シャドウ大戦介入～Ｄｅｓｐｅｒａｔｉｏｎ　Ｄａｙ

■リプレイ

●介入まで、あと――
　双眼鏡を覗き込んだ楯守・盾衛（シールドスパイカ・d03757）は軽い口笛を吹いた。ソウルボード内の戦場は見渡すばかり、シャドウ兵たちで埋め尽くされている。
「あッちもシャドウ、こッちもシャドウ――ッてか。あらヤダ、楽しィ乱痴気騒ぎからハブにするとか水臭ェじャねェの。乱戦過ぎィってェ感じで、使う技や能力なンかはこッからじャわかんねェな」
「オルフェウスの位置は……外には見えませんね。拠点の中にいるようです」
　同じく望遠鏡で援護対象であるオルフェウスの確認をしていたフランキスカ・ハルベルト（フラムシュヴァリエ・d07509）の言葉に頷き、槌屋・康也（荒野の獣は内に在り・d02877）は視察で得られた情報を割り込みヴォイスを使って他班に伝えた。
「オルフェウスはおそらく拠点内にいる。戦況はかなり悪いようだ、コルネリウス軍が何とかもちこたえてるけど――」
　その時、突如として戦場の一角に穴が空いた。そこを突破点にコルネリウス軍がずるずると後退を始める。今だ、と康也は叫んだ。
「この期に乗じて、オルフェウスの元へ駆けつけるぞ！　包囲が薄いのはどの辺りだ？　他の班にもすぐ伝える」
　望遠鏡を覗き込んでいた二人がすぐに答える。
「ンー、あっち回り込んでみますかねェ？」
「依存有りません。早くしないと、拠点が敵に制圧されてしまいます。急ぎましょう」
　フランキスカの言葉に丹下・小次郎（神算鬼謀のうっかり軍師・d15614）は頷くと、手の平に怪談蝋燭の灯をともした。
「俺たちの役目は他班の援護でしたね」
「はい。遅れずついていきましょう、です」
　朧夜・穂風（炎玄の繰り手・d18834）は先陣を切る他班の背中を追いかける。最中に、ゆらりと迸る殺気――戦場の一角を鏖殺領域が呑み込んでいく。
「お前たちはッ！？」
　総崩れとなったコルネリウス軍を蹴散らして拠点に攻め入ろうとしていたシャドウ兵たちは不意に突っ込んできた第三者に驚愕の声を上げた。
「悪いけど、邪魔しないでくれる？」
　備傘・鎗輔（極楽本屋・d12663）は返事を待たず、炎を纏いて駆け抜ける。霊犬は遅れずついてきている。前の班が撃ち漏らしたシャドウ兵が彼らの背後に回り込んだのを、嶋・八雲（海鳴き・d33227）のバベルブレイカーが間一髪貫いた。
「ありがとう！」
　振り返らないまま告げる久良に、八雲が返す。
「連携を大事に頑張りましょう」
「ええ。こういう時に大事なのは役割分担と――」
　小次郎の手元で会談蝋燭の炎が揺らめき、敵を惑わすのは突如として足元から出現した一つ目の怪物――泥田坊の怪、と微かに微笑む口元が語った。
「敵の士気を挫くことですね」
「う、うわあ……っ！」
　悲鳴を上げて後ずさるシャドウ兵の頭上に振り下ろされた泥の手が混乱する敵の群れをなぎ倒していった。
「さァアナタもキミもチョキチョキしちャいましょうネー」
　何とか泥の中からはい出してきた相手には盾衛の殺刃鋏が追い打ちをかけ、フランキスカの疾駆する足元から躍り上がる漆黒の縛り手が意識を刈り取る。
　先陣を切る他班の仲間が切り開いてくれた道をさらに広げる形で、彼らはオルフェウスが居る拠点へと乗り込んでいった。

●贖罪を冠されるもの
「ひどい有り様だな」
　混乱の中にある拠点の中を駆けながら、赤槻・布都乃（悪態憑き・d01959）は独り言のように呟く。戦線の崩れたコルネリウス軍は瓦解する寸前であり、勢いを増して拠点へとなだれ込むデスギガス軍の前に翻弄されるばかりだ。
「早くオルフェウスさんを探さないと……」
