暗殺武闘大会暗殺予選~我が求むるは強者のみ

    作者:J九郎

     横浜中華街のとある裏路地にて。
    「グえッ!」
     大きく膨張した腕を持った上半身裸の若い男が、中年のシェフの胸倉を掴み、そのまま壁に叩きつけていた。
    「ア、アンタ! 暗殺武闘大会のルール知ってるアルか!? ダークネス同士で戦っても、何の意味もないアルよ!!」
     腕を引きはがそうともがきながら、シェフが叫ぶ。
    「意味がない? 我にとっては、強者との戦い以外の行為こそ意味なきこと。それに、暗殺武闘大会のルールには、他のダークネスと戦ってはならぬという決まりはなかったはず」
     平然と答える若い男を、シェフは必死の形相で睨みつけた。
    「ルールになくても、敢えてそんな危険を冒そうなんて馬鹿、どこにいるアルね!」
    「ここに、我がいる。……こそこそと人間を殺すしか能のない六六六人衆には、理解できぬか」
     若い男が腕に力を籠めると、ただでさえ太い腕が、さらに膨れ上がった。次の瞬間、シェフの首が、不自然に折れ曲がる。
    「さて、他のダークネスを見つけるが先か。それとも我が、灼滅者に見つかるが先か。どちらにせよ、強者と戦えるのであれば、本望よ」
     くずおれるシェフには見向きもせずに、男は中華街の表通りへと歩を進めていったのだった。
     
    「嗚呼、サイキックアブソーバーの声が聞こえる……。同盟を組んだ六六六人衆とアンブレイカブルが、ミスター宍戸のプロデュースで暗殺武闘大会の暗殺予選を開始した、と」
     集まった灼滅者達に、神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)は深刻そうな声でそう告げた。
    「……ミスター宍戸は、日本全国のダークネスに対して、暗殺武闘大会暗殺予選への参加を呼びかけてるみたい。……その情報は、予知を使うまでもなく、学園でも確認する事が出来た」
     その情報を元に灼滅者が邪魔しにくることまで含めてルール化しているのが、ミスター宍戸という男なのだと、妖は言う。
    「……横浜市で行われる暗殺予選では、横浜市から出る事無く1日1人以上の一般人を殺した上で1週間生き延びれば予選突破となるみたい」
    「いかにも六六六人衆らしい、悪趣味なルールでござるな」
     源・勘十郎(大学生デモノイドヒューマン・dn0169)が唸った。
    「……でも、そのルールの穴を突くダークネスが現れた」
     ルールに沿えば、危険を冒してダークネス同士で戦う必要はない。
    「……だけど、敢えてその危険を冒してまで強者との戦いを楽しむアンブレイカブルがいる。……それは、『炎獄の楔』で闇堕ちした、伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)」
     妖のその言葉に、教室にどよめきが走った。
    「……蓮太郎だったダークネスは積極的に人を殺そうとはしないけど、暗殺武闘大会暗殺予選に参加してる以上、1日1人は人を殺してしまう」
     彼の目的は強者との戦いのみだが、そのために必要であれば、人を殺すことを躊躇はしないだろう。
    「……だから、彼が人間を手にかける前に、止めてほしい。……もし人間を殺めてしまったら、もう二度と灼滅者に戻れなくなってしまうかもしれないから」
     幸い、今から横浜に駆け付ければ、人間を殺す前に接触することができるという。
    「……彼は強者を求めて横浜中華街を彷徨ってる。観光客も多い街中で接触することになるかもしれないから、周囲の被害にも気を付けて。……幸い、彼はひとたび戦いになれば、勝敗が決まるまで逃げも隠れもしない。……そして、真っ向からの勝負に敗れれば、あっさりと体を蓮太郎に返すはず」
     そういう意味では、比較的救出しやすいといえるかもしれない。
    「しかし逆を言えば、それだけ腕に覚えがあるということでござるな。油断は禁物でござる」
     勘十郎が気を引き締めるように言えば、
    「……蓮太郎の暴走を止めるため、みんなの力を貸してほしい。きっとみんななら、蓮太郎を連れて帰ってきてくれるって、そう信じてるから」
     妖はそう締めくくり、灼滅者達を送り出したのだった。


