シャドウ大戦介入～望む未来、選ぶ道

■リプレイ

●救出のために待つという形での戦いを
　風に運ばれてきた一枚の葉が地面に触れる間も待たないまま、世界は満ちる夢と現の戦いに。
　ある者は取り戻すため、ある者は打ち倒すため、ある者は少しでもより良い未来を掴むため……灼滅者たちは様々な思いを持って、シャドウ大戦へと介入していく。
　各所で戦いが始まっていく中、聖刀・忍魔（雨が滴る黒き正義・d11863）は同道する仲間と共に出発点に残っていた。
　安全な場所で戦場全体を観察し、ある程度の優先順位をつけながらも不利を強いられている仲間の元へと駆けつける。それを、己等の役目をしたから。
　響く剣戟、かすみのごとく散りゆく力。落ち着いた表情で観察する中、忍魔はふとした調子で空を仰いでいく。
「……赤いな……空」
　それは、各所で炎が上がっているのか、はたまた赤く塗りつぶされていたのか……いずれにせよ、その色はこの場が戦場なのだということを再認識させてくれた。
　だからだろう。香坂・翔（青い殺戮兵器・d23830）は急くように、準備運動を重ねている。
「オレも前線で戦いたかったな―！　でも、今回は助けるのがメインだからな。確実に撤退しなきゃな。あの金ピカと戦うのは、ここを離脱して体勢を整えてからだもんね！」
　……そう。灼滅者たちによってこれは前哨戦。問題なく切り抜けて、次へ繋げなければならない戦い。
　だからこそ……と、四刻・悠花（高校生ダンピール・d24781）は棒を握りしめた。
「連絡を取り合えれば、色々とやりやすかったのですけどね……」
　何らかの力が阻害しているのか、はたまた別の理由か……何れにせよ、携帯端末はおろかハンドフォンも使えない。
　逐一状況を読み、他班の行動を推測し、最適解を探りながら進むしかない状況。そのためにも、今のうちに可能な限りの情報を記憶しておく。
　頷き、忍魔は戦場へと視線を戻した。
　拮抗している戦場、押している戦場、押されている戦場……各所の状況、及び距離を読み取りながら、この戦いの中心となっているシャドウへも意識を向けた。
「……不気味だな、シャドウとは」
　灼滅者たちの介入を別とすれば、これはシャドウとシャドウの戦い。
「同族と言えど、簡単に殺すのだからな」
　それは、同族意識の薄さがなせる業か、それを超えた場所にある戦いなのか。あるいは……端から持ち合わせてはいない、持っていると偽っていた可能性もある。
　答えの出ない呟きが潰える中、戦況は動き続けていく。
　様々な面が噛み合った結果だろう。タロット兵と戦っている仲間たちは終始優位に立ち回っており、救援の必要性は薄いと思われた。
　一方……。
「戦況が動いたよ」
　箒に腰掛け空から戦場を観察していたアムス・キリエ（懊悩する少年聖職者・d20581）が、視線を一方向に固定したまま降りてきた。
　誘われ見つめる先、コルネリウス軍が動いていた。戦場の外れを目指す形で……撤退を決断したかのような様子で。
　……しかし。