　穂風は辺りを見回し、求める姿を探す。
「奥か？」
　康也の言葉に鎗輔が頷いた。
「おそらくね。この辺りはまだ敵兵も入り込んでいないようだし……」
　敵軍よりも早く見つけることができれば、と思っていた時だ。遠くからでも分かる特徴的な鎧を着た少女の姿を見つけた者の声が上がる。
「オルフェウスさん……」
　八雲がその姿を認めた時、すぐ背後の班から割り込みヴォイスが響いた。
「合流するぞ！」
　それが自分への呼びかけだと気づいたオルフェウスは目を見張り、驚いたように言った。
「灼滅者……！？　何故……」
「こンにちわ、武蔵坂発★どシリアスなヌッ殺し合いをブチ壊しにし隊DEATH！　食材のオル公チャン、元気DEATHかァーーー！！」
　自分の元に灼滅者達が駆け付けることを予想だにしていなかったのだろう。オルフェウスの戸惑いに構うことなく、盾衛たちは高らかに名乗りを挙げながら彼女の元にたどり着いた。
　間を空けず、たどり着いた順に次々と説得が始まる。
　そのいずれもが彼女の撤退を願うものであり、中には顔見知りの者の説得もあったようだが、それでもなおオルフェウスはこちらの提案を受け入れることを良しとしない。
「ココで死ぬ定めとか言うなよ。生存望むバカの集まりだぜ、コレは」
　全線から離れた拠点にいたオルフェウスはまだ無傷のようだ。それを確認した布都乃は安堵に肩を竦め、小次郎と共に説得へと加わった。
「なあ、ここまで来てやったんだ。意地張るのはよせよ」
「捲土重来する気もない、気持ちが汲めないような器なのかい？」
　敢えて、小次郎は挑発するように告げる。
　それでも――オルフェウスは動かない。
　続けて殿を担当していた最後の支援班の灼滅者が説得に入ったが、今、オルフェウスに舞台を降りられると困るという訴えも、「一緒に行こう」という率直な言葉も彼女の心には届かなかったようだ。
「この戦いで倒れたすべてのシャドウの罪と共に、私も、この戦場に倒れよう。それが、私の『贖罪』となる」
「フェン、フェン！」
　と、オルフェウスがここに残ることを決断しようとした時――だった。
　大勢が駆け付ける足音がして振り返ると、優貴先生と彼女の撤退支援に回った班の面々が現れる。どうやら、コルネリウスと優貴先生の方は無事に撤退を開始できたらしい。
「皆さん、無事でしたか……！」
　穂風はほっと胸を撫でおろした。
　彼らはそれだけでなく、オルフェウスを説得するための情報を持って来てくれたようだ。曰く、撤退を承知したコルネリウスはプレスター・ジョンの城と繋がっている優貴先生のソウルボードに常駐して彼女を守ることを約束してくれたらしい。
　なるほど、と八雲は頷いた。
「それなら優貴先生を連れ帰っても大丈夫そうですね」
「ああ、一石二鳥の手だな」
　小次郎が頷いた時、一足先に退路確保へ動いた班があった。ここまで先陣を切ってくれた班だ。康也は仲間を振り返り、促した。
「俺たちも行こうぜ！」
「支援します」
　フランキスカは武器を構え直し、彼らに呼び掛ける。
　しかし、オルフェウスを説得している間に敵軍はすぐそこまで迫っていた。既に交戦中の班を後背から援護するため、彼らに合わせて攻撃を束ねる。
　新たに駆け付けた敵兵が武器を構えるより先に小次郎のデッドブラスターが迸り、八雲の元から放たれた炎の花が彼らを援護した。
「助かりました」
　ヴォルフの礼に、そっちこそ、と返す。
「露払い役、お疲れさん！」
　布都乃と盾衛が連携して放つ帯状の鎧と霊光がいちごと悠の受けた傷を癒していった。
「なんだかなぁ……」