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    フィズィ・デュール(麺道四段・d02661)
    結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)
    蒼間・舜(脱力系殺人鬼・d04381)
    丹下・小次郎(神算鬼謀のうっかり軍師・d15614)
    崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)
    南谷・春陽(インシグニスブルー・d17714)
    荒覇・竜鬼(一介の剣客・d29121)

    ■リプレイ

    ●中華街大捜索
     昼過ぎの横浜中華街延平門周辺は、観光客でごった返していた。
    「これだけ人が多いと捜索も大変そうだね。早く見つかるといいけど」
     崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)が目を落としてる中華街の地図には、ネットで調べた裏通りの情報まで、びっしりと書き込まれている。
    「俺はこの辺は土地勘があるからね。まずは人通りの多い西門通りから大通り方面へ行ってみようか」
     一方、蒼間・舜(脱力系殺人鬼・d04381)は地図を見ることなく、すいすいと人波を縫って歩き出していた。
    「伊庭くん以外のダークネスに会っちゃったら大変だし、そっちも警戒しなくちゃね」
     先頭を行く2人の後に続きながら、南谷・春陽(インシグニスブルー・d17714)は『DSKノーズ』を発動させ、他のダークネスと接触しないように警戒している。
    「すみません、こんな感じの顔で、両腕の巨大な男性を見ませんでしたか?」
     一方、結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)は蓮太郎の写真を見せつつ、聞き込みを行っていた。そしてその結果は、思ったよりもずっと早く出た。
    「ああ、上半身裸の人、あっちで見たよ」
     写真を見せられた観光客の一人が指さしたのは、市場通りの方角。
    「随分あっさり見つかったな。この展開は読めなかった……」
     丹下・小次郎(神算鬼謀のうっかり軍師・d15614)が拍子抜けしたようにつぶやく。
    「ま、随分目立つ格好してる上に、隠れる気もないみたいですからねー」
     フィズィ・デュール(麺道四段・d02661)はそれでも一応、物陰などからの不意打ちに注意しながら、仲間と共に目撃情報のあった市場通りへと向かっていった。
    「勘十郎、見つかったか?」
     辿り着いた市場通りで周囲に視線を配りながら、荒覇・竜鬼(一介の剣客・d29121)が源・勘十郎(大学生デモノイドヒューマン・dn0169)に尋ねる。
    「いや、見当たらぬでござる。すでに移動してしまったのでござろうか」
     勘十郎がそう応じた時。
    「見つけたっす! あれじゃないっすか?」
     ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)が指さした先にいたのは、腕の肥大した上半身裸の男。見間違えようもない、闇堕ちした伊庭・蓮太郎の姿だった。
    「見つけたわよ、伊庭くん」
     春陽が声を掛けると、通りを闊歩していた蓮太郎の足が止まった。
    「来たか、灼滅者。存外に早かったな」
    「ちはーっす。喧嘩いかがっすか、喧嘩ー。旦那、腕に覚えありって顔してるっすね。一つ手合わせしちゃもらえないっすか?」
     ギィが軽い調子で挑発する間に、八重垣・倭や黒瀬・夏樹といった梁山泊の面々が、周辺の人々の避難誘導を開始する。
    「善きかな。これだけの数の手練れ、はてさて喰いきれるものか」
     さっそく構えを取る蓮太郎だが、それを制したのは静菜だった。
    「待って下さい。どうせなら、邪魔が入らない広い場所で思いきり戦いたいと思いませんか?」
    「強者と戦えるのであれば、我は場所などどこでも構わぬ。この場とて、広さに問題はあるまい」
     早くかかってこいとばかりに構えを解かぬ蓮太郎に、
    「ここじゃ人が一杯いて戦いにくいから、他の場所に行こうってことだよ」
     來鯉が補足するように言葉を重ねる。
    「そうか。灼滅者とは周囲に弱者がいると力を発揮しきれぬものであったな。せっかくの死合、相手が全力を出せぬというのでは、つまらぬか」
     ようやく構えを解いた蓮太郎を、舜が関帝廟通りにある山下町公園に誘導していった。
    「では、まずは人を払うとしようか」
     小次郎は一足先に山下町公園に向かうと、百物語を語り始める。その話を耳にした人々は、自然と公園を立ち退き始めていた。

