスギガス陣営の一角で、群青色のイブニングドレスを纏った女性が、溜め息を一つ付いていた。もっとも、顔全体をヴェールで覆っているため、今どのような表情をしているかまでは窺い知れない。
「そんなに退屈なら、お相手願えませんか？」
　急にかけられた声に顔を上げれば、そこにはいつの間に接近していたのか、椎木・なつみ（ディフェンスに定評のある・d00285）の姿があった。
「おや。あなた方、コルネリウスの手の者ではありませんわね？　もしかして、灼滅者とかいう方々？　いやねえ、雑兵達は何をしていたのかしら？」
「迂闊だね。護衛も付けずに、1人で孤立しているなんて」
　小首を傾げる女性に、真っ先に仕掛けたのは月影・黒（涙絆の想い・d33567）だった。黒い闇を思わせる影のオーラが無数の弾となり、女性に向けて放たれる。
「まあ。いきなり攻撃だなんて無粋なこと。でも、そんなものでアテクシ『移ろいのルディアナ』を倒せると思わないことですわ」
　ルディアナと名乗った女性は、手にしていた円盤状のもので、黒の放ったオーラを、ことごとく受け止めてしまう。
「ご覧遊ばせ。これぞ月のタロットの力を宿せし変幻武装・ムーンウエポン。その防御形態『フルムーンシールド』ですわ」
　淡く光を放つ円盤を、得意げに掲げてみせるルディアナ。
「満月の盾ですか。デスギガスの完全な一人勝ちは防がなければいけませんし、その性能、試させてもらいますね」
　月姫・舞（炊事場の主・d20689）が、その円盤目掛けて、黒影布を刃のように伸ばす。だがその一撃も、ルディアナは素早くフルムーンシールドをかざして防いでしまった。
「月の、エンバン？　武器なら、投げて使うのかな？」
　ファム・フィーノ（太陽の爪・d26999）は興味津々にタロットの武装を見つめつつも、『サウンドシャッター』を展開した。これで、敵の増援がくる可能性を減らせるだろう。
「ウフフ、半分正解で半分外れですわ、チビッ子ちゃん。投げる時は、こうするのです。ムーンウエポンが投擲形態『クレッセントブーメラン』！」
　ルディアナが得意げに宣言すると、円盤状だったムーンウエポンがたちまち三日月状に形を変えていく。
「戦況によって用途と形状を変えられる武装か、厄介だな。今更大戦そのものは潰せないが、そっちの虎の子のタロットは潰させてもらうぞ」
　だが、ルディアナがムーンウエポンを使用するよりも速く、九凰院・紅（揉め事処理屋・d02718）が仕掛けていた。シールドがなくなったことで薄くなった守りを掻い潜り、その大きく膨らんだスカートを切り裂く。
「んまあ。レディのドレスを裂くなんて！」
　そしてルディアナが紅に気を取られた隙をつくように、音鳴・昴（ダウンビート・d03592）が、強烈な飛び蹴りを、ルディアナの背中に炸裂させた。
「いくら強い武器を持ってても、そんなに隙だらけじゃ俺達には勝てねーぞ」
　ルディアナが派手に転倒したのを確認しつつ、素早く距離を取る昴。
「……よくも、アテクシに恥をかかせてくれましたわね！」
　素早く立ち上がったルディアナの声には、怒気が籠っていた。ルディアナが全力で投げ放ったクレッセントブーメランが、前衛の灼滅者達目掛け高速で飛んでくる。
「やらせないっすよ！」
　そのブーメランの前に、押出・ハリマ（気は優しくて力持ち・d31336）が立ちはだかった。ブーメランに強打されながらも、なんとかブーメランを掴みとろうと試みる。だがブーメランはまるで意志を持つかのようにハリマの手をすり抜け、近くにいたなつみと舞にクリーンヒットした後、再びルディアナの手元に戻っていってしまう。
「大丈夫っ？　これが、タロット兵の力……けど、負けてられないよ！」
