闇夜を駆ける黒い狼

    作者:三ノ木咲紀

     フェンスを蹴り跳躍した黒い狼が、向かいにある大都会のビル屋上に降り立った。
     黒い焔を身に纏った狼は大きい。
     普通の狼の数十倍はある巨大な体を大きく振るわせた狼は、深紅の三眼で地上を見下ろした。
     煌びやかなネオンサインが輝き、ヘッドライトの川がゆっくりと流れていく。
     そこにあるのは、人々の営み。
     人々の営みにあるのは、身を潜めるダークネスの営み。
     黒狼は目を細めると、鋭い牙を剥きだしにした。
     光の海の向こうには、戦いが待っている。
     戦うことは生きること。生きることは戦うこと。
     目的などどうでもいい。目標などなくていい。
     力尽きるまで戦い、暴れることこそ本望。
     光の海へ飛び出そうと一歩踏み出した狼は、足元で鳴る鎖付きの足枷に目を落とした。
     四肢を拘束していた名残の鎖は、無理やり引きちぎったように壊れている。
     かつて炎道・極志と呼ばれていた頃の名残が、足枷として残っているのか。
     押し留めるように重い足枷をひと踏みした黒狼は、三日月に向けて遠吠えをすると地上へと降り立った。


    「ガイオウガ決死戦で闇堕ちしはった、炎道・極志はんが見つかったで!」
     興奮した面持ちで集まった灼滅者達を見渡したくるみは、東京都心の地図を黒板に貼り出した。
    「極志はん……黒狼が現れるんは、このビルの屋上や。黒狼は戦うことを目的にしとってな、皆が仕掛けたら逃走せずに戦うはずや。理性や知性がほとんどない、ある意味イフリートらしいイフリートになってはる」
     戦いになれば体力が続く限り暴れ続け、戦いこそが全ての戦闘狂と化している。
     四肢を鎖付きの壊れた足枷で繋がれており、完全にイフリートと化してはいないことを物語っている。
     そのため、説得されれば自分が説得されている理由を思い悩んで行動が鈍る。
     真正面からぶつかり、倒すことで帰還の可能性が出て来る。
     戦場は、誰もいないオフィスビルの屋上。
     戦うには十分な広さがあり、一般人もいない。
     潜入も問題なく行えるはずだ。
     黒狼のポジションはクラッシャー。
     ファイアブラッドのサイキックに加え、炎を槍のように繰り出したり、炎で分身を造り出して攻撃させたりする。
    「今はまだ足枷が残ってはるけど、これが壊れてもうたら、もう二度と戻って来れへんやろう。そうなったら灼滅するしか方法はあらへん。そうならんように、皆の力を貸したってや」
     くるみは灼滅者達を見渡すと、ぺこりと頭を下げた。


    参加者
    神凪・陽和(天照・d02848)
    四津辺・捨六(泥舟・d05578)
    紅咲・灯火(血華繚乱・d25092)
    堺・丁(ヒロイックエゴトリップ・d25126)
    アンリ・シャノワーヌ(ヴゼットトレジョリー・d25247)
    仲村渠・華(琉鳴戦姫クールドメール・d25510)
    グレゴリー・ライネス(どこから見たって立派なゴリラ・d26911)
    日輪・黒曜(汝は人狼なりや・d27584)