    ●山下町公園の決闘
    「いざ、技と命の限りを尽くし、存分に死合おうぞ!」
     公園につくなり戦闘態勢を取った蓮太郎の態度に、フィズィが苦笑する。
    「こりゃまた分かりやすい性格の方で。けど、先に一つ約束してもらいますよ。ワタシたちが勝ったら、蓮太郎さんを返すこと。いいですね?」
    「元より。戦いに敗れれば、この体明け渡すことに未練はない」
     清々しいまでの返答に、來鯉も吹っ切れたように甲冑姿の『ニシキゴイキッド』に変身、ついでに霊犬のミッキーも潜水艦型の甲冑姿になる。
    「勝てば返してくれるっていうのなら話は単純。全力でぶつかって勝利を掴み取るだけだよ!」
    「それで汝らが全力を出せるというならば、望むところよ」
    「約束したっすよ? それじゃ思う存分、飽きる時まで、死合うといたしやしょう!」
     ギィも「殲具解放」と宣言して無敵斬艦刀『剥守割砕』を開放すると、両手で構える。
    「では、戦いの舞台を整えるとするか」
     交渉の行方を見守っていた小次郎が、おもむろに怪談蝋燭に黒い炎を灯せば、巻き起こった黒煙が公園を包み込んでいく。
    (「伊庭とはそんなに話したことがあるとか、あったわけじゃない。ホントにちょっと話をしたことがある、そんな程度。だけど……」)
     舜はこれからの戦いに備え、自らの身にトランプのマークを浮かび上がらせ、自らを闇に近づけていった。
    「いざ、参る」
     まずは、蓮太郎が動いた。その太い右腕に雷気を纏い、斬艦刀を構えたギィ目掛けて、放たんとする。だが、そこに両手を交差させて守りの構えを取った春陽が割り込んだ。蓮太郎の重い拳は、春陽の守りを打ち破り、彼女の顎を打ち据える。しかし吹き飛ばされながらも、春陽の顔から不敵な笑顔が消えることはなかった。
    「『梁山泊』の乱取稽古で受けた伊庭くんの拳の方が、もっと重くて鋭かったわよ。そんな大きく膨張しただけの腕で、伊庭くんを負かしたこの私が喰えるワケないでしょ」
     受け身を取って着地すると同時、春陽は制約の弾丸を蓮太郎に打ち込んでいた。
    「畳みかけます」
     次いで、静菜が放った魔法の矢が、蓮太郎目掛けて飛んでいく。蓮太郎は素早く矢の軌道から逃れるが、魔法の矢はその動きを見切っていたかのように追撃していき、とうとう蓮太郎の肩を射抜いていた。
    「さて、一本勝負と行きますかね、伊庭殿」
     さらに、サウンドシャッターを展開していた竜鬼が『怨鬼』を抜刀し、守りに入った蓮太郎に大上段から斬りかかる。
    「避けきれぬか」
     咄嗟に腕で刀を受け止めた蓮太郎だが、その太い腕に日本刀の深い切り傷が刻まれた。
    「善きかな。我の戦う相手として、不足なし」
     蓮太郎の顔に喜悦の笑みが浮かぶと、その身から殺意にも似た闘気が噴き上がる。そしてそれは、物理的な圧力を持って灼滅者達に襲い掛かっていった。
    「凄まじい闘気でござる!」
     勘十郎が咄嗟に清めの風を吹かせ闘気に対抗しようとすれば、それに合わせるようにウイングキャットの山姫も尻尾のリングを輝かせるのだった。

