シャドウ大戦介入～少しでも多く

■リプレイ

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「えっと、確か園観ちゃんたちはお昼寝班でー」
「……遥香さん」
　ほわんとしたなんともいえない表情で呟く園観・遥香（天響のラピスラズリ・d14061）に篠崎・零花（白の魔法使い・d37155）が無表情のまま視線を向ける。
「やー、ほら、まずは軽い現実逃避を。ここから……大変そうですから」
　即座にその表情を切り替えて、遥香は真っ直ぐに前を向いた。
　コルネリウス軍を取り囲む、シャドウの軍勢――包囲されつつも頑強に戦っていたコルネリウス軍の一角が、崩れた。
　ずるずると崩壊していく戦線。事前の打ち合わせに従って、仲間が切り開いてくれた「道」を駆けコルネリウスの元へ――。

「待たせたね。……ここまで支えていてくれて、本当にありがとう」
　コルネリウスの元には、八人の灼滅者が残っていた。
　その中の一人、鏡・エールが頭を下げる。
　コルネリウスの姿を見てひとまずホッとする繭山・月子（絹織の調・d08603）。しかし次の瞬間、彼女はあることに気がついた。
　優貴先生の姿がないのだ。
「優貴先生は、このまま学園に戻るといずれプレスタージョンの国を通じてデスギガスが学園に攻め込む恐れがある、だから戻らないと言って聞かなくてね……」
　語られる言葉に、小野屋・小町（二面性の死神モドキ・d15372）が息を呑む。
　灼滅者たちの間に広がる、心配と不安。
「心配ない、デスギガスが来るなら、先生のソウルボードでコルネリウスに警戒に当たってもらえばいい」
　コルネリウス一人であれば優貴先生のソウルボード内に滞在していても眠り続ける必要はないこと。学園内に先生がいればソウルボードの中にいつでも駆けつけることができ、二人を守ることが出来ること。
　灼滅者の説得に、コルネリウスは応じてくれたらしい。
「あなた方の熱意に応じて、この先はお任せしましょう。……離脱後、優貴のソウルボードを守ると約束します」
　中神・通の説明に続き、コルネリウスが毅然とした態度で宣言する。
「私はお前たちを信用したわけじゃない。だが、共通の敵がいるのなら協力してやろう」
　宣言を聞いた楯無・聖羅（天罰執行人・d33961）が、そう言った。信用はできない、しかし共通の敵がありこちらに協力するというのなら……助けることもやぶさかではない。
　そもそも――。
「私たちはあなたを助けるために来たのですから」
　月子が言うとおり、自分たちはそのためにここまで来たのだから。

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　行きに蹴散らされたはずの雑魚シャドウはその数の多さで持って再び集結し始めていた。
　チームに分かれた灼滅者たちはコルネリウスを守るように陣形を敷き、その包囲網の突破を図る。
「……抜かせませんよ、絶対に」
　シャドウの攻撃からコルネリウスを庇った誰かが宣言する。
「コルネリウス、あなたは何としても生きてもらう」
「お前には生きてもらわんと困る」
　別の誰かがコルネリウスに声をかける。
　それは、押し寄せるシャドウたちを食い止めるべくこの場に留まる灼滅者たちの声。
「ここは頼んだ」
　前を見据え駆けながら、聖羅が短く口にする。
「すまんな。コルネリウスは絶対守ったる」
　小町の言葉に月子が同意するように頷く。
「……皆で帰るわよ……」
　戦う仲間たちを一瞬だけ振り返り、そう呟く篠崎・零花（白の魔法使い・d37155）。
　残って戦う人も、ともに撤退する人も――どうか皆、無事に。

