●
早朝。横浜市内のとある公園内で、1人の男性がランニングをしていた。
いつもの時間。いつものランニングコース。すっかり見慣れた光景だが、それでも楽しいのだから仕方ない。
「よし、あと2周。今日は中々調子が良」
ゴトリ。
男性の首が地面へ落ち、胴体がそれに重なる様に力無く倒れた。
死のその瞬間まで、男性は何が起きたか分からなかっただろう。
「…………」
男性の首を斬り落とした誰かはその死体を無造作に草むらに放り込み、そのまま何食わぬ顔で立ち去って行った。
同日、同じく横浜市内の裏路地で、1人の女性が頭を潰され殺された。
学生が首を絞められ殺された。
主婦が胸を撃たれて殺された。
老人が脚をもがれて殺された。
警官が目を抉られて殺された。
医者が腹を裂かれて殺された。
何処かで誰かが誰かを殺し、誰かが誰かに殺された。
それがルールだった。
●
「はい、どうも皆さんこんにちは。先日のサイキック・リベレイターの投票の際にも話が出ていましたが、六六六人衆とアンブレイカブルが同盟を締結させてしまいました。そしてその橋渡しをしたミスター宍戸のプロデュースで、奴らは悪趣味で派手な事を始めた様です……暗殺武闘大会なるものを」
神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)は赤いファイルを開くと、事件の説明を始める。
「どうやらこの暗殺武闘大会、の暗殺予選。日本全国のダークネス達から参加を募っているらしく、その情報は学園でもあっさり確認する事が出来ました。その結果分かったのですが、ミスター宍戸は灼滅者に情報が漏れるのを恐れるどころか、灼滅者がこの大会を邪魔する所まで含め、ルールを決めている様です。嫌な男ですね。本当に、嫌な男ですね」
本当に嫌そうな顔で言いつつ、ウィラはファイルから暗殺武闘大会暗殺予選のルールについての資料を取り出し、灼滅者達に配った。
「細かいルールについては後でこれを読んでおいてください。要は1日1人以上を殺しつつ、1週間経つか参加者の8割が死ぬまで生き残れば予選突破だそうです。ふざけてますね」
ミスター宍戸の思惑に乗っかる様な真似は癪だが、だからと言ってダークネスに殺される一般人を見捨てる訳にはいかない。
そこまでの説明を終え、ウィラはファイルをパタンと閉じた。
「説明は以上です。そういう訳ですので皆さんは横浜市へ向かい、ダークネスを灼滅してきてください。1体とは言いません、出来る限り多く潰して来て下さい。根こそぎでも構いません。そして今回は無理ですが行く末は、ミスターなんちゃらの鼻に膝蹴りでも喰らわせて下さい。最後のは私の唯の願望です。私の唯の、強い、願望です」
参加者 | |
---|---|
ミネット・シャノワ(白き森の旅猫・d02757) |
海保・眞白(真白色の猟犬・d03845) |
炎導・淼(ー・d04945) |
静闇・炉亞(君咲世壊・d13842) |
アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・d22426) |
踏鞴・釼(覇気の一閃・d22555) |
灯灯姫・ひみか(星降りシャララ・d23765) |
夜霧・一輝(ストップアンドゴー・d34263) |
●
暗殺武闘大会暗殺予選1日目。午後17時。横浜市内のとある道場近くの路地にて。
「それにしても、随分と悪趣味な事を……この大会に関わるダークネスは、1体でも多く倒しておきたい所だ」
アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・d22426)が小さく息を吐いた。
「この張り紙に、1体でも引っ掛かってくれるといいんですけど……道場も近いですし、アンブレイカブルなら或いは……」
灯灯姫・ひみか(星降りシャララ・d23765)は予選参加者のダークネスに闘いを挑むという旨が書かれた張り紙を貼りだしていた。
用心深いダークネス相手には厳しいだろうが、ある程度の効果はあるだろうと灼滅者達は期待していた。
「如何せん捜索範囲が広い。今は少しでも、ダークネスに繋がる手掛かりが欲しい所だな……さてお次は……警察署だな」
炎導・淼(ー・d04945)はあらかじめ用意していた地図を見ながら、仲間達に次の行き先を示す。
探索予定がしっかりと定められていた事もあり、灼滅者達はスムーズな活動を行えていた様であった。
暗殺予選3日目。午前9時。深夜から朝にかけた探索を終えた灼滅者達は、横浜市街の休息地点でテントを張っていた。
