熱く胸板を語る神主さんの都市伝説があるとかないとか

    作者:聖山葵

    「胸板、この素晴らしさを一言で語るなど、出来るはずもありませんな。良いですか? 分厚い胸板は――」
     人気のない境内、聞いてもいないのに熱く語るのは神主服に身を包んだ人影だった。
    「そのたくましさ。抱かれた時に……」
    「あー、こういうことか」
     ただ、語る内容からすれば 声の主もさぞ素晴らしい胸板の持ち主かと思いきや、そうでもなく。はだけた胸元からこぼれ落ちそうなのは豊かな女性の胸。片手には手帳を持ち、その様子を観察するイヴ・ハウディーン(怪盗ジョーカー・d30488)にはまだ気づいた様子がない。
    「タタリガミは都市伝説を吸収して姿を変えることは出来ても性別は変えられないってはるひ先輩は言ってたな。そっか、妙に居るのか居ないのかはっきりしないなと思ったら……とりあえず、引き上げるか」
     何やら納得した態のイヴは、自分一人の手には余ると判断し、けしからん胸のタタリガミに見つかる前に踵を返したのだった。

     最初は割とあやふやだった。熱く胸板を語る神主さんの噂を聞いたが、これを元にした都市伝説が居るのかがどうもはっきりしない。
    「そこで、実際に行ってみたところ出会ったのがそいつって訳だ」
     都市伝説に襲われた一般人が闇堕ちし逆に返り討ちにした結果なのか、単にタタリガミがこの都市伝説を見つけて屠って取り込んだ結果なのかはわからない。
    「ついでに言うなら、前者の場合闇堕ちしかけなのかも不明だ」
     いくら憧れる座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)の真似をしようとも、エクスブレインでないイヴにその辺りのことを知る術はなく、この場にエクスブレインの姿もない。だが、どちらにしても放置出来ないからこそイヴは君達に声をかけたのだろう。
    「もっとも、堕ちかけだろうとただのダークネスだろうと戦闘は不可避と言うところだけは変わらないと言わせて貰おう」
     闇堕ちしかけの一般人を救うには戦ってKOする必要があるのだから。
    「つまり、堕ちかけを考慮して人の意識の方にダークネスに負けないでと声をかけつつ戦って倒せば良いてことだよね?」
    「その通りだ。効果的な説得をしようにも元になった人間の情報がまるっきりないからな」
     確認する鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)にはるひの真似をしたままイヴは大きな胸を張って見せ。
    「ただ、接触自体は簡単だ。人が居なくてもあの姉ちゃんは一人でブツブツ胸板について語ってたからな」
     おそらく、件の神社に戻ればまだ居るだろうとイヴが推測を口にし。
    「ただ、そのせいなのか噂のせいなのか、神社には人気が全くなかったから人よけの準備はおそらく必要ないぜ」
     また、今から赴けば時刻的にも夕方には到着する為、明かりも不要。タタリガミであること鑑みると、七不思議使いの攻撃サイキックもどきを戦闘に使用することが予想されるが、判っているのはそれぐらいだ。
    「あとは、胸板について語るぐらいだから、素晴らしい胸板の持ち主とかがいればそっちに注意が行くかもな」
    「んー、胸板かぁ……」
     イヴの言に和馬は自分の胸を見た。
    「あー、少年。そう悲観しなくても成長すれば少年の胸ももっと育」
    「育たないから! そう言うところまではるひ姉ちゃんの真似しなくて良いから! って言うか、オイラ男、男だから!」
     かけられるフォローの言葉を遮って和馬が吠えたのは、女の子扱いされてしまうことのある男として仕方がないことだったのだろう。
    「元の格好も名前もわかんねぇけど、迫力ある武蔵野学園アイドルユニットを作る為にも逸材の可能性が少しでもあるなら放っとけないしな」
     タタリガミを放置して何か事件を起こされても困るし、と真っ当な理由を後付けし、イヴは君達に協力を求め頭を下げたのだった。


    参加者
    聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)
    アルゲー・クロプス(轟雷ノ鍛冶士・d05674)
    宮中・紫那乃(グッドフェイス・d21880)
    イヴ・ハウディーン(怪盗ジョーカー・d30488)
    鑢・真理亜(月光・d31199)
    煌燥・燈(ハローアンドグッバイ・d33378)
    華上・玲子(鏡もっちぃこ・d36497)
    吾門・里緒(リンゴとジュリアナもっちぃ・d37124)

