シャドウ大戦介入～一縷の希望をここに

■リプレイ

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　灼滅者達は、戦場を走っていた。
「やはり、携帯電話は使えないようですね」
　虚中・真名（緑蒼・d08325）は手にした携帯電話とチェーロ・リベルタ（忘れた唄は星になり・d18812）を交互に見比べ首を横に振った。
「そのようですね」
　箒から降りたチェーロも、携帯電話が使えないことを再度確認し頷く。
「仕方ないですね。今は敵を探しましょう」
　通信機器の確認をしていた若桜・和弥（山桜花・d31076）がそう言って望遠鏡を覗き込んだ。
「こっちだ、あそこに弓を持ったヤツがいるぞ」
　同じく、望遠鏡で周辺を確認していた吉沢・昴（覚悟の剣客・d09361）が皆を呼ぶ。
「まだこちらには気づいていないようだな」
　慎重に天宮・黒斗（黒の残滓・d10986）がそちらへ目を向けた。どうやら巨大な弓を構えたタロット兵のようだ。身体の二倍ほどもある美しい造形の弓がいっそう目を引いた。『恋人』のカードに描かれている、さながらキューピッドのようだ。
　もちろん、タロット兵は恋人を祝福するのではなく、おそらく辛辣な攻撃を繰り出してくるのだろうけれども。
　この位置からなら、うまくいけば死角から回りこめるかもしれない。
「あの一体だけ、他に敵は見えないの」
　古室・智以子（花笑う・d01029）が仲間達に確認した。
　走れるか。
　そして、戦いの準備は良いかと。
「こうなった以上は少しでも手助けしなきゃ大変だものね、被害が大きくなる前に……」
　博麗・夢羽（博麗の巫女・d16507）が小さく頷く。
　決戦兵力であるタロット兵を撃破し、タロットごと灼滅する事ができれば、デスギガス軍に大きな打撃を与える事ができるはずだ。
「戦力削りは大事だからな。頑張ろうぜ」
　黒斗が言った。
「行きますです」
　手持ちの神札を確認し、日野森・翠（緩瀬の守り巫女・d03366）が真剣な表情を浮かべる。
「それから、妹のさっちゃんとクリスマスを過ごすためにも、絶対に帰るのですよ！」
　今回は皆で帰ることを大前提に、回復役を務める心積もりなのだ。
　灼滅者達が互いに視線で確認しあう。
　皆が了承の意志を返した。
　そうと決まれば、ただ走り出すのみ。
　弓を構えたタロット兵に向かい、それぞれが駆けた。
「咲け、初烏」
　智以子がカードを掲げ、解除コードを叫ぶ。
　すぐに対敵の時だ。
　素早く、静かに、慎重に、そして大胆に。
　それぞれが己の信念を抱き戦いに挑んだ。

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　和弥が眼前で両拳を撃ち合わせた。
　これは暴力で物事の決着を図る、その意味と伴う痛みを忘れない為のルーティーンだ。少し長めに息を吐き出す。
「それじゃあ、行きますか」
　妖の槍を繰り、力を込めて地面を蹴り、一気に敵との距離を詰めた。
　タロット兵がこちらに視線を向けるのが見える。
　かまわず妖の槍を突き出した。
　螺旋の如き捻りを加え、一気に敵の体を貫き抉る。
　次に全くの間をおかず同じ場所を斬り裂く筋が見えた。
「――」
　昴の黒死斬だった。
　回避も防御も考えない、懐の深い部分に踏み込んで来ていたのだろう。この後、攻撃の命中精度を確保するためにも、どうしても命中させておきたかった一撃だ。
　タロット兵が弓を横に薙ぎ二人を引き剥がそうとする。ダメージを与えないような威嚇の動作だった。
「良い、飛べ」
　短く黒斗の声が聞こえる。
　昴は和弥に向かって引くように合図し、自身も後方に飛び退いた。
　二人が敵から離れたのと同時に、黒斗が反対側から飛び込んでくる。
　黒斗は迷い無く縛霊手を掲げ、勢い良く殴りつけた。硬いと言うより、弾力があると言った感触だ。いきなり砕くのは難しいだろう。
　だが、と。
　網状の霊力を放射し、敵を縛り上げる。
「そのまま、お願いします」
　次に真名が己の片腕を異形巨大化させ、もがくタロット兵を殴りつけようと飛び上がった。
　だが、その腕が空を切る。
「そ――」
　驚くほどしなやかに、身体をそらしたのだ。
「大丈夫。次はよく狙えるわよ、きっと」
　夢羽が天星弓を構えた。
　着地した真名に向かい、癒しの矢を放つ。
　頷き、真名は一旦敵と距離を取るため、後ろへ走った。
　その間に、タロット兵が弓に矢を番える。
「やはり、弓を武器に使うようですね」
　敵の動作を注意深く観察していたチェーロが仲間達に注意を促した。
　美しい弓と対になるようにデザインされた繊細な矢が、真っ直ぐ黒斗に向く。
　気付き、すぐに後方に跳んだ。
　が、凄まじい勢いの矢が放たれ迫ってくる。
　周りの風と力を全て巻き込んでいくような強烈な一撃だ。
「大丈夫なの。ちゃんと守るの」
　その時、近くに居た智以子が身体を滑り込ませてきた。半歩下がった黒斗の前で身体を張り、放たれた矢と衝撃を全身で受け止めた。
　敵の矢の勢いは止まらず、智以子はその姿勢のままずるずると押され、沈んでしまわないよう地に膝を付ける。
　黒斗が駆け寄って智以子の様子を確認した。どうやら勢いに押されたものの、致命傷ではないようだ。
「すぐに回復してください」
　仲間から敵を離そうと、チェーロがサイキックソードで斬りつける。
　次の矢を手にしようとしていたタロット兵は、チェーロの動きを警戒し後方へステップした。
「大丈夫か？」
「はいなの」
　頷いて智以子は黒斗の手を取る。かなり威力の高い彗星撃ちのような技だと思った。
　智以子は自分の傷を庇いながらシールドを広げ、近くに居る仲間達への守りとする。
「わたしも回復しますですよ！」
　傷の状態を見て、もう一つ回復を重ねたほうが良いと判断し、翠が護符揃えの神札を飛ばした。護符は智以子を守るように舞い、傷を癒すと同時に悪い効果から守るように力を開放した。
「すぐに次の攻撃が来るわよ！　気をつけてね」
　夢羽が仲間に呼びかける。
　タロット兵はまだまだ機敏に動いていた。
　戦いは続く。