　山田・菜々の巨大な異形の腕が、赤色の交通標識を構えた鳴海・歩実が、立ちはだかるシャドウを殴り倒す。
　先陣を切る仲間たちの攻撃で体勢を崩したシャドウたちに向けて、遥香が除霊結界を発動させた。
　自らの得物を操り近づく雑魚シャドウを確実に狙っていくのは村山・一途（硝子細工のような・d04649）。
「回復は任せて」
「人前ではあまり歌わないが……仕方ない、か。」
　清水・式（愛を止めないで・d13169）の清めの風が吹き渡り、榎本・彗樹（自然派・d32627）の美しい歌声が響く。
　目的は、この戦場から無事離脱すること。シャドウたちを倒せなくとも、足を止めることさえ出来ればいい。
　数多の雑魚と切り結び、無力化し……どれくらい進んだのだろうか。
「あれは……タロット兵？！」
　月子が思わず声を上げた。
　それまでの雑魚シャドウとは明らかに違う個体からの襲撃。咄嗟にその個体へと向き直った式に呼応するかのように、彼女のビハインド『神夜』が振り下ろされるタロット兵の得物の前に飛び出した。
「こっちは園観ちゃんたちに任せてくださいねー」
　遥香の足元から伸びた黒い触手が、タロット兵の体に絡みつく。日本刀を上段に構えた彗樹が淡々とした口調のままコルネリウスを守る仲間に声をかける。
「今のうちに行ってください」
「コルネリウスさんをお願いします」
「コルネリウスは我々にお任せください。敵は強力です、どうかお気をつけて」
　撤退するユーリーの声が聞こえた。徐々に遠ざかる仲間の気配を感じながら、彼らはタロット兵と対峙する。

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「……妨害を妨害しに来た」
　彗樹がタロット兵の間合いに一気に踏み込み鋭く重い斬撃を振り下ろす。受けたタロット兵が持つ無骨な両刃の剣に、僅かなひびが入った。
　相手を倒さずともとにかく撤退できればと思っていたが、タロット兵相手ではそうも言っていられない。
（「まあ、やることは同じか」）
　倒さなければ撤退できないというなら、なんとしてでも倒すだけだ。
　仲間の傷を癒す姿が遠くから見えていたのだろうか、あるいはただの偶然か。タロット兵が最初のターゲットに選んだのは仲間の傷を癒す式だった。突き出された剣先に集うのは暗い想念、撃ち出される漆黒の弾丸。
　次の瞬間、ギン！　と鈍い音がして漆黒の弾丸が消滅した。いつの間にやらタロット兵と式の間に割って入っていた一途が振り下ろした解体ナイフと弾丸がぶつかり相殺されたのだ。
　タロット兵の攻撃を防いだ一途は改めてタロット兵に視線を向ける。
「いらっしゃいませ」
　漆黒の瞳に不可思議な色を湛え、タロット兵に語りかける。
「それじゃ、殺し合いしましょうか」
　そのままタロット兵の懐に飛び込みその身を反転。勢いに任せて、逆手に構えたナイフの刃でタロット兵を一閃する。
（「私、ただの殺人鬼ですから」）
　今日だって、殺しにきただけ。
（「救うとか、助けるとか、そういうのはお任せします」）
　一途がその場から飛び退くと、ジグザクに変形した刃に斬り刻まれたタロット兵の胴体が見えた。
　それをチラリと確認し、聖羅はタロット兵の死角に回りこむ。柄に桜の紋様が入った妖の槍を振り抜くと、身を守る防具ごと肉を切り裂かれたタロット兵が怒りのせいとも傷みのせいともつかぬ叫びを上げた。
（「シャドウ同士の戦いがここまで切羽詰った状況やとは……」）
　赤い刃の大鎌に死の力を宿し、小町は走る。
　コルネリウスを守り先行した仲間のためにも、後方でシャドウたちを食い止めているであろう仲間のためにも、このタロット兵はここで止める。それは、大きな流れの中では微々たる事かもしれない。
（「それでもええから、やれることをやるのみや！」）
　タロット兵の目の前で大きく振り上げられた断罪の刃は、その衝撃を少しでも防ごうと翳されたタロット兵の片腕ごとその胴を斜めに裂いた。
「僕が回復に回るよ。アウリン君もいるしね」
　そう告げて、式は前衛を務める仲間に向けて清らかな風を吹かせる。これまでの雑魚シャドウとの戦いで受けた灼滅者たちの細かい傷が、癒えていく。
　式の言葉を受けて、月子は自身のナノナノ『アウリン』に改めて声をかけた。
「アウリン、お願いね」
　回復を一人と一体に任せ、手にしたマテリアルロッドを振り上げる月子。それと同時に雷鳴が鳴り響き、タロット兵目掛けて雷が落ちる。
　狐の面を被った神夜は霊撃を放ちタロット兵を攻め、アウリンは傷の深そうな仲間に向けてふわふわハートを飛ばす――。
「……ソラも」
　わかったとでも言うかのように頷いて前線へと飛んでいく黒いウイングキャット『ソラ』を視線で追いながら、零花は胸の前で魔導書を開いた。
　片手をタロット兵に向けて翳し、魔法の矢を飛ばす。続くようにしてソラがタロット兵に飛び掛り、肉球パンチ。
　コルネリウスの思考は人にとっては特殊にすぎる。けれど、今現在こちらと敵対しているわけではないし……何より彼女はこちらの説得を受け入れた。
（「……こちらに友好的なシャドウは残しておきたいのよね」）
　そのためには、このタロット兵は倒すべきだ。仕留め損ねれば、コルネリウスの命を狙いどこまでも追いかけるだろう。
「……皆で頑張りましょ」
　数多の傷を負ってなお止まる気配のないタロット兵を真っ直ぐに見据えて、零花が呟いた。

