シャドウ大戦介入～廻る運命の輪

■リプレイ

●歓喜の軍勢
　四大シャドウの存亡をかけて争うシャドウ大戦が、遂に最終局面を迎えようとしている――。大将軍アガメムノン率いる歓喜のデスギガスの軍勢は圧倒的であり、制圧は時間の問題のようだ。
　サイキック・リベレイターの力でシャドウ大戦の状況が明らかになり、武蔵坂学園は、大津・優貴先生の救出やデスギガスの戦力に対抗するために、一丸となってこれに介入するのだった。

「ソウルボードでの大戦も大詰めね」
　シャドウハンターの葵璃・夢乃（黒の女王・d06943）にとっても、この戦いの行方は気になるところ。
「デスギガス勢力の勝利は確定みたいだけど……そういう時こそ、油断してると背中から撃たれるってことを教えてあげるわ」
　生徒達はチームごとに分かれ、それぞれの目的を達成するためソウルボードで行動を開始している。
「俺たちの目的は、タロット兵の襲撃及び敵戦力を減らすことだ。ぬかりなく行こう」
　強力な敵には違いないが、仲間と相談して入念に作戦は練ってきた。神虎・闇沙耶（鬼と獣の狭間にいる虎・d01766）の言葉に、闇沙耶の弟分の聖刀・凛凛虎（不死身の暴君・d02654）も頷き、鼓舞するように力強い言葉を発する。
「なぁに、首を狩れば良いだけだ。不安なぞ無い」
「できれば１体だけでなく２、３体倒したいところだな」
　タロット兵の撃破はデスギガス勢の戦力を大きく削ることになる。秦・明彦（白き雷・d33618）の言葉はその場の全員の気持ちを表したものでもあった。
「以前コルネリウスと対話をした後の再会をこんな形で迎えたくはなかったが……。まぁ、今は優貴先生やアステネス、コルネリウス達の為にも全力で挑むまでだ」
　実際にコルネリウスとの対話を果たしたことのある異叢・流人（白烏・d13451）が複雑な表情で呟く。見知った顔が命の危機にあると聞いて、いい気がしないのは当然だ。
「今回は前哨戦のようなもの。可能な限り戦力は減らしますが、引き際も考えねば」
　今は学園の戦力も低下していますからね、と付け加え、西院鬼・織久（西院鬼一門・d08504）は、油断なく辺りを見回す。これ以上闇堕ち者を増やすのは、得るものが大きくても避けたいところだ。
　皆の言葉を聞きながら、荒覇・竜鬼（一介の剣客・d29121）が油断なく辺りを見回す。広大なソウルボードの中、たくさんの敵と味方が入り乱れている。慎重かつ早急に動く必要があるだろう。ウイングキャットの山姫も、じっとしていながらも忍のような鋭い視線で辺りを警戒している。
「今回の戦争も一筋縄じゃいかなそうだなぁ……ま、楽しければそれでいいさ」
　ヘイズ・フォルク（青空のツバメ・d31821）の明るい声に背中を押されるように、灼滅者達はデスギガス軍の後方に控えていると見られる、タロット兵を捜すべく動き出すのだった。

●タロットの武器
　タロット兵は、デスギガス軍の後方において、アガメムノンの指示があるまで決戦兵力や遊撃兵として待機しているようだ。強力な戦力ではあるが、それゆえ部下を持っていたり、他のタロット兵と連携することはない。その強さから生まれる余裕が、出番が来るまで単独での行動を生むのだろう。
「孤立している敵を狙いましょう」
　強力な敵であることを理解し、織久が状況を見据えながら呟く。
　タロット兵と戦う前に雑魚兵に手を取られるとやっかいだ。辺りを窺いながら慎重に進んでいく。そして、タロット兵と見られる存在が単独でいることを認め、仲間達は頷きあう。呼吸を合わせ、一気に攻撃を仕掛ける。
　まず、竜鬼がサウンドシャッターを発動。万一にも他の敵を呼び寄せることがないよう気を配る。
　闇沙耶と凛凛虎が先陣を切り、まずは初手を叩き込む。織久が後方から影を放ち、その姿を飲み込む。
「タロット兵……確かに個性的なようね」
　夢乃が流星の煌めきを宿した跳び蹴りを炸裂させながら、思わず呟く。
　実際、その姿はなんと呼べばいいのか。まばゆいばかりの黄金に輝く姿は人のようでもあり、動物のようにも見える。古代遺跡の中の壁画から飛び出たような姿だった。そしてその手に持つタロットの武器は――。
「運命の輪、と呼びましょうか」
　タロットカードのひとつ、運命の輪を模したような車輪型の武器を持っている。
　明彦は前衛として仲間の盾となるように位置取り、クロスグレイブを操りながら、攻撃を仕掛ける。
「一手ご教授賜りたい」
　タロットの武器に大変興味を抱いていた明彦は、興味津々。殲術兵器の元となった存在だと聞けば、何か有益な手がかりとなるかもしれないと期待してしまう。
　流人は天原流古武術の無駄のない動きで敵に斬りかかり、ダメージを増大させる。竜鬼は守りを固めるべくイエローサインで前衛の守護を強化する。山姫もしっぽのリングを光らせ主人に続く。
「今回も大仕事、存分に叩き斬らせてもらうとするか！」
　相手の出方を窺いながら、ヘイズは持ち前の機動力を活かして動き回り、近距離を維持しては死角から急所を狙う。
　タロット兵が格上であることを承知し、序盤は相手の攻撃や防御を阻害することに努める作戦は賢明であり有効だ。それでもタロット兵は、出鼻こそ挫かれたものの、己の強さを自負しているので、現れた灼滅者に対してもその優位を崩そうとはしなかった。