　足がかりになりそうな壁を蹴って、浮遊する敵に直接蹴撃を与えた鎗輔はぼやいた。どうやら、遮蔽物を動かす余裕はなさそうだ。
「結構きつそうな戦いになりそうだね」
「気張ってくれよ……！」
　退路を確保するため、敵群に突っ込んでいく他班の仲間の背中に祭霊光を飛ばしながら、布都乃は励ましの声を上げた。
「サヤ、いけ！」
　前で戦う仲間を庇うように頼んでウイングキャットを向かわせた先は飛び交う射撃戦のただ中だ。デスギガス軍はコルネリウス軍の拠点陥落を前にして勢いづいている。
「いいからぶっ飛ばす！　そんで、全員で帰るんだ」
　レイザースラストを迸らせながら康也が叫べば、盾衛は合点承知とばかりに笑み、断斬鋏を振るった。
「やッぱこう言う時にャ、俺らが居なきャ画竜点睛カックカクッてなァ」
　一振り、二振りと繰り返していくうちに少しずつ、まるで敵軍を切り取るかのように道が開けていく。
「退け、影の傀儡ども！」
　取りこぼしを一掃するフランキスカのサイキックフラッシュが眩く輝き、戦線を押し上げる。後ろから駆け付ける足音がして残る仲間達が合流した。
　最後までオルフェウスの元に残っていた班員――矜人が告げる。
「話がついたみたいだぜ。やれやれ、オルフェウスも隅に置けねえな。追っかけが大量だ」
「ということは……」
　敵の攻撃から主人を守るように滑り込んだしおかぜに庇われながら振り返る八雲の目には、優貴先生を伴ったオルフェウスの姿が映った。
「よかった、撤退を受け入れてくれたんですね」
　フランキスカが頷き、仁王立ちしたまま二刀を構える。炎を纏わせ交差させる姿はまるで煉獄の十字架を抱いたかのようで、凄絶だ。
「勝敗は兵家の常なれど、座して看過する道理も無し。祓魔の騎士・ハルベルトの名に於いて押し通る、道を開けよ！」
　
●切り開き、駆け抜ける
　フランキスカは宣言通り、炎の化身となって道を切り開く。だが、敵の数は多く振り切るのは簡単なことではない。前を行く班の消耗が激しいのがわかる。
　霊犬が吠えて、彼らを先導する。次々となだれ込む敵陣を前にして、押し通るしかない、と鎗輔はオーラキャノンで牽制を図った。
　やることは行きと同じだが、難易度が段違いだ。
「落ち着いて、でも死に物狂いでいかないと駄目ですね。これは」
　戦場に炎の花を灯しながら八雲が言うように、戦いは激しさを増してゆく。
「っ……！」
　肩口を敵兵の鋭い刃が掠め、穂風は悲鳴を呑み込んだ。
「大丈夫か！？」
　すぐに布都乃が癒しの音色を奏でる。
「無理はすんなよ……！」
「大丈夫、です」
　穂風は流れる血を炎に変えて、それすらも力の一部と化するが如く炎を――フェニックスドライブの業火を敵陣目がけて放つ。
　鎗輔のグラインドファイアや八雲の緋牡丹灯籠と合わせて戦場を駆け抜ける炎は、ついに敵兵の群れに大きな穴を空けた。
「オラオラオラオラァ！」
　瞬時に、誰よりも早くそこへ突っ込んだ盾衛が振り回す交通標識が敵を蹴散らす。どうやら、タロット兵以外のシャドウ兵はそれほど強くないようだ。
「全員シッカリ守りきる！　そんで、てめーらはぶっ飛ばす！」
　仲間の隙をつこうとしていた敵兵を横合いからクルセイドスラッシュで吹き飛ばして、康也は前に向き直った。そこはついに、敵の包囲網を越えた先。
「ほら、行けよ」
　オルフェウスのために道を空ける布都乃の横顔には複雑な色がある。
（「慈愛の姫は無事かねぇ……」）
　その顔を知っているコルネリウスの安否を祈りつつ、今は自分の仕事をこなすまで。灼滅者に頼まれたのか、オルフェウスはしっかりと優貴先生を守るように寄り添っていた。そのまま布都乃たちの前を通り過ぎて、護衛の灼滅者たちと共に戦場を抜けていく。