    ●果て無き死合
    「うぬうううっ!」
    「えーいっ!」
     蓮太郎の巨大な右腕の繰り出す拳と、静菜の鬼神変で膨れ上がった右腕の放つ拳が、打ち合わされた。巨大な力の激突に、衝撃波が発生し、園内の植木をなぎ倒す。
    「我と互角に打ち合うとは、見事。されど、まだ足らぬ」
     静菜と一旦距離をとった蓮太郎に、今度はギィが迫っていった。
    「『誰も私を倒せない』ってところっすか。強すぎるのも考えものっすね」
     蓮太郎の間合いの外から隙を探るギィに、蓮太郎は無造作に拳のストレートを放つ。ギィはその一撃を剥守割砕の腹で受けると、そのまま剥守割砕に炎を宿し、一気に蓮太郎に斬り付けた。
    「そんな孤独な『最強』に、どれだけの価値があるんで? 自分は、恋人さんたちと楽しく過ごす方が、強さの高みを目指すよりはあってるんすけどねぇ」
    「戯言を」
     炎が燃え移っても、蓮太郎は気にする素振りすら見せない。
    「回復なんて欠片も考えてないって感じか。伊庭の体なんだから、少しは大事にしてもらいたいな」
     舜の振り抜いたサイキックソードから放たれた光刃が、蓮太郎に襲い掛かった。蓮太郎は最小限の動きでの回避を試みるが、それでもわずかに足をかすり、そのズボンに傷跡を残す。
    「避けたつもりだったが、当ててきたか。だが、それでこそ戦い甲斐があるというもの」
    「喧嘩がお好きですか、いいご趣味です。が、喧嘩で済まないところまで行くのはご遠慮願いましょうか」
     いつの間にか蓮太郎の背後に回り込んでいたフィズィの放ったスライディングキックが、舜の光刃に気を取られていた蓮太郎の足をすくった。そして、思わずたたらを踏む蓮太郎に、今度は竜鬼が迫る。
    「今が好機。往くぞ、山姫」
     傍らのウイングキャットに声を掛けると、同時に攻撃を開始。山姫の肉球パンチと、竜鬼の解体ナイフの一撃が左右から蓮太郎を襲う。
    「見事な連携よ。だが」
     蓮太郎は両方を捌くのは不可能と即座に判断し、竜鬼の一撃を敢えて受けつつ、カウンターの要領で山姫に殴り返した。渾身のその一撃をかわし切れず、直撃を受けた山姫の姿が、力尽きたように消えていく。
    「まずは一体。さあ、次に喰われたいのは誰だ」
    「残念ね。ハラペコアンブレイカブルに、これ以上誰も喰わせてやらないわよ!」
    「未来を掴み取る為に、取り戻す為に……! 今は只……切り開くのみ! ってね」
     答えたのは、真正面から蓮太郎に迫っていた春陽と來鯉だった。2人はそのまま勢いを殺すことなく跳び上がると、息を揃えて同時に飛び蹴りを蓮太郎に浴びせる。
    「ぐっ」
     この戦いの中で、初めて蓮太郎が膝をついた。
    「さて、足を止めてくれたところでひとつ、七不思議を話してあげようか」
     この時を待っていたとばかりに小次郎が語り出したのは、『理科室の狂った科学者』。
    「硫酸入りの試験管投げてくるアイツさ。学校からの出張だよ」
     小次郎の語りに合わせるように、彼の隣に白衣姿の男が現れ、試験管を蓮太郎目掛けて投げつけ始めたのだった。