●死闘
　運命が動き出すように、巨大な車輪状の武器が回り始める。タロット兵が軽々とそれを操り、前衛の味方を強力な車輪が襲い、その威力に薙ぎ倒される。
「タロットの武器を知ることができたのは収穫だが、さすがに強いな……」
　明彦が痛みに耐えながら思わず漏らす。未知の武器が灼滅者の前に立ちはだかるが、それに怯んではいられない。
「はははは！　首を寄越せ！」
　凛凛虎が笑顔で拳を叩き込みながら敵を挑発する。
「凛凛虎！　出過ぎるなよ！」
　一体どんな能力を隠し持っているかわからないことから、弟分を案じた闇沙耶が守るように間に入り、体内から噴き出る炎を敵へと叩きつける。
　流人は仲間達の攻撃の間にも辺りを見回し、援軍の気配がないか常に注意を怠らない。
　短期決戦を狙う灼滅者にとって、連携は大きな力となる。竜鬼は回復役に徹し、回復の手が足りなければ声を掛け合い他の者が加わる。敵の動きを鈍らせることに注力した結果、格上相手にも確実に攻撃を当て、体力を削っていく。
「たまには豪快に打撃技ってのもいいわよね？」
　普段はダンスの動きを加えた接近戦を得意としている夢乃だが、今回は作戦を優先してのこと。巨大な十字架をそれでも舞うように操り、着実にダメージを与えていく。
　六六六人衆と相対すれば狂気と正気の間を彷徨う織久だが、今は冷静に戦況を分析し、近距離からの攻撃と、遠距離からの攻撃をうまく使い分けている。
「禍月、眼前の敵を両断しろ！」
　赤い妖刀「雷華禍月」を携えたヘイズは、最初の宣言通り戦闘を楽しんでいた。強敵ではあるが、だからこそ、わくわくするというもの。
　順調に攻撃を重ねていく灼滅者たちだが、タロット兵も一筋縄ではいかない。車輪が回転し迫り来ると、魂を蝕むようにトラウマが引きずり出される。
「……悪夢の塊ね」
　見た目の外傷よりもダメージは大きい。なにより精神を大きく蝕まれるのだ。かつてシャドウに囚われていた頃の記憶が甦り、夢乃の手にじっとりとした汗が広がる。
　車輪の強力な攻撃を、ディフェンダーを中心に防ぎ、しっかり回復を行うことで凌ぎながら、徐々にタロット兵を追い詰めていく。
　竜鬼は仲間を癒しながら、辺りを注意深く見回す。敵の援軍は今のところないようだ。
　できるだけ多くのタロット兵を撃破し、戦力を削ぎたいところ。そのためには、目の前の敵にばかり時間をかけていられない。より大きなダメージを与えるべく、一丸となって攻撃を加える。
　迫り来る車輪を無敵斬艦刀・Tyrantで受け止め、返す力で巨大な鉄塊のごとき刃で粉砕する凛凛虎。灼滅者を苦しめた巨大な車輪が粉々に砕け散っていく。
「闇兄！」
　絶妙な連携で、闇沙耶が凛凛虎がいた間合いに踏み込む。
「貴様を葬る。悪く思うな」
　死を暗示するように、巨大な十字架が聖歌の響きとともにタロット兵を捉える。放たれた光の砲弾は、武器を失ったタロット兵の身体の中心を撃ち抜く。そしてタロットと共に消滅していく。
「みんな無事……ね」
　夢乃がほっと息を吐き出す。敵の攻撃も強力だったが、全員で交代しながら回復も行ったので、戦闘不能にまでには至っていない。
「まだまだ、行けますよ？」
　ヘイズが明るくそう返す。まだいける……全員がそう思った。
「次の戦いに備えて、少し休憩したいところだけど……」
　明彦の言葉のあとを、辺りの戦況を窺っていた流人が継ぐ。
「ここは戦場。その場に留まることは難しそうだな……」
「やむをえませんな。敵に発見されないように移動しながら、次の攻撃目標を探すとしましょうか」
　竜鬼の提案に皆が頷く。回復中に狙われてしまっては、元も子もない。
　改めて辺りを見回せば、遠目に他チームが戦闘している様子も見えるが、武蔵坂が善戦しているようで、タロット兵の数もかなり減っているようだ。
「次の首、行くとするか」
　最大の結果を手に入れるため……灼滅者達は、もう一度歩き出した。