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　暗い影を宿したタロット兵の剣が、小町を庇った遥香の頭上に振り下ろされる。
「……っ！」
　鈍い衝撃。直後に現れた『トラウマ』に、遥香が耐えるように歯を食いしばる。
「大丈夫？　今癒すから！」
　もう幾度めになろうだろうか、清めの風を吹かせる式。アウリンもソラも、灼滅者の傷を癒すべく忙しく飛び回る。
　タロット兵は強かった。流石に『強力なシャドウ』と定義されるだけのことはある……その一撃は重く、複数を巻き込むような攻撃であっても油断できない威力がある。
「んん……踏ん張り時ですね……！」
　お返しとばかりに自らの足元から伸びる影でタロット兵を飲み込みながら、遥香が呟いた。
「気持ちが後ろを向いたら呑まれます……前を見て行きましょうー！」
　自身を鼓舞するように、声を上げる。
　少しずつ少しずつ、癒せぬ傷は蓄積していく。しかしそれは、相手も同じはずなのだ。しかも相手には、自身の身に生じた異常を回復する術がないらしい。
　積み重なった小さな異常がタロット兵の動きを鈍らせ、時には阻害する。タロット兵に纏わり付くように燃え盛る炎やパキパキと小さな音を立てる氷は、僅かずつだが確実にタロット兵の体力を削っていく――。
「そうですね。誰だって死ぬのは嫌でしょうから」
　それは誰に対しての言葉だったのだろうか、ポツリとそう呟いて一途がローラーダッシュをかけた。彼女の足が炎を纏い、ダッシュの勢いそのままにタロット兵の胴に思い切り蹴りを入れる。その衝撃に耐え切れなかったのか、タロット兵の体が『く』の字に曲がった。
『……ッ！』
　タロット兵の体を覆う氷が音を立てる。苦しげな声を上げながらも剣を振り上げ反撃に転じるタロット兵。しかし――。
　振り下ろされた刃は標的を捉えることなく、ただその足元を大きく削っただけだった。思うように動かない体に焦れるタロット兵……その体を糧に燃え盛る炎が、一段と大きくなる。
『……！！』
　蓄積し続けたダメージに耐え切れなくなったのか、ついにタロット兵が片膝をついた。
「こんなくだらん乱痴気騒ぎはここまでだ。続きは冥土でしてもらおう」
　立ち上がろうとするタロット兵に肉薄し、聖羅は妖の槍を突き出す。螺旋のような捻りを加えられた槍の穂先がタロット兵の肉を抉り、穿つ。
　苦しげに身を捩るタロット兵。そこに追い討ちをかけるように大鎌を構えた小町が飛び掛る。
「もう少しや！　一気に行くで！」
　敵を狩るべく高く掲げられた大鎌の刃は、その銘の通り紅い三日月の如く。死の気配を纏った三日月が落ちてきて、タロット兵の体を袈裟懸けに切り裂く。
　それまで仲間の傷を癒すことに専念していた式も、ここが勝負所と思ったのだろう、異形と化した巨大な腕でタロット兵を強かに殴りつける。
　主の意向を汲んだのか、神夜もまたその身から霊障波を放ち攻撃を援護する。