    ■リプレイ

    ●するー
    「胸無様から次は胸板様……都市伝説の噂は怖いな」
     砂利を踏みしめる音の中、イヴ・ハウディーン(怪盗ジョーカー・d30488)は、熱く胸板を語る神主さんの都市伝説に仮称を付けつつ独り言ちた。
    「ほいな! 今回はあもんちゃんの初依頼もっちぃ」
    「タタリガミ退治と美少女救助たべ。初めましての依頼だべさ~♪ ドキドキするさ」
    「えーと、初依頼はわかったけどさ、誰に向かっての説明なの?」
     一方で、ロケ地のレポーターよろしくカメラ目線で明かした華上・玲子(鏡もっちぃこ・d36497)と応じた吾門・里緒(リンゴとジュリアナもっちぃ・d37124)に鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)が聞けば一瞬の沈黙が訪れ。
    「タタリガミはマッチョ美男子ではないのが残念だべ」
    「ちょ、オイラの質も――」
    「いや、神主姿の爆乳幼女でも……それはそれで萌えるべ」
     何事もなかったかの様にサラッと流して出たコメントに抗議しようとするも妖しいオーラを湛えた里緒は明らかに自分の世界に旅立ちかけていた。
    「ほいほい、その辺りにしておくもっちぃ」
    「え、あ、ちょっ」
     だから、話が進まないと見たのか、頭に寝ているナノナノの白餅さんをのせたまま玲子に引き摺られ連行され。
    「初めまして、鑢真理亜と申します。後ろに居ますのが闇さんです」
     かわりに進み出た鑢・真理亜(月光・d31199)が頭を下げて挨拶すると、背後にいるビハインドを示して紹介し。
    「あ、うん。よろし……」
    「双子のイヴが未来の豊かな人材が来たと騒いでいたので心配になり同行させて頂いてます……」
     普段あまり喋らないという真理亜にしては珍しく事情を説明したのは、本気で双子の片割れを案じたからか。
    「言いたいこと言うべきことをどたばたと騒ぐイヴが先に口にしてしまって、そこを諌める役目なので……」
    「あー、オイラがツッコむから言いたいことが残るって言うのもあるのか……って、そうじゃなくて!」
    「今年になり我が家では居候様が多くなりました。原因は……妹になりますが。一句……胸豊かに兄の心労募る」
    「や、だーかーらー!」
     そもそも裏事情の説明は必要だったのか、と言うかこっちの話を聞いてと言うか、何故一句詠むのか。ツッコミを入れようとする苦労人をチラチラ伺う人影が一つ。
    「……和馬くん」
    「ラジオウェーブのヒントを得るため、タタリガミを追って来てみれば――。分厚い胸板とは一体……? 神主さんは筋肉の話をしているのかそうでない話なのか余計に謎が深まってしまった」
     自分の胸を見て、相手の顔を見てを二度程繰り返しアルゲー・クロプス(轟雷ノ鍛冶士・d05674)が呟けば、煌燥・燈(ハローアンドグッバイ・d33378)は何とも言い難い表情で周囲を見回し。
    「……参加者を見た感じ後者なのかね……鳥井くんは、どっちだと思う?」
    「や、オイラに振られても……んー、分厚い胸板も胸板は胸板だからカテゴリ分けして順番に語って行く感じだったとかかなぁ?」
     困惑しつつも律儀に答えた和馬が、突然あっと声を上げる。件のタタリガミの姿を見つけたのだ。