　灰色・ウサギ（グレイバック・d20519）が、傷ついた舞を鎧うように光の帯『虹色ウサギ』を放った。霊犬のましろと円も、それぞれ浄霊眼でなつみとハリマを癒していく。
（「前線出て戦うの久々だから、緊張もなくはないけど……戦いの趨勢を決める大事な局面だもん、怖気づいてられないよね！」）
　ウサギは久々の実戦の感覚に気を引き締めつつ、ムーンウエポンを構えるルディアナの次なる動きに備えるのだった。

●変幻武装ムーンウエポン
「さてと。出来る限り素早く片付けとくとすっかね……」
　昴が、Penetrateに矢をつがえ、狙いを定めて撃ち放つ。ルディアナは素早くムーンウエポンをフルムーンシールドに変形させたが、矢が彼女の肩を射抜く方が、速かった。
「なかなかやりますわね。でも、アテクシも弓の扱いは得意でしてよ。ご披露しますわ、ムーンウエポンが射撃形態『ニュームーンボウ』！」
　号令と共にムーンウエポンが限りなく細くなっていき、弓の弦を形作る。そしてルディアナが矢を引く仕草をすると、銀光の弦と矢がどこからともなく現れた。そして放たれた矢は、一直線に昴目掛けて飛んでいく。
「狙いが分かっていれば、軌道は見切りやすいです」
　だが、そこになつみが飛び込み、真剣白刃取りのように両掌で矢を受け止めていた。いや、そのはずだった。
「え？」
　放たれた銀光の矢は、掌で挟まれてなお威力を殺しきれず、その束縛を振り切りなつみの胸を貫いた。
「これは……思っていたよりも強力ですね。さすがは虎の子のタロット」
　穿たれた傷を集気法で癒しながら、なつみが呟く。
「遠距離攻撃で隙が無いのなら、接近戦ならどうですか？」
　弓を放った直後のルディアナに、薄く笑みを浮かべた舞がアームドリルを構えて飛び込んでいった。
「うふふ、タロットの武装をなめないで頂きたいですわね。ムーンウエポンが白兵形態『ハーフムーンブレイド』！」
　たちまち半円形になったムーンウエポンで、ルディアナは舞のアームドリルを受け流す。
「舞さん、えんご、するよー。うさぎちゃんも、いっしょ、お願い！」
　そのまま白兵戦に突入した舞を支援するべく、ファムがトーテムポールを構えた。さらに、
「ウチに任せといて、ファムちゃん！　おいで、ランクマっ」
　ウサギの指示に飛び出した霊犬のランクマが、口に咥えた刀でハーフムーンブレイドを跳ね上げると同時に、ファムの放った光の光弾が、ルディアナの脇腹を抉る。そしてその間に、ウサギは『虹色ウサギ』を舞に巻きつけ、その傷を癒していた。
「見ましたか、これが撫桐組の連携です！」
　仕上げとばかりに舞はアームドリルを回転させてルディアナの脇腹の傷にねじ込むと、反撃が来る前に素早く飛び退った。
「……やってくれますわね、灼滅者。アガメムノン様が警戒されていた意味、やっと理解できましたわ」
「なら、そのまま灼滅されてくれないかな」
　好機を逃さんと、血獄刀・涙絆を中段に構えた黒が、ルディアナに迫る。
「そう何度も後れを取るアテクシじゃありませんことよ！」
　そのまま振り下ろされる一撃を、ルディアナはフルムーンシールドで受け止めていた。だがその一撃で、わずかながらにムーンウエポンに傷ができる。タロットの武装といえど、傷一つ付かないという代物ではないということだ。
「大切なムーンウエポンに傷が！？　こうなれば、少々早いですが、切り札を切らせて頂きますわ。ムーンウエポンが殲滅形態『ルナエクリプス』！」
　ルディアナの宣言と共に、ムーンウエポンが、突如消失した。
「武器が消えた！？　よく分からないけど、今がチャンスっす！」
　ハリマが腰を低く落とし、渾身の張り手を放とうとした、その時。重い衝撃が、ハリマを吹き飛ばしていた。いや、吹き飛んだのはハリマだけではなかった。なつみや舞、黒といった前衛で戦っていた灼滅者達が一斉に、突然の衝撃に吹き飛ばされたのだ。
