絶望的な孤独の中で

    ●都内某所
     無縁仏になった者達が葬られる供養塔があった。
     ここに葬られるのは、身寄りがない者や、事故や自殺などによって身元不明の亡骸ばかり。
     そのため、いつの頃からか、無念な気持ちを持った霊の複合体が化け物と化して、この辺りを漂っているという噂が流れ、都市伝説が生まれてしまったようである。

    「死んだ後の事って分からねえんじゃねーのか、実際のところ」
     素朴な疑問を感じつつ、神崎・ヤマトが今回の依頼を説明した。

     今回、倒すべき相手は、いくつもの霊が融合したような不気味なヤツ。
     実際には無縁仏と全く無関係だったりするのだが、一般人にそれが分かる訳がない。
     おそらく、お前達が行く頃にも誰かが襲われている頃だろう。
     腰を抜かして身動きが取れず、身体をガタガタと震わせて……。
     都は伝説は口から真っ白の塊を吐き出して攻撃を仕掛けてくる。
     この塊は物凄く生温くて気持ちが悪い。
     これを続けざまに喰らうと、物凄く気分が悪くなるから、くれぐれも気を付けてくれ。


    参加者
    鷲宮・密(散花・d00292)
    枢木・陽(ハンター・d01433)
    蒼月・碧(小学生魔法使い・d01734)
    鳳・仙花(不条理の破壊者・d02352)
    卜部・泰孝(アクティブ即身仏・d03626)
    黛・藍花(小学生エクソシスト・d04699)
    広井・ヒロト(高二の歌うバイク乗り・d09350)
    里見・やひろ(致死少年・d09628)

    ■リプレイ

    ●真夜中の墓地
    「卜部の~お経で~♪ いーちげーきーだー♪ 頑張れ! 卜部! 負けるな! 卜部! てってーってってー♪」
     即興で作った卜部・泰孝(アクティブ即身仏・d03626)のテーマソングを歌いつつ、広井・ヒロト(高二の歌うバイク乗り・d09350)が都市伝説の確認された供養塔にむかう。
     供養塔は遠くからも良く見え、まるで『俺達を忘れないでくれ』と言っているようだった。
    「うう、供養塔って、お墓の事だよね。こういうところって正直苦手なんだよ……」
     懐中電灯を照らしながら、蒼月・碧(小学生魔法使い・d01734)が墓地に入っていく。
     供養塔があるのは、墓地の一番奥。
     おそらく、誰もお参りに来る事がないため、一番奥にあるのだろう。
     その途端、供養塔がある方向から、男達の野太い悲鳴が響き渡る。
    「手遅れじゃないといいけど……」
     すぐさま男達の傍に駆け寄り、鷲宮・密(散花・d00292)が彼らの無事を確認した。
     幸い男達に外傷はないようだが、腰を抜かして動けない様子。
     だが、この場にいる限り、無傷でいられる保証はない。
    「手を出させねぇよ!! 怪物如き乗り越えてやらぁ!!」
     男達を守るようにして陣取り、里見・やひろ(致死少年・d09628)が都市伝説をジロリと睨む。
     都市伝説は複数の霊が融合されたような姿をしており、やひろ達を睨んで恨めしそうに唸り声を響かせた。
    「まったく、莫迦な話だ。こんな下らん都市伝説を生み出すくらいならば、しっかりと無縁仏を供養してやればいいものを……。まぁ、自身で殺めた親を碌に供養もせずに出てきた俺の言えた事でもないか」
     不機嫌な表情を浮かべながら、鳳・仙花(不条理の破壊者・d02352) が溜息を漏らす。
     その間も都市伝説はウォンウォンと耳障りな唸り声を響かせ、仙花達の周囲をクルクルと回っている。
    「無縁仏、供養するも我が務め。巡り逢うたも、定め也」
     その場から一歩も動く事なく、泰孝がキッパリと言い放つ。
     実際には供養塔に埋葬された人々と都市伝説は似て非なる存在。
     だが、都市伝説が存在する事で、供養塔に埋葬された者達も、安らかに眠る事が出来ない。
     そういった意味で、都市伝説はこの場から滅せねばならない。
     供養塔に埋葬された人々のためにも、近隣に住む人々のためにも……。
    「……アレはただの都市伝説、死者でも、その魂でもないモノ。柳の下にでも居るだけなら無害だったのに……」
     都市伝説に冷たい視線を送り、黛・藍花(小学生エクソシスト・d04699)がスレイヤーカードを解除する。
     ビハインドも藍花と同じように身構え、都市伝説を牽制した。
    「何時どうなるか分からないのが人生。だからこそ後悔はしたくない。被害が増える前に、成仏してもらおう」
     都市伝説と対峙しながら、枢木・陽(ハンター・d01433)が叫ぶ。
     それと同時に都市伝説が地響きするほどの唸り声を響かせ、殺気だった様子で陽達に襲いかかってきた。