●
　弓を持つタロット兵は、バランスの取れた能力のように感じられた。
　突出した力がない代わりに、攻守共に隙が無く一気に攻め切ることができない相手だった。押せば引く、かと思えば積極的に攻めてくる。灼滅者達は、このタロット兵を上手く戦う敵だと感じていた。
　だが、己の強さに自信があるゆえか、タロット兵は他に仲間を呼ぶことはしない。
「それに、戦術的な動きに優れていると言うことは、それだけどう動くか分かりやすい」
　黒斗が武器を手に、走るスピードを上げた。
　それに追随するように昴も足を進める。
　二人はチラリと視線を交わした後、急に二手に分かれて跳んだ。
　タロット兵が弓を番えつつ、後方へステップする。
　まずは黒斗が敵に迫り斬りつけた。
　ゆらりと、タロット兵がそれを避ける。瞬間、敵の背後から昴の日本刀伸びてくる。一瞬のティアーズリッパーだ。
　敵の動きが鈍った頃合を見て黒斗が返す刀で力を込めて斬り裂く。
　ダメージが綺麗に入ったのを見て、和弥も踏み込んできた。
　デスギガスの独り勝ちは確かに避けるべき事で。その為に仲間から犠牲が出るのも避けるべき事だ。
　成程、考えるべき事は山積みだが、遣るべき事は存外に明白だ。
「なら今は、全力でそれを為そう」
　黒死斬を放ち、敵の急所を断ち切る。
　良く見ると、タロット兵の足の動きが鈍っているのが分かった。少しずつ、少しずつ、積み重ねてきた効果が出始めているのだ。
　続けて、チェーロが狙い済ましたサイキック斬りを放つ。
　斬った感触が手に伝わってきた。
　確実にダメージを与えているのだと確信する。
　それでも、タロット兵は傷を庇いながら身体を斜めにして、灼滅者の包囲から逃げた。いつの間にか手元の弓には複数の矢が番えられている。
「散ってください、列の攻撃が来ます」
　気付いたチェーロが声を上げた。
　後列に位置している仲間達が方々に散る。
『光の刃となりて、貫け流星の矢よ』
　タロット兵が不気味な声を上げ、複数の矢を天に向かって放った。
　矢は勢い良く飛び散り、灼滅者を貫かんと降り注ぐ。
「大丈夫です、こちらへ」
　真名が近くに居た翠に手を伸ばし、急いで背に庇った。
　まるで百億の流星群のようだと思う。いくつかの矢が束になり、高速の光の刃と化して真名に突き刺さる。
「――っ」
　この戦いの中、すでに幾度も仲間を庇っている真名は、確実に体力を減らしていた。
「そちらはどうですか？」
　同じくチェーロを庇っていた智以子に声をかける。
「大丈夫なの、回復を――」
「すぐに回復しますです。真名さんも回復をお願いしますです」
「はい。僕は自分で回復できます」
　翠の防護符が智以子に飛び、真名はダイダロスベルトで自身を覆い、回復と守りを固めた。
「後列は私が回復させるわ。みんな頑張ろうね、ここが踏ん張りどころよ！」
　夢羽も声を張り上げ、防護符で自分の傷を癒していく。
「この、こっちに注意を向けさせるの！」
　傷の回復を受け、智以子が飛び上がった。
　次の矢を用意しようとしているタロット兵の頭を、盾で思い切り殴りつける。
　敵がぎりぎりと顔をゆがめ、智以子を凝視した。
「さあ、もう一息よ！　回復は足りてる？　まだみんな、いけるよね」
　深い傷を負った仲間は居ないか、回復の手は足りているか、夢羽が仲間の間を走り確認して回る。
　致命的な傷を負っている者は居ない。もちろん、癒せない傷は蓄積されているけれど、まだ、まだ皆が戦える状態だ。
　タロット兵が再び矢を弓に番える。
　つぶさに観察していた灼滅者達は感じた。敵の動きがずいぶん鈍ってきているようだ。それに、防具もボロボロで、傷も見える。
　あと一息。
　確実に敵を追い詰めていると実感し、仲間達は走り続けた。