「な、なにが起こったっすか？　何も見えなかったし、何の前兆もなかったっす……」
　それでもなんとか受け身を取って立ち上がったハリマのつぶやきを耳にし、ルディアナは嘲笑を浮かべた。
「いかがかしら、不可視の一撃を受けた気分は？　避けることも受けることも適わぬ、まさに究極の一撃ですわ。誰一人戦闘不能に追い込めなかったのはちょっと残念でしたけど。でも、そこのワンちゃんはもう動けなさそうですわね」
　ルディアナの視線の先には、今にも姿が消えそうな霊犬のましろの姿があった。
「勝ち誇るのは、まだ早いぞ」
　だが、すっかり油断していたルディアナに、突如弾丸の雨が襲来した。見れば、そこにはガトリングガンを構えた紅の姿。
「あいにくと俺達は、こんなところで負けている暇はない」
　紅の言葉に、全員が頷いた。戦いは、まだまだここからだった。

●反撃
「いい加減に、くたばってくださいませ！」
　クレッセントブーメランが、前衛に立つ灼滅者達を大きく迂回し、後方に位置していた灼滅者達に襲いかかる。この一撃を受け、霊犬のランクマと円が、とうとう力尽きた。
「ランクマ！？　でも、これ以上はやらせないよ！」
　自身も少なくないダメージを負いながらも、ウサギは清めの風を吹かせ、体勢の立て直しを図る。
「まだ倒れませんの？　アテクシ、しつこい人は嫌いですわ」
「おまえに好かれようとか思ってねーよ」
　風を割いて、昴がローラーダッシュでルディアナに急接近する。そして、摩擦熱を纏った蹴りを、ルディアナのスカートに叩き込めば、炎はスカートに燃え移り、ルディアナの体を焼き始めた。
「うふふ、この程度の炎、暖かくて丁度良いくらいですわ」
「なら、もう少し火力を上げてやろう」
　強がるルディアナに、紅がガトリングガンの銃身を向けた。そして放たれた焼夷弾が、ルディアナのドレスを焼く炎をさらに激しく燃え上がらせる。
「くっ、忌々しい連中ですわね」
　キッと昴と紅を睨むルディアナ。だが、彼女が二人に気を取られている隙に、
「余所見をしていていいんですか？」
　なつみがルディアナの懐深く飛び込んでいた。
「どうやら、キュアは使えないようですね」
　そして、手の甲に集中して発生させたWOKシールドを、裏拳の要領でルディアナの腹部に叩き込む。
「小賢しいですわ。ハーフムーンブレイド！」
　だが、ルディアナがムーンウエポンを半月型に変形させた頃には、既になつみは後退しており、代わりに飛び込んできたのは、
「全力でぶつかるっす！！」
　ハリマの突っ張りだった。彼の全体重を込めた突っ張りを受け、大きくよろめいたルディアナだったが、
「この程度、アテクシには通用しませんわ」
　かろうじて踏みとどまると、上段からハーフムーンブレイドを振り下ろした。ルディアナに肉薄していたハリマにその一撃はかわしようがなく、切り裂かれたハリマの胸から血が噴き出し、その体が傾いていく。
「ふう。ようやく一人仕留めることができましたわ」
　ルディアナが満足げに息をついた瞬間。
「……まだまだ、土俵際ぎりぎりっす！」
　ハリマの勝負根性が、肉体の傷を凌駕した。
「な！？」
　予想外の事態に目を瞠るルディアナに、ハリマは渾身の張り手をお見舞いする。
「く、どうなっていますの！？」
　飛び退くルディアナだったが、
「ユメの世界荒らす子、めっ！　するよ」
　そこに、トーテムポールを振り回しながらファムが追いすがった。大型のトーテムポールの作る微妙な間合いに、ハーフムーンブレイドも届かない。
「ならば、クレッセントブーメランですわ！」
　ムーンウエポンを三日月状に変形させ、ファム目掛けて投げつけるが、
