シャドウ大戦介入~闇迸る戦火

    作者:六堂ぱるな

     
     無数のシャドウがひしめく。
     響き渡ったのは黄金の大将軍、アガメムノンの大音声。
    「全軍攻撃を開始しなさい。コルネリウスとオルフェウスの2人は、この戦場で必ず討ち取るのです!」
     雑兵に過ぎない凡百のシャドウでも、圧倒的な数がいれば力たりうる。囲まれたコルネリウスの軍勢は少数精鋭なればこそ善戦しているが、包囲する無数のシャドウは尖兵。
     アガメムノンから『タロットの武器』を与えられたタロット兵たちが、後方から戦局にとどめを刺すべく動きだしている。もはや生中なことでは、敗北という結果は動かない。
     防戦一方のコルネリウス陣営の中で、レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)は焦燥に胸を噛まれながら踏みとどまっていた。
    (「このままでは、この戦いは負ける。武蔵坂、来ないつもりですか?」)
     シャドウ大戦への介入を選んだのか。だとしてもダークネスから見れば不思議はないが――レイは戦い続けていた。その遥か後方、陣営の中心で慈愛のコルネリウスが、大津・優貴先生に語りかける。
    「すみませんが、あなたを逃がす余裕は、どうやら無いようです」
     頷き返す優貴先生の目には決意が見てとれた。
    「覚悟はできています。いざとなれば、私は死んで、武蔵坂を守りましょう」
     シャドウ大戦を制したデスギガス軍が学園に攻め入るのを防ぐ。生徒を守るべき立場の教師として、それしか出来ることはないのだから。
     
    ●影の世界の四面楚歌
     サイキック・リベレイターの照射先はシャドウ。その結果かけられた緊急招集に応じた灼滅者たちへ、入室してきた埜楼・玄乃(高校生エクスブレイン・dn0167)が一礼した。
    「シャドウの状況が判明した。シャドウ大戦は佳境、歓喜のデスギガスの軍勢が圧倒的な力をもって、慈愛のコルネリウス陣営を包囲し殲滅戦を開始する」
     ざわっと教室内の空気が波だった。
    「シャドウ大戦の勝敗を覆すのは、現状ではほぼ不可能だ」
     それほどに戦力差は大きい。しかしコルネリウスの元には大津・優貴先生も、今はシャドウとはいえレイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)もいる。
    「我々の今後の為、戦いに介入し可能な限りのシャドウを倒すことで戦力を減らしておくことはできる。諸兄らに可能と思われることは作戦提案書に記載しておいた」
     いつもよりはるかに分厚い提案書を配りながら、玄乃は表情を引き締めて告げた。

     たとえば、デスギガス軍の決戦兵力たるタロット兵の灼滅。非常に強力だが単騎で行動しているので狙いやすい。素早く撃破できれば、別のタロット兵の襲撃も可能だ。
     安全性の高さで考えるなら、負傷したシャドウの灼滅。デスギガス軍は傷ついたシャドウを後方へ回し、前線に無事なシャドウを逐次投入している。傷ついたシャドウなら危険も少なく、より多く殲滅できるだろう。
     要救助者の撤退支援も手だ。戦場で孤立した灼滅者は勿論として、大津・優貴先生もレイ・アステネスもいる。シャドウの中でもコルネリウスとオルフェウスへはアガメムノン軍からの執拗な追撃が予想されるので、相当数の支援部隊が必要になるだろう。
     
     コルネリウスの軍勢に合流し、慈愛のコルネリウスや贖罪のオルフェウス、グレイズモンキー、レイ・アステネスと共闘することもできる。言うまでもなく極めて危険性の高い行動だ。撤退支援チームに支援してもらえない場合は死亡するかもしれない。
     そして博打になるが、戦いの最終局面で、デスギガス軍の総大将、大将軍アガメムノンを暗殺する作戦を行うこともできる。
     戦いの結果デスギガスの軍を大きく消耗させられたなら、成功する可能性があるだろう。もし大将軍アガメムノン暗殺に成功した場合はデスギガス軍は撤退するので、こちらで撤退支援を行う必要がない。
    「だとして、デスギガスの軍勢にはまだ余剰戦力がある。シャドウ大戦に勝利とはいかないが、この戦いを収めることは可能だ」
     それですら綿密な連携と対応が噛み合えばの話。
     作戦会議を始める一行の前で、玄乃は深々と頭を下げた。
    「極めて危険な選択肢もある。諸兄らの選択に口を出すことはできないが、どうか……無事に戻ってくれ。心より祈っている」