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　突然タロット兵が、今までにない動きをする。何事かと注意深く見ていると、癒しの力を込めた矢を自分に放った。
　ここに来ての回復。しかし、それだけ敵も切羽詰っているのだろう。
「行くぞ」
　再び黒斗と昴が走る。息のあった二人の動きを避けることなど、できるだろうか。
　二人はそれぞれが死角から刃を伸ばし、鋭く素早くタロット兵の身体を切り裂いた。
『な、なぜ、このような――』
　はじめて、敵の口から弱気な言葉が出る。
「炎だって効いているはずです」
　そう言って、真名は何度目かのグラインドファイアを放った。
　炎を纏った激しい蹴りがタロット兵の身体を焼き抉る。炎は飛び散り、一層敵の身体に纏わり付いて燃え上がった。
　雷に変換した闘気を拳に宿し、智以子も敵の懐に飛び込んでくる。
「みんな頑張ったの！　吹き飛ぶといいの！」
　そしてくるりと身体を回転させ、勢い任せにアッパーカットを叩き込んだ。
『――』
　敵の身体が吹き飛ぶ。
　それでもなお空中で弓を構える姿を見て、チェーロがサイキックソードを構えた。
「させません」
　力いっぱい地面を蹴る。
　チェーロは一気に空中へ跳び、弓を上手く制御できずもたついている敵に向かってサイキック斬りを放った。
「ここは、攻撃を重ねますですよ」
「了解、あと一押しね」
　翠と夢羽は頷き合い、攻撃を叩き付ける。
　灼滅者の畳み掛けるような猛攻になす術も無く、タロット兵が深い傷を負った。
　姿勢を制御できず、放物線を描いて落下し、激しい音を立てて地面に追突する。
『な、あ……』
　そのまま立つことも出来ず、地面を転がった。
「さて、いきますか」
　最後に和弥が拳を握り締める。
　ありったけのオーラを拳に集束させ、跳んでタロット兵の正面に出た。
『！』
「取りました」
　敵は起き上がれない。
　和弥はここぞとばかりに痛烈な連打を繰り出した。
　幾度も拳を打ちつけ、最後に残った残骸までも打ち砕く。
　気付けば、もうタロット兵は崩れ落ちていた。
　仲間達が集まってくる。
　皆の無事とタロット兵の消滅を確認し、灼滅者達は次の行動に移った。
「できれば、あと一体、ですね」
　翠が辺りを見回す。
　全員が立っている。だが、皆無傷ではない。もし連戦するなら、ポジションを換えて挑むことになるだろうか。
　だが、周辺に他の兵の姿は無かった。
「タロット兵の数がかなり減っているようね」
　夢羽の言葉に、仲間達も頷く。
　チェーロは撤退支援を行っているはずの義理の姉のことを思った。
　きっと、自分達の戦いが、他の場所で戦っている学園の仲間の助けになったはずだ。
「敵の主戦力であるタロット兵を、沢山灼滅させることが出来たはずです。この結果は、今後のシャドウとの戦いを有利にするのではないでしょうか」
　そう言って、和弥は武器を下げた。
　やはり周辺に敵影が見えない。
「戻ろうぜ、これ以上、ここに居ることはない」
　いまだ敵地に居ることに変わりはない。
　昴は慎重に辺りを確認し、仲間達を促した。
　皆が頷く。
　敵の主戦力であるタロット兵を灼滅したことは大きい。
　きっと、この戦いの結果は、今後のシャドウとの戦いを有利にする事だろう。
　灼滅者達はその結論を胸に、撤退した。

作者：陵かなめ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年11月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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