    「……こちらも分厚い胸板ですか、私が見つけた人とは違って筋肉にはならなかったみたいですね」
     以前見つけたなりかけのご当地怪人を思い出しつつ様子を伺うアルゲーに救出に立ち会った思い人はあれは凄かったよねと頷く。
    (「……やっぱり和馬くんはあのぐらいの胸のサイズのほうが好きなのでしょうか」)
     自分より50cm近く胸囲の大きな比較対象を意識すれば、自然と目は自分の胸に向かってしまうが、年齢を考えれば充分大きな胸に抱えたモヤモヤを晴らす為、直接当人に尋ねるというのは、あり得ない。この場には他の灼滅者達も居るのだ。
    「けど、胸板かぁ」
    「和馬先輩……胸板無くても落ち込むなよ」
    「や、胸板無いって言うのは日本語おかしいよね? 胸板はあるから!」
     反芻する和馬の腰の辺りをポンと叩いてイヴが宥めれば脊髄反射レベルの早さで和馬は叫び。
    「おっと、悪い。無いのはおっぱいか。和馬先輩……おっぱい大きく無くても落ち込むなよ」
    「誰が落ち込むかーっ! そもそもオイラはお・と・こ、男だからっ!」
    「和っちはパッと見は確かに女だよな」
     荒ぶる和馬を見てまぁ仕方ねぇよな的な肩の竦め方をしたのは、聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)。
    「匂いで俺は分かるけどね」
    「え゛」
     さらりと続けた一言に約一名が顔を強ばらせるも、大半の灼滅者の注意はそこにない。
    「初めまして神主さん、私は宮中紫那乃、教会の者です。ここでお会いしたのも何かのご縁、お話ができればと思いまして、もしよければ神主さんのことを教えていただけませんか?」
     この時、宮中・紫那乃(グッドフェイス・d21880)が神主服を着た少女へ声をかけていたのだ。
    「胸板マッチョが好きなの? 私はボーイズや百合でもいけるさ。薄い本での濃厚な胸板描」
    「ほいほい、あもんちゃんはこっちもちぃ」
     そこへいきなり割り込んできた里緒がそのまま語っていたら周囲から白い目で見られそうな話の途中で玲子に連行されて行き。
    「何だったのですかな、あれは?」
    「あー、気にしなくて良いと思うぜ?」
     思わず目で追ったタタリガミの肩に手を置いた燈はそれよりもと話題を修正する。
    「なんだか胸板の厚い奴って、心にも厚みがあるよな」
     今だタタリガミの語る胸板がどういうモノなのかわかっていなかった燈だが、無難な受け答えをするというやり様はあった。
    「そうですとも」
     その甲斐もあってか、神主服の少女は気分を害すどころか燈が自身の語る胸板についてきちんと把握していないことにさえ気づかず、我が意を得たりと頷き。
    「そうですね。胸板が分厚くて優しい男性はとても逞しく、そして頼もしく、安らぎさえ感じますね。粗暴なのはちょっと困りますけど、不器用なだけだとむしろ可愛いくらいです」
    「ほほう、なかなかわかっていらっしゃいますな」
     便乗する紫那乃へ感心するそぶりすら見せ。
    「タタリガミは力強い神主と聞きましたが、女性の方ですか?」
    「見ての通りだぜ?」
     割と今更な問いを発した真理亜に凛凛虎が答えれば、そうでしたかとだけ応じ。
    (「イヴの好みの範囲ならドンピシャですね」)
     声には出さず、胸中で呟くと闇さん興奮しないようにとビハインドへ釘を刺す。
    「厚い胸板は形在る物だけじゃない。女でも男でも胸の広い奴は心も広くて大きい。胸板の厚さは物質的な物だけじゃない。だから、人の在り様でどうとでもできるものだぜ」
    「ごもっとも。胸板も千差万別、厚い胸板ではなく華奢な少年の胸板こそ良きものだとする御仁を知っております。抱きしめられたいのではなく両腕でかき抱き相手の胸板の感触を味わいたいというのもまた、一つの趣きあるものですからな」
     この間も話は相手を変えて続いていた。割とよくわからない世界のようではあったが。
    「……そこまで熱い熱意をお持ちですか、ではあなたが胸板に興味をもったのは何時だったのですか?」
     唐突にアルゲーが質問を投げたのは、この直後。
    「え」
    「噂の胸板様見に来て遭遇したんだな」
     意表をつかれ、呆然とするタタリガミへ続いて声をかけたのは、イヴ。前者は本来の意識を引きずり出す為の質問であり、片手に持った手帳を一瞥してイヴの口にした後者は、起こったことの確認。
    「どう……言う、私は……うっ」
    「……どうでしたか? では先ほどまで熱く語った胸板の話は全て本心ですか?」
     額に掌を当てて呻く神主服の少女へとアルゲーは更に問い。
    「睦月姉ちゃん、姉ちゃんは今、色々とまずい事になってるんだ。まずな、闇堕――」
     さりげなく説得のさなかに聞き出した中板・睦月(なかいた・むつき)と言う人であった時の名を呼びかけに入れつつイヴは少女の身に置かれた状況を説明し始める。
    「良い流れですね。惜しむらくは、もう少し胸板のお話ししたいところでしたが……」
     説明が終わり、納得して貰えれば助ける為の戦いを始められる。微かに未練を見せつつも紫那乃の耳が赤いのは、真理亜が釘を刺した裏で耳年増の男女関係談義に逸れかけたタタリガミとの会話のことを思い出しているのか。
    (「それでも会話は弾んでましたし、助けた後、お姉さまと懐かれたらどうしましょうか」)
     年下の少女に慕われる様を想像して紫那乃は身を捩る。ちなみに、睦月の胸の大きさについては名前と一緒にイヴがスリーサイズを聞いた為、想像の中の少女の胸は貧乳ということはなく、神主服から零れそうになっている現在のサイズのままだが、それはいい。
    「紫那乃姉ちゃん」
    「えっ」
    「あー、危ない危ない」
     声をかけられ、現実に戻ってきたが次の瞬間目にしたのは、豹変した神主服少女の姿。
    「まったく、ようやく身体を手に入れられそうだってのに、邪魔しないでよね、おたくら?」
     敵意の籠もった瞳は紫那乃を含む灼滅者達を写していて。
    「だったらお喋りはここまでだ。後は肉体で語り合おうか」
     凶暴な笑みを浮かべた凛凛虎が拳を握り、地を蹴った。