●傷ついた仲間を救うため
　退路を確保し邁進するコルネリウス軍とは対象的に、その撤退を支援していた灼滅者たちは大きな動きを見せていない。
　撤退を促すために残ったか、分断され取り残されてしまったか。
「行きましょ、味方が待ってるわ」
　いずれにせよ、危機に陥っている事に違いはない。
　神虎・華夜（天覇絶葬・d06026）は霊犬の荒火神命に守護と支援を命じながら、仲間たちに力強い笑みを向けていく。
　頷き、忍魔がいち早く大地を蹴った。
「行くぞ、仲間を連れて帰る」
　大外に位置するシャドウたちを蹴散らし取り残された仲間たちへといたる道を開くと、戦場の内側へ意識を集中させているのか無防備な背中を晒しているシャドウに対し、虎の頭がついている杖に魔力を宿してフルスイング。
　魔力を爆発させ内側へとふっ飛ばしたなら、右側に位置していたシャドウの脚を香坂・翔（青い殺戮兵器・d23830）の影が切り裂いていく。
「ああ、きっちりとこの戦いを乗り越え……みんなで帰るんだ！」
　――くっ、させるか！
　突然の襲撃者に対し浮足立ちながらも、外周に位置するシャドウたちは彼らの進路を阻むために――。
「させない……みんなで帰るために、今、僕にできることをする！」
　――集結しようとした足が止まっていく。
　赤い二本角を持つグラジュ・メユパール（暗闇照らす花・d23798）操る蒼き炎が、シャドウたちの体に灯った時。
　凍てつく力が、闇を蝕み始めたから。
　結果として、一体のシャドウがふっとばされた事によって生まれた穴は埋まらない。
　シエナ・デヴィアトレ（治療魔で露出狂な大食い娘・d33905）は自らが乗る台車を引くヴァグノを走らせて、強引にシャドウとシャドウの間に割り込んでいく。
　同道する灼滅者たちもまた、シエナを中心とする形での進軍を開始した。
　一体、二体とシャドウを蹴散らし進む中、少しずつ行軍速度は鈍っていく。
　決して、シャドウたちに押し返されたわけではなく……。
「……仕方ありませんですの」
　シエナは台車から……妨害の的となってしまった台車から降りていく。
　視線を待つ仲間たちが各々の積載量を超えないことを祈りつつ、ヴァグノと台車を繋ぐ縄を切っていく。
　台車を失った代わりに身軽になった灼滅者たち。進軍速度も早められるはずだから……と、神鳴・洋（アニソンラバー・d30069）は歌う朗々と。
　戦意を高めさせるかのような、熱き歌を。
　シャドウたちの心を惑わす魔力を織り交ぜて、少しでも進軍が楽になるように。
　歌に心揺さぶられた瞬間を、華夜は決して見逃さない。
「退きなさい。私の邪魔をするなら悪夢以上の光景が待ってるわよ？」
　進路上に立っていたシャドウとの距離を詰め、右側へ押しのけるかのように巨大な十字架で薙ぎ払う。
　穴を埋めようと、左側にいたシャドウが飛び込んできた。
　すかさず荒火神命が体当たりをかまし、元いた場所へと押し戻していく。
　打ち合いに発展していくだろうと予想し、アムスは霊犬に向けて帯を放った。
「主よ、導きたまえ。私に仲間を守るための力を」
　帯の加護を受け取った荒火神命が打ち合いをはじめていく中、翔もまた最前線へと踏み込んでいく。
「お前たちには……シャドウには色々と思うところはあるが、金ピカ一人勝ちにさせるわけにも行かない。ちゃんと帰らないと兄ちゃん達に怒られるんだ。だから、ここは通して貰うから！」
　強い決意と共に、正面にいたシャドウに砲塔となった腕を突きつける。
　酸の弾丸を浴びせかけた時、華夜の突き出す十時からその溶けかけた体を貫いて……。

　幸いにして、大きな特徴を持たないシャドウは有象無象と呼んで良い力量の者も多く、複数体相手にしたとしても問題なく跳ね除ける事ができていた。
　もしも仮に、力量の高いシャドウが進路を塞いでいたら……例えばタロット兵が参戦してきたとしたならば、進軍はスムーズには進まない、支援が間に合わない。下手をすれば、支援を行えずに撤退を余儀なくされる……といった可能性もあっただろう。
　同じ空の下、別の場所で戦っている仲間たちの奮闘によって打ち消された可能性を頭の中に浮かべながら、悠花は目の前のシャドウを横に退けていく。
　進路が開け、その先には――。
　――助けに、来ました……！
　――ボク達が支援します！
　見えたのは、傷つきながらも奮闘している、コルネリウス軍の撤退を支援していた仲間たち。
　クリアに聞こえたのは、別働隊の元気な声。
　同じ場所を目指していた者たちが、ほぼ同じタイミングで支援先へと到着した。現段階で、より近いのは自分たちの方。
　悠花はシエナらへと視線を送った後、支援先へと繋がる道を塞ごうとしていたシャドウへと向き直る。
「救出は任せました。私達は道を開き……抑えます！」
　返事は聞かず、狙い定めたシャドウへと盾を用いた体当たり。
　平静を失ったらしいシャドウがバックステップを踏む悠花を追いかけ始めた時、シエナは華夜、アムスと共に走り出し、救援を待つ仲間たちのもとへと駆け寄った。
「救出に来ましたの」
　出発前に確認した情報から、コルネリウスが無事だろうという予測はできている。
　万が一を考えると心は揺れるけれど……表には出さず、状況を確かめていく。
　人数は二班分。負傷者は多けれど、戦闘不能者はいない。
　サーヴァントが体を支える、肩を貸す……そのくらいで問題ない。一方、人数を考えれば、先程聞こえた声の班と合流して行動するのが妥当となるだろうか。
　――戦闘不能者への対応はおまかせして、ボクたちは皆さんを守るように展開して援護します！
　撤退のための作戦が改めて組み上げられた時、先ほどと同じ声が聞こえてきた。
「わかった、守りはそっちに合わせる」
　同意を示すグラジュの声も聞こえてきた。
　シエナは頷いて、撤退のための準備を始めていく。
　多くは必要ないと判断し、華夜は荒火神命に救助を命じた上で、退路を開くために前線へと舞い戻る。
　前線では、仲間たちが守ってくれているうちに退路を塞ぐシャドウを片付ける……そう判断した同じ班の者たちが、シャドウに猛攻を仕掛けていた。
　グラジュは横を抜けていくシャドウが出ないように警戒のアンテナを張り巡らさせながら、チェーンソー剣を振り回す。
「みんな助けて、姉さまのところに、帰る……！　だから、そこを……どいて……！」
　一体のシャドウを切り飛ばした後、踏み込み肩を用いて右のシャドウを押し返す。
　瞬時に状況を読み取った華夜は、忍魔へと視線を送った。
「忍魔ちゃん、合わせるわよ！！」
「ああ、行くぞ！」
　頷き、忍魔は腕を獣のものへと変えて駆け出した。
　見送りながら、華夜は人型の影にロープ状の闇を握らせていく。
「誰一人欠けさせない。それが私の最高の治療よ」
　左側にいたシャドウを指し示し、ロープ状の闇を投げさせる。
　忍魔は闇に絡め取られたシャドウの懐へと入り込み、体に獣の爪を突き立てた。
「……お前らに負けたら、背を預けてくれた仲間に顔向けできんのでな」
　体内へと食い込ませ、中身ごと握りしめていく。
「何より、弟に笑われてしまうじゃないか！」
　声を上げる中、シャドウは霞の如く霧散した。
　すかさず進路を塞ごうとしてくるシャドウの前には、洋が立ちふさがっていく。
「ここは通さない……否、押し通るＺ！」
　強い意志の元にロケット噴射の勢いを加えたハンマースイング。
　シャドウを元いた場所へとかっ飛ばし、自分がその場に割り込み進路の確保を行っていく。
　右側のシャドウを押し込んでいたグラジュもまた、ゼロ距離から凍てつく光弾をぶっ放した。
「道を開く……みんなのために……！」
　赤い瞳をらんらんと輝かせながらシャドウを凍てつかせ、十字架の一振りで打ち砕く。
　道を開くため、彼らは次々とシャドウを押しのけた。
　敵勢に増援の気配はない。別働隊が抑えてくれているから。
「準備完了ですの！」
　負傷者を支えるための、守るための人員配置を計算し終え、シエナが先導する形で歩き出す。
　後は、誰一人欠けることなくシャドウたちの壁を乗り越えるだけ。
　役目を終えた二班を守るため、シエナたちは抑えてくれていた別働隊と合流し離脱を目指し猛進する……！