    ■リプレイ

     三日月に向かって遠吠えした黒狼は、灼滅者達の気配に悠然と振り返った。
     陣を組む灼滅者達の姿に強敵の予感を感じた黒狼は、炎をより一層燃え上がらせた。
     これから始まる戦いに、黒狼は楽しそうに口を開く。
     後衛を薙ぎ払うように、漆黒の炎が放たれる。
    「迎えにきたよ。一緒に帰ろう!!」と書かれたプラカードを掲げたグレゴリー・ライネス(どこから見たって立派なゴリラ・d26911)は、燃え尽き落ちたプラカードに目を見開いた。
     コミュニケーションの手段を封じられてショックを受けるグレゴリーを元気づけるように、癒しの風が吹き抜けた。
     構えたクルセイドソードから清浄な風を拭き渡らせた紅咲・灯火(血華繚乱・d25092)は、炎を鎮めながら黒狼を睨んだ。
    「絶対に、連れ戻す、ですよ」
     黒こげになった柄を見つめるグレゴリーの耳に、美しい歌声が響いた。
     グレゴリーを勇気づける歌を歌ったアンリ・シャノワーヌ(ヴゼットトレジョリー・d25247)は、戦いの気配に三眼を輝かせる黒狼を真っ直ぐに見据えた。
    「黒狼。……私の友人、返してもらいます」
     アンリの静かな決意に歯をむき出しにした黒狼は、楽しそうに喉の奥を鳴らした。
     獲物を品定めするかのような黒狼に、堺・丁(ヒロイックエゴトリップ・d25126)はスレイヤーカードを構えた。
    「境を繋ぐ堺の守護ヒーロー、ここに参上!」
     ヒーロー姿に変身した丁は、黒狼に真っ直ぐ手を差し伸べた。
    「聞こえているかわからないけど、極志くん! 今助けるからね!」
     差し伸べた手を握った丁は、その手にクロスグレイブを取ると一気に振り上げ、振り下ろした。
     強烈な打撃に吠える黒狼に、仲村渠・華(琉鳴戦姫クールドメール・d25510)は、スレイヤーカードを解放した。
    「青く煌く海の心! クールドメール参上!」
     変身の勢いのまま大きくジャンプした華は、マテリアルロッドを振りかぶると一気に振り下ろした。
     強烈な一撃が黒狼を捉え、痛みに唸った黒狼は、灼滅者達の実力に炎をなお燃え上がらせた。
     口の中に炎を湛えながら唸る黒狼に、華は冷静に語り掛けた。
    「炎道君、同じクラブのよしみで助けに来たさぁ」
    「帰ろう炎道くん!」
     日輪・黒曜(汝は人狼なりや・d27584)が放つ蜃気楼のように白い炎が後衛を癒し、その姿を白くぼやかせる。
     白い炎を背にした四津辺・捨六(泥舟・d05578)は、灯火を守って炎を受けたライドキャリバー・ラムドレッドをねぎらうように撫でた。
    「それじゃあ、始めるか。『灼滅灼葬!』」
     叫びと共にスレイヤーカードを解放した捨六は、クロスグレイブを構えると砲口を開いた。
     業を凍てつかせる氷弾を受けて不快そうに吠える黒狼に、捨六は頭を掻いた。
    「ーーーと、今回は葬っちゃ駄目だった。まあ、そこは根性見せてくれると期待してるぜ炎道君!」
    「僕の役目は、皆さんの刃を届かせること!」
     榎木・葵(高校生シャドウハンター・dn215)は解体ナイフを握り締めると、黒狼の死角へと回り込んだ。
     鋭いナイフに足の腱を傷つけられた黒狼は、楽しそうに葵を振り払った。
     戦いを心底楽しんでいる黒狼に、神凪・陽和(天照・d02848)は右腕を半獣化させると拳を握り締めた。
    「暴れる事だけが、生きがい……?」
     仲間として過ごした沢山の時間が、陽和の脳裏にいくつもよぎる。
     それら全てを否定するかのような黒狼に、陽和はキッと顔を上げた。
    「あなたをそのままにするのは、同僚として許せません!」
     握り締めた拳をほどいた陽和は、黒狼に踊りかかると力任せに引き裂いた。
     引き裂かれた腿を舐めた黒狼は、低い唸り声を上げながら踊りかかった。