    ●救う為の
    「おらあっ」
     拳に宿した雷を弾けさせながらタタリガミの懐に飛び込んだ凛凛虎がすくい上げるように拳を少女の顎へ見舞う。
    「ったいじゃないの!」
    「結構打たれ強いようで!」
     アッパーカットで宙に舞ったというのにそのままくるっと宙返りして着地するなり睨んだ神主服少女があまり堪えていない様子に凛凛虎はそう評すが、なりかけの上説得で追い込まれ弱体化したとは言え、ダークネスだ。
    「ですが、ここからです!」
    「っ」
     先制の一撃を見舞ったのは、ただの一人でしかない。声に弾かれたように振り返るタタリガミが目撃したのは、マテリアルロッドを振りかぶる紫那乃。
    「和馬くん」
    「うん」
     だけではなかった。
    「……ダークネスに途中で遮られたとは言え、あなたの思いは分かりました、あなたの為にも自分自身の意思を取り戻しましょう」
     高速でウロボロスブレイドを振り回しながら少女の人の意識に語りかけたアルゲーが刃の増した速度をそのまま威力に変えて斬りかかり。別の方向からは示しを合わせたかのように光の刃がタタリガミ目掛けて飛来する。
    「しま」
     ビハインドのステロを含めれば、三方からのほぼ同時攻撃は、神主服少女を完全に挟み込んでおり。
    「がっ」
     最初に炸裂したのは、目前まで迫っていた紫那乃によるマテリアルロッドの一撃。
    「あ」
    「きゃあっ」
     続いてアルゲー達の連係攻撃が襲いかかった訳だが、誰かの射出した光の刃はまるで狙ったかのように神主服の胸元を斬り裂き。
    (「……今のは、いえ、そんなことは」)
     思い人が自分よりもっと大きな胸が好きなのではと言う疑念が産んだ邪推をアルゲーは振り払う。今は戦闘中なのだ。
    「しかし、どういう都市伝説を吸収したんであろうか」
     黒煙を立ち上らせながら燈がポツリと漏らしたのは、誰かの服破りでけしからん何かがより零れ出しそうになっているからでもあるのか。
    「立派な胸板になる都市伝説、とか? つっても、あれを胸板って言うのはなあ」
     板と言うには柔らかそうで、そもそも板状でさえない。
    「鳥井さん、ナイスだべさ」
     約一名、里緒だけが誰かのやらかした過失に親指を立てて賞賛するも明らかに男性にとって目の毒な光景であり。
    「だが大きな胸は母性の象徴ッ、つまり私に対する挑戦と見た――ならば、挑ませて貰うぞ!」
     何処かの母性愛を語るエクスブレインに憧れ、なりきっている誰かにとっては、攻撃に移る良い大義名分だったらしい。
    「くっ……な」
     捻りをくわえ自分へ繰り出だされつつある妖の槍の穂先をかわすべくタタリガミは咄嗟に身体を傾けようとするも目算は刹那の間で砕けた。
    「闇さん……紛れてセクハラしないでと」
     いや、セクハラではなくたぶん真理亜のビハインドは霊撃を繰り出そうとしたのだと思う。ただ、胸の辺りに見舞おうとしたら豊かな膨らみの間、谷間に腕が挟まってしまっただけだ。
    「っきゃぁあぁぁあぎゃっ」
     むろん、それでも神主服の少女は悲鳴を上げたけれども、真理亜の巻き起こした逆巻く風の刃がそんなタタリガミを容赦なく斬り裂き。
    「よっしゃ、あもんちゃん」
    「任せるべさ!」
     玲子に向けられた視線に応え、里緒がビームを放てば、射出された帯が空を併走して神主服少女を襲う。
    「ぐううっ、良くもやってくれたわね、行って胸板の神主ッ」
     たたらを踏んだタタリガミが顔を歪めつつも手帳を開き、分厚い胸板のマッチョな神主を具現化させて嗾ける。
    「いえ『紹介していただけませんか』とはお願いしようと思いましたけど、こういう事じゃ……」
    「や、紫那乃姉ちゃん、ボケてる場」
     場合じゃないと何処かのツッコミ役は続けようとしたのだろう。
    「シャキーン、甘く見て貰っちゃ困るべさ」
     ドタバタの間に身を盾にし、立ち塞がった者が居た。
    「美少女に殴られるもドキドキするべ」
    「どう考えてもマッチョ神主だったもっちぃ?」
    「脳内変換すれば余裕だべさ。けんど、けしてMではねぇべ? あ」
     玲子に笑って見せた里緒の身体が、傾ぐ。弱体化してるとは言え、相応の威力はあったのだろう。
