シャドウ大戦介入～戦地にて

■リプレイ

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　四大シャドウの存亡をかけて争ったシャドウ大戦も、遂に最終局面を迎えていた。
「デスギガスの軍勢、随分と力が有り余ってるようですね」
　仲間達と共に戦場に到着したリーファ・エア（夢追い人・d07755）は口にし、ぐるりと見渡せば、大戦の局面は芳しくない。
　敗走した贖罪のオルフェウスを迎え入れた慈愛のコルネリウスの軍勢に対するのは歓喜のデスギガス配下の大将軍アガメムノンの軍勢。
　大将軍アガメムノンの軍勢は圧倒的だった。歓喜のデスギガスが前線に出る必要さえないほどに。
　贖罪のオルフェウス、そして慈愛のコルネリウスは武蔵坂の教員もろともにその命のともしびが消える――はずだった。
　武蔵坂がこの戦いに介入する前までは。
「さて、アタシ達に出来る事は……、っと」
　言いながら城代・悠（月華氷影・d01379）が周囲を注意深く見れば、戦いの中でその標的を目に留めた。
「アイツだね」
「タロットを差し込んでいるのか張り付けてんのかどっちだ！」
　見据える悠を隣にルーシア・ホジスン（低俗霊祓い・d03114）は手にする双眼鏡から標的をじっと見れば、まだ遠すぎるのかはっきり見えない姿と得物。
　タロット兵というからには当然、それに関するであろうと誰もが推測するが――。
「大アルカナの絵で考えれば良いのかね」
　ヴェルグ・エクダル（埋み火・d02760）の声に、タロットにはあまり詳しくない香坂・颯（優しき焔・d10661）は誰か解説してくれないかと内心で思うが、それは難しいようだ。
「ちゃんと帰らないと、弟達に示しがつかないからね。無理はせず、出来る限りの事をしていこうか」
　ビハインド・香坂綾へ向けていた瞳はつと動き、
「旭君も無理はしないようにね」
　高校からの級友からの声に水無瀬・旭（瞳に宿した決意・d12324）は頷いた。
「此処で、少しでも削ぎ落としておきましょう」
「できるなら奇襲をしかけたいかな」
　リーファと笙野・響（青闇薄刃・d05985）は言葉を交わし、
「さて、最善かどうかはわからないけど、できることを頑張ろうか」
　三上・チモシー（津軽錦・d03809）は仲間達と動き出す。
　
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　タロット兵との戦いを前に、仲間達と連絡を取ろうとするが、その手段は全く使えなかった。
「どういう事でしょうか」
　きっと何か特殊な作用が発生しているのかもしれない。無線はおろか、携帯さえも反応しないそれにリーファは肩を落とす。
「連絡が取れないんじゃ仕方ねえな」
「アタシ達に出来る事をしようか」
　ヴェルグと悠は話し、双眼鏡で見つめるルーシアは敵タロット兵の姿を目に留めた。
「……違ったか」
　タロット兵というからどのタロットを模しているかと予想していたが、どうやら外れてしまった。
　『恋人』でもない、『隠者』、『星』、『運命の輪』でもなく――。
「大丈夫、旭君？」
　それを見た旭の表情に一瞬生じた動きに颯は気遣い声をかける。
　右手に剣、左手に天秤を持つその姿は――『正義』。
　恥じる過去を思い出し、眉をかすかにひそめる旭だが、それも一瞬。
「大丈夫、ありがとう」
　礼を言いタロット兵へ視線を向ければ、強敵であろう相手は戦いのさなかに自分へ向く敵意に感付いた様だ。ぐるりと周囲を見渡し、こちらへと顔が向く。
　感付かれたからには猶予はない。先手を打たれる前に、こちらから一撃を。
「風よ此処に」
　解除コードと共にライドキャリバー・犬を伴うリーファは戦闘態勢を整え、よいしょとチモシーは得物を構えた。
　さらりと髪を揺らして響も得物を構え、こちらから攻撃するタイミングを計る。
　そして、戦いがはじまる。
　
●
「それじゃあいくよ！」