    参加者
    風宮・壱(ブザービーター・d00909)
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    志賀野・友衛(大学生人狼・d03990)
    東雲・悠(龍魂天志・d10024)
    コロナ・トライバル(トイリズム・d15128)
    茂多・静穂(千荊万棘・d17863)
    木津・実季(狩狼・d31826)
    赤松・あずさ(武蔵坂の暴れん坊ガール・d34365)

    ■リプレイ

    ●争う闇と闇
     両軍の激突が生む震動が、ソウルボードを揺るがしていた。
     灼滅者の一部は既にあの嵐のような戦場の中にある。時を待ちかねた天方・矜人(疾走する魂・d01499)はつい唸った。
    「最初からクライマックスだな」
    「いつの間にこんな喧嘩をしていたんですか。ダークネスって基本仲良しって訳じゃないですけど、特にシャドウは同族同士の仲が悪すぎですよねぇ」
     戦いを眺めながら木津・実季(狩狼・d31826)がぼやく。アリアドネの糸を用意してはあるが、なにしろあの乱戦だ。どこから脱出になるかわからず、ここへ戻らないなら活用できそうにない。
    「通信はできないみたいだな」
     携帯とハンドフォンの状態を確認しながら東雲・悠(龍魂天志・d10024)が眉を寄せた。シャドウの戦場で、敵対する灼滅者の通信機器が通じなくても不思議はない。
    「そういうソウルボードなのかな、やっぱり」
     作動しないワイヤレスイヤホンを手に風宮・壱(ブザービーター・d00909)が応じ、その背にもたれる翼猫のきなこの尻尾でちりんと鈴が鳴る。
     シャドウの勢力が大きく変わる戦いを目の当たりにして、志賀野・友衛(大学生人狼・d03990)は乱戦に見入っていた。忙しく動く狼の耳と尻尾が彼女の集中具合を物語る。
     オルフェウス――スペードの首魁、一番気に食わない相手だ。身の内にシャドウを宿す茂多・静穂(千荊万棘・d17863)の表情は強張っていた。もちろん悠にしても複雑な心境ではある。
     二人をちらりと見やった赤松・あずさ(武蔵坂の暴れん坊ガール・d34365)が、寄り添う相棒のバッドボーイを撫でて気合を入れ直した。
    「オルフェウス……ヒールを助けて共闘ってとこか。燃えるッ」
     学園にとって彼女は「悪役(ヒール)」でしかない。だがここから生まれる新たな展開を思えば血が沸くのは、プロレス精神の性というものだ。悠の傍らに立つコロナ・トライバル(トイリズム・d15128)が首を傾げる。
    「辿り着くまでは、他の班と固まって一気にいかないとだね」
     オルフェウスはコルネリウスの拠点の中にいるはずだが、戦力は恐らく限界が近い。
     と、双眼鏡で戦場を偵察していた班からの割り込みヴォイスが聞こえてきた。
    「オルフェウスはおそらく拠点内にいる。戦況はかなり悪いようだ、コルネリウス軍が何とかもちこたえてるけど――」
     その時、突如として戦場の一角に穴が空いた。そこを突破点にコルネリウス軍がずるずると後退を始める。今だ、と槌屋・康也が叫ぶ。
    「この期に乗じて、オルフェウスの元へ駆けつけるぞ!」
     いよいよだ。タクティカル・スパインを携え、矜人が鼓舞するように声を張った。
    「おし、気合入れてくぜ!」
    「おう!」
     愛用の槍の感触を確かめて悠が頷き、一行は目的が同じ班に続いて乱戦へ突入した。