    「ナノナノ」
    「仕方ねぇ、秘密の技を使わせて貰うぜ」
     白餅さんが慌てて里緒を癒やす中、凛凛虎は徐に上着へ手をかけ。
    「秘技! 胸板露出!」
    「ぐふおおっ?!」
     晒された胸板に女の子にはちょっとあるまじき悲鳴なのか驚きの声なのかわからないモノを漏らしつつ、タタリガミは口元を覆う。
    「おー、効いてる効いてる。筋肉が好きなら、ここは闇に抗わないとな!!」
    「うぐっ」
     追い撃つように人の意識に声をかければ、威圧感がかなり減少し。
    「やはり、説得は効果があるようですね」
    「あれは別のモノも込みの様な気がするもっちぃ」
     感心する誰かに玲子がぼそりと零した。
    「まぁ、それはそれとして、声かけは続けて行くもっちぃ!」
    「……そうですね。……あなた本来の意識を強く持ってください、きっと助かりますよ」
    「ぐ」
     ただでさえ、胸板を見せられ、言葉をかけられたことで追い撃たれていたというのに灼滅者達は容赦が無かった。
    「どうした? お目当ての胸板はここにあるぜ?」
     別種の挑発まで交えていたのは、凛凛虎だけだったが、それはそれ。
    「和馬くん、立派な胸板無くても人は生きられるね」
    「ちょ、それどういう意味?!」
     約一名、オイラもやった方が良いのかなと呟き、玲子に肩を叩かれ思わず声を上げていた灼滅者も居たような気がするが、それぐらいだ。
    「少々反抗期が過ぎたようだな。だが、これまでだ」
    「っ」
     もとより声かけで弱体化していたダークネスは、追い込まれ。
    「と言うか、戦う時までそう『母性愛?』とか前面に出してはるひ姉ちゃんの真似しなくても良いんじゃないかなぁ」
     何とも言い難い表情で和馬はイヴを見ていた。
    (「……和馬くん」)
     そして、イヴが年齢にそわない大きすぎる胸を揺らしているのを見てアルゲーは誤解する。やっぱり思い人はもっと大きな胸の方が好きなのだと。
    「何だかインスピレーションびびっと来たべさ」
    「はいはい、それは良いから戦いに集中するもっちぃ」
     一部始終を見て、目を輝かせた里緒が玲子にダメ出しされるのは、もう仕様。ただ、ダークネスから見れば半ば遊ばれているようにも見え。
    「くっ、こんな巫山戯た、状きょ」
    「今だ! 666の殺人技! 【人間橋】!!」
    「うきゃーっ」
     忌々しげな顔を作った神主服少女は言葉の途中で凛凛虎に背後から捕まえられるとそのまま引っこ抜くようにして投げられ石畳に叩き付けられ、元の姿に戻り始めたのだった。

    ●誘い
    「これを着るもっちぃよ」
     玲子は念のために持ってきたらしい服を意識を取り戻した少女に差し出すと、里緒を再び連行していった。
    「姉ちゃん良かったな」
     思わずその姿を目で追っていた少女に降ってきたのはイヴの言葉。ダークネスとなり自身が消え失せる未来が回避されたのだ。
    「はい、ありがとうございます」
     口調も仕草も何処か中年の男性を思わせる雰囲気は素だったのか、少女は最初に胸板について語った口調のまま感謝の言葉を告げ。
    「あの、学園に来ませんか?」
    「そうそう、不安なら学園来ないか? 同じ境遇の人もいるし友達も出来るぜ?」
     始まる勧誘の中。
    「和っち、プロテインや筋トレして男を磨こ……」
    「え」
     その光景を眺めていた和馬は振り返り。
    「今の発言は無しにしてくれ。和っちを逞しくしたら、親戚の華夜姉さんに殺されるからな」
    「あー」
     凛凛虎の前言撤回に何とも言えない顔をした和馬は知らない。
    (「……まだ中学生ですし、私にも伸び白はありますよね」)
     気づかぬ間に生じた誤解がまだ解けていないことを。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年11月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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