「中々見つかんねぇなー……どいつもこいつもコソコソ潜んでやがる。1人位どーんと姿現す奴はいねぇのか?」
海保・眞白(真白色の猟犬・d03845)はそう愚痴りつつ、欠伸をこぼしていた。
灼滅者達は3日間に渡って各地の探索を続けていたが、今の所めぼしい情報を手に入れる事は出来ていなかった。
「そもそもこんな大会に参加する様なダークネスですしね。血の気の多いダークネスが多いでしょうから……そのうち、ボロを出すダークネスは絶対にいると思います」
1日に1人殺し、後は灼滅者達から静かに隠れ続ける。そんな地味な行動に飽きるダークネスがいるだろうと、静闇・炉亞(君咲世壊・d13842)は予想していた。
「この様な状況では、キャンプを楽しむ暇もありませんね……さて、探索はまだまだこからです! 明日のために、今はゆっくり休みましょう!」
ミネット・シャノワ(白き森の旅猫・d02757)の促され、休息をとる一同。
探索は続く。
暗殺予選5日目。午後18時。横浜市内のとある道場、その門前にて。事態は急速に動き出す。
「酷いな……何だこれは」
「何ってそりゃあ……何かが来たんだろうさ、ここに」
そこにある筈だった大きな木の門と、立派な看板。それが何者かの手によって粉々に破壊されていた。
「誰がやったか知らないけど……引き摺る程巨大で、荒々しい武器を持った奴だって事は間違いないだろうね。……ああ、多分身体もデカい。それに……まだ、ここにいる」
周囲に残された痕跡を確認していた夜霧・一輝(ストップアンドゴー・d34263)は、この襲撃の犯人は、未だこの道場の外に出ていない事に気付く。
「…………行くぞ。奴に、明日の朝日を拝ませる訳にはいかない」
踏鞴・釼(覇気の一閃・d22555)は刀の鞘を手に、砕けた門の下をくぐる。
闘いが、始まろうとしていた。
●
「下らん……何故弱者と闘わなければならない。いや、これは闘いですらない。つまらん殺戮だ」
「ア……ガ……!!」
師範代の身体を軽々と持ち上げ、その首を締め上げながら、巨躯の男、アンブレイカブルは淡々と呟く。
「それもこれもお前らが弱いせいだ。1人くらい俺と渡り合える気骨のある奴はいないのか? あぁ?」
既に3人の門下生が殺され、今まさに4人目が殺されようとしていた。
「死ね。弱者に生きる価値は……」
「よう、いきなりで悪いが邪魔するぞ」
男の巨腕に、淼の灼熱の蹴りが叩きこまれる。男は咄嗟に師範代から手を離し、左腕に装着したバベルブレイカーを駆動させる。
「お前等は……」
「ルールを聞いていなかったんですか、ダークネス。少し不用心が過ぎましたね」
男の脚元に放たれた、炉亞の鋭い刺突。男は僅かに顔を歪めた。
「さぁ覚悟なさい! あなたの凶行もこれまでですよ、ダークネス!」
マントを大きく拡げ、十字架を掲げるひみか。そして放たれた巨大な光の砲弾が、男の胸部を直撃した。
「逃げろ。ここは私達が抑える」
生き残りの一般人達を庇うように立ち、槍を構えるアルディマ。その足元から放たれた一筋の影が、男の身体を斬りつけた。
「俺達が相手だ! バベルブレイカー持ち同士、勝負と行こう!」
男の前に立ち塞がり、真正面からバベルブレイカーを叩き付ける一輝。そうして引きつけている隙に、一般人達は徐々に戦場から離れていく。
「灼滅者か……貴様等が強者である事を願うばかりだ……がっかりさせるなよ」
ドン、と地を蹴り男が前へ飛び出した。
そして放たれた杭の一撃が、仲間を庇った眞白の腹に直撃する。
「グッ……!! 冗談みたいに痛ぇ……!!」
ガリガリと身体を削れ、眞白の額を脂汗が伝う。
次の瞬間、ミネットが放った雷の拳が男の側頭部を抉り、大きく揺らめかせた。
「弟君っ! やられたら倍返しでやっちゃいましょうっ!」
「おう、任せな姉貴ッ! こっちも一発殴んなきゃ気が済まねぇしなッ!!」
ミネットの呼びかけに応えた眞白は、退くどころかより一層前に出て、鋭い篭手の一撃で男の頬を抉った。
「俺はだらだらと長い闘いは好きではない。決まるのは一瞬だ。強い方が勝ち、弱い方が負ける。それだけだ」
流れ出す血を気にも止めず、男は地面へ杭を叩き付けた。
放たれる衝撃波が灼滅者達を襲う中、釼は刀の鞘を手に、男の元へ一直線に向かう。
「分かりやすいな。だが……唯倒す為に倒すお前に、負ける訳にはいかない」
振り降ろされる鞘の一撃が、男の脳天を打ち砕いた。
「……中々やるな。期待外れではなさそうだ」
●
バベルブレイカーを用いた男の一撃一撃は、尋常では無い程強烈であった。しかし反面、守りは捨てているも同然。