「その技、もう見切ったよ！」
　ファムは身軽にジャンプすると、なんと口でブーメランをキャッチして見せた。
「な、なんて非常識な……」
　そして、動揺するルディアナの隙を、舞は見逃さなかった。
「悪を極めんとした男の業（わざ）と業（ごう）を見なさい。血河飛翔っ、濡れ燕！」
　ルディアナに急接近すると、日本刀『濡れ燕』を目にも止まらぬ速さで一閃。その一撃は、ルディアナの顔を覆っていたヴェールを切り裂いていた。
　露になったルディアナの顔には、何もなかった。目も鼻も口もなく、ただ黒い影が渦巻くのみ。
「ア、アテクシの顔を、顔を、よくも見てくれやがりましたわね！！　こうなれば、あなた方を皆殺しにするのみですわ。喰らいなさい、不可視の一撃、『ルナエクリプス』！！」
　次の瞬間、ファムが咥えていたはずのムーンウエポンが、消失した。
　そして、不可視の衝撃が、前衛を再び襲い――、
「姿が見えずとも、実体があるのであれば！」
　だが、以前のようにムーンウエポンがルディアナの手元に戻ることはなかった。なつみが、その身を盾とし抱え込むようにしてムーンウエポンを受け止めていたのだ。
「な！？　不可視の一撃を止めるだなんて！」
「同じ攻撃が何度も灼滅者に通用すると思ったら大間違いです。自分のところに攻撃が来ると分かっていれば、こうして止めようもあります」
　だが、その代償は大きく、なつみは前のめりにそのまま倒れてしまう。これ以上の戦闘続行は、無理そうだ。
「……でも、もう戦いは終わりますから」
「その通りだよ」
　疾風のように動いたのは、黒だ。鞘に納められた血獄刀・涙絆の柄に手をかけ、ルディアナに迫る。
「ち、近寄らないで！」
　ルディアナは咄嗟に手を正面に突き出すが、そこには今、身を守ってくれるフルムーンシールドは、ない。
「これで終わりだ、ダークネス」
　交差する寸前に抜き放たれた血獄刀・涙絆が、ルディアナを一刀両断に切り裂く。
　黒が刀を再び鞘に戻した時には、ルディアナの体は闇に溶けるように消えさっていた。

●戦いの行方
「戦況は、どうなっているのかしら？」
　ルディアナを撃破し、ようやく余裕ができた舞が、周囲の状況を確認しているウサギに尋ねる。
「うーん。近くに他のタロット兵はいないみたい。雑兵もこの辺には布陣してないね」
「このまま勢力が固められたら後々の戦いが間違いなく面倒になる。できれば一体でも多く潰しておきたかったが」
　紅も周囲を見回しつつそう呟いた。だが、紅自身も含めて全員が、浅くない傷を負っている。流石に連戦は厳しそうだ。
「色々とソウルボードに謎があるらしいっつっても、こんな騒々しかったら調査もへったくれもねーしな。撤退した方がいいんじゃねーのか？」
　昴の提案に、反対する者はいなかった。幸い、タロット兵撃破に向かった他のチームも無事任務を達成したようで、同じように撤退する姿を見かけることができた。
（「救出の方に向かった班も頑張って……！」）
　ハリマは、ここからでは様子をうかがうことも出来ない仲間達の無事を祈る。
「ユメの世界、アタシのカミさまもいるのかな？　探してみたかったな」
　なつみに肩を貸して撤退しながら、ファムは一度戦場の方を振り向いた。
　このシャドウ大戦への介入行為がどのような結果をもたらすのかは、まだ誰にも分らない。

作者：Ｊ九郎	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年11月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 5
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