    ●贖罪の選択
     灼滅者たちはシャドウの中を駆け抜けた。前を駆ける仲間とはぐれないよう足は止めず、前へ進むのに邪魔な敵を攻撃する。時折傷ついたシャドウが現れたが、とどめをさすことより孤立しないことが重要だ。進路を阻むものを打ち払い、前の班の後に続く。
     戦線を突破してコルネリウス側の拠点へ到達すると、オルフェウスの傍には護衛として控えるグレイズモンキーの姿もあった。なだれこんできた灼滅者を見て、オルフェウスが素直に驚いた顔をする。
    「灼滅者……?! 何故……」
    「こンにちわ、武蔵坂発★どシリアスなヌッ殺し合いをブチ壊しにし隊DEATH! 食材のオル公チャン、元気DEATHかァーーー!!」
     楯守・盾衛が高らかに名乗り返した。すぐさま灼滅者が次々にオルフェウスに撤退するよう語りかける。ところがオルフェウスは首を縦に振らなかった。
    「ココで死ぬ定めとか言うなよ。生存望むバカの集まりだぜ、コレは」
    「なあ、ここまで来てやったんだ。意地張るのはよせよ」
     赤槻・布都乃と丹下・小次郎が言葉を重ねても、色よい返事は返らなかった。だからといって諦めるわけにもいかない。壱が穏やかながらも退かぬ決意をこめて後に続く。
    「大津先生とコルネリウスの協力者なことは事実だし、恩のあるやつを見捨てる気はないよ。それに、本番はこの戦いの後に始まるから。オルフェウスに今、舞台を降りさせるわけにはいかないんだ。勝手でゴメンね」
    「こんな喧嘩で死なれては困る方が居ますし、喧嘩中に申し訳ないのですが、横槍を投げさせて頂きますよ」
    「私がただ去ったのでは、今この場で相争う全てのシャドウたちの罪を誰が贖うのだ」
     ため息交じりの実季の言葉もにべもなく切り捨てられ、静穂も口を開いた。
    「互いの利害の為でもあります。護衛させてもらえませんか?」
     言葉はなく、見据えられた静穂は二の句が継げなくなった。――自ら傷を引き受ける行為が過去に堕ちたことへの贖罪だと、見透かされている気がして。
    「ほら、大学生のトーク力でオルフェウスを口説き落とすんだ」
    「俺っ?! あー、なんだ。行くとこないんだろ、だったら俺たちと一緒に行こうぜ」
     コロナに肘でつつかれた悠が慌てて口を開いたが、返ってくるのは氷のような視線のみ。聞きようによってはナンパじみた言葉に、コロナが冷めた目で悠にツッコんだ。
    「こんな状況で何やってるの?」
    「ねえ、一緒に来てくれない? あんたに今死なれたらあたし達も困るからね!」
     あずさも懸命に訴えたが、応えずオルフェウスはグレイズモンキーに向き直った。
    「この戦いで倒れた全てのシャドウの罪と共に、私もこの戦場に倒れよう。それが私の『贖罪』となるだろう」
    「フェン、フェン!」
     興味深くやりとりを聞いていた友衛は、話の決裂に焦りで胸を噛まれる想いだった。他のメンバーも目を見交わす。オルフェウスは頑として撤退に同意せず、グレイズモンキーも動こうとはしない。こうしている間にも敵は迫ってくる。
     どうすべきか。