何にせよこの闘いは、男の言っていた通り一瞬で決まるだろう。
「攻撃力が高すぎる。これ以上削られる前に、早急に片をつけなければ」
アルディマは槍の刃に自らの妖気を纏わせ、一気に突き出した。
「凍り付け」
そして放たれた氷の刃が男の胸を貫き、凍てつかせた。
「……痛いな。ここまで痛いのは久しぶりだ。ここまで愉快な闘いもな」
「そうですか。ですが痛いのも愉快なのも、今日で全て終わりです……右舷、頼みます」
ひみかは清めの風によって仲間達の傷を癒しつつ、ウイングキャットの『右舷』に指示を出す。
右舷は自らの魔力を尻尾の先端に放出し、
「消えなさい」
そうひみかが呟いた瞬間、魔力はカラフルな鎖へと姿を変え、男の全身を一気に締め上げた。
「猫の割には小賢しい真似をする」
鎖から抜け出した男は、一瞬にしてバベルブレイカーに闘気を充填させ、一気に突きだした。
「吹き飛べ」
轟音と共に放たれた闘気の塊は一輝の身体を打つ。
「……グアアッ!! ぐ……あ、危ない……一瞬意識が……」
その一撃で体力の大半を削られた一輝は膝を付き、眼前の敵を見据える。
「あきらめたら、だめなんだ……まだ俺は、あきらめない!」
カッと目を見開いた一輝は一瞬にして男の懐へ飛び込むと、男の腹に杭の一撃を叩き込み、その巨体を壁まで吹き飛ばした。
ドン、と道場全体が揺れる様な衝撃が響く。
「面白いな。面白いぞ、お前達」
「別にお前を楽しませる為にやってる訳じゃねぇよ!! お前みたいな獣を狩る為だ!」
眞白はエアシューズを駆動させると、縦横無尽に道場内を駆け回り、不意に男の側方から飛び込んだ。
「捉えた……姉貴、俺に続きなッ!!」
渾身の眞白の跳び蹴りは男のこめかみを綺麗に穿ち、その巨体が初めて床に倒れ伏した。
「了解ですよ、弟君! このまま追撃します!」
ミネットは闘気から生み出した雷を拳に纏わせ、倒れた男に接近する。
「別に、貴方に恨みはありませんとも。ただ、気に食わないだけです……!!」
そして振り下ろされる拳。雷鳴と重なり放たれた一撃が、男の顔面に容赦なく放たれた。
「死ぬかもしれないな。こういう時、賢い奴等は逃げの一手を選ぶのだろう」
徐々に追い詰められていく男。その事を理解しつつも、男は全く逃げる素振りを見せない。
そして放たれる杭の一撃。それを庇ったサーヴァントが一瞬にして蒸発した。
「まだ油断は出来ません……この男の『死』は、まだ確定していないです」
炉亞は断斬鋏を構え、男と、その奥の死を診る。
「断切る……此処です」
炉亞は突きだした鋏をパチン、と閉じる。次の瞬間、男の首筋から大量の血が噴きだし、床が鮮血に染まった。
「俺はまだ死んでいない。死んでいなければ、闘える」
男は一切傷を癒さなかった。唯々目の前の敵に猛威を振るう。
「てめぇの趣味にこれ以上付きあってられるか。こっちの傷が下手に増えるのはご免だ」
淼は構えた剣の刃に業火を灯す。そして一気に踏み込むと、
「いい加減燃え尽きろ」
灼熱の刃は男の身体に治し難い傷を刻み、業火は容赦なく全身を焼き焦がした。
「残念だが、まだ死ねんな」
「だが死にかけには間違いないだろう、アンブレイカブル。次で、本当に終わりだ」
釼は鞘に自らの闘気を纏わせる。そこに刃は無かったが、敵を打ち抜くにはそれで十分であった。
「……やってみろ」
ドン、と男が地面に杭を叩き付けると、これまでで最大の衝撃波が生み出される。
しかし灼滅者達はその一撃を避け、あるいは受けきると、男に一斉に攻撃を叩き込んだ。
淼が放った鋭い蹴りが男の足を打ち砕き、
アルディマが放った影の斬撃が全身を斬る。
炉亞が放った氷の刃が肩を貫くと、
ひみかが放った光の砲弾が全身を吹き飛ばす。
眞白が放った霊力の網が動きを封じると、
ミネットが放った雷のアッパーカットが顎先を打った。
一輝が放った杭の一撃が男の腹を貫くと、
「お前の負けだ」
釼が振り抜いた鞘が、男の脳天を再び打ち、流し込まれた魔力が内臓を吹き飛ばした。
「…………中々有意義な闘いだった」
ドサリ、と倒れた男の巨体は塵の様に霧散し、後には何も残らなかった。
それが、男の末路であった。
この戦いの2日後、暗殺武闘大会暗殺予選は、タイムリミットを迎える事となる。
が、暗殺武闘大会はまだ続く。
灼滅者達は次なる戦いに備え、横浜市から帰還するのだった。
作者:のらむ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2016年11月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|