　散々に痛めつけられそれでもなお戦おうともがくタロット兵を見つめながら、彗樹は無造作に日本刀を振るった。宿った『カミ』の力で生み出すのは、激しく渦巻く風の刃。
「あまり時間もかけられないしな」
　タロット兵が風に斬り裂かれても彼の声音に変化はなく、ただ淡々とした声が響く。
「コルネリウスさんのところには絶対に行かせません！」
　構えたマテリアルロッドを思い切り振りぬいて、タロット兵を殴りつける月子。体内で起こる爆発にもがくタロット兵に向けて零花がサイキックを否定する魔力の光線を放ち、ソラが追従するように敵に殴りかかる。
　灼滅者たちの猛攻に晒されて、タロット兵はついに動きを止めた。その腕がだらりと力なく垂れ下がり、体が地面に倒れこむ――皆がそう、思った瞬間。
　最期の力を振り絞ったか、タロット兵がその手に握った剣を振り上げた。そのまま自身が倒れこむ勢いに任せて、灼滅者たちに斬りかかる。
「！」
　咄嗟に散開する灼滅者たち。闇雲に放たれたタロット兵最期の一撃は結局誰も傷つけることなく、音を立てて地に伏せたタロット兵の体は一際大きな炎に包まれた。
「これで終わりや」
　小町が大鎌を振り下ろす。それが、とどめ――タロット兵は、そのタロットごと消滅した。
「お疲れさまー。……でもあんまりゆっくりはしていられない、かな？」
　遥香の言葉に一途が無言のまま頷く。タロット兵は倒したがまだ安心できる状況ではない。新手が現れないとも限らないし、雑魚シャドウが集まってくる可能性だってあるのだ。
「よし、あとは一目散に逃げるよ！」
　式の言葉に頷いて、灼滅者たちは早々にその場を後にする。
　コルネリウスを守っているであろう仲間と合流するために――。

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　別のタロット兵に遭遇することもシャドウの群れに阻まれることもなく、彼らは先行し撤退したチームに合流することができた。
　周囲のシャドウもあらかた片付いてしまったのだろう、ひとまず状況は落ち着いているようだ。
　コルネリウスの無事な姿を確認し、月子は改めて安堵の息を吐く。
「……大変だったけどもお疲れ様ね」
　仲間にねぎらいの言葉をかける零花。それにやはり「お疲れ様」と返しながら、彗樹は思う。
　シャドウ大戦はデスギガスの勝利で終わる。
　しかし、自分たちの介入でコルネリウスはこうして生き残った。優貴先生やオルフェウスの状況はわからないが、他の仲間たちがきっとなんとかしてくれているだろう。

　この大戦で、この大戦に灼滅者が介入したことで、今後がどう変わっていくのか――。

　それはまだ、誰にもわからない。

作者：草薙戒音	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年11月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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