    ●それぞれの決断
     灼滅者たちの表情に焦りが見え始めたその時、
    「『贖罪』を果たす機会はまだあるッスよ」
     届いた声は高宮・琥太郎のもの。そこには灼滅者たちと、
    「優貴先生!」
     真っ先に姿を見つけた榛名が言った。優貴先生とその撤退支援班がやってきたのだ。
     琥太郎がコルネリウスが撤退に同意したことを伝えると、オルフェウスは興味を持ったようだ。いい方へ傾いたとみた撤退支援の露払いを担う班が、退路の確保に動き出した。
    「話がついたら、一気に『みんなで』撤退だ!」
    「俺たちも行こうぜ!」
    「支援します」
     久良が仲間とこの場を一時離れていくのを見て、援護を担当する班も動き出す。
     優貴先生と撤退支援班が提示したのは、優貴先生のソウルボードにコルネリウスが常駐するので、オルフェウスにも来て欲しいというものだった。優貴先生が死なずに済み、デスギガスが攻めてきても学園がすぐ駆けつけられる。
    「オルフェウス。どうか、私達と一緒に来て頂けませんか? お願いします」
    「……良かろう。そこまで言うのなら、私もお前達について行こう」
    「フェンフェーン」
     優貴先生の言葉に遂に首肯したオルフェウスに、グレイズモンキーが話し掛けた。
    「わかった、お前の罪は、全て私が引き継ごう」
     どうやら彼は残るらしい。アガメムノンを振り切るにはやむを得ないだろう。グレイズモンキーは残念だが、友衛は思わずほっと息をついた。
     サイキックハーツを否定した灼滅者と、サイキックハーツを目指すオルフェウス。
     両者が共に進める道は、これから見出されるのだろうか。
    「話がついたみたいだぜ。やれやれ、オルフェウスも隅に置けねえな。追っかけが大量だ」
     とうとう拠点内にまで到達したデスギガス側のシャドウを殴り倒しながら、撤退の道を開くべく先に動きだしていた班へ矜人が声を張り上げた。
     優貴先生と撤退を始めたオルフェウスを見送った静穂も、シャドウひしめく前を向く。
    「デスギガスを倒す為にも、しっかり守り抜きます!」
     そう、全てを賭けてでも。
     複雑な思いを抱えようとも、悠とて腹は決まっている。
    「こんだけ手間かけさせやがったんだから、少しは恩にきてくれよ……決まったからには守り通すからな!」
    「さあ、ヒーロータイムだ!」
     開戦を告げる矜人の声と共に、悠は迫るシャドウを蹴って宙に高々と舞った。槍を手に加速をつけて飛びかかり、渾身の刺突がシャドウを貫く。
    「さー負け戦だ。乗り越えましょ、バッドボーイ!」
     炎をまとったローリングソバットで近づくシャドウを蹴り飛ばすあずさに応え、バッドボーイが前衛たちの傷を癒す光をリングから放った。シャドウの群れを押しとどめようと結界を張る壱の横で、かったるそうなきなこの尻尾の鈴が光る。
    「へいへいお触りは厳禁だぜ? ……厳禁だっつってんだろーが!」
     迫りくるシャドウの顔面に矜人が雷光弾ける拳撃を食らわせ、死角からシャドウを引き裂いた実季が微笑んだ。退路を切り開いていった班に遅れずついて行かねばならない。
    「他の班と分断されないようにしましょうね」
    「そうだな、気をつけよう」
     敵の真ん中に焦点を絞った友衛が、全ての熱を奪う死の魔法を解き放つ。
     仲間へ向かうシャドウ数体の攻撃の前に身を投げだし、静穂が声をあげた。
    「さあ、もっとです! もっとこっちに!」
    「大丈夫かな、無理してない?!」
    「だからこそ回復は必須っぽいぞ」
     互いの死角を補い合いながらぼそぼそと囁きあうコロナと悠の視線が更に刺激する。
    「ああ、敵からも味方からも浴びるこの視線……っ!」
    「いやボクたちそんなつもりじゃ」
    「もっと見て下さっていいんですよ!!」
    「すごく嬉しそうよ?!」
     コロナの否定とあずさのツッコミを全スルー。痛みと羞恥を存分に味わいながら静穂は拘束服の上から全身を縛めるベルトを操り、縛霊手で結界を仕掛けていった。