     巨体に似合わない俊敏さで飛びかかった黒狼は、華に牙を立てた。
     炎を帯びた鋭い牙が、華の頭を噛み砕こうと迫る。
     咄嗟に腕で頭を庇った華は、腕に食い込む牙の痛みに小さくうめき声を上げた。
     間近で黒狼と睨み合った華は、好戦的な目の奥にあるわずかな迷いを鋭く見て取った。
     さっきの説得が効いているのか。痛みに歯を食いしばった華は、それでもエアシューズを起動した。
     至近距離で回し蹴りを放った華は、一瞬緩んだ牙から腕を外すと距離を取った。
    「……生きることが戦いだってんなら、まず自分の闇(ダークネス)と戦いなよ!」
    「極志くんも私たちのことを思い出して! 極志くんは無闇に暴れるような人じゃなかった!」」
     Dragon Heartを起動させた丁は、流星の重力と共に黒狼を蹴り抜いた。
     黒狼に掛けられる丁の声に、黒狼は感情を見せない声で唸る。
     体に纏う炎が、少しだが小さくなった気がした。
     少しずつだが、説得の効果がある。膝をついた華にラビリンスアーマーを放った捨六は、続く仲間を振り返った。
    「盾役は任せろ! あっちに負けない高火力な説得を頼むぞ、みんな!」
     捨六の激励に力を得た灯火は、華に癒しの矢を放つと唸る黒狼に声を上げた。
    「……生きることは戦うことだけなんかじゃ絶対にない、ですよ」
    「戦い抜いた先は辛いだけだよ……。戦い以外にも、楽しいこともいっぱいある」
     声と共に放たれた黒曜のレイザースラストが、黒狼を大きく切り裂いていく。
     何とか立ち上がった華は、エアシューズを起動させると宙に舞い上がった。
     重力を帯びた蹴りを浴びせ、着地した華にアンリの歌声が響いた。
     まだ腕を庇う華に「無理をするな」というように歌声を響かせたアンリは、改めて黒狼と向き合った。
    「こんな炎を辺りに撒き散らすだけような燃え方は、極志さんには似合わないです」
     皆の説得に足を止める黒狼を、陽和は真っ直ぐに見据えた。
     炎血部に属する以上、部の掟である「闇堕ちはしない・させない・頼らない」はあの決死戦の状況から言って、守るのは困難だったかも知れない。
    「……闇堕ちを決断した勇気には敬意を表します。だから、必ず連れ戻します!」
     対具「凰」を構えた陽和は、真っ直ぐに伸びる影を黒狼に放った。
     影に囲まれ、黒狼は大きな咆哮を上げた。
     どんなトラウマを見ているのか。苦しそうに呻く黒狼の炎が、惑うように揺れた。
    「あなたの帰還を阻むものを、裂いてみせましょう!」
     黒狼の死角に回り込んだ葵は、鋭く解体ナイフを振り上げた。
     鋭いナイフが毛皮を裂き、防護を弱らせる。
     少しだけ揺らぐ黒狼を前に、グレゴリーは立った。
     頼りにしているプラカードはそこにない。
     思うように喋れないもどかしさ、情けなさ、そして仲間を助けたいという強い思いがない交ぜになり、声が喉を突いて出る。
    「……ぇ…ェン、どぅ………炎道さん!」
     おそらく初めて聞くであろうグレゴリーの肉声に、全員の視線が集中した。


    「迎えにきたよ。一緒に帰ろう!! 炎道さん言ってくれたよな、俺が落ち込んでボロボロになってた時、力になるって、助けになってくれるって、頼ってもいいんだって!!」
     グレゴリーの心からの叫びに、黒狼の炎が驚いたように揺らいだ。
     警戒するような黒狼に、グレゴリーは続けた。
    「嬉しかったよ、すごく救われたんだ。だから……今度は俺が助ける番だ!!」
     決意と共に放った影業が、黒狼を縛りつける。
     新たな足枷のように纏わりつく影に体を大きく震わせた黒狼は、炎を逆立てた。
     咆哮と同時に、三体の黒狼が生まれ出た。
     分身は黒狼の意思を受け取ると、獰猛な牙をむき出しにしながら後衛に向けて突進した。
     そこへ、一人と一台が駆け出した。
     グレゴリーを庇い、幻影の黒狼の炎を受けたシーサー君が弾き飛ばされる。
     黒曜を庇い、黒焔の牙を受け止めたアンリは、黒焔を一振りで消し去ると黒狼を真っ直ぐに見つめた。
    「目標に向けて全力で、ロケットのように一直線に、爆発するように向かってこその極志さんです」
    「MMのみんな、心配してまってるよ♪」
     アンリの後ろから駆け出した黒曜は、ダイダロスベルトを放った。
     真っ直ぐに伸びるダイダロスベルトは迷いなく黒狼に突き刺さり、揺らぐ炎を大きく傷つける。
    「思い出して。学園祭、皆で演劇やったよな。集まって、たくさん練習して、ライブ&ゲーム部門で優勝もしたよな。もっともっとたくさん楽しい思い出あるだろう?」
     影業から伸びる影が、引きちぎられた鎖の代わりのように伸びる。
     丁のライドキャリバー・ザインに守られた灯火は、グレゴリーの肉声に少し驚きながら、分身の攻撃を受けたアンリに癒しの矢を放った。
     癒しの光を帯びた矢が、アンリに当たる寸前に消えて力となる。
    「皆と一緒に学園で極志くんが楽しく笑ってたのを私、ちゃんと知ってる、です」
    「戦う以外にも、灼滅者には人として日常生活を送らねば」
     対具「凰」を構えた陽和は、伸びる影で黒狼を捕らえた。
     引き止めるように縛る影から逃れようと、黒狼は大きく跳躍した。
     距離を取り、威嚇する黒狼の後を追うように、丁はクロスグレイブを構えた。
     丁が手にした巨大な十字架の砲塔から放たれる弾が、黒狼の業を凍てつかせる。
    「思い出して! 皆でいろんなことしたよね! まだまだ遊び足りないよ!」
    「華達だけじゃない、他のみんなだって心配しているよ!」
     痛みの残る腕で放った華のフォースブレイクが、容赦なく炎の毛並みを打ち付ける。
    「早く、帰ってきてください!」
     葵が構えた解体ナイフの先から、猛毒の弾丸が放たれる。
     大きく後ずさる黒狼の追撃はせず、捨六は交通標識を構えた。
    「回復は任せろ!」
    「攻撃注意」と書かれた黄色い交通標識から溢れ出す黄色い光が後衛を癒し、体調を整える。
     決してあきらめない灼滅者達に、黒狼は炎の槍を生み出した。