　声と共に放たれる悠のダイダロスベルトをタロット兵はひらりと飛ぶ中、狙い定めたヴェルグの一撃がざくりと腕を裂くが、敵はそれを気にもしない。
「これならどうだ！」
　ビハインドと共に地を駆け放つシールドバッシュをかづんと叩きつけた。
　――グ、オォ……！
　真正面からの一撃を受け、睨むような動きを目にチモシーは赤紫色のダイヤを浮かび上がらせ、その横を響が駆けていく。
　がきん！　ぎいん！
　響の小刀と紅く輝くリーファの刀身がタロット兵の剣と打ち合い、火花を散らし、
「今です」
　その声に応えた犬は目標めがけて突進した。
「僕達もいこう、姉さん」
　振り上げ攻撃を放つ颯と共に綾も動くと旭は自らが予測した標的へと狙いを定め――、
　――オ、オオオ……！
　法衣のような服が裂け、声を上げたタロット兵は手にする天秤をかざすと、ふわりと右の皿が傾くと同時に光が放たれる！
「仲間達はわたしが守る！」
　立ちはだかり前衛に向けられたそれをルーシアは身を挺して防ぐと、ライドキャリバーとビハインドもまた、それを防いだ。
「ありがとう」
　響の礼にリーファは頷き応え、
「引き続き頼むね、姉さん」
　颯は仲間を守った姉へと礼を言う。
「どうした？　それが全力か？」
　避けきれなかった攻撃でつと頬を一筋の血が伝うも悠はぐいとぬぐうと、サングラスの奥の瞳は細まり、
　ざん！
「ハッ！　もっとアタシを楽しませろよ！」
　振り上げ蹴りを叩きつけるとそれにヴェルグが続くとルーシアとビハインドも続き、
「そーれ！」
「これならどうかな」
　――ガァッ！
　ずぶんと空を切る音と共にチモシーの斧が豪快に打ち合うと、響の刃がタロット兵をざぐんと裂いた。身を切り裂き流れるのは血のようなもの。
　どろどろとまき散らすそれを目にリーファは癒しを使えば、攻撃で受けた仲間達の血がぴたりと止まる。
「まだ戦いははじまったばかりです。頑張りましょう」
　そう、まだ戦いははじまったばかり。
　颯と旭の攻撃を捌いたタロット兵は再び天秤をかざすと、水平に戻っていた皿は再び右へと傾き――、
「ディフェンダーは庇うこそ華！　武蔵坂サーガにつたわる伝説の庇いばあちゃんと言われるようにまもってみせる！」
　その傾きに攻撃を悟るルーシアは身構え、ディフェンダー勢も仲間達を守るべく、行動に出る。
　タロット兵と灼滅者達の戦いは続いた。
「よいしょー」
　どずん！
　気の抜ける掛け声と共に放たれるのは重い一撃。
　まだ余裕があるのだろうかタロット兵は剣で払うと髪をなびかせ響が飛び込むと打ち合い、隙をついてもう一撃。
「手ごわい相手ですね」
　ダメージを受けた仲間達を癒すリーファはぽつりと口にした。
　タロット兵は仲間達の攻撃を受け、捌き、そして払う。続く戦いでダメージを負っているのは間違いないが、その行動は余裕さえうかがえた。
「大丈夫、旭君？」
　ふと、颯からの声に旭は小さく瞬きをひとつ。
　対峙するのは『正義』。
　心の奥底に眠る過去がちらりと過ると目を細め、
「正義、か……なら、俺は。これからの戦いで犠牲を減らすためにも……貴方の命を奪う『悪』となる」
　――ア、グォオ……！！
　死角からの一撃は思わぬものだったのだろう。切り裂かれたタロット兵は、ばっと血のようなものをまき散らすと天秤をかざし――左の皿が傾いた。
「……回復か？」
　血のようなものが止まる様子にヴェルグは気づき、それは仲間達も気づいた様だ。
「右が攻撃、左が回復、ね」
「みたいだねー」
　ルーシアのつぶやきにチモシーは頷き、
「タロット兵の行動パターンが読めそうだね」
　颯の声に姉は小さく頷いた。
「行動パターンが読めりゃこっちのもんだ、さっさと片付けるよ！」
　声を上げる悠はタロット兵へと距離を縮めると、重い一撃を叩きつけた。
　強敵相手に行動パターンが読めるという事はその後の戦いに少なからず影響を及ぼした。灼滅者達はその攻撃に身構え、タイミングを計っては傷を癒し、戦いをつづけた。
　傾く皿は右より左に頻度が増え、そして。