「あれは……」
　だが、物見役をかって出ていた小次郎は新たに現れた敵の存在にいち早く気が付いていた。すぐさま、割り込みヴォイスを使える康也に告げる。
「タロット兵！？」
　他のシャドウ兵とは全く違った外見のそれは、味方すら蹴散らすようにしてこちらへ向かっていた。康也はとっさに叫んだ。
「来たぞ！」
　そのタロット兵は、『運命の輪』を携えていた。
　それが、まるでチェーンソーのように回転を始める。
「下がれ！」
　後衛を庇うように前へ出た康也とフランキスカが、二人がかりでその異様な武器を受け止めようと試みる。だが、相手はものともせず、飛びかかってきた二人を跳ね飛ばした。
「くっ……！」
　空中で体勢を立て直したフランキスカは、よろけながらも着地する。すぐに鎗輔の霊犬とサヤが駆け付け、支援する。
「相手は万全のようですね。消耗の激しい私たちでは抑えきれぬやも……」
「あっ」
　追撃から彼女たちを庇おうと前に出た穂風は、タロット兵が他班の前衛を全く同じようになぎ倒すのを見た。
「ちッ！」
　彼らが撤退する時間を稼ぐため、盾衛は両手に構えた交通標識を思い切り振りかぶった。
「信号無視はご法度だッてンだよオラァ！」
　真正面から『運命の輪』と噛み合った武器の軸が、ガガガッ、と削れて派手な音を奏でる。後方からは小次郎と八雲が射撃にて援護。タロット兵の注意をこちらに引き付けようと、とにかく攻撃を仕掛ける。しおかぜと霊犬が最初に倒れ、ほとんど全ての前衛がぼろぼろになっている。
「まだだ……！」
　紡ぐのは援護の霊光だが、布都乃の気迫は攻撃手のそれと遜色ない。
　にやりと盾衛が笑った。こういう消耗戦に至ってこそ、念入りに仕込んでおいたエフェクトの甲斐があるというものだ。
「ここは通しません……！」
　異形のシャドウ兵を真っ直ぐに見据え、八雲はその眼前に緋牡丹の炎を咲かせる。龍気を纏った鎗輔のクルセイドスラッシュが真正面から炸裂、さすがにこれは効いたのか、微かにタロット兵が傾いだ。
「っ！？」
　しかし、与えた衝撃よりもはるかに大きい反撃を受けた鎗輔の身体が激しく地面に叩き付けられる。間一髪を救ってくれたのは、すぐ後ろにいた縁による回復援護だった。
　紡がれた命の霊弾が鎗輔めがけ放たれ、危ういところで意識を繋ぐ。
　すかさず穂風が禁呪を唱え、激しい爆発によってタロット兵を足止めた。怪我人を出した他班が無事に退いたのを確認して、小次郎が言った。
「では、俺たちも離脱しましょう」
「了解しました」
　フランキスカは頷き、他の仲間たちとタイミングを図って引き始める。その身に受ける攻撃などものともせずにタロット兵はしつこく追いすがる、が――。
「あれは……？」
　最後尾から様子を窺っていた小次郎は、ゆっくりとソウルボードに亀裂が走っていくのを見た。同時に足元で激震が走る。
　それは、コルネリウスによって発動した移動を制限する亀裂だった。分断されてしまったタロット兵が行き場を失くして右往左往する。
「無事に振りきれそうですね」
　八雲はほっと胸を撫でおろした。
　それも最初に誓った通り、全員揃っての帰還だ。誰一人欠くことなく任務を果たした彼らは顔を見合わせて、互いの無事を称え合った。

作者：麻人	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年11月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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