●戦いの行方
　しばらく索敵を続けていると、運良く単独で近場にいるタロット兵と遭遇することができた。
　黒いローブを纏った骸骨が、身の丈よりも大きな鎌を手に構え、目の前に立ちはだかる。
「やはり鎌か！」
　タロットに由来する武器を想像していたヘイズは思わず声を上げる。
　死神がその大きな鎌をふりかざす！
　仲間を庇った山姫がそこで力尽きる。こちらは連戦。消耗も激しいが気力は漲っている。
　先ほどの作戦が功を奏したので、同じようにまずは相手の動きを鈍らせていく。
　闇沙耶のレーヴァテインが死神を炎で包む。
「地獄の炎よりは弱かろう？」
　そこへ凛凛虎が雷を宿した拳を叩き込む。先ほどの戦闘で、仲間の連携もさらに強化され、流れるように隙のない攻撃が続く。
「さすがに連戦となるときついな……」
　大鎌から放たれた黒い衝撃波に、連戦の疲れから思わず膝を突く明彦。
「無理はするな」
　庇うのは任せろと、闇沙耶が力強い言葉をかける。誰か１人に攻撃が集中しないように、ディフェンダー陣が上手く立ち回った甲斐もあり、ここまで全員立ち続けられた。
「武器の重さも乗せた飛び蹴りは……痛いわよ！」
　疲れを感じさせず、大きな声と共に放たれた夢乃の跳び蹴りは、確実に敵の機動力を奪っていく。
　流人のチェーンソー剣が傷口を広げ、織久のティアーズリッパーがローブごとその身を切り裂く。
　竜鬼は回復に努めながら、戦況を見守る。引き際だけは正確に見定めなければいけないからだ。
　禍々しい大鎌が灼滅者達を執拗に襲う。ついに仲間を庇い続けていた闇沙耶が倒れ、明彦も満身創痍といった様相だ。
　だが、相手も確実にダメージを受けている。ここで退くわけにはいかない。残った者たちで渾身の攻撃を繰り出す。
　織久のオーラをまとった拳が敵を連打し、昭彦と夢乃が巨大な十字架で敵を薙ぎ払う。凛凛虎の戦艦斬りが敵を圧倒すると、その隙を見逃さずヘイズが赤い妖刀を構える。
「これで決める、禍津一閃……！」
　真っ直ぐに振り下ろされた斬撃は、死神の持つ大鎌ごと敵を断ち切る。
　死神が象徴するのは終わりと始まり。
　多数のタロット兵の撃破は、充分な意味を持つことだろう。
「今後のシャドウとの戦いに影響がありそうだな」
　そう呟いた流人の脳裏にコルネリウスたちのことが浮かぶ。きっと他班が上手くやってくれるに違いない。
「あい、任務完了ですな。戻りましょう」
　戦況を眺めていた竜鬼が冷静にそう告げる。タロット兵２体を撃破するという充分な戦果を得たのだから、これ以上長居する必要もない。
　闇沙耶に肩を貸しながら、凛凛虎は呟く。
「大将軍、奴を今回諦めるしかないのが確かに惜しい。しかし、仲間の命と比べたら、奴の首は安いものだ」
　運命の輪が示すのは必然。
　この結果がもたらす大きさに、彼らはすぐに気付くことになる。

作者：湊ゆうき	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年11月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。