    ●追いすがる脅威
     優貴先生とオルフェウスが、露払い担当班と戦場を後にしたという報告が届いた。
     あとはできる限りのシャドウを撃破して、自分たちも他の班と撤退するだけだ。しかしシャドウの数が多い。実季を狙う火線を防いだきなこが消しとび、壱が唇を噛んだ。
    「タロット兵!?」
     その警告は背後、仲間を支援し警戒にあたっていた班の槌屋・康也から発せられた。
    「来たぞ!」
     割り込みヴォイスを使った声が鼓膜を打つ。
     見れば、味方のシャドウすら蹴散らし肉薄するものが携えているのはタロットの『運命の輪』だ。外周がチェーンソー剣のように回り始め、康也とフランキスカが跳ね飛ばされた。近くにいたヴォルフも大きく斬り裂かれる。
    「あのタロット兵、無傷なのか?!」
    「下がって、志賀野さん。危ないよ」
     尻尾の毛を逆立てた友衛を制して壱が前に出た。静穂とあずさ、三人で防衛線を敷く。
     ヴォルフに続いて久良が斬撃で倒れ、仲間が彼らを支えて退く瞬間に実季が斬りこんだ。鮮やかな剣閃がタロット兵を捉え、悠の放った氷弾が追い討ちに命中する。シャドウの漆黒の弾丸を受けてバッドボーイがかき消えた。
    「負けは勝ちへの布石! だから生き残らないとね!」
     美しい軌道を描くあずさのドロップキックを叩きこまれタロット兵が退いた隙に、コロナが交通標識を構えて前衛たちを癒す。
     タロット兵も再び前進してきた。高速回転する輪が前衛を薙ぎ払う。
    「痛みは私が引き受けます……っ!」
     矜人を切り裂くはずだった斬撃を受け止めたのが、静穂の限界だった。華奢な身体が吹き飛ばされ、すぐさま抱えてコロナが下がる。
    「前列回復しとくね!」
     緑色のシールドを展開しながら壱が声をあげた。けれど前衛、特にあずさの傷が深く、治療が追いつかない――そこへ、癒しの力をこめた霊力や祝福の言葉を変換した風がとんできた。同じ撤退支援班の中から、今井・紅葉と亜寒・まりもがフォローしてくれたのだ。
    「つらい怪我は、だめ」
    「どーんといこっ!」
     祈るように指輪へ口付ける紅葉、溌剌としたまりも、二人の声が力をくれた。
    「ありがと! あとは気合よね!」
     立ち上がりウィンクをとばしたあずさがギターで力強いビートを刻む。
     矜人の聖鎧剣ゴルドクルセイダーが破邪の光を放ってタロット兵を斬り裂き、友衛の掲げた白炎灯籠から牡丹の花のような紅蓮の炎が迸った。
    「止まれ、こいつっ!」
     悠が操る影がタロット兵に絡みつき、軋む音をたてて全身を縛める。傷の嵩んだ壱へコロナが盾の加護と癒しをかけている間に、実季の放った氷の呪いがタロット兵を蝕みダメージを刻みつけた。しかし、まだタロット兵は止まらない。
    「きゃぁぁっ!」
     回転する輪に切りつけられたあずさが意識を失った。慌ててコロナが駆け寄る。
     壱のBrave Heatが橙色に輝き炎に包まれ、かちあげるような一撃を食らわせた。友衛がバベルブレイカーのジェット噴射で背後をとると、死の中心点めがけ杭を叩きこむ。
    「天方先輩、頼む!」
    「スカル・ブランディング!」
     背骨のような意匠のタクティカル・スパインが轟音たてて捻じこまれ、流れ込む魔力がタロット兵を内側から痛めつけた。よろけた隙に距離をとり、更に後方へ退く。撤退したいところだが、背中にあの攻撃を食らってはたまらない。

    ●すべてを終えて
     その時、激しい揺れが起きた。しかも徐々に強くなっていく。
    「あれは……?」
     小次郎の声に誘われ、撤退支援の班の者たちは彼の視線を追った。
     彼方から地割れが生まれてこちらへやってくるのが見える。シャドウと灼滅者の間を引き裂き、ソウルボードの亀裂は更に進んでいった。
     それはコルネリウスによって起こされたものだった。亀裂を超えての移動を許さないらしく、こちらと分断されたシャドウたちがうろうろしている。
    「こっちに来られないみたいだね」
    「助かったな、好都合だ」
     自身の傷を癒しながら壱が首を傾げ、友衛が安堵の息をつく。友衛の傷を癒した実季が、怪力無双で静穂とあずさを抱えたコロナに声をかけた。
    「一人で大丈夫ですか?」
    「ボクなら全然平気だよ!」
    「さすがわんこはパワフルだよな。ってぐぉっ!?」
     コロナの肘が鳩尾に入った悠が悲鳴をあげる。遅れた仲間がいないことを確認し、矜人はシャドウたちへ陽気に手を振った。もうこの場に用はない。
     「邪魔したな、また会おうぜ!」

     仲間の生命、連れて撤退すると決めたものたち、敵の戦力減殺。
     的確に戦力を配分した灼滅者たちは、選んだものをすべて手に入れてソウルボードを後にしたのだった。

    作者:六堂ぱるな 重傷:茂多・静穂(千荊万棘・d17863) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年11月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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