    ●一般人
    「とにかく、この人達を避難させないと……」
     預言者の瞳を使って命中率をアップさせつつ、密が男達を守るようにして都市伝説を牽制する。
     男達は恐怖のあまりその場から身動きが取れず、都市伝説が近づくたびに『ひぃっ!』と声を漏らしていた。
     このまま魂鎮めの風を使えば、男達を眠らせる事は出来るが、それでは避難させるのに手間が掛かってしまう。
     だからと言って怯える男達をライドキャリバーに乗せるのも、非常に困難であった。
    「……不幸だ。タダでさえ寒いのに……、早く動いて解決しようぜ」
     仲間達に声をかけながら、里見・やひろ(致死少年・d09628)がヴァンパイアミストを使う。
     とにかく、男達を避難させねばならない。
     ……どんな手段を使っても!
    「悩むよりも、行動、行動。……これでもう安心だ。行け、バイク」
     男達をライドキャリバーに乗せ、ヒロトが都市伝説と反対側を指差した。
     それに従ってライドキャリバーが爆走。
     男達の悲鳴が辺りに響く。
     だが、都市伝説がライドキャリバーの行く手を阻むようにして、ヒロトの横を突っ切っていく。
    「貴様の相手は此方だ」
     都市伝説の後を追い、仙花がギルティクロスを放つ。
     その一撃を食らった都市伝説がバランスを崩し、近くにあった墓石に突っ込んだ。
    「誰のお墓なのか分かりませんが……、ごめんなさい」
     申し訳ない気持ちになりつつ、藍花が都市伝説に攻撃を仕掛けていく。
     その途端、都市伝説が真っ白な塊を吐き捨て、藍花の傍にいたビハインドの動きを封じ込めた。
    「……おぉ……あれは喰らいたくないな……」
     色々な意味で身の危険を感じ、陽が鏖殺領域を展開する。
     真っ白な塊は茹で過ぎた餅の如くネットリとしていたが、時間の経過と共にセメント並みに固くなっていた。
    「力よ、集いて矢となり、我が前の敵を撃て!」
     都市伝説に突っ込むようにして、碧がマジックミサイルを撃ち込んだ。
     それと同時に都市伝説が真っ白な塊を吐いたため、その場で弾けて散らばった。
    「般若心経……仏説摩訶、般若波羅、蜜多心経…観自在菩薩、行深は……ッ。お……、おのれ、我が経を遮るか! 汝に供養の言葉無し!」
     ムッとした表情を浮かべ、泰孝が数珠をギュッと握りしめる。
     しかし、都市伝説は怯む事なく、真っ白な塊を吐いて、泰孝達に襲いかかってきた。

    ●都市伝説
    「……愚かな」
     都市伝説に憐れみを感じつつ、泰孝が少しずつ間合いを取っていく。
     供養塔に埋葬された人々とは無関係であると分かっていても、繋がりがあるように思えて仕方がない。
     おそらく、それは噂の中にいくつか真実が混ざっているため。
     その真実の中に秘めた悲しみや、苦しみ、絶望と言ったものが、都市伝説に含まれているせいかも知れない。
    「行け、行け、卜部~♪ 倒せ、蹴散らせ、都市伝説~♪」
     即興で歌を作りつつ、ヒロトが都市伝説の死角に回り込む。
     ……都市伝説はオロオロしている。
     次なる獲物を探して、怒りのはけ口を探して……。
    「遅い、どこを見ている?」
     素早い身のこなしで都市伝説の攻撃を避け、仙花がティアーズリッパーを放つ。
     すぐさま都市伝説が反撃を仕掛けようとしたが……、間に合わない!
    「……そこ!」
     都市伝説に狙いを定め、密が影喰らいを仕掛ける。
     その攻撃を寸前のところで避けたが、そこには陽が……。
    「でやぁぁぁぁ!!」
     一気に間合いを詰めながら、陽が都市伝説に戦艦斬りを叩き込む。
     その一撃を食らって都市伝説の体から真っ白な塊が飛び散り、陽をブルーな気持ちにさせつつ跡形もなく消滅した。
    「夏が終わっていたのに……幽霊怪談話なんて……不幸だ」
     魂の抜けた表情を浮かべ、やひろがその場に座り込む。
     冷静になった途端、どんよりオーラがオプションの如く漂った。
    「死者のフリをする紛い物、貴女にはどう見えていたのでしょう?」
     都市伝説がいた場所を眺め、藍花がビハインドに視線を送る。
     ビハインドは静かに微笑んで、何も……答えない。
    「俺の両親も、せめて少し位は供養してやっても良かったかもしれんな」
     遠巻きに仲間達を眺め、仙花が深い溜息をもらす。
     現状では孤独死が増えているため、供養塔の利用が増えていくのは目に見えている。
     そういった意味でも、たまにお参りに来るのも悪くないかも知れない。
     二度と妙な噂が立たないようにするために……。
     そうする事でここに埋葬された者達の魂が、少しでも救われる事を信じて……。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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