     螺旋状に伸びた焔群が、華に向けて放たれる。
     衝撃を覚悟した華の前に、神之遊・水海が割って入った。
     炎でできた黒狼の攻撃を受け止めた水海は、痛みに脂汗を浮かせながら黒狼に向かって叫んだ。
    「炎道さんの炎はもっと熱かった! 心の奥まで熱くなるんだから! だからこんなモフリートに負けないで! 一緒に武蔵坂に帰ろう!」
    「いつまでそこに閉じこもっているんだい、極志くん。君はそんなところで止まる程度の男じゃあないだろう?」
     フードを脱いだ空月・陽太は、真剣に黒狼に語り掛けながら水海へラビリンスアーマーを放った。
    「まだまだ終わらないよ、私達」
     セイクリッドウインドで癒した有星・冷泉は、MM出張所のことを思いながら語り掛けた。
    「だから戻ってきて」
     サポートの説得に、黒狼は大きく頭を振った。
     迷いを見せる黒狼を、九形・皆無は叱りつけた。
    「炎道さんっ! 貴方は一体こんな所で何をしているのですか!  目を凝らしてよく見なさい、今貴方の目の前に居るのは貴方の敵ではないでしょう」
     一歩下がり、場所を譲った皆無の前に、炎導・淼が立った。
    「望まなくても、俺達がお前の大事な鎖の一つになって縛って連れて帰るけどよ、一応聞いとくぜ」
     淼は、傷ついた拳を黒狼に掲げた。
    「極志が望むなら、もう一度縛られに帰って来い! 今なら拳骨1発で許してやるからよ!」
    「帰ってきたら模擬戦しようや、ルール決めてな」
     気軽に、あくまでも平常心を保ちながら語り掛ける東・啓太郎は、鍵開けに使ったヘアピンをくるりと回した。
     説得の言葉の数々に、炎の勢いを緩めた黒狼は低い声で語った。
    「……タカガ足枷ニ、ナゼソコマデ拘ル?」
     ぶっきらぼうに言い放つ黒狼に、捨六は頷いた。
    「残念ながら縁は薄いが、俺の分までガイオウガと戦ってくれた戦友だ。今度はこっちがサポートに回る番だろう」
    「そうだよ! 協力してくれてる人だっているんだから!」
     サポートしてくれる仲間達を振り返った華の言葉を継いで、グレゴリーは拳を握り締めた。
    「思い出して。学園祭、皆で演劇やったよな。集まって、たくさん練習して、ライブ&ゲーム部門で優勝もしたよな」
     握り締めた拳の中に、交通標識が現れる。
     赤く輝く愛用のプラカードに、黒狼は初めて臆した様子を見せた。
    「もっともっとたくさん楽しい思い出あるだろう? こんな所で戦ってるだけが全てじゃないだろ!!」
    「闇堕ち禁止」と書かれた愛用のプラカードが、渾身の力で振り抜かれる。
     叫び声のような声を上げて下がった黒狼に、灼滅者達は畳みかけた。
     大きくジャンプした華は、重力を帯びた踵を黒狼の脳天に叩き付けた。
    「生きて戻って、またクラブで馬鹿騒ぎしようよ! みんなで!」
    「負けないよ! 絶対極志くんを連れ戻すんだよ!」
     華と呼吸を合わせて黒狼の懐に潜り込んだ丁は、俯いた黒狼の顎を上向かせるようにクロスグレイブを叩き付けた。
     掬い上げるような顎への一撃に、黒狼は脳震盪を起こしたようにふらつく。
     そこへ、黒曜のガトリングガンが火を噴いた。
    「帰ろう炎道くん!」
     思いと共に放たれる無数の弾丸が、黒曜の胸元に突き刺さる。
     無数の弾丸の止めとばかりに、氷の弾丸が放たれた。
    「炎血部の不死鳥の誓いを、もう一度誓い直しますよ!」
     陽和が構えたrosa misticaから放たれた弾丸が、黒狼をクールダウンさせるように胸を凍りつかせた。
     息を詰まらせたかのような黒狼が見せた隙に、アンリは天使のような歌声を響かせた。
     美しい歌声は灯火を癒し、深い傷を癒す。
     少し落ち着いた灯火に安堵の息を吐いたアンリは、黒狼を真っ直ぐに見た。
    「あなたの希望と意志は、まだ燃え足りないでしょう!」
    「だから、また皆で帰る、ですよ……皆の所に、ですっ」
     後衛にセイクリッドウインドを放った灯火は、震える足を叱咤しながら立ち上がった。
     説得と戦う意思を強く持つ仲間に、捨六は交通標識を構えた。
     黄色い光が後衛を包み込み、傷を優しく癒していく。
    「皆に説得の余裕ができるようにサポートするのが、俺の役目だ」
     捨六の言葉に、黒狼は腹立たしげに足枷を踏みつけにした。
     何故、この足枷が大事なのか。
     疑問を振り払った黒狼は、闘志の炎を燃え上がらせると鋭い牙をむき出しにした。
    「戦イコソ全テト知レ!」
     屋上を蹴った黒狼は、灼滅者達に踊りかかった。