●シャドウの壁を乗り越えて
　津波のように襲いかかってきた、見上げるほどに高く分厚い影。
　棒の一突きで霧散させ、その勢いのまま悠花は影を操っていたシャドウとの距離を詰めていく。
「退いて下さい。退かなければ、蹴散らします」
　間合いの内側へと棒を突き立て、それを軸に大地を蹴って飛び蹴りを。
　顎を強かに打ち据え仰け反っていくシャドウを横目に、アムスは側面から放たれた影の弾丸を帯で叩き落としていく。
　勢いのまま帯を手元に引き寄せて、ヴァグノに向けて解き放った。
「大丈夫、導いてくださいます。主は、私たちを……」
「そこを退いて！　じゃないと……！」
　治療が行われていく中、翔は新たに進路を塞がんとしてきたシャドウに向けて氷の塊を解き放った。
　慌てて飛び退いた瞬間に身を滑り込ませ、右側へと押し込んでいく。
　すかさず仲間たちが通り抜けていく中、洋は熱い歌声を追撃せんとするシャドウたちに浴びせかけていた。
　熱意は力となり、シャドウたちの動きを鈍らせる。
　影響を受けた者たちは瞬く間にシャドウの群れに消えていくも、全体の動きを鈍らせるには十二分。
　安々と、荒火神命がシャドウの影を切り裂いた。
　一方の華夜は立ちふさがってきたシャドウを叩き潰し、深いため息を吐いていく。
「戦闘でも疲れるわね。早く脱出しましょ」
　突入から撤退まで、休みなしの行軍。仲間たちのお陰で強敵との遭遇は避けられたが、疲労は否応にも溜まってしまう。
　しかし、疲労が戦いに影響するほどやわではない。
「ええ。誰一人として欠けさせたりはしません」
　強い決意のもと、アムスは荒火神命を帯で抱く。
　別働隊だった者たちと連携を取りながら、戦場の外側へと向かっていく。
「……」
　霧で仲間たちを治療しながら、シエナは思う。
　撤退していくさまは見えていたが……果たして、コルネリウスは無事に撤退する事ができただろうか……と。
　少なくとも、不幸な話は聞こえてこない。
　シャドウたちが湧き上がった様子もない。
「……」
　時と共に増幅していく不安を必死に押し止め、仲間を守るための霧を何度も何度も展開する。
　後方の安全が保たれているのを感じながら、グラジュはシャドウを一体切り飛ばした。
「……もうすぐ、もうすぐで……」
「さあ、ラストスパートだ！　みんな、最後まで熱く激しく逃げ切るんだZ!」
　ゴールは近いと、洋は更に激しくシャウトする。
　戦場全体に響き渡らん勢いで、熱き詩を響かせる！
　戦意冷めやらぬまま、灼滅者たちは進んでいく。
　心高ぶるまま、悠花は棒を振り回す。
　全てはシャドウを蹴散らすため、その動きを抑えるため。
　仲間を、安全な場所へと導くため。
　そして……。
「……」
　――願わくば、この戦場で戦う全ての仲間が無事に帰ってくることを……。
　程なくして灼滅者たちはシャドウの壁を乗り越え、帰還を果たす。
　傷だらけではあるけれど……誰ひとりとして、欠けることなく……！

作者：飛翔優	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年11月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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