　――オォ……オオ、オ……！
　かたんと皿は右へ傾くと灼滅者達へと攻撃が向き――、
「く、っ……！」
　白衣は血に濡れ、ぽたりと地に落ちる。
「よくも仲間を！」
　膝を折る姿を目に悠は標識を叩きつけた。
「ルーシアさん！」
「大丈夫ですか？！」
　響とリーファは声を上げるが、庇い受けたダメージは大きすぎた。
「ディフェンダーは……庇うこそ、華……決着を！」
　長槍からの手ごたえにヴェルグも感付いていた。
　タロット兵の限界が近いという事を。
「それじゃーとどめ！」
「しっかり狙っていくよ」
　チモシーと響の一撃を払おうとするも、剣はそれを捉える事ができず、
「確実に敵、倒しときましょうね」
　犬と共に駆ける白銀に燃える炎の欠片はリーファと共に叩きつけられるとタロット兵はよろめいた。血のようなものを派手にまき散らし、それでも踏みとどまろうとする。
「姉さん、旭君」
　姉と共に放つ攻撃は敵をえぐり、双刃の大身鎗が――どずり。
　――オ、オオオ、ォ……！！！
　槍を引き抜く力さえも残らぬタロット兵は、だが、それでも一人でも倒そうと天秤をかざし――、
「させません！」
「往生際が悪いね」
　その攻撃はリーファのライドキャリバーと颯によって防がれる。
　――ォ……、……。
「恨んでくれていい。……だけどせめて、安らかに」
　どざり。
　タロット兵の力はそこでつき、タロット兵は地に崩れ落ちた。
　
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「まずは１体、ですね」
　絶命したタロット兵を見下ろし、響は髪をかき上げた。
「楽しませてもらったけど、まだまだだね」
　スーツの乱れを直し、汗と共に髪を払いながら悠は言う。
　強敵であったタロット兵との戦いは最悪な結果を迎えることなく勝利をおさめる事ができた。
「助かったよ、庇いばあちゃん」
　そう言いしゃがむ悠が体を抱え上げるのは、颯と共に仲間を庇いつくしたルーシア。
　確認すれば、息はある。まずは一安心。
「戦闘を続けるのは無理みてえだし、撤退するか」
　姿と共にざあっと消えていくタロット兵の武器を目に言うヴェルグに反対するものはいない。
　今のところ周囲にタロット兵の姿はない。だが仲間への連絡手段何が起こはなく、何が起こるかわからない戦場に長居する必要はないだろう。
「殿はわたしが努めるよ」
「お願いするね」
　周囲を警戒する響にチモシーは応え、
「敵を削って無事に帰る、これもれっきとしたお仕事なんですしね」
　リーファは最後まで仲間を庇いきったルーシアを犬へと乗せた。
「帰ろうか、姉さん」
　颯の声に姉は頷き、タロット兵の体を貫いた大身鎗をぐっと握る。
「この大戦の主戦力に大打撃を与えられたと思うが、この先どうなるんだろう」
　誰に言うでもなく発した呟きと見据えるその先。
　コルネリウスやデスギガスはどうなったのだろう。武蔵坂の教員は無事に脱出できただろうか。
　そして仲間達は――。
「大丈夫、全てうまくいっているよ」
「そうだね」
　颯の声に旭は応え、握る得物をがっと地から引き抜いた。
「じゃあ撤退しようか」
「雑魚兵から攻撃されたら面倒だしな」
　チモシーとヴェルグは言い、仲間達は戦い続く戦場から急いで撤退した。
　
　シャドウ大戦は灼滅者達が介入した事により、大勝利をおさめる事ができなかったアガメムノンは主戦力に大打撃を受けた。
　この結果は今後のシャドウ勢力との戦いに少なからず影響を与えるだろう。
　自らの役目を終えた灼滅者達は戦場を離れ、仲間達の元へ戻っていくのだった。

作者：カンナミユ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年11月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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