    ●思いを拳に乗せて
    「飢えている。餓えている。もはや、そこらの獲物ではこの飢餓は満たされぬ。さらなる強敵を。終わらぬ闘いを。この魂が、焼き切れるまで!」
     アッパーを仕掛けてきたフィズィを捕まえた蓮太郎は、受け身の取れない危険な角度で思いっきり彼女を投げ飛ばした。
    「あいやー、効きますね、かなり」
     目を回しつつもなんとか立ち上がったフィズィに、小次郎が絡繰人形の腕から霊力を撃ち出し、体力を回復させる。
    「強者を求めて戦いを求める性はまことに彼らしい。けれど、見知った顔が見えないのは寂しいから戻ってきてほしいんだよ。戦闘行動にて言葉と代えさせて頂くがね」
     小次郎の言葉に、蓮太郎は凶悪な笑みを答え代わりに返した。
    「戦いに飢えた目っすね。今は完全にアンブレイカブルか」
     ギィが、蓮太郎を守りごと粉砕するべく、大きく振りかぶった剥守割砕を叩きつける。
    「ぐぬうううっ」
     その攻撃を寸前で白刃取りし、なんとか押し返そうとする蓮太郎だったが、
    「色々言いたい事はあるけど、蓮太郎にーちゃんは返してもらうよ! 誰かが欠けた状態の侭でいるなんて皆の笑顔を守るご当地ヒーローとして絶対に見過ごせないんでね!
     そこに、『軍刀拵え 法華一乗』を構えた來鯉が助太刀に入った。2人の全力の攻撃に、蓮太郎の体が次第に沈み込んでいく。さらに、無言で忍び寄っていた竜鬼が怨鬼を一閃させて蓮太郎の足を切り裂いたことで、一気に均衡が崩れた。蓮太郎の体が倒れ、地面が陥没する。
    「蓮太郎とは、その内暇があれば、模擬戦したり遊びたいと思ってたんだよね。アンブレイカブルになられたら、遊べないじゃん。とっとと戻って来いよな」
     舜が、ここぞとばかりに倒れた蓮太郎目掛け真っ直ぐに伸びたダイダロスベルトを突き立てた。
    「く、はははは。そうだ、こうでなくては」
     蓮太郎は、倒れたまま激しく笑うと、その全身から闘気を迸らせる。その衝撃は、蓮太郎に攻撃を仕掛けようとしていた者達を吹き飛ばし、さらに蓮太郎自身の体をも浮き上がらせていた。
    「確かにすごい闘気だけど、戦い始めた頃より、だいぶ威力が落ちてる。もうひと押しってところね。絶対に勝って、伊庭くんと皆と帰るんだから!」
     闘気の奔流をオーラの法陣で中和しながら、春陽が叫ぶ。そしてその叫びに続けるように、公園の周囲を警戒していた梁山泊の面々も次々に口を開いた。
    「久しぶりですね、伊庭くん。僕も闇堕ちした身ですから、大きなことは言えませんが先に帰ってきましたからね、迎えに来ましたよ。梁山泊の皆だって伊庭くんに帰ってきて欲しくてここに迎えに来ています。僕達が居る以上、堕ちきるなんて出来ると思わないでください! それに、僕はまだ伊庭くんと戦ったことがないんですよ。僕は伊庭くんとも戦いたい! だから、そんな闇なんかとっとと押し込めて、伊庭連太郎と戦わせてください!」
     真っ先に叫んだのは、梁山泊の部長である森沢・心太だ。
    「自分の為に強敵と戦うか、仲間や見ず知らずの人の為に強敵と戦うか。それが貴方と僕ら……灼滅者との違いです!」
     夏樹は灼滅者としての蓮太郎ではなく、ダークネスの蓮太郎にそう言葉をぶつけ、
    「しっかり気張れよ、蓮太郎! 貴様の体は貴様の魂で取り返せ! その為に邪魔な檻はオレ達が……梁山泊がぶち壊す!」
     倭の迫力ある声が、公園内に響き渡る。
    「皆の声が聞こえていますか、蓮太郎さん」
     最後にそう問いかけたのは、静菜だった。
    「人生と命全てを懸けても……得られるものはほんの一瞬なんですよ。長く生きればより強者へ会える。より強い自分で対峙出来る。私達も強くなりますよ。だから……また共に戦いましょう」
     呼びかけながら孔雀の尾羽弓に矢をつがえ、思いと力を全て込めて、撃ち放つ。
    「ぐっ」
     その矢は両腕でガードを固めた蓮太郎の守りを突き崩し、蓮太郎の胸に突き立った。
    「……見事」
     その一言を残し、蓮太郎の上体が大きく傾き、大の字に倒れる。同時に、大きく膨れ上がっていた腕が見る見るうちに縮み始めた。
    「……俺の中の闇は、負けたのか」
     やがて目を開いたのは、灼滅者・伊庭蓮太郎だった。
    「や、どーも、初めまして。どうかお見知りおきを」
     初対面のフィズィが上体を起こした蓮太郎にそう挨拶し、
    「折角中華街来たんだし、美味しいもの食べたーい! お腹空いたーっ! 勿論、伊庭くんの奢りでね?」
     春陽が、そう言ってにっこりと微笑む。
    「……さて、伊庭殿が戻った以上、長居は無用ですな」
     早々に退散していく竜鬼に続いて、灼滅者達は中華街に繰り出していった。帰ってきた、仲間と共に。

    作者:J九郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年11月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