     戦いは続いた。
     黒狼の攻撃を庇いながら、厚い回復で戦線を維持した灼滅者達は、説得の言葉を更に重ねていった。
     遠吠えを上げて回復を図ったが、バッドステータスは徐々に累積して黒狼の行動を阻害していく。
     何故、灼滅者達は黒狼を説得しようとするのか。 
     その理由を見いだせないまま、戦いは最終局面へと移行した。

     炎の勢いを弱らせた黒狼に、灯火が斬りかかった。
    「こういう血の流し合いはあまり好みじゃないのですよー?」
     血溜りの領地を振るった灯火は、赤くなった影で斬りかかった。
     回復専門と思われた灯火の攻撃に、黒狼が一瞬動揺する。
     その隙を突いたアンリは、エアシューズを起動させると一気に蹴りかかった。
    「友達だけは、譲りません!」
    「帰ろう、炎道くん!」
     勢いの弱まった炎を裂くように、黒曜のダイダロスベルトが黒狼を切り裂いていく。
     ゆらり、と揺れた黒狼を、金色が照らし出した。
     rosa misticaに纏わせた黄金の炎が、黒狼の頭上に迫る。
    「さあ、そんなところで腐ってないでさっさと戻ってきなさい!!」
     真正面から拳骨のように頭上に放たれた一撃に、無傷の足枷が揺れる。
     最後に大きく咆えた黒狼は、ついに倒れた。

     目を覚ました極志は、周囲にいる仲間のホッとした笑顔に声を上げた。
    「ここは……?」
     まだ本調子じゃない極志に、灯火は笑いながら手を差し出した。
    「おかえりなさい、です」
     灯火の手を取り立ち上がった極志は、微笑む仲間に頬を綻ばせた。
    「――ただいまっす!」
     いつもの口調に戻った極志に、皆が祝福の声を掛ける。
     三日月が見守る中、一人増えた灼滅者達は帰途についた。

    作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年11月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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